【お菓子の蔵 太郎庵】顧客の心をつかむ新商品投入・SNS発信

県内の人気菓子店や菓子メーカーの取り組みを紹介していく本コーナー。2回目となる今回は、会津坂下町の菓子店「お菓子の蔵 太郎庵」を紹介する。新商品を次々と開発・発売し、SNSで発信して認知度を高める同社。その背景には、バイタリティーあふれる〝3代目〟経営者の存在があった。

ブールドネージュ ショコラブラン 1個 180円(税込み)

ブールドネージュ ショコラブラン 1個 180円(税込み)

ほろほろ崩れる白いクッキーの中から、ナッツが香るホワイトチョコレートが溶けだす
ほろほろ崩れる白いクッキーの中から、ナッツが香るホワイトチョコレートが溶けだす

菓子店にとって3月のお彼岸前は、お供え物として和菓子や焼き菓子を買い求める人が増える繁忙期。団子に桜餅、ぼたもち、ケーキ……店内は和洋菓子が所狭しと並び、一足早く春を迎えたようなにぎわいを見せる。何を買うか迷う時間も、スイーツ好きには至福のひとときだ。

数ある菓子店の中でも食べたい商品が多く、つい悩む時間が長くなってしまうのが「お菓子の蔵 太郎庵」(会津坂下町、以下太郎庵と表記)の売り場だ。

看板商品の「会津の天神さま」は、塩味のきいた北海道バターの風味と、プロセスチーズの酸味・食感を生かしたクリームが堪能できる、ふわふわのブッセ。甘すぎない味が癖になり、行くたびに買い求めてしまう。

看板商品の「会津の天神さま」
看板商品の「会津の天神さま」
ケーキを選ぶ家族連れ(工場売店=会津坂下町)
ケーキを選ぶ家族連れ(工場売店=会津坂下町)

一方で、季節ごとに目を引く新商品を発売するのも太郎庵の特徴だ。

昨年12月に発売され、新たな定番商品として注目を集めているのが、会津の冬をイメージして作られた「ブールドネージュ ショコラブラン」。口の中でほろほろと崩れる、雪のような白いクッキーの中から、ナッツが香るホワイトチョコレートが溶けだす一品だ。

フランス人の父と会津出身の母を持つ「カナ」という女性の物語をイメージして作られており、商品の化粧箱やウェブページにはサイドストーリーが掲載されている。味や食感だけでなく、商品のコンセプトまで楽しんでほしい、という狙いだ。

さらに、この春には、期間限定販売の「会津の天神さま あんバター」、あんこクリームを用いたモンブラン「太郎アンブラン」など、複数の新商品を発売した。

「『なんでそんなに新商品をバンバン出すの?』というと、喜んでくれる人がいるからですよ」

屈託ない笑顔でこのように語るのは目黒徳幸社長(48)だ。

目黒徳幸社長
目黒徳幸社長

太郎庵では季節ごとに次々と新作菓子を投入するが、それらの商品のコンセプトや販売戦略について、先頭に立って指揮を執っているのが目黒社長だ。思いついたらすぐに動いて形にする。そのフットワークの軽さと柔軟な発想で、固定化しがちな商品ラインアップに変化を与え、リピーターを生み出している。

「思いついた商品のアイデアをいかに『おいしいお菓子』として仕上げられるかが腕の見せどころです。会津地方で江戸時代から栽培されているオタネニンジンのゼリーを開発した際は、特有のクセをどう和らげるか試行錯誤を重ね、酸味を加えることで、おいしく味わってもらえるようになりました」

Xの投稿に8万「いいね」

情報発信にも積極的だ。ローカル局の情報番組にたびたび出演しているほか、X(旧ツイッター)などSNSでの投稿も自ら担当し、時には女性スタッフとダンスも披露する。

昨年秋には、Xの投稿が反響を呼んだ。物価高の影響などを分析するため、苺タルトの6分の1サイズ(税込み750円)と8分の1サイズ(同650円)を横並びで販売することを写真付きで告知した。すると、投稿は1760万回も表示され、8万件を超える「いいね」が付いた。

もちろん、こうした反響が全て購買に結びつくとは限らないが、発信を通して会社の自由な風土や、土産用菓子だけでなく生菓子も扱っている店だということが伝わる。認知度アップにつながっているのは間違いない。

目黒社長によると、SNSは顧客の意見を受け付ける場としても機能しているという。

Xで1人のフォロワーから「ナッツアレルギーがあるので、タルトにクレームダマンドを使わないでほしい」というメッセージが寄せられた。クレームダマンドは洋菓子の基本素材で、タルトの土台に欠かせない。だが、目黒社長は「じゃあ、アーモンドの入っていないタルトを作ってみます」と即答し、商品開発に取り掛かった。その結果、クレームダマンドの代わりに白あんを用いた「白あんバナナタルト」が完成し、この春から売り出した。SNSでのやり取りをきっかけに、ナッツアレルギーの人でも安心して食べられるタルトを実際に商品化して見せたわけ。

「商品開発も情報発信も、『自分がやることが相手に喜んでもらえるか』、『相手の役に立つか』というスタンスで、全力で取り組んでいます。相手が困っているなと思ったら、何とかして応えたくなるんです」。この言葉に目黒社長の商売のスタンスが凝縮されている。

目黒社長は会津坂下町出身。若松商業高、国士舘大を経て、日本菓子専門学校で和菓子づくりを学び、横浜市の有名洋菓子店で修業した。家業に入ったのは30歳のとき。和菓子・洋菓子の基礎を徹底的に身につけた経験が、いまの菓子店経営や商品開発の土台になっている。

「目標は『菓子業界のサザンオールスターズ』。どの時代でもヒットを生み出し続け、どれだけ時間が経っても色あせずに、幅広い年代に支持される――そんな菓子メーカーを目指していきます」(目黒社長)

太郎庵は1949年、パン・饅頭・生菓子の製造卸業「目黒菓子店」として、目黒徳一氏が会津坂下町で創業。2代目・目黒督朗現会長が「両親を楽にさせたい」という思いから、東京の専門学校を経て家業に入り、1975年に会津観光銘菓「いも太郎」を発売、屋号も「いも太郎本舗」と改めた。1979年には同町の表通りに直営店を開店し、1981年に現在の社名となった。

1号店開店に合わせて開発されたのが前出の「会津の天神さま」だ。パッケージには、会津地方に残る縁起物の張り子玩具「会津の天神様」を模したロゴがあしらわれている。元福島民報社記者の横田新さんがデザインし、「お菓子の蔵」という屋号を考えたのも横田さんだ。

目黒社長によると、会津の天神さまは「来店された方の2〜3割が手に取ってくれる」という、文字通りの看板商品。以前は会津地方の直営店など限られた場所でしか購入できなかったため、「会津地方でしか入手できないスイーツ」という印象だった。だが、2017年に出店した郡山フェスタ店(2023年に移転して八山田店としてオープン)など、中通りへの出店を進めたほか、県内のヨークベニマルなどでも販売されており、より購入しやすくなった。

その後、お笑いコンビ・サンドウィッチマンの伊達みきおさんが土産品として大量に購入する姿がテレビで放送されるなど、流通網の拡大とともに、「会津の天神さま」と太郎庵の知名度は高まっている。

震災・原発事故から15年を迎える今年3月10日から12日には、さらに全国に名を広めた。本県の復興の現状を伝える環境省の事業に同社が協力する形で、全日空(ANA)の国内線全線で「会津の天神さま バターサブレ」約40万枚が提供されたのだ。サブレの包装には「震災から15年 福島に想いを寄せて」というメッセージと、復興状況の情報をまとめたウェブサイトのQRコードが掲載された。

「当社では、お菓子を通して明るいニュースを発信し、太郎庵が県民の誇りとなる――ということを経営ビジョンに掲げていますが、今回それを実現できたことが何よりうれしいです。ANAで提供されたバターサブレはシンプルかつ深い味わいなので、長く愛される商品となることを期待しています」(同)

お菓子は「心のサプリ」

注目度が高まったいま、さらに出店を拡大していく考えはあるか尋ねたところ、目黒社長はきっぱりと否定した。「郡山市などに出店したのはさまざまなご縁や社員の成長などが重なったから。新規出店を経営目標に掲げているわけではありませんし、それよりも地域や社会に貢献したいという思いが強いです」。

太郎庵のロゴの脇に描かれているランプには、「心に情熱とぬくもりを伝えるお菓子を作りたい」という思いが込められている。目黒社長は、会津の地で積み上げてきた信頼を土台に、「人のぬくもり」を大事にして、菓子店に残るコミュニティーをつないでいくことが経営のカギになると考えている。

「お菓子って生きるために必要ないが、豊かに生きるためには欠かせないものだと思っています。いわばお菓子は『心のサプリ』であり、私たち『お菓子屋さん』は皆さんが豊かに生きるためのお手伝いをする仕事です。お菓子づくりと店舗での販売・サービスを通して、人と人の関係性をつなぎ、地域に貢献していく――それが私たちの使命だと考えています。喜んでくれる人がいる限り、面白いことをどんどんやっていきたいですね」

春の新商品が店頭に並ぶこの季節、太郎庵はきょうも新しい「心のサプリ」を世に送り出し、お菓子を通してランプのような温かみを地域に伝え続けていく。

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