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経済・ビジネス

  • 「最終処分場」反対運動が過熱する【郡山市田村町】

     郡山市田村町の国道49号沿いに「谷田川地区最終処分場施設絶対反対!!」という看板が立てられている。谷田川行政区と「やたがわ環境を守る会」が設置したものだ。  「最終処分場施設」とは、同地区で計画されている産業廃棄物の最終処分場のことを指す。現在複数個所で整備計画が進められており、地元住民が猛烈な反対運動を展開しているのだ。  前出「守る会」の石井武四郎代表は反対理由をこのように語る。  「国道49号に沿って流れる谷田川の水は広範囲で農業用水として使われています。最終処分場は山の一角を切り崩して設置される計画ですが、仮に汚水が川に流れることがあれば深刻な影響を及ぼします。この辺は多くの世帯が井戸水を使っているので、地下水への影響も心配です。地区内にそうした施設ができることで過疎化が進む可能性もあります」  処分場建設を計画しているのはミダックホールディングス(静岡県浜松市、加藤恵子社長)。1952(昭和27)年創業。資本金9000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期は売上高17億3600万円、当期純利益7億8000万円。  9月には整備計画について、地元説明会が田村公民館で開催された。  計画によると、建設される最終処分場は管理型(分解腐敗して汚水が生じる廃棄物などを埋め立てる処分場)で、埋め立て面積約7㌶、埋め立て容量約160万立方㍍。  だが、自然環境や農業への影響を懸念する住民と、安全性を強調する事業者側の溝は埋まらず、公民館の貸出時間が過ぎたということで、住民の理解を得ないまま終了した。  「10月にも説明会が開かれましたが、事業者から『13年間産業廃棄物を埋め立てた後、15年間にわたって管理し、その後は管理を終了する予定』と言われました。予定地のすぐ近くは市ハザードマップで土砂災害特別警戒区域に指定されており、不安は尽きません」(石井代表)  この計画地の上流(平田村・いわき市側)に当たる田村町糠塚でも管理型の最終処分場の建設が進められている。本誌2019年8月号では同処分場の工事が停滞している旨を取り上げたが、「現在は工事が開始されており、国道をダンプが何台も行き来している。1カ所できるだけでも環境の変化を感じているのに、さらに何カ所も建設され、稼働したらどうなるのか」(同)。  「なぜ、この地域ばかり迷惑施設を受け入れなければならないのか」という負担感も反対運動の大きな理由になっているようだ。  郡山市議会9月定例会の一般質問で、岡田哲夫市議(2期)が市の関わりを尋ねたところ、環境部長が「廃掃法に違反していないことを確認し、6月16日付で事業計画書の審査を完了した」と答弁した。現時点で市から設置許可は出されていない。  「住民の強力な反対があれば建設強行はできないのではないか」との問いには、環境部長が「周辺住民の同意は廃掃法上、許可要件とされていない。環境省からも『要件を満たす場合は必ず許可しなければならない』と通知が出ている」と答えた。一方で、「事業者(ミダックホールディングス)には口頭と文書で住民の理解を得るよう求め、地元自治会・区長会から出た意見は文書で伝えている」とも述べた。  田村町地区の住民がほとんど反対している中で、今後、品川萬里市長がどう対応するか問われる、とみる向きもある。新たな事実が分かり次第、リポートしていきたい。 国道49号沿いに設置された看板

  • 【オール・セインツ ウェディング】幸せ壊した郡山破綻式場に憤る若夫婦

    【オール・セインツ ウェディング】幸せ壊した郡山破綻式場に憤る若夫婦

     本誌7、8月号でJR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウエディング」が6月8日に事業停止したことを報じたが、本誌編集部への被害告発が未だにやまない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声  10月下旬には、7月に式を挙げる予定だった男性から《返金も厳しい状況で、これは詐欺に当たるのではないか》というメールが届いた。  11月上旬には、福島市在住のAさん夫婦が直接取材に応じてくれた。この若夫婦は事業停止16日後の6月24日に式を挙げる予定だった。  「初めて式場を訪れたのは2021年5月です。ネットの口コミ評価が高く、館長(㈱オール・セインツの黒﨑正壽社長)や担当者の対応も良かったので、ここで式を挙げようと決めました。ただ式は22年10月の予定でしたが、途中、私の妊娠が判明し、出産予定が同年8月だったので23年6月に延期した経緯があります」(Aさんの妻)  夫婦は契約の内金として既に10万円を支払っていたが、延期を受けて式場から「延期日に式場を確保するには費用を先払いしてほしい」と言われ、110万円超を支払った。参列者は20人弱を予定していた。  その後、無事に出産し、体調の回復に合わせて式場と打ち合わせを重ねていったが、その間に担当者が2回代わり、館長も次第にやつれていくなど、若夫婦は式場の異変を感じるようになったという。  「正直、心配にはなったが、私たちのほかにも打ち合わせをしているカップルが複数いたので、大丈夫なんだろうと思っていました」(Aさん)  ただ、事業停止の予兆だったのか今年4月にはこんな出来事も。  「私たちの両親が式場に来て衣装合わせをしたのですが、その支払いをしようとクレジットカードを出したところ『今、カードは受け付けていない』と言われたのです。仕方なく現金(10万円超)で払ったが、カードが使えないってどういうこと?と思って……」(Aさんの妻)  それでも、5月下旬の直前打ち合わせでは式で上映するDVDの映像を確認し、招待状も発送して、担当者からは「当日が楽しみですね」と声をかけられていた。  夫婦のもとに悲しい連絡が届いたのは6月8日だった。  「実家の母から『式場に預けていた留袖が宅配便で返されてきた』という連絡が来たのです。慌てて式場に電話したがつながらず、ネットで検索すると閉鎖と出てきた。式場隣りのホテルに問い合わせたら従業員が様子を見に行ってくれて、そこで初めて事業停止の張り紙があるのを確認しました」(Aさんの妻)  知人の弁護士に相談すると「支払い済みの120万円超が返金される可能性は低い」と助言された。  途方に暮れる夫婦が式場の代理人を務める山口大輔法律事務所(会津若松市)に問い合わせると、事務員から「7月中に破産を申し立て、早ければ8月に裁判所から債権者に連絡がある」と言われた。ところが9月になっても連絡はなく、10月に再度問い合わせると「まだ破産申し立ての準備ができていない」と素っ気ない答えが返ってきた。  「事務員の面倒くさそうな物言いに『こっちは被害者なんだぞ!』と腹が立ちました」(Aさんの妻)  11月19日現在、オール・セインツが破産を申し立てたという情報は入っていない。突然、結婚式が中止され「両親や親族に晴れ姿を見せたかった」という若夫婦は「やっぱり式を挙げたいけど、もう一度初めから準備をするのは大変だし、そもそも信用できる式場が見つかるのか」と気持ちが複雑に揺れ動いて新たな一歩を踏み出せずにいる。  どんな企業も破産すれば周囲に迷惑をかけることになるが、「幸せ」を商売にする企業が顧客を「不幸」にするのは、あまりに罪深い。

  • 医療機器出荷額全国1位の陰で燻る【医療機器センター】

    医療機器出荷額全国1位の陰で燻る【医療機器センター】

     福島県の医療機器産業が好調だ。経済産業省の調査によると、医療用機械器具に取り付ける部品の2021年の出荷額は255億円で前年比25億円減少したが、都道府県別では12年連続で全国1位となった。  2位は長野県で136億円、3位は愛知県で124億円。全国の出荷額は1399億円で、福島県はこのうちの18%を占める。  それだけにとどまらない。医療用機械器具・装置の製品でも、福島県は2021年の出荷額が918億円となり、前年比3億円減少したものの2年ぶりに全国1位となった。  2位は埼玉県で622億円、3位は静岡県で606億円。全国の出荷額は7790億円で、福島県はこのうちの12%を占める。  部品と製品合わせて1000億円を超える巨大産業が県内に集まる背景には、県が2005年度から取り組んでいる産学官連携の「次世代医療産業集積プロジェクト」がある。医療機器の研究開発や異業種企業に対する医療品医療機器等法の許認可支援などを進めてきた結果、医療機器の部品・製品を製造する企業が増加。11年の東日本大震災後は医療機器産業を産業復興の柱に据え「医療関連産業集積プロジェクト」を展開し、その勢いを加速させた。  国内唯一の医療設計・製造の展示会「メディカルクリエーションふくしま」はそれらプロジェクトの一環として始まり、19回目を迎えた今年も11月1、2日に郡山市のビッグパレットふくしまで盛大に開かれた。会場では全国220の企業・団体が最先端の医療技術を紹介し、2日間で3500人超が来場した。 多くの来場者で賑わった「メディカルクリエーションふくしま」  地道な取り組みが実を結び「12年連続1位」「1000億円超」という成果になって表れていることは素直に評価したいが、一方で苦戦が続く施設もある。  郡山市にある「ふくしま医療機器開発支援センター」は医療機器の開発から事業化までをワンストップで支援する国内初の施設として、2016年11月に国の補助金134億円を投じて開設された。しかし、数年間は成果が上がらず、20年11月には地元紙が「これまで収益が目標に届いた年度はなく、生じた赤字は指定管理者のふくしま医療機器産業推進機構に支払っている委託料から穴埋めされている」などと報じた。  同機構は2018年3月に改善計画を策定したが、県議会の一般質問や決算審査特別委員会などのやりとりを見ると、共産党議員が「補助金等がなければ運営できない状況」と問題提起し続けてきた。ただ、新型コロナの落ち着きと共に大型案件の依頼が舞い込むようになり、リピート率の高まりもあって22年度は2200万円の「黒字」を計上。3年前の赤字報道から一転、運営は好転の兆しを見せている。  とはいえ同センターの高度な設備と機能を踏まえると、その程度の黒字では物足りない。郡山市内の行政マンは「広報・営業が下手で、その良さが広く伝わっていない」「医療機器とは無縁の地元企業が異業種参入したいと思っても、そのチャンスが得られずにいるのでマッチング機能を強化すべきだ」と同センターの問題点を指摘している。  事実、同センターの2022年度事業計画を見ると「これまで全く注力されてこなかったセンターの知名度・認知度の向上を目指す」「マッチング機会を増加させるためデータベースを新たに構築し、県内企業が有する技術情報を集約し、医療機器関連の新たな仕事を得る機会を創出する」と書かれ、二つの問題点を強く自覚していることが分かる。  福島県の医療機器産業をさらに盤石にするためには、同センターが期待された役割をしっかり果たすことがカギになる。

  • 新型コロナ「ゼロゼロ融資」の功罪

    新型コロナ「ゼロゼロ融資」の功罪

     新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が中小企業の資金繰り支援として実施した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)。その効果は絶大で倒産件数は大きく抑えられたが、今年度に入って返済が本格化すると、業績回復が遅れている企業が事業継続を断念、倒産件数は増加に転じている。もともと倒産するはずだった企業を延命させた面もある、とも言われるゼロゼロ融資。その功罪を探る。 (佐藤仁) 税金55兆円投入で〝破綻寸前企業〟まで延命 郡山アーケード(2022年12月撮影)  ゼロゼロ融資は、新型コロナの影響で経営が苦戦する中小企業を支援するため政府が行った実質無利子・無担保融資だ。  通常、金融機関から融資を受けるには担保が必要だし、金利も取られる。しかし、ゼロゼロ融資は元本を信用保証協会が担保し、都道府県が利子を支払う仕組み。政府による財政支援、すなわち税金によって成り立っている。新型コロナという未曽有の事態に対応するため行われた異例の措置だった(ゼロゼロ融資の仕組みは別図①を参照)。 図① ゼロゼロ融資の仕組み 朝日新聞8月21日付掲載の図から作成  融資期間は10年以内(据え置き期間は5年以内)で、無利子期間は3年。最大3億円まで借りられる。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など政府系金融機関を窓口に2020年3月から始まったが、申し込みが殺到したため同年5月から民間金融機関でも扱うようになった(融資受付は民間金融機関が21年3月、政府系金融機関が22年9月に終了)。  中小企業庁によると2022年3月末時点での実績は、政府系金融機関が約18兆円、民間金融機関が約37兆円、計55兆円の融資を行っている。借入金依存度や総資産現預金比率などのデータから、業種を問わず幅広い層に融資が行き届いていることが推察されるという。  事実、ゼロゼロ融資の効果は絶大だった。中小企業庁が2022年6月に公表した資料によると21年の全国の倒産件数は6030件で、1964年の4212件以来57年ぶりの低水準となった(別図②を参照)。 図② 全国の倒産件数 中小企業庁の資料「ウィズコロナ・ポストコロナの間接金融のあり方について」より  ただ、時期を同じくして新型コロナ関連の倒産件数は徐々に増加。民間信用調査機関の帝国データバンクによると、コロナ倒産は2020年2月に初めて確認されてから右肩上がりで増え、今年9月までの累計は6761件に上る。年別で言うと20年は835件、21年は1731件、22年は2238件、23年は9月までで1957件。このペースで行くと23年は通年で2600件を超えることが予想される。  累計6761件を業種別で見ていくと飲食店1006件、建設・工事881件、食品卸333件、食品小売285件、ホテル・旅館213件と続くが、ある金融機関の担当者はこうも付け加える。  「特定の業種で倒産が多いとは感じないが、共通点としてはコロナ前から苦しかった企業がとうとう息切れした、ということが言えます」  実際、ゼロゼロ融資を受けた後に倒産する企業は年々増加。帝国データバンクによると2020年は15件だったのが、21年は167件、22年は384件、23年は5月までで236件に達している。このペースで行くと23年は通年で560件を超えそうだ(別図③を参照)。 図③ ゼロゼロ融資後の倒産件数 帝国データバンク 別紙号外リポート「コロナ融資後倒産」(6月8日付)掲載の図から作成  ゼロゼロ融資を受けた企業の倒産が今年に入って増加している背景には、無利子期間の3年が終わり、新たな資金調達も難しい過剰債務の企業が返済できず、事業継続をあきらめたことがあるとみられる。  誤解されては困るが、ゼロゼロ融資を受けた企業の多くはきちんと返済している。帝国データバンクが8月に行った調査では(回答企業数1万1517社)、コロナ関連融資の返済見通しについて「返済に不安」と答えた企業は12・2%、「融資条件通り全額返済できる」と答えた企業は85・7%で、ほとんどの企業は返済の見通しが立っている(残る2・1%の企業は「その他・不回答」)。  別掲のインタビューに答えてくれた飲食店の店主も、売り上げが回復せず光熱費、原材料費、人件費が高騰する中でも毎月きちんと返済している。一方、店主が「ゼロゼロ融資は保証協会付きだから踏み倒す奴もいるかも」と述べているように、返済されない場合は各地の信用保証協会が肩代わりする仕組みが、ゼロゼロ融資の総額を安易に増やしたという指摘もある。  ここからは福島県の現状に目を転じたい。県経営金融課の鈴木強課長によると、県内では約2万3300件、約3571億円のゼロゼロ融資が行われ、既に6割超の企業が返済をスタートさせている。  県信用保証協会が公表している保証債務残高の推移を見ると、返済が進んでいることが分かる。2021年度末は5688億円、22年度末は5661億円、23年度は9月末で5403億円に減っている(別図④を参照)。 図④ 保証債務残高の推移 県信用保証協会発行「保証月報」(10月号)より  県信用保証協会管理部の熊坂容安部長はこう話す。  「今年度は無利子期間の終了を受け、念のため借りたけど手を付けなかったので繰り上げ返済したり、一部使ったけどもう必要ないので、余計な金利がかかる前に返した企業が多く、それが保証債務残高の減少に表れているんだと思います。要するに優良先がどんどん返した、と」 増加する代位弁済  ただ、これとは逆に増えている要素もある。倒産企業の債務を信用保証協会が肩代わりする代位弁済の額だ。2021年度は242件、21億円(前年比73・5%)の代位弁済が行われたが、22年度は302件、35億円(同164・3%)に増加。23年度は9月までで180件、24億円と半年で21年度の額を超えている。このまま行けば23年度は通年で360件超、50億円近い代位弁済が行われる可能性がある(別図⑤を参照)。 図⑤ 代位弁済の推移 県信用保証協会発行「保証月報」(10月号)より  ゼロゼロ融資を受けたものの需要が戻らず、そこに光熱費や原材料費の高騰、人手不足なども重なって事業継続をあきらめるのは飲食業に多く見られる傾向だという。  「代位弁済を業種ごとに見ていくと飲食業が多いが、飲食業の方は借りている金額自体は小さいので、件数の割に合計金額は他の業種より少ない」(同)  とはいえ、金額は小さくても代位弁済に使われるお金は税金だ。本来は無駄なく使われなければならないが、実際はどうか。  会計検査院が2020年3月以降の日本政策金融公庫と商工中金によるコロナ関連融資を調べたところ、約1兆円が回収不能または回収困難な不良債権になっていることが分かった。  《22年度末時点の貸付残高は14兆3085億円(約98万件)。うち回収不能もしくは回収不能として処理中は1943億円、回収が困難な「リスク管理債権」(不良債権)が8785億円だった。計1兆0728億円》《国は日本公庫や商工中金など政府系金融機関に約31兆円の財政援助をしている。金利負担にも国費が使われており、損失は国民負担につながる》(朝日新聞11月8日付)  約1兆円の税金が無駄に使われたというわけ。  別掲のインタビューで店主が「コロナ前から経営状態が悪く、ゼロゼロ融資のおかげで生き延びられた店もあるでしょうから」と話しているように、本来は早々に退場すべき企業が、異例の支援策のおかげで延命されたケースは結構あったはず。結果、一定程度の〝ゾンビ企業〟を生み出したことは事実だろう。  「実質無利子・無担保なんて本来はベンチャー企業を対象にすべき制度でしょう。業種を問わずに門戸を広げればモラルハザードを招きかねない。中には信用保証協会が代位弁済してくれるのをいいことに、計画倒産した悪質経営者もいたかもしれない。残すべき企業と退場させるべき企業を選別するのは正直難しいが、少なくともゼロゼロ融資に55兆円もの税金を使ったのはやり過ぎだったのではないか」(あるジャーナリスト)  かつて公共事業費が年々減っていた時代、増え続ける建設会社をいかに〝安楽死〟させるかが県庁の中で大きな課題になったことがある。同じことは〝ゾンビ企業〟にも言えるのかもしれない。 「大半の企業は助かった」 陣屋の繁華街(2022年12月撮影)  ただ前出・県経営金融課の鈴木課長は、そうした点に目を瞑ってもゼロゼロ融資の意義は大きかったと強調する。  「ゼロゼロ融資は国策として、通常より低いハードルで融資が行われました。そのおかげで、あのコロナ禍でも経済を回すことができたし、倒産を抑えることもできた。代位弁済に至った企業があることは承知しているが、大半の企業はゼロゼロ融資によって助かったという事実にも目を向けてほしい」  前出・金融機関の担当者も同様の見解を示す。  「ゼロゼロ融資は未曽有の困難を乗り切るために国策として進められました。東日本大震災と違い日本全国が、いや世界全体が経験したことのない不安と窮地に追い込まれました。そうした中で、まずは迅速な資金供給を優先させたのは当然のことだと考えます。そういう性格の融資だったから、われわれ金融機関も企業から相談があれば前向きに取り組みました。例えばリスケをして追加融資が難しい企業だったとしても、関係する金融機関と協調して対応しました。コロナ禍で倒産させ、従業員を路頭に迷わせるなんて経営者は絶対に嫌だろうし、金融機関も同じ気持ちだったと思います」  両者の言い分はもっともだが、前出・朝日新聞記事には回収不能の約1兆円について《検査院によると、日本公庫が貸し付けて返済不能や困難になった債権のうち353件(約36億円)を調べたところ、59件(約5億円)で貸付先の最新の決算書がないなど、状況が十分確認できなかった》とあるから、単に融資するだけでなく、きちんと返済されるのか貸付先の経営状況を丁寧に把握することも金融機関には求められる。 使われているのは税金  今後は、返済に不安を抱える企業に支援策を講じたり、返済可能な企業にも安定的な事業継続につながるよう新事業創出や販路拡大といったサポートをすることが必要になる。  返済に不安を抱える企業には「伴走支援型特別資金」という県の制度資金がある。金融機関が継続的な伴走支援を行うことで早期の経営改善につなげるもので「利用状況は昨年比5倍で、県の制度資金の中で一番使われている」(前出・鈴木課長)というから困っている経営者には検討をおすすめしたい。県信用保証協会でも「無料で経営相談を受けたり、専門家を派遣している。相談内容を分析し、その会社に合った支援策も案内している」(前出・熊坂部長)。商工会議所、商工会、各業界の組合等でも無料相談や支援策の案内を行っているから、悩んでいる経営者はまずは相談されてはどうか。  「金融機関でも、コロナ前から本業支援に取り組むところが増えています。返済計画や事業計画を経営者と一緒に考えたり、ビジネスマッチングや補助金申請支援など金融以外の支援も行うようになっています。ただ、そういった支援は金融支援と異なり成果が表れるまで時間を要します」(前出・金融機関の担当者)  功罪が指摘されるゼロゼロ融資。あの窮地に融資を受けられたおかげで多くの企業が助かったことは素直に評価したい。しかし、貸したお金が〝死に金〟にならないよう努めることも貸す方、借りる方を問わず求められる。信用保証協会の保証付きだから焦げ付くことはないという安易な考えではなく、そこに使われているのは税金という意識を欠いてはならない。 福島市内の飲食店経営者のインタビュー  福島市内の飲食店経営者が、ゼロゼロ融資を利用した感想と、返済の本格化を受けてどのような経営状況にあるのか話してくれた。  ――ゼロゼロ融資、いくら借りたんですか。  「500万円です。コロナ前に300万円借りていて、残り150万円まで返済が進んでいた。月々2、3万円ずつ返していた。しかし新たに500万円借りたので、月々の返済は4万円前後増えて6、7万円になっている」  ――合わせて650万円……。  「いやいや、ゼロゼロ融資の500万円から150万円を繰り上げ返済したので」  ――借り換えですね。  「知人には借り換えができなかった人もいます。例えば信金から借りて店を開いた人が、ゼロゼロ融資は公庫から借りたっていう場合、信金への返済が終わるまでは、公庫(への返済)はいったんジャンプして金利だけ払っている、というパターンも聞きますね」  ――もっとも、借り換えができても月々の返済額が増えたことには変わりない。  「売り上げがコロナ前に戻ればそこまで厳しいとは思わないが、月に20~30万円減ったままだから。なかなか回復しないね」  ――客足は戻っていない?  「大きな宴会が全然入らなくなっちゃって。うちみたいな小さな店は貸し切りの宴会が週に1、2回あって、それが終わったあとに一般のお客さんが二次会で流れて来るとある程度売り上げが見込めるが、宴会が入らなくなってからは売り上げの見通しが立ちづらくなりましたね。(他人との接触が避けられる)個室のある店は、繁盛することはなくても減少率は抑えられているんじゃないかな」  ――周りの店もゼロゼロ融資を利用した?  「ほとんどの店が借りたんじゃないかな。コロナ発生時はいつ収束するか分からない、先の見えない状況だったので手持ち資金だけでは不安だった。飲食業組合からも『借りられるなら借りてください』っていう指導がありました。手持ち資金がショートして、家賃を滞納してから融資を申し込むと切羽詰まってしまうし、ブラックリストに載ったら最後、どこも貸してくれなくなるので、焦げ付く前に借りられるなら借りてくださいって」  ――まずは手元にお金を置いておこうってことですね。  「そうです。その後、コロナが収まって、借りたお金に手を出していなければ繰り上げ返済して完済すればいいんで」  ――金利がかからないので借りても負担にならない点も、とりあえず手元にお金を置いておこうっていう心理になったんでしょうね。  「金利がかからないというのは、ちょっと正確じゃない。借りたら金利は一時的に払います。その間に必要な手続きをすると、後日、金利分が県から戻ってくるんです。『実質無利子』という言い方をするのはそのためです。だから、一定の体力がないところは借りられない。私のように数百万円くらいなら大した金利ではないかもしれないが、千万円単位になると金利も安くないからね」  ――売り上げが戻らないことには状況は変わらない感じですね。  「売り上げだけじゃない。光熱費や原材料費も上がっていて経営を圧迫している。電気代だけでも月1万数千円上がっていて、仕入れ代も毎月のように上がっている」  ――人手不足もかなり深刻?  「そう。中でも負担なのは人件費ね。いくらバイトを募集しても人が集まらない。集まらないから、他より時給を上げざるを得ない。時給だけじゃない。バイト代とは別に交通費やまかないも出さないと選んでもらえない。『あっちの店では交通費もまかないも出すって言っている』と天秤にかけられるので『じゃあ出すよ』って言うしかなくて」  ――ゼロゼロ融資のおかげで当面の厳しい状況を乗り越えられたのは間違いないんでしょうが、半面、実質無利子・無担保でも借りたものは返さなきゃならない。  「返済に苦労している人に適切な支援をしてくれると助かるんだけどね。よく『こういう支援制度があるので使ってほしい』って言われるんだけど、そういうインフォメーションって弱いので、こっちは全然知らないケースが多い。こっちから調べに行って、ようやく適当な支援策が見つかるっていうパターンが多いかな。ただ、せっかく見つけることができても今度は借りるまでが大変。細かい書類を書かされ2回も3回も訂正させられて、やっと受け付けてもらったと思ったら『検討の結果、ダメでした』って言われることもあるから」  ――知り合いとかにゼロゼロ融資を利用したけど返せなかったっていう人はいますか。  「いるかもしれないけど、そういう人は返せなくて店が潰れ、いつの間にかいなくなっちゃうんで、直接話を聞くことはまずないよね。厳密に言えば、潰れた原因が(ゼロゼロ融資を)返せなかったからかどうかも分からない。もともとコロナ前から経営状態が悪く、ゼロゼロ融資のおかげで生き延びられた店もあるでしょうから」  ――大概の人は厳しくても借りたものは返しているんですけどね。  「はっきりとしたデータとかがあるわけじゃないけど、30そこそこの若手は踏み倒す印象があるね。自分も(保証人になって)迷惑したことがあるんで。特にゼロゼロ融資は保証協会付きだから、踏み倒す奴もいるかもしれない」

  • 白河市南湖SC計画停滞で膨らむ「道の駅待望論」

    白河市南湖SC計画停滞で膨らむ「道の駅待望論」

     本誌昨年6月号で、白河市の南湖公園周辺のパチンコ店跡地で大型ショッピングセンター(SC)の開発計画が進んでいることを報じた。  予定地は国道289号沿いで、隣接地には業務スーパー白河店やファミリーマート南湖店などが立ち並ぶ。白河ラーメンの人気店にも近い。  予定地の地権者によると、開発業者はアクティブワン(白河市、鈴木俊雄社長)。白河市をはじめ、県内7カ所で大型商業施設「メガステージ」を展開しているデベロッパーだ。資本金1000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期の売上高16億5100万円、当期純利益2億0300万円。  昨年6月号の取材段階では、市内の経済人や地権者から「鈴木社長が周囲に開発する方針を明言している。すでに地質調査なども始まっている」、「テナントはヨークベニマルをはじめ、ユニクロや無印良品などを予定している」と聞いていた。  ところがそこから1年以上経っても開発が進む気配がない。計画は頓挫したのか。  前出・予定地の地権者に尋ねたところ、「アクティブワンからは半年前、『ウクライナ情勢の悪化により資材価格が高騰しているので、しばらく様子を見させてほしい』と言われています。加えてテナントとして候補に上がっていた無印良品などとの交渉がうまくいかず、別の店舗を探しているとも聞いています」と説明したうえで、こう話した。  「他の商業施設にも土地を貸しているが、計画が浮上してから1年半も放置される事例はあまりない。地代は払われているが、地目はすでに宅地に変更されているので、固定資産税も上がっている。怒っている地権者はいると思いますよ」  そうした中、市内では「商業施設計画がうまく進まないのならば、いっそその場所を利用して道の駅を作ればいいのではないか」という声も上がっているようだ。 大型SCの開発予定地  同市では現時点で道の駅を整備する計画はなく、過去に市議会で整備を提言された際には、鈴木和夫市長が「国道294号白河バイパスの完成を視野に入れながら、長期的に考えていく問題」と慎重な姿勢を見せていた。  ただ、2月に国道294号白河バイパス、南湖トンネルが完成。今年1月には、市議会の市民産業常任委員会が佐賀県鹿島市を視察した際、道の駅むなかたを訪れるなど、にわかに道の駅に注目が集まっている。そんな中、大型SC計画が停滞していることが分かったため、道の駅待望論が浮上したようだ。  前出・地権者は「目玉となるテナントが集められないぐらいなら、道の駅の方が集客を期待できそう」と歓迎するが、市内の経済人からは「道の駅候補地はほかにもある」という声も聞かれた。  アクティブワンの鈴木社長に見通しを尋ねたが「今の段階では何とも言えない」と話すに留まった。交通アクセスが良くなり観光客の往来が増えている南湖公園周辺。大型SCがさらなる同市の観光・商業振興の起爆剤になれるか。道の駅整備の行方と併せて、その動向が注目される。

  • 東山・芦ノ牧温泉を悩ます廃墟ホテル【会津若松】

    東山・芦ノ牧温泉を悩ます廃墟ホテル【会津若松】

     会津若松市の東山温泉と芦ノ牧温泉では、廃業した旅館・ホテルが廃墟化しており、温泉街の景観を損ねている。なぜ解体は進まないのか。あるユーチューバーの動画をきっかけに、廃墟ホテルの現状と課題を取材した。(志賀) 横行する!?ユーチューバーの〝無断侵入〟 https://www.youtube.com/watch?v=JlLZ_6UfrsQ 【芦ノ牧の迷宮】増築を重ね巨大化した廃ホテルの現状調査」  動画投稿サイト・ユーチューブで「【芦ノ牧の迷宮】増築を重ね巨大化した廃ホテルの現状調査」という動画が公開されている。投稿者は廃墟探索の様子を投稿している蓮水柊斗(はすみ・しゅうと)氏。撮影されているのは芦ノ牧温泉でかつて営業していた芦ノ牧ホテルだ。  動画には事務室に営業当時の書類がそのまま残されている様子や、客室で何者かが生活していた様子が収められていた。  芦ノ牧ホテルは昭和41年に開業。運営会社は㈲芦牧ホテル。リゾートブームが起きるバブル期の前にいち早く新館、別館を増築し、一時期は温泉街で最大のホテルとなった。当時のデータが残っているホームページによると、客室全47室。収容人数一般200人(団体280人)。全室渓谷側で眺望の良さが売りだった。 芦ノ牧ホテル  会津若松市内にスイミングスクールがなかった昭和50年代にいち早く屋内プールを整備したほか、近くに総合体育館も建設し、スポーツ合宿の団体客の受け皿となった。  周りの宿泊施設も設備投資に乗り出し、大型化が進むと、団体客の宴会向けにセクシーなスーパーコンパニオンパックを導入したり、冬場の閑散期に大衆演劇と観劇する老人会の無料送迎(県外にも対応)を始めた。  それらのサービスも、周囲が追随し始めると差別化が図れなくなり、売り上げが落ち込んだ。団体旅行から個人旅行へとトレンドが移ったことも痛手となった。  経営は創業者(室井家)の家族が行っていたが、外部から経営者を招くようになった。2009年には運営会社を株式会社にして、元プロ野球選手・小野剛氏を社長として招いた。売り上げは順調に見えたが、同温泉の事情通によると、室井一族で経営していたころの決算内容などをめぐり、内部でゴタゴタが続いていたという。  それからまもなくして震災・原発事故が発生。賠償金が支払われて立て直しを図ると思われたが、しばらくすると休業に入った。  同温泉の事情に詳しい人物は、「休業と言っても、実質は廃業。旅行代理店や取引業者は『いきなり連絡が取れなくなった。未払い金があるがこのまま踏み倒されるだろう』と嘆いていた。大きな被害を被ったところもある」と指摘する。  その後は営業再開することなく、増築により巨大化した廃墟が温泉街に残されることになった。冒頭で触れたユーチューブ動画に「芦ノ牧の迷宮」というタイトルが付いているのはそのためだろう。  こうした経緯もあり、動画は芦ノ牧温泉の関係者の間で話題になり、視聴した人も多かったようだ。ただ、「物件の所有者様や管理者様から敷地内及び建物内の立入許可を頂いたうえで内部の現状調査を行っております」という表記に疑問の声も出ている。というのも、地元関係者は誰も立入許可をしていなかったからだ。  芦ノ牧温泉の温泉街の土地は地元住民の入会地となっており、住民で組織される㈲芦ノ牧温泉開発事業所が一括で管理している。だが、同社の関係者は「こちらに問い合わせなどはありませんでした。うちでは一度、財産管理を依頼されている弁護士に断って、警察立ち会いのもとで入ったぐらいです」と述べる。  芦ノ牧温泉観光協会などにも問い合わせはなかったという。  同ホテルの建物の不動産登記簿を確認したところ、所有権は㈱芦牧ホテルのままだったが、2012年に会津若松市、令和2年に埼玉県に差し押さえられていた。それらはすぐ解除されたものの、同年12月に会津若松市が差し押さえ、その後は解除されていない。おそらく固定資産税が納付されていないと思われる。 運営会社社長は取材に応じず  そこで会津若松市観光課に確認したが、「市の方では差し押さえただけで建物の管理はしていない。ユーチューバーから問い合わせも来ていない」とのことだった。  同ホテル関連の建物・土地には根抵当権者・会津信用金庫による極度額8000万円の根抵当権が設定されていた。そこで同金庫の担当者にも確認したが、市観光課同様、管理には携わっておらず、問い合わせも来ていないということだった。  芦ノ牧ホテルはほぼ廃業状態だが、運営会社の㈱芦牧ホテルは現在も存続している。社長を務める小野氏は埼玉県狭山市で㈱GSLという会社を経営している。2008年設立。資本金3000万円。主な事業は飲食(焼肉店「ベイサイドTOKYO牧場」の展開)、野球教室(プリマヴェーラ・リオーネ)の運営など。民間信用調査機関によると、2022年9月期の売上高は1億8000万円(ただし、3期連続で同じ数字)。  SNSは数日に一度更新している。10月4日にはX(旧ツイッター)で《ドラフト同期の阿部慎之助が読売巨人軍の監督となった。凄い事である》とつぶやき、過去の写真を掲載していた。週刊文春2022年5月19日号に掲載された横浜高校野球部でのパワハラ指導に関する記事では、被害者の父親として小野氏が取材に応じている。  にもかかわらず、芦ノ牧ホテルに関しては建物を廃墟のまま放置し、地権者である㈲芦ノ牧温泉開発事業所に地代を支払っていないというから驚く。  ユーチューバー・蓮水氏に立入許可を出したのか、税金・地代の支払いを滞納していることについてどう考えるのか、そして今後、「芦ノ牧の迷宮」と化した廃墟をどうするつもりなのか。小野氏の連絡先を入手し、繰り返し電話をかけたが、つながらなかった。そこで、狭山市の㈱GSLを直接訪ねたところ、同社営業企画・野球塾講師の米田和弘氏が応対した。  米田氏が差し出した名刺には「芦ノ牧ホテル」の文字があった。そこで同ホテルについて話を聞きたいと伝えると、「小野は東京・練馬の事務所にいたり、出張していることが多い。芦ノ牧ホテルは老朽化や地震の影響も含めて基本的に廃業している状態ですね。小野に伝えておきます」とあっさり答えたが、10日以上経っても電話はなかった。  あらためてメールで小野氏に取材を申し込んだが返事がなかったので、米田氏に連絡を取ったところ、「小野には伝えましたが、都合が合わないとのことでした。申し訳なかったです」と話した。都合が悪い取材には応じないのだろう。  一方で、ユーチューバーへの立入許可に関しては「担当弁護士の対応は小野が担当しているので私の方では分かりかねますが、私が把握している限り、ユーチューバーの立ち入りについて会社として許可を出したことはありません」と話した。  冒頭のユーチューバー・蓮水氏はいったい誰に許可を取ったのか。X(旧ツイッター)を通して質問を投げかけたところ、以下のような返信があった。  《動画の制作、編集は全て私が行っておりますが企画や、所有者様、管理者様の調査や立入許可については私1人ではなく、当YouTubeチャンネルの調査部がメインで行っております。倒産物件なども多く、所有権移転などされていない物件が大半です。そのなかでの所有者様や管理者様を探すのは並大抵ではありません。芦ノ牧は、4物件のホテル旅館を撮影していますが、全て所有者様や管理者様と直接お会いしています。まだ未配信の物件も多数ありますが全て立入許可済みでの撮影を行っております》  結局誰から許可を得たのかよく分からず、何か隠していることがあるのではないかと疑わざるを得ない回答だった。そもそも「調査部」としているが、企業などで大規模にやっているアカウントには見えない。小野氏、弁護士と連絡が取れなかったので断言はできないが、廃墟ホテルの権利関係が複雑になっていることを逆手に取り、あえてテーマに選んでいるようにも見える。  そういう意味では〝限りなく黒に近いグレーな動画〟と思って見た方が良さそうだ。ほかの廃墟系ユーチューバーも推して知るべし。 廃墟ホテルが放置される理由  芦ノ牧ホテルの建物の窓ガラスには「不法侵入者を発見時、警察に通報いたします」と張り紙されており、鍵がかかっている。だが同温泉関係者によると、侵入経路があるようで、肝試しや動画配信目的で勝手に侵入する人が後を絶たない。  芦ノ牧温泉には芦ノ牧ホテル以外にも新湯、元湯、美好館、ホテルいづみやなどの廃墟ホテルがあるが、こちらに関しても中に入った形跡があったり、電気が通っていないのに夜に明かりがついていたりするという。  本誌昨年6月号「猪苗代〝廃墟ホテル〟で配信者が花火」という記事では、廃墟探索がユーチューバーにとって手軽に視聴回数を稼げる人気コンテンツとなっており、中には火災リスクお構いなしで、花火で遊ぶ動画もあったことを報じた。  「芦ノ牧温泉に限らず、廃墟ホテル内を通っている配線を盗んで売りさばく業者もいるようです。実際、各温泉の観光協会などに問い合わせがあるようで、廃墟ホテルの前で怪しい車を見かけることもあります」(同温泉の事情に詳しい人物)  廃墟化した旅館・ホテルが温泉街に残り続けることで、イメージ悪化につながるばかりか、実際に良からぬ輩が出入りしている、と。  だからこそ、廃墟ホテルは解消した方がいいが、ひとたび廃業し廃墟化してしまうと、解体するのは難しい。所有者と連絡が取れなくなっている可能性が高いためだ。  解体には億単位の金がかかり、所有者が必要額を捻出できないという事情もある。最近は解体費用が高騰しており、建物にアスベストなどが使われている場合は調査などの対策が求められるので、さらにハードルが上がっている。  仮に高額な解体費用を負担して更地にしたところで100万円単位の価値しかないし、芦ノ牧温泉の場合、原状復旧して地権者(芦ノ牧温泉開発事業所)に返さなければならない。逆に建物を残したままにしておくと、固定資産税はかかるものの、建物の固定資産税価格は耐用年数が満了となってからは新築時よりかなり低くなるので、所有者は「大した税額ではないし、解体するより安上がりで済む」と放置するようになる。  芦ノ牧ホテルのように固定資産税を滞納すれば、財産である不動産を当該自治体(芦ノ牧温泉の場合は会津若松市)に差し押さえられ、競売にかけられる。ただ、それに当たって行われる不動産鑑定には100万円単位の金額がかかるという。競売で売れる見込みがある物件ならともかく、誰も買う見込みのない廃墟ホテルにそれだけの経費をかけると自治体の損失につながりかねないため、担当者も対応に及び腰となる。  こうして廃墟ホテルが放置されていくわけ。  芦ノ牧温泉のある宿泊施設関係者は「今後も廃墟化が進む可能性が高い」と語る。 「丸峰観光ホテルの経営者が創業者一族からみちのりホテルズに代わりましたが(本誌9月号参照)、他の宿泊施設も経営者が大手・県外資本に代わったところが多い。安く買い叩けば、設備投資分の回収を考えなくて済むので、宿泊料金を安く抑えられ、より集客を図りやすいという狙いがあります。今後はインバウンド・富裕層狙いの高級路線と、大手資本による低価格路線の二極化が進むと予想されます。その流れに取り残された中途半端な宿泊施設は力尽き、廃墟化がさらに進むかもしれません」 東山温泉にも4つの廃墟ホテル ホテルキャニオン跡  芦ノ牧温泉と並び同市を代表する温泉街・東山温泉でも、新栄館、ホテルキャニオン、アネックスシンフォニー、玉屋と4つの廃墟ホテルがある。新栄館は芦ノ牧ホテル同様、休業中だが、残り3つは運営会社が倒産した。  市によると解体費用の概算は合計約10億円(新栄館約1億4500万円、ホテルキャニオン約3億5000万円、アネックスシンフォニー約2億9700万円、玉屋約2億1000万円)。ただ前述した通り、解体費用が高騰しているのでさらに金額が上がっている可能性が高い。  会津若松市は昨年、東山温泉、芦ノ牧温泉が今後10年間で目指すべき方向性などを取りまとめた会津若松市温泉地域景観創造ビジョンとそれに伴うアクションプランを策定した。その中で、東山温泉の4つの廃墟ホテルについて、令和14年度までに解体する方針が示された。撤去費用については《地域の事業者も負担をしながら国等の補助金を活用する》と示された。  ここで言う補助金とは観光地の施設改修や廃屋の撤去などを支援する「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値事業(旧・既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業)」のことだ。  事業によって補助率、補助上限額が定められており、廃屋撤去は補助率2分の1、補助上限額1億円となっている。  解体後の土地利用に関しては当初より緩和されており、公園緑地や足湯、オープンスペース、景観に配慮した駐車場などを整備する目的で解体する場合も補助対象になる。  休業中の新栄館の目の前には「くつろぎ宿 新滝」が立地する。同旅館を運営する㈱くつろぎ宿の深田智之社長は「自己負担分は当社が負担してもいいので、行政が音頭を取ってもっと早く解体に着手することを期待しています」と語る。  震災後の2013年に廃業した旅館・高橋館の建物が倒壊したまま放置される問題が起きたとき、新滝では約2000万円を負担し解体、顧客用の駐車場として整備し直した。この件も加えてこれまで5件の建物を自己負担で解体し、合計1億円超を投じてきたという。  「原瀧さんも数千万円かけて廃屋の解体に協力し、跡地を食事会場や駐車場として活用している。このほか安全対策や景観対策など民間レベルで話し合って取り組んでいます。ただ、それ以上に廃墟の負のイメージは大きい。行政は『所有者がいるから手を出せない』などの理由で動きが鈍いですが、お金ならわれわれ民間が負担しても構わないので、もっと積極的に動いてほしい」(深田氏)  深田氏によると、東山温泉には年間約50万人が宿泊する。平均単価1万5000円と考えると、50~100億円の売り上げが生まれる。たとえ解体費用に数億円かかるとしても、民間・行政が連携し、数年かけて取り組めば、廃墟ホテルをすべて解体して温泉街の景観を整備することも実現不可能ではない、と。  これに対し、会津若松市観光課の担当者はこのように話す。  「地元で解体費用を持つからすぐ解体しましょうと言われても、実際に解体を進めるとなれば、清算人を立て、裁判所での手続きを進めなければならない。差し押さえたと言っても所有権が移ったわけではないので、簡単に進まないのが実際のところです」  東山温泉の関係者からは「コロナ禍でダメージを受け、業績が低迷しているところも多い中、協力して解体費用を出そうと言っても意見をまとめるのは難しいだろう」、「過去に行政主導で同ビジョンのようなものが何度も作られたが、結局うまくいかなかった。今回もうやむやのうちに終わりそうだ」と冷ややかな意見も目立った。 鍵を握る官民の連携 会津若松市役所  こうして見ると、廃墟ホテル問題の解決は簡単ではなさそうだが、芦ノ牧温泉では3年前、宿泊施設が協力してお金を出し合うことを決め、前述の補助事業に申請し採択された経緯もある。  ホテルいづみや跡を解体し、約2700平方㍍の敷地を使ってグランピング施設、貸し切りの温泉浴場を備えた複合レジャー施設を整備するというもの。解体費用は約1億円。裁判所などの手続きを進め、芦ノ牧グランドホテルを運営するベンチャラー(新潟市)を中心に約5000万円を自己負担する方針がまとまった。  ところが、長引くコロナ禍で売り上げが激減したため、計画はストップ。資金繰りを優先し、申請を取り下げたのである。ただ、裁判所などの手続きは済んでおり、各ホテル・旅館の業績が回復次第、再挑戦できるという意味では明るい兆しと言えよう。  芦ノ牧温泉の関係者は「丸峰観光ホテルは経営者が変わって、地域と協力して盛り上げようというムードが出てきた。これからの展開に期待したい」と語る。  会津若松市観光課によると、昨年の宿泊者数は東山温泉約41万5000人、芦ノ牧温泉約12万2000人。コロナ禍前の2019年の宿泊者数は東山47万3000人、芦ノ牧21万4000人。20年前の2002年は東山50万2000人、芦ノ牧34万6000人。じりじりと減っていたところをコロナ禍が直撃した格好だ。  各ホテル・旅館は燃料費高騰などを反映して料金を上げているので、見かけ上の売り上げはそれほど落ち込んでいないとのことだが、「3年にわたり売り上げが低迷したダメージがどのように出るか分からない」(ある宿泊施設経営者)。こうしたときだからこそ、将来を見据えて温泉街の景観改善に取り組むことが重要になるのではないか。  島根県津和野町では廃墟ホテル問題を解決するため、所有者と相談し、土地と建物を合わせてタダ同然の1000円で取得。約1億5000万円かけて建物の撤去と公園の整備を進めた。関係者の熱意とアイデア次第でやりようはあるということだ。  8月に4選を果たした室井照平市長を中心に、市と温泉街がいかに一致団結して、問題解決に挑めるかが鍵を握る。

  • 「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

    「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

     かつて雨後の筍のごとく各地につくられた場外ギャンブル施設が今、青息吐息にある。インターネット投票への移行が年々進んでいたところに新型コロナが追い打ちをかけ、場外施設に足を運ぶ人が急速に減っている。客離れが進めば売上が減るのは言うまでもないが、公営競技自体はネット投票に支えられ好調。場外施設は時代の大きな変化により、役割を失いつつある。(佐藤仁) 県民の〝賭け金〟は少なくとも年100億円超  県内には福島市に福島競馬場、西郷村に場外馬券売場のウインズ新白河、いわき市にいわき平競輪場、郡山市に同競輪郡山場外車券売場がある。このほか場外車券売場として福島市にサテライト福島、二本松市にサテライトあだたら、喜多方市にサテライト会津、南相馬市にクラップかしま、場外馬券売場として磐梯町にオープス磐梯、場外舟券売場として玉川村にボートピア玉川がある。サテライト福島では車券だけでなく舟券と馬券も発売している。  かつては飯舘村にニュートラックいいたてという場外馬券売場もあったが、震災・原発事故で閉鎖。また実現はしなかったが、猪苗代町、会津美里町では舟券、白河市では舟券とオートレースの場外施設計画が浮上したこともあった。今から20年以上前の出来事だ。  そうした乱立模様を本誌は「ギャンブル王国ふくしま」と表して報じてきたが、それら場外施設は今どうなっているのか。まずは県内に本場があるウインズ新白河といわき平競輪郡山場外から見ていきたい。  ウインズ新白河は平成10年10月に東北地方初のJRA場外施設として西郷村にオープンした。  JRAは本場の年間売上と入場者数は公表しているが、ウインズの数値は公表していない。念のためJRA広報にも問い合わせたが「答えられない」とのことだった。  では、福島競馬場の売上と入場者数はどうなっているのか。表①を見ると、売上は横ばいから令和に入って増加。令和3年が落ち込んだのは2月に起きた福島県沖地震で施設が損傷し、開催が3回から2回に減ったことが原因だが、もし3回開催されていたら単純計算で1400億円を超えていたとみられる。一方、入場者数は23万人前後で推移していたのが令和2年以降激減。新型コロナで無観客や入場制限せざるを得なかったことが響いた。 表① 福島競馬場の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4売  上(円)1186億1216億1138億1203億1228億1210億1289億1331億960億1453億入場者数(人)24.2万26.6万23.3万23.6万23.0万24.1万23.6万0.6万3.3万12.0万※開催数は通常年3回だが、平成26年は4回、令和3年は2回だった     これを見て気付くのは、新型コロナで入場者数が減ったのに売上は伸びていることだ。背景にはインターネット投票の急速な拡大がある。  図①はJRAの売得金の推移だ。平成9年はJRAにとってピークの売上4兆円を記録したが、この時、売上に最も寄与したのはウインズ等の2兆0827億円で、電話・インターネット投票は9273億円だった。その後、ネット投票の割合が増え、新型コロナが発生した令和2年に急増すると、4年は売上3兆2700億円の8割超に当たる2兆8000億円を占めるまでになった。対するウインズは3054億円と1割にも満たない。 図①  JRAの売得金の推移  https://www.jra.go.jp/company/about/financial/pdf/houkoku04.pdf23ページ目  場外施設はネット投票とは無関係で、足を運んだ客が馬券を買わなければ売上に結び付かない。そう考えると、ウインズ新白河が好調とは考えにくく、売上、入場者数とも減少傾向にあると見ていい。  場外施設の売上を探るヒントに設置自治体に納める協力費がある。公営競技の施行者(自治体等)は、施設の売上に応じて施設が置かれている自治体に環境整備費などの名目で協力費を支払っている。金額は設置時に「年間売上の何%」と決められ、相場は0・5~1%。つまり協力費が1%なら、100倍すれば施設の売上が弾き出せる。売上は「地元住民から吸い上げた金」とも言い変えられる。  協力費についてはもう少し説明が必要だ。例えば〇〇場外施設でA競馬、B競馬、C競馬の馬券を発売しているとする。施設における各競馬の年間売上はA競馬1000万円、B競馬1200万円、C競馬1500万円、施設がある自治体への協力費が1%とするとA競馬10万円、B競馬12万円、C競馬15万円。これを各競馬の施行者が自治体に納め、その合計(37万円)が施設から支払われた協力費と解釈されるわけ。  ただしJRAには何%といった相場がなく、要綱にある計算手法に基づいて算出される。なお要綱は非公表のため、計算手法は不明。  福島競馬場は福島市に「競馬場周辺環境整備寄付金」という名称で毎年2億数千万円納めている。同寄付金は一般財源に入り、競馬場周辺などの環境整備費に充てられている。ウインズ新白河も西郷村に「JRA環境整備寄付金」という名称で毎年2300万円前後納めている。 本場の売上は全体の1% いわき平競輪郡山場外(郡山市)  いわき平競輪郡山場外の歴史は古い。設置されたのは平競輪場の開設から9カ月後の昭和26年11月。現在のJR郡山駅東口に新築移転したのは昭和58年。その後、マルチビジョンや特別観覧席が設置され、平成18年にリニューアルして今に至る。  いわき市公営競技事務所によると郡山場外の年間売上と入場者数は表②の通り。どちらも平成25年度をピークに減っているが、入場者数は令和3年度以降、新型コロナの影響から若干持ち直している。  これを本場のいわき平競輪場と対比すると、福島競馬場とウインズ新白河の関係とよく似ていることが分かる。同じく表②を見ると、売上が減少している郡山場外とは逆に、本場の売上は平成28年度を底に回復しているのだ。令和4年度は平成28年度の倍の売上を記録した。 表② いわき平競輪場と郡山場外の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4いわき売  上(円)191億152億158億147億207億203億152億218億244億289億入場者数(人)9.7万7.9万9.0万8.1万10.6万7.8万11.5万8.1万7.6万11.9万郡 山売  上(円)4.2億3.1億3.1億2.4億2.4億2.4億1.8億1.5億1.6億1.4億入場者数(人)3.9万3.2万3.4万2.9万2.9万2.8万1.9万1.7万1.8万1.9万※郡山場外の入場者数は本場開催時のもの  本場の売上が増えた要因はJRAと同じくネット投票の急拡大にある。図②は競輪施行者全体の売上額を示したものだが、2兆円近い売上があった平成3年度はネット投票の割合は1割にも満たず本場が8割を占めた。それが令和4年度には真逆になり、売上1兆0908億円のうち8割がネット投票で8551億円、本場はたった1%の148億円にとどまっている。 図2 競輪施行者全体の売上額の推移 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/sharyo_kyogi/pdf/018_01_00.pdf 2ページ目  ならば、ネット投票の恩恵にあずかれない郡山場外は今後どうなるのか。いわき平競輪場は売上から毎年4億円前後をいわき市に納めているのに対し、郡山場外(施行者のいわき市)が郡山市に納めている「郡山場外車券売場周辺環境整備負担金」は平成29年度2260万円から毎年度減り続け、令和4年度1030万円に落ち込んでいる。  郡山市財政課によると、同負担金は平成28年度まで定率制で2000万円納められていたが、いわき市と協議し29年度から「郡山場外における前々年度の売上の0・7%」に変更された。理由は売上が減る中で定率制の維持が困難になったため。ただ「最も多い時で7000万円とか4000万円の時代もあった」(郡山市財政課)というから、郡山場外のかつての好調と現在の凋落が見て取れる。  他の場外車券売場の現状も見ていこう。サテライト福島は平成18年4月にオープンした。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売。1日最大3場の車券が買える。開催スケジュールを見ると休館日はなく、毎日どこかの車券が発売されている。  施設の設置者は㈱サテライト福島(福島市瀬上町)。  10月某日の午後、施設をのぞいてみると、220ある観覧席に対し客は30人くらいしかいない。高齢者ばかりで、若者は皆無。 訪れる客は高齢者ばかり サテライト福島  サテライト福島が扱っているのは車券だけではない。同施設は3階建てで、1階で車券、2階で舟券、3階で馬券が発売されている。  2階は平成23年に舟券売場に改装してオープンした。ボートレース桐生をメーンに各地の舟券を発売。1日最大8場もの舟券が買える。開催スケジュールを見ると、こちらも休館日はゼロ。  観覧席は100席あるが、客は30人くらいで高齢者ばかりだった。  3階は平成26年に馬券売場に改装してオープンした。南関東公営競馬(大井、船橋、浦和、川崎競馬)、盛岡競馬の全競走と各地の一部馬券を発売。JRAのレースがある土日は休館している。  施設の設置者は㈱ニュートラックかみのやま(山形県上山市)。  観覧席は190席あるが客は40人くらいでこちらも高齢者が中心。  サテライト福島の売上(推計)は表③の通り。今回の取材で車券を発売する施設は売上の0・5%、馬券を発売する施設は同1%、舟券を発売する施設は同0・5~1%を協力費として地元自治体に納めていることが分かった。各施設は売上や入場者数を明かしていないが、各自治体は毎年度、施設(競技の施行者)から協力費がいくら納められているか公表している。  例えば、サテライト福島からは令和4年度、車券分として310万円(納入者はいわき平競輪の施行者のいわき市など)、舟券分として440万円(納入者はボートレース桐生の施行者の群馬県みどり市など)、馬券分として500万円(納入者は特別区競馬組合など)、計1250万円が福島市に「寄付金」という名目で納められた。これをもとに推計すると、同施設の同年度の売上は19億8000万円となる。福島市民を中心に、これほどの巨費がギャンブルに吸い上げられているのかと思うと暗澹たる気持ちになる。10年間の売上合計は275億5000万円。  平成18年6月にオープンしたサテライトあだたらは、いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。日中からナイターまで連日休みなく開館しているのはサテライト福島と同じだ。  施設の設置者は㈲本陣(茨城県八千代町)。  サテライトあだたら(施行者のいわき市など)から二本松市に納められている「環境整備費」は平成25年度1100万円、令和4年度530万円。協力費は売上の0・5%。これをもとに推計した売上は表③の通り。平成25年度は22億円、令和4年度は10億6000万円、10年間の合計161億円。10年経って売上が半減しており、経営はかなり厳しいのではないか。 表③ 県内場外施設の売上の推移(推計) (円) H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4サテライト福島27.0億35.1億36.4億33.4億29.8億25.9億22.5億19.2億23.4億19.8億サテライトあだたら22.0億22.0億21.6億19.6億17.0億13.4億12.6億10.8億11.4億10.6億サテライト会津14.4億13.6億13.4億11.8億11.2億10.6億9.8億8.2億9.2億8.6億クラップかしま19.6億23.4億22.6億22.8億19.0億17.6億15.4億12.4億9.0億7.8億オープス磐梯7.9億6.9億6.9億5.8億5.2億5.9億4.4億2.8億3.4億3.6億ボートピア玉川29.9億29.7億29.7億31.4億29.1億28.9億28.2億28.0億29.5億25.4億※車券を発売しているサテライト福島、あだたら、会津、クラップかしま、馬券を発売しているオープス磐梯は「売上の0.5%」を施設が置かれている自治体に協力費として納めている。※舟券を発売しているボートピア玉川は「売上の1%」を施設が置かれている玉川村に納めている。※サテライト福島では車券のほか馬券と舟券も発売。馬券分として「売上の1%」、舟券分として「同0.5%」を福島市に納めている。  サテライト会津のオープンは平成6年10月。新潟県弥彦村の弥彦競輪をメーンに各地の車券を発売している。通常は1日2場、月に数日あるナイター開催時は3場の車券が買える。休館は月に1、2日。 サテライト会津(喜多方市)  施設の設置者は㈱メイスイ(いわき市)だったが、現在の管理者は㈱サテライト会津(喜多方市)。  10月某日、施設を訪れると、1階の460ある観覧席に対し客は60人超、2階の特別観覧席はゼロ。椅子とテーブルには書きかけのマークカードや新聞が散乱していた。 サテライト会津はその立地から山形方面の来客も見込まれていたが、駐車場に止まっていた車六十数台を確認すると、ほとんどが会津ナンバー(そのうち3分の1が軽トラ)。山形ナンバーは2台しかなかった。  サテライト会津(施行者の弥彦村など)から喜多方市に納められている「周辺環境整備及び周辺対策に関する交付金」は平成25年度720万円、令和4年度430万円。協力費が減っているということは売上も減っているわけで(表③参照)、入場者数も「令和3年度は6万7000人、4年度は6万1000人と聞いている」(喜多方市財政課)というから、年300日稼働として1日二百数十人にとどまっている模様。10年間の売上合計110億8000万円。  最後はクラップかしま(旧サテライトかしま)。オープンは平成10年10月。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。休館日はなく1日最大6場の車券が買える。  施設の設置者はエヌエヌオー情報企画㈱(いわき市)だったが、平成19年に花月園観光㈱(神奈川県横浜市)に所有権が移った。震災・原発事故後は2年間休止していたが、25年6月に再開。令和3年7月からは㈱チャリ・ロト(東京都品川区)に運営が代わり、施設名も今のクラップかしまに変更された。  クラップかしま(施行者のいわき市など)から南相馬市鹿島区に納められている「周辺環境整備費」は平成26年度1170万円、令和4年度390万円。令和に入ってからは激減している。背景には新型コロナで客足が途絶えたことと、新しい購入システムであるチャリロトの導入でキャッシュレス化が進み、現金志向の高齢者が敬遠したことがある。令和3、4年の福島県沖地震で建物が損傷したことも影響した。 南相馬市鹿島区地域振興課によると協力費は当初売上の1%だったが、平成20年に0・8%、21年に0・7%、22年に0・5%に引き下げられた。これをもとに売上を推計すると、平成25年度19億6000万円、令和4年度7億8000万円。10年間の合計169億6000万円。一方、1日の入場者数は当初700人。その後、次第に減っていき現在180人前後。 売上絶好調の公営競技 オープス磐梯(磐梯町)  残る二つの場外施設は関係する競技の現状も交えて紹介したい。  オープス磐梯は新潟県競馬組合の場外馬券売場として平成12年12月にオープンしたが、14年に新潟県競馬が廃止され、その後は南関東公営競馬の馬券を発売している。  施設を所有するのはマルト不動産㈱(会津若松市)、同社から管理を任されているのは㈱オープス磐梯(磐梯町)、運営は特別区競馬組合(大井競馬を主催する特別地方公共団体)が100%出資する㈱ティーシーケイサービス(東京都品川区)。  オープス磐梯(施行者の特別区競馬組合など)から磐梯町に納められている「販売交付金」は平成25年度780万円、令和4年度360万円。協力費は売上の1%なので、これをもとに売上を推計すると平成25年度7億8000万円から令和4年度3億6000万円に半減している(表③参照)。10年間の合計52億8000万円。  このように場外施設は非常に苦戦しているが、実は地方競馬は今、過去最高の経営状況にある。令和4年度は地方競馬にとって初の売上1兆円超えを記録した。  興味深いのは、平成3年度に1500万人だった入場者数が年を追うごとに減り、新型コロナが拡大した令和2年度には74万人まで落ち込んだにもかかわらず、売上は平成23年度以降伸びていることだ。原因は前述しているように、ネット投票の急拡大にある。令和4年度の売上1兆0704億円のうち、ネット投票は9割に当たる9621億円を占めた。これに対し、場外施設は1割にも満たない817億円。オープス磐梯が苦戦するのは当然だ。  ボートピア玉川はボートレース浜名湖の舟券をメーンに発売する場外施設として平成10年10月にオープンした。地元住民によると「舟券を買うだけでなく、施設が綺麗で食堂も安いので、高齢女性の憩いの場になっている」というから他の場外施設とは少し趣きが異なるようだ。  施設の設置者は㈱エム・ビー玉川(群馬県高崎市)だったが、平成16年に浜名湖競艇企業団に売却。エム・ビー玉川は同年9月に解散した。  ボートピア玉川(施行者の浜名湖競艇企業団など)から玉川村に納められている「環境整備協力費」は平成25年度2990万円、令和4年度2540万円。他の場外施設より高額で推移している。協力費は売上の1%なので、これをもとに推計すると売上も毎年30億円前後で安定していることが分かる(表③参照)。10年間の売上合計290億円。  公営競技の売上が近年好調なのは前述したが、ボートレースは特に好調だ。一般社団法人全国モーターボート競走施行者協議会によると、売上は平成22年度に8434億円で底を打った後、翌年度から回復。令和3年度は2兆3900億円、4年度は2兆4100億円を記録した。地方競馬は1兆円超えで過去最高と書いたが、ボートレースはその2倍も売り上げている。  背景には、やはりネット投票の急拡大が影響している。令和4年度は全体の8割に当たる1兆8800億円がネット投票による売上だった。  ボートピア玉川は他の場外施設と違って好調をキープしているが、ネット投票の割合がさらに増えた時、売上にどのような変化が表れるのか注視する必要がある。 地元住民から吸い上げた金  設置当時、地域振興に寄与すると盛んに言われた場外施設だが、例えば雇用の面では設置業者のほとんどが「地元から100以上雇う」などと説明していた。しかし今回の取材で各施設をのぞいてみると、インフォメーション窓口に1、2人、食堂に1、2人、警備員3、4人、清掃員2、3人という具合。発売機や払戻機は自動だから人は不要。いわき平競輪場(郡山場外も含む)は65人を直接雇用し、警備や清掃などを地元業者に委託して計100人の雇用につなげ、福島競馬場もレースがある週末に多くの雇用を生み出しているが、場外施設が期待された雇用に寄与しているようには見えない。  協力費も設置当初は5000万~1億円などと言われていたが、現状は数百万円。これでどんな地域振興ができるというのか。本場近くの学校や場外施設周辺の道路が協力費によって綺麗になった事実はあるが、そもそも地元住民から吸い上げた金が回り回って自治体の財源になっていること自体、地域振興とは言い難い。かえってギャンブル依存症の人を増やした可能性があることを考えると、金額でははかれないマイナスの影響をもたらしたのではないか。内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局が令和元年9月に公表した資料によると「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は平成29年度全国調査で成人の0・8%(70万人)と推計されている。政府はギャンブル等依存症対策基本法を施行するなど対策に乗り出しているが、本場や場外施設にギャンブル依存症の相談ポスターが貼られているのは違和感を覚える。  場外施設の売上は「地元住民から吸い上げた金」と前述したが、ここまで取り上げた施設(ネット投票が含まれる福島競馬場、いわき平競輪場、売上不明のウインズ新白河は除く)の過去10年の売上合計は1080億6000万円。地域振興という名のもとに、少なくとも福島市の今年度一般計当初予算(1147億円)に匹敵する金がギャンブルに消えたことは異様と言うべきだろう。  しょせんギャンブルは、胴元が儲かる仕組みになっている。公営競技のいわゆる寺銭(施行者が賭ける者に配分せず自ら取得する割合=控除率)は25%。払戻率は75%。  窓口や発売機で買うのが当たり前だった時代から、ネット投票の拡大により場外施設の役割は終わりに近付いている。今、施設を訪れている客はネットに疎い高齢者ばかり。10年後、この高齢者たちが来なくなったら施設はガランとしているはずだ。 役割終えた場外施設  実際、全国では場外施設の閉鎖が相次いでいる。北海道白糠町のボートピア釧路は開業から5年後の平成11年6月に18億円の赤字を抱えて閉鎖。千葉県習志野市のボートピア習志野は新型コロナの影響で令和2年7月に閉鎖された。新潟県妙高市のサテライト妙高と宮城県大和町のサテライト大和も来年3月末で閉鎖することが決まった。  ボートピア釧路は見通しの甘さが引き金になったが、あとの3施設は新型コロナとネット投票による低迷が原因。年間売上は10億円未満だったようだ。県内の施設も状況は同じ。  こうした中、宮城県仙台市には新しい時代に入ったことを感じさせる施設がある。JRAが昨年11月にオープンした全国初の馬券を発売しない施設「ヴィエスタ」だ。若いライト層をターゲットにレースのライブ映像や過去の名馬・名レース、競馬関連情報などを大型ワイドスクリーンで放映。収容人数75人で、無料のエリアや有料のラウンジ席がある。馬券は発売していないがスマホは持ち込めるので、映像を見ながらネット投票することは可能。JRAは「競馬の魅力を感じてもらうための施設。ネット投票は想定していない」と言うが、そんなはずはないだろう。  ちなみにパチンコ業界は、ピーク時30兆円と言われた市場規模が2022年は14・6兆円と半減。内訳はパチンコ8・8兆円、パチスロ5・8兆円。ホールの売上が下がり、コロナ禍で閉店・廃業が相次いだだけでなく、有名メーカーの経営も立ち行かなくなっている。  昭和後半から平成にかけて公営競技の売上を支えたのは場外施設だった。本場の入場者が減る中、それをカバーするため施行者は各地に施設をつくった。中には強引なやり方で設置しようとして地元住民とトラブルに発展したケースもあり、大阪、名古屋、高松、新橋、沖縄では工事差し止め訴訟が起こされた。  それから30年余。場外施設は今、往時の勢いを失っている。閉鎖へと向かうのは避けられないだろう。

  • ヨーカドー福島店閉店で加速する中心市街地空洞化

    イトーヨーカドー福島店閉店で加速する中心市街地空洞化

     9月中旬、総合スーパー イトーヨーカドー福島店、イトーヨーカドー郡山店について、閉店が検討されていることが福島民報の報道で明らかになった。  店舗を運営するイトーヨーカ堂の親会社・セブン&アイホールディングス(HD)は来年5月ごろ閉店する方針であることを正式に認めた。郡山店の後継店はグループ企業の食品スーパー・ヨークベニマルを核テナントとする方向で検討しており、福島店の後継店は未定だという(福島民報9月21日付)。  同HDでは3月、地方都市の採算性が低い店を中心に、33店舗を削減する方針を打ち出していた。  特にその影響が懸念されるのは、JR福島駅の西口駅前に立地する福島店の閉店だ。  同店は1985年オープン。敷地面積2万3750平方㍍、地上4階建て。食料品や日用品、衣料品を販売してきた。計680台分の駐車場(平面・立体)を備える。  かつては工場や資材置き場、国鉄の関連施設が並び、〝駅裏〟と呼ばれていた福島駅西口。1982年の東北新幹線大宮―盛岡駅間開業を機に周辺の再開発事業が進む中で、昭栄製紙福島工場跡地にオープンし、人の流れを変えたのが同店だった。  近くの太田町商店街とは当初から〝共存共栄〟の関係。同商店街の振興組合に福島店も加入し、駐車場を2時間無料にして回遊性を高めたり、駐車場で地域の夏祭りを開催するなど、地域貢献に熱心だった。歴代店長は商店街の店主らと積極的に交流していたという。  もっとも、後継者不足により商店街の店舗は年々減少し、振興組合は10年ほど前に解散。現在は個人的な付き合いを除き、福島店と商店街との交流は途絶えているとか。  ある商店街の店主はこう嘆く。  「駅前の一等地なので集客が期待できる商業施設や公共施設を整備してほしい思いはあるが、駅東口周辺でも再開発事業が進められており、再開発ビルに市の公共施設(コンベンションホール)も入居する。そちらの調整もあるので、市では身動きが取れないでしょう。伊達市で建設が進められているイオンモール北福島(仮称、2024年以降開店予定)がオープンすれば、福島市の商業も間違いなく打撃を受ける。このあたりは寂れる一方で、明るい要素はありませんね」  駅東口周辺の再開発に関しては資材価格高騰のあおりで当初計画より2割以上の増額が見込まれたため、計画の再調整を余儀なくされた。オープンは2027年度にまでずれ込む見通しだ(本誌7月号参照)。  車社会の福島市では、郊外の大型商業施設、大手チェーンの路面店を利用する人が多く、伊達市にイオンモールが開店すれば人気を集めるのは必至。そうした中で中心市街地の空洞化状態が続けば、買い物客流出は加速する一方だろう。  土地・建物を所有しているのは不動産大手・ヒューリック(東京都)。同社ではイトーヨーカドー鶴見店が入居する建物を商業施設「LICOPA(リコパ)鶴見」としてリニューアルした実績があり、過去には福島店も活性化策の対象となっていると報じられたことがある。本誌の取材に対し、同社担当者は「検討しているかどうかも含めてお答えすることができない」と話したが、今後どのような判断を示すのか。  「福島駅前は商業機能が脆弱で、人が集まりたくなる魅力に欠けている。コンベンション機能が中心部に必要だ」と話し、市が250億円以上負担する再開発を推し進めてきた木幡浩市長。逆風の中で中心市街地にどうやってにぎわいを生み出すのか、正念場となりそうだ。

  • 「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

    「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

     本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。  磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。  同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。  「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」  こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。  磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。  以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。  村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。  ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。  こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。 会津バスのリリース 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。  同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。  ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。  ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。  ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。  ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。  ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。  単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。  一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。  磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。  前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。  この関係者はこう続ける。  「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」  こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。  そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。  これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。  猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。  この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。 補助名目に疑義 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。  「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」  同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。  もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。  猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。  ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。  一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。  「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」  北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。  補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。 あわせて読みたい 磐梯東都バス撤退の裏事情

  • 【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明  民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰観光ホテルを運営する㈱丸峰観光ホテル(星保洋社長)と、丸峰黒糖まんじゅうの製造・販売や飲食店経営などを行う関連会社㈱丸峰庵(同)が地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは今年2月28日。負債総額は2022年3月期末時点で、同ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円に上った。  本誌は4月号で民事再生を阻む諸課題を指摘。さらに5月号では元従業員の証言をもとに星氏の杜撰な経営を明らかにしたが、債権者、元従業員、同業者らが揃って疑問を呈していたのは、星氏が「自主再建を目指し、状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する」との再生方針を示したことだった。  債権者らは「自主再建ができるなら多額の負債を抱えることはなかったし、民事再生に頼らなくても済んだはず」と呆れた。大方の意見は、スポンサーを見つけ、星社長は退任し、新しい経営者のもとで再生を目指すべきというものだった。  丸峰観光ホテルは民事再生法の適用申請後も営業を続けていた。芦ノ牧温泉で働く人によると「黒字にはなっていないだろうが、週末を中心に宿泊客はそれなりにいますよ」。  記者も夏休み中の月曜日の朝、チェックアウトの時間に合わせて駐車場をのぞいてみたが、満車とまではいかないまでも首都圏ナンバーの車が多く止まっていた。  「ただ、従業員が次々と辞めていて、どこも人手不足ということもあり、他の温泉街の旅館が『ウチに来てくれそうな人はいないか』と熱心にリクルートしていました」(同)  再生の行方が見えてこない中、市内では「大手リゾートホテルが関心を示しているようだ」とのウワサも聞かれたが、7月25日、会津乗合自動車(通称・会津バス)が会見を開き、スポンサーとして支援することを正式に表明した。  会津乗合自動車㈱(会津若松市、佐藤俊材社長)は会津地方一円で路線・高速・貸切バスやタクシーを運行している。直近5年間の決算は別表①の通りで、コロナ禍により赤字が続いていたが、昨期は黒字に回復した。 表① 会津乗合自動車の業績 売上高当期純利益2018年23億9900万円1300万円2019年23億8200万円▲1400万円2020年16億6700万円▲2億7300万円2021年14億4700万円▲5000万円2022年17億5000万円4500万円※決算期は9月。▲は赤字。  会津乗合自動車は東日本最大級の公共交通事業を展開する「みちのりグループ」の傘下にある。㈱みちのりホールディングス(東京都千代田区、松本順社長)を頂点に、会津乗合自動車のほか岩手県北バス、福島交通、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船、みちのりトラベルジャパンで構成され、それぞれの会社もバス以外に旅行、整備、保険などのグループを形成。みちのりホールディングスは親会社として各社に100%出資(佐渡汽船のみ86%出資)している。同グループ全体の従業員数は5300人余、バスは2400台余に上る。  会津乗合自動車のプレスリリースによると、同社とみちのりホールディングスが丸峰観光ホテルのスポンサーに指名され、7月14日に基本合意書が締結された。正式なスポンサー契約は8月末に交わされる予定。  会津乗合自動車は民事再生計画の成立を前提に、星保洋氏が保有する全株式を無償で取得・消却したうえで第三者割当の方法により募集株式の全てを同社に割り当て、同社が全額払い込む100%減増資スキームで出資を行う。丸峰観光ホテルの新社長には佐藤氏が就き、同ホテルはみちのりグループの傘下に入る。  「バス会社がホテルを経営?」と思われる人もいるかもしれないが、会津乗合自動車が明かしている支援方針は興味深い。  会津乗合自動車は観光を基幹産業とする会津地方でバスとタクシーを走らせるだけでなく、旅行事業、人材派遣事業、売店事業を展開している。丸峰観光ホテルがある芦ノ牧地区にも路線バスを走らせている。これらの経営資源を生かし、ホテルと地元観光地との周遊ルートや旅行商品をつくり、交通と宿泊との連携や着地型商品の開発につなげ、バスとホテルがウィンウィンの関係になる仕組みを生み出そうとしている。  前出・芦ノ牧温泉で働く人も、こんな期待を寄せる。  「芦ノ牧は市の中心部から遠く離れ、公共交通は会津鉄道があるが、最寄りの芦ノ牧温泉駅から温泉街までは4㌔もある。高齢者やインバウンドの旅行客が増えているのに、訪れる手段がマイカーかレンタカーしかないのは厳しいが、会津バスが芦ノ牧の弱点である脆弱な交通をカバーしてくれれば、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館にとっても有り難いはず」  期待の背景にあるのは、それだけではない。  「会津バスが芦ノ牧全体を気にかけてくれていることが有り難い。実際、佐藤社長と話をしたら『全体が良くならないと自分の所も良くならない』と言っていましたからね。もし『自分のバスとホテルさえ良ければいい』という考え方なら、温泉街は会津バスがスポンサーになったことを歓迎しなかったと思います。大手の〇〇や××(※実名を挙げていたが伏せる)だったら地元と交わろうとせず、周囲と釣り合いの取れない料金設定にして客を囲い込む『自分さえ良ければいい経営』をしていたのではないか」(同)  とはいえ、観光地とホテルをバスでつなぐのはいいとして、会津乗合自動車はホテル経営のノウハウを持ち合わせていない。そこで登場するのが、前述・みちのりグループの傘下にある岩手県北バスの関連会社㈱みちのりホテルズ(岩手県盛岡市、松本順社長)だ。  同社は岩手県内で「つなぎ温泉・四季亭」(22室)と「浄土ヶ浜パークホテル」(75室)を経営し、新潟県佐渡市にある同グループの「SADO二ツ亀ビューホテル」(20室)も受託運営している。別表②の決算を見ると、コロナ禍でも一定の売り上げと利益を計上しているが、岩手県北バスが観光地とホテルをバスでつないでいることが安定した宿泊客確保につながっているという。 表② みちのりホテルズの業績 売上高当期純利益2018年2億1800万円130万円2019年2億3400万円1200万円2020年2億3700万円1700万円2021年2億3000万円1500万円2022年2億3000万円――※決算期は3月。―は不明。  このノウハウが丸峰観光ホテルにも導入される。株式は会津乗合自動車が100%所有するが、運営はみちのりホテルズに委託され、支配人も同社から派遣される。 「地元の企業が守るべき」 スポンサーに名乗りを上げた会津乗合自動車  おおよその支援方針は理解できたが、筆者はさらに詳細に迫ろうと会津乗合自動車に取材を申し込んだ。すると、丸峰観光ホテルと正式なスポンサー契約を交わす直前に佐藤俊材社長が取材に応じてくれた。  最初に、支援を決めた理由を佐藤社長はこう説明した。  「弊社はバス会社ですが、目的もなくバスに乗る人はいません。人は目的地がないとバスに乗らないし、目的地が活性化しないとバス会社も活性化しません。そうした中で観光会津を代表する温泉街の旅館がなくなれば、弊社にとってもダメージになります。丸峰さんには再建を果たしてほしいと思っていましたが、同時に、他社に任せていては難しいのではないかと考えるようになり、直接支援することを決めました」(以下、断りがない限りコメントは佐藤社長)  丸峰観光ホテルのメーンバンクで最大債権者の会津商工信用組合からも、仮に全国チェーンのホテルがスポンサーになった場合、コストが重視され、地元企業との取引が打ち切られたり、同ホテルから「会津らしさ」が薄まってしまう懸念が示されたという。  「ならば、地元の企業が地元の人たちと協力し、地元のホテルを守っていくべきだと思ったことも支援を決めた理由の一つです」  会津乗合自動車ではデューデリジェンス(投資対象となる企業の価値やリスクを調査すること)を行った後、7月に行われたスポンサー選定入札に臨み、スポンサー候補に指名されたという。ちなみに、選定入札には他社も参加したようだが「どこだったのか、何社いたのかは分かりません」とのこと。  佐藤社長の根底にあるのは「自分の所さえ良ければいい、というやり方では会社は良くならない」との考え方だ。  「芦ノ牧温泉全体を活性化していかないとダメだと思うんです。そのためには大川荘さん、観光協会、旅館協同組合などと連携し、行政にも廃旅館の解体を進めてもらうなど、関係する人たちみんなで知恵を出し合うことが大切になる」  そうやって芦ノ牧温泉を変えていけば、訪れたいと思う人が増え、バスの乗客も増え、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館も宿泊客が増える好循環が生まれる、と。 丸峰庵は支援の対象外 丸峰庵  「幸い、私たちにはノウハウがある」と佐藤社長は自信を見せる。  「丸峰観光ホテルの運営を委託するみちのりホテルズは、岩手県と新潟県佐渡市の旅館運営で優れた実績を上げ、その成果は決算にも表れています。そこに、みちのりグループの強みを加えれば、経営再建は十分可能と見ています」  みちのりグループの強みとは、傘下にある他のバス会社との連携だ。とりわけ関東自動車(栃木県宇都宮市)、茨城交通(茨城県水戸市)とは芦ノ牧温泉が両県と2~3時間の距離しか離れていない「小旅行圏内」に位置するため、魅力的な旅行商品を開発すればグループ力で集客につなげることが見込めるという。  「さらに、みちのりグループにはインバウンドをターゲットにしたみちのりトラベルジャパンという会社もあり、閑散期の冬には雪を目当てにしたタイや台湾からの旅行客を呼び込むことも視野に入っています」  今後のスケジュールは8月末に正式にスポンサー契約を交わした後、債権者集会に臨み、再生計画が承認されれば前述した100%減増資スキームで出資を行う(※今号発売時には余程のトラブルがない限り実行されていると思われる)。  「出資が完了したら、10、11月の観光シーズンに間に合わせるべく、すぐに施設の改修に着手します。従業員は引き続き雇用します。新聞には80人とありましたが、実際はそこまではいません。債権者への対応は承認された再生計画に従って粛々と進めます。債権者との取引も継続していく考えです」  気になるのは、会津乗合自動車が株式を100%所有し、社長が佐藤氏に代わった後、星保洋氏の立場はどうなるのかということだ。  「星氏は丸峰観光ホテルとは無関係になるので、役員からも退いていただきます」 ただし、と佐藤社長は続ける。  「弊社がスポンサーになったのは丸峰観光ホテルだけで、丸峰庵は支援の対象ではありません」  なんと会津乗合自動車は、丸峰庵の民事再生計画には一切関与していないというのだ。佐藤社長によるとスポンサー選定入札では両社セットでの支援を申し入れたが「丸峰庵は弊社が示した条件では考え方が合わないとなったようです」。  丸峰庵は丸峰黒糖まんじゅうを製造・販売しているが、それをホテルで取り扱うかは他の土産品同様、今後の話し合いで決めるという。  丸峰観光ホテルの再生にメドがついたのは喜ばしいことだが、丸峰庵の民事再生手続きがどうなるかは未だに不透明なわけ。今後のポイントは債権者集会における債権者の判断と、星氏の会社への関わり方だが、丸峰庵の登記簿謄本(8月24日現在)を見ると社長は星氏のままだった。 ※民事再生申請代理人のDEPT弁護士法人(大阪市)に丸峰庵の民事再生手続きの現状について問い合わせたが、「担当者が不在」と言われ、締め切りまでに返答を得られなかった。

  • 【ブイチェーン】只見町の食品スーパー店主が引退

    【ブイチェーン】只見町の食品スーパー店主が引退

     只見町で食品スーパー・ブイチェーン只見店を経営していた三瓶政夫さんが、店舗を別の運営会社に売却し、引退することになった。平成23年新潟・福島豪雨で被害を受けてもすぐに店を再開し、地域の生活を支え続けた。50年以上に及ぶ経営の思い出を聞いた。 豪雨災害で水没も地域のため再開 豪雨災害で水没した店舗(三瓶政夫さん提供) 只見町の中心部に「ブイチェーン只見店」というスーパーマーケットがある。川の近くに立地し、2011年に発生した「平成23年新潟・福島豪雨」で大きな被害を受けたが、店主の三瓶政夫さんが復旧させた。その被害状況について、本誌2012年4月号に掲載した。  その三瓶さんが8月末で店を閉めるという。  「もともとは65歳で辞めるつもりだったが、水害に遭ってから必死で店を大きくしてきた。ようやくひと段落したので、ブイチェーン本部に『引退したいので経営をそのまま引き継いでくれる人を紹介してくれないか』とお願いしたのです」  同町朝日地区出身。若松商業高校卒の75歳。50年以上前に実家の商店を継ぎ、友人からの紹介で現在の場所にブイチェーンをオープンした。  地域の人に少しでも新鮮な食材を届けたいと新潟県魚沼市や郡山市の市場まで出かけ、新鮮で珍しい魚や野菜を仕入れた。提案型の売り場は顧客から広く支持され、売り上げを伸ばした。  そうした中で遭遇したのが、「平成23年新潟・福島豪雨」だった。当日、増水を警戒し買い物客に少し早めに帰ってもらっていたが、そこに川から氾濫した水が一気に押し寄せ、閉店作業を進めていた三瓶さんは命からがら店外に脱出した。店は水没し、商品や機械などがすべて使い物にならなくなった。  ただ、三瓶さんは地域の人の生活を守るために復旧を決意。付き合いがあった郡山市の市場関係者などが駆けつけて、片付けを手伝ってくれた。安い中古機械などを買い集めて、何とか営業再開にこぎつけた。その後も「意気消沈する町内の事業者を勇気づけるため先頭に立って復興させなければ」と考え、3期にわたり店舗拡張工事を行った。  三瓶さんが納得いかないのは、こうした民間の動きを支援する姿勢が町などに見えなかったことだ。  豪雨災害後、只見川沿いにダムを設置している東北電力と電源開発は県に10億円ずつ寄付。「只見川流域豪雨災害復興基金」が設けられ、被災町村に分配された。只見町には9億円が入ったが、基金の目的は被災者の住宅の新築・改築・修繕や、自治体の産業復興支援事業などに固定され、被災した事業者や住宅を建て直す予定のない高齢者などは支援を受けられなかった。  町内の水害被害者が国、県、町、電源開発などに損害賠償を求める裁判を提起したが、中心人物の死去などが重なり、和解で終わった。一部事業者らは支援格差を訴え、町に支援金の支払いを要求し、只見区長にも要望書を提出したが、「裁判を起こしてすでに和解している」ことなどを理由に要望には沿えないと拒否された。  「地域のためにやってきたのに、周囲はそう思ってくれなかったのかと落胆しました」(三瓶さん)  店舗の経営を引き継ぐのは他町村でブイチェーンを展開する会社で、社員もそのまま移る。「引退する身なので、顔写真はいいよ。勘弁してくれ」と笑う三瓶さん。雪深く物流が不便な奥地で約50年、地域のことを思い経営してきた熱い気持ちは今後も店に残り続ける。

  • 磐梯東都バス撤退の裏事情

    磐梯東都バス撤退の裏事情

     猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになった。住民の足が失われることに加え、観光への影響も懸念されることから、関係町村は代替策を検討している。同社撤退の影響と背景を探った。(末永) 会津バスが路線継承!? 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、1959年設立、資本金3750万円。東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に営業所を構え、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛けている。福島県内では、1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」(北塩原村の事情通) 以降、磐梯東都バスは約20年間にわたって、猪苗代町、北塩原村で路線バスを運行してきたわけだが、9月末で全4路線を廃止し、バス事業から撤退することになった。 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所に撤退に至った経緯などを尋ねると、本社経由で回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されましたが、撤退決定に至った理由。また、いつ頃から撤退を考えるようになったのでしょうか。 「近年の少子化に伴う利用客の減少と、3年間に及んだ新型コロナウイルスによる観光利用客の激減により、事業継続は困難と判断しました。撤退を考えるようになったのは、新型コロナウイルスが大きく影響した時期と重なります」 ――差し支えなければで結構ですが、売上高のピークと直近の減少幅、さらには採算ラインはどのくらいか、を教えていただけますか。 「令和2(2020)年3月期(コロナ前)に対し、令和5(2023)年3月期(直近)の売り上げは、33%下落の67%となっております」 ――関係自治体とは撤退決定前の段階で、協議してきたと思われますが、いつの段階で、どのような話をしてきたのでしょうか。また、その中で存続の道筋は見い出せなかったのでしょうか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、といった部分はあったのでしょうか。 「関係自治体とは当社の実績も伝え対策を協議してまいりました。やはりコロナ禍の影響が大きく、従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難であると考えます。当社としましては、事業撤退に際し、地域住民にご迷惑をお掛けしないように努め、引き続き後任事業者と自治体との間で調整してまいります」 大きかったコロナの影響 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  猪苗代町によると、全4路線のうち、同町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線は、「委託路線」の扱いだという。つまり、町が磐梯東都バスに委託費を支払い、同路線を運行してもらっていた。今年度の委託費は4280万円。 当然、町としては「住民の足」として必要なものと捉えており、例えば町独自でコミュニティバスを運行するよりは、委託費を支払ってバス会社に運行してもらった方が効率的といった考えからそうしている。今年度の契約期間は昨年10月1日から今年9月30日まで。つまり、磐梯東都バスは今年度の委託期間を終えるのと同時に、撤退するということだ。 一方、猪苗代駅から北塩原村裏磐梯地区を結ぶ路線は、「自主路線」の扱いで委託費は支払われていない。諸橋近代美術館前、五色沼入口、小野川湖入口、磐梯山噴火記念館前、長峯舟付、裏磐梯高原駅、裏磐梯レイクリゾート、裏磐梯高原ホテルなどの観光地を中心に停留所があり、観光客の重要な足となっていた。 裏磐梯地区の観光業関係者は次のように話す。 「ほかの路線は、乗客がいてもポツポツで、誰も乗客がいないというのも珍しくなかったが、猪苗代駅から裏磐梯方面への路線は、結構、観光客が利用していました。ですから、ほかと比べたらそれほど悪くなかったと思いますが、コロナ禍以降は観光客が減りましたからね。われわれとしては、観光地としての〝格〟とでも言うんですかね、それが損なわれるというか。今後、代わりの方策が取られるとは思いますが、『路線バス撤退』ということが表に出ただけで、観光地として貧弱な印象を与えてしまう。それだけでマイナスですよね」 磐梯東都バスの回答では「少子化に伴う利用客減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減で、事業継続は困難と判断した」とのことだったが、要は「委託路線」は少子化に伴う利用客減少で委託費だけではやっていけない、「自主路線」もコロナによる観光客激減で厳しくなった、ということだろう。 本誌は猪苗代駅周辺で各路線の乗客状況を見たが、やはり乗客はほとんどいなかった。 民間信用調査会社調べの磐梯東都バスの業績は別表の通り。2021年3月期(2020年4月から2021年3月)は、最もコロナの影響を受けた時期で、それが如実に数字に表れている。 磐梯東都バスの業績 決算期売上高当期純利益2017年4億9000万円1074万円2018年4億3300万円1460万円2019年4億2500万円1833万円2020年4億1700万円1218万円2021年8200万円△6405万円2022年2億0300万円1323万円※決算期は3月。△はマイナス  一方、本誌の「存続の道筋は見い出せなかったのか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、という部分はあったのか」との質問には、磐梯東都バスは「従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難と考える。事業撤退で地域住民に迷惑を掛けないよう、後任事業者と自治体との間で調整していく」との回答だった。 猪苗代町の前後公前町長(今年6月25日の任期満了で退任)はこう話した。 「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていました。業績などの内情を示され、やむを得ないだろう、と。とはいえ、それで路線バスが完全になくなっては町(町民)としても困るので、以降は関係事業者を交えて代替策を検討してきました」 その後、前後氏は6月25日の任期満了で退任し、この問題は新町長に引き継がれることになった。 前後前町長が言う「代替策」について、町に確認すると「いま交渉中ですので、まだ詳細をお話できる段階にありません」とのこと。 今号で二瓶盛一新町長のインタビュー取材を行ったが、その際、二瓶町長は次のように語っていた。 「JR猪苗代駅を起点として町内や裏磐梯方面を走る磐梯東都バスが9月末で町内から撤退することになり、10月以降の路線バスの運用について現在協議を進めているところで、空白を生まないためにもスピード感と責任感を持ったうえで判断し、利用者の方々にご不便をおかけしないよう対処していきたい」 どうやら、関係者間の協議では、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことで、ある程度まとまっている模様。ただ、交渉ごとのため、「まだ詳しいことは話せない」、「もう少し待ってほしい」というのが現状のようだ。 喜多方―裏磐梯線の廃止騒動 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  以前、磐梯東都バスは前述した4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。 同路線は、主に中高生の通学や高齢者の通院などで利用されていたことから、同村内では「廃止されたら困る」、「12月以降はどうなるのか」といった声が噴出した。そこで、村は代替交通手段の確保に向けた検討を行った。 同社から「喜多方―裏磐梯間のバス廃止」の意思表示があった直後の同村2019年3月議会では、関連の質問が出た。当時の議会でのやりとりで明らかになったのは以下のようなこと。 ○村は喜多方―裏磐梯間のバス運行に対して、年間1600万円の負担金(補助金)を支出している。 ○磐梯東都バスが運行している路線は黒字のところはなく、経営的な問題から喜多方―裏磐梯間廃止の打診があった。そのほか、バス更新、運転手確保などの問題もある。村長が本社に行って協議してきたが、廃止撤回は難しいとのことだった。 ○「廃止」の意思表示を受け、村では運行を引き継ぐ事業者を探すか、村でバスを購入し、運行してもらえる事業者を探す等々の代替策を検討している。 こうして、すったもんだした中、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。 これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。 こうした事例があるため、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえるよう交渉し、その方向でまとまりつつあるようだ。 ところで、この「喜多方―裏磐梯間のバス廃止騒動」があった際、ある村民はこう話していた。 「同路線が赤字で厳しい状況だったのは間違いないのだろうけど、廃止の理由はそれだけではなさそう。というのは、元村議の遠藤和夫氏が自身の考えなどを綴ったビラを村内で配布しており、『路線廃止』報道があった直後、磐梯東都バスの件を書いていました。遠藤氏は同社の役員などに会い、そこで得た情報を掲載していたのですが、それによると、同社は数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後の路線バスのあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止に至ったというのです。言い換えると、村がきちんと対応していれば廃止を決断することもなかったかもしれない、と」 要するに、「廃止騒動」の裏には村の不作為があったというのだ。どうやら、磐梯東都バスは村に補助金申請のための相談をしていたが、村が動いてくれなかったため、業を煮やして「廃止せざるを得ない」と伝えた。それで、村が慌てて同社に「どうにかならないか」と持ちかけ、前述した「公有民営方式」に落ち着いたということのようだ。 ここに出てくる「元村議の遠藤和夫氏」は現村長。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中の2016年8月の村長選に立候補したが、当時現職の小椋敏一氏に敗れた。以降は、前出の村民の証言にあったように、村内で各種情報発信をしており、自身の考えなどを綴ったビラを配布していた。その後、2020年の村長選に立候補し、当選を果たした。 かつて、村長選を見据えて情報発信する中で、磐梯東都バス関連で現職村長の対応を問題視していた遠藤氏。その遠藤氏が村長に就いた後、磐梯東都バスの撤退問題に直面することになったわけ。 遠藤村長に聞く 遠藤和夫北塩原村長  村総務企画課を通して、遠藤村長にコメントを求めると、次のような回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されました。村にはその前の段階で、何らかの話があったと思われますが、事業者からはいつの段階で、どのような話があったのでしょうか。また、それを受けて、村としてはどのように応じたのでしょうか。 「6月5日に、磐梯東都バスが村へ訪問。本年9月30日をもって事業撤退する旨を報告。諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」 ――磐梯東都バスが撤退することで、村、村民の足、あるいは村内に来る観光客など、どのような影響が懸念されますか。 「猪苗代・裏磐梯の路線は村民の通学や通院・買い物に利用されているほか、観光客の移動手段にもなっていることから、磐梯東都バスが撤退後に路線バスの維持がなされない場合、住民や観光客の足が無くなり、住民に不便を来たしてしまうこと、そして観光客の減少につながる懸念が想定される」 ――磐梯東都バスの問題に限らず、いまの社会情勢等を考えると、地方における路線バスの廃止は避けられない面があると思います。一方で、路線バス廃止によって「交通難民」が生まれてしまう懸念もあるわけですが、磐梯東都バス撤退後の代替策についてはどのように考えていますか。 「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」 ――2019年に磐梯東都バスの「喜多方線廃止」問題が浮上した際、遠藤村長は一村民の立場で情報発信する中で、磐梯東都バスの役員と会い、「数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後のバス路線のあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止問題に至った」旨を指摘されていたと記憶しています(※当時、村民の方に現物を見せていただき、本誌記者の取材メモとして記録されている)。その後、村長に就いたわけですが、新たな関係性の構築や、協議の場を設けるなどの動きはあったのでしょうか。 「村長就任後に磐梯東都バスとは会っていたが、喜多方線廃止問題が具体的になる中、残念ながら相互に理解を得ることが難しくなり、喜多方線の撤退、猪苗代線も独自運行となった。解決に向けての打開策について協議を行ったが、磐梯東都バスの判断として、このような事態となった」 最大のポイントである磐梯東都バス撤退後の代替策については、「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」との回答だった。前述したように、同村では喜多方―裏磐梯間の路線バスで「公有民営方式」を採用し、当初の磐梯東都バス撤退後は会津バスに引き継いでもらっている。今回の4路線(※北塩原村が直接的に関係するのは猪苗代―裏磐梯間の路線バス)についても、会津バスに継承してもらって運行維持することを想定しているのだろう。 事業参入時に裏約束⁉  一方で、磐梯東都バスから撤退することを聞かされたのは6月5日で、村役場に同社関係者の訪問があり、「9月30日で事業撤退」の報告を受けたという。そのうえで「諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」とのことだった。 最終的な決定事項(撤退)の伝達としては、その日だったのだろうが、猪苗代町の前後前町長が「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていた」と話していたことからも、当然、その前の事前協議があったと思われる。 前出・村内の事情通によると、「昨年の段階で、磐梯東都バスから村には『このままでは厳しい』といった話があったようだ」という。 「その席で、磐梯東都バスは『このエリアでバス事業を始めるときに、渡部恒三衆院議員、高橋伝村長との約束が』と、過去に決め事があったようなニュアンスのことをチラつかせたそうです。要するに、何らかの裏約束があったかのような口ぶりだった、と。とはいっても、それは20年以上前のことですし、恒三先生は亡くなり、高橋伝さんも村長を退いてだいぶ経つ。磐梯東都バスの親会社の社長も代わりました。そもそも、本当に何らかの約束事(裏約束?)があったのか、あったとしてそれがどんな内容だったのかは、いまの村長をはじめとする関係者は誰も知らない。そのため、村では『そんな昔のことを持ち出されても……。それよりも、今後どうすべきかを一緒に考えていきましょう』といったスタンスで応じたそうです」 こうして協議を行ったが、結果的には存続には至らなかった。 マイカーの普及、人口減少による利用者の減少、少子化に伴う通学需要の縮小などを背景に、地方の路線バスはどこも厳しい状況。磐梯東都バスが事業参入したときには、すでにその流れが顕著になっていたが、コロナという思いがけない事態にも見舞われた。そんな中で、撤退は避けられなかったということだろう。

  • 【幸楽苑】創業者【新井田傳】氏に再建を託す

    【幸楽苑】創業者【新井田傳】氏に再建を託す

     幸楽苑(郡山市)が苦境に立たされている。2023年3月期決算で28億円超の大幅赤字を計上し、新井田昇社長(49)が退任。創業者の新井田傳氏(79)が会長兼社長に復帰し経営再建を目指すことになった。傳氏が社長時代の赤字から、息子の昇氏が後継者となってⅤ字回復させたものの、再び赤字となり父親の傳氏が再登板。同社は立ち直ることができるのか。(佐藤仁) ラーメン一筋からの脱却に挑んだ【新井田昇】前社長 経営から退いた新井田昇氏  6月23日、郡山市内のホテルで開かれた幸楽苑ホールディングスの株主総会に、筆者は株主の一人として出席したが、帰り際のエレベーターで男性株主がボソッと言った独り言は痛烈だった。 「今期もダメなら、この会社は終わりだな……」 今の幸楽苑(※)は株主にそう思わせるくらい危機的状況にある。 株主総会で報告された2023年3月期決算(連結)は、売上高254億6100万円、営業損失16億8700万円の赤字、経常損失15億2800万円の赤字、当期純損失28億5800万円の赤字だった。 前期の黒字から一転、大幅赤字となった。もっとも、さかのぼれば2021年、20年も赤字であり、幸楽苑にとって経営安定化はここ数年の課題に位置付けられていた。 株主総会では新井田昇社長が任期満了で退任し、取締役からも退くことが承認された。業績を踏まえれば続投は望めるはずもなく、引責と捉えるのが自然だ。 これを受け、後任には一線から退いていた相談役の新井田傳氏が会長兼社長として復帰。渡辺秀夫専務取締役からは「原点回帰」をキーワードとする経営再建策が示された。 経営再建策の具体的な中身は後述するが、その前に、赤字から抜け出せなかった新井田昇氏の経営手腕を検証する必要がある。反省を欠いては再建には踏み出せない。 安積高校、慶応大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社した昇氏が父・傳氏が社長を務める幸楽苑に転職したのは2003年。取締役海外事業本部長、常務取締役、代表取締役副社長を経て18年11月、傳氏に代わり社長に就任した時は同年3月期に売上高385億7600万円、営業損失7200万円の赤字、経常損失1億1400万円の赤字、当期純損失32億2500万円の赤字と同社が苦境にあったタイミングだった。 昇氏は副社長時代から推し進めていた経営改革を断行し、翌2019年3月期は売上高412億6800万円、営業利益16億3600万円、経常利益15億8700万円、当期純利益10億0900万円と、前期の大幅赤字からV字回復を果たした。 昇氏は意気揚々と、2019年6月の株主総会で20年3月期の業績予想を売上高420億円、営業利益21億円、経常利益20億円、当期純利益11億円と発表。V字回復の勢いを持続させれば難しくない数字に思われたが、このあと幸楽苑は「想定外の三つの事態」に襲われる。 一つは2019年10月の令和元年東日本台風。東日本の店舗に製品を供給する郡山工場が阿武隈川の氾濫で冠水し、操業を停止。東北地方を中心に200店舗以上が休業に追い込まれ、通常営業再開までに1カ月を要した。 二つは新型コロナウイルス。2020年2月以降、国内で感染が急拡大すると経済活動は大きく停滞。国による外出制限や飲食店への営業自粛要請で、幸楽苑をはじめとする外食産業は大ダメージを受けた。 V字回復の勢いを削がれた幸楽苑は厳しい決算を余儀なくされる。別表①の通り前期の黒字から一転、2020、21年3月期と2期連続の赤字。新型コロナの影響は当面続くと考えた昇氏は20年5月、ラーメンチェーン業界では先んじて夏のボーナス不支給を決定した。以降、同社はボーナスを支給していない。 表① 幸楽苑の業績(連結) 売上高営業損益経常損益当期純損益2018年385億7600万円▲7200万円▲1億1400万円▲32億2500万円2019年412億6800万円16億3600万円15億8700万円10億0900万円2020年382億3700万円6億6000万円8億2300万円▲6億7700万円2021年265億6500万円▲17億2900万円▲9億6900万円▲8億4100万円2022年250億2300万円▲20億4500万円14億5200万円3億7400万円2023年254億6100万円▲16億8700万円▲15億2800万円▲28億5800万円※決算期は3月。▲は赤字。  会社経営の安定性を示す自己資本比率も下がり続けた。2017年3月期は29・95%だったが、昇氏が社長就任前に打ち出していた「筋肉質な経営を目指す」との方針のもと、大規模な不採算店の整理を行った結果、18年3月期は20・94%に落ち込んだ。店舗を大量に閉めれば長期的な売り上げが減り、閉店にかかる費用も重くのしかかるが、昇氏は筋肉質な会社につくり直すためコロナ禍に入った後も店舗整理を進めた。 その影響もありV字回復した19年3月期は自己資本比率が27・09%まで回復したが、2期連続赤字となった20、21年3月期は25・61%、18・40%と再び下落に転じた。(その間の有利子負債、店舗数と併せ、推移を別掲の図に示す)  一般的に、自己資本比率は20%を切るとやや危険とされる。業種によって異なるが、飲食サービス業の黒字企業は平均15%前後が目安。 そう考えると、幸楽苑は22年3月期で3期ぶりの黒字となり、自己資本比率も25・50%に戻した。昇氏が推し進めた筋肉質な経営はようやく成果を見せ始めたが、そのタイミングで「三つ目の想定外の事態」が幸楽苑を襲う。2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻だ。 麺や餃子の皮など、幸楽苑にとって要の原材料である小麦粉の価格が急騰。光熱費や物流費も上がり、店舗運営コストが大きく膨らんだ。2023年3月期の自己資本比率は一気に7・75%まで下がった。 ただ、これらの問題は他社も直面していることで、幸楽苑に限った話ではない。同社にとって深刻だったのは、企業の人手不足が深刻化する中、十分な人員を確保できず、店舗ごとの営業時間にバラつきが生じたことだった。 時短営業・休業が続出 時短営業・休業が続出(写真はイメージ)  幸楽苑のホームページを見ると、一部店舗の営業時間短縮・休業が告知されている。それによると、例えば長井店では7月28、30日は営業時間が10~17時となっている。町田成瀬店では7月29日は9~15時、18~22時と変則営業。栃木店と塩尻広丘店に至っては7月29、30日は休業。こうした店舗が延べ50店以上あり、全店舗の1割以上を占めているから異常事態だ。 深刻な人手不足の中、幸楽苑は人材確保のため人件費関連コストが上昇し、それが経営を圧迫する要因になったと説明する。しかし、一方ではボーナスを支給していないわけだから、待遇が変わらない限り優秀な人材が集まるとは思えない。 幸楽苑では数年前からタブレット端末によるセルフオーダーや配膳ロボットを導入。お冷もセルフ方式に変えた。コロナ禍で店員と顧客の接触を少なくする取り組みで、人手不足の解消策としても期待された。 しかし、6月の株主総会で株主から「昔と比べて店に活気がない」という指摘があったように、コロナ禍で店員が大きな声を出せなくなり、タブレット端末や配膳ロボットにより店員が顧客と接する場面が減った影響はあったにせよ、優秀な人材が少なくなっていたことは否定できない。ボーナス不支給では正社員がやる気をなくし、アルバイトやパートの教育も疎かになる。こうした悪循環が店の雰囲気を暗くしていたのではないか。 あるフランチャイザー関係者も実体験をもとにこう話す。 「昔はフランチャイザーの従業員教育もきちんとしていたが、近年はそういう研修に行っていない。かつては郡山市内の研修センターに行っていたが、今その場所は(幸楽苑がフランチャイザーとして運営する)焼肉ライクに変わっているよね。うちの従業員はスキルが落ちないように、たまに知り合いのいる直営店に出向いて自主勉していますよ」 ボーナス不支給だけではなく、昔のような社員教育が見られなくなったことも人材の問題につながっているのではないかと言いたいわけ。 6月の株主総会では、別の株主から「フロアサービスに表彰制度を設けてモチベーションアップにつなげては」との提案もあった。幸楽苑は厨房係にマイスター制度(調理資格制度)を導入しているが、フロア係のレベルアップにも取り組むべきという意見だ。新井田昇氏は「新経営陣に申し送りする」と応じたが、そもそもマイスター制度が機能しているのかという問題もある。 幸楽苑をよく利用するという筆者の知人は「店によって美味い、不味いの差がある」「高速道路のサービスエリアの店でラーメンを注文したら、麺が塊のまま出てきた」と証言してくれた。県外に住む筆者の父も、以前は幸楽苑が好きで同じ店舗によく通っていたが、ある日急に「あれっ? 美味しくない」と言い出し、以来利用するのをやめてしまった。 チェーン店で調理マニュアルがあるはずなのに、店によって味に差があるのは不可解でしかない。飲食店はQSC(品質、サービス、清潔)が大事だが、肝心のQを疎かにしては客が離れていく。フロア、厨房を問わない人材の確保と育成を同時に進めていく必要がある。 苦戦が続く新業態 社長に復帰した新井田傳氏(幸楽苑HDホームーページより)  昇氏が進めてきた取り組みは継続されるものもあるが、傳氏のもとで見直されるものも少なくない。 その一つ、女性タレントを起用した派手なテレビCMは当時上り調子の幸楽苑を象徴するものだったが、地元広告代理店は「大手に言いくるめられ、柄にもないCMに大金を使わされていなければいいが」と心配していた。傳氏はテレビCMを廃止すると共に、費用対効果を検証しながら販売促進費を削減する方針。 昇氏は前述の通り、コロナ禍や人手不足に対応するためタブレット端末やセルフレジの導入を進めたが、実は、幸楽苑のヘビーユーザーである高齢者からは「操作方法がよく分からない」と不評だった。そんな電子化は2021年6月から株主優待にも導入され、食事券、楽天ポイント、自社製品詰め合わせの3種類から選べるシステムとなったが、高齢の株主からは同じく「使いづらい」と不評だった。傳氏は、タブレット端末やセルフレジはやめるわけにはいかないものの、株主優待は紙の優待券に戻すことを検討するという。 昇氏の取り組みで最も話題になったのが「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスとのフランチャイズ契約だ。ラーメンに代わる新規事業として昇氏が主導し、2017年11月に1号店をオープンさせると、19年3月までに16店舗を立て続けに出店した。しかし、ペッパー社の業績低迷と、令和元年東日本台風やコロナ禍の影響で「いきなりステーキ」は22年3月期にはゼロになった。 幸楽苑はラーメン事業への依存度が高く(売り上げ比率で言うとラーメン事業9割、その他の事業1割)、景気悪化に見舞われた時、業績が揺らぐリスクを抱えている。それを回避するための方策が「いきなりステーキ」への業態転換だったが、勢いがあるうちは売り上げ増につながるものの、ブームが去ると経営リスクに直結した。挙げ句、新業態に関心を向けるあまり本業のラーメン店が疎かになり、味やサービスが低下する悪循環につながった。傳氏も、かつてはとんかつ、和食、蕎麦、ファミリーレストランなどに手を出したが全て撤退している。 現在、幸楽苑は各社とフランチャイズ契約を交わし「焼肉ライク」12店舗、「からやま」7店舗、「赤から」5店舗、「VANSAN」1店舗、「コロッケのころっ家」7店舗を運営。ラーメン店から転換した餃子バル業態「餃子の味よし」も4店舗運営。これらは「昇氏の思いつき」と揶揄する声もあるが、ラーメン一筋から脱却したい狙いは分かる半面、ラーメン以外なら何でもいいと迷走している感もある(筆者はむしろラーメン一筋を貫くべきと思うのだが)。 まずは本業のラーメン店を立て直すことが先決だが、別業態にどれくらい注力していくかは、自身も苦い経験をしている傳氏にとって答えを出しづらい課題と言えそうだ。 傳氏は「原点回帰でこの危機を乗り越える」として、次のような経営再建策に取り組むとしている。 ▽メニュー・単価の見直し――①メニューの改定と新商品の投入、②セットメニューの提案による客単価の上昇、③タブレットの改定による店舗業務の効率化 ▽店舗オペレーションの強化――店長会議や店舗巡回による指導を通して「調理」「接客」「清掃」に関するマニュアルの徹底と教育 ▽営業時間の正常化――①人手不足の解消に向け、元店長など退職者への復職促進、②ボーナス支給による雇用の維持 客単価上昇に手ごたえ  傳氏は復帰早々、固定資産を売却して資金調達したり、県外の不採算店30店舗を閉店する方針を打ち出したり、そのために必要な資金を確保するため第三者割り当てによる新株を発行し6億8000万円を調達するなど次々と策を講じている。 「固定資産の売却や即戦力となる元店長の復職が既に数十人単位でメドがついていること等々は、傳氏からいち早く説明があった。復帰に賛否はあるが、間違いなくカリスマ性のある人。私は期待しています」(前出・フランチャイザー関係者) 昇氏は客単価の減少を来店者数の増加で補い、黒字を達成した実績がある。新規顧客の獲得だけでなくリピーターも増やす戦略だったが、人口が急速に減少し、店舗数も年々減る中、来店者数を増やすのは困難。そこで傳氏は、メニュー改定や新商品投入を進めつつ、セットメニューを提案してお得感を打ち出し、来店者数は減っても客単価を上げ、売り上げ増につなげようとしている。 その成果は早速表れており(別表②)、前期比で客数は減っても客単価は上がり、結果、6月の売上高は前期比108・2%となっている。幸楽苑では新商品が投入される7、8月もこの傾向が続けば、今期は着実に黒字化できると自信を見せる。 表② 今期4~6月度の売り上げ等推移 直営店既存店(国内)の対前期比較 4月5月6月累計売上高101.4%98.4%108.2%102.5%客数93.2%88.3%95.9%92.3%客単価108.7%111.5%112.8%111.0%月末店舗数401店401店401店※既存店とはオープン月から13カ月以上稼働している店舗。  本誌は復帰した傳氏にインタビューを申し込んだが「直接の取材は全てお断りしている」(渡辺専務)という。代わりに寄せられた文書回答を紹介する(7月20日付)。 「新井田昇は2018年の社長就任以来、幸楽苑の新しい商品・サービスや新業態の開発を促進し、事業の成長とそれを支える経営基盤の見直しを図ってきました。しかし、コロナ禍を起点に原材料費、光熱費、物流費の上昇、人材不足といった厳しい経営環境は続いており、早期の業績回復のためには原点に立ち返り収益性を追求する必要があることから、創業者新井田傳の復帰が最善と判断し、任期満了をもって新井田昇は取締役を退任しました。会長、前社長ともに、幸楽苑の業績を早期に回復させたいという思いは一致しています。しかしながら赤字経営が続いたことから前社長は退任し、幸楽苑を誰よりも知っている創業者にバトンを戻したものです」 父から子、そして再び父と、上場企業として人材に乏しい印象も受けるが「創業者に託すのが最善」とする判断が正しかったかどうかは来春に判明する決算で明らかになる。

  • 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

    【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

     先月号で、JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が6月8日に事業を停止したことを報じたが、10月に挙式を予定していた夫婦の母親が、その被害と精神的ショックを打ち明けてくれた。 支払い済みの190万円は戻る保証無し 事業停止を伝える張り紙  結婚式場の運営会社である㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11、2003年7月設立、資本金1000万円、黒﨑正壽社長)は福島地裁郡山支部に破産を申請する見通し。負債総額は少なくとも2億円を超えるとみられる。 ピーク時の2013年に5億0100万円あった売り上げ(決算期は9月)は、新型コロナ発生前の19年に2億4000万円と半減し、コロナ禍の22年には1億円と5分の1にまで落ち込んでいた。 《2014年9月期以降もパーティー会場の増設や新しいイベント企画の立案等を進め顧客獲得に努めていたが同業との競争は激しく、業績伸長に苦戦を強いられていた。そのような中、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、挙式・披露宴の日程変更やキャンセルが相次いだ他、招待人数の減少もあり(中略)収支一杯な状況を余儀無くされていた。2021年9月期以降も業況は好転せず、近時においても外注先との契約解消等もあったことから事業継続を断念》(東京商工リサーチ『TSR情報福島県版Weekly』6月26日付より) 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の運営管理を行う㈱TAKUSO(どちらも郡山市駅前一丁目11―7)があるが、オール・セインツの事業停止以降、事務所に人影はない。 「突然、事業停止を告げられ、しかも払ったお金は戻ってくるか分からない。今は騙されたという思いでいっぱいです」 憤った様子でこう話すのは、郡山市在住の主婦Aさん。Aさんは宮城県内に住む息子夫婦がオール・セインツで挙式とパーティーを開く予定だったが、今回の事態で見通しが立たなくなった。 「息子夫婦は5月29日に衣装や髪形などの打ち合わせをして、次回は食事の内容を詰めることになっていました。ところが、息子が担当者のラインに『次の打ち合わせはいつになりますか』と送っても『既読』になっただけで返信がなかった。いつもならすぐに返信があるので、息子も変だなと思ったそうですが、まさかこんなことになるなんて」(同) 息子夫婦が最後に打ち合わせをしたのは事業停止の10日前。おそらく担当者は、その時点では会社が破産することを認識していなかったのだろう。ラインが「既読」になっても返信がなかったということは、打ち合わせ後に黒﨑社長から社員に「6月8日に事業を停止する」旨が伝えられたとみられる。 とはいえ、顧客からすると「破産すると分かっていて説明せず、カネを騙し取ったのではないか」との疑念は拭えない。 「5月29日の打ち合わせには私も同席し、ちょうど黒﨑社長にも会っています。ただ、その日はいつもと様子が違っていました」(同) Aさんによると、黒﨑社長は愛嬌があり、丁寧な挨拶を欠かさないそうだが、その日はいつもの元気がなく、難しい表情を浮かべながら誰かと話し込む様子が見られたという。 「今思えば、破産の話をしていたのかもしれませんね」(同) 実は、Aさんの息子夫婦は他の被害カップルとは事情が異なる。 オール・セインツの約款には《挙式5万円、パーティー5万円の申込金支払いで契約成立とし、申込金は内金として当日費用に充当する》《挙式・パーティーの2週間前までに最終見積もり金額および請求金額を提出するので、挙式10日前までに当社指定の銀行口座にお振り込みください》と書かれている。つまり、被害カップルの損害額は最少で10万円、挙式まで10日を切っていると費用全額になる可能性がある。 そうした中、Aさんの息子夫婦は今年2月26日に挙式とパーティーを行う予定だったが、妻の妊娠が判明したため出産後の10月7日に延期。しかし、オール・セインツは約款で日程変更を認めていないことから、息子夫婦は特例で日程変更を承認してもらい、同社と覚書(昨年9月9日付)を交わしていたのだ。 「ただし『日程変更の条件として見積もり金額180万円の全額を払う必要がある』と言われたので、息子夫婦は覚書に基づき全額を払ったのです」(Aさん) すなわち内金10万円と合わせ、息子夫婦は計190万円を既に支払っていたのだ。挙式が10月7日ということは、本来なら10万円の損害で免れていたかもしれないのに、想定外の被害に巻き込まれた格好だ。 「私は『延期するなら契約を白紙にしてもいいのでは』と言ったのですが、息子夫婦は『どうしてもオール・セインツで式を挙げたい』と言うので、最後は本人たちの意思を尊重した経緯があります。実際、ネットの口コミ評価も高かったし、チャペルの雰囲気も素敵だったので、ここで挙式したいという思いが強かったんでしょうね」(同) 債権者集会はいつ? 門が閉ざされ静まり返るチャペル  事業停止後、オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(山口大輔法律事務所、会津若松市大町一丁目10―14)からは「(オール・セインツを)結婚式という人生の大きな節目をお祝いする場に選んでいただけたにも拘わらず、このような結果になってしまったことをお詫び申し上げます」と謝罪すると共に、▽結婚式業務委託契約を会社都合により解除する、▽支払い済みの金額および損害賠償請求は破産手続きの対象になる旨が書かれた文書(6月9日付)が送られてきた。 「紙切れ1枚で連絡を済ませるなんて酷い。黒﨑社長には、息子夫婦の人生の門出を台無しにした責任を取ってほしい」(同) 黒﨑社長は79歳で、北海道札幌市に自宅があるが出身は福島県ということは先月号でも触れた。Aさんによると「以前、雑談していたら『私は会津出身なんです』と話していました」とのこと。 チャペルやパーティー施設などの不動産は、小野町の土木工事・産廃処理会社が所有していることも既報の通りだが、その他に目ぼしい財産があるか調べたものの、不動産登記簿等では追い切れなかった。 Aさんの息子夫婦は精神的ショックに打ちひしがれている。挙式は行いたいが、別の式場でもう一度最初から打ち合わせをする気持ちになれないという。もちろん費用の問題もあり、支払い済みの190万円が戻ってくる保証はない。 山口弁護士はオール・セインツから事業停止後の処理を一任されただけで、破産手続開始が決定されれば裁判所が破産管財人を選任する。破産手続きは、その破産管財人(山口弁護士とは別の弁護士)のもとで進められることになる。 山口大輔弁護士事務所によると、7月19日現在、負債総額の調査は終わっておらず、債権者集会を開催する見通しも立っていないという。「黒﨑社長と直接話せないか」と尋ねたが「当事務所が代理人を務めているため、直接話すのは難しい」とのことだった。 「幸せ」を商売にしてきた企業が顧客を「不幸」にしたのでは話にならない。債権者を選別するわけではないが、被害カップルを何とか救済できないかと思うのは本誌だけではないだろう。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

  • 【JAグループリポート2023】福島県農業経営・就農支援センター【相談件数298件】

    【JAグループリポート2023】福島県農業経営・就農支援センター【相談件数298件】

     「福島県農業経営・就農支援センター」(福島市)は4月3日に県自治会館で開所式を実施してから、4カ月経過した。同センターは、農業経営基盤強化促進法の改正で各都道府県に設置されることになったが、県および県農業会議・県農業振興公社に加えJAグループが参加し、17名が常駐するワンストップ・ワンフロアの支援体制は全国でも福島県が初めてとなる。 従来の窓口は団体ごとに異なり、手続きが煩雑になるなど相談者の負担となっていた。各団体が1カ所に集まることで団体の連携を密にし、実効性ある支援策を講じることができるようになった。  相談件数は4月に開所して以来、6月末時点で、地域段階のサテライト窓口も含めて298件(就農相談186件、経営相談103件、企業参入相談9件)となった。この相談件数は昨年同時期と比較すると約2倍になっており、新規就農希望者やこれからの経営改善を計画する農業経営者から大きな期待が寄せられ、順調なスタートとなっている。 今後、年間1200件の相談件数を目指したPRや掘り起こし活動を積極的に行うとともに、就農相談を通じて、県農林水産業振興計画に掲げる2030(令和12)年度までに年間340名以上とする新規就農者の確保を目指す。 また今後の課題として、相談者の就農実現に向けた研修受け入れ機関(農家や公的機関)の紹介をはじめ国等の支援事業の対応や農地のあっせん等を含めた伴走支援を進める必要がある。 開所式の様子  経営相談については300件を超える重点支援対象者を設定しており、既存の経営者から寄せられた法人化や経営継承等の課題解決に向けた対応に加え、就農後5年以内の認定新規就農者に対する就農定着と経営発展に向け、センターおよびサテライト窓口職員による訪問活動や専門家派遣などに取り組んでいく。 JA福島グループでは、相談件数の増加が就農者の増加と定着、さらには農業経営者の経営課題解決という成果に着実につながっていくよう、関係機関の連携を一層強めて取り組んでいく考えだ。 JA福島中央会が運営するJAグループ福島のホームページ あわせて読みたい 【JAグループリポート2023】創立70周年記念大会で誓い新たに【JA福島女性部協議会】

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

    【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【ソーラーポスト】太陽光発電普及を後押し【カテエネソーラー】

    【ソーラーポスト】太陽光発電普及を後押し【カテエネソーラー】

     今年で創業23周年となる太陽光発電システム販売の㈱ソーラーポスト(福島市、尾形芳孝社長)は、電気代高騰対策のため、太陽光発電の設置を促進しようと、中部電力ミライズ㈱(名古屋市)と連携し「カテエネソーラー」の取り扱いを始めた。県や自治体は太陽光発電システム設備や蓄電池の設置費用の補助を進めている。太陽光発電設置後の10年分の発電買取代金を中部電力ミライズが一括前払いすることで、ソーラーポストは初期費用の軽減を図り一層の普及を目指す。  契約者が太陽光発電設備を設置後、中部電力ミライズから発電買取代金を一括(10㌔ワット 154万円、8㌔ワット 123万2000円、6㌔ワット 92万4000円、5㌔ワット 77万円)で受け取ることで、初期費用をサポート。設置後10年間は月額料金を定額で支払う(※発電した電気は使い放題となる)。 おすすめポイントは、①『新築住宅・既存住宅への太陽光発電設備の設置後に発電買取代金を中部電力ミライズが一括でお支払い』、②『太陽光設備設置費用を住宅ローンに組み入れてもOK』、③『月々定額の支払いで太陽光発電の電気は使い放題』、④『太陽光発電設備は契約者所有で蓄電池の設置もOK』が挙げられる。  同社が展開する「カテエネソーラー『定額Sプラン』」のモデルケースを見よう。発電買取代金の算定単価は1㌔ワット あたり15万4000円(税込み)。契約期間は10年。太陽光パネル出力6㌔ワット の場合、中部電力ミライズによる発電買取代金の一括前払い92万4000円(同)、サービス利用料(契約者の負担)は月額6820円(同)となる。10年経過後はサービス利用料金が無料になる。 注意点は、①契約期間中(10年間)、余剰電気の売電収入は中部電力ミライズに帰属するため、契約者の売電収入はないが契約完了後は売電収入が得られる。②V2H設備の設置はできない。③加入条件は、申し込み時点で本人または同居者が満60歳未満の成人であること。④太陽光発電設備の発電出力が3㌔ワット以上10㌔ワット未満であること。 「『カテエネソーラー』は福島県初の画期的な商品です。太陽光発電設備で一番ネックとなる初期費用の負担軽減ができます。事業パートナーの中部電力ミライズは中部電力の関連会社で高い信用と信頼を得ている企業です。多くの方々が電気代の高騰に苦しんでいる中、気軽に太陽光発電設置について検討していただけるはずです。今後も同商品の浸透を図りながら再生可能エネルギーの大きな柱である太陽光発電の普及に努めます」(尾形社長)。詳細はカテエネソーラー専用サイトにアクセス。問い合わせは、同社0120(91)5741まで。

  • 宅配で顧客取り込むヨークベニマル

    宅配で顧客取り込む【ヨークベニマル】

     コロナ禍以降の宅配需要の増大や高齢化に対応するため、県内最大手の食品スーパー・ヨークベニマルは宅配サービスの充実化を図り、移動スーパー事業もスタートさせた。各事業の現状と今後の展望について、担当者に話を聞いた。 店に来られない高齢者・単身者に好評 移動スーパー「ミニマル」(福島西店、ヨークベニマル提供)  昨年3月1日、ヨークベニマルは社内に「ラストワンマイル推進部」を設けた。 ラストワンマイルとは店舗・物流拠点から消費者宅までの距離を指すビジネス用語。コロナ禍を経て、EC(ネット通販)の需要が増大し、配送業者のドライバー不足も問題となる中、「ラストワンマイル」でいかに差別化を図れるかが小売・流通各社にとって課題となっている。 加えて本県など高齢化が進む地域では、免許返納などで交通手段がなくなり、近くのスーパーに買い物に行けない〝買い物難民〟問題が深刻化している。それらの課題に対応するために設置されたのが同推進部だ。 同推進部の開山秀晃総括マネジャーは次のように話す。 「例えば高齢者の中には、足が痛くて思うように歩けなかったり、自動車の運転に不安を感じて来店できない方がいます。そうした方でも安心して買い物できて、豊かな生活を送れるように、われわれがライフラインを整備しようと考えました」 昨年5月に始まったのが、クリスマスケーキなどの人気商品をネット予約して店舗で受け取れる「ウェブ予約」。共働きで忙しいが、家族でのイベントは大切にしたい――という子育て世帯の需要に応えた。報道によると、通常商品を扱うネットスーパーも2024年2月期に1店舗で開始する予定だ。 電話で注文を受け付けて自宅に配送する「電話注文宅配サービス」は5年前に開始した。現在は田島店(南会津町)、台新店(郡山市)、門田店(会津若松市)、会津坂下店(会津坂下町)など8店舗で実施している。 宅配サービスの電話注文を受ける担当スタッフ(門田店、ヨークベニマル提供)  会員登録後、チラシなどを見ながら、店舗スタッフに電話で注文する。別途配送料金がかかる(会津坂下店440円税込み。それ以外は330円税込みで、今後値上げされる見込み)が、販売価格は店頭と同じで、入会費や月会費などは一切かからない。配送エリアは店舗ごとに定められており、田島店では最大約50㌔先まで対応するという。2月現在の登録者数は6店舗計約1700人。開山マネジャーによると、一人当たりの買い物金額は約5000円。まとめ買いして、宅配してもらうスタイルが定着しているのだろう。 利用者多い高齢者施設 移動スーパー「ミニマル」の車両(西若松店、ヨークベニマル提供)  昨年7月にスタートしたのが、移動スーパー「ミニマル」だ。福島西店(福島市)、西若松店(会津若松市)を拠点に週6日運行する。取扱商品は生鮮食品、日配品、弁当、総菜など約300品目。既存の移動スーパーが個人宅まで行くのに対し、「ミニマル」は住宅団地や集会所、高齢者向け施設などを巡回する。 「ご近所同士のコミュニティー形成のきっかけにつなげてほしい思いがあるからです。高齢者向け施設は需要が多く、巡回場所の4分の1を占めています。施設利用者本人はもちろん、買い物を依頼されたヘルパーさんも訪れる。部屋に台所がある施設も多いため、意外と漬物にする野菜などが売れたりします」(同) 「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「Wolt(ウォルト)」など、フードデリバリーを使った食品配送も宮城県仙台市や栃木県宇都宮市の4店舗で導入し、5月には浜田店(福島市)で福島県初となる「ウーバーイーツ」での配送を開始した。 顧客から注文があった商品を売り場から取り出すウーバーイーツの配達員(ヨークベニマル提供)  鮮度・温度管理が難しい刺身やアイスを除き、全商品を取り扱う。受け付け時間は10時から19時。配送エリアは店舗から約3㌔圏内。配送手数料は50~550円で、加えて合計注文金額の10%(最大350円)のサービス料金が別途適用される。 単身者などの利用に加え、酒やおつまみだけの注文も目立つことから、開山マネジャーは「買い物に行く時間がない飲食店の店主などにも利用されているのではないか」と分析している。店舗で買うより割高だが、30分以内に自宅まで届けてくれる手軽さが支持され、導入店舗の売り上げは着実に伸びているようだ。 報道によると、同社では2026年2月期までに電話注文サービスを30店舗、「ミニマル」を10店舗、フードデリバリーを15店舗まで拡大することを目指している。 ただし、「電話注文サービスを行うには、顧客の要望を正確に聞き取りできるスタッフの存在が必須で、それなりの教育が必要となる。そういう意味では一気に拡大するのは難しい。地道に増やしていくことになると思います」(開山マネジャー)。 その一方で「うちのエリアでも宅配サービスをやってくれないの?」という問い合わせも多く寄せられているので、少しでも早く導入できないか模索しているようだ。 担当店舗の現場スタッフが負担に感じないように、宅配・移動スーパー分の売り上げを店舗の実績として反映させる仕組みを設けたほか、「先入れ先出し」の徹底、売れ残り品の持ち出し禁止など、社内ルールの構築も同時に進めている。 宅配・移動スーパーの充実により顧客が抱える課題のソリューション(解決)につながれば、同社への信頼度は高まり、〝潜在的な買い物客〟を取り込むこともできる。競合他社にとって大きな打撃になり得る。 行商から同社を立ち上げた創業者・大高善雄氏が唱えた「野越え山越えの精神」は、顧客への感謝と奉仕の心を表す創業理念として、社内で伝え続けられている。同社にとって〝原点回帰〟となるラストワンマイル戦略の成否に注目が集まる。

  • 郡山「モルティ」から人気雑貨店「TGM」が撤退

    郡山「モルティ」から人気雑貨店「TGM」が撤退

     郡山駅西口再開発ビル「ビッグアイ」の商業施設「モルティ」4階で営業する生活雑貨店「TGM」が7月いっぱいで閉店した。モルティの中でも人気店の撤退に、来店客からは「残念」との声が漏れている。 「モルティはただでさえ客が少なく苦戦しているのに、TGMが撤退したら一層寂しくなる」(経済人) モルティ担当者によると、TGMの撤退は運営会社㈱三峰(東京都中野区)の事情によるという。 「三峰さんが全国の店舗を順次閉店しているのです。生活雑貨店は苦戦していると聞いているので、その影響かもしれません」(担当者) 三峰は全国で44店舗運営しているが、既に閉店したところも少なくない。モルティの店舗もその方針に従い粛々と閉められるわけ。 担当者によると、TGM撤退後のテナントは「既に決まっている」。店舗名の発表はもう少し先だが、秋にはオープンさせたいという。 郡山駅前の人通りは相変わらず増えていない。うすい百貨店では中核テナントの「ルイ・ヴィトン」が8月末で撤退する。そうした中で、モルティの人気店撤退―リニューアルは活気の少ない駅前にどのような影響をもたらすのか。

  • 桑折町・福島蚕糸跡地からまた廃棄物出土

    桑折町・福島蚕糸跡地からまた廃棄物出土

     本誌1、3月号で、桑折町の福島蚕糸跡地から廃棄物が出土したことをリポートした。 桑折町の中心部に、福島蚕糸販売農協連合会の製糸工場(以下、福島蚕糸)跡地の町有地がある。面積は約6㌶。震災・原発事故後に災害公営住宅や公園が整備され、残りのスペース2・2㌶を活用すべく公募型プロポーザルを行った結果、㈱いちいと社会福祉法人松葉福祉会が最優秀者に選ばれた。 食品スーパーとアウトドア施設、民設民営による幼保連携型認定こども園が整備される予定で、定期借地権設定契約を締結、造成工事がスタートしていた。 そうした中で、いちいが工事を実施しているエリアからアスベストを含む1000㌧に上る廃棄物が出土したため、工事がストップすることになった。 町議会3月定例会では、①町は昨年6月ごろの段階で廃棄物の存在を把握していたのに議会に報告したのが今年1月17日だったこと、②処理費用は5300万円に上り、いちいと町が折半して負担することになったが、プロポーザルの実施要領や契約書には「土地について不足の事態があった際も事業者は町に損害賠償請求できない」と定められていること――などが問題視された。 廃棄物が積まれた福島蚕糸跡地(今年3月撮影)  結局6月定例会で町が処理費用を半額負担する補正予算案が可決されたが、一方で新たな問題も発覚した。 松葉福祉会の認定こども園の建設予定地からも、大量のコンクリートや鉄筋などの建築廃材が出てきたことが明かされたのだ。町産業振興課によると、4月半ばに同福祉会から連絡があり、全体でどれぐらいの量があるかは分かっていないという。 松葉福祉会にコメントを求めたところ、「廃棄物を撤去して土壌改良すれば、さらなる予算がかかるので、設計を一から見直さなければならないし、2024年4月開園は実質的に難しいだろう。今後、町と協議していくことになる」と話した。 認定こども園は当初2024(令和6)年4月開園予定だったが、土壌改良の期間も含め、開園は1年遅れの2025年4月になる見通し。来年度は従来の醸芳保育所と醸芳幼稚園が園児の受け皿となる。 6月15日の6月定例会一般質問では、高橋宣博町長が経緯を説明したうえで「重大で深刻な事態と受け止めている。開園を期待している町民に深くおわびする」と陳謝した(福島民友6月16日付)。 町産業振興課によると、いちいの工事で出てきた廃棄物は福島蚕糸の前に操業していた郡是製糸桑折工場のものとみられるが、今回出てきた廃棄物は福島蚕糸のものとみられる。要するに、過去に立地していた工場の廃棄物がそのまま放置されてきたことになる。いちいと松葉福祉会にとっては、思いがけず高額な処理費用を負担することになった格好。町は町有地として取得する際にこうした状況にあることをチェックできなかったのだろうか。 気になるのは、今回の処理費用も折半にするのかということ。本誌4月号記事で斎藤松夫町議は「いちいに同情して後からいくらか寄付するなどの方法を取るならまだしも、プロポーザルの実施要領や契約書の内容を最初から無視して折半にするのは問題。根拠のない支出であり、住民監査請求の対象になっても不思議ではない」と指摘した。そうした点も含め、町は事業の進め方をあらためて検証すべきではないか。 あわせて読みたい 【桑折・福島蚕糸跡地から】廃棄物出土処理費用は契約者のいちいが負担 桑折・福島蚕糸跡地「廃棄物出土」のその後

  • 「最終処分場」反対運動が過熱する【郡山市田村町】

     郡山市田村町の国道49号沿いに「谷田川地区最終処分場施設絶対反対!!」という看板が立てられている。谷田川行政区と「やたがわ環境を守る会」が設置したものだ。  「最終処分場施設」とは、同地区で計画されている産業廃棄物の最終処分場のことを指す。現在複数個所で整備計画が進められており、地元住民が猛烈な反対運動を展開しているのだ。  前出「守る会」の石井武四郎代表は反対理由をこのように語る。  「国道49号に沿って流れる谷田川の水は広範囲で農業用水として使われています。最終処分場は山の一角を切り崩して設置される計画ですが、仮に汚水が川に流れることがあれば深刻な影響を及ぼします。この辺は多くの世帯が井戸水を使っているので、地下水への影響も心配です。地区内にそうした施設ができることで過疎化が進む可能性もあります」  処分場建設を計画しているのはミダックホールディングス(静岡県浜松市、加藤恵子社長)。1952(昭和27)年創業。資本金9000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期は売上高17億3600万円、当期純利益7億8000万円。  9月には整備計画について、地元説明会が田村公民館で開催された。  計画によると、建設される最終処分場は管理型(分解腐敗して汚水が生じる廃棄物などを埋め立てる処分場)で、埋め立て面積約7㌶、埋め立て容量約160万立方㍍。  だが、自然環境や農業への影響を懸念する住民と、安全性を強調する事業者側の溝は埋まらず、公民館の貸出時間が過ぎたということで、住民の理解を得ないまま終了した。  「10月にも説明会が開かれましたが、事業者から『13年間産業廃棄物を埋め立てた後、15年間にわたって管理し、その後は管理を終了する予定』と言われました。予定地のすぐ近くは市ハザードマップで土砂災害特別警戒区域に指定されており、不安は尽きません」(石井代表)  この計画地の上流(平田村・いわき市側)に当たる田村町糠塚でも管理型の最終処分場の建設が進められている。本誌2019年8月号では同処分場の工事が停滞している旨を取り上げたが、「現在は工事が開始されており、国道をダンプが何台も行き来している。1カ所できるだけでも環境の変化を感じているのに、さらに何カ所も建設され、稼働したらどうなるのか」(同)。  「なぜ、この地域ばかり迷惑施設を受け入れなければならないのか」という負担感も反対運動の大きな理由になっているようだ。  郡山市議会9月定例会の一般質問で、岡田哲夫市議(2期)が市の関わりを尋ねたところ、環境部長が「廃掃法に違反していないことを確認し、6月16日付で事業計画書の審査を完了した」と答弁した。現時点で市から設置許可は出されていない。  「住民の強力な反対があれば建設強行はできないのではないか」との問いには、環境部長が「周辺住民の同意は廃掃法上、許可要件とされていない。環境省からも『要件を満たす場合は必ず許可しなければならない』と通知が出ている」と答えた。一方で、「事業者(ミダックホールディングス)には口頭と文書で住民の理解を得るよう求め、地元自治会・区長会から出た意見は文書で伝えている」とも述べた。  田村町地区の住民がほとんど反対している中で、今後、品川萬里市長がどう対応するか問われる、とみる向きもある。新たな事実が分かり次第、リポートしていきたい。 国道49号沿いに設置された看板

  • 【オール・セインツ ウェディング】幸せ壊した郡山破綻式場に憤る若夫婦

     本誌7、8月号でJR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウエディング」が6月8日に事業停止したことを報じたが、本誌編集部への被害告発が未だにやまない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声  10月下旬には、7月に式を挙げる予定だった男性から《返金も厳しい状況で、これは詐欺に当たるのではないか》というメールが届いた。  11月上旬には、福島市在住のAさん夫婦が直接取材に応じてくれた。この若夫婦は事業停止16日後の6月24日に式を挙げる予定だった。  「初めて式場を訪れたのは2021年5月です。ネットの口コミ評価が高く、館長(㈱オール・セインツの黒﨑正壽社長)や担当者の対応も良かったので、ここで式を挙げようと決めました。ただ式は22年10月の予定でしたが、途中、私の妊娠が判明し、出産予定が同年8月だったので23年6月に延期した経緯があります」(Aさんの妻)  夫婦は契約の内金として既に10万円を支払っていたが、延期を受けて式場から「延期日に式場を確保するには費用を先払いしてほしい」と言われ、110万円超を支払った。参列者は20人弱を予定していた。  その後、無事に出産し、体調の回復に合わせて式場と打ち合わせを重ねていったが、その間に担当者が2回代わり、館長も次第にやつれていくなど、若夫婦は式場の異変を感じるようになったという。  「正直、心配にはなったが、私たちのほかにも打ち合わせをしているカップルが複数いたので、大丈夫なんだろうと思っていました」(Aさん)  ただ、事業停止の予兆だったのか今年4月にはこんな出来事も。  「私たちの両親が式場に来て衣装合わせをしたのですが、その支払いをしようとクレジットカードを出したところ『今、カードは受け付けていない』と言われたのです。仕方なく現金(10万円超)で払ったが、カードが使えないってどういうこと?と思って……」(Aさんの妻)  それでも、5月下旬の直前打ち合わせでは式で上映するDVDの映像を確認し、招待状も発送して、担当者からは「当日が楽しみですね」と声をかけられていた。  夫婦のもとに悲しい連絡が届いたのは6月8日だった。  「実家の母から『式場に預けていた留袖が宅配便で返されてきた』という連絡が来たのです。慌てて式場に電話したがつながらず、ネットで検索すると閉鎖と出てきた。式場隣りのホテルに問い合わせたら従業員が様子を見に行ってくれて、そこで初めて事業停止の張り紙があるのを確認しました」(Aさんの妻)  知人の弁護士に相談すると「支払い済みの120万円超が返金される可能性は低い」と助言された。  途方に暮れる夫婦が式場の代理人を務める山口大輔法律事務所(会津若松市)に問い合わせると、事務員から「7月中に破産を申し立て、早ければ8月に裁判所から債権者に連絡がある」と言われた。ところが9月になっても連絡はなく、10月に再度問い合わせると「まだ破産申し立ての準備ができていない」と素っ気ない答えが返ってきた。  「事務員の面倒くさそうな物言いに『こっちは被害者なんだぞ!』と腹が立ちました」(Aさんの妻)  11月19日現在、オール・セインツが破産を申し立てたという情報は入っていない。突然、結婚式が中止され「両親や親族に晴れ姿を見せたかった」という若夫婦は「やっぱり式を挙げたいけど、もう一度初めから準備をするのは大変だし、そもそも信用できる式場が見つかるのか」と気持ちが複雑に揺れ動いて新たな一歩を踏み出せずにいる。  どんな企業も破産すれば周囲に迷惑をかけることになるが、「幸せ」を商売にする企業が顧客を「不幸」にするのは、あまりに罪深い。

  • 医療機器出荷額全国1位の陰で燻る【医療機器センター】

     福島県の医療機器産業が好調だ。経済産業省の調査によると、医療用機械器具に取り付ける部品の2021年の出荷額は255億円で前年比25億円減少したが、都道府県別では12年連続で全国1位となった。  2位は長野県で136億円、3位は愛知県で124億円。全国の出荷額は1399億円で、福島県はこのうちの18%を占める。  それだけにとどまらない。医療用機械器具・装置の製品でも、福島県は2021年の出荷額が918億円となり、前年比3億円減少したものの2年ぶりに全国1位となった。  2位は埼玉県で622億円、3位は静岡県で606億円。全国の出荷額は7790億円で、福島県はこのうちの12%を占める。  部品と製品合わせて1000億円を超える巨大産業が県内に集まる背景には、県が2005年度から取り組んでいる産学官連携の「次世代医療産業集積プロジェクト」がある。医療機器の研究開発や異業種企業に対する医療品医療機器等法の許認可支援などを進めてきた結果、医療機器の部品・製品を製造する企業が増加。11年の東日本大震災後は医療機器産業を産業復興の柱に据え「医療関連産業集積プロジェクト」を展開し、その勢いを加速させた。  国内唯一の医療設計・製造の展示会「メディカルクリエーションふくしま」はそれらプロジェクトの一環として始まり、19回目を迎えた今年も11月1、2日に郡山市のビッグパレットふくしまで盛大に開かれた。会場では全国220の企業・団体が最先端の医療技術を紹介し、2日間で3500人超が来場した。 多くの来場者で賑わった「メディカルクリエーションふくしま」  地道な取り組みが実を結び「12年連続1位」「1000億円超」という成果になって表れていることは素直に評価したいが、一方で苦戦が続く施設もある。  郡山市にある「ふくしま医療機器開発支援センター」は医療機器の開発から事業化までをワンストップで支援する国内初の施設として、2016年11月に国の補助金134億円を投じて開設された。しかし、数年間は成果が上がらず、20年11月には地元紙が「これまで収益が目標に届いた年度はなく、生じた赤字は指定管理者のふくしま医療機器産業推進機構に支払っている委託料から穴埋めされている」などと報じた。  同機構は2018年3月に改善計画を策定したが、県議会の一般質問や決算審査特別委員会などのやりとりを見ると、共産党議員が「補助金等がなければ運営できない状況」と問題提起し続けてきた。ただ、新型コロナの落ち着きと共に大型案件の依頼が舞い込むようになり、リピート率の高まりもあって22年度は2200万円の「黒字」を計上。3年前の赤字報道から一転、運営は好転の兆しを見せている。  とはいえ同センターの高度な設備と機能を踏まえると、その程度の黒字では物足りない。郡山市内の行政マンは「広報・営業が下手で、その良さが広く伝わっていない」「医療機器とは無縁の地元企業が異業種参入したいと思っても、そのチャンスが得られずにいるのでマッチング機能を強化すべきだ」と同センターの問題点を指摘している。  事実、同センターの2022年度事業計画を見ると「これまで全く注力されてこなかったセンターの知名度・認知度の向上を目指す」「マッチング機会を増加させるためデータベースを新たに構築し、県内企業が有する技術情報を集約し、医療機器関連の新たな仕事を得る機会を創出する」と書かれ、二つの問題点を強く自覚していることが分かる。  福島県の医療機器産業をさらに盤石にするためには、同センターが期待された役割をしっかり果たすことがカギになる。

  • 新型コロナ「ゼロゼロ融資」の功罪

     新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が中小企業の資金繰り支援として実施した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)。その効果は絶大で倒産件数は大きく抑えられたが、今年度に入って返済が本格化すると、業績回復が遅れている企業が事業継続を断念、倒産件数は増加に転じている。もともと倒産するはずだった企業を延命させた面もある、とも言われるゼロゼロ融資。その功罪を探る。 (佐藤仁) 税金55兆円投入で〝破綻寸前企業〟まで延命 郡山アーケード(2022年12月撮影)  ゼロゼロ融資は、新型コロナの影響で経営が苦戦する中小企業を支援するため政府が行った実質無利子・無担保融資だ。  通常、金融機関から融資を受けるには担保が必要だし、金利も取られる。しかし、ゼロゼロ融資は元本を信用保証協会が担保し、都道府県が利子を支払う仕組み。政府による財政支援、すなわち税金によって成り立っている。新型コロナという未曽有の事態に対応するため行われた異例の措置だった(ゼロゼロ融資の仕組みは別図①を参照)。 図① ゼロゼロ融資の仕組み 朝日新聞8月21日付掲載の図から作成  融資期間は10年以内(据え置き期間は5年以内)で、無利子期間は3年。最大3億円まで借りられる。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など政府系金融機関を窓口に2020年3月から始まったが、申し込みが殺到したため同年5月から民間金融機関でも扱うようになった(融資受付は民間金融機関が21年3月、政府系金融機関が22年9月に終了)。  中小企業庁によると2022年3月末時点での実績は、政府系金融機関が約18兆円、民間金融機関が約37兆円、計55兆円の融資を行っている。借入金依存度や総資産現預金比率などのデータから、業種を問わず幅広い層に融資が行き届いていることが推察されるという。  事実、ゼロゼロ融資の効果は絶大だった。中小企業庁が2022年6月に公表した資料によると21年の全国の倒産件数は6030件で、1964年の4212件以来57年ぶりの低水準となった(別図②を参照)。 図② 全国の倒産件数 中小企業庁の資料「ウィズコロナ・ポストコロナの間接金融のあり方について」より  ただ、時期を同じくして新型コロナ関連の倒産件数は徐々に増加。民間信用調査機関の帝国データバンクによると、コロナ倒産は2020年2月に初めて確認されてから右肩上がりで増え、今年9月までの累計は6761件に上る。年別で言うと20年は835件、21年は1731件、22年は2238件、23年は9月までで1957件。このペースで行くと23年は通年で2600件を超えることが予想される。  累計6761件を業種別で見ていくと飲食店1006件、建設・工事881件、食品卸333件、食品小売285件、ホテル・旅館213件と続くが、ある金融機関の担当者はこうも付け加える。  「特定の業種で倒産が多いとは感じないが、共通点としてはコロナ前から苦しかった企業がとうとう息切れした、ということが言えます」  実際、ゼロゼロ融資を受けた後に倒産する企業は年々増加。帝国データバンクによると2020年は15件だったのが、21年は167件、22年は384件、23年は5月までで236件に達している。このペースで行くと23年は通年で560件を超えそうだ(別図③を参照)。 図③ ゼロゼロ融資後の倒産件数 帝国データバンク 別紙号外リポート「コロナ融資後倒産」(6月8日付)掲載の図から作成  ゼロゼロ融資を受けた企業の倒産が今年に入って増加している背景には、無利子期間の3年が終わり、新たな資金調達も難しい過剰債務の企業が返済できず、事業継続をあきらめたことがあるとみられる。  誤解されては困るが、ゼロゼロ融資を受けた企業の多くはきちんと返済している。帝国データバンクが8月に行った調査では(回答企業数1万1517社)、コロナ関連融資の返済見通しについて「返済に不安」と答えた企業は12・2%、「融資条件通り全額返済できる」と答えた企業は85・7%で、ほとんどの企業は返済の見通しが立っている(残る2・1%の企業は「その他・不回答」)。  別掲のインタビューに答えてくれた飲食店の店主も、売り上げが回復せず光熱費、原材料費、人件費が高騰する中でも毎月きちんと返済している。一方、店主が「ゼロゼロ融資は保証協会付きだから踏み倒す奴もいるかも」と述べているように、返済されない場合は各地の信用保証協会が肩代わりする仕組みが、ゼロゼロ融資の総額を安易に増やしたという指摘もある。  ここからは福島県の現状に目を転じたい。県経営金融課の鈴木強課長によると、県内では約2万3300件、約3571億円のゼロゼロ融資が行われ、既に6割超の企業が返済をスタートさせている。  県信用保証協会が公表している保証債務残高の推移を見ると、返済が進んでいることが分かる。2021年度末は5688億円、22年度末は5661億円、23年度は9月末で5403億円に減っている(別図④を参照)。 図④ 保証債務残高の推移 県信用保証協会発行「保証月報」(10月号)より  県信用保証協会管理部の熊坂容安部長はこう話す。  「今年度は無利子期間の終了を受け、念のため借りたけど手を付けなかったので繰り上げ返済したり、一部使ったけどもう必要ないので、余計な金利がかかる前に返した企業が多く、それが保証債務残高の減少に表れているんだと思います。要するに優良先がどんどん返した、と」 増加する代位弁済  ただ、これとは逆に増えている要素もある。倒産企業の債務を信用保証協会が肩代わりする代位弁済の額だ。2021年度は242件、21億円(前年比73・5%)の代位弁済が行われたが、22年度は302件、35億円(同164・3%)に増加。23年度は9月までで180件、24億円と半年で21年度の額を超えている。このまま行けば23年度は通年で360件超、50億円近い代位弁済が行われる可能性がある(別図⑤を参照)。 図⑤ 代位弁済の推移 県信用保証協会発行「保証月報」(10月号)より  ゼロゼロ融資を受けたものの需要が戻らず、そこに光熱費や原材料費の高騰、人手不足なども重なって事業継続をあきらめるのは飲食業に多く見られる傾向だという。  「代位弁済を業種ごとに見ていくと飲食業が多いが、飲食業の方は借りている金額自体は小さいので、件数の割に合計金額は他の業種より少ない」(同)  とはいえ、金額は小さくても代位弁済に使われるお金は税金だ。本来は無駄なく使われなければならないが、実際はどうか。  会計検査院が2020年3月以降の日本政策金融公庫と商工中金によるコロナ関連融資を調べたところ、約1兆円が回収不能または回収困難な不良債権になっていることが分かった。  《22年度末時点の貸付残高は14兆3085億円(約98万件)。うち回収不能もしくは回収不能として処理中は1943億円、回収が困難な「リスク管理債権」(不良債権)が8785億円だった。計1兆0728億円》《国は日本公庫や商工中金など政府系金融機関に約31兆円の財政援助をしている。金利負担にも国費が使われており、損失は国民負担につながる》(朝日新聞11月8日付)  約1兆円の税金が無駄に使われたというわけ。  別掲のインタビューで店主が「コロナ前から経営状態が悪く、ゼロゼロ融資のおかげで生き延びられた店もあるでしょうから」と話しているように、本来は早々に退場すべき企業が、異例の支援策のおかげで延命されたケースは結構あったはず。結果、一定程度の〝ゾンビ企業〟を生み出したことは事実だろう。  「実質無利子・無担保なんて本来はベンチャー企業を対象にすべき制度でしょう。業種を問わずに門戸を広げればモラルハザードを招きかねない。中には信用保証協会が代位弁済してくれるのをいいことに、計画倒産した悪質経営者もいたかもしれない。残すべき企業と退場させるべき企業を選別するのは正直難しいが、少なくともゼロゼロ融資に55兆円もの税金を使ったのはやり過ぎだったのではないか」(あるジャーナリスト)  かつて公共事業費が年々減っていた時代、増え続ける建設会社をいかに〝安楽死〟させるかが県庁の中で大きな課題になったことがある。同じことは〝ゾンビ企業〟にも言えるのかもしれない。 「大半の企業は助かった」 陣屋の繁華街(2022年12月撮影)  ただ前出・県経営金融課の鈴木課長は、そうした点に目を瞑ってもゼロゼロ融資の意義は大きかったと強調する。  「ゼロゼロ融資は国策として、通常より低いハードルで融資が行われました。そのおかげで、あのコロナ禍でも経済を回すことができたし、倒産を抑えることもできた。代位弁済に至った企業があることは承知しているが、大半の企業はゼロゼロ融資によって助かったという事実にも目を向けてほしい」  前出・金融機関の担当者も同様の見解を示す。  「ゼロゼロ融資は未曽有の困難を乗り切るために国策として進められました。東日本大震災と違い日本全国が、いや世界全体が経験したことのない不安と窮地に追い込まれました。そうした中で、まずは迅速な資金供給を優先させたのは当然のことだと考えます。そういう性格の融資だったから、われわれ金融機関も企業から相談があれば前向きに取り組みました。例えばリスケをして追加融資が難しい企業だったとしても、関係する金融機関と協調して対応しました。コロナ禍で倒産させ、従業員を路頭に迷わせるなんて経営者は絶対に嫌だろうし、金融機関も同じ気持ちだったと思います」  両者の言い分はもっともだが、前出・朝日新聞記事には回収不能の約1兆円について《検査院によると、日本公庫が貸し付けて返済不能や困難になった債権のうち353件(約36億円)を調べたところ、59件(約5億円)で貸付先の最新の決算書がないなど、状況が十分確認できなかった》とあるから、単に融資するだけでなく、きちんと返済されるのか貸付先の経営状況を丁寧に把握することも金融機関には求められる。 使われているのは税金  今後は、返済に不安を抱える企業に支援策を講じたり、返済可能な企業にも安定的な事業継続につながるよう新事業創出や販路拡大といったサポートをすることが必要になる。  返済に不安を抱える企業には「伴走支援型特別資金」という県の制度資金がある。金融機関が継続的な伴走支援を行うことで早期の経営改善につなげるもので「利用状況は昨年比5倍で、県の制度資金の中で一番使われている」(前出・鈴木課長)というから困っている経営者には検討をおすすめしたい。県信用保証協会でも「無料で経営相談を受けたり、専門家を派遣している。相談内容を分析し、その会社に合った支援策も案内している」(前出・熊坂部長)。商工会議所、商工会、各業界の組合等でも無料相談や支援策の案内を行っているから、悩んでいる経営者はまずは相談されてはどうか。  「金融機関でも、コロナ前から本業支援に取り組むところが増えています。返済計画や事業計画を経営者と一緒に考えたり、ビジネスマッチングや補助金申請支援など金融以外の支援も行うようになっています。ただ、そういった支援は金融支援と異なり成果が表れるまで時間を要します」(前出・金融機関の担当者)  功罪が指摘されるゼロゼロ融資。あの窮地に融資を受けられたおかげで多くの企業が助かったことは素直に評価したい。しかし、貸したお金が〝死に金〟にならないよう努めることも貸す方、借りる方を問わず求められる。信用保証協会の保証付きだから焦げ付くことはないという安易な考えではなく、そこに使われているのは税金という意識を欠いてはならない。 福島市内の飲食店経営者のインタビュー  福島市内の飲食店経営者が、ゼロゼロ融資を利用した感想と、返済の本格化を受けてどのような経営状況にあるのか話してくれた。  ――ゼロゼロ融資、いくら借りたんですか。  「500万円です。コロナ前に300万円借りていて、残り150万円まで返済が進んでいた。月々2、3万円ずつ返していた。しかし新たに500万円借りたので、月々の返済は4万円前後増えて6、7万円になっている」  ――合わせて650万円……。  「いやいや、ゼロゼロ融資の500万円から150万円を繰り上げ返済したので」  ――借り換えですね。  「知人には借り換えができなかった人もいます。例えば信金から借りて店を開いた人が、ゼロゼロ融資は公庫から借りたっていう場合、信金への返済が終わるまでは、公庫(への返済)はいったんジャンプして金利だけ払っている、というパターンも聞きますね」  ――もっとも、借り換えができても月々の返済額が増えたことには変わりない。  「売り上げがコロナ前に戻ればそこまで厳しいとは思わないが、月に20~30万円減ったままだから。なかなか回復しないね」  ――客足は戻っていない?  「大きな宴会が全然入らなくなっちゃって。うちみたいな小さな店は貸し切りの宴会が週に1、2回あって、それが終わったあとに一般のお客さんが二次会で流れて来るとある程度売り上げが見込めるが、宴会が入らなくなってからは売り上げの見通しが立ちづらくなりましたね。(他人との接触が避けられる)個室のある店は、繁盛することはなくても減少率は抑えられているんじゃないかな」  ――周りの店もゼロゼロ融資を利用した?  「ほとんどの店が借りたんじゃないかな。コロナ発生時はいつ収束するか分からない、先の見えない状況だったので手持ち資金だけでは不安だった。飲食業組合からも『借りられるなら借りてください』っていう指導がありました。手持ち資金がショートして、家賃を滞納してから融資を申し込むと切羽詰まってしまうし、ブラックリストに載ったら最後、どこも貸してくれなくなるので、焦げ付く前に借りられるなら借りてくださいって」  ――まずは手元にお金を置いておこうってことですね。  「そうです。その後、コロナが収まって、借りたお金に手を出していなければ繰り上げ返済して完済すればいいんで」  ――金利がかからないので借りても負担にならない点も、とりあえず手元にお金を置いておこうっていう心理になったんでしょうね。  「金利がかからないというのは、ちょっと正確じゃない。借りたら金利は一時的に払います。その間に必要な手続きをすると、後日、金利分が県から戻ってくるんです。『実質無利子』という言い方をするのはそのためです。だから、一定の体力がないところは借りられない。私のように数百万円くらいなら大した金利ではないかもしれないが、千万円単位になると金利も安くないからね」  ――売り上げが戻らないことには状況は変わらない感じですね。  「売り上げだけじゃない。光熱費や原材料費も上がっていて経営を圧迫している。電気代だけでも月1万数千円上がっていて、仕入れ代も毎月のように上がっている」  ――人手不足もかなり深刻?  「そう。中でも負担なのは人件費ね。いくらバイトを募集しても人が集まらない。集まらないから、他より時給を上げざるを得ない。時給だけじゃない。バイト代とは別に交通費やまかないも出さないと選んでもらえない。『あっちの店では交通費もまかないも出すって言っている』と天秤にかけられるので『じゃあ出すよ』って言うしかなくて」  ――ゼロゼロ融資のおかげで当面の厳しい状況を乗り越えられたのは間違いないんでしょうが、半面、実質無利子・無担保でも借りたものは返さなきゃならない。  「返済に苦労している人に適切な支援をしてくれると助かるんだけどね。よく『こういう支援制度があるので使ってほしい』って言われるんだけど、そういうインフォメーションって弱いので、こっちは全然知らないケースが多い。こっちから調べに行って、ようやく適当な支援策が見つかるっていうパターンが多いかな。ただ、せっかく見つけることができても今度は借りるまでが大変。細かい書類を書かされ2回も3回も訂正させられて、やっと受け付けてもらったと思ったら『検討の結果、ダメでした』って言われることもあるから」  ――知り合いとかにゼロゼロ融資を利用したけど返せなかったっていう人はいますか。  「いるかもしれないけど、そういう人は返せなくて店が潰れ、いつの間にかいなくなっちゃうんで、直接話を聞くことはまずないよね。厳密に言えば、潰れた原因が(ゼロゼロ融資を)返せなかったからかどうかも分からない。もともとコロナ前から経営状態が悪く、ゼロゼロ融資のおかげで生き延びられた店もあるでしょうから」  ――大概の人は厳しくても借りたものは返しているんですけどね。  「はっきりとしたデータとかがあるわけじゃないけど、30そこそこの若手は踏み倒す印象があるね。自分も(保証人になって)迷惑したことがあるんで。特にゼロゼロ融資は保証協会付きだから、踏み倒す奴もいるかもしれない」

  • 白河市南湖SC計画停滞で膨らむ「道の駅待望論」

     本誌昨年6月号で、白河市の南湖公園周辺のパチンコ店跡地で大型ショッピングセンター(SC)の開発計画が進んでいることを報じた。  予定地は国道289号沿いで、隣接地には業務スーパー白河店やファミリーマート南湖店などが立ち並ぶ。白河ラーメンの人気店にも近い。  予定地の地権者によると、開発業者はアクティブワン(白河市、鈴木俊雄社長)。白河市をはじめ、県内7カ所で大型商業施設「メガステージ」を展開しているデベロッパーだ。資本金1000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期の売上高16億5100万円、当期純利益2億0300万円。  昨年6月号の取材段階では、市内の経済人や地権者から「鈴木社長が周囲に開発する方針を明言している。すでに地質調査なども始まっている」、「テナントはヨークベニマルをはじめ、ユニクロや無印良品などを予定している」と聞いていた。  ところがそこから1年以上経っても開発が進む気配がない。計画は頓挫したのか。  前出・予定地の地権者に尋ねたところ、「アクティブワンからは半年前、『ウクライナ情勢の悪化により資材価格が高騰しているので、しばらく様子を見させてほしい』と言われています。加えてテナントとして候補に上がっていた無印良品などとの交渉がうまくいかず、別の店舗を探しているとも聞いています」と説明したうえで、こう話した。  「他の商業施設にも土地を貸しているが、計画が浮上してから1年半も放置される事例はあまりない。地代は払われているが、地目はすでに宅地に変更されているので、固定資産税も上がっている。怒っている地権者はいると思いますよ」  そうした中、市内では「商業施設計画がうまく進まないのならば、いっそその場所を利用して道の駅を作ればいいのではないか」という声も上がっているようだ。 大型SCの開発予定地  同市では現時点で道の駅を整備する計画はなく、過去に市議会で整備を提言された際には、鈴木和夫市長が「国道294号白河バイパスの完成を視野に入れながら、長期的に考えていく問題」と慎重な姿勢を見せていた。  ただ、2月に国道294号白河バイパス、南湖トンネルが完成。今年1月には、市議会の市民産業常任委員会が佐賀県鹿島市を視察した際、道の駅むなかたを訪れるなど、にわかに道の駅に注目が集まっている。そんな中、大型SC計画が停滞していることが分かったため、道の駅待望論が浮上したようだ。  前出・地権者は「目玉となるテナントが集められないぐらいなら、道の駅の方が集客を期待できそう」と歓迎するが、市内の経済人からは「道の駅候補地はほかにもある」という声も聞かれた。  アクティブワンの鈴木社長に見通しを尋ねたが「今の段階では何とも言えない」と話すに留まった。交通アクセスが良くなり観光客の往来が増えている南湖公園周辺。大型SCがさらなる同市の観光・商業振興の起爆剤になれるか。道の駅整備の行方と併せて、その動向が注目される。

  • 東山・芦ノ牧温泉を悩ます廃墟ホテル【会津若松】

     会津若松市の東山温泉と芦ノ牧温泉では、廃業した旅館・ホテルが廃墟化しており、温泉街の景観を損ねている。なぜ解体は進まないのか。あるユーチューバーの動画をきっかけに、廃墟ホテルの現状と課題を取材した。(志賀) 横行する!?ユーチューバーの〝無断侵入〟 https://www.youtube.com/watch?v=JlLZ_6UfrsQ 【芦ノ牧の迷宮】増築を重ね巨大化した廃ホテルの現状調査」  動画投稿サイト・ユーチューブで「【芦ノ牧の迷宮】増築を重ね巨大化した廃ホテルの現状調査」という動画が公開されている。投稿者は廃墟探索の様子を投稿している蓮水柊斗(はすみ・しゅうと)氏。撮影されているのは芦ノ牧温泉でかつて営業していた芦ノ牧ホテルだ。  動画には事務室に営業当時の書類がそのまま残されている様子や、客室で何者かが生活していた様子が収められていた。  芦ノ牧ホテルは昭和41年に開業。運営会社は㈲芦牧ホテル。リゾートブームが起きるバブル期の前にいち早く新館、別館を増築し、一時期は温泉街で最大のホテルとなった。当時のデータが残っているホームページによると、客室全47室。収容人数一般200人(団体280人)。全室渓谷側で眺望の良さが売りだった。 芦ノ牧ホテル  会津若松市内にスイミングスクールがなかった昭和50年代にいち早く屋内プールを整備したほか、近くに総合体育館も建設し、スポーツ合宿の団体客の受け皿となった。  周りの宿泊施設も設備投資に乗り出し、大型化が進むと、団体客の宴会向けにセクシーなスーパーコンパニオンパックを導入したり、冬場の閑散期に大衆演劇と観劇する老人会の無料送迎(県外にも対応)を始めた。  それらのサービスも、周囲が追随し始めると差別化が図れなくなり、売り上げが落ち込んだ。団体旅行から個人旅行へとトレンドが移ったことも痛手となった。  経営は創業者(室井家)の家族が行っていたが、外部から経営者を招くようになった。2009年には運営会社を株式会社にして、元プロ野球選手・小野剛氏を社長として招いた。売り上げは順調に見えたが、同温泉の事情通によると、室井一族で経営していたころの決算内容などをめぐり、内部でゴタゴタが続いていたという。  それからまもなくして震災・原発事故が発生。賠償金が支払われて立て直しを図ると思われたが、しばらくすると休業に入った。  同温泉の事情に詳しい人物は、「休業と言っても、実質は廃業。旅行代理店や取引業者は『いきなり連絡が取れなくなった。未払い金があるがこのまま踏み倒されるだろう』と嘆いていた。大きな被害を被ったところもある」と指摘する。  その後は営業再開することなく、増築により巨大化した廃墟が温泉街に残されることになった。冒頭で触れたユーチューブ動画に「芦ノ牧の迷宮」というタイトルが付いているのはそのためだろう。  こうした経緯もあり、動画は芦ノ牧温泉の関係者の間で話題になり、視聴した人も多かったようだ。ただ、「物件の所有者様や管理者様から敷地内及び建物内の立入許可を頂いたうえで内部の現状調査を行っております」という表記に疑問の声も出ている。というのも、地元関係者は誰も立入許可をしていなかったからだ。  芦ノ牧温泉の温泉街の土地は地元住民の入会地となっており、住民で組織される㈲芦ノ牧温泉開発事業所が一括で管理している。だが、同社の関係者は「こちらに問い合わせなどはありませんでした。うちでは一度、財産管理を依頼されている弁護士に断って、警察立ち会いのもとで入ったぐらいです」と述べる。  芦ノ牧温泉観光協会などにも問い合わせはなかったという。  同ホテルの建物の不動産登記簿を確認したところ、所有権は㈱芦牧ホテルのままだったが、2012年に会津若松市、令和2年に埼玉県に差し押さえられていた。それらはすぐ解除されたものの、同年12月に会津若松市が差し押さえ、その後は解除されていない。おそらく固定資産税が納付されていないと思われる。 運営会社社長は取材に応じず  そこで会津若松市観光課に確認したが、「市の方では差し押さえただけで建物の管理はしていない。ユーチューバーから問い合わせも来ていない」とのことだった。  同ホテル関連の建物・土地には根抵当権者・会津信用金庫による極度額8000万円の根抵当権が設定されていた。そこで同金庫の担当者にも確認したが、市観光課同様、管理には携わっておらず、問い合わせも来ていないということだった。  芦ノ牧ホテルはほぼ廃業状態だが、運営会社の㈱芦牧ホテルは現在も存続している。社長を務める小野氏は埼玉県狭山市で㈱GSLという会社を経営している。2008年設立。資本金3000万円。主な事業は飲食(焼肉店「ベイサイドTOKYO牧場」の展開)、野球教室(プリマヴェーラ・リオーネ)の運営など。民間信用調査機関によると、2022年9月期の売上高は1億8000万円(ただし、3期連続で同じ数字)。  SNSは数日に一度更新している。10月4日にはX(旧ツイッター)で《ドラフト同期の阿部慎之助が読売巨人軍の監督となった。凄い事である》とつぶやき、過去の写真を掲載していた。週刊文春2022年5月19日号に掲載された横浜高校野球部でのパワハラ指導に関する記事では、被害者の父親として小野氏が取材に応じている。  にもかかわらず、芦ノ牧ホテルに関しては建物を廃墟のまま放置し、地権者である㈲芦ノ牧温泉開発事業所に地代を支払っていないというから驚く。  ユーチューバー・蓮水氏に立入許可を出したのか、税金・地代の支払いを滞納していることについてどう考えるのか、そして今後、「芦ノ牧の迷宮」と化した廃墟をどうするつもりなのか。小野氏の連絡先を入手し、繰り返し電話をかけたが、つながらなかった。そこで、狭山市の㈱GSLを直接訪ねたところ、同社営業企画・野球塾講師の米田和弘氏が応対した。  米田氏が差し出した名刺には「芦ノ牧ホテル」の文字があった。そこで同ホテルについて話を聞きたいと伝えると、「小野は東京・練馬の事務所にいたり、出張していることが多い。芦ノ牧ホテルは老朽化や地震の影響も含めて基本的に廃業している状態ですね。小野に伝えておきます」とあっさり答えたが、10日以上経っても電話はなかった。  あらためてメールで小野氏に取材を申し込んだが返事がなかったので、米田氏に連絡を取ったところ、「小野には伝えましたが、都合が合わないとのことでした。申し訳なかったです」と話した。都合が悪い取材には応じないのだろう。  一方で、ユーチューバーへの立入許可に関しては「担当弁護士の対応は小野が担当しているので私の方では分かりかねますが、私が把握している限り、ユーチューバーの立ち入りについて会社として許可を出したことはありません」と話した。  冒頭のユーチューバー・蓮水氏はいったい誰に許可を取ったのか。X(旧ツイッター)を通して質問を投げかけたところ、以下のような返信があった。  《動画の制作、編集は全て私が行っておりますが企画や、所有者様、管理者様の調査や立入許可については私1人ではなく、当YouTubeチャンネルの調査部がメインで行っております。倒産物件なども多く、所有権移転などされていない物件が大半です。そのなかでの所有者様や管理者様を探すのは並大抵ではありません。芦ノ牧は、4物件のホテル旅館を撮影していますが、全て所有者様や管理者様と直接お会いしています。まだ未配信の物件も多数ありますが全て立入許可済みでの撮影を行っております》  結局誰から許可を得たのかよく分からず、何か隠していることがあるのではないかと疑わざるを得ない回答だった。そもそも「調査部」としているが、企業などで大規模にやっているアカウントには見えない。小野氏、弁護士と連絡が取れなかったので断言はできないが、廃墟ホテルの権利関係が複雑になっていることを逆手に取り、あえてテーマに選んでいるようにも見える。  そういう意味では〝限りなく黒に近いグレーな動画〟と思って見た方が良さそうだ。ほかの廃墟系ユーチューバーも推して知るべし。 廃墟ホテルが放置される理由  芦ノ牧ホテルの建物の窓ガラスには「不法侵入者を発見時、警察に通報いたします」と張り紙されており、鍵がかかっている。だが同温泉関係者によると、侵入経路があるようで、肝試しや動画配信目的で勝手に侵入する人が後を絶たない。  芦ノ牧温泉には芦ノ牧ホテル以外にも新湯、元湯、美好館、ホテルいづみやなどの廃墟ホテルがあるが、こちらに関しても中に入った形跡があったり、電気が通っていないのに夜に明かりがついていたりするという。  本誌昨年6月号「猪苗代〝廃墟ホテル〟で配信者が花火」という記事では、廃墟探索がユーチューバーにとって手軽に視聴回数を稼げる人気コンテンツとなっており、中には火災リスクお構いなしで、花火で遊ぶ動画もあったことを報じた。  「芦ノ牧温泉に限らず、廃墟ホテル内を通っている配線を盗んで売りさばく業者もいるようです。実際、各温泉の観光協会などに問い合わせがあるようで、廃墟ホテルの前で怪しい車を見かけることもあります」(同温泉の事情に詳しい人物)  廃墟化した旅館・ホテルが温泉街に残り続けることで、イメージ悪化につながるばかりか、実際に良からぬ輩が出入りしている、と。  だからこそ、廃墟ホテルは解消した方がいいが、ひとたび廃業し廃墟化してしまうと、解体するのは難しい。所有者と連絡が取れなくなっている可能性が高いためだ。  解体には億単位の金がかかり、所有者が必要額を捻出できないという事情もある。最近は解体費用が高騰しており、建物にアスベストなどが使われている場合は調査などの対策が求められるので、さらにハードルが上がっている。  仮に高額な解体費用を負担して更地にしたところで100万円単位の価値しかないし、芦ノ牧温泉の場合、原状復旧して地権者(芦ノ牧温泉開発事業所)に返さなければならない。逆に建物を残したままにしておくと、固定資産税はかかるものの、建物の固定資産税価格は耐用年数が満了となってからは新築時よりかなり低くなるので、所有者は「大した税額ではないし、解体するより安上がりで済む」と放置するようになる。  芦ノ牧ホテルのように固定資産税を滞納すれば、財産である不動産を当該自治体(芦ノ牧温泉の場合は会津若松市)に差し押さえられ、競売にかけられる。ただ、それに当たって行われる不動産鑑定には100万円単位の金額がかかるという。競売で売れる見込みがある物件ならともかく、誰も買う見込みのない廃墟ホテルにそれだけの経費をかけると自治体の損失につながりかねないため、担当者も対応に及び腰となる。  こうして廃墟ホテルが放置されていくわけ。  芦ノ牧温泉のある宿泊施設関係者は「今後も廃墟化が進む可能性が高い」と語る。 「丸峰観光ホテルの経営者が創業者一族からみちのりホテルズに代わりましたが(本誌9月号参照)、他の宿泊施設も経営者が大手・県外資本に代わったところが多い。安く買い叩けば、設備投資分の回収を考えなくて済むので、宿泊料金を安く抑えられ、より集客を図りやすいという狙いがあります。今後はインバウンド・富裕層狙いの高級路線と、大手資本による低価格路線の二極化が進むと予想されます。その流れに取り残された中途半端な宿泊施設は力尽き、廃墟化がさらに進むかもしれません」 東山温泉にも4つの廃墟ホテル ホテルキャニオン跡  芦ノ牧温泉と並び同市を代表する温泉街・東山温泉でも、新栄館、ホテルキャニオン、アネックスシンフォニー、玉屋と4つの廃墟ホテルがある。新栄館は芦ノ牧ホテル同様、休業中だが、残り3つは運営会社が倒産した。  市によると解体費用の概算は合計約10億円(新栄館約1億4500万円、ホテルキャニオン約3億5000万円、アネックスシンフォニー約2億9700万円、玉屋約2億1000万円)。ただ前述した通り、解体費用が高騰しているのでさらに金額が上がっている可能性が高い。  会津若松市は昨年、東山温泉、芦ノ牧温泉が今後10年間で目指すべき方向性などを取りまとめた会津若松市温泉地域景観創造ビジョンとそれに伴うアクションプランを策定した。その中で、東山温泉の4つの廃墟ホテルについて、令和14年度までに解体する方針が示された。撤去費用については《地域の事業者も負担をしながら国等の補助金を活用する》と示された。  ここで言う補助金とは観光地の施設改修や廃屋の撤去などを支援する「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値事業(旧・既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業)」のことだ。  事業によって補助率、補助上限額が定められており、廃屋撤去は補助率2分の1、補助上限額1億円となっている。  解体後の土地利用に関しては当初より緩和されており、公園緑地や足湯、オープンスペース、景観に配慮した駐車場などを整備する目的で解体する場合も補助対象になる。  休業中の新栄館の目の前には「くつろぎ宿 新滝」が立地する。同旅館を運営する㈱くつろぎ宿の深田智之社長は「自己負担分は当社が負担してもいいので、行政が音頭を取ってもっと早く解体に着手することを期待しています」と語る。  震災後の2013年に廃業した旅館・高橋館の建物が倒壊したまま放置される問題が起きたとき、新滝では約2000万円を負担し解体、顧客用の駐車場として整備し直した。この件も加えてこれまで5件の建物を自己負担で解体し、合計1億円超を投じてきたという。  「原瀧さんも数千万円かけて廃屋の解体に協力し、跡地を食事会場や駐車場として活用している。このほか安全対策や景観対策など民間レベルで話し合って取り組んでいます。ただ、それ以上に廃墟の負のイメージは大きい。行政は『所有者がいるから手を出せない』などの理由で動きが鈍いですが、お金ならわれわれ民間が負担しても構わないので、もっと積極的に動いてほしい」(深田氏)  深田氏によると、東山温泉には年間約50万人が宿泊する。平均単価1万5000円と考えると、50~100億円の売り上げが生まれる。たとえ解体費用に数億円かかるとしても、民間・行政が連携し、数年かけて取り組めば、廃墟ホテルをすべて解体して温泉街の景観を整備することも実現不可能ではない、と。  これに対し、会津若松市観光課の担当者はこのように話す。  「地元で解体費用を持つからすぐ解体しましょうと言われても、実際に解体を進めるとなれば、清算人を立て、裁判所での手続きを進めなければならない。差し押さえたと言っても所有権が移ったわけではないので、簡単に進まないのが実際のところです」  東山温泉の関係者からは「コロナ禍でダメージを受け、業績が低迷しているところも多い中、協力して解体費用を出そうと言っても意見をまとめるのは難しいだろう」、「過去に行政主導で同ビジョンのようなものが何度も作られたが、結局うまくいかなかった。今回もうやむやのうちに終わりそうだ」と冷ややかな意見も目立った。 鍵を握る官民の連携 会津若松市役所  こうして見ると、廃墟ホテル問題の解決は簡単ではなさそうだが、芦ノ牧温泉では3年前、宿泊施設が協力してお金を出し合うことを決め、前述の補助事業に申請し採択された経緯もある。  ホテルいづみや跡を解体し、約2700平方㍍の敷地を使ってグランピング施設、貸し切りの温泉浴場を備えた複合レジャー施設を整備するというもの。解体費用は約1億円。裁判所などの手続きを進め、芦ノ牧グランドホテルを運営するベンチャラー(新潟市)を中心に約5000万円を自己負担する方針がまとまった。  ところが、長引くコロナ禍で売り上げが激減したため、計画はストップ。資金繰りを優先し、申請を取り下げたのである。ただ、裁判所などの手続きは済んでおり、各ホテル・旅館の業績が回復次第、再挑戦できるという意味では明るい兆しと言えよう。  芦ノ牧温泉の関係者は「丸峰観光ホテルは経営者が変わって、地域と協力して盛り上げようというムードが出てきた。これからの展開に期待したい」と語る。  会津若松市観光課によると、昨年の宿泊者数は東山温泉約41万5000人、芦ノ牧温泉約12万2000人。コロナ禍前の2019年の宿泊者数は東山47万3000人、芦ノ牧21万4000人。20年前の2002年は東山50万2000人、芦ノ牧34万6000人。じりじりと減っていたところをコロナ禍が直撃した格好だ。  各ホテル・旅館は燃料費高騰などを反映して料金を上げているので、見かけ上の売り上げはそれほど落ち込んでいないとのことだが、「3年にわたり売り上げが低迷したダメージがどのように出るか分からない」(ある宿泊施設経営者)。こうしたときだからこそ、将来を見据えて温泉街の景観改善に取り組むことが重要になるのではないか。  島根県津和野町では廃墟ホテル問題を解決するため、所有者と相談し、土地と建物を合わせてタダ同然の1000円で取得。約1億5000万円かけて建物の撤去と公園の整備を進めた。関係者の熱意とアイデア次第でやりようはあるということだ。  8月に4選を果たした室井照平市長を中心に、市と温泉街がいかに一致団結して、問題解決に挑めるかが鍵を握る。

  • 「ギャンブル王国ふくしま」の収支決算

     かつて雨後の筍のごとく各地につくられた場外ギャンブル施設が今、青息吐息にある。インターネット投票への移行が年々進んでいたところに新型コロナが追い打ちをかけ、場外施設に足を運ぶ人が急速に減っている。客離れが進めば売上が減るのは言うまでもないが、公営競技自体はネット投票に支えられ好調。場外施設は時代の大きな変化により、役割を失いつつある。(佐藤仁) 県民の〝賭け金〟は少なくとも年100億円超  県内には福島市に福島競馬場、西郷村に場外馬券売場のウインズ新白河、いわき市にいわき平競輪場、郡山市に同競輪郡山場外車券売場がある。このほか場外車券売場として福島市にサテライト福島、二本松市にサテライトあだたら、喜多方市にサテライト会津、南相馬市にクラップかしま、場外馬券売場として磐梯町にオープス磐梯、場外舟券売場として玉川村にボートピア玉川がある。サテライト福島では車券だけでなく舟券と馬券も発売している。  かつては飯舘村にニュートラックいいたてという場外馬券売場もあったが、震災・原発事故で閉鎖。また実現はしなかったが、猪苗代町、会津美里町では舟券、白河市では舟券とオートレースの場外施設計画が浮上したこともあった。今から20年以上前の出来事だ。  そうした乱立模様を本誌は「ギャンブル王国ふくしま」と表して報じてきたが、それら場外施設は今どうなっているのか。まずは県内に本場があるウインズ新白河といわき平競輪郡山場外から見ていきたい。  ウインズ新白河は平成10年10月に東北地方初のJRA場外施設として西郷村にオープンした。  JRAは本場の年間売上と入場者数は公表しているが、ウインズの数値は公表していない。念のためJRA広報にも問い合わせたが「答えられない」とのことだった。  では、福島競馬場の売上と入場者数はどうなっているのか。表①を見ると、売上は横ばいから令和に入って増加。令和3年が落ち込んだのは2月に起きた福島県沖地震で施設が損傷し、開催が3回から2回に減ったことが原因だが、もし3回開催されていたら単純計算で1400億円を超えていたとみられる。一方、入場者数は23万人前後で推移していたのが令和2年以降激減。新型コロナで無観客や入場制限せざるを得なかったことが響いた。 表① 福島競馬場の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4売  上(円)1186億1216億1138億1203億1228億1210億1289億1331億960億1453億入場者数(人)24.2万26.6万23.3万23.6万23.0万24.1万23.6万0.6万3.3万12.0万※開催数は通常年3回だが、平成26年は4回、令和3年は2回だった     これを見て気付くのは、新型コロナで入場者数が減ったのに売上は伸びていることだ。背景にはインターネット投票の急速な拡大がある。  図①はJRAの売得金の推移だ。平成9年はJRAにとってピークの売上4兆円を記録したが、この時、売上に最も寄与したのはウインズ等の2兆0827億円で、電話・インターネット投票は9273億円だった。その後、ネット投票の割合が増え、新型コロナが発生した令和2年に急増すると、4年は売上3兆2700億円の8割超に当たる2兆8000億円を占めるまでになった。対するウインズは3054億円と1割にも満たない。 図①  JRAの売得金の推移  https://www.jra.go.jp/company/about/financial/pdf/houkoku04.pdf23ページ目  場外施設はネット投票とは無関係で、足を運んだ客が馬券を買わなければ売上に結び付かない。そう考えると、ウインズ新白河が好調とは考えにくく、売上、入場者数とも減少傾向にあると見ていい。  場外施設の売上を探るヒントに設置自治体に納める協力費がある。公営競技の施行者(自治体等)は、施設の売上に応じて施設が置かれている自治体に環境整備費などの名目で協力費を支払っている。金額は設置時に「年間売上の何%」と決められ、相場は0・5~1%。つまり協力費が1%なら、100倍すれば施設の売上が弾き出せる。売上は「地元住民から吸い上げた金」とも言い変えられる。  協力費についてはもう少し説明が必要だ。例えば〇〇場外施設でA競馬、B競馬、C競馬の馬券を発売しているとする。施設における各競馬の年間売上はA競馬1000万円、B競馬1200万円、C競馬1500万円、施設がある自治体への協力費が1%とするとA競馬10万円、B競馬12万円、C競馬15万円。これを各競馬の施行者が自治体に納め、その合計(37万円)が施設から支払われた協力費と解釈されるわけ。  ただしJRAには何%といった相場がなく、要綱にある計算手法に基づいて算出される。なお要綱は非公表のため、計算手法は不明。  福島競馬場は福島市に「競馬場周辺環境整備寄付金」という名称で毎年2億数千万円納めている。同寄付金は一般財源に入り、競馬場周辺などの環境整備費に充てられている。ウインズ新白河も西郷村に「JRA環境整備寄付金」という名称で毎年2300万円前後納めている。 本場の売上は全体の1% いわき平競輪郡山場外(郡山市)  いわき平競輪郡山場外の歴史は古い。設置されたのは平競輪場の開設から9カ月後の昭和26年11月。現在のJR郡山駅東口に新築移転したのは昭和58年。その後、マルチビジョンや特別観覧席が設置され、平成18年にリニューアルして今に至る。  いわき市公営競技事務所によると郡山場外の年間売上と入場者数は表②の通り。どちらも平成25年度をピークに減っているが、入場者数は令和3年度以降、新型コロナの影響から若干持ち直している。  これを本場のいわき平競輪場と対比すると、福島競馬場とウインズ新白河の関係とよく似ていることが分かる。同じく表②を見ると、売上が減少している郡山場外とは逆に、本場の売上は平成28年度を底に回復しているのだ。令和4年度は平成28年度の倍の売上を記録した。 表② いわき平競輪場と郡山場外の売上と入場者数の推移 H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4いわき売  上(円)191億152億158億147億207億203億152億218億244億289億入場者数(人)9.7万7.9万9.0万8.1万10.6万7.8万11.5万8.1万7.6万11.9万郡 山売  上(円)4.2億3.1億3.1億2.4億2.4億2.4億1.8億1.5億1.6億1.4億入場者数(人)3.9万3.2万3.4万2.9万2.9万2.8万1.9万1.7万1.8万1.9万※郡山場外の入場者数は本場開催時のもの  本場の売上が増えた要因はJRAと同じくネット投票の急拡大にある。図②は競輪施行者全体の売上額を示したものだが、2兆円近い売上があった平成3年度はネット投票の割合は1割にも満たず本場が8割を占めた。それが令和4年度には真逆になり、売上1兆0908億円のうち8割がネット投票で8551億円、本場はたった1%の148億円にとどまっている。 図2 競輪施行者全体の売上額の推移 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/seizo_sangyo/sharyo_kyogi/pdf/018_01_00.pdf 2ページ目  ならば、ネット投票の恩恵にあずかれない郡山場外は今後どうなるのか。いわき平競輪場は売上から毎年4億円前後をいわき市に納めているのに対し、郡山場外(施行者のいわき市)が郡山市に納めている「郡山場外車券売場周辺環境整備負担金」は平成29年度2260万円から毎年度減り続け、令和4年度1030万円に落ち込んでいる。  郡山市財政課によると、同負担金は平成28年度まで定率制で2000万円納められていたが、いわき市と協議し29年度から「郡山場外における前々年度の売上の0・7%」に変更された。理由は売上が減る中で定率制の維持が困難になったため。ただ「最も多い時で7000万円とか4000万円の時代もあった」(郡山市財政課)というから、郡山場外のかつての好調と現在の凋落が見て取れる。  他の場外車券売場の現状も見ていこう。サテライト福島は平成18年4月にオープンした。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売。1日最大3場の車券が買える。開催スケジュールを見ると休館日はなく、毎日どこかの車券が発売されている。  施設の設置者は㈱サテライト福島(福島市瀬上町)。  10月某日の午後、施設をのぞいてみると、220ある観覧席に対し客は30人くらいしかいない。高齢者ばかりで、若者は皆無。 訪れる客は高齢者ばかり サテライト福島  サテライト福島が扱っているのは車券だけではない。同施設は3階建てで、1階で車券、2階で舟券、3階で馬券が発売されている。  2階は平成23年に舟券売場に改装してオープンした。ボートレース桐生をメーンに各地の舟券を発売。1日最大8場もの舟券が買える。開催スケジュールを見ると、こちらも休館日はゼロ。  観覧席は100席あるが、客は30人くらいで高齢者ばかりだった。  3階は平成26年に馬券売場に改装してオープンした。南関東公営競馬(大井、船橋、浦和、川崎競馬)、盛岡競馬の全競走と各地の一部馬券を発売。JRAのレースがある土日は休館している。  施設の設置者は㈱ニュートラックかみのやま(山形県上山市)。  観覧席は190席あるが客は40人くらいでこちらも高齢者が中心。  サテライト福島の売上(推計)は表③の通り。今回の取材で車券を発売する施設は売上の0・5%、馬券を発売する施設は同1%、舟券を発売する施設は同0・5~1%を協力費として地元自治体に納めていることが分かった。各施設は売上や入場者数を明かしていないが、各自治体は毎年度、施設(競技の施行者)から協力費がいくら納められているか公表している。  例えば、サテライト福島からは令和4年度、車券分として310万円(納入者はいわき平競輪の施行者のいわき市など)、舟券分として440万円(納入者はボートレース桐生の施行者の群馬県みどり市など)、馬券分として500万円(納入者は特別区競馬組合など)、計1250万円が福島市に「寄付金」という名目で納められた。これをもとに推計すると、同施設の同年度の売上は19億8000万円となる。福島市民を中心に、これほどの巨費がギャンブルに吸い上げられているのかと思うと暗澹たる気持ちになる。10年間の売上合計は275億5000万円。  平成18年6月にオープンしたサテライトあだたらは、いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。日中からナイターまで連日休みなく開館しているのはサテライト福島と同じだ。  施設の設置者は㈲本陣(茨城県八千代町)。  サテライトあだたら(施行者のいわき市など)から二本松市に納められている「環境整備費」は平成25年度1100万円、令和4年度530万円。協力費は売上の0・5%。これをもとに推計した売上は表③の通り。平成25年度は22億円、令和4年度は10億6000万円、10年間の合計161億円。10年経って売上が半減しており、経営はかなり厳しいのではないか。 表③ 県内場外施設の売上の推移(推計) (円) H25H26H27H28H29H30R元R2R3R4サテライト福島27.0億35.1億36.4億33.4億29.8億25.9億22.5億19.2億23.4億19.8億サテライトあだたら22.0億22.0億21.6億19.6億17.0億13.4億12.6億10.8億11.4億10.6億サテライト会津14.4億13.6億13.4億11.8億11.2億10.6億9.8億8.2億9.2億8.6億クラップかしま19.6億23.4億22.6億22.8億19.0億17.6億15.4億12.4億9.0億7.8億オープス磐梯7.9億6.9億6.9億5.8億5.2億5.9億4.4億2.8億3.4億3.6億ボートピア玉川29.9億29.7億29.7億31.4億29.1億28.9億28.2億28.0億29.5億25.4億※車券を発売しているサテライト福島、あだたら、会津、クラップかしま、馬券を発売しているオープス磐梯は「売上の0.5%」を施設が置かれている自治体に協力費として納めている。※舟券を発売しているボートピア玉川は「売上の1%」を施設が置かれている玉川村に納めている。※サテライト福島では車券のほか馬券と舟券も発売。馬券分として「売上の1%」、舟券分として「同0.5%」を福島市に納めている。  サテライト会津のオープンは平成6年10月。新潟県弥彦村の弥彦競輪をメーンに各地の車券を発売している。通常は1日2場、月に数日あるナイター開催時は3場の車券が買える。休館は月に1、2日。 サテライト会津(喜多方市)  施設の設置者は㈱メイスイ(いわき市)だったが、現在の管理者は㈱サテライト会津(喜多方市)。  10月某日、施設を訪れると、1階の460ある観覧席に対し客は60人超、2階の特別観覧席はゼロ。椅子とテーブルには書きかけのマークカードや新聞が散乱していた。 サテライト会津はその立地から山形方面の来客も見込まれていたが、駐車場に止まっていた車六十数台を確認すると、ほとんどが会津ナンバー(そのうち3分の1が軽トラ)。山形ナンバーは2台しかなかった。  サテライト会津(施行者の弥彦村など)から喜多方市に納められている「周辺環境整備及び周辺対策に関する交付金」は平成25年度720万円、令和4年度430万円。協力費が減っているということは売上も減っているわけで(表③参照)、入場者数も「令和3年度は6万7000人、4年度は6万1000人と聞いている」(喜多方市財政課)というから、年300日稼働として1日二百数十人にとどまっている模様。10年間の売上合計110億8000万円。  最後はクラップかしま(旧サテライトかしま)。オープンは平成10年10月。いわき平競輪をメーンに各地の車券を発売している。休館日はなく1日最大6場の車券が買える。  施設の設置者はエヌエヌオー情報企画㈱(いわき市)だったが、平成19年に花月園観光㈱(神奈川県横浜市)に所有権が移った。震災・原発事故後は2年間休止していたが、25年6月に再開。令和3年7月からは㈱チャリ・ロト(東京都品川区)に運営が代わり、施設名も今のクラップかしまに変更された。  クラップかしま(施行者のいわき市など)から南相馬市鹿島区に納められている「周辺環境整備費」は平成26年度1170万円、令和4年度390万円。令和に入ってからは激減している。背景には新型コロナで客足が途絶えたことと、新しい購入システムであるチャリロトの導入でキャッシュレス化が進み、現金志向の高齢者が敬遠したことがある。令和3、4年の福島県沖地震で建物が損傷したことも影響した。 南相馬市鹿島区地域振興課によると協力費は当初売上の1%だったが、平成20年に0・8%、21年に0・7%、22年に0・5%に引き下げられた。これをもとに売上を推計すると、平成25年度19億6000万円、令和4年度7億8000万円。10年間の合計169億6000万円。一方、1日の入場者数は当初700人。その後、次第に減っていき現在180人前後。 売上絶好調の公営競技 オープス磐梯(磐梯町)  残る二つの場外施設は関係する競技の現状も交えて紹介したい。  オープス磐梯は新潟県競馬組合の場外馬券売場として平成12年12月にオープンしたが、14年に新潟県競馬が廃止され、その後は南関東公営競馬の馬券を発売している。  施設を所有するのはマルト不動産㈱(会津若松市)、同社から管理を任されているのは㈱オープス磐梯(磐梯町)、運営は特別区競馬組合(大井競馬を主催する特別地方公共団体)が100%出資する㈱ティーシーケイサービス(東京都品川区)。  オープス磐梯(施行者の特別区競馬組合など)から磐梯町に納められている「販売交付金」は平成25年度780万円、令和4年度360万円。協力費は売上の1%なので、これをもとに売上を推計すると平成25年度7億8000万円から令和4年度3億6000万円に半減している(表③参照)。10年間の合計52億8000万円。  このように場外施設は非常に苦戦しているが、実は地方競馬は今、過去最高の経営状況にある。令和4年度は地方競馬にとって初の売上1兆円超えを記録した。  興味深いのは、平成3年度に1500万人だった入場者数が年を追うごとに減り、新型コロナが拡大した令和2年度には74万人まで落ち込んだにもかかわらず、売上は平成23年度以降伸びていることだ。原因は前述しているように、ネット投票の急拡大にある。令和4年度の売上1兆0704億円のうち、ネット投票は9割に当たる9621億円を占めた。これに対し、場外施設は1割にも満たない817億円。オープス磐梯が苦戦するのは当然だ。  ボートピア玉川はボートレース浜名湖の舟券をメーンに発売する場外施設として平成10年10月にオープンした。地元住民によると「舟券を買うだけでなく、施設が綺麗で食堂も安いので、高齢女性の憩いの場になっている」というから他の場外施設とは少し趣きが異なるようだ。  施設の設置者は㈱エム・ビー玉川(群馬県高崎市)だったが、平成16年に浜名湖競艇企業団に売却。エム・ビー玉川は同年9月に解散した。  ボートピア玉川(施行者の浜名湖競艇企業団など)から玉川村に納められている「環境整備協力費」は平成25年度2990万円、令和4年度2540万円。他の場外施設より高額で推移している。協力費は売上の1%なので、これをもとに推計すると売上も毎年30億円前後で安定していることが分かる(表③参照)。10年間の売上合計290億円。  公営競技の売上が近年好調なのは前述したが、ボートレースは特に好調だ。一般社団法人全国モーターボート競走施行者協議会によると、売上は平成22年度に8434億円で底を打った後、翌年度から回復。令和3年度は2兆3900億円、4年度は2兆4100億円を記録した。地方競馬は1兆円超えで過去最高と書いたが、ボートレースはその2倍も売り上げている。  背景には、やはりネット投票の急拡大が影響している。令和4年度は全体の8割に当たる1兆8800億円がネット投票による売上だった。  ボートピア玉川は他の場外施設と違って好調をキープしているが、ネット投票の割合がさらに増えた時、売上にどのような変化が表れるのか注視する必要がある。 地元住民から吸い上げた金  設置当時、地域振興に寄与すると盛んに言われた場外施設だが、例えば雇用の面では設置業者のほとんどが「地元から100以上雇う」などと説明していた。しかし今回の取材で各施設をのぞいてみると、インフォメーション窓口に1、2人、食堂に1、2人、警備員3、4人、清掃員2、3人という具合。発売機や払戻機は自動だから人は不要。いわき平競輪場(郡山場外も含む)は65人を直接雇用し、警備や清掃などを地元業者に委託して計100人の雇用につなげ、福島競馬場もレースがある週末に多くの雇用を生み出しているが、場外施設が期待された雇用に寄与しているようには見えない。  協力費も設置当初は5000万~1億円などと言われていたが、現状は数百万円。これでどんな地域振興ができるというのか。本場近くの学校や場外施設周辺の道路が協力費によって綺麗になった事実はあるが、そもそも地元住民から吸い上げた金が回り回って自治体の財源になっていること自体、地域振興とは言い難い。かえってギャンブル依存症の人を増やした可能性があることを考えると、金額でははかれないマイナスの影響をもたらしたのではないか。内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局が令和元年9月に公表した資料によると「ギャンブル等依存が疑われる者」の割合は平成29年度全国調査で成人の0・8%(70万人)と推計されている。政府はギャンブル等依存症対策基本法を施行するなど対策に乗り出しているが、本場や場外施設にギャンブル依存症の相談ポスターが貼られているのは違和感を覚える。  場外施設の売上は「地元住民から吸い上げた金」と前述したが、ここまで取り上げた施設(ネット投票が含まれる福島競馬場、いわき平競輪場、売上不明のウインズ新白河は除く)の過去10年の売上合計は1080億6000万円。地域振興という名のもとに、少なくとも福島市の今年度一般計当初予算(1147億円)に匹敵する金がギャンブルに消えたことは異様と言うべきだろう。  しょせんギャンブルは、胴元が儲かる仕組みになっている。公営競技のいわゆる寺銭(施行者が賭ける者に配分せず自ら取得する割合=控除率)は25%。払戻率は75%。  窓口や発売機で買うのが当たり前だった時代から、ネット投票の拡大により場外施設の役割は終わりに近付いている。今、施設を訪れている客はネットに疎い高齢者ばかり。10年後、この高齢者たちが来なくなったら施設はガランとしているはずだ。 役割終えた場外施設  実際、全国では場外施設の閉鎖が相次いでいる。北海道白糠町のボートピア釧路は開業から5年後の平成11年6月に18億円の赤字を抱えて閉鎖。千葉県習志野市のボートピア習志野は新型コロナの影響で令和2年7月に閉鎖された。新潟県妙高市のサテライト妙高と宮城県大和町のサテライト大和も来年3月末で閉鎖することが決まった。  ボートピア釧路は見通しの甘さが引き金になったが、あとの3施設は新型コロナとネット投票による低迷が原因。年間売上は10億円未満だったようだ。県内の施設も状況は同じ。  こうした中、宮城県仙台市には新しい時代に入ったことを感じさせる施設がある。JRAが昨年11月にオープンした全国初の馬券を発売しない施設「ヴィエスタ」だ。若いライト層をターゲットにレースのライブ映像や過去の名馬・名レース、競馬関連情報などを大型ワイドスクリーンで放映。収容人数75人で、無料のエリアや有料のラウンジ席がある。馬券は発売していないがスマホは持ち込めるので、映像を見ながらネット投票することは可能。JRAは「競馬の魅力を感じてもらうための施設。ネット投票は想定していない」と言うが、そんなはずはないだろう。  ちなみにパチンコ業界は、ピーク時30兆円と言われた市場規模が2022年は14・6兆円と半減。内訳はパチンコ8・8兆円、パチスロ5・8兆円。ホールの売上が下がり、コロナ禍で閉店・廃業が相次いだだけでなく、有名メーカーの経営も立ち行かなくなっている。  昭和後半から平成にかけて公営競技の売上を支えたのは場外施設だった。本場の入場者が減る中、それをカバーするため施行者は各地に施設をつくった。中には強引なやり方で設置しようとして地元住民とトラブルに発展したケースもあり、大阪、名古屋、高松、新橋、沖縄では工事差し止め訴訟が起こされた。  それから30年余。場外施設は今、往時の勢いを失っている。閉鎖へと向かうのは避けられないだろう。

  • イトーヨーカドー福島店閉店で加速する中心市街地空洞化

     9月中旬、総合スーパー イトーヨーカドー福島店、イトーヨーカドー郡山店について、閉店が検討されていることが福島民報の報道で明らかになった。  店舗を運営するイトーヨーカ堂の親会社・セブン&アイホールディングス(HD)は来年5月ごろ閉店する方針であることを正式に認めた。郡山店の後継店はグループ企業の食品スーパー・ヨークベニマルを核テナントとする方向で検討しており、福島店の後継店は未定だという(福島民報9月21日付)。  同HDでは3月、地方都市の採算性が低い店を中心に、33店舗を削減する方針を打ち出していた。  特にその影響が懸念されるのは、JR福島駅の西口駅前に立地する福島店の閉店だ。  同店は1985年オープン。敷地面積2万3750平方㍍、地上4階建て。食料品や日用品、衣料品を販売してきた。計680台分の駐車場(平面・立体)を備える。  かつては工場や資材置き場、国鉄の関連施設が並び、〝駅裏〟と呼ばれていた福島駅西口。1982年の東北新幹線大宮―盛岡駅間開業を機に周辺の再開発事業が進む中で、昭栄製紙福島工場跡地にオープンし、人の流れを変えたのが同店だった。  近くの太田町商店街とは当初から〝共存共栄〟の関係。同商店街の振興組合に福島店も加入し、駐車場を2時間無料にして回遊性を高めたり、駐車場で地域の夏祭りを開催するなど、地域貢献に熱心だった。歴代店長は商店街の店主らと積極的に交流していたという。  もっとも、後継者不足により商店街の店舗は年々減少し、振興組合は10年ほど前に解散。現在は個人的な付き合いを除き、福島店と商店街との交流は途絶えているとか。  ある商店街の店主はこう嘆く。  「駅前の一等地なので集客が期待できる商業施設や公共施設を整備してほしい思いはあるが、駅東口周辺でも再開発事業が進められており、再開発ビルに市の公共施設(コンベンションホール)も入居する。そちらの調整もあるので、市では身動きが取れないでしょう。伊達市で建設が進められているイオンモール北福島(仮称、2024年以降開店予定)がオープンすれば、福島市の商業も間違いなく打撃を受ける。このあたりは寂れる一方で、明るい要素はありませんね」  駅東口周辺の再開発に関しては資材価格高騰のあおりで当初計画より2割以上の増額が見込まれたため、計画の再調整を余儀なくされた。オープンは2027年度にまでずれ込む見通しだ(本誌7月号参照)。  車社会の福島市では、郊外の大型商業施設、大手チェーンの路面店を利用する人が多く、伊達市にイオンモールが開店すれば人気を集めるのは必至。そうした中で中心市街地の空洞化状態が続けば、買い物客流出は加速する一方だろう。  土地・建物を所有しているのは不動産大手・ヒューリック(東京都)。同社ではイトーヨーカドー鶴見店が入居する建物を商業施設「LICOPA(リコパ)鶴見」としてリニューアルした実績があり、過去には福島店も活性化策の対象となっていると報じられたことがある。本誌の取材に対し、同社担当者は「検討しているかどうかも含めてお答えすることができない」と話したが、今後どのような判断を示すのか。  「福島駅前は商業機能が脆弱で、人が集まりたくなる魅力に欠けている。コンベンション機能が中心部に必要だ」と話し、市が250億円以上負担する再開発を推し進めてきた木幡浩市長。逆風の中で中心市街地にどうやってにぎわいを生み出すのか、正念場となりそうだ。

  • 「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

     本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。  磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。  同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。  「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」  こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。  磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。  以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。  村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。  ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。  こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。 会津バスのリリース 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。  同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。  ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。  ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。  ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。  ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。  ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。  単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。  一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。  磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。  前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。  この関係者はこう続ける。  「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」  こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。  そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。  これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。  猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。  この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。 補助名目に疑義 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。  「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」  同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。  もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。  猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。  ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。  一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。  「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」  北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。  補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。 あわせて読みたい 磐梯東都バス撤退の裏事情

  • 【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明  民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰観光ホテルを運営する㈱丸峰観光ホテル(星保洋社長)と、丸峰黒糖まんじゅうの製造・販売や飲食店経営などを行う関連会社㈱丸峰庵(同)が地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは今年2月28日。負債総額は2022年3月期末時点で、同ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円に上った。  本誌は4月号で民事再生を阻む諸課題を指摘。さらに5月号では元従業員の証言をもとに星氏の杜撰な経営を明らかにしたが、債権者、元従業員、同業者らが揃って疑問を呈していたのは、星氏が「自主再建を目指し、状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する」との再生方針を示したことだった。  債権者らは「自主再建ができるなら多額の負債を抱えることはなかったし、民事再生に頼らなくても済んだはず」と呆れた。大方の意見は、スポンサーを見つけ、星社長は退任し、新しい経営者のもとで再生を目指すべきというものだった。  丸峰観光ホテルは民事再生法の適用申請後も営業を続けていた。芦ノ牧温泉で働く人によると「黒字にはなっていないだろうが、週末を中心に宿泊客はそれなりにいますよ」。  記者も夏休み中の月曜日の朝、チェックアウトの時間に合わせて駐車場をのぞいてみたが、満車とまではいかないまでも首都圏ナンバーの車が多く止まっていた。  「ただ、従業員が次々と辞めていて、どこも人手不足ということもあり、他の温泉街の旅館が『ウチに来てくれそうな人はいないか』と熱心にリクルートしていました」(同)  再生の行方が見えてこない中、市内では「大手リゾートホテルが関心を示しているようだ」とのウワサも聞かれたが、7月25日、会津乗合自動車(通称・会津バス)が会見を開き、スポンサーとして支援することを正式に表明した。  会津乗合自動車㈱(会津若松市、佐藤俊材社長)は会津地方一円で路線・高速・貸切バスやタクシーを運行している。直近5年間の決算は別表①の通りで、コロナ禍により赤字が続いていたが、昨期は黒字に回復した。 表① 会津乗合自動車の業績 売上高当期純利益2018年23億9900万円1300万円2019年23億8200万円▲1400万円2020年16億6700万円▲2億7300万円2021年14億4700万円▲5000万円2022年17億5000万円4500万円※決算期は9月。▲は赤字。  会津乗合自動車は東日本最大級の公共交通事業を展開する「みちのりグループ」の傘下にある。㈱みちのりホールディングス(東京都千代田区、松本順社長)を頂点に、会津乗合自動車のほか岩手県北バス、福島交通、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船、みちのりトラベルジャパンで構成され、それぞれの会社もバス以外に旅行、整備、保険などのグループを形成。みちのりホールディングスは親会社として各社に100%出資(佐渡汽船のみ86%出資)している。同グループ全体の従業員数は5300人余、バスは2400台余に上る。  会津乗合自動車のプレスリリースによると、同社とみちのりホールディングスが丸峰観光ホテルのスポンサーに指名され、7月14日に基本合意書が締結された。正式なスポンサー契約は8月末に交わされる予定。  会津乗合自動車は民事再生計画の成立を前提に、星保洋氏が保有する全株式を無償で取得・消却したうえで第三者割当の方法により募集株式の全てを同社に割り当て、同社が全額払い込む100%減増資スキームで出資を行う。丸峰観光ホテルの新社長には佐藤氏が就き、同ホテルはみちのりグループの傘下に入る。  「バス会社がホテルを経営?」と思われる人もいるかもしれないが、会津乗合自動車が明かしている支援方針は興味深い。  会津乗合自動車は観光を基幹産業とする会津地方でバスとタクシーを走らせるだけでなく、旅行事業、人材派遣事業、売店事業を展開している。丸峰観光ホテルがある芦ノ牧地区にも路線バスを走らせている。これらの経営資源を生かし、ホテルと地元観光地との周遊ルートや旅行商品をつくり、交通と宿泊との連携や着地型商品の開発につなげ、バスとホテルがウィンウィンの関係になる仕組みを生み出そうとしている。  前出・芦ノ牧温泉で働く人も、こんな期待を寄せる。  「芦ノ牧は市の中心部から遠く離れ、公共交通は会津鉄道があるが、最寄りの芦ノ牧温泉駅から温泉街までは4㌔もある。高齢者やインバウンドの旅行客が増えているのに、訪れる手段がマイカーかレンタカーしかないのは厳しいが、会津バスが芦ノ牧の弱点である脆弱な交通をカバーしてくれれば、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館にとっても有り難いはず」  期待の背景にあるのは、それだけではない。  「会津バスが芦ノ牧全体を気にかけてくれていることが有り難い。実際、佐藤社長と話をしたら『全体が良くならないと自分の所も良くならない』と言っていましたからね。もし『自分のバスとホテルさえ良ければいい』という考え方なら、温泉街は会津バスがスポンサーになったことを歓迎しなかったと思います。大手の〇〇や××(※実名を挙げていたが伏せる)だったら地元と交わろうとせず、周囲と釣り合いの取れない料金設定にして客を囲い込む『自分さえ良ければいい経営』をしていたのではないか」(同)  とはいえ、観光地とホテルをバスでつなぐのはいいとして、会津乗合自動車はホテル経営のノウハウを持ち合わせていない。そこで登場するのが、前述・みちのりグループの傘下にある岩手県北バスの関連会社㈱みちのりホテルズ(岩手県盛岡市、松本順社長)だ。  同社は岩手県内で「つなぎ温泉・四季亭」(22室)と「浄土ヶ浜パークホテル」(75室)を経営し、新潟県佐渡市にある同グループの「SADO二ツ亀ビューホテル」(20室)も受託運営している。別表②の決算を見ると、コロナ禍でも一定の売り上げと利益を計上しているが、岩手県北バスが観光地とホテルをバスでつないでいることが安定した宿泊客確保につながっているという。 表② みちのりホテルズの業績 売上高当期純利益2018年2億1800万円130万円2019年2億3400万円1200万円2020年2億3700万円1700万円2021年2億3000万円1500万円2022年2億3000万円――※決算期は3月。―は不明。  このノウハウが丸峰観光ホテルにも導入される。株式は会津乗合自動車が100%所有するが、運営はみちのりホテルズに委託され、支配人も同社から派遣される。 「地元の企業が守るべき」 スポンサーに名乗りを上げた会津乗合自動車  おおよその支援方針は理解できたが、筆者はさらに詳細に迫ろうと会津乗合自動車に取材を申し込んだ。すると、丸峰観光ホテルと正式なスポンサー契約を交わす直前に佐藤俊材社長が取材に応じてくれた。  最初に、支援を決めた理由を佐藤社長はこう説明した。  「弊社はバス会社ですが、目的もなくバスに乗る人はいません。人は目的地がないとバスに乗らないし、目的地が活性化しないとバス会社も活性化しません。そうした中で観光会津を代表する温泉街の旅館がなくなれば、弊社にとってもダメージになります。丸峰さんには再建を果たしてほしいと思っていましたが、同時に、他社に任せていては難しいのではないかと考えるようになり、直接支援することを決めました」(以下、断りがない限りコメントは佐藤社長)  丸峰観光ホテルのメーンバンクで最大債権者の会津商工信用組合からも、仮に全国チェーンのホテルがスポンサーになった場合、コストが重視され、地元企業との取引が打ち切られたり、同ホテルから「会津らしさ」が薄まってしまう懸念が示されたという。  「ならば、地元の企業が地元の人たちと協力し、地元のホテルを守っていくべきだと思ったことも支援を決めた理由の一つです」  会津乗合自動車ではデューデリジェンス(投資対象となる企業の価値やリスクを調査すること)を行った後、7月に行われたスポンサー選定入札に臨み、スポンサー候補に指名されたという。ちなみに、選定入札には他社も参加したようだが「どこだったのか、何社いたのかは分かりません」とのこと。  佐藤社長の根底にあるのは「自分の所さえ良ければいい、というやり方では会社は良くならない」との考え方だ。  「芦ノ牧温泉全体を活性化していかないとダメだと思うんです。そのためには大川荘さん、観光協会、旅館協同組合などと連携し、行政にも廃旅館の解体を進めてもらうなど、関係する人たちみんなで知恵を出し合うことが大切になる」  そうやって芦ノ牧温泉を変えていけば、訪れたいと思う人が増え、バスの乗客も増え、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館も宿泊客が増える好循環が生まれる、と。 丸峰庵は支援の対象外 丸峰庵  「幸い、私たちにはノウハウがある」と佐藤社長は自信を見せる。  「丸峰観光ホテルの運営を委託するみちのりホテルズは、岩手県と新潟県佐渡市の旅館運営で優れた実績を上げ、その成果は決算にも表れています。そこに、みちのりグループの強みを加えれば、経営再建は十分可能と見ています」  みちのりグループの強みとは、傘下にある他のバス会社との連携だ。とりわけ関東自動車(栃木県宇都宮市)、茨城交通(茨城県水戸市)とは芦ノ牧温泉が両県と2~3時間の距離しか離れていない「小旅行圏内」に位置するため、魅力的な旅行商品を開発すればグループ力で集客につなげることが見込めるという。  「さらに、みちのりグループにはインバウンドをターゲットにしたみちのりトラベルジャパンという会社もあり、閑散期の冬には雪を目当てにしたタイや台湾からの旅行客を呼び込むことも視野に入っています」  今後のスケジュールは8月末に正式にスポンサー契約を交わした後、債権者集会に臨み、再生計画が承認されれば前述した100%減増資スキームで出資を行う(※今号発売時には余程のトラブルがない限り実行されていると思われる)。  「出資が完了したら、10、11月の観光シーズンに間に合わせるべく、すぐに施設の改修に着手します。従業員は引き続き雇用します。新聞には80人とありましたが、実際はそこまではいません。債権者への対応は承認された再生計画に従って粛々と進めます。債権者との取引も継続していく考えです」  気になるのは、会津乗合自動車が株式を100%所有し、社長が佐藤氏に代わった後、星保洋氏の立場はどうなるのかということだ。  「星氏は丸峰観光ホテルとは無関係になるので、役員からも退いていただきます」 ただし、と佐藤社長は続ける。  「弊社がスポンサーになったのは丸峰観光ホテルだけで、丸峰庵は支援の対象ではありません」  なんと会津乗合自動車は、丸峰庵の民事再生計画には一切関与していないというのだ。佐藤社長によるとスポンサー選定入札では両社セットでの支援を申し入れたが「丸峰庵は弊社が示した条件では考え方が合わないとなったようです」。  丸峰庵は丸峰黒糖まんじゅうを製造・販売しているが、それをホテルで取り扱うかは他の土産品同様、今後の話し合いで決めるという。  丸峰観光ホテルの再生にメドがついたのは喜ばしいことだが、丸峰庵の民事再生手続きがどうなるかは未だに不透明なわけ。今後のポイントは債権者集会における債権者の判断と、星氏の会社への関わり方だが、丸峰庵の登記簿謄本(8月24日現在)を見ると社長は星氏のままだった。 ※民事再生申請代理人のDEPT弁護士法人(大阪市)に丸峰庵の民事再生手続きの現状について問い合わせたが、「担当者が不在」と言われ、締め切りまでに返答を得られなかった。

  • 【ブイチェーン】只見町の食品スーパー店主が引退

     只見町で食品スーパー・ブイチェーン只見店を経営していた三瓶政夫さんが、店舗を別の運営会社に売却し、引退することになった。平成23年新潟・福島豪雨で被害を受けてもすぐに店を再開し、地域の生活を支え続けた。50年以上に及ぶ経営の思い出を聞いた。 豪雨災害で水没も地域のため再開 豪雨災害で水没した店舗(三瓶政夫さん提供) 只見町の中心部に「ブイチェーン只見店」というスーパーマーケットがある。川の近くに立地し、2011年に発生した「平成23年新潟・福島豪雨」で大きな被害を受けたが、店主の三瓶政夫さんが復旧させた。その被害状況について、本誌2012年4月号に掲載した。  その三瓶さんが8月末で店を閉めるという。  「もともとは65歳で辞めるつもりだったが、水害に遭ってから必死で店を大きくしてきた。ようやくひと段落したので、ブイチェーン本部に『引退したいので経営をそのまま引き継いでくれる人を紹介してくれないか』とお願いしたのです」  同町朝日地区出身。若松商業高校卒の75歳。50年以上前に実家の商店を継ぎ、友人からの紹介で現在の場所にブイチェーンをオープンした。  地域の人に少しでも新鮮な食材を届けたいと新潟県魚沼市や郡山市の市場まで出かけ、新鮮で珍しい魚や野菜を仕入れた。提案型の売り場は顧客から広く支持され、売り上げを伸ばした。  そうした中で遭遇したのが、「平成23年新潟・福島豪雨」だった。当日、増水を警戒し買い物客に少し早めに帰ってもらっていたが、そこに川から氾濫した水が一気に押し寄せ、閉店作業を進めていた三瓶さんは命からがら店外に脱出した。店は水没し、商品や機械などがすべて使い物にならなくなった。  ただ、三瓶さんは地域の人の生活を守るために復旧を決意。付き合いがあった郡山市の市場関係者などが駆けつけて、片付けを手伝ってくれた。安い中古機械などを買い集めて、何とか営業再開にこぎつけた。その後も「意気消沈する町内の事業者を勇気づけるため先頭に立って復興させなければ」と考え、3期にわたり店舗拡張工事を行った。  三瓶さんが納得いかないのは、こうした民間の動きを支援する姿勢が町などに見えなかったことだ。  豪雨災害後、只見川沿いにダムを設置している東北電力と電源開発は県に10億円ずつ寄付。「只見川流域豪雨災害復興基金」が設けられ、被災町村に分配された。只見町には9億円が入ったが、基金の目的は被災者の住宅の新築・改築・修繕や、自治体の産業復興支援事業などに固定され、被災した事業者や住宅を建て直す予定のない高齢者などは支援を受けられなかった。  町内の水害被害者が国、県、町、電源開発などに損害賠償を求める裁判を提起したが、中心人物の死去などが重なり、和解で終わった。一部事業者らは支援格差を訴え、町に支援金の支払いを要求し、只見区長にも要望書を提出したが、「裁判を起こしてすでに和解している」ことなどを理由に要望には沿えないと拒否された。  「地域のためにやってきたのに、周囲はそう思ってくれなかったのかと落胆しました」(三瓶さん)  店舗の経営を引き継ぐのは他町村でブイチェーンを展開する会社で、社員もそのまま移る。「引退する身なので、顔写真はいいよ。勘弁してくれ」と笑う三瓶さん。雪深く物流が不便な奥地で約50年、地域のことを思い経営してきた熱い気持ちは今後も店に残り続ける。

  • 磐梯東都バス撤退の裏事情

     猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになった。住民の足が失われることに加え、観光への影響も懸念されることから、関係町村は代替策を検討している。同社撤退の影響と背景を探った。(末永) 会津バスが路線継承!? 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、1959年設立、資本金3750万円。東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に営業所を構え、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛けている。福島県内では、1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」(北塩原村の事情通) 以降、磐梯東都バスは約20年間にわたって、猪苗代町、北塩原村で路線バスを運行してきたわけだが、9月末で全4路線を廃止し、バス事業から撤退することになった。 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所に撤退に至った経緯などを尋ねると、本社経由で回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されましたが、撤退決定に至った理由。また、いつ頃から撤退を考えるようになったのでしょうか。 「近年の少子化に伴う利用客の減少と、3年間に及んだ新型コロナウイルスによる観光利用客の激減により、事業継続は困難と判断しました。撤退を考えるようになったのは、新型コロナウイルスが大きく影響した時期と重なります」 ――差し支えなければで結構ですが、売上高のピークと直近の減少幅、さらには採算ラインはどのくらいか、を教えていただけますか。 「令和2(2020)年3月期(コロナ前)に対し、令和5(2023)年3月期(直近)の売り上げは、33%下落の67%となっております」 ――関係自治体とは撤退決定前の段階で、協議してきたと思われますが、いつの段階で、どのような話をしてきたのでしょうか。また、その中で存続の道筋は見い出せなかったのでしょうか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、といった部分はあったのでしょうか。 「関係自治体とは当社の実績も伝え対策を協議してまいりました。やはりコロナ禍の影響が大きく、従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難であると考えます。当社としましては、事業撤退に際し、地域住民にご迷惑をお掛けしないように努め、引き続き後任事業者と自治体との間で調整してまいります」 大きかったコロナの影響 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  猪苗代町によると、全4路線のうち、同町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線は、「委託路線」の扱いだという。つまり、町が磐梯東都バスに委託費を支払い、同路線を運行してもらっていた。今年度の委託費は4280万円。 当然、町としては「住民の足」として必要なものと捉えており、例えば町独自でコミュニティバスを運行するよりは、委託費を支払ってバス会社に運行してもらった方が効率的といった考えからそうしている。今年度の契約期間は昨年10月1日から今年9月30日まで。つまり、磐梯東都バスは今年度の委託期間を終えるのと同時に、撤退するということだ。 一方、猪苗代駅から北塩原村裏磐梯地区を結ぶ路線は、「自主路線」の扱いで委託費は支払われていない。諸橋近代美術館前、五色沼入口、小野川湖入口、磐梯山噴火記念館前、長峯舟付、裏磐梯高原駅、裏磐梯レイクリゾート、裏磐梯高原ホテルなどの観光地を中心に停留所があり、観光客の重要な足となっていた。 裏磐梯地区の観光業関係者は次のように話す。 「ほかの路線は、乗客がいてもポツポツで、誰も乗客がいないというのも珍しくなかったが、猪苗代駅から裏磐梯方面への路線は、結構、観光客が利用していました。ですから、ほかと比べたらそれほど悪くなかったと思いますが、コロナ禍以降は観光客が減りましたからね。われわれとしては、観光地としての〝格〟とでも言うんですかね、それが損なわれるというか。今後、代わりの方策が取られるとは思いますが、『路線バス撤退』ということが表に出ただけで、観光地として貧弱な印象を与えてしまう。それだけでマイナスですよね」 磐梯東都バスの回答では「少子化に伴う利用客減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減で、事業継続は困難と判断した」とのことだったが、要は「委託路線」は少子化に伴う利用客減少で委託費だけではやっていけない、「自主路線」もコロナによる観光客激減で厳しくなった、ということだろう。 本誌は猪苗代駅周辺で各路線の乗客状況を見たが、やはり乗客はほとんどいなかった。 民間信用調査会社調べの磐梯東都バスの業績は別表の通り。2021年3月期(2020年4月から2021年3月)は、最もコロナの影響を受けた時期で、それが如実に数字に表れている。 磐梯東都バスの業績 決算期売上高当期純利益2017年4億9000万円1074万円2018年4億3300万円1460万円2019年4億2500万円1833万円2020年4億1700万円1218万円2021年8200万円△6405万円2022年2億0300万円1323万円※決算期は3月。△はマイナス  一方、本誌の「存続の道筋は見い出せなかったのか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、という部分はあったのか」との質問には、磐梯東都バスは「従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難と考える。事業撤退で地域住民に迷惑を掛けないよう、後任事業者と自治体との間で調整していく」との回答だった。 猪苗代町の前後公前町長(今年6月25日の任期満了で退任)はこう話した。 「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていました。業績などの内情を示され、やむを得ないだろう、と。とはいえ、それで路線バスが完全になくなっては町(町民)としても困るので、以降は関係事業者を交えて代替策を検討してきました」 その後、前後氏は6月25日の任期満了で退任し、この問題は新町長に引き継がれることになった。 前後前町長が言う「代替策」について、町に確認すると「いま交渉中ですので、まだ詳細をお話できる段階にありません」とのこと。 今号で二瓶盛一新町長のインタビュー取材を行ったが、その際、二瓶町長は次のように語っていた。 「JR猪苗代駅を起点として町内や裏磐梯方面を走る磐梯東都バスが9月末で町内から撤退することになり、10月以降の路線バスの運用について現在協議を進めているところで、空白を生まないためにもスピード感と責任感を持ったうえで判断し、利用者の方々にご不便をおかけしないよう対処していきたい」 どうやら、関係者間の協議では、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことで、ある程度まとまっている模様。ただ、交渉ごとのため、「まだ詳しいことは話せない」、「もう少し待ってほしい」というのが現状のようだ。 喜多方―裏磐梯線の廃止騒動 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  以前、磐梯東都バスは前述した4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。 同路線は、主に中高生の通学や高齢者の通院などで利用されていたことから、同村内では「廃止されたら困る」、「12月以降はどうなるのか」といった声が噴出した。そこで、村は代替交通手段の確保に向けた検討を行った。 同社から「喜多方―裏磐梯間のバス廃止」の意思表示があった直後の同村2019年3月議会では、関連の質問が出た。当時の議会でのやりとりで明らかになったのは以下のようなこと。 ○村は喜多方―裏磐梯間のバス運行に対して、年間1600万円の負担金(補助金)を支出している。 ○磐梯東都バスが運行している路線は黒字のところはなく、経営的な問題から喜多方―裏磐梯間廃止の打診があった。そのほか、バス更新、運転手確保などの問題もある。村長が本社に行って協議してきたが、廃止撤回は難しいとのことだった。 ○「廃止」の意思表示を受け、村では運行を引き継ぐ事業者を探すか、村でバスを購入し、運行してもらえる事業者を探す等々の代替策を検討している。 こうして、すったもんだした中、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。 これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。 こうした事例があるため、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえるよう交渉し、その方向でまとまりつつあるようだ。 ところで、この「喜多方―裏磐梯間のバス廃止騒動」があった際、ある村民はこう話していた。 「同路線が赤字で厳しい状況だったのは間違いないのだろうけど、廃止の理由はそれだけではなさそう。というのは、元村議の遠藤和夫氏が自身の考えなどを綴ったビラを村内で配布しており、『路線廃止』報道があった直後、磐梯東都バスの件を書いていました。遠藤氏は同社の役員などに会い、そこで得た情報を掲載していたのですが、それによると、同社は数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後の路線バスのあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止に至ったというのです。言い換えると、村がきちんと対応していれば廃止を決断することもなかったかもしれない、と」 要するに、「廃止騒動」の裏には村の不作為があったというのだ。どうやら、磐梯東都バスは村に補助金申請のための相談をしていたが、村が動いてくれなかったため、業を煮やして「廃止せざるを得ない」と伝えた。それで、村が慌てて同社に「どうにかならないか」と持ちかけ、前述した「公有民営方式」に落ち着いたということのようだ。 ここに出てくる「元村議の遠藤和夫氏」は現村長。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中の2016年8月の村長選に立候補したが、当時現職の小椋敏一氏に敗れた。以降は、前出の村民の証言にあったように、村内で各種情報発信をしており、自身の考えなどを綴ったビラを配布していた。その後、2020年の村長選に立候補し、当選を果たした。 かつて、村長選を見据えて情報発信する中で、磐梯東都バス関連で現職村長の対応を問題視していた遠藤氏。その遠藤氏が村長に就いた後、磐梯東都バスの撤退問題に直面することになったわけ。 遠藤村長に聞く 遠藤和夫北塩原村長  村総務企画課を通して、遠藤村長にコメントを求めると、次のような回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されました。村にはその前の段階で、何らかの話があったと思われますが、事業者からはいつの段階で、どのような話があったのでしょうか。また、それを受けて、村としてはどのように応じたのでしょうか。 「6月5日に、磐梯東都バスが村へ訪問。本年9月30日をもって事業撤退する旨を報告。諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」 ――磐梯東都バスが撤退することで、村、村民の足、あるいは村内に来る観光客など、どのような影響が懸念されますか。 「猪苗代・裏磐梯の路線は村民の通学や通院・買い物に利用されているほか、観光客の移動手段にもなっていることから、磐梯東都バスが撤退後に路線バスの維持がなされない場合、住民や観光客の足が無くなり、住民に不便を来たしてしまうこと、そして観光客の減少につながる懸念が想定される」 ――磐梯東都バスの問題に限らず、いまの社会情勢等を考えると、地方における路線バスの廃止は避けられない面があると思います。一方で、路線バス廃止によって「交通難民」が生まれてしまう懸念もあるわけですが、磐梯東都バス撤退後の代替策についてはどのように考えていますか。 「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」 ――2019年に磐梯東都バスの「喜多方線廃止」問題が浮上した際、遠藤村長は一村民の立場で情報発信する中で、磐梯東都バスの役員と会い、「数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後のバス路線のあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止問題に至った」旨を指摘されていたと記憶しています(※当時、村民の方に現物を見せていただき、本誌記者の取材メモとして記録されている)。その後、村長に就いたわけですが、新たな関係性の構築や、協議の場を設けるなどの動きはあったのでしょうか。 「村長就任後に磐梯東都バスとは会っていたが、喜多方線廃止問題が具体的になる中、残念ながら相互に理解を得ることが難しくなり、喜多方線の撤退、猪苗代線も独自運行となった。解決に向けての打開策について協議を行ったが、磐梯東都バスの判断として、このような事態となった」 最大のポイントである磐梯東都バス撤退後の代替策については、「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」との回答だった。前述したように、同村では喜多方―裏磐梯間の路線バスで「公有民営方式」を採用し、当初の磐梯東都バス撤退後は会津バスに引き継いでもらっている。今回の4路線(※北塩原村が直接的に関係するのは猪苗代―裏磐梯間の路線バス)についても、会津バスに継承してもらって運行維持することを想定しているのだろう。 事業参入時に裏約束⁉  一方で、磐梯東都バスから撤退することを聞かされたのは6月5日で、村役場に同社関係者の訪問があり、「9月30日で事業撤退」の報告を受けたという。そのうえで「諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」とのことだった。 最終的な決定事項(撤退)の伝達としては、その日だったのだろうが、猪苗代町の前後前町長が「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていた」と話していたことからも、当然、その前の事前協議があったと思われる。 前出・村内の事情通によると、「昨年の段階で、磐梯東都バスから村には『このままでは厳しい』といった話があったようだ」という。 「その席で、磐梯東都バスは『このエリアでバス事業を始めるときに、渡部恒三衆院議員、高橋伝村長との約束が』と、過去に決め事があったようなニュアンスのことをチラつかせたそうです。要するに、何らかの裏約束があったかのような口ぶりだった、と。とはいっても、それは20年以上前のことですし、恒三先生は亡くなり、高橋伝さんも村長を退いてだいぶ経つ。磐梯東都バスの親会社の社長も代わりました。そもそも、本当に何らかの約束事(裏約束?)があったのか、あったとしてそれがどんな内容だったのかは、いまの村長をはじめとする関係者は誰も知らない。そのため、村では『そんな昔のことを持ち出されても……。それよりも、今後どうすべきかを一緒に考えていきましょう』といったスタンスで応じたそうです」 こうして協議を行ったが、結果的には存続には至らなかった。 マイカーの普及、人口減少による利用者の減少、少子化に伴う通学需要の縮小などを背景に、地方の路線バスはどこも厳しい状況。磐梯東都バスが事業参入したときには、すでにその流れが顕著になっていたが、コロナという思いがけない事態にも見舞われた。そんな中で、撤退は避けられなかったということだろう。

  • 【幸楽苑】創業者【新井田傳】氏に再建を託す

     幸楽苑(郡山市)が苦境に立たされている。2023年3月期決算で28億円超の大幅赤字を計上し、新井田昇社長(49)が退任。創業者の新井田傳氏(79)が会長兼社長に復帰し経営再建を目指すことになった。傳氏が社長時代の赤字から、息子の昇氏が後継者となってⅤ字回復させたものの、再び赤字となり父親の傳氏が再登板。同社は立ち直ることができるのか。(佐藤仁) ラーメン一筋からの脱却に挑んだ【新井田昇】前社長 経営から退いた新井田昇氏  6月23日、郡山市内のホテルで開かれた幸楽苑ホールディングスの株主総会に、筆者は株主の一人として出席したが、帰り際のエレベーターで男性株主がボソッと言った独り言は痛烈だった。 「今期もダメなら、この会社は終わりだな……」 今の幸楽苑(※)は株主にそう思わせるくらい危機的状況にある。 株主総会で報告された2023年3月期決算(連結)は、売上高254億6100万円、営業損失16億8700万円の赤字、経常損失15億2800万円の赤字、当期純損失28億5800万円の赤字だった。 前期の黒字から一転、大幅赤字となった。もっとも、さかのぼれば2021年、20年も赤字であり、幸楽苑にとって経営安定化はここ数年の課題に位置付けられていた。 株主総会では新井田昇社長が任期満了で退任し、取締役からも退くことが承認された。業績を踏まえれば続投は望めるはずもなく、引責と捉えるのが自然だ。 これを受け、後任には一線から退いていた相談役の新井田傳氏が会長兼社長として復帰。渡辺秀夫専務取締役からは「原点回帰」をキーワードとする経営再建策が示された。 経営再建策の具体的な中身は後述するが、その前に、赤字から抜け出せなかった新井田昇氏の経営手腕を検証する必要がある。反省を欠いては再建には踏み出せない。 安積高校、慶応大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社した昇氏が父・傳氏が社長を務める幸楽苑に転職したのは2003年。取締役海外事業本部長、常務取締役、代表取締役副社長を経て18年11月、傳氏に代わり社長に就任した時は同年3月期に売上高385億7600万円、営業損失7200万円の赤字、経常損失1億1400万円の赤字、当期純損失32億2500万円の赤字と同社が苦境にあったタイミングだった。 昇氏は副社長時代から推し進めていた経営改革を断行し、翌2019年3月期は売上高412億6800万円、営業利益16億3600万円、経常利益15億8700万円、当期純利益10億0900万円と、前期の大幅赤字からV字回復を果たした。 昇氏は意気揚々と、2019年6月の株主総会で20年3月期の業績予想を売上高420億円、営業利益21億円、経常利益20億円、当期純利益11億円と発表。V字回復の勢いを持続させれば難しくない数字に思われたが、このあと幸楽苑は「想定外の三つの事態」に襲われる。 一つは2019年10月の令和元年東日本台風。東日本の店舗に製品を供給する郡山工場が阿武隈川の氾濫で冠水し、操業を停止。東北地方を中心に200店舗以上が休業に追い込まれ、通常営業再開までに1カ月を要した。 二つは新型コロナウイルス。2020年2月以降、国内で感染が急拡大すると経済活動は大きく停滞。国による外出制限や飲食店への営業自粛要請で、幸楽苑をはじめとする外食産業は大ダメージを受けた。 V字回復の勢いを削がれた幸楽苑は厳しい決算を余儀なくされる。別表①の通り前期の黒字から一転、2020、21年3月期と2期連続の赤字。新型コロナの影響は当面続くと考えた昇氏は20年5月、ラーメンチェーン業界では先んじて夏のボーナス不支給を決定した。以降、同社はボーナスを支給していない。 表① 幸楽苑の業績(連結) 売上高営業損益経常損益当期純損益2018年385億7600万円▲7200万円▲1億1400万円▲32億2500万円2019年412億6800万円16億3600万円15億8700万円10億0900万円2020年382億3700万円6億6000万円8億2300万円▲6億7700万円2021年265億6500万円▲17億2900万円▲9億6900万円▲8億4100万円2022年250億2300万円▲20億4500万円14億5200万円3億7400万円2023年254億6100万円▲16億8700万円▲15億2800万円▲28億5800万円※決算期は3月。▲は赤字。  会社経営の安定性を示す自己資本比率も下がり続けた。2017年3月期は29・95%だったが、昇氏が社長就任前に打ち出していた「筋肉質な経営を目指す」との方針のもと、大規模な不採算店の整理を行った結果、18年3月期は20・94%に落ち込んだ。店舗を大量に閉めれば長期的な売り上げが減り、閉店にかかる費用も重くのしかかるが、昇氏は筋肉質な会社につくり直すためコロナ禍に入った後も店舗整理を進めた。 その影響もありV字回復した19年3月期は自己資本比率が27・09%まで回復したが、2期連続赤字となった20、21年3月期は25・61%、18・40%と再び下落に転じた。(その間の有利子負債、店舗数と併せ、推移を別掲の図に示す)  一般的に、自己資本比率は20%を切るとやや危険とされる。業種によって異なるが、飲食サービス業の黒字企業は平均15%前後が目安。 そう考えると、幸楽苑は22年3月期で3期ぶりの黒字となり、自己資本比率も25・50%に戻した。昇氏が推し進めた筋肉質な経営はようやく成果を見せ始めたが、そのタイミングで「三つ目の想定外の事態」が幸楽苑を襲う。2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻だ。 麺や餃子の皮など、幸楽苑にとって要の原材料である小麦粉の価格が急騰。光熱費や物流費も上がり、店舗運営コストが大きく膨らんだ。2023年3月期の自己資本比率は一気に7・75%まで下がった。 ただ、これらの問題は他社も直面していることで、幸楽苑に限った話ではない。同社にとって深刻だったのは、企業の人手不足が深刻化する中、十分な人員を確保できず、店舗ごとの営業時間にバラつきが生じたことだった。 時短営業・休業が続出 時短営業・休業が続出(写真はイメージ)  幸楽苑のホームページを見ると、一部店舗の営業時間短縮・休業が告知されている。それによると、例えば長井店では7月28、30日は営業時間が10~17時となっている。町田成瀬店では7月29日は9~15時、18~22時と変則営業。栃木店と塩尻広丘店に至っては7月29、30日は休業。こうした店舗が延べ50店以上あり、全店舗の1割以上を占めているから異常事態だ。 深刻な人手不足の中、幸楽苑は人材確保のため人件費関連コストが上昇し、それが経営を圧迫する要因になったと説明する。しかし、一方ではボーナスを支給していないわけだから、待遇が変わらない限り優秀な人材が集まるとは思えない。 幸楽苑では数年前からタブレット端末によるセルフオーダーや配膳ロボットを導入。お冷もセルフ方式に変えた。コロナ禍で店員と顧客の接触を少なくする取り組みで、人手不足の解消策としても期待された。 しかし、6月の株主総会で株主から「昔と比べて店に活気がない」という指摘があったように、コロナ禍で店員が大きな声を出せなくなり、タブレット端末や配膳ロボットにより店員が顧客と接する場面が減った影響はあったにせよ、優秀な人材が少なくなっていたことは否定できない。ボーナス不支給では正社員がやる気をなくし、アルバイトやパートの教育も疎かになる。こうした悪循環が店の雰囲気を暗くしていたのではないか。 あるフランチャイザー関係者も実体験をもとにこう話す。 「昔はフランチャイザーの従業員教育もきちんとしていたが、近年はそういう研修に行っていない。かつては郡山市内の研修センターに行っていたが、今その場所は(幸楽苑がフランチャイザーとして運営する)焼肉ライクに変わっているよね。うちの従業員はスキルが落ちないように、たまに知り合いのいる直営店に出向いて自主勉していますよ」 ボーナス不支給だけではなく、昔のような社員教育が見られなくなったことも人材の問題につながっているのではないかと言いたいわけ。 6月の株主総会では、別の株主から「フロアサービスに表彰制度を設けてモチベーションアップにつなげては」との提案もあった。幸楽苑は厨房係にマイスター制度(調理資格制度)を導入しているが、フロア係のレベルアップにも取り組むべきという意見だ。新井田昇氏は「新経営陣に申し送りする」と応じたが、そもそもマイスター制度が機能しているのかという問題もある。 幸楽苑をよく利用するという筆者の知人は「店によって美味い、不味いの差がある」「高速道路のサービスエリアの店でラーメンを注文したら、麺が塊のまま出てきた」と証言してくれた。県外に住む筆者の父も、以前は幸楽苑が好きで同じ店舗によく通っていたが、ある日急に「あれっ? 美味しくない」と言い出し、以来利用するのをやめてしまった。 チェーン店で調理マニュアルがあるはずなのに、店によって味に差があるのは不可解でしかない。飲食店はQSC(品質、サービス、清潔)が大事だが、肝心のQを疎かにしては客が離れていく。フロア、厨房を問わない人材の確保と育成を同時に進めていく必要がある。 苦戦が続く新業態 社長に復帰した新井田傳氏(幸楽苑HDホームーページより)  昇氏が進めてきた取り組みは継続されるものもあるが、傳氏のもとで見直されるものも少なくない。 その一つ、女性タレントを起用した派手なテレビCMは当時上り調子の幸楽苑を象徴するものだったが、地元広告代理店は「大手に言いくるめられ、柄にもないCMに大金を使わされていなければいいが」と心配していた。傳氏はテレビCMを廃止すると共に、費用対効果を検証しながら販売促進費を削減する方針。 昇氏は前述の通り、コロナ禍や人手不足に対応するためタブレット端末やセルフレジの導入を進めたが、実は、幸楽苑のヘビーユーザーである高齢者からは「操作方法がよく分からない」と不評だった。そんな電子化は2021年6月から株主優待にも導入され、食事券、楽天ポイント、自社製品詰め合わせの3種類から選べるシステムとなったが、高齢の株主からは同じく「使いづらい」と不評だった。傳氏は、タブレット端末やセルフレジはやめるわけにはいかないものの、株主優待は紙の優待券に戻すことを検討するという。 昇氏の取り組みで最も話題になったのが「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスとのフランチャイズ契約だ。ラーメンに代わる新規事業として昇氏が主導し、2017年11月に1号店をオープンさせると、19年3月までに16店舗を立て続けに出店した。しかし、ペッパー社の業績低迷と、令和元年東日本台風やコロナ禍の影響で「いきなりステーキ」は22年3月期にはゼロになった。 幸楽苑はラーメン事業への依存度が高く(売り上げ比率で言うとラーメン事業9割、その他の事業1割)、景気悪化に見舞われた時、業績が揺らぐリスクを抱えている。それを回避するための方策が「いきなりステーキ」への業態転換だったが、勢いがあるうちは売り上げ増につながるものの、ブームが去ると経営リスクに直結した。挙げ句、新業態に関心を向けるあまり本業のラーメン店が疎かになり、味やサービスが低下する悪循環につながった。傳氏も、かつてはとんかつ、和食、蕎麦、ファミリーレストランなどに手を出したが全て撤退している。 現在、幸楽苑は各社とフランチャイズ契約を交わし「焼肉ライク」12店舗、「からやま」7店舗、「赤から」5店舗、「VANSAN」1店舗、「コロッケのころっ家」7店舗を運営。ラーメン店から転換した餃子バル業態「餃子の味よし」も4店舗運営。これらは「昇氏の思いつき」と揶揄する声もあるが、ラーメン一筋から脱却したい狙いは分かる半面、ラーメン以外なら何でもいいと迷走している感もある(筆者はむしろラーメン一筋を貫くべきと思うのだが)。 まずは本業のラーメン店を立て直すことが先決だが、別業態にどれくらい注力していくかは、自身も苦い経験をしている傳氏にとって答えを出しづらい課題と言えそうだ。 傳氏は「原点回帰でこの危機を乗り越える」として、次のような経営再建策に取り組むとしている。 ▽メニュー・単価の見直し――①メニューの改定と新商品の投入、②セットメニューの提案による客単価の上昇、③タブレットの改定による店舗業務の効率化 ▽店舗オペレーションの強化――店長会議や店舗巡回による指導を通して「調理」「接客」「清掃」に関するマニュアルの徹底と教育 ▽営業時間の正常化――①人手不足の解消に向け、元店長など退職者への復職促進、②ボーナス支給による雇用の維持 客単価上昇に手ごたえ  傳氏は復帰早々、固定資産を売却して資金調達したり、県外の不採算店30店舗を閉店する方針を打ち出したり、そのために必要な資金を確保するため第三者割り当てによる新株を発行し6億8000万円を調達するなど次々と策を講じている。 「固定資産の売却や即戦力となる元店長の復職が既に数十人単位でメドがついていること等々は、傳氏からいち早く説明があった。復帰に賛否はあるが、間違いなくカリスマ性のある人。私は期待しています」(前出・フランチャイザー関係者) 昇氏は客単価の減少を来店者数の増加で補い、黒字を達成した実績がある。新規顧客の獲得だけでなくリピーターも増やす戦略だったが、人口が急速に減少し、店舗数も年々減る中、来店者数を増やすのは困難。そこで傳氏は、メニュー改定や新商品投入を進めつつ、セットメニューを提案してお得感を打ち出し、来店者数は減っても客単価を上げ、売り上げ増につなげようとしている。 その成果は早速表れており(別表②)、前期比で客数は減っても客単価は上がり、結果、6月の売上高は前期比108・2%となっている。幸楽苑では新商品が投入される7、8月もこの傾向が続けば、今期は着実に黒字化できると自信を見せる。 表② 今期4~6月度の売り上げ等推移 直営店既存店(国内)の対前期比較 4月5月6月累計売上高101.4%98.4%108.2%102.5%客数93.2%88.3%95.9%92.3%客単価108.7%111.5%112.8%111.0%月末店舗数401店401店401店※既存店とはオープン月から13カ月以上稼働している店舗。  本誌は復帰した傳氏にインタビューを申し込んだが「直接の取材は全てお断りしている」(渡辺専務)という。代わりに寄せられた文書回答を紹介する(7月20日付)。 「新井田昇は2018年の社長就任以来、幸楽苑の新しい商品・サービスや新業態の開発を促進し、事業の成長とそれを支える経営基盤の見直しを図ってきました。しかし、コロナ禍を起点に原材料費、光熱費、物流費の上昇、人材不足といった厳しい経営環境は続いており、早期の業績回復のためには原点に立ち返り収益性を追求する必要があることから、創業者新井田傳の復帰が最善と判断し、任期満了をもって新井田昇は取締役を退任しました。会長、前社長ともに、幸楽苑の業績を早期に回復させたいという思いは一致しています。しかしながら赤字経営が続いたことから前社長は退任し、幸楽苑を誰よりも知っている創業者にバトンを戻したものです」 父から子、そして再び父と、上場企業として人材に乏しい印象も受けるが「創業者に託すのが最善」とする判断が正しかったかどうかは来春に判明する決算で明らかになる。

  • 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

     先月号で、JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が6月8日に事業を停止したことを報じたが、10月に挙式を予定していた夫婦の母親が、その被害と精神的ショックを打ち明けてくれた。 支払い済みの190万円は戻る保証無し 事業停止を伝える張り紙  結婚式場の運営会社である㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11、2003年7月設立、資本金1000万円、黒﨑正壽社長)は福島地裁郡山支部に破産を申請する見通し。負債総額は少なくとも2億円を超えるとみられる。 ピーク時の2013年に5億0100万円あった売り上げ(決算期は9月)は、新型コロナ発生前の19年に2億4000万円と半減し、コロナ禍の22年には1億円と5分の1にまで落ち込んでいた。 《2014年9月期以降もパーティー会場の増設や新しいイベント企画の立案等を進め顧客獲得に努めていたが同業との競争は激しく、業績伸長に苦戦を強いられていた。そのような中、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、挙式・披露宴の日程変更やキャンセルが相次いだ他、招待人数の減少もあり(中略)収支一杯な状況を余儀無くされていた。2021年9月期以降も業況は好転せず、近時においても外注先との契約解消等もあったことから事業継続を断念》(東京商工リサーチ『TSR情報福島県版Weekly』6月26日付より) 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の運営管理を行う㈱TAKUSO(どちらも郡山市駅前一丁目11―7)があるが、オール・セインツの事業停止以降、事務所に人影はない。 「突然、事業停止を告げられ、しかも払ったお金は戻ってくるか分からない。今は騙されたという思いでいっぱいです」 憤った様子でこう話すのは、郡山市在住の主婦Aさん。Aさんは宮城県内に住む息子夫婦がオール・セインツで挙式とパーティーを開く予定だったが、今回の事態で見通しが立たなくなった。 「息子夫婦は5月29日に衣装や髪形などの打ち合わせをして、次回は食事の内容を詰めることになっていました。ところが、息子が担当者のラインに『次の打ち合わせはいつになりますか』と送っても『既読』になっただけで返信がなかった。いつもならすぐに返信があるので、息子も変だなと思ったそうですが、まさかこんなことになるなんて」(同) 息子夫婦が最後に打ち合わせをしたのは事業停止の10日前。おそらく担当者は、その時点では会社が破産することを認識していなかったのだろう。ラインが「既読」になっても返信がなかったということは、打ち合わせ後に黒﨑社長から社員に「6月8日に事業を停止する」旨が伝えられたとみられる。 とはいえ、顧客からすると「破産すると分かっていて説明せず、カネを騙し取ったのではないか」との疑念は拭えない。 「5月29日の打ち合わせには私も同席し、ちょうど黒﨑社長にも会っています。ただ、その日はいつもと様子が違っていました」(同) Aさんによると、黒﨑社長は愛嬌があり、丁寧な挨拶を欠かさないそうだが、その日はいつもの元気がなく、難しい表情を浮かべながら誰かと話し込む様子が見られたという。 「今思えば、破産の話をしていたのかもしれませんね」(同) 実は、Aさんの息子夫婦は他の被害カップルとは事情が異なる。 オール・セインツの約款には《挙式5万円、パーティー5万円の申込金支払いで契約成立とし、申込金は内金として当日費用に充当する》《挙式・パーティーの2週間前までに最終見積もり金額および請求金額を提出するので、挙式10日前までに当社指定の銀行口座にお振り込みください》と書かれている。つまり、被害カップルの損害額は最少で10万円、挙式まで10日を切っていると費用全額になる可能性がある。 そうした中、Aさんの息子夫婦は今年2月26日に挙式とパーティーを行う予定だったが、妻の妊娠が判明したため出産後の10月7日に延期。しかし、オール・セインツは約款で日程変更を認めていないことから、息子夫婦は特例で日程変更を承認してもらい、同社と覚書(昨年9月9日付)を交わしていたのだ。 「ただし『日程変更の条件として見積もり金額180万円の全額を払う必要がある』と言われたので、息子夫婦は覚書に基づき全額を払ったのです」(Aさん) すなわち内金10万円と合わせ、息子夫婦は計190万円を既に支払っていたのだ。挙式が10月7日ということは、本来なら10万円の損害で免れていたかもしれないのに、想定外の被害に巻き込まれた格好だ。 「私は『延期するなら契約を白紙にしてもいいのでは』と言ったのですが、息子夫婦は『どうしてもオール・セインツで式を挙げたい』と言うので、最後は本人たちの意思を尊重した経緯があります。実際、ネットの口コミ評価も高かったし、チャペルの雰囲気も素敵だったので、ここで挙式したいという思いが強かったんでしょうね」(同) 債権者集会はいつ? 門が閉ざされ静まり返るチャペル  事業停止後、オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(山口大輔法律事務所、会津若松市大町一丁目10―14)からは「(オール・セインツを)結婚式という人生の大きな節目をお祝いする場に選んでいただけたにも拘わらず、このような結果になってしまったことをお詫び申し上げます」と謝罪すると共に、▽結婚式業務委託契約を会社都合により解除する、▽支払い済みの金額および損害賠償請求は破産手続きの対象になる旨が書かれた文書(6月9日付)が送られてきた。 「紙切れ1枚で連絡を済ませるなんて酷い。黒﨑社長には、息子夫婦の人生の門出を台無しにした責任を取ってほしい」(同) 黒﨑社長は79歳で、北海道札幌市に自宅があるが出身は福島県ということは先月号でも触れた。Aさんによると「以前、雑談していたら『私は会津出身なんです』と話していました」とのこと。 チャペルやパーティー施設などの不動産は、小野町の土木工事・産廃処理会社が所有していることも既報の通りだが、その他に目ぼしい財産があるか調べたものの、不動産登記簿等では追い切れなかった。 Aさんの息子夫婦は精神的ショックに打ちひしがれている。挙式は行いたいが、別の式場でもう一度最初から打ち合わせをする気持ちになれないという。もちろん費用の問題もあり、支払い済みの190万円が戻ってくる保証はない。 山口弁護士はオール・セインツから事業停止後の処理を一任されただけで、破産手続開始が決定されれば裁判所が破産管財人を選任する。破産手続きは、その破産管財人(山口弁護士とは別の弁護士)のもとで進められることになる。 山口大輔弁護士事務所によると、7月19日現在、負債総額の調査は終わっておらず、債権者集会を開催する見通しも立っていないという。「黒﨑社長と直接話せないか」と尋ねたが「当事務所が代理人を務めているため、直接話すのは難しい」とのことだった。 「幸せ」を商売にしてきた企業が顧客を「不幸」にしたのでは話にならない。債権者を選別するわけではないが、被害カップルを何とか救済できないかと思うのは本誌だけではないだろう。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

  • 【JAグループリポート2023】福島県農業経営・就農支援センター【相談件数298件】

     「福島県農業経営・就農支援センター」(福島市)は4月3日に県自治会館で開所式を実施してから、4カ月経過した。同センターは、農業経営基盤強化促進法の改正で各都道府県に設置されることになったが、県および県農業会議・県農業振興公社に加えJAグループが参加し、17名が常駐するワンストップ・ワンフロアの支援体制は全国でも福島県が初めてとなる。 従来の窓口は団体ごとに異なり、手続きが煩雑になるなど相談者の負担となっていた。各団体が1カ所に集まることで団体の連携を密にし、実効性ある支援策を講じることができるようになった。  相談件数は4月に開所して以来、6月末時点で、地域段階のサテライト窓口も含めて298件(就農相談186件、経営相談103件、企業参入相談9件)となった。この相談件数は昨年同時期と比較すると約2倍になっており、新規就農希望者やこれからの経営改善を計画する農業経営者から大きな期待が寄せられ、順調なスタートとなっている。 今後、年間1200件の相談件数を目指したPRや掘り起こし活動を積極的に行うとともに、就農相談を通じて、県農林水産業振興計画に掲げる2030(令和12)年度までに年間340名以上とする新規就農者の確保を目指す。 また今後の課題として、相談者の就農実現に向けた研修受け入れ機関(農家や公的機関)の紹介をはじめ国等の支援事業の対応や農地のあっせん等を含めた伴走支援を進める必要がある。 開所式の様子  経営相談については300件を超える重点支援対象者を設定しており、既存の経営者から寄せられた法人化や経営継承等の課題解決に向けた対応に加え、就農後5年以内の認定新規就農者に対する就農定着と経営発展に向け、センターおよびサテライト窓口職員による訪問活動や専門家派遣などに取り組んでいく。 JA福島グループでは、相談件数の増加が就農者の増加と定着、さらには農業経営者の経営課題解決という成果に着実につながっていくよう、関係機関の連携を一層強めて取り組んでいく考えだ。 JA福島中央会が運営するJAグループ福島のホームページ あわせて読みたい 【JAグループリポート2023】創立70周年記念大会で誓い新たに【JA福島女性部協議会】

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【ソーラーポスト】太陽光発電普及を後押し【カテエネソーラー】

     今年で創業23周年となる太陽光発電システム販売の㈱ソーラーポスト(福島市、尾形芳孝社長)は、電気代高騰対策のため、太陽光発電の設置を促進しようと、中部電力ミライズ㈱(名古屋市)と連携し「カテエネソーラー」の取り扱いを始めた。県や自治体は太陽光発電システム設備や蓄電池の設置費用の補助を進めている。太陽光発電設置後の10年分の発電買取代金を中部電力ミライズが一括前払いすることで、ソーラーポストは初期費用の軽減を図り一層の普及を目指す。  契約者が太陽光発電設備を設置後、中部電力ミライズから発電買取代金を一括(10㌔ワット 154万円、8㌔ワット 123万2000円、6㌔ワット 92万4000円、5㌔ワット 77万円)で受け取ることで、初期費用をサポート。設置後10年間は月額料金を定額で支払う(※発電した電気は使い放題となる)。 おすすめポイントは、①『新築住宅・既存住宅への太陽光発電設備の設置後に発電買取代金を中部電力ミライズが一括でお支払い』、②『太陽光設備設置費用を住宅ローンに組み入れてもOK』、③『月々定額の支払いで太陽光発電の電気は使い放題』、④『太陽光発電設備は契約者所有で蓄電池の設置もOK』が挙げられる。  同社が展開する「カテエネソーラー『定額Sプラン』」のモデルケースを見よう。発電買取代金の算定単価は1㌔ワット あたり15万4000円(税込み)。契約期間は10年。太陽光パネル出力6㌔ワット の場合、中部電力ミライズによる発電買取代金の一括前払い92万4000円(同)、サービス利用料(契約者の負担)は月額6820円(同)となる。10年経過後はサービス利用料金が無料になる。 注意点は、①契約期間中(10年間)、余剰電気の売電収入は中部電力ミライズに帰属するため、契約者の売電収入はないが契約完了後は売電収入が得られる。②V2H設備の設置はできない。③加入条件は、申し込み時点で本人または同居者が満60歳未満の成人であること。④太陽光発電設備の発電出力が3㌔ワット以上10㌔ワット未満であること。 「『カテエネソーラー』は福島県初の画期的な商品です。太陽光発電設備で一番ネックとなる初期費用の負担軽減ができます。事業パートナーの中部電力ミライズは中部電力の関連会社で高い信用と信頼を得ている企業です。多くの方々が電気代の高騰に苦しんでいる中、気軽に太陽光発電設置について検討していただけるはずです。今後も同商品の浸透を図りながら再生可能エネルギーの大きな柱である太陽光発電の普及に努めます」(尾形社長)。詳細はカテエネソーラー専用サイトにアクセス。問い合わせは、同社0120(91)5741まで。

  • 宅配で顧客取り込む【ヨークベニマル】

     コロナ禍以降の宅配需要の増大や高齢化に対応するため、県内最大手の食品スーパー・ヨークベニマルは宅配サービスの充実化を図り、移動スーパー事業もスタートさせた。各事業の現状と今後の展望について、担当者に話を聞いた。 店に来られない高齢者・単身者に好評 移動スーパー「ミニマル」(福島西店、ヨークベニマル提供)  昨年3月1日、ヨークベニマルは社内に「ラストワンマイル推進部」を設けた。 ラストワンマイルとは店舗・物流拠点から消費者宅までの距離を指すビジネス用語。コロナ禍を経て、EC(ネット通販)の需要が増大し、配送業者のドライバー不足も問題となる中、「ラストワンマイル」でいかに差別化を図れるかが小売・流通各社にとって課題となっている。 加えて本県など高齢化が進む地域では、免許返納などで交通手段がなくなり、近くのスーパーに買い物に行けない〝買い物難民〟問題が深刻化している。それらの課題に対応するために設置されたのが同推進部だ。 同推進部の開山秀晃総括マネジャーは次のように話す。 「例えば高齢者の中には、足が痛くて思うように歩けなかったり、自動車の運転に不安を感じて来店できない方がいます。そうした方でも安心して買い物できて、豊かな生活を送れるように、われわれがライフラインを整備しようと考えました」 昨年5月に始まったのが、クリスマスケーキなどの人気商品をネット予約して店舗で受け取れる「ウェブ予約」。共働きで忙しいが、家族でのイベントは大切にしたい――という子育て世帯の需要に応えた。報道によると、通常商品を扱うネットスーパーも2024年2月期に1店舗で開始する予定だ。 電話で注文を受け付けて自宅に配送する「電話注文宅配サービス」は5年前に開始した。現在は田島店(南会津町)、台新店(郡山市)、門田店(会津若松市)、会津坂下店(会津坂下町)など8店舗で実施している。 宅配サービスの電話注文を受ける担当スタッフ(門田店、ヨークベニマル提供)  会員登録後、チラシなどを見ながら、店舗スタッフに電話で注文する。別途配送料金がかかる(会津坂下店440円税込み。それ以外は330円税込みで、今後値上げされる見込み)が、販売価格は店頭と同じで、入会費や月会費などは一切かからない。配送エリアは店舗ごとに定められており、田島店では最大約50㌔先まで対応するという。2月現在の登録者数は6店舗計約1700人。開山マネジャーによると、一人当たりの買い物金額は約5000円。まとめ買いして、宅配してもらうスタイルが定着しているのだろう。 利用者多い高齢者施設 移動スーパー「ミニマル」の車両(西若松店、ヨークベニマル提供)  昨年7月にスタートしたのが、移動スーパー「ミニマル」だ。福島西店(福島市)、西若松店(会津若松市)を拠点に週6日運行する。取扱商品は生鮮食品、日配品、弁当、総菜など約300品目。既存の移動スーパーが個人宅まで行くのに対し、「ミニマル」は住宅団地や集会所、高齢者向け施設などを巡回する。 「ご近所同士のコミュニティー形成のきっかけにつなげてほしい思いがあるからです。高齢者向け施設は需要が多く、巡回場所の4分の1を占めています。施設利用者本人はもちろん、買い物を依頼されたヘルパーさんも訪れる。部屋に台所がある施設も多いため、意外と漬物にする野菜などが売れたりします」(同) 「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「Wolt(ウォルト)」など、フードデリバリーを使った食品配送も宮城県仙台市や栃木県宇都宮市の4店舗で導入し、5月には浜田店(福島市)で福島県初となる「ウーバーイーツ」での配送を開始した。 顧客から注文があった商品を売り場から取り出すウーバーイーツの配達員(ヨークベニマル提供)  鮮度・温度管理が難しい刺身やアイスを除き、全商品を取り扱う。受け付け時間は10時から19時。配送エリアは店舗から約3㌔圏内。配送手数料は50~550円で、加えて合計注文金額の10%(最大350円)のサービス料金が別途適用される。 単身者などの利用に加え、酒やおつまみだけの注文も目立つことから、開山マネジャーは「買い物に行く時間がない飲食店の店主などにも利用されているのではないか」と分析している。店舗で買うより割高だが、30分以内に自宅まで届けてくれる手軽さが支持され、導入店舗の売り上げは着実に伸びているようだ。 報道によると、同社では2026年2月期までに電話注文サービスを30店舗、「ミニマル」を10店舗、フードデリバリーを15店舗まで拡大することを目指している。 ただし、「電話注文サービスを行うには、顧客の要望を正確に聞き取りできるスタッフの存在が必須で、それなりの教育が必要となる。そういう意味では一気に拡大するのは難しい。地道に増やしていくことになると思います」(開山マネジャー)。 その一方で「うちのエリアでも宅配サービスをやってくれないの?」という問い合わせも多く寄せられているので、少しでも早く導入できないか模索しているようだ。 担当店舗の現場スタッフが負担に感じないように、宅配・移動スーパー分の売り上げを店舗の実績として反映させる仕組みを設けたほか、「先入れ先出し」の徹底、売れ残り品の持ち出し禁止など、社内ルールの構築も同時に進めている。 宅配・移動スーパーの充実により顧客が抱える課題のソリューション(解決)につながれば、同社への信頼度は高まり、〝潜在的な買い物客〟を取り込むこともできる。競合他社にとって大きな打撃になり得る。 行商から同社を立ち上げた創業者・大高善雄氏が唱えた「野越え山越えの精神」は、顧客への感謝と奉仕の心を表す創業理念として、社内で伝え続けられている。同社にとって〝原点回帰〟となるラストワンマイル戦略の成否に注目が集まる。

  • 郡山「モルティ」から人気雑貨店「TGM」が撤退

     郡山駅西口再開発ビル「ビッグアイ」の商業施設「モルティ」4階で営業する生活雑貨店「TGM」が7月いっぱいで閉店した。モルティの中でも人気店の撤退に、来店客からは「残念」との声が漏れている。 「モルティはただでさえ客が少なく苦戦しているのに、TGMが撤退したら一層寂しくなる」(経済人) モルティ担当者によると、TGMの撤退は運営会社㈱三峰(東京都中野区)の事情によるという。 「三峰さんが全国の店舗を順次閉店しているのです。生活雑貨店は苦戦していると聞いているので、その影響かもしれません」(担当者) 三峰は全国で44店舗運営しているが、既に閉店したところも少なくない。モルティの店舗もその方針に従い粛々と閉められるわけ。 担当者によると、TGM撤退後のテナントは「既に決まっている」。店舗名の発表はもう少し先だが、秋にはオープンさせたいという。 郡山駅前の人通りは相変わらず増えていない。うすい百貨店では中核テナントの「ルイ・ヴィトン」が8月末で撤退する。そうした中で、モルティの人気店撤退―リニューアルは活気の少ない駅前にどのような影響をもたらすのか。

  • 桑折町・福島蚕糸跡地からまた廃棄物出土

     本誌1、3月号で、桑折町の福島蚕糸跡地から廃棄物が出土したことをリポートした。 桑折町の中心部に、福島蚕糸販売農協連合会の製糸工場(以下、福島蚕糸)跡地の町有地がある。面積は約6㌶。震災・原発事故後に災害公営住宅や公園が整備され、残りのスペース2・2㌶を活用すべく公募型プロポーザルを行った結果、㈱いちいと社会福祉法人松葉福祉会が最優秀者に選ばれた。 食品スーパーとアウトドア施設、民設民営による幼保連携型認定こども園が整備される予定で、定期借地権設定契約を締結、造成工事がスタートしていた。 そうした中で、いちいが工事を実施しているエリアからアスベストを含む1000㌧に上る廃棄物が出土したため、工事がストップすることになった。 町議会3月定例会では、①町は昨年6月ごろの段階で廃棄物の存在を把握していたのに議会に報告したのが今年1月17日だったこと、②処理費用は5300万円に上り、いちいと町が折半して負担することになったが、プロポーザルの実施要領や契約書には「土地について不足の事態があった際も事業者は町に損害賠償請求できない」と定められていること――などが問題視された。 廃棄物が積まれた福島蚕糸跡地(今年3月撮影)  結局6月定例会で町が処理費用を半額負担する補正予算案が可決されたが、一方で新たな問題も発覚した。 松葉福祉会の認定こども園の建設予定地からも、大量のコンクリートや鉄筋などの建築廃材が出てきたことが明かされたのだ。町産業振興課によると、4月半ばに同福祉会から連絡があり、全体でどれぐらいの量があるかは分かっていないという。 松葉福祉会にコメントを求めたところ、「廃棄物を撤去して土壌改良すれば、さらなる予算がかかるので、設計を一から見直さなければならないし、2024年4月開園は実質的に難しいだろう。今後、町と協議していくことになる」と話した。 認定こども園は当初2024(令和6)年4月開園予定だったが、土壌改良の期間も含め、開園は1年遅れの2025年4月になる見通し。来年度は従来の醸芳保育所と醸芳幼稚園が園児の受け皿となる。 6月15日の6月定例会一般質問では、高橋宣博町長が経緯を説明したうえで「重大で深刻な事態と受け止めている。開園を期待している町民に深くおわびする」と陳謝した(福島民友6月16日付)。 町産業振興課によると、いちいの工事で出てきた廃棄物は福島蚕糸の前に操業していた郡是製糸桑折工場のものとみられるが、今回出てきた廃棄物は福島蚕糸のものとみられる。要するに、過去に立地していた工場の廃棄物がそのまま放置されてきたことになる。いちいと松葉福祉会にとっては、思いがけず高額な処理費用を負担することになった格好。町は町有地として取得する際にこうした状況にあることをチェックできなかったのだろうか。 気になるのは、今回の処理費用も折半にするのかということ。本誌4月号記事で斎藤松夫町議は「いちいに同情して後からいくらか寄付するなどの方法を取るならまだしも、プロポーザルの実施要領や契約書の内容を最初から無視して折半にするのは問題。根拠のない支出であり、住民監査請求の対象になっても不思議ではない」と指摘した。そうした点も含め、町は事業の進め方をあらためて検証すべきではないか。 あわせて読みたい 【桑折・福島蚕糸跡地から】廃棄物出土処理費用は契約者のいちいが負担 桑折・福島蚕糸跡地「廃棄物出土」のその後