ラーメンチェーン「幸楽苑」を展開する㈱幸楽苑(郡山市)の新社長に同社専務取締役営業本部長の芳賀正彦氏が就任した。6月18日付。芳賀氏は業績が大きく落ち込んだ同社の経営再建に現場で取り組んできた一方、SNSなどを活用し、新たな〝幸楽苑ファン〟を拡大してきた人物。新規出店を再開させ、さらなる「進化」を目指す。7月下旬、芳賀新社長にインタビューを実施した。(志賀)
「再生」から「進化」を目指す
幸楽苑は2018年3月期に大幅赤字を計上し、翌年にはV字回復を果たしたものの、令和元年東日本台風による工場・店舗の被災、コロナ禍、原材料・光熱費の高騰などに見舞われ、業績が低迷。新メニューの投入や事業の多角化などで改善を模索したが、打開策とはならず、2023年6月には、経営の一線を退いていた創業者・新井田傳氏が会長兼社長として復帰した。
「原点回帰」と「人」を重視した経営方針を打ち出し、多角化事業の整理、不採算店舗64店舗の閉鎖、商品・店舗の見直し、エリアマネージャー制度の再構築を進めた。その結果、店舗数は減少したが、2025年3月期は増収増益を達成した。
新体制2期目の2026年3月期は、売上高294億0400万円、営業利益15億1500万円、経常利益15億2700万円、当期純利益11億5500万円を計上。前年と同条件で比較した参考値ながら、売上高5・9%増、営業利益42・5%増、経常利益49・7%増、純利益43・1%増となった。
再建に一定のめどが立つ中、同社は再び新規出店に乗り出し、500店舗体制を目標に掲げる。郡山市に2028年12月の操業開始を予定する新工場を整備し、その先には西日本への再進出も視野に入れる。
新たなかじ取り役を任されたのは専務取締役営業本部長の芳賀正彦氏。全国各地の店舗運営や新規出店に携わり、新井田氏のもとで経営再建を牽引してきた生え抜き社員だ。
SNSでの情報発信にも積極的に取り組んでいることで知られる。本誌昨年8月号では、プロスケーターの羽生結弦さんが「幸楽苑のねぎらーめんがお気に入り」という趣旨の発言をしたことを受け、関連イベント時にファンが幸楽苑に列をつくる様子を紹介した。このとき関連イベントの最寄り店をSNSで丁寧に案内し、絶妙な距離感で盛り上がりを演出したのが芳賀氏だ。一連のやり取りを経て羽生さんのファンと信頼関係が築かれ、株主総会では「社長就任後もSNSを続けてほしい」と要望が出たほどだ。
新社長は新井田氏から何を受け継ぎ、幸楽苑をどのような会社に進化させようとしているのか。郡山市の本社で話を聞いた。

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――まず社長就任を受けての率直な感想をお聞かせください。
「偉大な創業者である新井田会長からバトンを引き継ぐわけで、相当なプレッシャーがあります。私はプロパー社員で、もともと『この会長の下で働きたい』と思って入社しました。会長には創業者ならではのカリスマ性があり、組織に一定の緊張感を与える力もありますが、私はそういうタイプではありません。
現場から地道に上がってきた人間だからこそ、社員に一番近い代表でありたい。社長になった現在も席は営業本部長時代と同じですし、『必要なら社長室や秘書を用意する』と会長から打診されましたが、断りました。理想は社員が何でも本音で言えるフラットな会社です。休憩スペースを増やしてお菓子を置くなど、小さなことも含めて働きやすく、楽しく仕事ができる環境をつくっています。そのことがいい仕事や業績につながっていくと考えています」
――今後の成長戦略をどのように描いていますか。
「会長が現場に復帰した当時は本当に厳しい状態で、ラーメン以外にもステーキ、焼き肉、唐揚げなどいろいろな事業を展開していましたが、それらを整理して、事業をラーメン1本に絞りました。『選択と集中』を進めたことで、再生の段階には一区切りついたと思っています。
これからはいよいよ再成長を目指し、出店を進めていきます。建築費や設備費が高騰しており、出店のための投資額が以前より大きくなっているので、成功の確率を高めることがポイントになります。私はこれまで青森から四国まで、新規開拓や店舗運営に関わってきました。それぞれの地域には数字だけでは分からない〝出店の勘所〟があります。経験を生かし、立地と業態のミスマッチをできるだけなくしたい。新事業へ手を広げず、ラーメンという軸をどう進化させるかに集中していきます」
――500店舗体制という目標を示しています。
「2026年3月期末では366店舗で、そのうち国内直営店が346店です。まずは私たちの地盤である東北、関東を中心とした既存エリアで500店舗を確立します。その先に700店舗、1000店舗体制があり、撤退した静岡、名古屋、大阪などへの再挑戦も視野に入ります。
ここからもう一度店舗を増やしていくわけですが、以前と同じことをやるつもりはありません。以前、西日本での出店を担当したとき、お客さまから『幸楽苑ってどこから来たラーメン屋なの』と何度も聞かれました。福島県会津若松市で創業した会社だという歴史が全然伝わっていなかったのです。いま改装店舗の看板に『会津創業』と入れているのもそのためです。会津という歴史ある土地で生まれた中華そばであるというストーリーをきちんと伝えていきたいですね」
駅前出店にも注力
――駅前への出店も考えているそうですね。
「郊外ならファミリーのお客さまが中心ですが、駅前では30~40代のビジネスパーソンがメーンになる。家賃も高いので、ラーメンだけではなく一品料理やアルコールを充実させ、客単価を上げる必要があります。ただ、既存の中華系チェーンの二番煎じにはしたくありません。『手軽に本格的な中華料理とラーメンを楽しめる店』という軸は守りたい。会津の酒蔵『花春』のお酒などを置き、福島らしさや品質でも差別化したいとも考えています」
――郡山市に建設する新工場には、どのような役割を期待していますか。
「既存店の売り上げや客数が伸びているので、現在の郡山工場と小田原工場(神奈川県小田原市)だけでは、将来的に生産能力が不足します。一方、現在の郡山工場は2019年の台風で水害を受けた場所にあり、敷地にも余裕がありません。BCP(事業継続計画)の観点からも、現在地での大規模増強は難しいと判断し、最終的に東北地方、北関東、日本海側までカバーでき、小田原工場と役割分担しやすい郡山市に新工場を整備することになりました。
新工場では人手不足への対応と生産効率向上のために、できる限り自動化を進めます。幸楽苑は麺やスープなどを自社工場でつくって店舗へ送る『製造直販』が大きな強みです。外部から仕入れれば、原材料費、人件費、物流費の上昇が仕入れ価格に反映されます。自分たちで効率的につくる仕組みがあるからこそ、品質と価格を両立できるのです。
これは490円の中華そばをこれからも提供していくために必要な投資だと考えていますし、500店舗体制、さらにその先へ進むための基盤になります。もちろん、福島県の企業として郡山市に投資することで、雇用や地域経済にも還元していきたいという思いもあります」
――店舗運営で一番大切にしていることは何でしょうか。
「基本はQSC(品質、サービス、清潔さ)です。この三つがそろわなければ、お客さまに再来店していただけません。それを確認する意味合いもあって、私は当社の店舗でよく食事をしていますし、たとえば麺に違和感を抱いたら、そのまま厨房に入って自分で作ることもあります。以前は約420店を4人のエリアマネージャーで管理していた時期がありました。1人100店舗以上ですから、当然目が行き届かなくなります。反省して現在は約20人まで増やし、1人16店舗前後を管理するようにしています。将来的には1人10店舗程度担当するようにしたいと考えています。
店舗運営で参考にしているのがSNSの投稿です。業績が落ち込んでいたころ、お客さまが幸楽苑についてどう思っているのか、本音を知りたいと思い、『X』を見るようになりました。『箸が滑りやすい』『エアコンが寒い』といった細かな意見も拾い、毎月の全国店長会議で共有しています。同じ声が多ければ、それは全社的に直すべき課題です。SNSはお客さまの声を直接聞いて、店舗を改善したり、信頼関係をつくったりするためのツールだと捉えていますし、今後も継続していきます」
失敗の経験が強みになる
――福島県発祥の企業として、地域とどう関わっていきたいですか。
「福島県にちなんだメニューということで『郡山ブラック』や『会津レッド』を開発、提供しています。こうしたメニューが定着し、地元の個人店にも広がっていくことで、福島県全体がラーメンの地域として盛り上がってほしいという思いがあります。観光資源となり観光客が増えれば、結果的に私たちの売り上げにもプラスになるかもしれません。
子ども食堂への食事券の寄付や大学での講義なども続けています。以前、聴講した学生が『地元にある幸楽苑の店舗が全国トップの売り上げだと聞いて誇らしい』と涙ぐまれたことがありました。驚くとともに、弊社の店舗がそれぞれの地域に密着した存在になっていることをあらためて実感しました。当社は福島県の皆さんに長い間支えていただいた会社です。その感謝の思いを込めて、さまざまな形で恩返ししていきたいと考えています」
――最後に今後の抱負を。
「私は、当社が店舗を拡大し、成長を続けていた時代に現場で店長を務めていました。そのときの会社の〝熱気〟はすごかったです。今の若い社員にも、成長する会社で働く面白さを経験してほしいです。
一方で、当社には一度、会社が傾きかねないほど業績を悪化させた経験があります。ブランドの軸がぶれるとどうなるのか、どんな立地に出店すれば失敗するのか、身をもって知っているのは逆に大きな強みになると捉えています。だからこそ、検証を重ね、一店一店の成功確率を高めながら成長していきたいです。
私一人が引っ張るような会社にするつもりはありません。財務、経営、店舗運営など、それぞれの分野のプロが強みを発揮しながら会社を成長させていく。そして社員・店長に『この会社で働くのが楽しい』と思ってもらえる会社にしたいですね」
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創業者・新井田傳会長の復帰と「原点回帰」で、幸楽苑は経営危機から立ち直った。生え抜きの芳賀社長に託されたのは、その会社を再び成長軌道に乗せる仕事。かつての急拡大と業績悪化を「失敗」で終わらせず、次の成長への教訓に変えられるか、新体制の真価が問われる。





















に向けて掲げられたプラカード。過激な言葉が並んだ=2025年10月19日、仙台市青葉区河北新報提供-002_eyecatch-520x305.jpg)



