いわき市では「ラウンドワン」が誘致できるかどうかが話題だ。若年世代の声を受けて誘致を目指す内田広之市長が今年1月に運営会社と面談し、「有意義で内容の濃い意見交換ができた」と明かした。他方で、運営会社は来日客や北米への展開など海外戦略に重点を移しており、いわき市に進出する必然性は乏しい。市がどのように同社の成長に貢献できるか、いわきの潜在的な強みを示せるかが誘致の鍵となる。
ラウンドワンは、ボウリング、アミューズメント(ゲームセンター)、カラオケ、ビリヤード、多彩なスポーツが楽しめる「スポッチャ」などが集約された屋内型複合レジャー施設。グループ運営会社は㈱ラウンドワン(杉野公彦社長、大阪市)で、国内99店舗、海外62店舗を誇る(2月時点)。市民の間では、次の2点から「ラウンドワンがいわきにあってもおかしくない」と期待する声が根強い。
①郡山市(人口31万人)、福島市(同27万人)にあるにもかかわらず、いわき市(同31万人)にはない。(人口は令和7年県の市町村勢一覧より。2024年10月1日時点。千の位以下切り捨て)

②同じ商圏と文化圏である茨城県も空白地帯であり、いわき市に店舗が進出すれば同県からの誘客も見込める地の利がある。
ただし、①人口については、ラウンドワンの顧客層である年少人口(15歳未満)と生産年齢人口(15~64歳)の数と比率を考える必要がある(別表)。面積こそ大きいため人口も多いが、若年層の数と比率は郡山市に及ばない。運転免許がない小中高生が来られる立地も必須の条件だ。郡山店も福島店も主要駅から1㌔以内の徒歩圏内にある。
いわき市へのラウンドワン誘致は選挙と結びついている。2017年、21年、25年の市長選に立候補した宇佐美登氏(2月の衆院選でチームみらいから東京26区に立候補し、落選したものの比例東北ブロックで復活当選)は、市長選のたびにラウンドワンと会員制大型量販店コストコの誘致を公約に掲げていた。昨年8月に行われた市長選の公開討論会(公益社団法人いわき青年会議所主催)でも、高校生から産業政策について問われると、ラウンドワン誘致を掲げた。内田市長は対抗するようにこうつないだ。
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「今、ラウンドワンの話があったので申し上げておくが、運営会社と調整し、担当者と順次検討が進んでいる。ここでは申し上げにくいが、いわき市内の企業の方と調整を進めている」
実は内田市長、ラウンドワン関係者と非公式に懇談し、誘致に向けて水面下で動いていたのだ。内田市長はコストコについても「チャンスを模索する」と述べ、宇佐美氏の公約を封じた。
内田市長は次点の宇佐美氏に4万票以上の差を付けて再選。市議会の12月定例会の一般質問では、公開討論会でのラウンドワン誘致発言に対し、「誘致は本当に進めているのか」と尋ねられる場面があった。
質問者は伊藤浩之議員(フォーラムいわき)。12月11日の会議録から、質問と内田市長の答弁をまとめる。
【ラウンドワンとの協議の現状】
「以前、市内のある企業がラウンドワンに対して誘致に向けて協議をした経緯がある」
「採算にかなうかどうかの問題があるので、市内の企業名や状況については答弁を控える」
【検討の進捗状況】
「検討の状況は明かせないが、誘致活動は続けていきたい」
【市長個人が市内の企業と誘致を進めるのか】
「2026年1月には市長1人という形でラウンドワン本社に出向き、いわき市の魅力や地理的特性を伝えるとともに、誘致をお願いする」
【競合する業界との意見交換】
「現時点でラウンドワン進出が決定しているわけではないので、影響を受ける市内の業界関係者との意見交換は行っていない」
【市長選の公開討論会で誘致を明言したことによる市民からの反応】
「高校生や大学生、若い子育て世代を中心に、おおむね好意的な反応が多かった」
「ラウンドワン誘致に向けて調整していると話しただけのため投票動向への大きな影響はなかったと受け止めている」
今年1月に同社東京オフィスに出向き、懇談を果たした内田市長は2月定例会で成果を問われた。再び伊藤議員が2月25日に代表質問で聞いた。
【どのようなことを伝え、どのような考えを示されたのか】
「私からは、本市の魅力やまちづくりの方向性、立地場所の選択肢をいくつか伝えた。それに対して示された先方の考えは、相手もあることなので詳細な答弁は控えるが、極めて有意義で内容の濃い意見交換ができたことは事実。これからも継続して意見交換をさせていただくことになっている」
【市長選での言及は若者の関心が高く、投票行動に影響を与えたのは明らか。公約への期待にどのように向き合うか】
「市長として、市民の期待に応えていけるように努力する」
【既存店に影響が大きいため、地元の意見を聞いて共存を図るべき。今後どのように取り組むのか】
「伊藤議員の意見と同様なのでしっかり取り組んでいく」
本誌3月号ではいわき市民が熱望するラウンドワンの実現度を検証した。期待が集まる一方で、市内の経済界には冷ややかに見る動きもあり、震災・原発事故後に一部の経済人らが誘致を試みたものの頓挫した経緯に触れた。
「震災・原発事故直後、『子どもたちが放射性物質の影響を恐れて運動を控えている環境を少しでも解消したい』と考えた経済人有志が『土地を無償提供するので小名浜地区への出店を検討してほしい』と打診したのです。実際にラウンドワン担当者とやり取りもしたそうだが、『出店戦略を郊外型から都市部集約型に転換している』と難色を示され、そのまま頓挫したそうです。その後も出店方針は変わっていないから、実現は簡単でないと思います」(市内の事情通)
内田市長が12月定例会で、「以前、市内のある企業がラウンドワンに対して誘致に向けて協議をした経緯がある」と言及した企業が、震災・原発事故直後に小名浜に誘致を考え、断念した企業かどうかは不明。いずれにしても用地確保には地元企業の協力が必要となるため、新しく誘致に動く地元企業が見つかったのか、あるいはまだ見つかっておらず市だけが先行して動いているのかで実現度が変わる。
㈱ラウンドワンは、5月13日に2026年3月期の決算を発表した。説明資料(連結決算)によると、純利益は前期比8%増の166億円、売上収益は7%増の1895億円。同日付の日経新聞電子版によると、決算記者会見で杉野社長は海外拡大方針を強調したという。
《「高級飲食店事業のデリシャスは、10月前半にロサンゼルスとラスベガスに6~9店舗、年末年始にニューヨークに1号店をオープンする」と話した。そのうえで「トータルで三十数店舗をオープンさせて、伸ばせるところは伸ばしていきたい」と拡大に意欲を示した》
同社は国内での出店方針について、「立地に合わせた様々な形態(小型店舗からスタジアム店舗)にて継続的に出店してまいります」とする(※2026年3月期 第2四半期決算「現況と今後の展望」より)。
国内では年間数店舗、米国では積極的な出店を進める方針だ。いわき市が本気で誘致を目指すならば、同社が海外戦略に力を入れていることを直視した上で、国内数店舗の一つに選ばれなければならない。

























