ボリビア・ウユニ塩湖の鏡面世界、モロッコ・マラケシュのジャマ・エル・フナ広場のナイトマーケット、トルコ・カッパドキアの奇岩群の上を飛び交う気球――10年以上前、世界の絶景をタイムラプス撮影(微速度撮影)した動画が話題を集めた。公開したのは映像作家の鈴木さん、ヨガ講師の聡子さんによる夫婦ユニット「旅する鈴木」だ。
2011年に新婚旅行として世界一周旅行に出発。毎日1本ずつ動画をアップしながら旅を続けたところ、その活動が注目され、各国のテレビ番組やCMに起用されたり、旅の様子がBS朝日の冠番組で放送された。
陵生 もともと、各国をひとり旅しながら映像を撮っていたのですが、2010年に結婚したタイミングでふと、「1年後に世界一周旅行をしたい」と考えてしまったのです。
聡子 私はほとんど旅をしたことがなかったし、まして海外には全然興味がなかった。まあ、でも結婚したばかりだったし、違う世界が見えるかもと考え、思い切って一緒に行くことにしました。その結果、いまでは私の方が旅に出かけたり知らない場所に足を運ぶのが好きになってしまいました。
陵生 1人で世界を旅していると、友達がどんどん増えていくのが普通でしたが、夫婦でひと固まりで旅をすると、かつてのように友達ができにくくなりました。ただ、荷物を見ている人がいるので、「旅先でトイレに自由に行ける」という感動がありました(笑)。
聡子 絶景を見たり料理を味わって「すごくきれい!」、「おいしい!」と感動したとき、隣に共感してくれる人がいるのは楽しいですね。
陵生 恐怖を共有できるのも夫婦旅の良さですね。アフリカ大陸を縦断したときは、2人で恐れ慄き、ビビりながら旅しました。移動手段は基本的にバスで、目的地までは歩いていくのですが、殺人発生率世界トップクラスの中米・ホンジュラスの街なかを歩かざるを得なくなったときは、有刺鉄線が張られた高さ3㍍ほどの壁の脇を夫婦で固まりながら移動しました。もちろん、夜の外出を避けたり、危険な地域は飛行機で回避するなど最低限の対応はしました。
2人が最優先にしていたのは「景色」。陵生さんが旅先で美しい風景を撮って発信することを旅のテーマに掲げていたためだ。訪れた先の風景が美しく撮影できる場所やアングルを探して、1、2週間、ロケハン(ロケーション・ハンティング=撮影の下見)を重ねたというから驚かされる。
陵生 動画でよく用いた「タイムラプス撮影」という手法は、三脚にカメラを載せ、何秒かに1枚ずつ写真を撮り続けてつなぎ合わせるというもので、長時間の変化を短時間で表現する手法です。絶景の前で10時間以上体育座りして待つこともよくありますが、撮影しながら絶景をふたりで眺めるというのは贅沢な時間でもありました。撮影時間の最長は、南米・チリ領イースター島で、モアイ像の前にカメラを置き、ひたすら座っていた48時間です。
聡子 私はバッテリーの充電のために一度宿に帰り、食事用のおにぎりを握って、また撮影場所まで戻る係を担当していました。撮影場所が山のてっぺんのときは何時間もかけて往復していました。
陵生 彼女には何度もその役割をお願いしました。本当に感謝しています。
世界一周旅は当初1年半の予定だが、中南米だけで終わってしまったため、一時帰国して仕事を請け負いながら旅を続けた。幸運だったのは、毎日アップし続けていた動画が少しずつ見てもらえるようになり、旅先で請け負える撮影の仕事が入ってきたこと。そのため収入を得ながら旅を続けることが可能になった。結局、2人の新婚旅行は10年にわたり続いた(実はまだ終わっていないそうだ)。
陵生 一番面白かったのはアフリカ大陸ですね。人を激しく揺さぶるような不思議な魅力があり、大好きになりました。北から南まで国があり、人種も宗教も違うはずなのに、共通する「一つの軸」があるんですよね。日本とは全く違う文化なのでいろいろ大変だったけれど、笑ってしまうことも多くて思い出深いです。飛行機でピンポイントに移動するなら危険な場所は回避できると思います。
世界一周をする際は基本的に日本から西回りで向かう人が多くて、タイ・バンコクからスタートする人もかなりいます。東南アジアはバックパッカー向けのインフラが整っていて料金も安いので初心者向きだと思います。情勢次第ですが、そこから中央アジア、中東を経てヨーロッパやアフリカに入れば、徐々に異なる文化に体を慣らしていけると思います。
聡子 でも、私たちは東回りルートで、いきなりメキシコに行ったんです。治安が悪いところが多かったり道路が壊れていたり虫がたくさんいたりと過酷な環境で、精神的にとても鍛えられました。そのせいか、その後ヨーロッパやアフリカに行ったときも動じることはなかったし、最後のアジアに至っては、天国のような場所にすら感じました。
現在、2人はそれぞれの仕事を続けるかたわら、千葉県の山林を購入して、〝開墾生活〟を送っている。
陵生 僕の中では旅と〝開墾生活〟はつながっています。2人で世界中を旅し続けた結果、「どこにいても一緒だ」という感覚が生まれ、今度は自分で一から場所を作って、思うように活動してみたいという思いが生まれました。篤史くん(=自転車で世界一周を果たした後、福島市で旅行者向けの宿泊施設を運営している伊藤篤史さん)も同じように考えたのかもしれませんね。
コロナ禍を挟んだこともあり、個人的に旅に出かけることはなくなりましたが、作品作りや仕事の撮影のために海外に出かけることはあります。昨年は2カ月ほどフィリピンやスペイン、ドイツに行きました。
短期間の観光旅行にはあまり行きません。例えば「ハワイ旅行に100万円かかる」と聞いたら、「そのお金でアフリカ大陸縦断していろいろ体験できるな」と考えてしまいますから。
本当に世界を満喫するなら、できれば1箇所に長くする旅をおすすめしたいです。企画の趣旨に反するかもしれないが、短い期間しか確保できないのであれば、最初から世界一周にこだわらなくていいと思います。1カ所に長く滞在すれば自ずと友達ができるし、思わぬ再会もある。より深くその土地のことを知れる。時間をかけなければ見られない景色もある。実際モロッコには合計1年近く滞在したこともありました。そうした旅の醍醐味を味わうことなく、短期間で走り抜けてしまうのはもったいないと思います。

たびするすずき 愛知県出身の夫婦によるユニット。世界一周旅をしながら撮影した各地の絶景動画が話題に。8年にわたり旅を続け、現在は仕事のかたわら、千葉県の山林を購入し〝開墾〟生活を送りつつ、世界中を撮影する旅を続けている。
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