地産地消レストランやレンタルオフィス、イベントスペースを備えた複合施設「EV GARDEN(イーブイガーデン)ふくしま」が昨年11月、福島市北町にオープンした。自動車販売などを手掛ける福島日産グループが旧販売店を改修し、まちのにぎわいを創出する施設として生まれ変わった。中心となり事業を進めてきた福島日産自動車(福島市)の金子與志幸社長と、同施設の理念に共鳴してショールームを出店したソーラーポスト(同)の尾形翔平専務に、施設に込めた思いやEV(電気自動車)普及に向けた考えなどを語ってもらった。

1987年1月生まれ。福島市出身。福島高、國學院大卒。2012年にソーラーポストに入社し、2022年から同社専務。2025年度福島青年会議所理事長を務めた。

1987年5月生まれ。伊達市出身。福島高、明治大卒。2010年に福島日産自動車入社。同社専務を経て、2022年に社長に就任。EV車の普及促進などを展開する。
「EV GARDEN」がひらく未来
――まずは「EV GARDEN ふくしま」をオープンするに至った経緯についてお聞かせください。
金子 多くの方にとって、自動車ディーラーに足を運ぶときといえば、車の点検・修理か、買い替えのタイミングぐらいだと思います。ただ、福島日産自動車では、地域に根付いて活動する企業として、「まちに住む人が気軽に足を運び、互いに交流することで、さまざまなつながりや取り組みが生まれる場所を提供したい」と考えていました。
一般利用可能な社員食堂の開設など、さまざまなアイデアを検討し、福島青年会議所で交流していたソーラーポストの尾形専務をはじめ、経営者や行政関係者の皆さんに意見をうかがいました。そうした中で、当社で販売しているEVから連想した「人と地域のエネルギーをチャージする『みんなの庭』」というコンセプトが固まり、約3年かけて準備を進めてきました。
――「GARDEN(庭)」という名前が特徴的ですね。
金子 誰もが気軽に出入りできる施設にしたいという思いが込められており、植栽で庭の雰囲気を演出しています。訪れる人同士の距離が縮まり、出会いや新しい取り組みが生まれる場所になってほしいです。施設の運営会社「EV GARDEN」のロゴも、EVの電気メーターをイメージした7色のグラデーションにしました。
――どんな施設なのでしょうか。
金子 1階には約70席のイタリア料理店「Tuttino Kitchen(トゥッティーノキッチン)」を設け、イベント利用にも対応しています。1、2階にまたがる階段式空間は多目的スペースとして、放課後の児童・生徒にも開放し、2階には月額制のワークラウンジとレンタルオフィス7室を整備しました。
すでにソーラーポストさんをはじめとする入居事業者の皆さんとEVを中心とした事業を始めており、地域づくり・ビジネスの拠点として動き出しています。「イベントを開催したい」という問い合わせもいただいており、場を作ることで新たな出会いやアイデアが生まれていくということを実感しています。
尾形 当社がいち早く入居を決めたのは、主力事業である住宅用太陽光発電システムの設置と、福島日産自動車が販売しているEVを組み合わせることで、大きな相乗効果が期待できると考えたからです。
共にCO2を排出しないことで環境負荷軽減に貢献できるのはもちろん、顧客への訴求力が大きいのはコスト軽減効果です。太陽光発電システムの電気をEVに充電して活用すれば、電気料金を大幅に減らせます。AI普及による電力需要の増加で電気料金の上昇が予想される中、これは大きなメリットです。
EVのエネルギーコスト(充電分の電気料金)も当社試算ではガソリン車の2分の1から3分の1程度です。初期投資がガソリン車よりややかかるとしても、ランニングコストも含めて比較するとEVの方がお得になってきているのです。
私自身、仕事でもプライベートでもEVを利用しており、その魅力を皆さんにどう伝えるかと考えていたところ、金子社長から構想を聞き、その場で入居をお願いしました。
EVは災害時に真価発揮


金子 自動車ディーラーとしても、EVを販売する際に、太陽光発電システムの導入を含めたトータルな視点での提案が必要と感じていたため、2月からソーラーポストさんと営業面での交流も含めて本格的に連携しています。そうしたところ、共通のお客様がかなりいらっしゃることが分かり、相性がいいことをあらためて実感しました。
尾形 例えば、自動車の使用用途が買い物や子どもの送迎が中心の方は、電気料金を抑える効果を実感しやすいです。お客様の生活スタイルに合わせて導入メリットや費用を説明しています。福島日産グループとの連携により、「太陽光発電システムは設置したいけど、据え置きの蓄電池を購入するのはためらう」というお客様にも〝第三の選択肢〟としてEVを提案しやすくなりました。
金子 「EV GARDEN ふくしま」ではカーシェアリング用EVを6台備え、ワークラウンジ利用者への貸し出しにも対応しています。食事のついでにEVを体験していただき、詳しく知りたくなったときはソーラーポストで相談していただけます。こうした試乗体験から相談までワンストップでできる施設は県内でも珍しいと思います。
尾形 EVは、減速時にタイヤの回転を発電に利用する「回生ブレーキ」を採用しており、アクセルを緩めると減速するのが特徴です。ガソリン車のエンジンブレーキと異なり、エネルギーを無駄なく推進力に還元します。ワンペダルで運転する感覚を一度体験してほしいです。
――まちでEVを見かける機会も増えたように感じます。
金子 福島県は人口に対するEV保有率が東北で最も高い県です。世界初の量産型コンパクトEVである「日産リーフ」初代モデルが発売されたのは2010年12月でしたが、震災・原発事故を経験して、より安全・安心につながるものを求めるお客様が増えたのだと思います。
尾形 EVが真価を発揮するのは災害時だと思います。震災直後、県内のガソリンスタンドには長蛇の列ができましたが、太陽光発電システムがあれば、自宅で〝燃料〟となる電気を確保でき、ためておくこともできます。いわば「走る蓄電池」として使えるわけです。これからは自然災害などによる「長期停電」にどれだけ耐えられるかが、住宅の一つの指標になると思います。「自宅を災害の防災拠点にしませんか」というのが私たちの提案です。
――「EV GARDEN ふくしま」自体にも災害時に防災拠点として機能する仕組みが設けられているようですね。
金子 太陽光発電システムと大型の蓄電池、前述したカーシェアリング用のEVと専用充電ブースを備えており、停電時も電気が使える環境が維持されます。災害時用のコンセントがあるほか、レストランの冷蔵庫など電化製品も動き続けるので、炊き出しなどにも対応可能です。子育て世帯や高齢者の方などをサポートできる場所になればと思います。
交流拠点の役割に加えて防災拠点にしたいというアイデアは当初からあったのですが、実際に投資して整備するに当たり、継続性が担保できるのかという点が課題になりました。災害時という「非日常」に対応する施設を、日常から活用できる場所として成り立たせられるのか。それが私たちにとって大きな命題であり、今後も可能性を探りながら地域に役立つ場所にしていきたいと考えています。
11月には浪江町に新施設
――もともと販売店だった建物を、福島市の「まちなか立地集積支援事業」補助金を活用して改修したとお聞きしました。
金子 多くの方に利用していただいていた築40年の建物をリノベーションしたので、柱などはそのまま残されています。特に、民間主導の防災拠点の機能を備えた施設でありながら、にぎわい創出の役割を打ち出すことで、行政と連携して事業を進められた点は大きな後押しとなり、学びにもなりました。
2月14日には県立美術館でスタートした「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」のプレイベントとして、ゴッホ研究者の正田倫顕氏(宮城県名取市・尚絅学院大准教授)を招いて「ゴッホの夕べ~もっと知りたいゴッホの話と、星月夜のディナー~」を開催し、約30人が参加しました。図書コーナーにもゴッホ関連の書籍を並べています。今後も地域のイベントと連携した企画で盛り上げていきたいと考えています。
――今年11月には浪江町にも「EV GARDEN なみえ」を開業する予定です。
金子 浪江町は震災・原発事故前、人口約2万1500人の自治体でしたが、現在の現住人口は約2400人に留まっています。福島市の施設は日常の中に非日常の彩りを添えていくのがテーマですが、同町の施設は非日常感の中にどうやって日常感を生み出していけるか、という点がポイントになります。日産自動車と東京大学がJR浪江駅前に「浜通り地域デザインセンターなみえ」を設立しており、同センターの研究者の皆様に協力していただきながら、「地域交流施設」として整備していく予定です。震災・原発事故から15年経ち、帰還する方と新しいチャレンジを始める方がいる同町において、交流の場となってほしいです。
また、浪江町は飲食店の閉店時間も早く、非日常を楽しめる娯楽の場が少ないので、スポーツカフェを開設したいと考えています。お酒を飲みながら、パブリックビューイングでサッカーの試合を観戦できる場にしたいと構想しており、準備を進めているところです。
浪江町では世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」が稼働しており、町としても「なみえ水素タウン構想」を推し進めています。そうした立地を踏まえて、EVの充電電力源を水素システムから一部供給できるモデルを実現し、「EV GARDEN なみえ」をその拠点にしていきたいです。
施設は5月に上棟式を予定しており、これから本格的に建築工事が始まります。私もさまざまなネットワークに加わり、積極的に地域づくりに関わっていきたいです。
震災・原発事故から15年、県都・福島市と双葉郡・復興エリアをつなぐことで、チャレンジの結節点になってほしいという思いがあります。そうした場をつくることで、企業を存続させていただいた地域に少しでも恩返ししていきたいです。
再エネ普及の拠点

尾形 地域への恩返しという意味で、今後、「EV GARDEN」が担うべきなのは、再生可能エネルギー普及の役割だと考えています。
福島県は2040年ごろをめどに県内エネルギー需要の100%相当量を再エネで生み出す目標を掲げています。一方で大規模発電所の開発では環境や景観への懸念から反対の声も出ています。今後は大規模発電所ではなく、住民一人ひとりの取り組み、すなわち自宅の屋根の上に太陽光発電を設置するなどの動きが重要になるのではないでしょうか。それをサポートしていくのが私たちであり、その拠点となるのが「EV GARDEN」です。
金子社長とよく話しているのは、導入費用について、いかに家計に優しいプランニングを提案し、「太陽光発電システムやEVは高額」という先入観をどう取り払えるか、という点です。実際、近年は太陽光発電システム、EVともに価格が下がっているので、心理的ハードルを下げて、再生可能エネルギーの地産地消実現に貢献していきたいです。
太陽光発電システムとEVの組み合わせは、▽原子力エネルギーに依存しない、▽CO2も排出しない、▽自宅が防災拠点になる、▽家計にも優しい――と〝一石四鳥〟の仕組みなので、「EV GARDEN ふくしま」を拠点にその良さを多くの方に広めていきたいです。
金子 EVや太陽光発電システムに関心はあっても、メーカーの違いや費用面への不安から迷う方は多いと思います。そうした方にこそ「EV GARDEN ふくしま」で考え方や比較方法、選択肢を具体的にご案内したいです。EVは各メーカーで製造・販売していることを踏まえて、この施設ではあえて日産カラーを前面に出さず、EVの輪を広げ、地域を応援する場としての意味合いを大切にしています。
尾形 今後は施設内に子どもたちが気軽に太陽光発電システムやEVの仕組みを学べる、子ども向けのショールームを作りたいですね。小さいころからそうした情報に触れ、エコや再エネへの意識が高い子どもたちが増えることで、福島県の未来がひらけていくのかもしれません。
金子 この施設自体、子どもたちが楽しめるかということを前提に考えており、本も子どもたちが気軽に手に取って触れられる場所に置いています。幅広い年代に利用してもらえる施設になればいいですね。

























