いまだに基準値超が検出される「あんぽ柿」

いまだに基準値超が検出される「あんぽ柿」

 県は10月4日、県北4市町(福島市、伊達市、桑折町、国見町)の干し柿類の試験加工の放射性物質検査結果を発表した。それによると、試験加工品24検体のうち、あんぽ柿2検体と干し柿2検体の計4検体から基準値(1㌔当たり100ベクレル)を超える放射性セシウムが検出された(試験加工結果の詳細は別表の通り)。そのため、4市町に加工自粛を求めた。

 もっとも、「加工自粛」といっても、実際には条件付きで加工・出荷ができる。その経緯はこうだ。

 福島県の冬の特産品である「あんぽ柿」は、県北地方が主産地だが、原発事故を受け、2011年と2012年は全面自粛を余儀なくされた。あんぽ柿は「乾燥加工」という性質上、その過程で水分が失われ、単位重量当たりの放射性物質が濃縮されるため、基準値を超える事例が見られたからだ。

 2年間の全面自粛は生産者に大きなショックを与えた。そんな中、生産者らは「何とか復活させたい」、「このまま生産できなければ文化が途絶えてしまう」として、2013年に「あんぽ柿産地振興協会」を設立し、再開に向けた取り組みを進めた。その努力の甲斐あり、2013年からは、県から加工自粛を要請された場合でも、条件付きで加工・出荷が可能となった。

 具体的には、あんぽ柿産地振興協会が「加工再開モデル地区」を設定し、同地区内のほ場で採取された原料柿のみ加工・出荷が認められている。その場合、出荷前に全量非破壊検査を行い、「検査済み」シールが貼られたものだけが流通される。

 加工再開モデル地区は、当初は限られたエリアだったが、年々拡大され、現在は県北4市町全域が対象となっている。つまり、この間、県北4市町はあんぽ柿の加工自粛対象となっているが、①指定された畑以外から原料柿を持ってきてはいけない、②加工した商品はすべて検査を受けなければならない、といった条件を満たせは、加工・出荷ができるということである。

 今年もそれが継続されることになり、2013年から10年連続での「条件付き加工・出荷」となったわけだが、生産者からすると「昨年までと同じ」で慣れたものに違いない。

 県によると、あんぽ柿の出荷量は震災前(2008〜2010年度の平均値)は約1542㌧だった。それが再開初年度の2013年度は約200㌧にまで落ち込んだ。ただ、そこから少しずつ回復していき、2018年度は約1300㌧と、原発事故前の8割超にまで戻った。

 2019年度は、当初は1450㌧を目標にしていたが、令和元年東日本台風の影響などで約1100㌧にとどまった。2020年度は約1300㌧で、2018年度並みに戻った。昨年は春先の凍霜害の影響などで約1000㌧に落ち込んだ。今年度は2018年度、2020年度並みの1300㌧を目標にしているという。

 それにしても、試験加工結果を見れば分かるように、原発事故から10年以上が経っても、基準値超過がなくならないのは驚きだ。普段の生活で放射能に対する警戒はだいぶ緩んでいるが、この事例を見ると、まだ危険が潜んでいるとあらためて思わされる。

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