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  • 廃校施設をどう使うか【平田村編】

    廃校施設をどう使うか【平田村編】

     文部科学省の「廃校施設等活用状況実態調査」によると、2002年度から2020年度までに、県内では267の小・中学校、高校(いずれも公立に限る)が廃校になったという。少子化による児童・生徒数の減少に伴う学校の統廃合はやむを得ない流れだが、使われなくなった校舎の利活用が問題になっている。 永田小を役場庁舎に改築、2つの中学校跡は未使用 平田村役場  文部科学省の「廃校施設等活用状況実態調査」は3年に1回のスパンで実施され、直近では2021年5月1日時点での調査が行われた(結果の公表は2022年3月30日)。それによると、2002年から2020年までに全国で発生した廃校数は8580校(公立の小・中学校、高校、特別支援学校など)。このうち、建物(校舎)が現存するのが7398件で、すでに別の用途などで活用されているのは5481件(約74%、現存するものに対する割合)。  主な用途は、学校関係、社会体育施設、社会教育・文化施設、福祉・医療施設、企業等の施設、創業支援施設、庁舎等、体験交流施設、備蓄倉庫、住宅など。  用途が決まっていない施設の要因としては、「建物が老朽化している」が46・2%で最も多く、「地域からの要望がない」が41・6%、「立地条件が悪い」が18・7%、「財源が確保できない」が14・6%と続く(※複数回答のため、合計が100%を超える)。  なお、国では別表に示した補助メニューを設けている。文部科学省では「〜未来につなごう〜 『みんなの廃校』プロジェクト」として、活用用途を募集している全国の廃校施設情報を集約・発信する取り組みや、イベントの開催、廃校活用事例の紹介などを通じて、廃校施設の活用を推進している。その中で、省庁をまたいで、活用可能な補助メニューを紹介している。 空き校舎の活用に当たり利用可能な補助制度 対象となる施設所管省庁地域スポーツ施設スポーツ庁埋蔵文化財の公開及び整理・収蔵等を行うための設備整備事業文化庁児童福祉施設等(保育所を除く)こども家庭庁保育所等こども家庭庁小規模保育事業所等こども家庭庁放課後児童クラブこども家庭庁障害者施設等厚生労働省私立認定こども園文部科学省、こども家庭庁地域間交流・地域振興を図るための生産加工施設、農林漁業等体験施設、地域芸能・文化体験施設等(過疎市町村等が実施する過疎地域の廃校舎の遊休施設を改修する費用が対象)総務省農業者等を含む地域住民の就業の場の確保、農山漁村における所得の向上や雇用の増大に結びつける取り組みに必要な施設農林水産省交流施設等の公共施設林野庁立地適正化計画に位置付けられた誘導施設(医療施設、社会福祉施設、教育文化施設、子育て支援施設)等国土交通省まちづくりに必要な地域交流センターや観光交流センター等の施設国土交通省空家等対策計画に定められた地区において、居住環境の整備改善に必要となる宿泊施設、交流施設、体験学習施設、創作活動施設、文化施設等国土交通省「地方版創生総合戦略」に位置付けられ、地域再生法に基づく地域再生計画に認定された地方公共団体の自主的・主体的で、先導的な取り組み内閣府  福島県内では、2002年から2020年までに小学校211校、中学校44校、高校12校の計267校が廃校となった。この数字は北海道(858校)、東京都(322校)、岩手県(311校)、熊本県(304校)、新潟県(290校)、広島県(280校)、青森県(271校)に次いで8番目に多い。  廃校施設の利活用状況について、都道府県別の詳細は示されていない。なお、次回調査は2024年度に実施される予定で、今年度はその谷間になる。 アンケート調査を実施  本誌は10月上旬、県内市町村に対して、当該市町村立の小・中学校の空き校舎の有無と数、すでに再利用がなされている校舎の事例、再利用計画が進行中の事例、計画が策定され、これから改修などに入る事例の有無などについて、アンケート調査を行った。  「空き校舎がある」、「再利用の実例がある」と回答があった中から、今号以降、何回かに分けて、具体的な事例や課題などについて取り上げていきたい。  1回目となる今回は平田村。  同村は、県内で初めて空き校舎を役場庁舎にした。永田小学校が2013年3月に蓬田小学校と統合して閉校となり、空き校舎となった。一方で、役場庁舎は1960年に建てられたもので老朽化していたほか、東日本大震災で外壁に亀裂が入るなどの被害が出ていた。そのため、旧永田小校舎を改修して役場庁舎とし、2015年9月に開庁(移転)した。校庭だったところは、舗装され駐車場になっている。体育館は、館内にもう1つ「箱」が作られたような格好になっており、会議室として使われている。場所は、旧役場から直線距離で北東に600㍍ほどのところにある。 体育館を高所から。館内にもう1つ「箱」が設置され、会議室になっている。  財源は庁舎建設基金と一般財源でまかない、総事業費は約4億2000万円。  別表は、県内で同時期に建設された役場庁舎との比較をまとめたもの。ほかの3町と比べると、延べ床面積が半分ほどのため、純粋な比較は難しいが、少なくとも新築するより安上がりになったのは間違いない。  本誌は常々、立派な役場庁舎ができたところで、住民の日々の生活が豊かになるわけではないから、役場建設に多額の事業費を投じるのは適切ではないと指摘してきた。もちろん、災害時などに役場そのものが大きな被害を受け、災害対策に支障が出るようなことは避けなければならないが、そういった問題がなければ必要最低限でいい。少なくとも立派な庁舎は必要ない。役場に金をかけるくらいなら、何か別の地域振興策に使うべきだ。その点では、新築した他自治体と比べて、安上がりで済ませたのは評価されていい。  肝心の使い勝手だが、ある村民は「最初は、『学校』という感じで違和感がありましたが、慣れてみればこんなものかな、と思います」と話した。ある職員も「もう慣れたんで」と同様の感想を語った。  本誌も少し見て回ったが、「もともと学校だった」という潜在意識があるためか、多少の違和感はあったものの、少なくとも「不便」には感じなかった。音楽室や調理実習室などの特別教室は、うまく活用すれば職員の福利厚生などに使えそうだが、調理実習室は執務室になり、音楽室は議場になっているという。その辺はもう少し工夫があっても面白かったか。 議場  一方で、役場を小学校跡地に移転したとなると、今度は逆に、旧役場跡地の利活用の問題が出てくる。旧役場は解体され、跡地は幼保連携型認定こども園「村立ひらたこども園」として整備された。同園は2020年に開園した。 役場跡地はこども園に その他の空き校舎 蓬田中跡 小平中跡  役場庁舎の開庁時、澤村和明村長は「閉校した校舎の利活用のモデルケースになる」とあいさつしていたが、村内にはほかにも空き校舎がある。永田小学校と同時に閉校となった西山小学校については、今年7月の村長選で、澤村村長が5選を果たした際、「入浴施設として活用することを考えている」と明かしていた。  このほか、2016年に蓬田、小平両中学校が統合され、ひらた清風中学校が開校した。これに伴い、両中学校が空き校舎になっている。この2つに関しては、いまのところ何の案も出ていないという。  「建物は残っていますが、耐震の問題もありますし、一番は配管が使える状態なのか、ということもあります。やはり、使われていないと、そこ(配管)の劣化が出てきますからね」(村企画商工課)  校舎の利活用はなされていないが、グラウンドや体育館はスポーツ少年団などで活用しているという。付属施設が使われているだけに、校舎だけを別の用途に、というのは余計に難しいのかもしれない。  旧小平中学校の近隣住民はこう話す。  「当然、住民としては学校に対して思い入れがあります。この村は1955年に、いわゆる『昭和の大合併』で、小平村と蓬田村が合併して誕生しました。そうした中、片方の地区だけに投資をするのは憚られるといった空気があります。そうなると、小平中、蓬田中のどちらも、住民が納得するような形で、あまり時間を置かずに進めなければならない。そういった難しさもあると思います。仲間内で話している分には、『村はどう考えているんだ』という話になりますが、小さな村ですからなかなか面と向かって村(村長)に意見しにくい、という側面もあります。潤沢にお金が使えるということであれば話は別ですが、そういうわけにもいきませんから、学校の跡地利用は簡単ではないでしょうね」  一方で、別の住民はこう話した。  「学校がなくなる(統合される)ということは、地域から人がいなくなっているということです。この地域(小平地区)でも、高齢者の夫婦だけの世帯、あるいは1人暮らしが増えています。その人たちが亡くなったら、その家には誰も住まなくなります。中学校だけでなく、駐在所もなくなりましたし、郵便局やJAも業務範囲を縮小しています。小平小学校も、60年くらい前、われわれのころは全校生徒が約800人いましたが、われわれの子どもが通っていた30年くらい前は約300人、いまは約100人ですから、いずれは統合という話になっていくでしょう。そういう状況ですから、空き校舎を使って何か地域振興策を、とは思いますが、現実的には相当難しいと思います」 住民の思い入れが強い 平田村と同時期に役場庁舎を建設した町村の構造・事業費など 町村名竣工年構 造延べ床面積事業費平田村2015年鉄筋コンクリート2階建て2055平方㍍約4・2億円国見町2015年鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造地上3階、地下1階4833平方㍍約17億円川俣町2016年プレキャスト・プレストレストコンクリート造 地上3階建4324平方㍍約27億円南会津町2017年鉄骨造、地上4階、地下1階建て4763平方㍍約26億円  人が少なくなったから閉校になった→今後人口減少がさらに加速すると思われる→そういった地域にどんな投資をすればいいか、というのは確かに難しい問題だ。地方における最大の課題と言っていいだろう。  前述したように、さまざまな補助メニューは用意されているが、なかなか「コレ」といったものがないのが現状だ。  加えて、学校に対する地域住民の思い入れは強い。いまの少子化、児童・生徒数の減少に伴う学校の統廃合はやむを得ない流れだが、かつて自分たちが通った学校がどうなるかは、住民の関心が高い。  前段で文部科学省の調査結果を紹介したが、用途が決まっていない施設の要因として、「地域からの要望がない」が41・6%を占めていた。行政は「学校は地域住民の思い入れが強いから、住民がどうしたいかを大切にしたい」といった姿勢であることがうかがえる。裏を返すと、下手な案を提示しようものなら、住民の猛反発を受けかねない。一方、住民側は「そもそも、住民レベルではどんな可能性があるのかが分からない。だから、まずは行政が案を示してくれないことには、良いも悪いも判断しようがない」といった思いを抱いているように感じる。こうしたことも、利活用が進まない要因だろう。  最後に。今回の本誌のアンケートでは、市町村立の小・中学校の空き校舎の有無、利活用状況を聞いたものだが、同村には県立(県管理)の小野高校平田校があった。同校は2019年に閉校となった。  県教委によると、現在進めている県立高校改革では、廃校舎については、まず当該市町村に跡地利用を考えているか等の意見を聞き、市町村で利活用策がある場合は無償譲渡するという。市町村で利活用策を考えていない場合は、県のルールに基づき財産処分することになる。  小野高校平田校は事情が違い、同校がある土地は、もともと村の所有地で、現在解体工事を行っており、完了後に村に返却するという。つまり、村ではその土地をどうするかということも今後の課題になる。

  • 滞る国見町の救急車事業検証

    滞る【国見町】の救急車事業検証【ワンテーブル】

    百条委の調査能力に疑問符  国見町が高規格救急車を所有して貸し出す事業を断念した問題の検証が難航している。町執行部が設置した第三者委員会は、委員3人のうち2人が「一身上の都合」で9月下旬に辞任し議事が滞った。議会は11月上旬に地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置する方針。百条委員会は証言者が出頭を拒否したり記録提出を拒んだ場合、刑事告発できるなどの強制力を伴うが、救急車リース事業案の問題点を見過ごし、一時は原案通り可決した議会が調査能力を発揮できるかは未知数だ。  救急車リース事業は、受託企業ワンテーブル(宮城県多賀城市)の社長が「行政機能を分捕る」と発言したことが明らかとなったのを受け、町執行部が「信頼関係が失われた」と事業を中止。執行部は町民説明会での要望を受け、有識者3人からなる第三者委員会で事業の検証を進めようとした。  ところが、委員を務めていた垣見隆禎・福島大行政政策学類教授と元井貴子・桜の聖母短大准教授が辞任したことで、執行部の検証に暗雲が立ち込めた。本誌が垣見教授に電話すると「河北新報に書かれた通り。それ以上のことは答えられない」と口は重かった。  9月28日付の河北新報は《垣見教授によると、これまでの会合で委員が事業の関連資料の提出を促しても町側は「既に廃棄した」などと回答を拒み、核心部分の調査が進まなかった》《「そもそも町は第三者委による調査を条例で『事務執行適正化』に関するものに限定し、最初から問題の検証が困難な建付けになっていた」》と報じていた。  町が設置した第三者委員会とは何か。第3回臨時会(5月17日)提出の条例案によると、設置趣旨は「本町職員による不適正な事務執行が発生した場合又は発生が疑われる場合において、その経過の客観的かつ公正な検証及び再発防止のための提言を行うため」(第1条)とある。  委員会が所掌する事務は⑴不適正な事務執行の経過に関すること、⑵不適正な事務執行の再発防止策の提言に関すること、⑶前2号に掲げるもののほか、町長が必要と認めること。条文は職務を事務執行に限定していることが分かる。議会は「事務執行とは具体的に何を指すのか」と疑問視せずに原案通り可決した。  本誌は辞任したもう1人の元井准教授にメールで問い合わせたが「本件につきましては、本学企画室がご対応することになっておりますので、私からお答えすることは控えさせていただいております」と回答。辞任した2人の口が重いのは、条例第8条「委員は、職務上知りえた秘密を漏らしてはならない」「その職を退いた後も同様とする」と守秘義務が課されているためだろう。  町監査委員会は9月に発表した意見書で、4億円を超える事業にもかかわらず計画書を作成していなかった点、監査委が救急車製造仕様書の根拠となる参考資料提出を求めたところ、執行部は受託業者からの資料のみで「他は処分した」と説明したことを問題視している。  資料が新たに出ない以上、検証には関係者の証言しかない。百条委員会はワンテーブルの元社長や関わった町職員への聴取を検討しているという。町民は「狡猾な企業に町の予算を狙われ、恥をかかされた」と怒っている。百条委はガス抜きのための調査に終わらせず、ワンテーブルに狙われた過程を明らかにすることに徹するべきだ。

  • 【鏡石町議会】が遊水地特別委設置を否決

    【鏡石町議会】が遊水地特別委設置を否決

     令和元年東日本台風に伴う水害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、その一環として、鏡石町、玉川村、矢吹町で阿武隈川遊水地整備事業が進められている。  総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収する。対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地。対象エリアの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村がそれぞれ60〜70戸、矢吹町が約20戸。  住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安が渦巻いている。  そのため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行ってきた。  本誌では何度か同委員会を取材(傍聴)し、今年7月号に「鏡石町遊水地特別委が国・県に意見書提出」という記事を掲載した。  同町議の任期は9月3日までで、8月22日告示、27日投開票の日程で議員選挙が行われた。そのため、任期満了前、最後となる6月定例会で一区切りとし、意見書案をまとめて本会議に提出、採択された。これをもって同特別委は解散となった、  意見書の主な内容は、①遊水地事業区域の住民の高台移転のための支援、②移転に伴い生じる各種法令・規制の見直しや手続きの簡素化、③阿武隈川本川及び県管理支川の鈴川も含めた治水対策(特に、阿武隈川本川の河道掘削及び堤防強化)、④二度と水害(洪水被害・浸水被害)のないまちづくり・地域づくりを行うための支援、⑤遊水地事業関連施設の整備、⑥遊水地整備後の土地の有効利用のための支援など。  これを内閣総理大臣、国土交通大臣、衆議院議長、参議院議長、県知事、県議会議長に提出した。  一方で、同特別委の委員長を務めた吉田孝司議員は、「改選後も特別委を再度立ち上げ、引き続き、調査・研究していきたい」と述べていた。吉田議員は、遊水地の対象地区である成田地区出身で、自身の自宅も令和元年東日本台風で浸水被害を受けたほか、遊水地の対象エリアにもなっている。  実際、吉田議員は改選後の9月定例会で特別委設置案を提案した。しかし、賛成4、反対7で否決された。理由は、玉川村や矢吹町ではそうした動きがないこと、前任期の議会で一定の役割を終えたこと、あとは国に任せるべき、というものだったようだ。  ただ、ある関係者はこんな見解を示した。  「吉田議員は対象地区に自宅があり、住民の思いが分かるから、この問題に熱心に取り組んでいたが、吉田議員が中心となって国や県に要望するなど、目立った動きをしたことをよく思わない議員もいたように感じる。もう1つは、今改選では12人中6人が新人で、そのうちの5人が反対だった。よく分かっていない可能性もある。そういった理由から改選後の議会での特別委設置が否決されたのではないか」  改選前の特別委では、国(福島河川国道事務所)の担当者を呼び、直接見解を聞いたこともあった。そういった意味でも意義のあるものだったと言えるが、前出の関係者が語ったように、議会内の勢力争いが原因で否決されたのだとしたら、議員の存在意義が問われかねない。 あわせて読みたい 鏡石町遊水地特別委が国・県に意見書提出 2023年7月号 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家 2023年4月号

  • 【白河市】合併で生じた「議員空白地帯」

    【白河市】合併で生じた「議員空白地帯」

     2000年代を中心に進められた「平成の大合併」により、旧市町村単独の時代と比較すると、合併自治体の議員数は大きく減少している。とりわけ、核となる市があり、そこと合併した町村では「地元議員大幅減少」の傾向が強い。それに伴い、行政とのパイプが細くなっていると推察されるが、実際の影響はどうなのか。今年7月に市議選が行われた白河市の状況をリポートする。(末永) 住民の声が届きにくくなった旧3村 大信庁舎(旧大信村役場) 表郷庁舎(旧表郷村役場)  白河市は2005年11月に、旧白河市と西白河郡の表郷、大信、東の3村が合併して誕生した。以降、市議会議員選挙は2007年、2011年、2015年、2019年、今年と計5回行われた。2007年は4月に市議選が行われたが、2011年は東日本大震災・福島第一原発事故の影響で、選挙時期を7月に繰り延べた。それ以来、7月に市議選が実施されている。なお、合併後最初の市長選は2005年12月に行われたが、初代市長を務めた成井英夫氏が2007年6月に病気のため急逝。同年7月に、市議選と同じ日程で市長選が行われ、以降は同時選となっている。  今回の市議選は7月9日に投開票された。現職22人、元職2人、新人6人の計30人が立候補し、現職20人、元職1人、新人3人の計24人が当選した。投票率は56・25%で、前回を3・02ポイント下回り、合併後最低となった。結果は次頁の通り。 選挙結果(7月9日投開票、投票率56・25%) 当1521室井 伸一(58)公現(旧市内)当1518大木 絵理(36)無現(旧市内)当1374水野谷正則(59)無現(東)当1252菅原 修一(72)無現(旧市内)当1246永山  均(56)無新(大信)当1194高畠  裕(58)無現(旧市内)当1145根本 建一(59)無現(表郷)当1089藤田 文夫(68)無現(表郷)当1023緑川 摂生(64)無現(表郷)当999深谷  弘(69)共現(旧市内)当936吉見優一郎(38)無現(旧市内)当924筒井 孝充(66)無現(旧市内)当906大竹 功一(59)無現(旧市内)当859遠藤 公彦(61)無新(東)当859戸倉 宏一(69)無現(大信)当842佐川 京子(62)無現(旧市内)当816佐川 琴次(67)無元(東)当795植村 美洋(66)無新(旧市内)当790柴原 隆夫(74)無現(旧市内)当772高橋 光雄(75)無現(旧市内)当739石名 国光(75)無現(旧市内)当735北野 唯道(83)無現(大信)当726大花  務(73)無現(旧市内)当692鈴木 裕哉(51)無現(旧市内)686須藤 博之(69)無現601阿部 克弘(65)無元557山口 耕治(69)無現553市川  勤(50)無新471大森  仁(62)無新382大花 恵子(55)無新  当選者は旧市村のどこに住所があるかを併記した。選挙ではやはり、旧市内の候補者は旧市内を中心に、旧表郷村の候補者は旧表郷村内を中心に……といった具合に、遊説を行ったようだ。  「例えば、旧東村に住まいがある候補者が旧表郷村に、あるいはその逆というのは、多少はあるんでしょうけど、大部分はそれぞれの地元で選挙カーを走らせていたように感じます」(旧東村の住民)  普段の活動でも、やはり地元中心になるという。  「住民の中にも、まだ旧村の意識は残っており、議員もそうだと思います。近年は災害が相次いでいますが、例えば、市内で旧表郷村だけが局所的に被害を受けたということであれば、旧市内や旧他村の議員も集中して当該地区に来るでしょう。ただ、市内全域で被害を受けたとなれば、やはり議員は地元の状況を見て回って、必要なことがあれば市に伝える、といった活動になっていると感じます」(旧表郷村の住民)  別表は合併時と現在(今回の改選後)の旧市村の人口と議員数をまとめたもの。旧3村では、合併時12〜14人の議員がいたが、現在はそれぞれ3人となっている。 合併前、現在の人口と議員数 合併前(2005年)現在旧白河市4万8000人4万3000人24人15人旧表郷村7100人5700人14人3人旧大信村4800人3600人12人3人旧東村6000人4700人14人3人(上段が人口、下段が議員数)  旧村単位で「議員空白地帯」は発生していないが、旧表郷村には25行政区、旧大信村には26行政区、旧東村には30行政区あり、かつては2行政区に1人くらいの割合で議員がいた。それが現在は8〜10行政区に1人くらいの割合になっている。旧村内の行政区レベルで見ると、「議員空白地帯」が生じていることになる。  ここで問題になるのは、旧3村は市政(市役所)が物理的(距離的)に遠くなっているということ。そのうえ、議員もいない(少ない)となると、さらに「遠い存在」になってしまう。  合併前はほぼ毎回議員を輩出していたという行政区の住民は、「役場の業務などについて、『あの件はどうなったか』、『今度、村でこういう事業をやると聞いたが、具体的にはどういった形になるのか』等々、比較的気軽に(行政区内から出ている議員に)聞くことができたが、いまは(行政区内に議員がいないため)なかなかそうもいかない」という。  一方、合併当時の旧村の役場関係者はこう話す。  「合併議論の中で、最初のうちはこの地区(旧市村)は何人という具合に割り当て制にすべき、といった意見もありましたが、そこまでしなくても、落ち着くところに落ち着くだろうということで、そうしなかった。結果的には当初想定したような形になっていると思います」 旧東村は1人から3人に 東庁舎(旧東村役場)  人口比率で言うと、旧市内は約2800人に1人、旧3村は約1200〜約1900人に1人の割合で議員がいることになる。人口比率で言うと、旧3村の方が議員が多い格好だ。  前段で今回の市議選の投票率は56・25%と書いたが、旧市村別に見ると、旧市内が約52%、旧3村は約66〜約70%となっている。旧3村の住民はそれぞれ地元の候補者に投票する、と仮定すると、旧市村別の投票率の差がこの結果になっていると言えよう。  実は今回の改選前、旧東村は水野谷正則議員1人しかいなかった。つまりは、水野谷議員1人で、旧東村約4700人の声を市政に届ける役割を担っていたのだ。  水野谷議員に話を聞いた。  「執行部はやりやすかったかもしれません。同地区(旧村)内に議員が複数いたら、(限られた予算で地区内の課題解決に向けた事業を行う中で)『オレはこれを優先すべき』、『私はそれよりもこっちを優先すべき』といった具合に、それぞれが考えを持っているでしょうから。住民からしたら、選択肢が広がると言いますか、相談したり、市政情報を聞くことができる人は多い方がいいでしょうね。私自身、この地区の代表として、地元のために活動していますから。もっとも、白河市では、道路の補修や側溝に蓋をしてほしいなどのちょっとした事案については、町内会長や行政区長などを通して、市役所に話ができるようなシステムができていますから、議員を通して市につなぐということを求められることはあまりありません」  旧東村の住民によると、「今回の市議選では、何とか議員を増やそうという動きがあり、その結果、旧東村からは3人の議員が当選した。まだ任期がスタートしたばかりで、何が変わったということはないが、少なくとも、1人のときより地元の声を届けやすい環境になったのは間違いないと思います」という。  逆に言うと、それだけ「このままではわれわれ(旧東村)の声が届かなくなってしまうのではないか」との危機感があったということだろう。もっとも、議員が少ないことで、明確に「こうした不利益を被った」という事例は聞かれなかったが。  強いて言うなら、前段で災害時の議員の対応についてのコメントを紹介したが、「水害があった際、市に一度見に来てほしいとお願いしても、なかなか来てくれなかった。そこで、議員にお願いしたところ、ようやく来てもらった。まあ、被害が広範囲に渡ったから、なかなか細部までは見て回れない、人が足りない、ということだったんでしょうけど」との話が聞かれたくらいか。 商工団体は協議会を組織 白河商工会議所  このほか、かつて十数人いたのが3人になり、「何となくですが、商工業関係ならこの議員、農業関係ならこの議員というように、役割分担ができているように思う」(旧表郷村の住民)との声も。  もっとも、商工団体の関係者によると、白河商工会議所、表郷商工会、ひがし商工会、大信商工会の4団体で連絡協議会を立ち上げ、定期的に情報交換をしたり、市に要望活動などを行っているという。その点では、少なくとも商工関係者は、かつての旧村内に十数人いた議員が3人ほどになっても、大きな支障は出ていないようだ。  一方で、前出・合併当時の旧村の役場関係者はこう話す。  「合併協議の中で、旧自治体の区割りは『地域自治区』と位置付けられ、旧村役場は総合支所方式(旧役場の名称はそれぞれ表郷庁舎、東庁舎、大信庁舎)が採用されました。大規模なものでなければ、各総合支所の権限で予算を執行できたのです。ただ、合併から4年でその制度は役目を終えたということでなくなりました。ですから、住民は(旧役場の予算執行権がなくなったことで)市役所が物理的にも、気持ちの面でも遠くなったと感じていると思います」  合併に伴う議員減少、それによって、住民の声が行政に反映されにくくなることは、合併前から想定されていたことだ。とはいえ、実際、議員数は大きく減っているが、現状ではそれに起因する「大きな問題」は発生していない。  旧東村のように、一時(今改選前)は1人まで減ったが、住民の動きによって3人まで増やした(戻した)事例もある。当然、その分、議員に求められることは多くなる。  もっとも、議員が多ければ地域の課題が解決するかと言うと、そうではなかろう。とりわけ、同市の旧3村に限らず、核となる市があり、そこと合併した町村では、人口減少などの衰退が進んでいる、といった問題に直面しているケースが多く、それはまた別の問題と言えよう。  河村和徳・東北大学准教授(政治情報学)はこう話す。  「合併によって単独自治体時代と比較して議員数が減るということは当選のハードルが上がるということです。最初のうちは『オラが地域から何とか議員を出そう』と一生懸命支援します。ただ、後が続かない。選挙自体も、かつての(旧村の)ノウハウが通用しなくなり、なり手不足が加速していきます。全国的には旧町村単位で空白ができているところもあります。そうなると、地域の声を行政に伝えていけなくなってしまいます」  こうした状況をどう是正していくかが問われている。 議員のあり方 白河市役所  最後に、これからの議員のあり方についても述べておこう。白河市の議会の会期は60〜70日程度。町村議会だと30〜40日程度。議員からすると「一般質問の準備など、それ以外の活動も多い」というだろうが、少なくとも公式な議会活動はそのくらいにとどまる。  本誌は以前から、地方議員は仕事を持つべき、と主張してきた。なぜなら、落選したら収入がなくなるため、何よりも再選を優先させる恐れがあるからだ。結果、執行部(この場合は市長)から、次の選挙で刺客を立てられ、落選させられることがないような振る舞いになり、執行部に厳しい目を向ける姿勢が弱くなる。それは、議会全体の活力低下につながる。  そういう意味で、仕事を持ちながら議員を務めるのが本来あるべき姿。前述した実働日数を加味してもそれができないはずがない。  ちなみに、同市議会のホームページに掲載された議員名簿には、職業が出ているが「市議会議員」となっているのは3分の1の8人。ほかは「農業」が6人、「会社役員」が4人、「呉服店」、「旅行業」、「理容業」、「自営業」、「政党役員」、「行政書士」が各1人。普通の会社勤めの人はいないようだが、議員の期間は休職扱いにするとか、何らかの対応により可能になるのではないか。  関係者の中には、議員報酬だけでは食っていけないから、なり手がいないという人もいる。同市の議員報酬は月額38万5000円、副議長は同40万6000円、議長は同46万3000円。そのほか、年2回の期末手当がある。  一方で、同市議会の会期は前述の通り。その点で言うと、議会の開催日時を工夫するなどして、会社勤めをしている人でも議員になれるような取り組みが必要だろう。そうなれば「議員報酬だけでは食っていけない」という話にはならない。  もう1つ付け加えると、いま多くの議会では定数削減の流れにある。人口が減少しているから、それに見合った議員定数に、ということだが、本誌はむしろ、議会費(議員報酬の総額)はそのままで定数をできるだけ多くした方がいいと考える。議員の数が多ければ、それだけ住民の意向を反映させることができるからだ。当然、そのためには、前述したように会社勤めの人でも議員活動ができるような工夫が必要になる。  議会進行などにしても、いまの地方議会は「無駄に大仰なもの」になっているが、「形式」にこだわりすぎではないか。もっとフランクな形にした方が馴染みやすいだろうし、いい議論ができるのではないか。

  • 三春町議会で任期満了1日前に辞職勧告

    三春町議会で任期満了1日前に辞職勧告

     三春町議会で、任期満了の1日前に辞職勧告決議が可決されるという奇妙な出来事があった。背景には、議員定数削減や4年前の正副議長選をめぐる議会の混乱がある。 定数削減やポストをめぐり議員が対立 新田信二前議員  9月29日に開かれた三春町議会の臨時会は、議会運営副委員長の佐久間正俊議員から提出された新田信二議員に対する辞職勧告決議案が審議された。  議案書には次のような理由が書かれていた。  《令和5年9月7日、新田信二議員は、令和5年9月5日告示の三春町議会議員一般選挙における当選予定者である小林孝氏宅を訪れ、当選証書を受け取らないよう長時間にわたり執拗に要求した事実が判明した。  三春町議会基本条例第21条では、「議員は、町民全体の代表としてその倫理性を常に自覚し、町民の疑義を招くことのないよう行動しなければならない」と規定されており、議会における諸活動だけでなく、私生活においても法令を遵守し、高い倫理観と自立性の下に行動することが求められている。  今回の行為は、地元を同じくする町議会議員候補者に対する不当な圧力と強要であり、さらには公職選挙法にも抵触するおそれがあるものであると判断されることから、三春町議会として決して許容・看過することはできない。  よって、新田信二議員は(中略)速やかにその職を辞するよう勧告するものである》  臨時会の約3週間前、三春町議会は改選を迎え、9月5日告示で議員選挙が行われたが、定数16に対し立候補者は現職10人、新人6人にとどまったため、16人の無投票当選が決まった(別掲)。 ◎三春町議選当選者 影山 孝男 66 無新①影山 常光 71 無現③橋本善一郎 68 無現②松村 妙子 63 公現③三瓶 文博 66 無現④鈴木 利一 69 無現④三瓶 一壽 67 無新①佐久間正俊 73 無現⑤佐藤  弘 77 社現⑧篠崎  聡 59 無現②影山 初吉 75 無現⑤大内 広信 44 無新①山崎ふじ子 63 無現③遠藤 亮子 62 無新①石井 一正 81 無新①小林  孝 73 無新①※年齢は告示時点※丸数字は期数  新しい議員の任期は10月1日から4年。つまり辞職勧告決議案が審議されたのは、9月30日の任期満了の1日前だったのである。ちなみに当時2期目だった新田氏は今回の町議選に立候補していない。その新田氏から、当選証書を受け取らないよう迫られたのが初当選した小林孝氏だった。新田氏と小林氏は同じ山田地区に暮らしている。  両氏の間に何があったのか触れる前に、臨時会の模様を伝えると、当事者である新田氏が退席後、辞職勧告決議案が審議されたが、質疑はなく賛成・反対討論もなかったため、全会一致で可決された。  ただ、採決前に臨時会を中断して開かれた議員全員協議会では、橋本善次議員から「会議規則に違反するやり方で、審議をやり直すべき」と異論が出されていたが、佐藤弘議長(当時)が問題ないと退けていた。  臨時会の様子から、新田氏の〝味方〟は橋本氏と、もう一人、本田忠良議員という印象を受けた。興味深いのは、この3氏がいずれも今回の町議選に立候補せず、町議を引退していることだ。  話を戻すと、辞職勧告決議は可決されたが法的拘束力はない。臨時会閉会後、新田氏は本誌の取材に「決議は納得できない。任期は明日(9月30日)までなので、辞職勧告に応じるつもりはない」と不満を露わにしたが、任期満了の1日前に辞職を迫られるのは極めて異例だ。  新田氏はなぜ、議員を辞めろと迫られたのか。  「町議選終了後、小林氏の親族と地域代表の方から『小林氏に当選を辞退するよう言ってほしい』と相談された。親族と地域代表の方は、小林氏に『議員になってほしくない理由』を述べていたが、個人情報の絡みもあるので詳細を明かすのは控えます。そこで私は、小林氏が当選した2日後の9月7日、親族と地域代表と3人で小林氏の自宅を訪ね、本人に『9月11日の当選証書付与式は欠席し、当選を辞退してはどうか』と伝えた。そのやりとりが2時間半と長時間にわたったのは確かだが、議案書にある『不当な圧力』をかけた事実はない」(新田氏)  今回の町議選は当初、立候補の意思を示していたのが現職10人、新人1人しかいなかった。告示前日の時点でも14人で、実際、掲示板に貼られた候補者ポスターも14枚だった。  こうした中、告示日に新人2人が急きょ名乗りを上げたが、そのうちの一人が小林氏だった。新田氏によると「小林氏と石井一正氏はポスターを1枚も貼らずに当選した」。親族と地域代表は、小林氏に「議員になってほしくない理由」があったほかに、このような当選の仕方で地元の代表と言えるのかという疑問も感じていたようだ。  とはいえ、突然訪ねて来た現職議員から「当選証書を受け取るな」と言われれば、圧力と受け取るのは当然だ。小林氏は「同じ山田地区に暮らす者として新田氏を応援してきたのに、なぜそんなことを言われなければならないのか」と激怒。すぐに佐藤議長ら現職議員に当時の状況を説明したという。  佐藤議長(現在は議長ではなく議員)の話。  「現職議員が当選者に『当選証書を受け取るな』などと迫るのは言語道断です。私は9月21日に小林氏から事情を聞き、翌22日には新田氏からも聞き取りをして発言が事実であることを確認した。その際、新田氏は受け取るなと言った理由も説明したが、ここで問題なのは現職議員にあるまじき発言をしたのか・していないのかであり、その結果、発言は事実と確認できたので、議会基本条例に抵触すると判断した」  新田氏はこの問題を協議するために開かれた議員全員協議会や臨時会の場で「弁明の機会がなかった」と憤っていたが、佐藤議長は「9月22日に聞き取りをした際、影山初吉副議長と議会事務局長も同席し、事実関係を確認しているので問題ない」と取り合う様子はなかった。 定数削減で対立  新田氏の行為は、現職議員として軽率だったことは否めない。ただ、任期満了1日前の辞職勧告はやはり違和感がある。  「背景には議員定数削減がある」と語るのは前出・新田氏の〝味方〟の橋本善次氏だ。  「1年前、議会内で議員定数削減が議論されたが、反対多数で否決された。4年前の当選時、議会は10人と6人で分かれており、そのままいけば定数削減も実現していたと思うが、その後、数人が立ち位置を変え議会構成が逆になったのです」(同)  要するに、切り崩しにあったことで定数削減は実現しなかったと言いたいようだ。  新田氏のもう一人の〝味方〟である本田氏もこう補足する。  「三春町議会の適正な定数は14だと思う。今回の町議選で言えば告示前日までに立候補の意思を示していたのは14人だったので、それでよかったんです。そのまま14人が当選しても欠員2では補選は行われないからね(※欠員が定数の6分の1を超えた場合は補選が行われる)。ところが告示日になって小林氏と石井氏が急きょ立候補したため、無理やり定数16に届いた形になった」  本田氏は、他の市町村では定数削減が進み、ただでさえ議員の成り手がいない中、「定数に届いていないなら出てみるか」とばかりポスターも貼らずに当選してしまう状況はよくないと問題提起しているわけ。ちなみに新田氏、橋本氏、本田氏は議員定数削減を目指して活動してきた仲間でもある。  確かに、町民からは「三春町は議員が多すぎる」との声が上がっている。しかし、前出・佐藤議長に言わせると  「今回の町議選で引退した現職は(新田氏、橋本氏、本田氏を含む)4人だが、彼らは後継者を立てず、あえて定数割れになるよう仕向けたのです。その結果、告示前日の立候補予定者は14人にとどまったが、告示日に小林氏と石井氏が立候補したため彼らの思惑は崩れた。山田地区からは他にも立候補を模索する人が何人かいたが〝圧力〟がかかり全員立候補を断念したという話も聞いている。そういう事情を知る者からすると、新田氏が小林氏に『当選証書を受け取るな』と迫ったのは、どうにかして定数割れに持ち込みたかったのではないかという疑いも出てくるわけです」  今回の改選後に議長に就任した影山初吉議員もこのように話す。  「定数削減をやらないとは言っていない。問題は、議論が深まる前に『とにかく数を減らせ』という拙速な決め方にある。定数削減は今の議員でしっかり議論し、適正な定数を導き出したい」  このように、表面的には定数削減でモメているように映るが、実は橋本氏、本田氏と佐藤氏、影山氏の間には浅からぬ因縁がある。 尾を引く正副議長選の因縁  本田氏と橋本氏は4年前の町議選後(2019年10月)に正副議長に選出されたが、その前に正副議長を務めていたのが佐藤氏と影山氏だった。この時の選出をめぐり軋轢が生じたことに加え、複数議員による不適切発言なども重なって議会は大きく混乱。結局、本田議長と橋本副議長は就任からわずか2週間で辞任に追い込まれ、佐藤氏が議長、影山氏が副議長に返り咲いた経緯がある。  「4年前の町議選と一緒に行われた町長選で今の坂本浩之町長が初当選したが、この時、ほとんどの議員は坂本氏を推した。その流れで正副議長も引き続き佐藤氏、影山氏が務める方向でまとまったが、蓋を開けたら本田氏と橋本氏が就いたため、裏切りが有ったの無かったので対立が起きたのです」(事情通)  実際、橋本氏は「4年前(の正副議長選)は10対6という構図だったが、定数削減を議論していた昨年には構図が逆になった」と述べているのに対し、影山氏は「橋本氏や本田氏は『裏切った議員がいる』みたいなことを言っているようだが、とんでもない話」と反論。関係がこじれている様子がうかがえる。  その影響からか、ここに名前が挙がった議員は自民党三春町支部に所属しているが(佐藤氏は社民)、一枚岩になれない状態が続いている。新田氏、橋本氏、本田氏は「私たちは根本匠先生も星北斗先生も推しているが、支部とのつながりは……」と言葉を濁し、三春町支部代表者の影山氏も「ちょっと彼らとはね」と突き放したような発言をしている。  前出・事情通によると、新田氏は11月12日投票の県議選田村市・田村郡選挙区(定数2)に立候補するかどうか悩んでいたという。三春町議選に立候補しなかったのは、そのためと言われていた。新田氏に確認したところ曖昧な返答に終始していたが、自民党は同選挙区に現職で4選を目指す先崎温容氏を擁立し、1議席を死守する方針のため、三春町支部では新田氏の動きをよく思っていなかったのかもしれない。  「新田氏の本業は電気工事業の㈱タツミ電工社長で、三春町商工会副会長を務めるなど町内では目立った存在。それをやっかむ人も一定数いると思う」(同)  ただ、町民の中には「本当に当選証書を受け取るなと言ったり、出たいと考えていた人を立候補させないようにしていたとすれば、公選法に違反するのではないか」と厳しい見方をする人がいるのも事実で、警察も小林氏に「話を聞きたい」と接触しているという。  定数削減のやり方には問題があったかもしれないが、減らすこと自体に町民から異論は出ていない。今の議会が、遺恨を残して辞めた3氏の意向をどう受け取るか注目される。

  • 住民訴訟経験者が問題点を指摘

    住民訴訟経験者が問題点を指摘

     地方自治法で定められている「住民訴訟」制度。ただ、住民側の主張が認められたケースはそれほどない。実際に住民訴訟を行った関係者が、住民訴訟の問題点を指摘する。 直近3年間の勝訴事例は1%未満  住民訴訟は地方自治法242条で規定されている。地方自治体(都道府県市区町村)が違法・不当な公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行などがあったときは、監査委員に対して監査を求めることができる、とされている。これを住民監査請求という。住民監査請求があったら、監査委員は60日以内に監査を行い、請求者に結果を通知しなければならない。言うなれば、住民が行政をチェックできる仕組みである。  さらに、同法242条の2では、請求者は、住民監査請求の結果に不服がある場合、裁判所に訴えを請求することができる、とある。これを「住民監査請求前置主義」という。要するに、住民監査請求を行い、その結果に不服がある場合は、住民訴訟を起こすことができる、ということである。  制度上はそう定められているわけだが、果たしてそれはきちんと機能しているのか。  総務省が公表している「地方自治月報(60号)」によると、2018〜2020年度の3年間で、全国で住民監査請求が行われたのは、都道府県に対するものが350件、市区町村に対するものが2340件で計2690件。このうち、勧告が行われた事例はごくわずかで、それ以外は請求そのものが受理されない「却下」と、監査の結果、違法等が認められない「棄却」が大部分を占めており、一部「取り下げ」、「合議不調」などがあった。  その結果を不服として、住民訴訟が起こされた件数は、都道府県が154件、市区町村が430件で計584件。住民訴訟の結果は、却下が63件(都道府県と市区町村の合計、以下同)、棄却が189件、原告(住民側)一部勝訴が30件、全部勝訴が2件だった。残りは係争中で、それを除いた住民側全部勝訴の割合は約0・7%、一部勝訴を入れても約11%となっている。  県内では、県に対する住民監査請求が5件、市町村に対する住民監査請求が17件で、いずれも却下、棄却(一部却下、一部棄却の事例を含む)だった。県に対する5件では住民訴訟は起こされていない。市町村については17件のうち、3件で住民訴訟が起こされている。1つは田村市の違法な補助金交付に対する損害賠償請求・不当利得返還請求、2つは大熊町の海外視察費返還履行請求、3つは大熊町の不能欠損金公金損害賠償請求。地方自治月報(60号)公表時点で、大熊町の海外視察費返還履行請求は「却下」、それ以外は「係争中」となっている。  こうして見ても、住民監査請求、住民訴訟で住民側の請求が認められるケースは稀であることが分かる。県や住んでいる市町村の公金支出、事業などについて、「おかしい」と思い是正を求めようとしても、手間がかかり、裁判になれば費用もかかるうえ、認められる事例は少ないとなれば、かなりハードルが高いと言わざるを得ない。 審理のあり方 判決後に会見を行う原告団。左から2人目が久住さん。  そんな中、実際に住民訴訟を起こした関係者が問題点を指摘する。その関係者とは、前段で触れた田村市の違法な補助金交付に対する損害賠償請求・不当利得返還請求の原告。地方自治月報(60号)公表時点では「係争中」だったが、すでに判決が確定している。  この件については、本誌でも取り上げてきた経緯がある。田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐる問題だ。同発電所は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」が運営しており、市は同社に補助金を支出している。  住民側は訴訟で「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、判決時は白石高司市長)に、補助金約17億円を返還するよう求めた。  住民側の基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」としている。そうした背景から、反対運動を展開し、住民訴訟を起こすに至ったのである。  同訴訟は昨年1月の一審判決、今年2月の二審判決ともに住民側の請求が棄却され、判決が確定した。その際、住民側は「実地検証や本田仁一市長(当時)の証人喚問を求めたが、いずれも却下された。バグフィルターとHEPAフィルターに関する各種資料提出を求めたが、必要ないとされた。とても、適正な審理が行われたとは言い難い。にもかかわらず、判決では『安全対策は機能している』として請求が棄却された。納得できない」と話していた。  同訴訟の原告(住民)代表の久住秀司さんはこう話す。  「原告(住民)側と被告(行政)側の対応力や訴訟費用の負担力などの違いもあるが、実際はそれだけではないと思います。司法権の独立は絵空事に過ぎず、司法の行政に対する追従・忖度が多いことが、われわれだけでなく、全国各地の住民訴訟の結果に表れているのではないでしょうか。これでは行政に対する住民のチェック制度として認められている住民訴訟が、建前だけの空虚なものになってしまいます」  そう問題点を指摘したうえで、久住さんはこう続けた。  「そこで提言したいのが、住民訴訟において原告側・被告側のいずれからであっても、現場検証、証人尋問等の申請が出された際は、真実追求のために原則的に裁判所はそれを実施する義務があることを明文化すべき、ということです。裁判所はあくまでも真実追求の場であってほしいと願います」  前述したように、ルール上は住民が行政をチェックできる仕組みがあるが、かなりハードルは高い。一方で、住民にはもう1つできることがある。それは、適正な行政執行をする首長、それを厳しくチェックする議会(議員)を選ぶこと。選挙でそれを見極める力が求められる。

  • 福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

    福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

     福島市役所に勤めていた会計年度任用職員の男性が、上司から大声で怒鳴られるなどの対応を取られたことで精神的ストレスを抱え、任期を迎える前に自主退職した。男性は「同市役所のパワハラ対策には欠陥がある」と訴える。 救済策で差を付けられる非正規職員  福島市で上司からパワハラを受けたと訴えるのは三条徹さん(仮名、44)。奥羽大卒。民間企業を経て、警察官を目指したものの叶わなかったため、国や県の非正規職員として働いてきた。福島市には2年前に会計年度任用職員として採用され、農業振興課生産振興係で勤務していた。  仕事内容は正規職員の事務補助。1年目に課長から頼まれてチラシの新しい整理方法を導入したところ、市長賞を受賞しやりがいを感じた。食堂、売店などが整備されていて働きやすかった。そのため2年目も継続して働くことにした。  ところが、その直後から、直属の上司である係長の態度が急変した。  他の職員とは冗談を言いながら話すときもあるのに、三条さん相手となると、不機嫌そうな表情を浮かべる。仕事の報告・面談時間の確認に対し、「そんなこと俺知らねえし」、「面談でも何でも結構でございますけどー」などと返された。  毎年実施している作業や、他の正規職員から頼まれた作業に従事しているときも、「なぜそんな無駄なことをやっているのか」、「そんな作業は他に仕事がないときにやってください!」と三条さんだけ怒鳴られた。次第に三条さんは係長と話すことに恐怖心を抱くようになった。  「私の仕事ぶりがダメで、つい注意してしまうというなら、いっそ1年目が終わった時点で契約を打ち切ってほしかった」(三条さん)  この係長は特定の職員に厳しく当たる癖があり、前年まで三条さんはその姿を他人事のように見ていた。  例えば別部署に異動した後も残務処理のため、たびたび農業振興課に訪れていた職員がいた。係長は顔を合わせるたび「まずあんたのことが信用できない。どうやったら私に信用してもらえるか考えないと」と繰り返し注意していた。「それだけ言われるということは仕事が遅い人なのだな。ダメな人だな」と思っていた。  しばらくすると、別の若手職員が連日注意されるようになった。「何でやってないの!? 君の言うことは信用できないし、聞くに値しない!」と怒鳴る声が、部署の端にいる三条さんにも聞こえて来た。若手職員は新年度、別の部署に異動していった。「大変だな」と見ていたが、まさか次は自分が厳しく言われる側に回るとは考えていなかった。  「自分が至らないから係長にこれだけ怒られるのだ」と言い聞かせて仕事を続けていた三条さんだったが、昨年12月ごろになると、毎日のように理不尽な理由で怒られるようになった。精神的に限界を迎えた三条さんは人事課に駆け込み相談した。改善につながることを期待したが、そうしている間に、三条さんにとって決定的な出来事が起きた。  三条さんの始業時間は9時15分。毎朝、始業時間の少し前に出勤し、カウンターをアルコールで拭き、鉢植えの花に水をあげ、周りを雑巾で拭いてから、新聞のスクラップをするのがルーチンワークだった。  ところが、その日に限って係長が始業時間前に三条さんを呼び止め、「新聞のスクラップは終わったのか!?」と尋ねた。「私の始業時間は9時15分からでは……」と恐る恐る答えると、嫌みを込めたトーンで「それは大変申し訳ありませんでした」と言われた。  勤怠状況を管理しているのは係長で、始業時間を知らないはずはない。連日さまざまな理由で怒鳴られていたが、ついに始業開始前から始まるルーチンワークにまでイチャモンを付けられるようになったのか――。心が折れた三条さんは課長に抗議の意味を込めて辞表を提出した。  当初、課長は係長のパワハラについて「気付かなかった」として、「有休を使って休んでいる間に考えよう」と退職を考え直すよう言ってくれた。だが、1月に入ると態度を一変。「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった。課のみんなもどう接していいか分からない」と突き放された。  やむなく正式に退職の事務手続きを進めるため、人事課を訪ねると、前回相談した職員が顔を出し、「すみません、あの後、コロナになっちゃって」と謝ってきた。精神的に限界を迎えて相談したにもかかわらず、他の職員への引き継ぎも行われず、放置されたままになっていたのだ。  「せめて一言連絡しようとは考えなかったのか、不思議でなりません」(三条さん)  あらためて同市の形式にのっとった辞表を提出するよう求められ、人事課職員に言われた通り、退職理由を「一身上の都合により」と書いて提出。結局、1月末で退職した。  離職後、失業保険の手続きや転職先探しのためにハローワークに行った三条さんは退職理由の詳細を聞かれて、素直に「パワハラを受けたから」と答えた。退職理由を書き換えるための申立書を渡されたので、係長にパワハラを受けたこと、人事課に相談に乗ってもらえなかったことを書いて市に送った。市からの返事は、所属長である農業振興課長による「パワハラではなく『指導』の範囲内だった」というものだった。  「パワハラについて『気付かなかった』と話していた課長がなぜ『指導の範囲内だった』と言えるのでしょうか。辞表提出後、課長は『今回の件で俺の評定も下がっただろう』とも話していたが、『指導の範囲内』なら評定が下がるわけがありませんよね。いろいろ矛盾しているんです」(三条さん) 周知不足の相談窓口 福島市役所  実は福島市役所内にはパワハラなどのハラスメントの被害に遭った職員の相談を受ける窓口があった。  一つは公平委員会。地方公務員法第7条に基づき、職員の利益保護と公正な人事権の行使を保護するための第三者機関として設置されている。主な業務は①勤務条件に関する措置の要求、②不利益処分についての審査請求、③苦情相談。福島市の場合、総務課が担当課になっている。苦情を申し立てれば、双方に事情を聞くなどの対応を取ってもらえたはずだ。  だが、三条さんは在職時に公平委員会の存在を知らず、人事課の担当者に相談した際も紹介されることはなかった。  市では3年ほど前から、パワハラ被害などに悩む市職員に、弁護士を紹介する取り組みも始めている。ところが、ポスターなどで周知されているわけではなく、正規職員に支給されるパソコンでのみ表示される仕組みになっていた。会計年度任用職員には、個別のパソコンを支給されていない。そのため、三条さんはそんな制度があることすら知らなかった。退職後に制度を利用させてほしいと頼んだが、「もう職員じゃないので難しい」と断られた。  福島市役所職員労働組合は正規職員により構成されているが、会計年度任用職員からの相談も受け付けている。ただ、三条さんは市職労に相談しようと思いつきもしなかった。  パワハラ自体の問題に加え、相談窓口が十分に周知されていない問題もあることが分かる。  「このままでは自分と同じような目に遭う職員が出る」。三条さんは木幡浩市長宛てに再発防止策を講じるよう手紙を出したほか、市総務課に公益通報したが、何の回答もなかった。労働基準監督署や県労働委員会に行って、「もし福島市職員からパワハラ相談があったら、相談窓口があることを教えてください」と伝えた。マスコミにもメールで情報提供したが、動きは鈍かった。 木幡浩市長  ちなみに本誌にもメールを送ったそうだが、システムのトラブルなのかメールは届いていなかった。唯一月刊タクティクス7月号で報じられたが、大きな話題になることはなく、あらためて本誌に情報提供したという経緯だった。  元会計年度任用職員の訴えを市はどう受け止めるのか。人事課の担当者はこのように話す。  「当事者(三条さん)から相談を受けた後、所属長である農業振興課長が係長に聞き取りしたが、本人は発言の内容をはっきり覚えていませんでした。多少大きな声で指導したのかもしれませんが、捉え方は人によって異なるし、それが果たしてパワハラに当たるのかどうか。人事課では農業振興課長と面談し対策を講じようとしていたが、(三条さんが)辞表を提出した。展開が早くて、弁護士の制度を紹介したり、パワハラの有無を調査する間もなかった、というのが正直なところです。パワハラがあったかどうかは、市としても顧問弁護士などと相談して検討する話。双方にしっかり話を聞くなど、調査を行わずに断言はできません」  パワハラの事実を認めないばかりか、人事課で相談を放置していたことを棚に上げ、「調査する前に退職したのでパワハラの有無は分からない」と主張しているわけ。  ちなみに人事課への相談が放置されていた件に関しては「人事に関する相談はデリケートな問題なので、一つの案件を一人で継続して担当するようにしている。そうした中でうまく引き継ぐことができなかった」と他人事のように話した。 「誰にでも大声を出していた」  一方でこの担当者はこのようにも説明した。  「農業振興課長の報告によると、係長は興奮すると誰にでも大きな声を出して熱くなることがあった。その人だけに嫌がらせをしていたわけではないという意味で、パワハラと言い切れるのだろうか、と。そういう点からも、市としては、『一連の対応はパワハラではなく業務上の範囲内だった』という認識ですが、態度によってはパワハラと受け取られる可能性があるということで、あらためて農業振興課長が係長に指導を行いました」  三条さんだけでなく、誰にでも大声で怒鳴ることがある職員だったのでパワハラには当たらない、というのだ。厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。市の解釈だと、特定の人物に対してでなければ、どれだけ精神的苦痛を与えてもパワハラには当てはまらないことになる。  人事課担当者は「管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施している」と話すが、この間のやり取りを踏まえると、正しい知識のもとで行われているか疑問だ。  気になったのは、人事課の担当者が、三条さんが退職した経緯についてこのように述べたことだ。  「(三条さんは)係長への抗議的な意味合いで辞表を出したようですが、同じ部署で働きづらい部分もあるし、もうやめるしかないんじゃないか、という流れで退職に至ったと聞いています」  前述の通り、三条さんは課長から「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった」と言われ、退職を促された、と主張していた。三条さんの見解とは違う形で報告されていることが分かる。  ちなみに課長、係長はともに今春の人事異動で農業振興課から異動になっており、どちらも降格などにはなっていなかった。  三条さんがいなくなった後の農業振興課ではどんなことが起きていたか共有され、再発防止策は講じられているのか。4月に赴任した長島晴司課長に確認したところ、「当然共有されています。ああいったことがあると、職場の雰囲気は悪くなるし、係の職員も疲弊する。そうした雰囲気の改善に努めており、併せてパワハラと受け取られるような指導はしないようにあらためて気を付けています」と話した。 厚労省指針は守られているのか  地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「厚労省の指針では職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている」という。  上林特任教授が執筆を担当した『コンシェルジュデスク地方公務員法』では公務員のハラスメント対策について、次のように記されている。  《部下は、パワーハラスメントを受けていても、上司に対してパワーハラスメントであることを伝えることは難しい。とりわけ、非正規職員のような有期雇用職員は、次年度以降の雇用の任命権者が直属の上司の場合が多いため、なおさら相談しにくい。したがって、上司以外の信頼できる職場の同僚、知人等の身近な人やより上位の人事当局、相談窓口等に相談することが必須となる》  《相談窓口・相談機関は、事業主の雇用管理上講ずべき措置の内容の中では重要な位置取りをしめ、厚生労働省のパワハラ防止指針では、相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することとし、相談窓口担当者は、①相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、②相談窓口については、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じているだけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められているとしている》  昨年、市が公表した「福島市人事行政の運営等の状況について」という文書によると、2021年度における公平委員会の業務状況は、不利益処分に関する不服申立1件、職員の苦情の申立1件のみ。  職員からの苦情がない快適な職場なのか、それとも公平委員会の存在自体を知らない人が多いだけか。いずれにしても厚労省通知に定められている労働者への周知が行われているとは言い難い印象を受ける。  もっというと、会計年度任用職員にはパソコンが支給されていなかったので、弁護士相談制度に触れられなかったというのは、結果的に正規職員と非正規職員で相談窓口の案内に差が出た形になる。同じ中核市である郡山市、いわき市にも確認したが、そのような差はなかった。すぐに解消すべきではないか。  現在は福島市内の別の場所で働いている三条さん。「私のような思いをする人がこれ以上出てほしくない。いまさら謝罪や責任追及を求めているわけではない。市役所は閉鎖的でおそらく自浄作用はない。だからこそ、報道を通していかに福島市のパワハラ対応がダメか、多くの人に知ってもらい、少しでも体制改善につながればと思っている」と訴えた。福島市はまずパワハラ対策の周知から始めるべきだ。

  • 評判が悪い【押山義則】大玉村議長

    評判が悪い【押山義則】大玉村議長

    大玉村議会は9月4日、改選後初の臨時会を開き、議長に押山義則氏(75)、副議長に武田悦子氏(64)を新任したが、押山氏をめぐっては村民から「議長にふさわしくない」との声が寄せられている。 議長選で一派の2人が白票  正副議長選は議員12人による無記名投票で行われ、このうち議長選は押山氏5票、本多保夫氏(71)4票、白票3票という結果だった。白票が25%を占めるのは異例だが、本来であれば押山氏はもっと得票してもおかしくなかったという。  「順当なら7票、上手くいけば9票入ったかもしれないのに、蓋を開けたら5票。押山氏の信用の低さが露呈した形です」(ある議会通)  押山氏はいわゆる村長派で、現在3期目の押山利一村長(73)が初当選後につくられた「大玉創生会」の副会長として活動してきた。同会は県議会や市議会に見られるような会派ではなく、勉強会という位置付けになっているが、議会内に支持基盤がなかった押山村長を支える目的で発足したため、メンバーは自然と村長派に色分けされる。  発足から8年が過ぎ、8月6日投開票の村議選を経てメンバーが入れ替わった大玉創生会は、別掲の7人で引き続き押山村長を支えていくことになる。  これに倣えば、押山氏は議長選で7票獲得してもいいはずなのに、実際はそれより2票少ない5票だったため「信用が低い」と見なされたわけ。  「新人の3氏は全員押山氏に投票したが、投票前には『本当に押山氏でいいのか』とかなり悩んだ人もいたそうだから、場合によっては5票も取れずに〝落選〟していた可能性もあった」(同)  押山氏は大玉村出身。郡山工業高校(現、郡山高校)卒。設計事務所や同村役場勤務などを経て村内と郡山市内に飲食店を開業したが、新型コロナの影響で閉店。改選前は副議長を務めていた。  押山氏の信用の低さはどこから来ているのか。  複数の村民によると、村議選前、押山氏にまつわる二つのウワサが急浮上した。一つは昔の出来事、もう一つは最近の出来事だが(真偽不明のため、この稿で取り上げるのは控える)、そのウワサが影響して、もともと選挙は強くないが陣営の予想より得票数が減ったのではないかと訳知り顔で話す村民もいた。  「要するに大玉創生会のメンバーは、議長選で押山氏に投票すれば支持者から『なぜ、あいつに入れたんだ』と突き上げを食らうことを恐れたのでしょう」(同)  だからメンバーは、普段は同じ村長派でも、議長選では投票しなかった、あるいは投票したけどかなり悩んだというわけ。  筆者はある新人議員に取材を申し込んだが「遠慮させてほしい」とのことだった。  「大玉村は『財界ふくしま』が詳報した『山ろく交流センター』の建設をめぐる問題で混乱し、今回の村議選では押山村長に近い新人を複数当選させることで議会の安定を図ろうとした。そして実際、そういう議会構成になったのに、村長派の筆頭である押山氏に対しては『議長にふさわしくない』との判断が働いた。議長は村長と連携を密にし、スムーズな議会運営を行う役割があるが、各議員が押山議長の言うことをどこまで聞くか気掛かりです」(同)  前述の通り議長選では白票が3票あったが、このうちの2票は共産党の須藤軍蔵氏(78)と前出・武田氏であることが分かっている。  須藤氏に話を聞いた。  「私は押山氏も本多氏も議長にふさわしくないと思ったから白票を入れた。ただそれだけです」  現在10期目の須藤氏だが、正副議長選で白票が3票を数えたことは記憶にないという。  須藤氏は自宅のすぐ近くで進められた「山ろく交流センター」の建設に賛成し、本多氏は反対していたため、本多氏を議長には推せないと判断したが、押山氏をふさわしくないと思った理由は何だったのか。  押山氏にまつわる二つのウワサは須藤氏も村議選の期間中、何度も耳にしたというが、  「ウワサが本当かどうかは確かめようがないので、それに基づいて押山氏を評価したりはしない。ただ議長選前には、押山氏が議長にふさわしくないと思う私なりの理由を本人に直接伝え『だから私はあなたには投票できない』とハッキリ言いましたよ」(同)  須藤氏は「私なりの理由」を明言しようとはしなかったが、村民の間からは  「日常生活に苦労する村民が少なくない中、押山氏は『自分は(お金に)余裕がある』みたいな、村民に寄り添っていない発言が目に付いて……。そういう他人の痛みを分からない人が、議会を代表する議長に就くなんてとんでもない」  と、議員としての資質を疑う声が聞かれた。二つのウワサだけが押山氏の信用を低下させている理由ではないことがうかがえる。 「私の生き様は他人と違う」 押山義則議長  実は、共産党の2議員は執行部に是々非々の立場を取っているが、押山村政に反発することはほとんどないため、実質村長派という見方をされている。そうなると、議長選では押山氏に投票しても不思議ではないのだが、実際は白票だった、と。冒頭で議会通が「9票の可能性もあった」と言ったのは、大玉創生会(7票)と共産党(2票)を合わせた数を指している。  押山氏本人は議長選の結果をどのように受け止めているのか。  「私の生き様は少々他人と違っているので、いろいろ言われてしまうのは致し方ないと思っています。大玉創生会をベースに考えれば、議長選では私に7票入ってしかるべきだが、前の正副議長選でも〝造反〟というか同じようなことが起きているので、特段気にしていません」  議長選の直前には共産党の2議員にも自分への投票を呼びかけたが、断られたという。  「私は自分から議長になりたいとは一言も言っていない。各議員の期数や副議長を務めた立場から『今回は押山さんじゃないか』となり、そう言っていただいた以上は議長選で勝てるよう最善を尽くしただけ。その結果、5票には感謝しているし、白票の3票も、もし本多氏に入っていたら計7票で私は負けていたわけだから、感謝しています」(同)  押山氏は自身の議員活動を振り返り、今まで一般質問を欠かしたことがないこと、村議会基本条例の策定に奔走したこと、議員定数削減を強く主張したこと等々を話した。  「そんな私の活動を『目立とうとしている』とか『定数削減なんて余計なことを言うな』とか、よく思わない議員がいたのは事実でしょう。設計事務所や飲食店での仕事ぶりを見て眉をひそめる人もいたかもしれません。しかし、私としてはどれも必死にやったことなので、後悔は一切ありません」(同)  大玉村をめぐっては、かつて万引き犯の汚名を着せられた議長や学歴が正確ではないと指摘された議員を本誌で取り上げたことがある。当時の村長が村民に訴えられた、いわゆる「ヤマツツジ訴訟」をリポートしたこともある。今回の出来事を見るにつけ、同村は定期的に騒動が起きている印象を受ける。  ともかく、押山氏が村民や議員から「議長にふさわしい」との評価を得られるかは、これからの振る舞いや発言にかかっている。

  • 矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景

    矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景

     受給対象ではない住居手当を7年8カ月にわたり受け取っていたとして、矢吹町の30代男性職員が戒告の懲戒処分を受けた。  報道や関係者の情報によると、この男性職員は2013年2月から賃貸物件を契約し、住居手当1カ月2万6700円を受給していた。  2015年10月に賃貸物件を引き払い、実家に住むようになったが、住居手当の変更手続きを怠り、同年11月から今年6月までの7年8カ月分、245万6000円を受給していた。職員は届け出を「失念していた」と話している。また、町もこの間、支給要件を満たしているかどうかの確認をしていなかった。  本人の届け出により発覚し、不適切受給した分は全額返還された。  同町総務課によると、毎月渡される給与明細に住居手当の金額は記されている。それを確認せず7年もの間手当をもらい続けたということになる。本当に故意ではなかったのか、それとも住居手当のルール自体よく理解せずもらっていたのか。  懲戒処分は免職、停職、減給(6月以内)、戒告の4段階がある。町は職員に故意や悪質性はなかったとして、懲戒処分の中で最も軽い戒告処分、監督する立場だった管理職の50代男性2人を口頭注意とした。処分は9月15日付。  町内在住の年配男性は「結構重大な問題だと思うけど、ずいぶん軽い処分だったので呆れました」と語る。  というのも、9月11日、群馬県富岡市の職員が住宅手当235万円を不正に受け取っていたとして、停職6カ月の懲戒処分となったことが先行して報じられていたからだ。  富岡市の榎本義法市長は「公務員としてあるまじき行為。誠に遺憾であり深くおわび申し上げる。綱紀粛正の徹底と再発防止を図る」(上毛新聞ウェブ版9月12日付配信)とコメントしている。  「金額的には富岡市より矢吹町の方が大きいが、軽い処分で乗り切ろうとしている。蛭田泰昭町長は来年1月任期満了を迎える町長選に再選を目指し立候補する意向を示している。不祥事という印象が付くのを避けようとしたのかもしれません」(町内在住の年配男性)  気になったのは、住居手当として2万6700円もの金額を毎月受け取っていた、ということだ。  町によると、住居手当はアパートなどの賃貸物件が対象で、マイホームに住む場合は支払われない。補助割合は家賃の半額分で、上限額は2万8000円。矢吹町で家賃5万6000円のアパートとなれば、比較的広い部屋で暮らせそうだ。  ちなみに、県市町村行政課によると、上限2万8000円は県・市町村共通の金額とのこと。  厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」によると、民間企業で住居(住宅)手当が支払われている割合は47・2%。金額は平均1万7800円。同調査は常用労働者30人以上を雇用する企業6400社が対象で、零細企業は含まれていない。住居手当がない企業もあるだろうから、実態は割合・金額ともにもっと低いと思われる。  本誌ではこの間、「民間準拠と言われている公務員の給与水準だが、実際には大きくかけ離れている」と指摘し、記事でそのカラクリを解き明かしているが、住居手当一つとっても民間準拠ではないことが分かる。そういう意味で、さまざまな背景が読み取れる住居手当の不適切受給だったと言える。

  • 【鮫島浩】地方紙に求められるジャーナリズム

    【鮫島浩】地方紙に求められるジャーナリズム

    さめじま・ひろし  京都大学法学部を卒業し1994年に朝日新聞入社。99年に政治部に着任し、菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家を担当。2010年に39歳で政治部デスクに抜擢される。13年に「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。21年に独立して「SAMEJIMA TIMES」を創刊。ユーチューブやウェブサイトで政治解説動画・記事を公開し、サンデー毎日やABEMA、プレジデントオンラインなどにも出演・寄稿している。著書に『朝日新聞政治部』(2022年、講談社)、『政治はケンカだ~明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、2023年、講談社)。  新聞社が埋もれた事実を自力で掘り起こし、自らの責任で権力者を追及する「調査報道」がめっきり減った。そればかりか、週刊誌が報じた「疑惑」に世間の耳目が集まっても、何事もなかったようにやり過ごす光景が繰り返されている。  芸能界に君臨したジャニー喜多川氏の性加害問題、岸田文雄首相の最側近である木原誠二官房副長官の妻が元夫の不審死事件の重要参考人として事情聴取されながら捜査が不自然に打ち切られた疑惑……。具体例は枚挙にいとまがない。  警察や検察が捜査に動かない限り、行政が発表しない限り、当事者が不正を自ら認めて謝罪しない限り、「疑惑報道」に踏み切って抗議を受けるリスクを背負うことは避ける。それが主要メディアのたしなみであると言わんばかりに、新聞は振る舞っている。各紙が示し合わせたかのように疑惑を「なかったこと」として片付ける様子は業界談合そのものだ。  新聞がこれほど不甲斐なくなったのはいつからだろう。  福島第一原発の事故直後、現場で事故対応を指揮した吉田昌郎所長の証言録「吉田調書」を朝日新聞が独自入手してスクープしたのは、安倍政権下の2014年5月だった。政府が伏せ続けてきた歴史的証言録を白日の下にさらす大キャンペーンを手掛けたのは、記者クラブを主要拠点とする政治部や社会部ではなく、調査報道に専従する特別報道部だった。私はその取材班を率いるデスクを務めていた。  安倍政権は報道当初、「吉田調書」の公表を拒否し、他紙も「なかったこと」として黙殺した。約3カ月後、第一報のタイトルや文中表現に対してネット上に批判が広がると、安倍政権は一転して「吉田調書」を公表して反撃を開始し、他紙は安倍政権の主張に沿って「朝日批判」に一斉に踏み切った。  朝日新聞の経営陣は2014年7月時点で「吉田調書」報道を高く評価し、新聞協会賞に申請していたのに、安倍政権や他紙から集中砲火を浴びると持ち堪えられず、9月になって記事全文を「誤報」として取り消し、社長の引責辞任に加え、デスク(私)や取材記者を懲戒処分にすると表明したのである。  第一報のタイトルや文中表現の是非について見解が割れるとしても、意図的な捏造報道でもないのに記事全文を抹消し、歴史的スクープを丸ごと「なかったこと」にしてしまったのは、組織防衛を優先した過剰対応だったと言うほかない。朝日新聞が編集責任を負う立場にある管理職にとどまらず、「吉田調書」を独自入手した取材記者まで懲戒処分にしたことは、ジャーナリズムの自殺行為であった。取材記者はネット上で「捏造記者」「売国奴」などと罵詈雑言を浴び、バッシングの矛先は家族にも向けられたが、朝日新聞はこの事態を放置し、取材記者を守らなかった。  詳細な経緯は拙著『朝日新聞政治部』(講談社)に記したが、「吉田調書」事件は、調査報道を仕掛けた朝日新聞が国家権力の反撃に屈服した事件としてメディア史に刻まれたのである。 朝日新聞政治部posted with ヨメレバ鮫島 浩 講談社 2022年05月27日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  朝日新聞に限らず新聞業界全体に「権力批判」に対する怯えが広がった。警察や検察が立件したり、行政が発表したり、当事者が不正を認めたりするまではリスクを冒して報じることを避ける「保身文化」が蔓延したのである。  朝日新聞は「吉田調書」事件後、特別報道部を縮小し、2021年春には廃止した。私は同年春に退社して「SAMEJIMA TIMES」を創刊し、ウェブサイトやユーチューブで政治解説を中心に発信している。政府広報紙と化した現在の新聞の不甲斐なさを目の当たりにするたびに、「吉田調書」事件は新聞ジャーナリズムが凋落した転換点だったと思わずにいられない。当事者として結果責任を痛感している。  朝日新聞特別報道部は当時、福島第一原発事故を題材にした長期連載「プロメテウスの罠」と「手抜き除染」のスクープ報道で、新聞協会賞を2年連続で受賞して勢いに乗っていた。私は同部の立ち上げから深くかかわってきたが、政治部、経済部、社会部などから引き抜いたエース記者と、他社から引き抜いた腕利き記者が切磋琢磨する異色の組織だった。  なかでも「プロメテウスの罠」のデスク役を務めた依光隆明記者(高知新聞)、「手抜き除染」のメインライターだった青木美希記者(北海道新聞)、大阪地検による証拠改竄をスクープした板橋洋佳記者(下野新聞)ら地方紙出身の記者の活躍はめざましく、朝日新聞に新たな息吹を吹き込んでいた。永田町・霞が関で国家権力に肉薄してきた記者と、全国各地で地道な調査報道を重ねてきた記者の個性が融合し、新基軸の調査報道集団が生まれつつあった。  私は特別報道部次長として「地方紙と連携した調査報道」に可能性を感じ、ある原発立地県の地方紙幹部と水面下で交渉を重ね、「共同調査報道」の合意寸前までこぎつけていた。東京を拠点とする全国紙は中央省庁との結び付きが強く、国家権力追及に及び腰になる傾向がある。一方、地方紙は県庁や県警に加えて、電力会社など地域の看板企業に弱い。双方の弱点を補い合うため「原発利権」をテーマに共同取材班を立ち上げ、双方の紙面で同時キャンペーンを展開しようと考えたのだ。  これらの構想も「吉田調書」事件ですべて吹き飛んでしまった。 地元メディアと政治家の関係性 政治はケンカだ! 明石市長の12年posted with ヨメレバ泉 房穂/鮫島 浩 講談社 2023年05月01日 楽天ブックスAmazonKindle  今年5月に上梓した泉房穂・前明石市長と私の共著『政治はケンカだ!~明石市長の12年』で印象に残ったのは、泉市長と神戸新聞との緊張関係だった。  泉氏は2011年4月の市長選で自民、民主、公明が相乗りして兵庫県知事が全面支援する元知事室長との一騎打ちを69票差で制した。全政党、全業界を敵に回して当初はマスコミに泡沫候補扱いされたが、市民の草の根の応援だけを頼りに激戦を勝ち抜いたのである。就任当初は市役所にも市議会にも味方がいない四面楚歌の状態だった。  それにも増して手を焼いたのは神戸新聞との関係だった。泉氏は市の税金が購読料や広告費などとして神戸新聞やグループ企業に流れ込んできたことを知り、「税金で番組を買わなくても普通に報じてもらえばいい」と指示し、予算を削減した。これが神戸新聞上層部の逆鱗に触れ、泉市政を糾弾する記事が急増したのだという。  地元で圧倒的シェアを誇る地元紙を敵に回すことは、知事や市長に大打撃を与えかねない。他方、県や市の予算を収入源の大きな柱とする地元紙は、国の批判にはためらいがなくても、地元自治体の追及には及び腰になりがちだ。この「持ちつ持たれつの関係」が崩れたのが明石市だった。初当選から12年、泉市長と神戸新聞の関係はぎくしゃくし続け、市役所や市議会からのリーク情報とみられる記事が繰り返し掲載された。 地元メディアとの関係に苦労する政治家 泉房穂・前明石市長  こうした事態を避けるため、大概の知事や市長は地元紙と良好な関係を維持し、「権力とジャーナリズムの緊張関係」は希薄になる傾向がある。  さらに露骨なケースもある。香川県立高松高校で私と同級生だった立憲民主党の小川淳也衆院議員は「香川1区」で自民党の平井卓也衆院議員と熾烈な戦いを繰り広げてきたが、最も頭を悩ませてきたのは、香川県内でシェア6割を誇り、系列テレビ局もあわせ持つ四国新聞を「平井一族」が経営していたことだった。 小川淳也衆院議員  最近では石川県の馳浩知事と地元紙の北國新聞との関係が注目された。馳知事は石川テレビが制作したドキュメンタリー映画「裸のムラ」に自身や県職員の映像が許可なく使用されたことに抗議し、定例記者会見の開催を拒否。県政記者クラブ(14社加盟)は総会を開いて早期再開の申し入れを協議したが、北國新聞とテレビ金沢は賛同せず、全国紙などの有志で申入書を提出することになった。地元メディアと知事の濃密な関係をうかがわせる事態である。  北國新聞は地元の大物政治家・森喜朗元首相のインタビューを継続的に掲載している。最近では自民党安倍派の会長を争う5人衆(松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長、西村康稔経済産業相、萩生田光一政調会長)の人物評を言い募り、萩生田氏だけを絶賛する森氏のインタビューが永田町の話題をさらった。一連のインタビューについては「地元の大物政治家と地元紙の密接な関係」を疑問視する声がある一方、「全国紙では引き出せない森氏の本音を報じた意義は大きい」と評価する声もある。  仮に石川県内の報道機関が北國新聞だけならば、大物政治家との密接な関係はマスコミの権力監視機能を低下させ、看過できない。一方、複数の報道機関が存在する場合は、権力者との近さも含めてそれぞれが独自性を発揮し、相互批判を通じて健全性を維持できるという考え方も成り立つであろう。  最も危険なのは、報道各社が行政に忖度した報道を横並びで展開することだ。地方政治と地方有力紙の癒着は、全国紙や他の地方メディアが徹底追及して牽制すればよい。地方有力紙に対抗するメディアが地域から消滅し、メディアの相互監視機能が失われることだけは絶対に避けなければならない。  報道の多様性は、ジャーナリズムの生命線である。 地方紙に期待される役割 福島民報 福島民友新聞  東京では全国紙や在京テレビ局と国家権力中枢の癒着が、地方紙と知事や市長との関係よりも深刻な問題として存在する。  先述した朝日新聞特別報道部は、政治部と首相官邸、経済部と財務省、社会部と警察・検察といった癒着構造から解き放たれ、記者クラブを離れてしがらみなく国家権力の疑惑に切り込めるところに最大の強みがあったが、その分、各部との関係は緊張して社内的に孤立する場面が多かった。現在では週刊文春など雑誌メディアが全国紙と国家権力の癒着に風穴を開ける役割を果たしているが、私は同様の役割を地方紙に期待したいと考えている。  私は1999年に朝日新聞政治部に着任し、官邸記者クラブや与党記者クラブに長く在籍した。有力地方紙はここに若干数の記者を常駐させている。それぞれの地方紙の将来を担う精鋭たちだ。  なかでも記憶に残っているのは、森喜朗氏が首相に就任してまもない2000年5月に「日本は天皇を中心とする神の国」と発言して批判を浴びた時、西日本新聞が放ったスクープだった。  西日本新聞の記者は官邸記者室のコピー機付近で、神の国発言をめぐって記者会見で厳しい追及を受けることが予想されていた森首相に対して「質問をはぐらかす言い方で切り抜けるしかありません」などと指南する内容の文書を拾った。内々に取材を進め、この「指南書」を書いたのはNHK記者であると確信して報じたのだ。  報道機関の政治部記者が首相に対し、記者会見の「切り抜け方」を指南していた――。政治家の番記者としてオフレコ取材を重ね、濃密な関係を作り上げていく全国紙の政治部記者たちからは決して生まれないスクープだった。官邸記者クラブに常駐しながら権力中枢とは一線を画している地方紙だからこそ、躊躇なく取材し、覚悟を決めて報道に踏み切ることができたと言えるだろう。 必要な「全体としての健全性」維持  どんな相手にも臆することなく、厳しく追及して闇を暴く。それがジャーナリズムの理想である。だが、いつ何時もその姿勢を貫く完璧な報道機関や記者は多くない。どんなに立派な記者も間違うことはあるし、怯むこともある。だからこそ、ジャーナリズムは多様性を守り、誰かがどこかで追及し続けるという「全体としての健全性」を維持することが絶対に必要なのだ。  地方紙は知事や市長、県警に弱いかもしれないが、中央省庁には気兼ねなく切り込める。全国紙はその逆だ。闇を暴くのはいつも同じ報道機関や同じ記者である必要はない。それぞれがそれぞれの強みを発揮し、それぞれの弱みをカバーしあえばよい。全国紙と地方紙はそのような補完関係にあると私は思う。  地方紙は活動領域を地域テーマに限定させる必要はない。もっと広げればよい。ネット時代は世界に向けて発信することも可能だからだ。  朝日新聞政治部の後輩である南彰記者が今秋に退社し、沖縄に拠点を移して地方紙記者として活動するという。近年は新聞労連委員長を務め、SNSでも積極的に発信し、政治報道のあり方を批判する著書も上梓した。ところが、朝日新聞は「吉田調書」事件以降、記者の社外活動を厳しく制約するようになっている。南記者が新聞労連から政治部に復帰した後も風当たりは強く、まもなく人事異動になった。社内の管理統制を強める朝日新聞の将来に限界を感じ、新天地として沖縄を選んだのであろう。朝日新聞が地方紙から腕利き記者を引き抜いたのは今は昔。閉塞感が漂う全国紙から地方紙へ転身する新たな動きとして注目したい。

  • 石川町議選連続トップ当選の【乾初美】氏

    石川町議選連続トップ当選の【乾初美】氏

     任期満了に伴う石川町議選が9月3日に投開票され、新議員14人が決まった。同町議選をめぐっては、県議選との兼ね合いから、石川郡内の他町村の関係者も注目していた。注目人物の今後に迫る。 今秋県議選への立候補は明確に否定  選挙結果は別掲の通り。現職10人、新人6人の計16人が立候補し、現職8人、新人6人が当選した。投票率は67・46%で、前回を2・11ポイント下回り、過去最低(補選は除く)だったという。 選 挙 結 果(9月3日投開票、投票率67・46%)当 820 乾   初 美 (37) 無現当 712 近 内 雅 洋 (69) 無現当 701 迎   茂 城 (52) 無新当 676 星   恵 子 (64) 無新当 630 瀬 谷 寿 一 (70) 無現当 568 増 子 美知夫 (73) 無現当 557 小 木 芳 郎 (70) 無現当 547 鈴 木 義 延 (64) 無新当 534 瀬 谷 京 子 (79) 無現当 445 金 沢 和 則 (64) 無新当 443 根 本 重 泰 (64) 無現当 376 菊 池 美知男 (69) 無現当 342 角 田 保 寿 (70) 無新当 331 水野谷 常 子 (60) 無新 207 関 根 信 次 (84) 無現 161 藤 島 一 浩 (60) 無現  この結果に、石川郡内の住民はこんな疑問を口にした。  「乾初美さんが町議選に出たということは、県議選に出る可能性はなくなったと見ていいのか?」  乾氏は前回(2019年)の町議選で1040票を獲得し、トップで初当選を果たした。唯一の4桁得票で、同町民によると「この町の議員選挙で1000票オーバーはそうそうあることではない」という。  本人のSNSに掲載されたプロフィールによると、「学法石川高校卒業後、大学でカウンセリングを学び、震災後、地元石川での子育てを決意し石川町に戻る。2015~2017年まで、政治団体の秘書・事務局として働く」とある。  最初の選挙時は、33歳の若さと女性候補であることなどから、「そうそうあることではない」ほどの得票を得た。今回は女性候補者が4人いたこともあり、前回から200票ほど減らしたが、今後のキャリアアップを期待する声は少なくない。  そんな中で浮上していたのが「県議転身説」だ。一部関係者から「乾氏を県議選に立ててはどうか」と推す声が出ており、その話が広まって前述した石川郡内の住民の疑問につながっている。  県議選は11月2日告示、12日投開票で行われる。石川郡選挙区は定数1で、現在の現職は円谷健市氏(69)。東白川農商(現・修明)高校卒。石川町議を3期務めた後、2011年11月の県議選で初当選した。現在3期目。立憲民主党所属(県議会の会派は県民連合)。  円谷氏は7月、今期限りでの引退を表明した。その場に、会社役員の山田真太郎氏(39)が同席し、県議選に無所属で立候補することを表明した。円谷氏の後継者ということになる。山田氏は石川町出身。日体大体育学部卒。石川町商工会青年部副部長。同町の自動車整備工場で専務を務める。  これより1カ月前、6月には自民党県連職員の武田務氏(42)が自民党公認で立候補することを表明した。武田氏は石川町出身。安積高卒。郡山市の民間企業勤務を経て、2014年8月から同党県連職員を務めている。  現状、この2人による選挙戦が濃厚だが、前出の石川町民によると、「選挙まで2カ月を切ったが、県議選が話題になることはほとんどない。そのくらい、盛り上がり、話題性に欠ける」という。  そうしたこともあり、「乾氏が県議選に立候補すれば面白いのではないか」といった声が余計に広がっていった。 「石川町議として頑張る」 乾初美氏(議会のホームページより)  もっとも、本人に県議選に立候補する意思があったら、9月の石川町議選に出るとは思えない。わずか2カ月後に辞職して鞍替えするとなれば、投票してくれた有権者に対して失礼に当たるからだ。  町内の事情通も、「その可能性はないと言っていい」という。  その根拠の1つに上げたのが、前述した「わずか2カ月後に辞職して鞍替えしたら有権者に失礼」ということ。加えて、「乾氏は改選後に副議長に立候補・就任した。すぐにポストを捨てるくらいなら、最初から副議長に立候補しないだろう。そこからしても、今回の県議選に立候補する考えはないと見ていい。一部の外野の人が勝手に言っているだけ」というのだ。  石川町では9月15日に改選後初となる臨時議会が開かれ、正副議長選挙が行われた。乾氏は副議長に立候補した。そのほか、菊池美知男氏と増子美知夫氏が立候補し、無記名投票の結果、乾氏6票、菊池氏2票、増子氏6票で、乾氏と増子氏が同数で並び、くじ引きの結果、乾氏が副議長に選ばれた。ちなみに、議長選は、近内雅洋氏、瀬谷寿一氏、小木芳郎氏の3人が立候補し、近内氏6票、瀬谷氏5票、小木氏3票で、近内氏が議長に選ばれた。  こうした背景から、乾氏の県議転身はないというのだ。  乾氏に「県議選に……という話が出ているが」と聞くと、次のように答えた。  「それは明確に否定します。石川町議として、町のために頑張っていきます」  これが、冒頭の石川郡内の住民の「乾さんが町議選に出たということは、県議選に出る可能性はなくなったと見ていいのか?」との疑問の答えだ。  前出・町内の事情通はこう話す。  「乾氏は、副議長選で同数得票のくじ引きで当選したように運にも恵まれ、それは大事な要素だと思います。ただ、これからもっと上のステージを目指すとしても、もう1、2期、町議をやってからでも遅くはないでしょう。仮にあと2期(8年)やったとしても、まだ45歳ですからね。そもそも、将来的に楽しみな部分はあるかもしれないが、現状は、『フレッシュな女性議員』というだけですから」  乾氏が町議として実績を積み、期待感を持たせてくれるような存在になれば、「もっと活躍の場を広げられるステージに挑戦してはどうか」といった話になるのかもしれないが、少なくとも、まだそのときではないということだろう。

  • 内堀知事「二つの憂鬱」

    内堀知事「二つの憂鬱」

     ここ最近、内堀雅雄知事(59)を悩ませていたのがジャニーズ事務所の性加害問題と、東京電力福島第一原発の敷地内に溜まる汚染水(ALPS処理水)の海洋放出だ。二つの問題は現在進行形だが、ジャニーズ問題は県としての対応を発表し、海洋放出は国・東電が実行に踏み切ったことで、県の手を離れたかのような雰囲気が漂っている。 ジャニーズ問題、汚染水放出にどう対応したか  世間を大きく揺るがすジャニーズ事務所の性加害問題。所属タレントはこれまで多くのメディアを席巻してきたが、前社長による若手タレントへの複数の性加害を、同事務所があったと認め謝罪すると、大企業を中心に所属タレントのCM起用を見合わせる動きが一斉に広まった。  こうした中で注目を集めたのが福島県の動向だった。  県は震災翌年の2012年度からジャニーズ事務所のアイドルグループ「TOKIO」と連携し、県産農林水産物のPR活動などを展開してきた。TOKIOが震災前から頻繁に県内を訪れ、DASH村などの番組づくりをしてきた縁でメンバーが風評払拭などの取り組みに積極的に関わってきた。震災から12年経ち、メンバーが5人から3人になってもTOKIOの「福島を応援したい」という姿勢は変わらず、県は現在も県産農林水産物のCMやポスターにメンバーを起用している。  2021年度からはTOKIOとの連携がさらに深まり、県は風評・風化戦略室内にTOKIOとの窓口となるバーチャル課「TOKIO課」を設置。昨年5月には西郷村内に福島の自然を生かした交流施設「TOKIO―BA」が設けられ、メンバーが不定期に訪れて来場者と接するなど活動範囲は広がりを見せていた。  前社長による性加害問題は、そんなTOKIOと福島県の結び付きに水を差すものだった。  「所属タレントの起用はチャイルド・アビューズ(子どもへの虐待)を認めることになる」  「被害者への救済策が示されると同時に、事務所運営の抜本的是正が認められなければ取引を続けることはできない」  という厳しい声のもと、経済界のジャニーズ離れが加速していく中、県はTOKIOとの連携を継続するのか、それとも解消するのか――9月15日に発表された「県の正式な考え方」とする談話は次のようなものだった。  《大前提として、いかなる性加害も絶対に許されるものではない。性加害は、被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質な行為》《ジャニーズ事務所においては、人権を尊重し、被害者救済や再発防止策など、社会的責任をしっかり果たすべき》《TOKIOの皆さんは、震災と原発事故後、私たちが風評被害などで最も悩み苦しんでいた時も、福島に寄り添い続け、県民を勇気づけていただいた。長年にわたり、県産農林水産物のPRなどに協力いただくなど、福島を全力で応援し続けていただいていることに心から感謝している》《TOKIOの皆さんには、今後も変わらず福島県を応援していただきたい》  県はTOKIOとの連携を継続すると明言したのだ。この2日前、農林水産省がメンバーの城島茂さんについて、広報大使としての起用を取りやめると発表した際は「国がやめれば県も従うのではないか」と囁かれたが、予想に反して連携解消には向かわなかった。同じく所属タレントの起用を控えると発表した小池百合子東京都知事や大村秀章愛知県知事と比べても、福島県は独自の判断を下したことが見て取れる。  県の判断は概ね好意的に受け止められている。ネット上では「TOKIOとの縁が切れずによかった」「彼らはずっと福島に寄り添い続けてくれた。連携継続は当然だ」と評価され、福島民報と福島テレビが共同で行った県民世論調査でも「連携継続に賛成」と答えた人は73・9%に上った(福島民報9月25日付)。  上辺だけの付き合いしかしてこなかった大企業と異なり、福島県は長い時間をかけてTOKIOとの絆を構築し、県民はメンバーの活動する姿を間近で見続けてきた。県民が寄せる彼らへの尊敬と信頼は絶大。そう考えると、7割以上の人が賛成という結果は驚きでも何でもなく、ごく自然なことと言える。  そうした事実を踏まえた上で、しかし、冷静に判断するための材料をここに提示したい。  ジャニーズ事務所の関連会社として2020年7月22日に設立された㈱TOKIOは、同事務所と同じ東京都港区赤坂九丁目6―35に本店を置く。資本金1000万円。  事業目的は①芸能人・文化人等のマネジメント、②イベント・コンサート・講演会等の企画、制作および運営、③本・グッズ・CD・DVD等の商品の企画、制作および製造販売、④映画・テレビ番組等の企画、制作および運営、⑤著作権・著作隣接権等の管理、⑥広告の制作、代理店業、⑦不動産の管理および運営。  役員は代表取締役藤島ジュリー景子、取締役城島茂、國分太一、松岡昌宏の各氏。 ジャニーズ資本の会社 TOKIOを起用した「ふくしまの米」をPRするポスター  ㈱TOKIOは対外的に「社長」は城島さん、「副社長」は國分さんと松岡さんと発表しているが、3氏は代表権を持っておらず、創業者一族である藤島氏がオーナーとして君臨しているのである。県は「㈱TOKIOとは付き合いがあるが、ジャニーズ事務所と契約しているわけではない」と説明するが、両社が同じ場所に事務所を構えていることは知っているはずで、詭弁に過ぎない。  こうした状況を、ジャニーズ問題で人権侵害とともに叫ばれているコンプライアンス(法令順守)の視点から考えてみたい。  企業が事件を起こした時、取引先は一斉に契約を解除し、場合によっては違約金を請求することもある。担当社員は優秀で仕事ができる。好感度も高い。本音はその社員と今後も付き合いを継続していきたい。しかし、所属する企業が問題を起こした以上、コンプライアンスの観点から契約を解除せざるを得ない――こうした考え方のもと、県は企業と取引してきたはずだ。  「所属タレントに罪はなく彼らも被害者」と擁護する人もいるが、だったら事件を起こした一般企業の社員も同じように擁護されなければ不公平だ。「TOKIOは他とは別」と言い切るのも、コンプライアンスのなし崩しにつながってしまう。  どこまで行ってもジャニーズ事務所の影がチラつく限り、㈱TOKIOとの連携はどこかスッキリしない感覚に陥るのだ。  しかし、TOKIOとの連携はこれからも是非継続したいということなら、人権尊重とコンプライアンスを担保するためにも、㈱TOKIOがジャニーズ事務所の資本から離脱し、本店も移して独立採算制に移行した方がいい、というのが本誌の見解である。  実際、先の県民世論調査でも「連携継続に反対」は13・2%、「分からない」は12・8%に上った。この3割の人たちも、TOKIOのこれまでの活動に感謝しているはずだが、一方で人権尊重やコンプライアンスの視点は欠くべきではないと考えているのではないか。そういう意味では、TOKIOへの感情移入だけで答えていない冷静な人たちと言えるのかもしれない。  人権尊重に対する認識は、一昔前とは大きく変わっているが、世界標準と比べると日本はまだまだ遅れている。海外では有名な映画監督や大物プロデューサーがかつての性加害行為で追及されると、スポンサー契約を打ち切られ、会社を追われるだけでなく、その会社は生き残るために社名を変更して出直す事態が頻繁に起こっている。社会全体が「性加害は絶対に許さない」という考え方で一致している。  誤解されては困るが、本誌はTOKIOとの連携継続に反対しているわけではない。今まで福島県を応援し続けてくれたことには素直に感謝している。しかし、所属事務所に忌まわしい事件が起きてしまった以上は、モヤモヤ感が残ったまま応援してもらうより、㈱TOKIOにジャニーズ事務所との資本関係を見直してもらい、あらためて結び付きを深めていった方がいいのではないか。  この問題に限らず、内堀知事は難しい問題について踏み込んだ発言を一切しないので、関係見直しを提案することは考えにくいが、人権尊重とコンプライアンスの考えを持ち合わせているなら、先の「県の正式な考え方」を発表して終わるのではなく、県民が素直に歓迎できるよう、TOKIOとのスッキリした新しい関係を構築していくべきだ。 知事の責任を問う神山県議 神山悦子県議  県議会9月定例会は9月11日に開会し、13、14日に代表質問、19、20日に一般質問が行われた。代表質問は共産党の神山悦子議員、自民党の小林昭一議員、県民連合の亀岡義尚議員が質問台に立ち、それぞれが汚染水(ALPS処理水)の海洋放出に関する質問を行った。一般質問でも、質問した10人中3人がこの問題に触れた。  初日の代表質問について、地元紙は14日付紙面で伝えたが、海洋放出関連の質問・答弁は、福島民報では全く触れられておらず、福島民友では小さく扱われただけだった。  複数議員がこの問題を取り上げた中でも、神山悦子議員は「漁業者をはじめ、県民の合意がないまま海洋放出を強行した国と東京電力に強く抗議し、撤回中止を求めるべき」と迫った。  神山議員は「国、東京電力は県漁連と2015年8月に交わした『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』との約束を反故にした」、「知事はまるで他人事のように、『国が責任を持って対応すべきもの』と述べ、国に責任を丸投げしている。県民を代表する首長としてはいかがなものか」などと述べた。  そのうえで、「東京電力は先日、初回分の7788立方㍍の放出が完了したと発表し、設備の点検のため、現段階では放出を停止しています。海洋放出後に発生したこの間の国内外における様々な問題を見ても、このまま中止することが解決の確かな道ではないでしょうか? 漁業者との約束を反故にし、漁業者をはじめ、県民の合意がないまま海洋放出を強行した国と東京電力に強く抗議し、撤回中止を求めるべきと思いますが、知事の考えをうかがいます」として、内堀知事の見解を問うた。  これに対し、内堀知事はこう答弁した。  「海洋放出に当たっては、廃炉等を進めるうえで、やむを得ないとする意見がある一方で、海洋放出に反対する意見や、新たな風評を懸念する声など、様々な意見が示されています。処理水の海洋放出は、長期間にわたる取り組みが必要であり、安全の確保や新たな風評を生じさせないなど、万全な対策を徹底的に講じることが重要です。このため、8月22日に経済産業大臣に対し、あらためて安全確保の徹底や国内外への正確な情報発信、万全な風評対策に取り組むことに加え、特に水産業については、漁業関係者が風評の発生を強く懸念していることから、復興の取り組みを妨げることなく、将来にわたってなりわいを継続し、次世代へ確実につないでいけるよう、必要な対策を徹底的に講じることを強く求めました。処理水の問題は、福島県だけではなく、日本全体の問題です。引き続き、国に対し、国が前面に立ち、政府一丸となって、万全な対策を講じ、最後まで全責任を全うするよう求めていきます」  神山議員が再質問を行う。  「8月から福島復興共同センターが緊急に署名運動に取り組みました。これは海洋放出を強行しないことを求める緊急署名です。8月31日に7万1617人分の署名を国に提出しています。現時点でオンライン署名は約14万6000人分、紙ベース署名は約5600人分ですから合計約15万1600人分です。さらに、今回の海洋放出決定後に放出差し止め訴訟が福島地裁に提起されました。ここには漁業関係者も入っています。この間、こうした県民運動がいろいろありました」  「知事は2015年の県漁連と国、東京電力が交わした約束について何も触れていませんが、私はこれは重要な約束だったと思うんです。この約束が本当に守られているかどうか、私は客観的に見て破られたと思いますよ。いま、(1回目の海洋放出を終え、設備点検のために)止まっていますから、海洋放出をしないこの状態を県として、知事として国、東京電力に求めることが様々な問題を解決することになり、そういう立場だと思いますから、知事もう一度お答えいただけませんか」  内堀知事の答弁はこうだ。  「ALPS処理水の海洋放出について、県漁連は『ALPS処理水の放出事業が進み、廃炉が完遂した時点で、福島の漁業がなりわいとして継続していれば、約束は果たされたこととしたい』と述べられました。国、東京電力は、こうした漁業者の皆さんの思いをしっかり胸に刻み、新たな風評を生じさせないという決意のもと、漁業者の皆さんが将来にわたり漁業を継続していけるよう万全の対策を講じるなど、最後まで全責任を持って取り組むべきであると考えています」  最後に、神山議員は「そんな先の約束より、いまに注視して、それで皆さんの声を聞いていく、と。知事はそのくらいの立場に立つべきだと思います。いまちょうど(海洋放出が)止まっていますから、そういった声を聞いて判断すべきだと思いますので、中止という立場も踏まえてご答弁をお願いします」と訴えた。  内堀知事は次のように答弁した。  「ALPS処理水の海洋放出について、漁業者の皆さんからは風評被害などに対する不安や懸念、県産魚介類の販路拡大の支援などを求める意見とともに、我々の願いは漁業を続けていくというその一点であるといった切実な声を示されています。国、東京電力は、そうした漁業者の皆さんの思いを真摯に受け止め、新たな風評を生じさせないという決意のもと、漁業者の皆さんが将来にわたり漁業を継続していけるよう万全の対策を講じるなど、最後まで責任を持って取り組むべきであると考えています」  内堀知事はこれまで通り、「国の責任で」という姿勢に終始した。 国に従順な内堀知事 内堀雅雄知事  この間、本誌で何度も指摘してきたように、内堀知事は官僚出身ということもあってか「国に従順」との評価が定着している。その代表例として言われているのが、原発事故直後、国から県に寄せられたスピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報を、当時副知事だった内堀氏の判断で公表しなかったとされる問題。「国がスピーディの情報を公表していないのに、県が先駆けて公表するわけにはいかない」といった官僚気質がそうした事態を招いたと言われている。  ほかにもコロナ対策について、本誌では「基本は外出自粛などの徹底と、国民の生活保障、自粛に伴う事業者への減収補償のセットでなければならない。幸い福島県(県民、県内企業など)は原発賠償の経験から『補償』に関する知識があるから先行事例になれる。それを生かして、福島県が率先して事業者への減収補償を行えばいい。福島県がそれをやれば他地域に広がり、コロナ対策が実のあるものとなる」と指摘した。その一方で、「国が『休業補償はしない』という中で、国に従順な内堀知事がそれをやるとは思えないが……」とも書いた。  今回の問題も同様で、国への従順姿勢から海洋放出を黙認し、「国が責任を持って対応すべき」との見解しか示さない。福島県民の代表として役割を果たしているとは言い難い。

  • 【郡山市】選挙漫遊(県議選)

    【郡山市】選挙漫遊(県議選)

     取材日を11月5、6日に設定。3日の夕方に全候補者(12人)の事務所に電話をして、「5、6日のいずれかで、街頭演説や個人集会などの予定があれば教えてほしい。その様子を取材させてもらったうえで、終了後に5分くらい、次の予定があるならもっと短くてもいいので、候補者への個別取材の時間を設けてほしい。両日に街頭演説や個人集会などの予定がなければ、事務所で取材させてほしい」ということを依頼した。  その時点で、街頭演説や個人集会などの予定が把握できた、あるいは事務所での取材のアポイントが取れたのが10人。計ったように5日と6日で半々(5人ずつ)に分散した。もっとも、時間が被っていた人もいたので、その場合は手分けして取材に当たった。  残りの2人は流動的だったが、どちらも「お昼(12時から13時)は一度事務所に戻ると思う」とのことだったので、「5日から6日のお昼を目安に事務所に行くか電話をする」旨を伝えた。  こうして取材をスタート。2日間かけて、比較的、スムーズに全候補者に会うことができた。 担当:末永 補佐:本田 福島県議選【郡山市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=1756 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松郡山市の解説は29:16~ 定数10 立候補者12 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601621.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601654.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 今井久敏 https://www.youtube.com/watch?v=G6hR6C2WpO4  ――真っ先に取り組むべき県政の課題は。  「物価高騰対策と防災・減災ということに尽きると思います。それを徹底してやっていきます」  ――そのほかでは?  「原発処理水の問題を含めた復興の加速です。われわれが提案したイノベーション・コースト構想がしっかりと実を結ぶように取り組んでいきます」 一言メモ  公明党・山口那津男代表が応援に駆けつけたこともあり、演説会場の郡山駅前広場には多くの聴衆が集まった。警察・警備でかなりの厳戒態勢。その中で、動き回って写真撮影をしていたため、おそらく筆者は「注意人物」扱いだった。(末永) 山田平四郎 https://www.youtube.com/watch?v=F0pB6JNMgzE  ――この選挙戦での有権者の反応は。  「私の地元は田村町で、4年前の台風被害で選挙ムードではない部分がありました。それから見ると、地元では支援の輪が広がっていることを感じる一方、『いつ選挙ですか』と聞かれることもあり、関心という部分では分からない点もあります」  ――県政の課題は。  「内堀知事も大きな課題に挙げていますが、人口減少問題です。郡山市は微減にとどまっていますが、郡山市で育った子どもが大学進学等で都市部に出て、なかなか戻ってこない実態があります。事業承継の問題も含めて、魅力ある郡山市にしていかなければならないと思っています。東日本大震災、原発事故、令和元年東日本台風、昨年・一昨年の福島県沖地震がありましたが、災害に負けないまちづくりをしていかなければなりません。国会議員の先生方と一緒に、郡山市の地区ごとの課題を踏まえながら、まちづくりをしていかなければなりません」    一言メモ  事前連絡では「基本的には昼には事務所に戻る」とのことだったが、6日昼前に事務所に確認すると、「今日は昼は戻ってこない」という。ただ、「〇〇町の〇〇という食堂で昼食をとる予定だから、12時過ぎに行けば会える」とのこと。教えてもらった場所に行くと、事前に事務所から候補者に連絡があったようで、すんなり取材できた。(末永) 佐藤徹哉 https://www.youtube.com/watch?v=t1NCu14mPiw  ――この選挙戦で住民の声をどう受け止めているか。  「若者が活躍できる環境をつくることと、子育て世代の仲間からは、教育の充実、子育て支援の充実を求める声を数多くいただいています」  ――県議会では、県立高校の空き校舎の問題について質問を行っていた。  「空き校舎は、上手く活用することで地域の発展に寄与できるものだと思っています。受け入れる自治体がどう扱うか。郡山市は安積高校御館校が対象で、立地的に人が集まる場所ではありません。逆に、大きな音を出しても問題なければ、楽団の練習、夜間の合唱の練習に使わせてもらいたい、といった要望はあります。決定権は郡山市にあるので、市にどう訴えていくかが今後の課題です」 一言メモ  本誌の問い合わせに対して、候補者本人から「事務所で取材を受けます。事務所の雰囲気も見てほしいので」と連絡があった。実際、事務所を訪ねると、若い人が多いのが目に付いた。(末永) 高橋翔 https://www.youtube.com/watch?v=TnGRnB_Q_-M  ――今回の選挙の位置付けは?  「郡山市は当初、無投票が予想されていました。人材不足が顕著で、現職が後継者を育てられてない。同じ顔ぶれで、選挙公報を見ても言っていることも同じ。そのレベルなんですよ。そもそも、この4年間で『県議ってどこで何をしているの?』という声が結構多かったので、そこを改善するために、民間人・有権者側の立場で立候補することにしました」  ――今回は選挙区である郡山市だけでなく、県内全域を回っているそうだが。  「郡山選挙区から立候補したから、ほかは関係ないという考え方は危険だと思います。それは僕からしたら当たり前のこと。若い人は、そういうスケールの小さい考えの人の方が少ない。いまはそういう若い人は選挙に行かないかもしれない。でも、いずれ選挙に関わるようになったときに履歴がない。30代で立候補する人はほとんどいないから。若手が本当の意味での無所属で立候補した場合、どれだけ求められているか。僕がその履歴をつくる意味もあります」  一言メモ  演説内容を聞いても、個別取材でも、1人だけ「異質」で、フラットな視点で見るならば、最も興味深い人物。もちろん、それが良いか悪いかは有権者の判断による。(末永) 佐藤憲保 https://www.youtube.com/watch?v=W6F8KQenANs  ――地域の課題は。  「郡山市は、他地域に比べて若い世帯が多いが、少子高齢化が迫っている流れは同じ。県の中心である郡山市がもっと経済中心地にならなければなりませんが、まだまだそうはなっていません。郡山市を経済中心地として発展させていく必要があります。震災後は、逢瀬ワイナリーや医療機器開発支援センター、三春町の環境創造センターの誘致を行い、これらを郡山市ならびに周辺地域の経済発展の核にしていきたいと思っていましたが、リンクした民間企業の貼り付けがなかなか進んでいないのが課題です。機能的、有機的に連携して民間企業の誘致を進めていきたい」  ――県全体の課題は。  「やはり震災復興。東日本大震災の復興は一定の形になってきたが、原発事故・廃炉を抱える県にとって、廃炉が終了するまでは課題として対応していく」 一言メモ  事務所での取材とは別に、JR舞木駅での街頭演説(11月6日13時55分から)を取材。平日にも関わらず約20名の群衆がおり、固定支持者層の厚さを見た。在任期間が長く人脈も広い。コロナ対応の話などに聞き入った。(本田) 二瓶陽一 https://www.youtube.com/watch?v=tdYBBR3r0GM  ――立候補の経緯は。  「郡山市を良くしようと8月の郡山市議選に立候補しましたが、落選したため実現できませんでした。私も71歳ですから、4年後の市議選を目指すよりも、元気なうちにやりたいことをやらなければならないと思い、今回の県議選への立候補を決めました」  ――ズバリ、県政の課題は。  「県議のこの4年間の任期は、あまり活躍の場が見られなかった。コロナで、そういう場に恵まれなかったのかもしれませんが、あまりにもないので、このままでいいのか、と。そうした中で、私はインバウンド計画、英語オンライン教育推進などに取り組みたいと思っています」   一言メモ  市議選では「日本維新の会」から立候補。ただ、「政策的に合わない部分もある」と今回は無所属に。政党などに縛られない自由な視点・発想を売りにしている。(末永) 神山悦子 https://www.youtube.com/watch?v=JxtEHjADPrw  ――県政の課題は。  「多数あるが、まずは暮らしを守ること。県内の86%が学校給食費を無料にしており、県が半分補助すれば県内全市町村が給食費半額になります。そういった資金を出せるだけの財源もあります。『子育て日本一』と謳っている福島県であり、国でも検討を始めたいまだからこそ、県として実施すれば全国トップクラスになると思います。  震災後、18歳以下の医療費無料を公約で掲げて実現しました。これも全国でいち早い取り組みでした。県民が原発事故や様々な災害に苦しんでいる中でも、まずは子どもを守る。教育費の負担軽減を県が率先してやるべきです。  県は『健康長寿県』も謳っているが、であれば高齢者のバス代無料化やタクシー補助を行うべき。どちらも県内自治体では実施しているところが多く、県が率先し全県で進めるべき。  医療面でも、医師不足が続いており、震災によってさらに大変になっています。そういった部分に優先して予算を回すべきです。  中には、『年を越せるのか』と不安視している事業者もいます。そのような県民の暮らしの痛みを感じて、そういった方々の暮らしを守るために予算を投じることを、知事の判断でやるべきです。そうなっていないのが県政の一番の課題だと思います」 一言メモ  住宅地での街頭演説。群衆はそれほど多くないが、花束を持って応援に来る支持者もおり、アットホームな雰囲気。給食費無料化や高齢者向けのタクシー補助など、訴える内容も生活に寄り添った事柄が多かった。(本田) 鈴木優樹 https://www.youtube.com/watch?v=whtXAY6sn9E  ――県政の課題は。  「復興と、人口減対策ですね。特に、復興の部分は浜通りが多い。それは当然ですが、中通り、会津も含めたオールふくしまでやっていかなければならないと思います」  ――有権者から何を求められていると感じるか。  「政治に対する不満があるのだと思いますが、訴えたことに対する跳ね返り、それは声だけでなく顔(表情)を含めて、厳しいなと感じています。政治への不信感を払拭して、参加しよう、自分たちの意思表示をしようと思ってもらえるようにしなければなりません。ただ、われわれはすべての方に接触はできない。ですから、こういうところ(個人演説会に来てくれた人)から広めてもらう。われわれも発信していくような地道な作業が必要だと思います」   一言メモ  安原地区での個人演説会を取材。広い郡山市内でも、本来の地盤ではないところで、自発的(地元町会主導)に後援会がつくられたという。地元住民は「地元選出の市議会議員とのタッグでの活躍を期待している」と話していた。(末永) 佐久間俊男 https://www.youtube.com/watch?v=_ZpgUSpL-OA   ――今日で告示から5日目になりますが、有権者の声をどう捉えていますか。  「人口減少の現状をしっかりと捉えて選挙戦に臨んでほしいという声が多いですね。もう1つは、もっともっと魅力ある郡山にして、若者の県外流出を抑制できるようにしてほしい、と。これは私も同じ思いです」  ――それを踏まえ、県政ではどういった活動をしていくか。  「選挙でいただいた意見を県政に伝えていくわけですが、限られた予算の中で、県民生活に直結する部分への予算配分にもっと重きを置くべき。そういったことを訴えていきたいと思います」 一言メモ  馬場雄基衆議院議員らが応援演説に駆けつける。下校途中の中学生から「頑張れー」と声をかけられていた。(末永) 長尾トモ子 https://www.youtube.com/watch?v=1WvkS95D9gY  ――県政の一番の課題は。  「少子高齢化の問題に加え、震災・原発事故から12年7カ月が経ち、浜通り、双葉地区の人口減少が進んでいる中、新しいふくしまの産業を充実させていかなければなりません。国、国際研究機構と連携しながら、地元の人たちが活躍できるような場をつくっていくことが課題だと思います。もう1つは、会津地方をはじめ、県内広域で農業が衰退しているので、農業のあり方を変えながら、素晴らしい福島県の農産物を継承できるような仕組みをつくっていなかればなりません」  ――地元・郡山としてはどうでしょうか。  「私は県議会議員ですから、郡山だけでなく、会津も、いわきも、広い視点で福島県を見ていきたい。その中でも、私は45年間、幼稚園・保育園の園長をしてきましたから、子どもたちがどういうふうに育っていくのか、社会でどんな活躍をするのか、自分をどう表現するのか、その機会をつくることが得意とする分野ですので、そのための活動をしていきたい」   一言メモ  選挙期間中は毎日、平日の朝8時から郡山駅前で街頭演説をしているという。取材日は、障がいを持つ子どもの母親、障がい者支援団体の関係者らが応援に駆けつけ、マイクを握った。(末永) 椎根健雄 https://www.youtube.com/watch?v=ULAyLeT9vFQ  ――今日の演説で強調していたコロナ後の対策、物価高対策について具体的には。  「県では石油・ガスの支援を行っており、それを拡大させるべく、今後の補正予算や、2月には当初予算審議が行われますので、しっかりと会派として執行部に訴えていきたい」  ――そのほかの課題は?  「少子高齢化が進んでおり、限られた財源の中で、いかに子育て世代に財源を持っていくかということと、医療・福祉・介護の問題にしっかりと取り組んでいきたい」   一言メモ  佐藤雄平前知事、玄葉光一郎衆院議員らが駆けつけるなど、個人演説会は盛況。(末永) 山口信雄 https://www.youtube.com/watch?v=ixAEI6CI8hk  ――選挙戦で有権者の思いをどのように受け止めているか。  「コロナがあり、事業に対する不安の声などが多く聞かれました。コロナからの経済復活のため、郡山市から県に、県から国に伝えていかなければならないと思っています」  ――県全体の課題は。  「一番は人口減少、流出です。あとは復興に関する部分ですが、エフレイ(福島国際研究教育機構)との連携、効果を浜通りだけでなく、全県に広げていけるようにしていかなければならないと思います」   一言メモ  安積地区での集会を取材。安積町は令和元年東日本台風の被害が大きく、支持者の中にも被災者がいた。山口候補自身、防災士の資格を持っており、県議として水害対応や防災を望む声が多かった。(本田)

  • 【いわき市】選挙漫遊(県議選)

    【いわき市】選挙漫遊(県議選)

       「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。  11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。  11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当:志賀 補佐:荻野 福島県議選【いわき市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=3730 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松いわき市の解説は1:02:10~ 定数10 立候補者13 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601557.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601653.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 安田成一 https://www.youtube.com/watch?v=47YD6DvqYVs  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。 「いわき市に関しては、水害被害が起きたことを考えると、防災対策、災害に強いまちづくりをしっかり進めることが最大の課題と考えています。令和元年東日本台風のときは市議だったが、河川改修を早く進めてもらいたいという要望を受けても、市としてなかなか対応できない面があった。その時のもどかしい思いから県議会への立候補を決意した。  3年経って二級河川の改修工事が進められたが、支流の方が進んでいない。先月には線状降水帯の影響による水害も発生した。いわき市とタッグを組んで予算をつけ、できる限り早く改修工事を進めることで安心して暮らせるまちづくりを実現したいと思っています。  エフレイとの連携も必要だと思っています。福島高専、東日本国際大学と人材育成の面で協定も結んでいるので、新産業をいわき市、福島県に根付かせて、そこで雇用創出につながれば人口減少の予測も変わってくるのではないかと考えています。優秀な人材がいわき市、福島県に留まってもらう取り組み、戻ってきてもらう取り組みを強力に進めて貰えればと考えています」 一言メモ  ロードバイクで駆け付けた支持者がちらほら(趣味仲間?)。演説に耳を傾けていたのは40~50代の子育て世代が中心で、女性もほかの陣営より見受けられた。今回回った中で一番支持者の幅が広いと感じた。新人候補だがもともといわき市議だったこともあって、知名度も高いのだろうか。(荻野) 鳥居作弥 https://www.youtube.com/watch?v=B4cQKb5wLJk  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「僕は今回の選挙では、単純に子育てと教育と福祉というところしか訴えていません。特に子育て支援と高齢者福祉は近いものだと考えていて、2つを組み合わせて対策を講じることが重要だと考えています。例えば特定の地域のみで働ける『地域限定保育士』という制度があるので、それを活用して、高齢者の皆さんが働けるようにしてもいい。その方法を考えるのは政治の役割です」  ――日本維新の会から県議選に立候補した理由について。  「分かりにくい政治にジレンマがあった。例えばALPS処理水についても、反対するのはいいが、その後どうするの?ってなってしまう。そういう意味で、日本維新の会が掲げる政策ははっきりしていて分かりやすい。ALPS処理水について、私は『全国各地で分担して捨てましょう。そうすれば早く放出できて、福島県への負担も最小限で抑えられる』と訴えています。人間関係で選挙をやるのではなく、分かりやすい政策を的確な言葉で伝えられるという点で日本維新の会はいい政党だと感じます」 一言メモ  演説会場のイオンモールいわき小名浜前は、目の前が「ツール・ド・いわき」ゴール地点になっており、イベントの音声がガンガン流れてくるトホホな環境。ただ、車や歩道橋から手を振る人もおり、着実に支持が広まっている様子も感じた。汚染水(ALPS処理水)放出について、「福島から30年以上も海洋放出したら負担が大きくなる。日本全国から放出したら数年で終わるはず」と主張。その是非はともかく、選挙という場で、独自性のある意見を主張していく姿勢は歓迎したい。(志賀) 吉田英策 https://www.youtube.com/watch?v=1scL7EG_A4k  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「福島県の財政力は全国3位だが、復興と称した大型開発や道路整備にばかりお金が使われていると感じています。県民の暮らしを応援するという視点から、教育や子育てなどに予算を割くべきです。特にいわきは医師数が少ないので医療機関の充実に充実させるべきだと思います」  ――今年2月の一般質問で会計年度任用職員の雇い止めについて質問していました。是正はされたでしょうか。  「1年契約ではあるもののボーナスを支給するということだったが、実際は労働時間が短縮されただけだったりして総額が増えているわけではない。一般の職員の待遇に改善することが必要だと思います」 一言メモ  共産党独自のしきたりなのか、本人到着までに支持者が歩道に横並びで〝戦争やめろ!〟などのコールを行っていた場面が印象的。支持者の方々と触れ合う写真を撮ろうとしたが、場所が郵便局の真向かいであまり長居できる場所ではなかったため、演説が終わると即時撤収。ある意味場馴れしているというか、統率が取れている感じを抱いた。(荻野) 真山祐一 https://www.youtube.com/watch?v=qVYED1Pb2Zc  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「課題はたくさんあります。中でも水害対策に関しては、流域治水をしっかり進めていくべきだと訴えています。『防災減災を社会の主流にしていくべきだ』というのは公明党がここ数年来主張していることです」  ――令和5年6月議会の一般質問では、「金属スクラップヤードでの事故を防ぐために許可制にして指導監視を強化しては」と指摘していました。県執行部は質問を受けて何か具体的に動いたでしょうか。  「『不適切な事例があれば県としての指導監視を図っていく』という答弁でしたが、具体的に条例ができたり、変化が起きているというところには至っていません。そういう意味ではまだこれからの課題だと思います」 一言メモ  JRいわき駅前で、山口那津男公明党代表が応援に来る街頭演説会を実施。駅前のペデストリアンデッキ、ラトブ前が多くの公明党支持者で埋めつくされ、お祭り・フェスのような熱気。市外からも応援に来ていた模様。山口代表が繰り返していた「ネットワーク」の強さをあらためて実感した次第。(志賀) 西丸武進 https://www.youtube.com/watch?v=_ssuXAFt_nI  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。 「1つは震災・原発事故からの復興です。復旧工事は行われていますが〝創生〟には至っていないので、そういう視点で復興を進めるべきです。2つはコロナ対応。まだ安心できない状況なので、いま受け皿対策や公衆衛生の管理の充実を徹底していく必要があります。3つは〝汚染水〟海洋投棄の問題です。投棄が完了するまで30年以上かかるとされることを踏まえ、県民の命を守るというスタンスで、問題が風化することない監視体制を構築する必要があります。環境、教育、福祉の充実・強化にもしっかり努めていきます」  ――昨年12月議会の代表質問で、JRの赤字路線への県の対応について質問していました。人口減少で鉄道維持が容易でなくなる中、県がどのように支援していくべきだと考えますか。  「県内の赤字路線では、まず地域住民の組織を作り、問題意識を共有化してから、行政が住民組織の提言を取りまとめ、財源の作り方を考えていく、という流れになっています。そういう意味では、まず地域ごと、駅ごとにまとまって組織を作っていけるかが重要になると思います。その道筋は行政側が責任を持って提供するべきです」 一言メモ  19時開始の個人演説会だけあって、力が入った長尺の演説。前段の後援会長のあいさつも力が入っていた。7期のベテラン議員だが、今回立候補した新人4人のうち2人は元いわき市議、ほか2人もそれぞれ維新公認、れいわ推薦を受けていることもあって、かなり警戒してる様子が見られた(荻野) 宮川絵美子 https://www.youtube.com/watch?v=467NOJKf-lw  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「県執行部には県民の生の声を聞いてほしい。給料はなかなか上がらないし、世論調査では教育費の負担を軽くしてほしいという声も多い。高校入学時のタブレット購入費を生徒が負担しているのは、東北では福島県だけです。高齢者の足の確保など高齢者支援も問題です。県議会ではその都度質問しています」  ――質問をすることで県執行部の対応は変わっていますか。  「問題提起をすると少し変わってくる。学校給食の無料化を訴えていたら、県内市町村が導入するようになった。子どもの医療費の無料化についても主張していたら、12年前の県議選の後に無料化が実現した。選挙は世論を喚起するチャンスであり、ずっと運動を続けてきたことに焦点が当たって、選挙の節目で変わっていくことも多いので、主張を続けることに意義があると考えています」 一言メモ  イオンモールいわき小名浜前の道路沿いで、施設に向かって演説する宮川候補。買い物客は足を止めることなく施設に入っていった。定数10に対し13人が立候補する激戦区だが、有権者の盛り上がりは今ひとつ……という状況を象徴する光景だった。(志賀) 矢吹貢一 動画撮れず。 取材に応じず。 一言メモ  事前に事務所に確認したところ、「事務所の方針で街角演説をする考えはありません。市内で一日選挙カーを走らせて、20時ごろ事務所に戻る予定です」とのこと。やむなく20時前に事務所に訪れ、スタッフとともに戻ってきた選挙カーを出迎えた。降りてきた矢吹候補に「政経東北です。ちょっとお話しお聞かせいただけないですか」と話しかけると、あからさまに苦笑いを浮かべ、無言で手を横に振りながら事務所内に入っていった。  しばらく外で待っていると、スタッフが出てきて「すみません、これから打ち合わせなので……。明日も街頭演説の予定はなく、戻ってきた後も時間が取れません。せっかく来ていただいたのにすみません」と謝られた。街頭演説もせずマスコミ取材にも応じないということは、自分の意見を広く知ってもらえる機会を放棄しているようなもの。矢吹陣営としては、新たな票の開拓は必要なく、既存の支持者を対象とした演説会で余裕で当選できるという判断なのだろう。  翌朝8時過ぎ、宿泊したいわき駅前のホテルで仕事をしていたら、矢吹候補の選挙カーの声が聞こえてきた。急いで窓から外を眺めたが見つけられず、そのまま声は小さくなっていった。(志賀) 安部泰男 https://www.youtube.com/watch?v=lhjMYDQJjt0  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「これまで信念として取り組んできたのは、住民が安全に暮らせる環境を作るということであり、防災・減災に対する思いは強いです」  ――9月議会の一般質問ではパートナーシップ・ファミリーシップ制度の導入について質問していました。県執行部は質問を受けて何か具体的に動きましたか。  「LGBT当事者の方から直接相談を受けて質問したものです。男女共同参画社会を築くために差別のない社会を築く、という県の方針を示したうえで、総括質疑では導入に向けてやっていくと答弁していました。県内市町村で導入の動きが加速しているのに県が何もやらないわけにはいかないと思います」 一言メモ  山口那津男公明党代表が応援に来ることもあって、エブリア北側駐車場の一角に公明党支持者100~200人が集結。SP・警察も多数。そのにぎわいに圧倒される。「いわき市に免許センターがないので、免許証がすぐにもらえない。県内で最も人口が多いのに。改善すべきだ」という主張はこの地域に住んでいなければ分からない視点で、ハッとさせられた。これこそ選挙漫遊の魅力。(志賀) 古市三久 https://www.youtube.com/watch?v=YV0IrOHy6O0  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。 「人口減少、少子高齢化で地域が衰退していることです。中山間地では草刈りをする人も減っており、自分で買い物に行くのも難しいという人が現実にいる。もし当選できたら総括質疑という形でなく、一般質問で問題提起したい」  ――ALPS処理水の海洋放出反対のスタンスを取っており、県議会でも陸上保管すべきと主張していたが、県は国の海洋放出方針に追随する形になりました。   「内堀雅雄知事が県民を代表して反対の声明を出すべきだったと考えています。これは新聞社などのアンケートにも書いている点です」 一言メモ  処理水海洋放出、原発事故収束作業に正面から疑問を呈するスタンス。海に面するいわき市選挙区でも意外とこういう演説は少ない。平日ということもあってか聴衆は2、3人だった。(志賀) 鈴木智 https://www.youtube.com/watch?v=CCwk0J33tMs  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「いわきにおいては水害対応だと考えています。自民党県連の動きと連動して、発災翌日から内堀雅雄知事に現地視察に入ってもらい、被害状況や地域の皆さんの声を聞いてもらいました」  ――令和5年9月議会の一般質問で、ドライバー不足が小名浜港の貨物に与える影響について質問していました。  「小名浜港に影響が出るのであれば質問しなければならないと考えた次第です。問題が可視化されるのに加え、県執行部も私も理解も深まるので、こうした質問をするのは意義があることだと考えています」 一言メモ  3連休最終日に予定されていた鹿島公民館での個人演説会。前回選挙では8位当選(定数10)だったこともあってか、応援弁士や陣営幹部からは気を引き締めるよう求める発言が続出。坂本竜太郎氏の県議選立候補見合わせで、逆に混乱している印象だった。(志賀) 青木稔 https://www.youtube.com/watch?v=Y0yiCo0MrsU  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「演説でも触れたが、やっぱり一番のポイントは人口減少。安心して働ける企業を誘致できるかが重要になると思う。そういう意味で注目しているのが福島イノベーション・コースト構想であり、エフレイ(福島国際研究教育機構)です。実現すれば必ず有力企業が来るので、いかにいわきの方につなげられるかが重要になります。そのために私も自民党県連としての立場でできる限りのことに取り組む考えです」  ――現在9期目で、演説では当初立候補を見合わせる方針だったという話もありました。  「年齢も年齢なので家族と相談して立候補を見合わせる決意をして、周囲にも伝えていましたが、さまざまな方から要請を受け、再び立候補することを決意しました」 一言メモ  地元・中央台の公民館で個人演説会を開催。参加者は約30人でほとんどが年配の方々。自民党県連いわき支部の重鎮ということもあって、森雅子参院議員のほか、今後の動向が注目される坂本竜太郎県議、市議らが応援演説に駆けつけた。1945(昭和20)年生まれで、いわき市議時代を含め議員生活は40年以上に上る。最後は10選に向けてガンバロー三唱。パワフルさでは誰にも負けていない。(志賀) 木村謙一郎 https://www.youtube.com/watch?v=ZVBagsrdRFQ    ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「河川整備を進めて水害の減災・防災に努めるのも必要だし、一次産業の後継者不足も深刻です。一番大きいのは人口減少ですね。都市部、山間部、それぞれ事情が異なるので、しっかり議論して解決していかなければならないと思います」  ――立候補を決意した理由は。  「11年にわたり市議会議員として活動してきましたが、市議会議員では解決できない問題にたびたび直面してきました。たとえば医療問題などは県にイニシアチブを発揮してもらわなければ改善は難しい。加えて現役世代として声を聞いてほしいという思いや、いわき市の中心部から外れた久之浜地域を代表する立場から県議会で意見を述べていきたいと思いがあり、立候補を決意しました」 一言メモ  昼前の時間帯にしては人の集まりがまばらだった。支持者は子育て世代と高齢者の人が中心の印象。演説でも触れていたように「久之浜地区から県議を!」という気概が非常に強く、地元での遊説の様子も気になるところ。(荻野) 山口洋太 https://www.youtube.com/watch?v=fX1X0UkWfaM  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「演説でお話しした通り、現役医師としていわき市で働くようになって医療体制に課題を感じ、そこを改善すべきだと考えたので立候補を決意しました」  ――れいわ新選組の推薦を受けていますが、無所属で立候補した理由は。 「基本的には特定の政党に属さず、市民から聞いた話を基に政策を打ち出していきたいと考えています。これまで1万8000軒を超えるお宅にお邪魔して話を聞いてきました」 一言メモ  演説予定場所の商業施設前に、ピンク色の選挙カーがさっそうと登場。聴衆は支持者と思われる高齢者が数人。車内から手を振るドライバーも。「この間1万8000軒以上を訪問した」という言葉は伊達じゃないということか。33歳という若さ、現役医師が医師不足解消を訴える点も支持拡大につながっている様子。(志賀)

  • 【会津若松市】選挙漫遊(県議選)

    【会津若松市】選挙漫遊(県議選)

     「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。  11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。  11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当 佐藤仁 福島県議選【会津若松市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=5569 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松会津若松市の解説は1:32:49~ 定数4 立候補者5 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601555.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601647.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 水野さち子 https://www.youtube.com/watch?v=b3Eu3Gw4XPk 候補者のコメント  私は7月の会津若松市長選に立候補しましたが、あれだけ票を離されれば(※4選された室井照平氏が2万3231票に対し、水野氏は1万3738票)、市民の皆さんは現状維持を望んだのだろうと思います。県議を2期務め、2019年の参院選に落選した後、4年間の浪人生活を経て臨んだ市長選だったので、いったんは全ての電話も解約して区切りをつける考えでした。しかし、支援者への挨拶回りをする中で「これで終わってもらっては困る」「議員として働いてほしい」というたくさんの声をいただき、私自身も「自分の人生、これで終わっていいのか」と8月いっぱい熟慮した結果、3期目を目指して県議選に挑むことを決断しました。「市長選に出たのは県議選を見越して」という見方があるのは承知していますが、身近な人ほど私の真意を理解してくれていると思っています。  まずは会津若松市が先頭に立って会津の基幹産業である観光の再興を成し遂げることが大切です。そうすることで交流人口、関係人口が増加し、地域経済が活性化していくと考えます。只見線が注目を集める中、二次交通の整備や飲食、お土産、宿泊など県の立場でできること、県と会津17市町村が連携してやるべきこと、国にお願いすべきこと等々、でき得る施策はあるんだろうと思います。また、0~2歳児の保育料を所得制限なしで無償化することや、デジタル田園都市国家構想を生かして認知症の早期発見・治療を可能とするシステムをつくるなど、県独自では難しい施策を国と連携しながら実現を目指したい。  私は無所属で活動しています。他の政党からお声がけがあったのは事実ですし、今回も山口和之さん(日本維新の会所属の元参院議員)からため書きをいただきましたが、無所属なので「来るもの拒まず」のスタンスをとっています。 一言メモ  街頭演説は国道49号の大きな交差点で行ったため、足を止める人は皆無。ただ、車から手を振る人は数人いた。事務所は女性スタッフばかり。水野候補は「意識したわけではないが、支えてくれる人が集まったらこうなった」と話す。(佐藤仁) 佐藤義憲 https://www.youtube.com/watch?v=ywda67vOQQ4 候補者のコメント  今、福島県の課題は大きく二つあります。一つは人口減少、もう一つは次世代を育てる教育です。  大変残念なことですが、福島県では教員の不祥事が後を絶ちません。内堀雅雄知事も何とかしなければならないと悩んでおられますが、教員の質を上げると当時に教育の質も上げることが非常に重要と考えます。教員の働き方改革を進め、スリム化すべきところはスリム化する。そうやって教員の質を上げれば教育の質も上がっていくので、そこは現場に言うべきことを言っていきたいと思います。  その上で人口減少を考えた時、移住・定住をするにはその地域の教育レベルも一つの選択肢になるので、そこをしっかりやらないと、福島県は移住先の選択肢の中に入っていかないんだろうと思います。 一言メモ  メガドンキの前で街頭演説を行ったこともあり、若い買い物客数人が立ち止まって聞いていた。中学生くらいの男子2人も近くで演説を聞いていた。この場所を選んだのは、メガドンキ内に期日前投票所が設けられているため、投票を棄権しないように呼びかけることと、投票するなら自分の名前を書いてもらおうという狙いがあったようだ。  応援弁士として広瀬めぐみ参院議員(岩手選挙区)が駆け付ける。大竹俊哉市議、長谷川純一市議の姿もあった。(佐藤仁) 佐藤郁雄 https://www.youtube.com/watch?v=W9DUoKJU6NA 取材に応じず。 一言メモ  当初は取材に応じるとしていたが、当日になって事務所から「現在当落線上におり、大変厳しい選挙となっている。1人でも多くの有権者と接するには5分でも10分でも時間が惜しい。大変勝手を言って申し訳ないが、取材は遠慮させてほしい」という断わりの連絡が入る。  街頭演説には広瀬めぐみ参院議員(岩手選挙区)が駆け付ける。スタッフ10人弱、支持者10人弱と多くはなく、立ち止まって演説を聞く人は皆無だったが、佐藤氏を支持する人が集まったこともあり、一定の熱量は感じられた。  一方、当落線上にいることは本人も実感しているのか、少し落ち着かない様子も見られ、街頭演説の開始は14時半からなのに、14時25分ごろに「もう始めてもいいかな」と言い、支持者から「慌てるな。あと5分あるぞ」とたしなめられるシーンもあった。(佐藤仁) 渡部優生 https://www.youtube.com/watch?v=0X2lJQhc2MY 候補者のコメント   まずは災害に強い県土づくりが大切です。毎年のように大きな災害が発生し、県民の命に関わる状況が起きているので、早急に対応する必要があります。建物や橋などの耐震強化や河道掘削など、県が取り組むべきことはたくさんあると思います。  震災・原発事故からの復興も大切です。令和7年度で「第2期復興・創生期間」が切れますが、県内を見渡すと復興はまだまだ道半ばです。第3期への計画延長と、その裏付けとなる予算をどう確保するかは福島県にとって喫緊の課題です。  急速に進む人口減少にどう対応するかも問題です。人口流出をいかに食い止めるか、そして流入を促すために魅力的な雇用の場を生み出せるか。企業誘致と産業基盤強化は私が最も訴えている政策の一つです。  どうも今の福島県はイノベーション・コースト構想やロボット、水素や廃炉など、浜通りに設置した次世代産業に目を向けがちですが、現実的には自動車や半導体など、国が注力している産業やサプライチェーンにもっと注目してもいいのではないかと考えます。  会津ならではの産業、具体的には観光、農林業、酒や漆器に代表される地場産業、さらには会津大学と地元資源の掘り起こしや磨き上げも必要なんだろうと感じています。 一言メモ  前日に事務所に問い合わせた際、街頭演説は「18時半からリオン・ドール会津アピオ店前」と伝えられていたが、実際はそれより1時間も早い17時半から始まっていた。おかげで渡部候補の街頭演説の動画を収録できなかった。現場にいた事務所スタッフに「予定では18時半からではなかったか」と尋ねると「変更になったことを連絡しようと思っていたが忘れていた」とのこと。スタッフの対応の良し悪しは候補者の評判に直結するので、注意されてはいかがだろうか。  演説には小熊慎司衆院議員と馬場雄基衆院議員が駆け付ける。夕方で辺りは暗く、足を止めて演説を聞く人は皆無。ただ、10人近い支持者が集まり、拍手と声援を送っていた。(佐藤仁) 宮下雅志 https://www.youtube.com/watch?v=HHc1ct7vu14 候補者のコメント   人口減少が一番の課題だと思います。選挙戦では、今やらないと間に合わない、そこに真正面から取り組むべきだと強く訴えています。  それと同時に、安心・安全な暮らしを送れるよう雇用の創出や景気対策、医療・福祉や災害対応などを進めていくことが大切です。こうした取り組みが地域の魅力を高め、ここに住み続けたいと思う、あるいは他の地域から移住したいと思う条件になると考えます。併せて、そこに高い文化力も備わってくればワクワクした地域となり、自然とそこに住みたい、住み続けたいという気持ちが芽生えてくるのではないか。  会津には「ならぬものはならぬ」という考え方があります。それを地場のものづくりに照らし、若者を中心としたごまかしの利かない、真面目なものづくり産地を構築していけば人間力の向上にもつながると思います。文化力と人間力で地域の魅力を高める、これが私の持論です。  正直、こうした取り組みは非常に長くかかるし、すぐに結果が出るわけではなりません。しかし、人口減少が急速に進む中、今始めないと間に合わなくなるというのが今回の私の最大の主張です。  人口減少は何か一つやれば解決するものではありません。ただ、これまでと同じことをやっていては意味がなく、子育て支援についても今までの常識にとらわれない大胆な財政出動等をする必要があるんだろうと思います。県独自でやれることはきちんとやりつつ、国に求めることはしっかり求めていく。それをスピード感を持って、他県に先駆けてやらないと福島県としての特色は出せないと思います。 一言メモ  個人演説会は19時から一箕公民館で。用意した30席に対し25人くらい集まる。演説の後は出席者から鋭い質問も寄せられ、宮下候補が答える場面もあった。集まったのは熱心な支持者ということもあり、それなりの熱が感じられた。  小熊慎司衆院議員が応援弁士を務め、馬場雄基衆院議員が来賓として出席していた。(佐藤仁)

  • 【福島市】選挙漫遊(県議選)

    【福島市】選挙漫遊(県議選)

    マスコミが伝えない候補者の人柄 月刊「政経東北」11月号に、本誌に連載していただいている畠山理仁さんの映画「NO選挙,NO LIFE」公開を記念したインタビュー記事を掲載した。畠山さん、前田亜紀監督、大島新プロデューサーに映画の見どころや選挙の魅力について語ってもらったもの。 詳細は誌面で読んでいただきたいが、選挙取材にかける畠山さんの情熱に触れて、本誌記者は居ても立っても居られなくなり、このたび新たな企画に挑戦することになった。 その名も「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。 11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。 11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当 佐藤大 補佐 佐々木 福島県議選【福島市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=597 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松福島市の解説は9:57~ 定数8 立候補者9 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601554.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601651.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 誉田憲孝 https://www.youtube.com/watch?v=mRf88TnrX5o  ――県政、県土の課題は?  「回っていて一番言われるのはやっぱり物価高です。家計のやりくりが厳しくなっているという方が現実的に多いですね。家庭の収入を上げていくためには、中小企業へのテコ入れが必要でしょう。  農業についても、いろんな資材費用などが高くなっているので、それをいかに価格に乗せていくかが課題だと思います。 ほかにも、『今年はリンゴの色づきがすごく悪い』などの話も聞きました。そういった気候変動に対する農業の手当なども大事になってくると思います」  ――立候補した理由は?  「市議を8年務め、いろんな政策を立案してきましたが、市の財政状況が厳しいという現実があり、市議会だけではどうしようもない部分がありました。そういったものを解決していくためには、予算なども含め県のテコ入れが必要だろうと感じていたので、自分が市と県の繋ぎ役になりたいと考えました」 一言メモ 街頭演説の場所も相まってか「アットホーム」を感じる選挙活動に思えた。4年前の雪辱を晴らすため、新人ならではの「必死さ」も感じ取れ、取材にも快く応じていただき、好印象だった。事務所から取材を終えて帰るときに「お見送り」までする徹底っぷり。 根っからの明るさや笑顔がひしひしと伝わってきたので、「人前に出るってことは、こういうことを自然にできる人」なんだなと感じた。(佐藤大) 佐藤雅裕 https://www.youtube.com/watch?v=SICPZdOyuhk  ――県政・県土の課題は。  「街頭演説でも話した通り、人口減少に尽きます。①事業者の人手不足、後継者不足、②地域活動の担い手不足、③マーケットの縮小などの影響が出ると考えられ、進行すれば地域が維持できなくなるので、早急に対策を講じる必要があります。地域の魅力づくり、産業振興など、総合的に底上げしていかないと解決しない問題だと思うので、たとえ商工業についての質問・意見を出す際も、必ず人口減少を踏まえた形で行うようにしています」  ――令和3年2月議会で、相馬福島道路霊山インターチェンジと福島市中心部のアクセスを良くするため、県道山口渡利線を整備すべき、と質問していました。その後、整備状況に変化はありましたか。   「実現するとなれば、県単独ではなく、福島市や地元経済界、国も巻き込んだ大きな事業になります。県の担当職員などとやり取りする中で質問したもので、整備に向けたコンセンサスは形成されつつあると思います」 一言メモ 選挙スタッフに取材をお願いし、「忙しいところ申し訳ないが、取材可否の折り返しの電話をいただきたい」と伝えたが、折り返しがなかった。 翌日、「取材の件はどうなりましたか?」と選挙スタッフに問い合わせをすると、選挙スタッフが「あれ? 奥様から折り返しの電話いってないですか?」と言われ、私は「来てません」と伝えた。 その後、街頭演説の写真と動画の撮影をしに行った際、佐藤候補に直接「2,3分、取材をよろしいでしょうか」と尋ねると、佐藤候補は「すぐ出るから、申し訳ないけど、、」と言われたので、私が「そうですよね、忙しいところすみません。明日は事務所にいる時間ありますでしょうか?」と尋ねたら、佐藤候補が「選挙中だから」と言って立ち去った。 その後、選挙スタッフに電話をして、「ほかの候補者が取材を受けている中、2,3分の時間もとれないんですか」と伝えて電話を切った。 それから2日後、選挙スタッフから「今日の夜の8時だったら時間をとれます」と言われたので、私は「伺います」と伝えたが、もうすでに気持ちが冷めていたので、記者の志賀に取材を託した。 これが畠山さんだったら、新聞社だったら、取材をすんなり受けたか受けていないか。 故・佐藤剛男衆院議員の娘婿として県議になりたてのころは「謙虚さ」がみられたが、4期目を目指すともなるとこうも変わるのだろうか。 佐藤候補は、目の前の1票を捨てた。政経東北が福島市に会社があり、スタッフの多くが福島市の有権者だということも想定できないのだろうか。 「絶対に投票しない唯一の1人」確定となった。(佐藤大) 記者の志賀が取材を終えて↓ 「スケジュールが詰まっていて2、3分取るのも難しい。こういう取材をしたいなら事前に言ってもらわないと。今日は何とか時間を確保した」。陣営ごとの〝塩対応〟〝神対応〟を体験できるのも選挙漫遊の魅力だ。(志賀) 大場秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=rfJWeMjUUx8  ――県政、県土の課題についてどう認識しているか。    「短期的課題としては原発の処理水放出問題。農水産物や観光業に風評被害の影響がまだ顕著にはなっていないが、それをどう防いでいくか。長期的課題としては超少子高齢化社会の中でいかに地域を守っていくか、また高齢者が安心した生活が送れるかが大きな問題と認識しています」    ――その課題解決に向け、どのような議会活動や取り組みを展開してきたか。  「処理水放出問題としては、SNSやテレビCM等による安全性について首都圏のみならず関西圏も含めて積極的に訴えていくべきと議会で発言しています。あわせて超少子高齢化問題については、交通弱者対策の一環であるバス路線の維持、不登校児童に対する積極的な支援についても訴えかけています」    ――県執行部の動きはいかがですか。  「風評被害対策については、補正予算を組むなど積極的に向き合っていると感じていますし、評価しています。また、不登校児童やさまざまな事情を抱える子ども達に対しても、NPO法人との連携強化、相談体制の充実を図ってきており、さらに進めていくべきと考えます」    ――県議会においては、令和5年6月議会にて「フルーツラインの整備状況」について質問されました。その後の県執行部の反応はいかがですか。  「福島市にはすばらしい温泉、自慢できる果物など魅力にあふれていますが、『点』の観光のままなのは残念。フルーツラインは『点』と『点』を『線』で結び、ひいては面的な観光振興における重要な道路です。ハード面としては、通行に難がある『天戸橋(あまとばし)』の整備について、議会ではしつこく質問しています。この間、予算の執行など目に見えて動きが進んでいると感じます」 一言メモ 聴衆の大半は男性高齢者であったがみな真剣に演説を聞いていた印象。一方でそれなりの熱気は感じた。(佐々木) 高橋秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=cDO9Ommjau8  ――県政、県土の課題は?  「物価高と燃料費高騰というのは喫緊の課題だと思っています」  ――その課題を解決するためにどのように行動しましたか?  「経済支援について、県独自の施策について要望を知事の方にさせていただきましたが、多少なりともその要望に対して実現した部分はありました。  また今、国の方では所得税の軽減についても議論されているようですが、やはりそれだければ賄いきれないだろうところがありますので、さらなる要請もしていきたいですし、県独自の新たな政策を、経済状況を見ながら、求めていきたいなと思ってます」  ――令和5年2月の代表質問で「移住定住に向けテレワーク導入に対する施策を要望」していますが。  「もうひとつの課題は人口減少です。また、それに伴う労働人口の減少が課題です。県も二地域居住などを、移住促進計画として提唱していますが、さらにメスを入れていって改善できればと考えています。相談窓口を東京の日本橋に設けて、そういった取り組みに関して厚みが出てきているとは感じています」 一言メモ 朝早い中、快く取材に応じていただき、かなり好印象。時間と場所を決めた街頭演説を予定せず、30分毎ほどに立ち止まって遊説するスタイルが印象的だった。事務所スタッフの方々も丁寧に対応してくれて、そこも好印象。いくら候補者がよくても事務所スタッフの質が微妙だと、うまくいく選挙もうまくいかないと感じた。(佐藤大) 宮本しづえ https://www.youtube.com/watch?v=E_OWLVbFn_A ――県政、県土の課題は?  「この物価高ですから、どう政治がきちんと対策をとっていくのかってことが最大の課題だと思います。  例えば、物価高で何やるかって言ったときに真っ先にやるべきなのは消費税の減税です。しかし、県の執行部は『国が決めることです』としか答えません。国が決めることだったら『国で決めてくれ』と働きかけることが大事だと思うんです。  『今の県民の暮らしどうすんのよ』っていうのはなかなか具体的には見えてこないですね」 ――令和5年9月の統括審査会の質問で「ALPS処理水について、県漁連と国・東電との約束が破られていないと県が判断した理由」を尋ねていますが。  「約束が守られないということは、民主主義に関わる重要な問題です。一つ一つの約束事が破られていったら、廃炉の安全性に対する信頼そのものに関わる問題になります。  約束事を守らせるということをしっかりやらせないと、県民が安心して暮らせるかどうかっていうことにも関わってきます」 一言メモ 聴衆のほとんどが女性だったのが印象的だった。写真撮影をするスタッフもおり、共産党というのは組織的に動ける集団なんだなと感じた。 選挙カーについて。ほかの候補者のほとんどがボックスカーをレンタカーしている中、宮本候補は共産党が自前でもっている車を使用しているのも印象に残った。 政策は給食費無料というパンチ力と分かりやすさ。 宮本候補はJR福島駅西口のイトーヨーカドー福島店前の道路で演説をしたのだが、その後、東口のこむこむで伊藤達也候補の大観衆を見たこともあり、公明党と共産党の「力の差」をまざまざと見せつけられたことが印象的だった。 取材での宮本候補の印象はとても温和な方で話しやすかった。 (佐藤大) 半沢雄助 https://www.youtube.com/watch?v=aYqbfb6CN2g  ――県議選立候補を決意した理由。  「先ほどの決意表明でお示しした通り。この間、医療従事者として勤務するとともに、労働組合活動にも注力してきた。このたび紺野長人県議の後継者に指名され、重責ではあるが責任を果たすべく、地盤(議席)をしっかり守ることが私の使命と考える」  ――県政、県土の課題について。  「人口流出問題が大きな課題と考える。解決に向け克服すべき点は多岐にわたるが、本県の維持・発展のためにも人口流出を防いでいる自治体を参考にしながら鋭意取り組む必要がある。また、医療従事者の経験から、また子を持つ親として『命と暮らし』を守りながら、次世代が住んで良かったと思えるような地域づくりや政策が重要と考える」 聴衆の大半は高齢者であったが、女性の割合が多い印象だった。新人候補ということもあり半沢候補者の初々しさもときおり感じた。(佐々木) 伊藤達也 https://www.youtube.com/watch?v=x4EDhiMTiyI  ――県政、県土の課題は? 「喫緊の課題は人口減少です。また経済面では、航空宇宙産業のモノづくり人材の育成を推進していきます。開発企業と連携して『下町ロケット』ようになっていければと思っています」  ――令和5年9月の一般質問で「公衆衛生獣医師の確保」について質問していますが。 「動物愛護施策を進める上で、獣医師の確保はとても重要です。ただ、全国的に獣医師不足で取り合いとなっており、本県も職員が不足しています。動物愛護だけではなく産業用の獣医師も必要ですし、鳥インフルなどの脅威も踏まえて、県としての獣医師確保が課題となっております。 私が県に働きかけたことで、修学資金の新しい制度をつくらせていただき、獣医学生研修として『福島県家保研修』と『獣医学生福島体験』を実施しています。引き続き県への働きかけを進めていきます」 一言メモ 30分前に会場に着いたのだが、公明党の山口代表も応援に駆けつけることもあってか、既に警察が40人ほど、公明党スタッフが30人ほど居た。メディアも毎日新聞、共同通信、福島テレビ、ほかにも居た。 聴衆がいなかったので「聴衆よりも多かったスタッフと警察」というタイトルや筋書きを考えたが、開始前に聴衆があっという間に150人ほどとなり、「公明党のネットワーク力恐るべし」と感じた。 伊藤候補の政策も「ワンイシュー」に目を向けており、動物愛護の「アニマル伊藤」、航空宇宙産業に強い「スカイ伊藤」と、わかりやすかった。 私は創価学会員ではないが、公明党のように何か物事を遂行していくためにはパワーやネットワークが必要なのかもしれないと感じた。佐藤優氏の著書『創価学会と平和主義』を読んでいたこともあり、創価学会への偏見が薄れていたのも大きい。(佐藤大) 渡辺哲也 https://www.youtube.com/watch?v=8lMxuSzHznA  ――県政、県土の課題は?  「人口減が喫緊の課題だと思っています。子育て支援や教育に注力しながら、20年、30年のスパンで、シニアの方にも元気で活躍してもらうような『まちづくり』をすすめて、次の世代につなげていくことが大事です。  高齢者の方々が元気に働ける環境を作っていくことが、人口減対策につながると思っています」  ――令和4年2月の一般質問で「市町村における犯罪被害者等支援条例制定に向け、どのように支援するか」質問しましたが。  「闇バイト事件を含めて、いつ誰がどこで巻き込まれるかわからない、そういった時代じゃないですか。  県には『安全で安心な県づくりの推進に関する条例』というものがあります。犯罪被害者支援についての文言が一文だけあったんですが、先進県や先進市町村では、見舞金の支給や加害者に代わって被害者にお金を寄付するような仕組みもあり、県は遅れをとっていました。県に『このまま何もしなければ、最後になりますよ』と訴えたら、改善に向けて動き始めました。県が動いたことで、市町村もそれに続いてくれており、要望したことが実現している実感があります」 一言メモ 飯坂温泉駅での街頭演説ということもあって、誉田候補と同様「アットホーム感」があった。 取材で事務所を訪れると、多くのスタッフが和やかにしており、雰囲気も良かった。 取材を受ける受けないでひと悶着あったのもあり、渡辺候補を勝手に「気難しい人」と決めつけていたが、会ってみるととても気さくで接しやすい方で、思い込みはいけないと感じた次第。 政策に関しても県議1期目らしい「ワンイシュー」に目を向けており、人口減や物価高などの大きな課題よりも現実的に見えて、よい印象を受けた。(佐藤大) 西山尚利 https://www.youtube.com/watch?v=jB8cE0t0Oww  ――県政、県土の課題は? 「令和5年2月の代表質問で『入札の地域の守り手育成型方式』について質問しました。入札不正の一方で、地元の建設業に災害対策をしてもらわなければなりません。あらゆるものに対する備えと発信が必要だと思っています」   一言メモ 取材を受ける受けないで事務所スタッフと揉めたが、走行ルートの集合場所に行って西山候補に話を振ると「今ここで話すよ」と気さくに応じてくれた。人柄的に「飾らず、オープン」という感じで話しやすかった。街頭演説はせず選挙カーを走らせるだけのスタイルのため、動画が短くなっている。 取材の可否のほか、走行ルートを選挙スタッフに尋ねたが、間違った情報を伝えられた。ボランティアで働いている人もいるのだろうから、企業並みの対応を期待するのは間違っているのかもしれないが、「なんだかな」と感じた。(佐藤大)

  • 元町長に大差をつけた渡部裕太氏【南会津町】【若手新人議員】

    元町長に大差をつけた渡部裕太氏【南会津町】【若手新人議員】

    元町長に大差をつけた渡部裕太氏 町の課題を語る渡部裕太氏  本誌2019年6月号に「南会津町議選 湯田芳博氏当選で嵐の予感」という記事を掲載した。  4年前の南会津町議選に、元町長の湯田芳博氏が立候補し、2位当選者の倍近い得票数(1466票)でぶっちぎりのトップ当選を果たしたことを報じたもの。  湯田氏は昨年4月の南会津町長選にも立候補したが、元副町長の渡部正義氏との対決に敗れ、4度連続の町長選落選となった。すると、今年4月の町議選に立候補した。  今回も圧倒的な票数でトップ当選するのかと思いきや、湯田氏と同じ田島地区の新人候補がその座を奪い取った(別掲参照)。 選挙結果(4月23日投開票、投票率77・74%)当1538渡部 裕太 (31)無新当836湯田 芳博 (72)無元当755渡部 訓正 (69)無現当626丸山 陽子 (68)公現当575古川  晃 (62)無新当543芳賀 正義 (75)無新当540山内  政 (70)無現当499楠  正次 (68)無現当449湯田  哲 (66)無現当446森  秀一 (72)無元当434川島  進 (68)無現当430室井 英雄 (66)無現当422酒井 幸司 (65)無新当392高野 精一 (73)無現当328星  和孝 (57)無新当297湯田 剛正 (62)無新275馬場  浩 (61)無現  「若い議員は少ないので、トップ当選を目指し、できる限り多くの方に得票してもらいたいと考えて全力で活動していました」  こう語るのは31歳で町議となった渡部裕太氏だ。今回の当選者では最年少となる。  会津高卒。「地域医療に携わりたい」と自治医大入学を目指し、予備校に通いながら浪人生活を続けている中で、2019年、父親の渡部英明氏が県議選に立候補することになり、手伝いのため同町にUターン。結局、父親は選挙戦で敗れたが、そのまま町内の企業に就職した。  こうした活動中に驚かされたのが、若い世代の選挙への関心のなさだ。  「民間企業だと退職するぐらいの年齢の人が議員を務めており、接点も親近感もない」という意見が聞かれた。それならば、若者が1人でも議員になることで、思いが伝えやすくなり、政治参加もするようになるのではないか――。  渡部氏は地元に戻って以来、地域のスポーツ活動、山岳救助消防団など、さまざまな活動に参加していた。多くの人の話を聞く機会がある自分が若い世代の受け皿になろうと考えた。その結果、多くの票を得て町議に当選したのだから、期待している人が多いということだろう。 会社員との兼務生活  経営者の理解を得て、地元の建材店に勤めながら、議員活動に取り組む。ちなみに地方自治法では町の事業を請け負う企業の役員が地方議員を兼ねることが禁じられているが、渡部氏は役員にはなっていない。議会の会期中は閉会後に会社に戻って仕事をこなす。「正直、当選後は休みがありません」と笑う。  公約には空き家の活用、体験型観光資源の創出、地域の魅力発掘などを掲げた。6月定例会では、早速空き家対策について執行部にただした。  「現場に行って話を聞いて初めて分かることも多い。例えば、移住者を増やすための施策が行われているが、『移住者のニーズとはかみ合っていない』という声が聞かれる。町への窓口、つなぎ役としての役割を果たしていきながら、公約実現を目指していきたい。特に空き家問題については、いま会社で不動産部門を担当しており、現場でその実態を知っているという強みがあるので、積極的に取り組んでいきたいですね」  11月に父親の渡部英明氏が県議選に再び立候補することについては「もし当選させてもらえば、相互に連携して県・町のパイプ役として機能できると思います」と語る。  地域を問わず入れてもらった多くの票は若き立候補者への期待の表れ。後は行動で示すだけだ。

  • 地域おこしで移住した長友海夢氏【猪苗代町】【若手新人議員】

    地域おこしで移住した長友海夢氏【猪苗代町】【若手新人議員】

    地域おこしで移住した長友海夢氏  猪苗代町は、6月に町長選が行われ、そこに佐瀬誠氏、佐藤悦男氏の2人が議員を辞職して立候補したほか、二瓶隆雄氏が在職中の2021年4月に亡くなったことで欠員3となっていた。  そのため、町長選と同時日程(6月13日告示、18日投開票)で議員補欠選挙が行われた。町議補選には、長友海夢氏(27)、山内浩二氏(68)、松江克氏(68)の3人が立候補し、無投票での当選が決まった。ちなみに、町長選は前述の佐瀬氏、佐藤氏のほか、二瓶盛一氏、高橋翔氏の新人4人が立候補し、二瓶氏が当選を果たした。  議員任期は来年2月までで、今年6月の町議補選で当選しても、任期は約8カ月しかない。そんな事情もあり、町内では「この時期の補選では、なかなか立候補しようという人が出てこない」と言われていた。  実は、4年前の町長選の際も、現職町議が町長選に立候補したことと、現職議員の死去によって欠員2が生じ、町議補選が行われた。ただ、事前の立候補予定者説明会では出席者がゼロで、告示日当日になっても、「立候補者が出てこず、欠員のままになるのではないか」と囁かれていたほど。最終的には急遽2人が立候補し、無投票で当選が決まったが、なり手不足を嘆く町民は少なくなかった。  今回の町議補選前も、「時期(残任期が短い)的なこともあり、なかなかなり手がいない」と言われていたが、選挙戦にはならなかったものの、欠員3を埋めることができた。  その中で注目されるのが長友氏だ。選挙時は27歳で、県内最年少議員になる。  長友氏はどんな人物なのか。町内複数人に聞いてみたが、「分からない」という人がほとんど。知っている人でも「地域おこし協力隊でこっちに来た人のようだね」という程度で、「それ以上のことは分からない」とのこと。 経歴と移住の経緯 ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供  長友氏に話を聞いた。  1995年8月生まれ。現在28歳(選挙時は27歳)。栃木県出身だが、アルペンスキーをやっており、猪苗代町を練習拠点にしていた。小学5、6年生のときは同町内の小学校に通っていた。  その後、中学校は地元栃木県の学校に通い、高校は日大山形高校、大学は日大体育学科でスキーを続けた。競技者としては大学までで一区切りとし、卒業後は通信系の会社に就職した。  そこで3年ほど働いたが、ひたすら自社の利益だけを求められる環境だったようで、「収入(高収入を得ること)よりも、人や地域の役に立つ仕事がしたい」と思うようになったという。  そんな折、猪苗代町で地域おこし協力隊員を募集していることを知り、「思い入れのある猪苗代町で、地域のために仕事がしたい」と応募、2020年4月から3年間の任期で地域おこし協力隊員(※総務省HPに掲載されている地域おこし協力隊の概要を別掲)になり、移住した。 地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期はおおむね1年から3年です。  具体的な活動内容や条件、待遇等は各自治体により様々ですが、総務省では、地域おこし協力隊員の活動に要する経費に対して隊員1人あたり480万円を上限として財政措置を行っています。また、任期中は、サポートデスクやOB・OGネットワーク等による日々の相談、隊員向けの各種研修等様々なサポートを受けることができます。任期終了後の起業・事業継承に向けた支援もあります。  令和4年度で6447名の隊員が全国で活動していますが、地方への新たな人の流れを創出するため、総務省ではこの隊員数を令和8年度までに1万人とする目標を掲げており、目標の達成に向けて地域おこし協力隊の取り組みを更に推進することとしています。  長友氏は、その任期中の昨年7月に㈱いなびしを設立した。  「猪苗代湖の水質環境保全事業を行っているのですが、毎年、夏になると大量の『ひし』(水草)が発生します。それを放っておくと腐敗してヘドロになるなど、水質汚濁の原因となってしまいます。そのため、ひしの駆除を行うのですが、それを有効活用する目的で設立したのが『いなびし』です」(長友氏) ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供  社名は、地名(猪苗代)とひしから取ったもの。ひしは湖にとって厄介者で、行政が船を出すなどして駆除し、それを運搬・処分していた。当然そのための費用がかかる。長友氏(いなびし)は、その厄介者を資源にできないかと考え、「猪苗代湖産ひし茶」として商品化した。本誌記者も取材中にいただいたが、味はそば茶と似ている。 猪苗代湖産ひし茶=長友氏提供  「現在は、道の駅猪苗代で販売しているほか、町内のカフェや旅館、アクティビティー施設などで使ってもらっています。クセがなく飲みやすいので、食事、特に和食に合うと思います。商品の売り上げの一部は水質環境保全事業に寄付しています」(同)  今後は海外への販売も視野に入れている。ひしの実は、乾燥するとかなりの硬度になり、古くは忍者が敵の足元に撒き、動きを鈍らせるための道具「マキビシ」の元になっていたとも言われているという。ひしを撒くから「マキビシ」というわけ。  「どの国に、どんな形で売り出すかはまだこれからですが、海外で忍者人気は高いですから、マキビシエピソードと絡めて『ニンジャティー』といった形で売り出せば、海外の人にも興味を持ってもらえるのではないかと考えています」(同)  このほか、郡山市の猪苗代湖畔に畑を借り、ひしの実を肥料化する取り組みも進めている。また、町内新町の空き店舗を借りて事務所兼店舗にしており、ひし茶の製造のほか、教育旅行・ツアー等の体験コンテンツ提供、そば店、そば打ち体験、夏季の日曜日限定のかき氷販売などを行っている。  これら事業は、新しいビジネスへの挑戦や、地域課題の解決に取り組むビジネスプランを表彰する「ふくしまベンチャーアワード2022」で優秀賞に輝いた。 議員になったきっかけ ひしの実  こうした事業を営むかたわら、議員に立候補しようと思ったきっかけは何だったのか。  「会社勤めをしていた時に、取引先企業の担当者が政財界とつながりがあり、私もそうした場に行くことがありました。その時は、議員になろうとかではなく、それまで縁遠かった議員について認識することができました。その後、会社を辞めて、地域おこし協力隊に応募した際、役場の課長さんの面接があったのですが、その時に『ここで、地域のためになる仕事がしたい』、『いずれは起業したいし、議員として地域のために働きたいと考えている』ということを伝えました。今年3月に地域おこし協力隊の任期が終わり、この機会だと思って立候補しました」  長友氏によると、県内他地域では地域おこし協力隊で移住し、後に起業するという事例が、もっと活発に行われているところもあるという。そのため、「議員として、地域おこし協力隊のさらなる活性化に加えて、自分が空き店舗を借りて事務所兼店舗にした経験から、空き家・空き店舗の有効活用、移住促進、統廃合によって空いた学校の有効活用などに取り組みたい」と意気込む。  9月は議員になって初めての定例会が行われる。そこで、一般質問デビューを果たすべく、いま(本誌取材時の8月下旬)は、数ある課題の中から何を取り上げるか、限られた時間で効率よく質問するためにはどうするか等々を思案中という。

  • 断トツ得票を記録した深谷勝仁氏【須賀川市】【若手新人議員】

    断トツ得票を記録した深谷勝仁氏【須賀川市】【若手新人議員】

    新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏  本誌6月号に「須賀川市議選 異例の連続無投票が現実味」という記事を掲載した。任期満了に伴う須賀川市議選は、7月30日告示、8月6日投開票で行われたが、事前情報(6月号記事掲載時点)では、「無投票の可能性が高い」と言われていた。  前回(2019年8月)は、同市にとって、1954年の市制施行以来、初めての無投票で、市民からは「連続無投票は避けなければならない」、「無投票になった次は多くの候補者が出そうなものだが、そうならないのが問題だ」といった声が出ていた。  その後、7月3日に立候補予定者説明会が開かれ、それまで立候補の動きがなかった新人3陣営が出席。このうちの1人が正式に立候補表明したことから、定数24に25人(現職19人、新人6人)が立候補し、8年ぶりの選挙戦となった。  結果は別掲の通り。現職19人、新人5人の計24人が当選した。投票率は45・28%で、過去最低だった前々回の55・89%を10・61ポイント下回り、過去最低を更新した。 選挙結果(8月6日投開票、投票率45・28%)当 3141 深谷 勝仁 (39)無新当 1914 松川 勇治 (45)無新当 1640 鈴木 正勝 (70)公現当 1380 大河内和彦 (56)無現当 1334 深谷 政憲 (66)無現当 1278 大寺 正晃 (61)無現当 1206 溝井 光夫 (62)無現当 1203 佐藤 暸二 (67)無現当 1159 横田 洋子 (64)共現当 1078 鈴木 洋二 (64)無現当 1078 本田 勝善 (58)無現当 1072 浜尾 一美 (51)無現当 1067 五十嵐 伸 (60)無現当 1039 堂脇 明奈 (40)共現当 1016 大内 康司 (83)自現当  891 古川 達也 (50)無新当  881 市村 喜雄 (66)無現当  881 関根 篤志 (47)無新当  768 斉藤 秀幸 (47)無現当  767 石堂 正章 (65)無現当  722 柏村 修吾 (66)無新当  588 大柿 貞夫 (71)無現当  573 熊谷 勝幸 (52)無現当  516 小野 裕史 (54)無現 513 桜井  誠 (37)無新  この中で目に付くのが、新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏(39)。今回の当選者では最年少になる。  選挙戦となった直近3回の最多得票は2015年が2098票、2011年が2005票、2007年が2472票といずれも2000票から2500票の間。今回の深谷氏は3141票で、それらを大きく上回っている。今回2番目に得票が多かったのは新人の松川勇治氏(45)で1914票だから、2位に約1200票差を付けている。過去のトップ当選者との比較に加えて、今回の低投票率を考えると、深谷氏の得票がいかに多いかがうかがえよう。  深谷氏はどんな人物なのか。  本人のSNSなどに掲載されたプロフィールによると、1984年生まれ。須賀川高校(現・須賀川創英館)、東北文化学園大学医療福祉学部卒。2007年に市社会福祉協議会の職員となり、今年3月まで勤務した。  年度末に社協を辞め、4月以降は市議選の準備をしてきた格好だ。  過去に仕事上の付き合いがあったという市民はこう話す。  「深谷氏は、福祉を必要とする高齢者や障がい者、その家族などからの信頼が厚く、彼のことを悪く言う人は聞いたことがありませんね。そのくらい、誠実で人柄がいい。それに加えて『若さと実行力』というキャッチフレースが有権者に響いたのだと思います。社協職員の経験から、『社会的に弱い立場の人への支援』といったことも訴えており、それも共感を得たのでしょうね」  さらにある市民はこう語る。  「深谷氏の実家は、栄町にある『深谷石材店』で、そこは深谷氏の実兄が継いでおり、深谷氏自身もその近くに住んでいます。今回の選挙では、これまで栄町には議員がいなかったことから、『この地区から議員を出そう』と、町内会がかなり支援したようです(※編集部注・深谷氏の自宅は市内中山だが、栄町、中山などを含む複数大字の地区が新栄町町内会に該当する)。また、深谷氏は学生のころから熱心に野球に取り組んでおり、いまも『市町村対抗福島県軟式野球大会』に出場するなど、野球繋がりの支援も多かった。加えて、社協職員時代に、高齢者や障がい者、その家族などの評判も良かったから、そういった層も深谷氏に投票したと思われます。その結果、断トツの得票数になったものと思われます」  一方で、ある議員経験者は「ちょっと勝ち過ぎの感もある」と話す。  「表立っては言わなくても、深谷氏があれだけ票を取ったことで、自分の票が減ったとか、そういう思いを抱いている人もいると思う。もちろん、それはその人(票を減らした人)の問題なんですが、どうしても、こういう世界は、妬み嫉みがありますからね。まさか、議員活動を妨害されるようなことはないとは思いますが、ちょっとしたことで揚げ足を取られるようなこともあるかもしれない。深谷氏にはそういったことに気を付けつつ、萎縮することなく頑張ってほしいですね」 深谷氏に聞く  深谷氏に話を聞いた。なお、本誌が取材したのは8月22日で、議員任期がスタートする前だった。  ――議員を目指したきっかけは?  「社会福祉協議会に勤務していた時の最初のころは高齢者福祉、後半は障がい者福祉を担当していました。その中で、高齢者福祉、障がい者福祉ともに、まだまだ課題があると感じており、『福祉の充実』を図りたいというのが、議員を目指した一番の要因です」  ――3000票オーバーという得票についてはどう捉えているか。  「正直、驚いています。喜びと同時に責任を感じます」  ――本誌取材では、若い世代、高齢者・障がい者福祉を必要としている人、その家族などに支持が広がったと聞いている。  「確かに、新聞等では『若い世代の票が入った』と書かれていましたが、実際にどうだったかは分析が追いついていません。ただ、私自身、小学生の娘が2人いますから、子育て世代や、高齢者・障がい者福祉を必要としている人たちの思いは受け止められると思っていますし、(任期スタート後は)そのための活動をしていきたいと思っています」  ――もう1つは、町内会の支援が大きかったとも聞いた。  「新栄町町内会では、(議員が誕生するのは)40年ぶりくらいだそうです。この地区では、JR須賀川駅西口開発(※深谷氏の地元は須賀川駅西側に当たり、須賀川駅は西側から駅に出入りすることができないため、西側に出入り口と駅前広場をつくる計画が進められている)などの動きもありますから、そういった点からも、町内会の皆様に応援していただけたのだと思います。そのほか、同級生、先輩・後輩にも支えていただきました」  ――当然、議会の常任委員会は、福祉関係を所管する委員会に所属したい?  「その辺はどうなんでしょうか。市議会は会派制ですから、会派で誰がどの委員会になるかということだと思います」  ――就任後すぐに9月定例会(※通常は9月中に行われるが、選挙があった年は9月末から10月にかけて行われる)が開かれることになるが、早速、一般質問をするか。  「その辺も、会派の構成などが決まってからですかね」  議員の任期は9月4日からスタートする。「若さと実行力」を売りにする深谷氏の今後に注目したい。

  • 立民党員が自民推薦で立候補【南会津郡】

    【福島県議会選挙】立民党員が自民推薦で立候補【南会津郡】

     南会津郡選挙区(定数1)では現職引退に伴い、新人同士の選挙戦になる見通し。前回選挙で現職に数十票差まで迫った野党系候補のほか、立憲民主党から鞍替えした自民党推薦候補が名乗りを上げている。 自治労出身候補者との新人対決 渡部英明氏 大桃英樹氏  南会津郡選挙区は定数1。対象となる町村は下郷町、南会津町、只見町、檜枝岐村。6月1日現在の選挙人名簿登録者数は2万0854人。  同選挙区の現職は星公正氏(70、3期)。南会津町の建設会社・星組(現在は大富士土建工業、福南建設と合併し、「南総建」となっている)の元社長で、自民党所属。今年2月に今期限りでの引退を表明した。  現時点で立候補を表明しているのは2人。  1人目は、前回2019年の県議選に立候補し、星氏に74票差(8263票)で敗れた新人の渡部英明氏(56)だ。  南会津町出身、会津高卒。田島町(南会津町)役場に勤めながら、自治労福島県本部書記次長、連合福島南会津地区連合会議長を歴任。早期退職し、立憲民主党、国民民主党、社民党の推薦を受け県議選に挑んだ。  落選後は次期県議選でのリベンジに向け準備しつつ、同町田島地区の自宅に行政書士事務所を立ち上げた。  4人の子どものうち、3人が同町内の企業に勤める。4月には、その1人で長男の渡部裕太氏(31)が南会津町議選に立候補し、得票数1538票でトップ当選を果たした(88頁からの記事参照)。自宅近くに設けた選挙事務所はそのまま父親の選挙事務所として使われる予定だ。  「親子で議員職を独占し、互いの選挙活動を応援し合う姿勢を見て、シラける人も増えそうだ」(町内の経営者)と懸念する向きもあるが、渡部英明氏は「支持者からネガティブな声は聞こえていない。息子と二馬力で地域を盛り上げたい」と意気込みを示す。  2人目は、新人で元南会津町議の大桃英樹氏(48)だ。  南会津町出身。喜多方高卒、米テンプル大学JAPAN(=日本校)中退。旧南郷村職員(南会津町職員)を経て、2011年に36歳で南会津町議選初当選、連続3期務めた。今年4月の町議選立候補を見送り、星氏引退に伴い自民党南会津総支部が実施した県議選公認候補の公募に応募。同党から推薦を受ける形で、7月に立候補を表明した。  同選挙区内で話題になっているのがこの大桃氏の経歴だ。  実は大桃氏、4年前の町議選に国民民主党から立候補し、その後は立憲民主党党員として活動してきた人物なのだ。特に旧福島4区選出の小熊慎司衆院議員(55、4期、立憲民主党)を応援し、行動を共にしてきた。それが一転して自民党推薦候補となったため、与野党双方から反発の声が上がっている。  「町内の立憲民主党関係者は〝裏切り行為〟に呆れているし、自民党南会津総支部の各地区の責任者からも『応援する気になれない』という声が漏れ聞こえる」(会津地方の選挙事情に詳しいジャーナリスト)  大桃氏に関しては、南会津町長選にも立候補の意思を示して翻すなど、周囲を翻弄するような言動が目立ち、公私ともにさまざまなウワサが流れていた。自民党南会津総支部内で反発の声が上がった背景にはそうした事情もあるのだろう。  「自民党南会津総支部で会合をやったとき、座長を務めていた菅家一郎衆院議員(68、4期、自民党)が『自民党員が誰も出ないっていうんだから大桃君でいいんじゃないか』と詳しい事情も知らないのに話した。さすがに各地区の責任者が激怒して、一斉に帰ってしまったらしい」(同)  そんな声を吹き飛ばすように、大桃氏は8月6日、SNSに菅家氏とのツーショット写真をアップ。お盆期間には菅家氏と共に新盆の支持者宅をあいさつ回りするなど、支持拡大に奔走している。  なぜ立憲民主党を離党して自民党から立候補しようと考えたのか。本誌取材に対し大桃氏はこう語った。  「前回、今回と県議選立候補を希望し、小熊さんに相談して調整してもらっていたが、渡辺英明氏が連合福島の推薦で立候補する関係上、立憲民主党から『(県議選での立候補は)あきらめてください』と言われていた。やむなく2月末ごろに離党し、無所属でも立候補する覚悟を決めていたところ、自民党関係者を通じて星氏からお声がけいただき、公募に申し込んだのです」  小熊氏に相談しても立候補の道が開けず、失意の離党をした直後に自民党からスカウトされた、と。 評価下げた菅家氏と小熊氏 菅家一郎氏 小熊慎司氏  大桃氏は渡部恒三氏が唱えていた二大政党制の実現を目指し、小熊氏と行動してきたが、ここ数年は立憲民主党が打ち出す野党共闘路線に違和感を抱いていたという。同党所属のまま人口減少・少子高齢化が急速に進む南会津地域を振興していけるのか不安を抱いているタイミングで県議選立候補の断念要請が重なり、離党を決意した。  大桃氏によると、地元自民党支持者の反応は「応援の声も多くいただいているが、『俺は認めないよ』という方もいる」。同町内では以前から「与党県議がいれば大規模公共事業を南会津地域に持ってくる可能性が高まる。星氏の後継者を探すべきだ」という声が聞かれていた。与党支持者の受け皿としてそれなりに支持が広まっていくかもしれない。  なお県内の国民民主党関係者によると、大桃氏をめぐっては、「小熊氏のアイデアで、まずは無所属で立候補し、後から国民民主党入りする動きがあった。国民民主党の役員らは本気で準備していたが、ふたを開けてみたら小熊氏は全く動いておらず、本人にも話が届いていなかった。自民党に公募を出していた話を知って愕然とした」という話があったとか。振り回された格好の国民民主党関係者は小熊氏に強い不信感を抱き、周囲に不満を漏らしている。前出・菅家氏といい、小熊氏といい、今回の県議選でそろって評価を落とした格好だ。  同選挙区の課題は人口減少と少子高齢化、産業振興に尽きる。コロナ禍と原油・物価高騰はあらゆる業界に打撃を与えており、民間企業は青息吐息の状態。こうした中、地域活性化の道筋を付けるべく、県執行部にさまざまな意見を出して改善を促す県議が求められる。  渡部氏、大桃氏ともにインフラ整備や観光振興、人口減対策などを訴えるが、どこまで実現できるのか。  渡部氏、大桃氏とも大票田である南会津町田島地区在住。  渡部氏は前回の県議選で只見町と檜枝岐村で苦戦した。星氏が社長を務めていた星組との結び付きが強いエリアだったためとみられ、ここをどう攻略できるかが渡部氏にとって鍵になる。一方の大桃氏は父親が南会津地方広域市町村圏組合消防本部で消防長を務め、出身は旧南郷村という点がプラスに働きそう。  元役場職員同士の対決となる見通しだが、今後さらなる新人が立候補する可能性もある。支持が入り乱れる激戦を制するのは誰か。

  • 廃校施設をどう使うか【平田村編】

     文部科学省の「廃校施設等活用状況実態調査」によると、2002年度から2020年度までに、県内では267の小・中学校、高校(いずれも公立に限る)が廃校になったという。少子化による児童・生徒数の減少に伴う学校の統廃合はやむを得ない流れだが、使われなくなった校舎の利活用が問題になっている。 永田小を役場庁舎に改築、2つの中学校跡は未使用 平田村役場  文部科学省の「廃校施設等活用状況実態調査」は3年に1回のスパンで実施され、直近では2021年5月1日時点での調査が行われた(結果の公表は2022年3月30日)。それによると、2002年から2020年までに全国で発生した廃校数は8580校(公立の小・中学校、高校、特別支援学校など)。このうち、建物(校舎)が現存するのが7398件で、すでに別の用途などで活用されているのは5481件(約74%、現存するものに対する割合)。  主な用途は、学校関係、社会体育施設、社会教育・文化施設、福祉・医療施設、企業等の施設、創業支援施設、庁舎等、体験交流施設、備蓄倉庫、住宅など。  用途が決まっていない施設の要因としては、「建物が老朽化している」が46・2%で最も多く、「地域からの要望がない」が41・6%、「立地条件が悪い」が18・7%、「財源が確保できない」が14・6%と続く(※複数回答のため、合計が100%を超える)。  なお、国では別表に示した補助メニューを設けている。文部科学省では「〜未来につなごう〜 『みんなの廃校』プロジェクト」として、活用用途を募集している全国の廃校施設情報を集約・発信する取り組みや、イベントの開催、廃校活用事例の紹介などを通じて、廃校施設の活用を推進している。その中で、省庁をまたいで、活用可能な補助メニューを紹介している。 空き校舎の活用に当たり利用可能な補助制度 対象となる施設所管省庁地域スポーツ施設スポーツ庁埋蔵文化財の公開及び整理・収蔵等を行うための設備整備事業文化庁児童福祉施設等(保育所を除く)こども家庭庁保育所等こども家庭庁小規模保育事業所等こども家庭庁放課後児童クラブこども家庭庁障害者施設等厚生労働省私立認定こども園文部科学省、こども家庭庁地域間交流・地域振興を図るための生産加工施設、農林漁業等体験施設、地域芸能・文化体験施設等(過疎市町村等が実施する過疎地域の廃校舎の遊休施設を改修する費用が対象)総務省農業者等を含む地域住民の就業の場の確保、農山漁村における所得の向上や雇用の増大に結びつける取り組みに必要な施設農林水産省交流施設等の公共施設林野庁立地適正化計画に位置付けられた誘導施設(医療施設、社会福祉施設、教育文化施設、子育て支援施設)等国土交通省まちづくりに必要な地域交流センターや観光交流センター等の施設国土交通省空家等対策計画に定められた地区において、居住環境の整備改善に必要となる宿泊施設、交流施設、体験学習施設、創作活動施設、文化施設等国土交通省「地方版創生総合戦略」に位置付けられ、地域再生法に基づく地域再生計画に認定された地方公共団体の自主的・主体的で、先導的な取り組み内閣府  福島県内では、2002年から2020年までに小学校211校、中学校44校、高校12校の計267校が廃校となった。この数字は北海道(858校)、東京都(322校)、岩手県(311校)、熊本県(304校)、新潟県(290校)、広島県(280校)、青森県(271校)に次いで8番目に多い。  廃校施設の利活用状況について、都道府県別の詳細は示されていない。なお、次回調査は2024年度に実施される予定で、今年度はその谷間になる。 アンケート調査を実施  本誌は10月上旬、県内市町村に対して、当該市町村立の小・中学校の空き校舎の有無と数、すでに再利用がなされている校舎の事例、再利用計画が進行中の事例、計画が策定され、これから改修などに入る事例の有無などについて、アンケート調査を行った。  「空き校舎がある」、「再利用の実例がある」と回答があった中から、今号以降、何回かに分けて、具体的な事例や課題などについて取り上げていきたい。  1回目となる今回は平田村。  同村は、県内で初めて空き校舎を役場庁舎にした。永田小学校が2013年3月に蓬田小学校と統合して閉校となり、空き校舎となった。一方で、役場庁舎は1960年に建てられたもので老朽化していたほか、東日本大震災で外壁に亀裂が入るなどの被害が出ていた。そのため、旧永田小校舎を改修して役場庁舎とし、2015年9月に開庁(移転)した。校庭だったところは、舗装され駐車場になっている。体育館は、館内にもう1つ「箱」が作られたような格好になっており、会議室として使われている。場所は、旧役場から直線距離で北東に600㍍ほどのところにある。 体育館を高所から。館内にもう1つ「箱」が設置され、会議室になっている。  財源は庁舎建設基金と一般財源でまかない、総事業費は約4億2000万円。  別表は、県内で同時期に建設された役場庁舎との比較をまとめたもの。ほかの3町と比べると、延べ床面積が半分ほどのため、純粋な比較は難しいが、少なくとも新築するより安上がりになったのは間違いない。  本誌は常々、立派な役場庁舎ができたところで、住民の日々の生活が豊かになるわけではないから、役場建設に多額の事業費を投じるのは適切ではないと指摘してきた。もちろん、災害時などに役場そのものが大きな被害を受け、災害対策に支障が出るようなことは避けなければならないが、そういった問題がなければ必要最低限でいい。少なくとも立派な庁舎は必要ない。役場に金をかけるくらいなら、何か別の地域振興策に使うべきだ。その点では、新築した他自治体と比べて、安上がりで済ませたのは評価されていい。  肝心の使い勝手だが、ある村民は「最初は、『学校』という感じで違和感がありましたが、慣れてみればこんなものかな、と思います」と話した。ある職員も「もう慣れたんで」と同様の感想を語った。  本誌も少し見て回ったが、「もともと学校だった」という潜在意識があるためか、多少の違和感はあったものの、少なくとも「不便」には感じなかった。音楽室や調理実習室などの特別教室は、うまく活用すれば職員の福利厚生などに使えそうだが、調理実習室は執務室になり、音楽室は議場になっているという。その辺はもう少し工夫があっても面白かったか。 議場  一方で、役場を小学校跡地に移転したとなると、今度は逆に、旧役場跡地の利活用の問題が出てくる。旧役場は解体され、跡地は幼保連携型認定こども園「村立ひらたこども園」として整備された。同園は2020年に開園した。 役場跡地はこども園に その他の空き校舎 蓬田中跡 小平中跡  役場庁舎の開庁時、澤村和明村長は「閉校した校舎の利活用のモデルケースになる」とあいさつしていたが、村内にはほかにも空き校舎がある。永田小学校と同時に閉校となった西山小学校については、今年7月の村長選で、澤村村長が5選を果たした際、「入浴施設として活用することを考えている」と明かしていた。  このほか、2016年に蓬田、小平両中学校が統合され、ひらた清風中学校が開校した。これに伴い、両中学校が空き校舎になっている。この2つに関しては、いまのところ何の案も出ていないという。  「建物は残っていますが、耐震の問題もありますし、一番は配管が使える状態なのか、ということもあります。やはり、使われていないと、そこ(配管)の劣化が出てきますからね」(村企画商工課)  校舎の利活用はなされていないが、グラウンドや体育館はスポーツ少年団などで活用しているという。付属施設が使われているだけに、校舎だけを別の用途に、というのは余計に難しいのかもしれない。  旧小平中学校の近隣住民はこう話す。  「当然、住民としては学校に対して思い入れがあります。この村は1955年に、いわゆる『昭和の大合併』で、小平村と蓬田村が合併して誕生しました。そうした中、片方の地区だけに投資をするのは憚られるといった空気があります。そうなると、小平中、蓬田中のどちらも、住民が納得するような形で、あまり時間を置かずに進めなければならない。そういった難しさもあると思います。仲間内で話している分には、『村はどう考えているんだ』という話になりますが、小さな村ですからなかなか面と向かって村(村長)に意見しにくい、という側面もあります。潤沢にお金が使えるということであれば話は別ですが、そういうわけにもいきませんから、学校の跡地利用は簡単ではないでしょうね」  一方で、別の住民はこう話した。  「学校がなくなる(統合される)ということは、地域から人がいなくなっているということです。この地域(小平地区)でも、高齢者の夫婦だけの世帯、あるいは1人暮らしが増えています。その人たちが亡くなったら、その家には誰も住まなくなります。中学校だけでなく、駐在所もなくなりましたし、郵便局やJAも業務範囲を縮小しています。小平小学校も、60年くらい前、われわれのころは全校生徒が約800人いましたが、われわれの子どもが通っていた30年くらい前は約300人、いまは約100人ですから、いずれは統合という話になっていくでしょう。そういう状況ですから、空き校舎を使って何か地域振興策を、とは思いますが、現実的には相当難しいと思います」 住民の思い入れが強い 平田村と同時期に役場庁舎を建設した町村の構造・事業費など 町村名竣工年構 造延べ床面積事業費平田村2015年鉄筋コンクリート2階建て2055平方㍍約4・2億円国見町2015年鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造地上3階、地下1階4833平方㍍約17億円川俣町2016年プレキャスト・プレストレストコンクリート造 地上3階建4324平方㍍約27億円南会津町2017年鉄骨造、地上4階、地下1階建て4763平方㍍約26億円  人が少なくなったから閉校になった→今後人口減少がさらに加速すると思われる→そういった地域にどんな投資をすればいいか、というのは確かに難しい問題だ。地方における最大の課題と言っていいだろう。  前述したように、さまざまな補助メニューは用意されているが、なかなか「コレ」といったものがないのが現状だ。  加えて、学校に対する地域住民の思い入れは強い。いまの少子化、児童・生徒数の減少に伴う学校の統廃合はやむを得ない流れだが、かつて自分たちが通った学校がどうなるかは、住民の関心が高い。  前段で文部科学省の調査結果を紹介したが、用途が決まっていない施設の要因として、「地域からの要望がない」が41・6%を占めていた。行政は「学校は地域住民の思い入れが強いから、住民がどうしたいかを大切にしたい」といった姿勢であることがうかがえる。裏を返すと、下手な案を提示しようものなら、住民の猛反発を受けかねない。一方、住民側は「そもそも、住民レベルではどんな可能性があるのかが分からない。だから、まずは行政が案を示してくれないことには、良いも悪いも判断しようがない」といった思いを抱いているように感じる。こうしたことも、利活用が進まない要因だろう。  最後に。今回の本誌のアンケートでは、市町村立の小・中学校の空き校舎の有無、利活用状況を聞いたものだが、同村には県立(県管理)の小野高校平田校があった。同校は2019年に閉校となった。  県教委によると、現在進めている県立高校改革では、廃校舎については、まず当該市町村に跡地利用を考えているか等の意見を聞き、市町村で利活用策がある場合は無償譲渡するという。市町村で利活用策を考えていない場合は、県のルールに基づき財産処分することになる。  小野高校平田校は事情が違い、同校がある土地は、もともと村の所有地で、現在解体工事を行っており、完了後に村に返却するという。つまり、村ではその土地をどうするかということも今後の課題になる。

  • 滞る【国見町】の救急車事業検証【ワンテーブル】

    百条委の調査能力に疑問符  国見町が高規格救急車を所有して貸し出す事業を断念した問題の検証が難航している。町執行部が設置した第三者委員会は、委員3人のうち2人が「一身上の都合」で9月下旬に辞任し議事が滞った。議会は11月上旬に地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置する方針。百条委員会は証言者が出頭を拒否したり記録提出を拒んだ場合、刑事告発できるなどの強制力を伴うが、救急車リース事業案の問題点を見過ごし、一時は原案通り可決した議会が調査能力を発揮できるかは未知数だ。  救急車リース事業は、受託企業ワンテーブル(宮城県多賀城市)の社長が「行政機能を分捕る」と発言したことが明らかとなったのを受け、町執行部が「信頼関係が失われた」と事業を中止。執行部は町民説明会での要望を受け、有識者3人からなる第三者委員会で事業の検証を進めようとした。  ところが、委員を務めていた垣見隆禎・福島大行政政策学類教授と元井貴子・桜の聖母短大准教授が辞任したことで、執行部の検証に暗雲が立ち込めた。本誌が垣見教授に電話すると「河北新報に書かれた通り。それ以上のことは答えられない」と口は重かった。  9月28日付の河北新報は《垣見教授によると、これまでの会合で委員が事業の関連資料の提出を促しても町側は「既に廃棄した」などと回答を拒み、核心部分の調査が進まなかった》《「そもそも町は第三者委による調査を条例で『事務執行適正化』に関するものに限定し、最初から問題の検証が困難な建付けになっていた」》と報じていた。  町が設置した第三者委員会とは何か。第3回臨時会(5月17日)提出の条例案によると、設置趣旨は「本町職員による不適正な事務執行が発生した場合又は発生が疑われる場合において、その経過の客観的かつ公正な検証及び再発防止のための提言を行うため」(第1条)とある。  委員会が所掌する事務は⑴不適正な事務執行の経過に関すること、⑵不適正な事務執行の再発防止策の提言に関すること、⑶前2号に掲げるもののほか、町長が必要と認めること。条文は職務を事務執行に限定していることが分かる。議会は「事務執行とは具体的に何を指すのか」と疑問視せずに原案通り可決した。  本誌は辞任したもう1人の元井准教授にメールで問い合わせたが「本件につきましては、本学企画室がご対応することになっておりますので、私からお答えすることは控えさせていただいております」と回答。辞任した2人の口が重いのは、条例第8条「委員は、職務上知りえた秘密を漏らしてはならない」「その職を退いた後も同様とする」と守秘義務が課されているためだろう。  町監査委員会は9月に発表した意見書で、4億円を超える事業にもかかわらず計画書を作成していなかった点、監査委が救急車製造仕様書の根拠となる参考資料提出を求めたところ、執行部は受託業者からの資料のみで「他は処分した」と説明したことを問題視している。  資料が新たに出ない以上、検証には関係者の証言しかない。百条委員会はワンテーブルの元社長や関わった町職員への聴取を検討しているという。町民は「狡猾な企業に町の予算を狙われ、恥をかかされた」と怒っている。百条委はガス抜きのための調査に終わらせず、ワンテーブルに狙われた過程を明らかにすることに徹するべきだ。

  • 【鏡石町議会】が遊水地特別委設置を否決

     令和元年東日本台風に伴う水害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、その一環として、鏡石町、玉川村、矢吹町で阿武隈川遊水地整備事業が進められている。  総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収する。対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地。対象エリアの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村がそれぞれ60〜70戸、矢吹町が約20戸。  住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安が渦巻いている。  そのため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行ってきた。  本誌では何度か同委員会を取材(傍聴)し、今年7月号に「鏡石町遊水地特別委が国・県に意見書提出」という記事を掲載した。  同町議の任期は9月3日までで、8月22日告示、27日投開票の日程で議員選挙が行われた。そのため、任期満了前、最後となる6月定例会で一区切りとし、意見書案をまとめて本会議に提出、採択された。これをもって同特別委は解散となった、  意見書の主な内容は、①遊水地事業区域の住民の高台移転のための支援、②移転に伴い生じる各種法令・規制の見直しや手続きの簡素化、③阿武隈川本川及び県管理支川の鈴川も含めた治水対策(特に、阿武隈川本川の河道掘削及び堤防強化)、④二度と水害(洪水被害・浸水被害)のないまちづくり・地域づくりを行うための支援、⑤遊水地事業関連施設の整備、⑥遊水地整備後の土地の有効利用のための支援など。  これを内閣総理大臣、国土交通大臣、衆議院議長、参議院議長、県知事、県議会議長に提出した。  一方で、同特別委の委員長を務めた吉田孝司議員は、「改選後も特別委を再度立ち上げ、引き続き、調査・研究していきたい」と述べていた。吉田議員は、遊水地の対象地区である成田地区出身で、自身の自宅も令和元年東日本台風で浸水被害を受けたほか、遊水地の対象エリアにもなっている。  実際、吉田議員は改選後の9月定例会で特別委設置案を提案した。しかし、賛成4、反対7で否決された。理由は、玉川村や矢吹町ではそうした動きがないこと、前任期の議会で一定の役割を終えたこと、あとは国に任せるべき、というものだったようだ。  ただ、ある関係者はこんな見解を示した。  「吉田議員は対象地区に自宅があり、住民の思いが分かるから、この問題に熱心に取り組んでいたが、吉田議員が中心となって国や県に要望するなど、目立った動きをしたことをよく思わない議員もいたように感じる。もう1つは、今改選では12人中6人が新人で、そのうちの5人が反対だった。よく分かっていない可能性もある。そういった理由から改選後の議会での特別委設置が否決されたのではないか」  改選前の特別委では、国(福島河川国道事務所)の担当者を呼び、直接見解を聞いたこともあった。そういった意味でも意義のあるものだったと言えるが、前出の関係者が語ったように、議会内の勢力争いが原因で否決されたのだとしたら、議員の存在意義が問われかねない。 あわせて読みたい 鏡石町遊水地特別委が国・県に意見書提出 2023年7月号 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家 2023年4月号

  • 【白河市】合併で生じた「議員空白地帯」

     2000年代を中心に進められた「平成の大合併」により、旧市町村単独の時代と比較すると、合併自治体の議員数は大きく減少している。とりわけ、核となる市があり、そこと合併した町村では「地元議員大幅減少」の傾向が強い。それに伴い、行政とのパイプが細くなっていると推察されるが、実際の影響はどうなのか。今年7月に市議選が行われた白河市の状況をリポートする。(末永) 住民の声が届きにくくなった旧3村 大信庁舎(旧大信村役場) 表郷庁舎(旧表郷村役場)  白河市は2005年11月に、旧白河市と西白河郡の表郷、大信、東の3村が合併して誕生した。以降、市議会議員選挙は2007年、2011年、2015年、2019年、今年と計5回行われた。2007年は4月に市議選が行われたが、2011年は東日本大震災・福島第一原発事故の影響で、選挙時期を7月に繰り延べた。それ以来、7月に市議選が実施されている。なお、合併後最初の市長選は2005年12月に行われたが、初代市長を務めた成井英夫氏が2007年6月に病気のため急逝。同年7月に、市議選と同じ日程で市長選が行われ、以降は同時選となっている。  今回の市議選は7月9日に投開票された。現職22人、元職2人、新人6人の計30人が立候補し、現職20人、元職1人、新人3人の計24人が当選した。投票率は56・25%で、前回を3・02ポイント下回り、合併後最低となった。結果は次頁の通り。 選挙結果(7月9日投開票、投票率56・25%) 当1521室井 伸一(58)公現(旧市内)当1518大木 絵理(36)無現(旧市内)当1374水野谷正則(59)無現(東)当1252菅原 修一(72)無現(旧市内)当1246永山  均(56)無新(大信)当1194高畠  裕(58)無現(旧市内)当1145根本 建一(59)無現(表郷)当1089藤田 文夫(68)無現(表郷)当1023緑川 摂生(64)無現(表郷)当999深谷  弘(69)共現(旧市内)当936吉見優一郎(38)無現(旧市内)当924筒井 孝充(66)無現(旧市内)当906大竹 功一(59)無現(旧市内)当859遠藤 公彦(61)無新(東)当859戸倉 宏一(69)無現(大信)当842佐川 京子(62)無現(旧市内)当816佐川 琴次(67)無元(東)当795植村 美洋(66)無新(旧市内)当790柴原 隆夫(74)無現(旧市内)当772高橋 光雄(75)無現(旧市内)当739石名 国光(75)無現(旧市内)当735北野 唯道(83)無現(大信)当726大花  務(73)無現(旧市内)当692鈴木 裕哉(51)無現(旧市内)686須藤 博之(69)無現601阿部 克弘(65)無元557山口 耕治(69)無現553市川  勤(50)無新471大森  仁(62)無新382大花 恵子(55)無新  当選者は旧市村のどこに住所があるかを併記した。選挙ではやはり、旧市内の候補者は旧市内を中心に、旧表郷村の候補者は旧表郷村内を中心に……といった具合に、遊説を行ったようだ。  「例えば、旧東村に住まいがある候補者が旧表郷村に、あるいはその逆というのは、多少はあるんでしょうけど、大部分はそれぞれの地元で選挙カーを走らせていたように感じます」(旧東村の住民)  普段の活動でも、やはり地元中心になるという。  「住民の中にも、まだ旧村の意識は残っており、議員もそうだと思います。近年は災害が相次いでいますが、例えば、市内で旧表郷村だけが局所的に被害を受けたということであれば、旧市内や旧他村の議員も集中して当該地区に来るでしょう。ただ、市内全域で被害を受けたとなれば、やはり議員は地元の状況を見て回って、必要なことがあれば市に伝える、といった活動になっていると感じます」(旧表郷村の住民)  別表は合併時と現在(今回の改選後)の旧市村の人口と議員数をまとめたもの。旧3村では、合併時12〜14人の議員がいたが、現在はそれぞれ3人となっている。 合併前、現在の人口と議員数 合併前(2005年)現在旧白河市4万8000人4万3000人24人15人旧表郷村7100人5700人14人3人旧大信村4800人3600人12人3人旧東村6000人4700人14人3人(上段が人口、下段が議員数)  旧村単位で「議員空白地帯」は発生していないが、旧表郷村には25行政区、旧大信村には26行政区、旧東村には30行政区あり、かつては2行政区に1人くらいの割合で議員がいた。それが現在は8〜10行政区に1人くらいの割合になっている。旧村内の行政区レベルで見ると、「議員空白地帯」が生じていることになる。  ここで問題になるのは、旧3村は市政(市役所)が物理的(距離的)に遠くなっているということ。そのうえ、議員もいない(少ない)となると、さらに「遠い存在」になってしまう。  合併前はほぼ毎回議員を輩出していたという行政区の住民は、「役場の業務などについて、『あの件はどうなったか』、『今度、村でこういう事業をやると聞いたが、具体的にはどういった形になるのか』等々、比較的気軽に(行政区内から出ている議員に)聞くことができたが、いまは(行政区内に議員がいないため)なかなかそうもいかない」という。  一方、合併当時の旧村の役場関係者はこう話す。  「合併議論の中で、最初のうちはこの地区(旧市村)は何人という具合に割り当て制にすべき、といった意見もありましたが、そこまでしなくても、落ち着くところに落ち着くだろうということで、そうしなかった。結果的には当初想定したような形になっていると思います」 旧東村は1人から3人に 東庁舎(旧東村役場)  人口比率で言うと、旧市内は約2800人に1人、旧3村は約1200〜約1900人に1人の割合で議員がいることになる。人口比率で言うと、旧3村の方が議員が多い格好だ。  前段で今回の市議選の投票率は56・25%と書いたが、旧市村別に見ると、旧市内が約52%、旧3村は約66〜約70%となっている。旧3村の住民はそれぞれ地元の候補者に投票する、と仮定すると、旧市村別の投票率の差がこの結果になっていると言えよう。  実は今回の改選前、旧東村は水野谷正則議員1人しかいなかった。つまりは、水野谷議員1人で、旧東村約4700人の声を市政に届ける役割を担っていたのだ。  水野谷議員に話を聞いた。  「執行部はやりやすかったかもしれません。同地区(旧村)内に議員が複数いたら、(限られた予算で地区内の課題解決に向けた事業を行う中で)『オレはこれを優先すべき』、『私はそれよりもこっちを優先すべき』といった具合に、それぞれが考えを持っているでしょうから。住民からしたら、選択肢が広がると言いますか、相談したり、市政情報を聞くことができる人は多い方がいいでしょうね。私自身、この地区の代表として、地元のために活動していますから。もっとも、白河市では、道路の補修や側溝に蓋をしてほしいなどのちょっとした事案については、町内会長や行政区長などを通して、市役所に話ができるようなシステムができていますから、議員を通して市につなぐということを求められることはあまりありません」  旧東村の住民によると、「今回の市議選では、何とか議員を増やそうという動きがあり、その結果、旧東村からは3人の議員が当選した。まだ任期がスタートしたばかりで、何が変わったということはないが、少なくとも、1人のときより地元の声を届けやすい環境になったのは間違いないと思います」という。  逆に言うと、それだけ「このままではわれわれ(旧東村)の声が届かなくなってしまうのではないか」との危機感があったということだろう。もっとも、議員が少ないことで、明確に「こうした不利益を被った」という事例は聞かれなかったが。  強いて言うなら、前段で災害時の議員の対応についてのコメントを紹介したが、「水害があった際、市に一度見に来てほしいとお願いしても、なかなか来てくれなかった。そこで、議員にお願いしたところ、ようやく来てもらった。まあ、被害が広範囲に渡ったから、なかなか細部までは見て回れない、人が足りない、ということだったんでしょうけど」との話が聞かれたくらいか。 商工団体は協議会を組織 白河商工会議所  このほか、かつて十数人いたのが3人になり、「何となくですが、商工業関係ならこの議員、農業関係ならこの議員というように、役割分担ができているように思う」(旧表郷村の住民)との声も。  もっとも、商工団体の関係者によると、白河商工会議所、表郷商工会、ひがし商工会、大信商工会の4団体で連絡協議会を立ち上げ、定期的に情報交換をしたり、市に要望活動などを行っているという。その点では、少なくとも商工関係者は、かつての旧村内に十数人いた議員が3人ほどになっても、大きな支障は出ていないようだ。  一方で、前出・合併当時の旧村の役場関係者はこう話す。  「合併協議の中で、旧自治体の区割りは『地域自治区』と位置付けられ、旧村役場は総合支所方式(旧役場の名称はそれぞれ表郷庁舎、東庁舎、大信庁舎)が採用されました。大規模なものでなければ、各総合支所の権限で予算を執行できたのです。ただ、合併から4年でその制度は役目を終えたということでなくなりました。ですから、住民は(旧役場の予算執行権がなくなったことで)市役所が物理的にも、気持ちの面でも遠くなったと感じていると思います」  合併に伴う議員減少、それによって、住民の声が行政に反映されにくくなることは、合併前から想定されていたことだ。とはいえ、実際、議員数は大きく減っているが、現状ではそれに起因する「大きな問題」は発生していない。  旧東村のように、一時(今改選前)は1人まで減ったが、住民の動きによって3人まで増やした(戻した)事例もある。当然、その分、議員に求められることは多くなる。  もっとも、議員が多ければ地域の課題が解決するかと言うと、そうではなかろう。とりわけ、同市の旧3村に限らず、核となる市があり、そこと合併した町村では、人口減少などの衰退が進んでいる、といった問題に直面しているケースが多く、それはまた別の問題と言えよう。  河村和徳・東北大学准教授(政治情報学)はこう話す。  「合併によって単独自治体時代と比較して議員数が減るということは当選のハードルが上がるということです。最初のうちは『オラが地域から何とか議員を出そう』と一生懸命支援します。ただ、後が続かない。選挙自体も、かつての(旧村の)ノウハウが通用しなくなり、なり手不足が加速していきます。全国的には旧町村単位で空白ができているところもあります。そうなると、地域の声を行政に伝えていけなくなってしまいます」  こうした状況をどう是正していくかが問われている。 議員のあり方 白河市役所  最後に、これからの議員のあり方についても述べておこう。白河市の議会の会期は60〜70日程度。町村議会だと30〜40日程度。議員からすると「一般質問の準備など、それ以外の活動も多い」というだろうが、少なくとも公式な議会活動はそのくらいにとどまる。  本誌は以前から、地方議員は仕事を持つべき、と主張してきた。なぜなら、落選したら収入がなくなるため、何よりも再選を優先させる恐れがあるからだ。結果、執行部(この場合は市長)から、次の選挙で刺客を立てられ、落選させられることがないような振る舞いになり、執行部に厳しい目を向ける姿勢が弱くなる。それは、議会全体の活力低下につながる。  そういう意味で、仕事を持ちながら議員を務めるのが本来あるべき姿。前述した実働日数を加味してもそれができないはずがない。  ちなみに、同市議会のホームページに掲載された議員名簿には、職業が出ているが「市議会議員」となっているのは3分の1の8人。ほかは「農業」が6人、「会社役員」が4人、「呉服店」、「旅行業」、「理容業」、「自営業」、「政党役員」、「行政書士」が各1人。普通の会社勤めの人はいないようだが、議員の期間は休職扱いにするとか、何らかの対応により可能になるのではないか。  関係者の中には、議員報酬だけでは食っていけないから、なり手がいないという人もいる。同市の議員報酬は月額38万5000円、副議長は同40万6000円、議長は同46万3000円。そのほか、年2回の期末手当がある。  一方で、同市議会の会期は前述の通り。その点で言うと、議会の開催日時を工夫するなどして、会社勤めをしている人でも議員になれるような取り組みが必要だろう。そうなれば「議員報酬だけでは食っていけない」という話にはならない。  もう1つ付け加えると、いま多くの議会では定数削減の流れにある。人口が減少しているから、それに見合った議員定数に、ということだが、本誌はむしろ、議会費(議員報酬の総額)はそのままで定数をできるだけ多くした方がいいと考える。議員の数が多ければ、それだけ住民の意向を反映させることができるからだ。当然、そのためには、前述したように会社勤めの人でも議員活動ができるような工夫が必要になる。  議会進行などにしても、いまの地方議会は「無駄に大仰なもの」になっているが、「形式」にこだわりすぎではないか。もっとフランクな形にした方が馴染みやすいだろうし、いい議論ができるのではないか。

  • 三春町議会で任期満了1日前に辞職勧告

     三春町議会で、任期満了の1日前に辞職勧告決議が可決されるという奇妙な出来事があった。背景には、議員定数削減や4年前の正副議長選をめぐる議会の混乱がある。 定数削減やポストをめぐり議員が対立 新田信二前議員  9月29日に開かれた三春町議会の臨時会は、議会運営副委員長の佐久間正俊議員から提出された新田信二議員に対する辞職勧告決議案が審議された。  議案書には次のような理由が書かれていた。  《令和5年9月7日、新田信二議員は、令和5年9月5日告示の三春町議会議員一般選挙における当選予定者である小林孝氏宅を訪れ、当選証書を受け取らないよう長時間にわたり執拗に要求した事実が判明した。  三春町議会基本条例第21条では、「議員は、町民全体の代表としてその倫理性を常に自覚し、町民の疑義を招くことのないよう行動しなければならない」と規定されており、議会における諸活動だけでなく、私生活においても法令を遵守し、高い倫理観と自立性の下に行動することが求められている。  今回の行為は、地元を同じくする町議会議員候補者に対する不当な圧力と強要であり、さらには公職選挙法にも抵触するおそれがあるものであると判断されることから、三春町議会として決して許容・看過することはできない。  よって、新田信二議員は(中略)速やかにその職を辞するよう勧告するものである》  臨時会の約3週間前、三春町議会は改選を迎え、9月5日告示で議員選挙が行われたが、定数16に対し立候補者は現職10人、新人6人にとどまったため、16人の無投票当選が決まった(別掲)。 ◎三春町議選当選者 影山 孝男 66 無新①影山 常光 71 無現③橋本善一郎 68 無現②松村 妙子 63 公現③三瓶 文博 66 無現④鈴木 利一 69 無現④三瓶 一壽 67 無新①佐久間正俊 73 無現⑤佐藤  弘 77 社現⑧篠崎  聡 59 無現②影山 初吉 75 無現⑤大内 広信 44 無新①山崎ふじ子 63 無現③遠藤 亮子 62 無新①石井 一正 81 無新①小林  孝 73 無新①※年齢は告示時点※丸数字は期数  新しい議員の任期は10月1日から4年。つまり辞職勧告決議案が審議されたのは、9月30日の任期満了の1日前だったのである。ちなみに当時2期目だった新田氏は今回の町議選に立候補していない。その新田氏から、当選証書を受け取らないよう迫られたのが初当選した小林孝氏だった。新田氏と小林氏は同じ山田地区に暮らしている。  両氏の間に何があったのか触れる前に、臨時会の模様を伝えると、当事者である新田氏が退席後、辞職勧告決議案が審議されたが、質疑はなく賛成・反対討論もなかったため、全会一致で可決された。  ただ、採決前に臨時会を中断して開かれた議員全員協議会では、橋本善次議員から「会議規則に違反するやり方で、審議をやり直すべき」と異論が出されていたが、佐藤弘議長(当時)が問題ないと退けていた。  臨時会の様子から、新田氏の〝味方〟は橋本氏と、もう一人、本田忠良議員という印象を受けた。興味深いのは、この3氏がいずれも今回の町議選に立候補せず、町議を引退していることだ。  話を戻すと、辞職勧告決議は可決されたが法的拘束力はない。臨時会閉会後、新田氏は本誌の取材に「決議は納得できない。任期は明日(9月30日)までなので、辞職勧告に応じるつもりはない」と不満を露わにしたが、任期満了の1日前に辞職を迫られるのは極めて異例だ。  新田氏はなぜ、議員を辞めろと迫られたのか。  「町議選終了後、小林氏の親族と地域代表の方から『小林氏に当選を辞退するよう言ってほしい』と相談された。親族と地域代表の方は、小林氏に『議員になってほしくない理由』を述べていたが、個人情報の絡みもあるので詳細を明かすのは控えます。そこで私は、小林氏が当選した2日後の9月7日、親族と地域代表と3人で小林氏の自宅を訪ね、本人に『9月11日の当選証書付与式は欠席し、当選を辞退してはどうか』と伝えた。そのやりとりが2時間半と長時間にわたったのは確かだが、議案書にある『不当な圧力』をかけた事実はない」(新田氏)  今回の町議選は当初、立候補の意思を示していたのが現職10人、新人1人しかいなかった。告示前日の時点でも14人で、実際、掲示板に貼られた候補者ポスターも14枚だった。  こうした中、告示日に新人2人が急きょ名乗りを上げたが、そのうちの一人が小林氏だった。新田氏によると「小林氏と石井一正氏はポスターを1枚も貼らずに当選した」。親族と地域代表は、小林氏に「議員になってほしくない理由」があったほかに、このような当選の仕方で地元の代表と言えるのかという疑問も感じていたようだ。  とはいえ、突然訪ねて来た現職議員から「当選証書を受け取るな」と言われれば、圧力と受け取るのは当然だ。小林氏は「同じ山田地区に暮らす者として新田氏を応援してきたのに、なぜそんなことを言われなければならないのか」と激怒。すぐに佐藤議長ら現職議員に当時の状況を説明したという。  佐藤議長(現在は議長ではなく議員)の話。  「現職議員が当選者に『当選証書を受け取るな』などと迫るのは言語道断です。私は9月21日に小林氏から事情を聞き、翌22日には新田氏からも聞き取りをして発言が事実であることを確認した。その際、新田氏は受け取るなと言った理由も説明したが、ここで問題なのは現職議員にあるまじき発言をしたのか・していないのかであり、その結果、発言は事実と確認できたので、議会基本条例に抵触すると判断した」  新田氏はこの問題を協議するために開かれた議員全員協議会や臨時会の場で「弁明の機会がなかった」と憤っていたが、佐藤議長は「9月22日に聞き取りをした際、影山初吉副議長と議会事務局長も同席し、事実関係を確認しているので問題ない」と取り合う様子はなかった。 定数削減で対立  新田氏の行為は、現職議員として軽率だったことは否めない。ただ、任期満了1日前の辞職勧告はやはり違和感がある。  「背景には議員定数削減がある」と語るのは前出・新田氏の〝味方〟の橋本善次氏だ。  「1年前、議会内で議員定数削減が議論されたが、反対多数で否決された。4年前の当選時、議会は10人と6人で分かれており、そのままいけば定数削減も実現していたと思うが、その後、数人が立ち位置を変え議会構成が逆になったのです」(同)  要するに、切り崩しにあったことで定数削減は実現しなかったと言いたいようだ。  新田氏のもう一人の〝味方〟である本田氏もこう補足する。  「三春町議会の適正な定数は14だと思う。今回の町議選で言えば告示前日までに立候補の意思を示していたのは14人だったので、それでよかったんです。そのまま14人が当選しても欠員2では補選は行われないからね(※欠員が定数の6分の1を超えた場合は補選が行われる)。ところが告示日になって小林氏と石井氏が急きょ立候補したため、無理やり定数16に届いた形になった」  本田氏は、他の市町村では定数削減が進み、ただでさえ議員の成り手がいない中、「定数に届いていないなら出てみるか」とばかりポスターも貼らずに当選してしまう状況はよくないと問題提起しているわけ。ちなみに新田氏、橋本氏、本田氏は議員定数削減を目指して活動してきた仲間でもある。  確かに、町民からは「三春町は議員が多すぎる」との声が上がっている。しかし、前出・佐藤議長に言わせると  「今回の町議選で引退した現職は(新田氏、橋本氏、本田氏を含む)4人だが、彼らは後継者を立てず、あえて定数割れになるよう仕向けたのです。その結果、告示前日の立候補予定者は14人にとどまったが、告示日に小林氏と石井氏が立候補したため彼らの思惑は崩れた。山田地区からは他にも立候補を模索する人が何人かいたが〝圧力〟がかかり全員立候補を断念したという話も聞いている。そういう事情を知る者からすると、新田氏が小林氏に『当選証書を受け取るな』と迫ったのは、どうにかして定数割れに持ち込みたかったのではないかという疑いも出てくるわけです」  今回の改選後に議長に就任した影山初吉議員もこのように話す。  「定数削減をやらないとは言っていない。問題は、議論が深まる前に『とにかく数を減らせ』という拙速な決め方にある。定数削減は今の議員でしっかり議論し、適正な定数を導き出したい」  このように、表面的には定数削減でモメているように映るが、実は橋本氏、本田氏と佐藤氏、影山氏の間には浅からぬ因縁がある。 尾を引く正副議長選の因縁  本田氏と橋本氏は4年前の町議選後(2019年10月)に正副議長に選出されたが、その前に正副議長を務めていたのが佐藤氏と影山氏だった。この時の選出をめぐり軋轢が生じたことに加え、複数議員による不適切発言なども重なって議会は大きく混乱。結局、本田議長と橋本副議長は就任からわずか2週間で辞任に追い込まれ、佐藤氏が議長、影山氏が副議長に返り咲いた経緯がある。  「4年前の町議選と一緒に行われた町長選で今の坂本浩之町長が初当選したが、この時、ほとんどの議員は坂本氏を推した。その流れで正副議長も引き続き佐藤氏、影山氏が務める方向でまとまったが、蓋を開けたら本田氏と橋本氏が就いたため、裏切りが有ったの無かったので対立が起きたのです」(事情通)  実際、橋本氏は「4年前(の正副議長選)は10対6という構図だったが、定数削減を議論していた昨年には構図が逆になった」と述べているのに対し、影山氏は「橋本氏や本田氏は『裏切った議員がいる』みたいなことを言っているようだが、とんでもない話」と反論。関係がこじれている様子がうかがえる。  その影響からか、ここに名前が挙がった議員は自民党三春町支部に所属しているが(佐藤氏は社民)、一枚岩になれない状態が続いている。新田氏、橋本氏、本田氏は「私たちは根本匠先生も星北斗先生も推しているが、支部とのつながりは……」と言葉を濁し、三春町支部代表者の影山氏も「ちょっと彼らとはね」と突き放したような発言をしている。  前出・事情通によると、新田氏は11月12日投票の県議選田村市・田村郡選挙区(定数2)に立候補するかどうか悩んでいたという。三春町議選に立候補しなかったのは、そのためと言われていた。新田氏に確認したところ曖昧な返答に終始していたが、自民党は同選挙区に現職で4選を目指す先崎温容氏を擁立し、1議席を死守する方針のため、三春町支部では新田氏の動きをよく思っていなかったのかもしれない。  「新田氏の本業は電気工事業の㈱タツミ電工社長で、三春町商工会副会長を務めるなど町内では目立った存在。それをやっかむ人も一定数いると思う」(同)  ただ、町民の中には「本当に当選証書を受け取るなと言ったり、出たいと考えていた人を立候補させないようにしていたとすれば、公選法に違反するのではないか」と厳しい見方をする人がいるのも事実で、警察も小林氏に「話を聞きたい」と接触しているという。  定数削減のやり方には問題があったかもしれないが、減らすこと自体に町民から異論は出ていない。今の議会が、遺恨を残して辞めた3氏の意向をどう受け取るか注目される。

  • 住民訴訟経験者が問題点を指摘

     地方自治法で定められている「住民訴訟」制度。ただ、住民側の主張が認められたケースはそれほどない。実際に住民訴訟を行った関係者が、住民訴訟の問題点を指摘する。 直近3年間の勝訴事例は1%未満  住民訴訟は地方自治法242条で規定されている。地方自治体(都道府県市区町村)が違法・不当な公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行などがあったときは、監査委員に対して監査を求めることができる、とされている。これを住民監査請求という。住民監査請求があったら、監査委員は60日以内に監査を行い、請求者に結果を通知しなければならない。言うなれば、住民が行政をチェックできる仕組みである。  さらに、同法242条の2では、請求者は、住民監査請求の結果に不服がある場合、裁判所に訴えを請求することができる、とある。これを「住民監査請求前置主義」という。要するに、住民監査請求を行い、その結果に不服がある場合は、住民訴訟を起こすことができる、ということである。  制度上はそう定められているわけだが、果たしてそれはきちんと機能しているのか。  総務省が公表している「地方自治月報(60号)」によると、2018〜2020年度の3年間で、全国で住民監査請求が行われたのは、都道府県に対するものが350件、市区町村に対するものが2340件で計2690件。このうち、勧告が行われた事例はごくわずかで、それ以外は請求そのものが受理されない「却下」と、監査の結果、違法等が認められない「棄却」が大部分を占めており、一部「取り下げ」、「合議不調」などがあった。  その結果を不服として、住民訴訟が起こされた件数は、都道府県が154件、市区町村が430件で計584件。住民訴訟の結果は、却下が63件(都道府県と市区町村の合計、以下同)、棄却が189件、原告(住民側)一部勝訴が30件、全部勝訴が2件だった。残りは係争中で、それを除いた住民側全部勝訴の割合は約0・7%、一部勝訴を入れても約11%となっている。  県内では、県に対する住民監査請求が5件、市町村に対する住民監査請求が17件で、いずれも却下、棄却(一部却下、一部棄却の事例を含む)だった。県に対する5件では住民訴訟は起こされていない。市町村については17件のうち、3件で住民訴訟が起こされている。1つは田村市の違法な補助金交付に対する損害賠償請求・不当利得返還請求、2つは大熊町の海外視察費返還履行請求、3つは大熊町の不能欠損金公金損害賠償請求。地方自治月報(60号)公表時点で、大熊町の海外視察費返還履行請求は「却下」、それ以外は「係争中」となっている。  こうして見ても、住民監査請求、住民訴訟で住民側の請求が認められるケースは稀であることが分かる。県や住んでいる市町村の公金支出、事業などについて、「おかしい」と思い是正を求めようとしても、手間がかかり、裁判になれば費用もかかるうえ、認められる事例は少ないとなれば、かなりハードルが高いと言わざるを得ない。 審理のあり方 判決後に会見を行う原告団。左から2人目が久住さん。  そんな中、実際に住民訴訟を起こした関係者が問題点を指摘する。その関係者とは、前段で触れた田村市の違法な補助金交付に対する損害賠償請求・不当利得返還請求の原告。地方自治月報(60号)公表時点では「係争中」だったが、すでに判決が確定している。  この件については、本誌でも取り上げてきた経緯がある。田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐる問題だ。同発電所は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」が運営しており、市は同社に補助金を支出している。  住民側は訴訟で「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、判決時は白石高司市長)に、補助金約17億円を返還するよう求めた。  住民側の基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」としている。そうした背景から、反対運動を展開し、住民訴訟を起こすに至ったのである。  同訴訟は昨年1月の一審判決、今年2月の二審判決ともに住民側の請求が棄却され、判決が確定した。その際、住民側は「実地検証や本田仁一市長(当時)の証人喚問を求めたが、いずれも却下された。バグフィルターとHEPAフィルターに関する各種資料提出を求めたが、必要ないとされた。とても、適正な審理が行われたとは言い難い。にもかかわらず、判決では『安全対策は機能している』として請求が棄却された。納得できない」と話していた。  同訴訟の原告(住民)代表の久住秀司さんはこう話す。  「原告(住民)側と被告(行政)側の対応力や訴訟費用の負担力などの違いもあるが、実際はそれだけではないと思います。司法権の独立は絵空事に過ぎず、司法の行政に対する追従・忖度が多いことが、われわれだけでなく、全国各地の住民訴訟の結果に表れているのではないでしょうか。これでは行政に対する住民のチェック制度として認められている住民訴訟が、建前だけの空虚なものになってしまいます」  そう問題点を指摘したうえで、久住さんはこう続けた。  「そこで提言したいのが、住民訴訟において原告側・被告側のいずれからであっても、現場検証、証人尋問等の申請が出された際は、真実追求のために原則的に裁判所はそれを実施する義務があることを明文化すべき、ということです。裁判所はあくまでも真実追求の場であってほしいと願います」  前述したように、ルール上は住民が行政をチェックできる仕組みがあるが、かなりハードルは高い。一方で、住民にはもう1つできることがある。それは、適正な行政執行をする首長、それを厳しくチェックする議会(議員)を選ぶこと。選挙でそれを見極める力が求められる。

  • 福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

     福島市役所に勤めていた会計年度任用職員の男性が、上司から大声で怒鳴られるなどの対応を取られたことで精神的ストレスを抱え、任期を迎える前に自主退職した。男性は「同市役所のパワハラ対策には欠陥がある」と訴える。 救済策で差を付けられる非正規職員  福島市で上司からパワハラを受けたと訴えるのは三条徹さん(仮名、44)。奥羽大卒。民間企業を経て、警察官を目指したものの叶わなかったため、国や県の非正規職員として働いてきた。福島市には2年前に会計年度任用職員として採用され、農業振興課生産振興係で勤務していた。  仕事内容は正規職員の事務補助。1年目に課長から頼まれてチラシの新しい整理方法を導入したところ、市長賞を受賞しやりがいを感じた。食堂、売店などが整備されていて働きやすかった。そのため2年目も継続して働くことにした。  ところが、その直後から、直属の上司である係長の態度が急変した。  他の職員とは冗談を言いながら話すときもあるのに、三条さん相手となると、不機嫌そうな表情を浮かべる。仕事の報告・面談時間の確認に対し、「そんなこと俺知らねえし」、「面談でも何でも結構でございますけどー」などと返された。  毎年実施している作業や、他の正規職員から頼まれた作業に従事しているときも、「なぜそんな無駄なことをやっているのか」、「そんな作業は他に仕事がないときにやってください!」と三条さんだけ怒鳴られた。次第に三条さんは係長と話すことに恐怖心を抱くようになった。  「私の仕事ぶりがダメで、つい注意してしまうというなら、いっそ1年目が終わった時点で契約を打ち切ってほしかった」(三条さん)  この係長は特定の職員に厳しく当たる癖があり、前年まで三条さんはその姿を他人事のように見ていた。  例えば別部署に異動した後も残務処理のため、たびたび農業振興課に訪れていた職員がいた。係長は顔を合わせるたび「まずあんたのことが信用できない。どうやったら私に信用してもらえるか考えないと」と繰り返し注意していた。「それだけ言われるということは仕事が遅い人なのだな。ダメな人だな」と思っていた。  しばらくすると、別の若手職員が連日注意されるようになった。「何でやってないの!? 君の言うことは信用できないし、聞くに値しない!」と怒鳴る声が、部署の端にいる三条さんにも聞こえて来た。若手職員は新年度、別の部署に異動していった。「大変だな」と見ていたが、まさか次は自分が厳しく言われる側に回るとは考えていなかった。  「自分が至らないから係長にこれだけ怒られるのだ」と言い聞かせて仕事を続けていた三条さんだったが、昨年12月ごろになると、毎日のように理不尽な理由で怒られるようになった。精神的に限界を迎えた三条さんは人事課に駆け込み相談した。改善につながることを期待したが、そうしている間に、三条さんにとって決定的な出来事が起きた。  三条さんの始業時間は9時15分。毎朝、始業時間の少し前に出勤し、カウンターをアルコールで拭き、鉢植えの花に水をあげ、周りを雑巾で拭いてから、新聞のスクラップをするのがルーチンワークだった。  ところが、その日に限って係長が始業時間前に三条さんを呼び止め、「新聞のスクラップは終わったのか!?」と尋ねた。「私の始業時間は9時15分からでは……」と恐る恐る答えると、嫌みを込めたトーンで「それは大変申し訳ありませんでした」と言われた。  勤怠状況を管理しているのは係長で、始業時間を知らないはずはない。連日さまざまな理由で怒鳴られていたが、ついに始業開始前から始まるルーチンワークにまでイチャモンを付けられるようになったのか――。心が折れた三条さんは課長に抗議の意味を込めて辞表を提出した。  当初、課長は係長のパワハラについて「気付かなかった」として、「有休を使って休んでいる間に考えよう」と退職を考え直すよう言ってくれた。だが、1月に入ると態度を一変。「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった。課のみんなもどう接していいか分からない」と突き放された。  やむなく正式に退職の事務手続きを進めるため、人事課を訪ねると、前回相談した職員が顔を出し、「すみません、あの後、コロナになっちゃって」と謝ってきた。精神的に限界を迎えて相談したにもかかわらず、他の職員への引き継ぎも行われず、放置されたままになっていたのだ。  「せめて一言連絡しようとは考えなかったのか、不思議でなりません」(三条さん)  あらためて同市の形式にのっとった辞表を提出するよう求められ、人事課職員に言われた通り、退職理由を「一身上の都合により」と書いて提出。結局、1月末で退職した。  離職後、失業保険の手続きや転職先探しのためにハローワークに行った三条さんは退職理由の詳細を聞かれて、素直に「パワハラを受けたから」と答えた。退職理由を書き換えるための申立書を渡されたので、係長にパワハラを受けたこと、人事課に相談に乗ってもらえなかったことを書いて市に送った。市からの返事は、所属長である農業振興課長による「パワハラではなく『指導』の範囲内だった」というものだった。  「パワハラについて『気付かなかった』と話していた課長がなぜ『指導の範囲内だった』と言えるのでしょうか。辞表提出後、課長は『今回の件で俺の評定も下がっただろう』とも話していたが、『指導の範囲内』なら評定が下がるわけがありませんよね。いろいろ矛盾しているんです」(三条さん) 周知不足の相談窓口 福島市役所  実は福島市役所内にはパワハラなどのハラスメントの被害に遭った職員の相談を受ける窓口があった。  一つは公平委員会。地方公務員法第7条に基づき、職員の利益保護と公正な人事権の行使を保護するための第三者機関として設置されている。主な業務は①勤務条件に関する措置の要求、②不利益処分についての審査請求、③苦情相談。福島市の場合、総務課が担当課になっている。苦情を申し立てれば、双方に事情を聞くなどの対応を取ってもらえたはずだ。  だが、三条さんは在職時に公平委員会の存在を知らず、人事課の担当者に相談した際も紹介されることはなかった。  市では3年ほど前から、パワハラ被害などに悩む市職員に、弁護士を紹介する取り組みも始めている。ところが、ポスターなどで周知されているわけではなく、正規職員に支給されるパソコンでのみ表示される仕組みになっていた。会計年度任用職員には、個別のパソコンを支給されていない。そのため、三条さんはそんな制度があることすら知らなかった。退職後に制度を利用させてほしいと頼んだが、「もう職員じゃないので難しい」と断られた。  福島市役所職員労働組合は正規職員により構成されているが、会計年度任用職員からの相談も受け付けている。ただ、三条さんは市職労に相談しようと思いつきもしなかった。  パワハラ自体の問題に加え、相談窓口が十分に周知されていない問題もあることが分かる。  「このままでは自分と同じような目に遭う職員が出る」。三条さんは木幡浩市長宛てに再発防止策を講じるよう手紙を出したほか、市総務課に公益通報したが、何の回答もなかった。労働基準監督署や県労働委員会に行って、「もし福島市職員からパワハラ相談があったら、相談窓口があることを教えてください」と伝えた。マスコミにもメールで情報提供したが、動きは鈍かった。 木幡浩市長  ちなみに本誌にもメールを送ったそうだが、システムのトラブルなのかメールは届いていなかった。唯一月刊タクティクス7月号で報じられたが、大きな話題になることはなく、あらためて本誌に情報提供したという経緯だった。  元会計年度任用職員の訴えを市はどう受け止めるのか。人事課の担当者はこのように話す。  「当事者(三条さん)から相談を受けた後、所属長である農業振興課長が係長に聞き取りしたが、本人は発言の内容をはっきり覚えていませんでした。多少大きな声で指導したのかもしれませんが、捉え方は人によって異なるし、それが果たしてパワハラに当たるのかどうか。人事課では農業振興課長と面談し対策を講じようとしていたが、(三条さんが)辞表を提出した。展開が早くて、弁護士の制度を紹介したり、パワハラの有無を調査する間もなかった、というのが正直なところです。パワハラがあったかどうかは、市としても顧問弁護士などと相談して検討する話。双方にしっかり話を聞くなど、調査を行わずに断言はできません」  パワハラの事実を認めないばかりか、人事課で相談を放置していたことを棚に上げ、「調査する前に退職したのでパワハラの有無は分からない」と主張しているわけ。  ちなみに人事課への相談が放置されていた件に関しては「人事に関する相談はデリケートな問題なので、一つの案件を一人で継続して担当するようにしている。そうした中でうまく引き継ぐことができなかった」と他人事のように話した。 「誰にでも大声を出していた」  一方でこの担当者はこのようにも説明した。  「農業振興課長の報告によると、係長は興奮すると誰にでも大きな声を出して熱くなることがあった。その人だけに嫌がらせをしていたわけではないという意味で、パワハラと言い切れるのだろうか、と。そういう点からも、市としては、『一連の対応はパワハラではなく業務上の範囲内だった』という認識ですが、態度によってはパワハラと受け取られる可能性があるということで、あらためて農業振興課長が係長に指導を行いました」  三条さんだけでなく、誰にでも大声で怒鳴ることがある職員だったのでパワハラには当たらない、というのだ。厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。市の解釈だと、特定の人物に対してでなければ、どれだけ精神的苦痛を与えてもパワハラには当てはまらないことになる。  人事課担当者は「管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施している」と話すが、この間のやり取りを踏まえると、正しい知識のもとで行われているか疑問だ。  気になったのは、人事課の担当者が、三条さんが退職した経緯についてこのように述べたことだ。  「(三条さんは)係長への抗議的な意味合いで辞表を出したようですが、同じ部署で働きづらい部分もあるし、もうやめるしかないんじゃないか、という流れで退職に至ったと聞いています」  前述の通り、三条さんは課長から「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった」と言われ、退職を促された、と主張していた。三条さんの見解とは違う形で報告されていることが分かる。  ちなみに課長、係長はともに今春の人事異動で農業振興課から異動になっており、どちらも降格などにはなっていなかった。  三条さんがいなくなった後の農業振興課ではどんなことが起きていたか共有され、再発防止策は講じられているのか。4月に赴任した長島晴司課長に確認したところ、「当然共有されています。ああいったことがあると、職場の雰囲気は悪くなるし、係の職員も疲弊する。そうした雰囲気の改善に努めており、併せてパワハラと受け取られるような指導はしないようにあらためて気を付けています」と話した。 厚労省指針は守られているのか  地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「厚労省の指針では職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている」という。  上林特任教授が執筆を担当した『コンシェルジュデスク地方公務員法』では公務員のハラスメント対策について、次のように記されている。  《部下は、パワーハラスメントを受けていても、上司に対してパワーハラスメントであることを伝えることは難しい。とりわけ、非正規職員のような有期雇用職員は、次年度以降の雇用の任命権者が直属の上司の場合が多いため、なおさら相談しにくい。したがって、上司以外の信頼できる職場の同僚、知人等の身近な人やより上位の人事当局、相談窓口等に相談することが必須となる》  《相談窓口・相談機関は、事業主の雇用管理上講ずべき措置の内容の中では重要な位置取りをしめ、厚生労働省のパワハラ防止指針では、相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することとし、相談窓口担当者は、①相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、②相談窓口については、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じているだけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められているとしている》  昨年、市が公表した「福島市人事行政の運営等の状況について」という文書によると、2021年度における公平委員会の業務状況は、不利益処分に関する不服申立1件、職員の苦情の申立1件のみ。  職員からの苦情がない快適な職場なのか、それとも公平委員会の存在自体を知らない人が多いだけか。いずれにしても厚労省通知に定められている労働者への周知が行われているとは言い難い印象を受ける。  もっというと、会計年度任用職員にはパソコンが支給されていなかったので、弁護士相談制度に触れられなかったというのは、結果的に正規職員と非正規職員で相談窓口の案内に差が出た形になる。同じ中核市である郡山市、いわき市にも確認したが、そのような差はなかった。すぐに解消すべきではないか。  現在は福島市内の別の場所で働いている三条さん。「私のような思いをする人がこれ以上出てほしくない。いまさら謝罪や責任追及を求めているわけではない。市役所は閉鎖的でおそらく自浄作用はない。だからこそ、報道を通していかに福島市のパワハラ対応がダメか、多くの人に知ってもらい、少しでも体制改善につながればと思っている」と訴えた。福島市はまずパワハラ対策の周知から始めるべきだ。

  • 評判が悪い【押山義則】大玉村議長

    大玉村議会は9月4日、改選後初の臨時会を開き、議長に押山義則氏(75)、副議長に武田悦子氏(64)を新任したが、押山氏をめぐっては村民から「議長にふさわしくない」との声が寄せられている。 議長選で一派の2人が白票  正副議長選は議員12人による無記名投票で行われ、このうち議長選は押山氏5票、本多保夫氏(71)4票、白票3票という結果だった。白票が25%を占めるのは異例だが、本来であれば押山氏はもっと得票してもおかしくなかったという。  「順当なら7票、上手くいけば9票入ったかもしれないのに、蓋を開けたら5票。押山氏の信用の低さが露呈した形です」(ある議会通)  押山氏はいわゆる村長派で、現在3期目の押山利一村長(73)が初当選後につくられた「大玉創生会」の副会長として活動してきた。同会は県議会や市議会に見られるような会派ではなく、勉強会という位置付けになっているが、議会内に支持基盤がなかった押山村長を支える目的で発足したため、メンバーは自然と村長派に色分けされる。  発足から8年が過ぎ、8月6日投開票の村議選を経てメンバーが入れ替わった大玉創生会は、別掲の7人で引き続き押山村長を支えていくことになる。  これに倣えば、押山氏は議長選で7票獲得してもいいはずなのに、実際はそれより2票少ない5票だったため「信用が低い」と見なされたわけ。  「新人の3氏は全員押山氏に投票したが、投票前には『本当に押山氏でいいのか』とかなり悩んだ人もいたそうだから、場合によっては5票も取れずに〝落選〟していた可能性もあった」(同)  押山氏は大玉村出身。郡山工業高校(現、郡山高校)卒。設計事務所や同村役場勤務などを経て村内と郡山市内に飲食店を開業したが、新型コロナの影響で閉店。改選前は副議長を務めていた。  押山氏の信用の低さはどこから来ているのか。  複数の村民によると、村議選前、押山氏にまつわる二つのウワサが急浮上した。一つは昔の出来事、もう一つは最近の出来事だが(真偽不明のため、この稿で取り上げるのは控える)、そのウワサが影響して、もともと選挙は強くないが陣営の予想より得票数が減ったのではないかと訳知り顔で話す村民もいた。  「要するに大玉創生会のメンバーは、議長選で押山氏に投票すれば支持者から『なぜ、あいつに入れたんだ』と突き上げを食らうことを恐れたのでしょう」(同)  だからメンバーは、普段は同じ村長派でも、議長選では投票しなかった、あるいは投票したけどかなり悩んだというわけ。  筆者はある新人議員に取材を申し込んだが「遠慮させてほしい」とのことだった。  「大玉村は『財界ふくしま』が詳報した『山ろく交流センター』の建設をめぐる問題で混乱し、今回の村議選では押山村長に近い新人を複数当選させることで議会の安定を図ろうとした。そして実際、そういう議会構成になったのに、村長派の筆頭である押山氏に対しては『議長にふさわしくない』との判断が働いた。議長は村長と連携を密にし、スムーズな議会運営を行う役割があるが、各議員が押山議長の言うことをどこまで聞くか気掛かりです」(同)  前述の通り議長選では白票が3票あったが、このうちの2票は共産党の須藤軍蔵氏(78)と前出・武田氏であることが分かっている。  須藤氏に話を聞いた。  「私は押山氏も本多氏も議長にふさわしくないと思ったから白票を入れた。ただそれだけです」  現在10期目の須藤氏だが、正副議長選で白票が3票を数えたことは記憶にないという。  須藤氏は自宅のすぐ近くで進められた「山ろく交流センター」の建設に賛成し、本多氏は反対していたため、本多氏を議長には推せないと判断したが、押山氏をふさわしくないと思った理由は何だったのか。  押山氏にまつわる二つのウワサは須藤氏も村議選の期間中、何度も耳にしたというが、  「ウワサが本当かどうかは確かめようがないので、それに基づいて押山氏を評価したりはしない。ただ議長選前には、押山氏が議長にふさわしくないと思う私なりの理由を本人に直接伝え『だから私はあなたには投票できない』とハッキリ言いましたよ」(同)  須藤氏は「私なりの理由」を明言しようとはしなかったが、村民の間からは  「日常生活に苦労する村民が少なくない中、押山氏は『自分は(お金に)余裕がある』みたいな、村民に寄り添っていない発言が目に付いて……。そういう他人の痛みを分からない人が、議会を代表する議長に就くなんてとんでもない」  と、議員としての資質を疑う声が聞かれた。二つのウワサだけが押山氏の信用を低下させている理由ではないことがうかがえる。 「私の生き様は他人と違う」 押山義則議長  実は、共産党の2議員は執行部に是々非々の立場を取っているが、押山村政に反発することはほとんどないため、実質村長派という見方をされている。そうなると、議長選では押山氏に投票しても不思議ではないのだが、実際は白票だった、と。冒頭で議会通が「9票の可能性もあった」と言ったのは、大玉創生会(7票)と共産党(2票)を合わせた数を指している。  押山氏本人は議長選の結果をどのように受け止めているのか。  「私の生き様は少々他人と違っているので、いろいろ言われてしまうのは致し方ないと思っています。大玉創生会をベースに考えれば、議長選では私に7票入ってしかるべきだが、前の正副議長選でも〝造反〟というか同じようなことが起きているので、特段気にしていません」  議長選の直前には共産党の2議員にも自分への投票を呼びかけたが、断られたという。  「私は自分から議長になりたいとは一言も言っていない。各議員の期数や副議長を務めた立場から『今回は押山さんじゃないか』となり、そう言っていただいた以上は議長選で勝てるよう最善を尽くしただけ。その結果、5票には感謝しているし、白票の3票も、もし本多氏に入っていたら計7票で私は負けていたわけだから、感謝しています」(同)  押山氏は自身の議員活動を振り返り、今まで一般質問を欠かしたことがないこと、村議会基本条例の策定に奔走したこと、議員定数削減を強く主張したこと等々を話した。  「そんな私の活動を『目立とうとしている』とか『定数削減なんて余計なことを言うな』とか、よく思わない議員がいたのは事実でしょう。設計事務所や飲食店での仕事ぶりを見て眉をひそめる人もいたかもしれません。しかし、私としてはどれも必死にやったことなので、後悔は一切ありません」(同)  大玉村をめぐっては、かつて万引き犯の汚名を着せられた議長や学歴が正確ではないと指摘された議員を本誌で取り上げたことがある。当時の村長が村民に訴えられた、いわゆる「ヤマツツジ訴訟」をリポートしたこともある。今回の出来事を見るにつけ、同村は定期的に騒動が起きている印象を受ける。  ともかく、押山氏が村民や議員から「議長にふさわしい」との評価を得られるかは、これからの振る舞いや発言にかかっている。

  • 矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景

     受給対象ではない住居手当を7年8カ月にわたり受け取っていたとして、矢吹町の30代男性職員が戒告の懲戒処分を受けた。  報道や関係者の情報によると、この男性職員は2013年2月から賃貸物件を契約し、住居手当1カ月2万6700円を受給していた。  2015年10月に賃貸物件を引き払い、実家に住むようになったが、住居手当の変更手続きを怠り、同年11月から今年6月までの7年8カ月分、245万6000円を受給していた。職員は届け出を「失念していた」と話している。また、町もこの間、支給要件を満たしているかどうかの確認をしていなかった。  本人の届け出により発覚し、不適切受給した分は全額返還された。  同町総務課によると、毎月渡される給与明細に住居手当の金額は記されている。それを確認せず7年もの間手当をもらい続けたということになる。本当に故意ではなかったのか、それとも住居手当のルール自体よく理解せずもらっていたのか。  懲戒処分は免職、停職、減給(6月以内)、戒告の4段階がある。町は職員に故意や悪質性はなかったとして、懲戒処分の中で最も軽い戒告処分、監督する立場だった管理職の50代男性2人を口頭注意とした。処分は9月15日付。  町内在住の年配男性は「結構重大な問題だと思うけど、ずいぶん軽い処分だったので呆れました」と語る。  というのも、9月11日、群馬県富岡市の職員が住宅手当235万円を不正に受け取っていたとして、停職6カ月の懲戒処分となったことが先行して報じられていたからだ。  富岡市の榎本義法市長は「公務員としてあるまじき行為。誠に遺憾であり深くおわび申し上げる。綱紀粛正の徹底と再発防止を図る」(上毛新聞ウェブ版9月12日付配信)とコメントしている。  「金額的には富岡市より矢吹町の方が大きいが、軽い処分で乗り切ろうとしている。蛭田泰昭町長は来年1月任期満了を迎える町長選に再選を目指し立候補する意向を示している。不祥事という印象が付くのを避けようとしたのかもしれません」(町内在住の年配男性)  気になったのは、住居手当として2万6700円もの金額を毎月受け取っていた、ということだ。  町によると、住居手当はアパートなどの賃貸物件が対象で、マイホームに住む場合は支払われない。補助割合は家賃の半額分で、上限額は2万8000円。矢吹町で家賃5万6000円のアパートとなれば、比較的広い部屋で暮らせそうだ。  ちなみに、県市町村行政課によると、上限2万8000円は県・市町村共通の金額とのこと。  厚生労働省「令和2年就労条件総合調査」によると、民間企業で住居(住宅)手当が支払われている割合は47・2%。金額は平均1万7800円。同調査は常用労働者30人以上を雇用する企業6400社が対象で、零細企業は含まれていない。住居手当がない企業もあるだろうから、実態は割合・金額ともにもっと低いと思われる。  本誌ではこの間、「民間準拠と言われている公務員の給与水準だが、実際には大きくかけ離れている」と指摘し、記事でそのカラクリを解き明かしているが、住居手当一つとっても民間準拠ではないことが分かる。そういう意味で、さまざまな背景が読み取れる住居手当の不適切受給だったと言える。

  • 【鮫島浩】地方紙に求められるジャーナリズム

    さめじま・ひろし  京都大学法学部を卒業し1994年に朝日新聞入社。99年に政治部に着任し、菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら与野党政治家を担当。2010年に39歳で政治部デスクに抜擢される。13年に「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。21年に独立して「SAMEJIMA TIMES」を創刊。ユーチューブやウェブサイトで政治解説動画・記事を公開し、サンデー毎日やABEMA、プレジデントオンラインなどにも出演・寄稿している。著書に『朝日新聞政治部』(2022年、講談社)、『政治はケンカだ~明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、2023年、講談社)。  新聞社が埋もれた事実を自力で掘り起こし、自らの責任で権力者を追及する「調査報道」がめっきり減った。そればかりか、週刊誌が報じた「疑惑」に世間の耳目が集まっても、何事もなかったようにやり過ごす光景が繰り返されている。  芸能界に君臨したジャニー喜多川氏の性加害問題、岸田文雄首相の最側近である木原誠二官房副長官の妻が元夫の不審死事件の重要参考人として事情聴取されながら捜査が不自然に打ち切られた疑惑……。具体例は枚挙にいとまがない。  警察や検察が捜査に動かない限り、行政が発表しない限り、当事者が不正を自ら認めて謝罪しない限り、「疑惑報道」に踏み切って抗議を受けるリスクを背負うことは避ける。それが主要メディアのたしなみであると言わんばかりに、新聞は振る舞っている。各紙が示し合わせたかのように疑惑を「なかったこと」として片付ける様子は業界談合そのものだ。  新聞がこれほど不甲斐なくなったのはいつからだろう。  福島第一原発の事故直後、現場で事故対応を指揮した吉田昌郎所長の証言録「吉田調書」を朝日新聞が独自入手してスクープしたのは、安倍政権下の2014年5月だった。政府が伏せ続けてきた歴史的証言録を白日の下にさらす大キャンペーンを手掛けたのは、記者クラブを主要拠点とする政治部や社会部ではなく、調査報道に専従する特別報道部だった。私はその取材班を率いるデスクを務めていた。  安倍政権は報道当初、「吉田調書」の公表を拒否し、他紙も「なかったこと」として黙殺した。約3カ月後、第一報のタイトルや文中表現に対してネット上に批判が広がると、安倍政権は一転して「吉田調書」を公表して反撃を開始し、他紙は安倍政権の主張に沿って「朝日批判」に一斉に踏み切った。  朝日新聞の経営陣は2014年7月時点で「吉田調書」報道を高く評価し、新聞協会賞に申請していたのに、安倍政権や他紙から集中砲火を浴びると持ち堪えられず、9月になって記事全文を「誤報」として取り消し、社長の引責辞任に加え、デスク(私)や取材記者を懲戒処分にすると表明したのである。  第一報のタイトルや文中表現の是非について見解が割れるとしても、意図的な捏造報道でもないのに記事全文を抹消し、歴史的スクープを丸ごと「なかったこと」にしてしまったのは、組織防衛を優先した過剰対応だったと言うほかない。朝日新聞が編集責任を負う立場にある管理職にとどまらず、「吉田調書」を独自入手した取材記者まで懲戒処分にしたことは、ジャーナリズムの自殺行為であった。取材記者はネット上で「捏造記者」「売国奴」などと罵詈雑言を浴び、バッシングの矛先は家族にも向けられたが、朝日新聞はこの事態を放置し、取材記者を守らなかった。  詳細な経緯は拙著『朝日新聞政治部』(講談社)に記したが、「吉田調書」事件は、調査報道を仕掛けた朝日新聞が国家権力の反撃に屈服した事件としてメディア史に刻まれたのである。 朝日新聞政治部posted with ヨメレバ鮫島 浩 講談社 2022年05月27日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  朝日新聞に限らず新聞業界全体に「権力批判」に対する怯えが広がった。警察や検察が立件したり、行政が発表したり、当事者が不正を認めたりするまではリスクを冒して報じることを避ける「保身文化」が蔓延したのである。  朝日新聞は「吉田調書」事件後、特別報道部を縮小し、2021年春には廃止した。私は同年春に退社して「SAMEJIMA TIMES」を創刊し、ウェブサイトやユーチューブで政治解説を中心に発信している。政府広報紙と化した現在の新聞の不甲斐なさを目の当たりにするたびに、「吉田調書」事件は新聞ジャーナリズムが凋落した転換点だったと思わずにいられない。当事者として結果責任を痛感している。  朝日新聞特別報道部は当時、福島第一原発事故を題材にした長期連載「プロメテウスの罠」と「手抜き除染」のスクープ報道で、新聞協会賞を2年連続で受賞して勢いに乗っていた。私は同部の立ち上げから深くかかわってきたが、政治部、経済部、社会部などから引き抜いたエース記者と、他社から引き抜いた腕利き記者が切磋琢磨する異色の組織だった。  なかでも「プロメテウスの罠」のデスク役を務めた依光隆明記者(高知新聞)、「手抜き除染」のメインライターだった青木美希記者(北海道新聞)、大阪地検による証拠改竄をスクープした板橋洋佳記者(下野新聞)ら地方紙出身の記者の活躍はめざましく、朝日新聞に新たな息吹を吹き込んでいた。永田町・霞が関で国家権力に肉薄してきた記者と、全国各地で地道な調査報道を重ねてきた記者の個性が融合し、新基軸の調査報道集団が生まれつつあった。  私は特別報道部次長として「地方紙と連携した調査報道」に可能性を感じ、ある原発立地県の地方紙幹部と水面下で交渉を重ね、「共同調査報道」の合意寸前までこぎつけていた。東京を拠点とする全国紙は中央省庁との結び付きが強く、国家権力追及に及び腰になる傾向がある。一方、地方紙は県庁や県警に加えて、電力会社など地域の看板企業に弱い。双方の弱点を補い合うため「原発利権」をテーマに共同取材班を立ち上げ、双方の紙面で同時キャンペーンを展開しようと考えたのだ。  これらの構想も「吉田調書」事件ですべて吹き飛んでしまった。 地元メディアと政治家の関係性 政治はケンカだ! 明石市長の12年posted with ヨメレバ泉 房穂/鮫島 浩 講談社 2023年05月01日 楽天ブックスAmazonKindle  今年5月に上梓した泉房穂・前明石市長と私の共著『政治はケンカだ!~明石市長の12年』で印象に残ったのは、泉市長と神戸新聞との緊張関係だった。  泉氏は2011年4月の市長選で自民、民主、公明が相乗りして兵庫県知事が全面支援する元知事室長との一騎打ちを69票差で制した。全政党、全業界を敵に回して当初はマスコミに泡沫候補扱いされたが、市民の草の根の応援だけを頼りに激戦を勝ち抜いたのである。就任当初は市役所にも市議会にも味方がいない四面楚歌の状態だった。  それにも増して手を焼いたのは神戸新聞との関係だった。泉氏は市の税金が購読料や広告費などとして神戸新聞やグループ企業に流れ込んできたことを知り、「税金で番組を買わなくても普通に報じてもらえばいい」と指示し、予算を削減した。これが神戸新聞上層部の逆鱗に触れ、泉市政を糾弾する記事が急増したのだという。  地元で圧倒的シェアを誇る地元紙を敵に回すことは、知事や市長に大打撃を与えかねない。他方、県や市の予算を収入源の大きな柱とする地元紙は、国の批判にはためらいがなくても、地元自治体の追及には及び腰になりがちだ。この「持ちつ持たれつの関係」が崩れたのが明石市だった。初当選から12年、泉市長と神戸新聞の関係はぎくしゃくし続け、市役所や市議会からのリーク情報とみられる記事が繰り返し掲載された。 地元メディアとの関係に苦労する政治家 泉房穂・前明石市長  こうした事態を避けるため、大概の知事や市長は地元紙と良好な関係を維持し、「権力とジャーナリズムの緊張関係」は希薄になる傾向がある。  さらに露骨なケースもある。香川県立高松高校で私と同級生だった立憲民主党の小川淳也衆院議員は「香川1区」で自民党の平井卓也衆院議員と熾烈な戦いを繰り広げてきたが、最も頭を悩ませてきたのは、香川県内でシェア6割を誇り、系列テレビ局もあわせ持つ四国新聞を「平井一族」が経営していたことだった。 小川淳也衆院議員  最近では石川県の馳浩知事と地元紙の北國新聞との関係が注目された。馳知事は石川テレビが制作したドキュメンタリー映画「裸のムラ」に自身や県職員の映像が許可なく使用されたことに抗議し、定例記者会見の開催を拒否。県政記者クラブ(14社加盟)は総会を開いて早期再開の申し入れを協議したが、北國新聞とテレビ金沢は賛同せず、全国紙などの有志で申入書を提出することになった。地元メディアと知事の濃密な関係をうかがわせる事態である。  北國新聞は地元の大物政治家・森喜朗元首相のインタビューを継続的に掲載している。最近では自民党安倍派の会長を争う5人衆(松野博一官房長官、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長、西村康稔経済産業相、萩生田光一政調会長)の人物評を言い募り、萩生田氏だけを絶賛する森氏のインタビューが永田町の話題をさらった。一連のインタビューについては「地元の大物政治家と地元紙の密接な関係」を疑問視する声がある一方、「全国紙では引き出せない森氏の本音を報じた意義は大きい」と評価する声もある。  仮に石川県内の報道機関が北國新聞だけならば、大物政治家との密接な関係はマスコミの権力監視機能を低下させ、看過できない。一方、複数の報道機関が存在する場合は、権力者との近さも含めてそれぞれが独自性を発揮し、相互批判を通じて健全性を維持できるという考え方も成り立つであろう。  最も危険なのは、報道各社が行政に忖度した報道を横並びで展開することだ。地方政治と地方有力紙の癒着は、全国紙や他の地方メディアが徹底追及して牽制すればよい。地方有力紙に対抗するメディアが地域から消滅し、メディアの相互監視機能が失われることだけは絶対に避けなければならない。  報道の多様性は、ジャーナリズムの生命線である。 地方紙に期待される役割 福島民報 福島民友新聞  東京では全国紙や在京テレビ局と国家権力中枢の癒着が、地方紙と知事や市長との関係よりも深刻な問題として存在する。  先述した朝日新聞特別報道部は、政治部と首相官邸、経済部と財務省、社会部と警察・検察といった癒着構造から解き放たれ、記者クラブを離れてしがらみなく国家権力の疑惑に切り込めるところに最大の強みがあったが、その分、各部との関係は緊張して社内的に孤立する場面が多かった。現在では週刊文春など雑誌メディアが全国紙と国家権力の癒着に風穴を開ける役割を果たしているが、私は同様の役割を地方紙に期待したいと考えている。  私は1999年に朝日新聞政治部に着任し、官邸記者クラブや与党記者クラブに長く在籍した。有力地方紙はここに若干数の記者を常駐させている。それぞれの地方紙の将来を担う精鋭たちだ。  なかでも記憶に残っているのは、森喜朗氏が首相に就任してまもない2000年5月に「日本は天皇を中心とする神の国」と発言して批判を浴びた時、西日本新聞が放ったスクープだった。  西日本新聞の記者は官邸記者室のコピー機付近で、神の国発言をめぐって記者会見で厳しい追及を受けることが予想されていた森首相に対して「質問をはぐらかす言い方で切り抜けるしかありません」などと指南する内容の文書を拾った。内々に取材を進め、この「指南書」を書いたのはNHK記者であると確信して報じたのだ。  報道機関の政治部記者が首相に対し、記者会見の「切り抜け方」を指南していた――。政治家の番記者としてオフレコ取材を重ね、濃密な関係を作り上げていく全国紙の政治部記者たちからは決して生まれないスクープだった。官邸記者クラブに常駐しながら権力中枢とは一線を画している地方紙だからこそ、躊躇なく取材し、覚悟を決めて報道に踏み切ることができたと言えるだろう。 必要な「全体としての健全性」維持  どんな相手にも臆することなく、厳しく追及して闇を暴く。それがジャーナリズムの理想である。だが、いつ何時もその姿勢を貫く完璧な報道機関や記者は多くない。どんなに立派な記者も間違うことはあるし、怯むこともある。だからこそ、ジャーナリズムは多様性を守り、誰かがどこかで追及し続けるという「全体としての健全性」を維持することが絶対に必要なのだ。  地方紙は知事や市長、県警に弱いかもしれないが、中央省庁には気兼ねなく切り込める。全国紙はその逆だ。闇を暴くのはいつも同じ報道機関や同じ記者である必要はない。それぞれがそれぞれの強みを発揮し、それぞれの弱みをカバーしあえばよい。全国紙と地方紙はそのような補完関係にあると私は思う。  地方紙は活動領域を地域テーマに限定させる必要はない。もっと広げればよい。ネット時代は世界に向けて発信することも可能だからだ。  朝日新聞政治部の後輩である南彰記者が今秋に退社し、沖縄に拠点を移して地方紙記者として活動するという。近年は新聞労連委員長を務め、SNSでも積極的に発信し、政治報道のあり方を批判する著書も上梓した。ところが、朝日新聞は「吉田調書」事件以降、記者の社外活動を厳しく制約するようになっている。南記者が新聞労連から政治部に復帰した後も風当たりは強く、まもなく人事異動になった。社内の管理統制を強める朝日新聞の将来に限界を感じ、新天地として沖縄を選んだのであろう。朝日新聞が地方紙から腕利き記者を引き抜いたのは今は昔。閉塞感が漂う全国紙から地方紙へ転身する新たな動きとして注目したい。

  • 石川町議選連続トップ当選の【乾初美】氏

     任期満了に伴う石川町議選が9月3日に投開票され、新議員14人が決まった。同町議選をめぐっては、県議選との兼ね合いから、石川郡内の他町村の関係者も注目していた。注目人物の今後に迫る。 今秋県議選への立候補は明確に否定  選挙結果は別掲の通り。現職10人、新人6人の計16人が立候補し、現職8人、新人6人が当選した。投票率は67・46%で、前回を2・11ポイント下回り、過去最低(補選は除く)だったという。 選 挙 結 果(9月3日投開票、投票率67・46%)当 820 乾   初 美 (37) 無現当 712 近 内 雅 洋 (69) 無現当 701 迎   茂 城 (52) 無新当 676 星   恵 子 (64) 無新当 630 瀬 谷 寿 一 (70) 無現当 568 増 子 美知夫 (73) 無現当 557 小 木 芳 郎 (70) 無現当 547 鈴 木 義 延 (64) 無新当 534 瀬 谷 京 子 (79) 無現当 445 金 沢 和 則 (64) 無新当 443 根 本 重 泰 (64) 無現当 376 菊 池 美知男 (69) 無現当 342 角 田 保 寿 (70) 無新当 331 水野谷 常 子 (60) 無新 207 関 根 信 次 (84) 無現 161 藤 島 一 浩 (60) 無現  この結果に、石川郡内の住民はこんな疑問を口にした。  「乾初美さんが町議選に出たということは、県議選に出る可能性はなくなったと見ていいのか?」  乾氏は前回(2019年)の町議選で1040票を獲得し、トップで初当選を果たした。唯一の4桁得票で、同町民によると「この町の議員選挙で1000票オーバーはそうそうあることではない」という。  本人のSNSに掲載されたプロフィールによると、「学法石川高校卒業後、大学でカウンセリングを学び、震災後、地元石川での子育てを決意し石川町に戻る。2015~2017年まで、政治団体の秘書・事務局として働く」とある。  最初の選挙時は、33歳の若さと女性候補であることなどから、「そうそうあることではない」ほどの得票を得た。今回は女性候補者が4人いたこともあり、前回から200票ほど減らしたが、今後のキャリアアップを期待する声は少なくない。  そんな中で浮上していたのが「県議転身説」だ。一部関係者から「乾氏を県議選に立ててはどうか」と推す声が出ており、その話が広まって前述した石川郡内の住民の疑問につながっている。  県議選は11月2日告示、12日投開票で行われる。石川郡選挙区は定数1で、現在の現職は円谷健市氏(69)。東白川農商(現・修明)高校卒。石川町議を3期務めた後、2011年11月の県議選で初当選した。現在3期目。立憲民主党所属(県議会の会派は県民連合)。  円谷氏は7月、今期限りでの引退を表明した。その場に、会社役員の山田真太郎氏(39)が同席し、県議選に無所属で立候補することを表明した。円谷氏の後継者ということになる。山田氏は石川町出身。日体大体育学部卒。石川町商工会青年部副部長。同町の自動車整備工場で専務を務める。  これより1カ月前、6月には自民党県連職員の武田務氏(42)が自民党公認で立候補することを表明した。武田氏は石川町出身。安積高卒。郡山市の民間企業勤務を経て、2014年8月から同党県連職員を務めている。  現状、この2人による選挙戦が濃厚だが、前出の石川町民によると、「選挙まで2カ月を切ったが、県議選が話題になることはほとんどない。そのくらい、盛り上がり、話題性に欠ける」という。  そうしたこともあり、「乾氏が県議選に立候補すれば面白いのではないか」といった声が余計に広がっていった。 「石川町議として頑張る」 乾初美氏(議会のホームページより)  もっとも、本人に県議選に立候補する意思があったら、9月の石川町議選に出るとは思えない。わずか2カ月後に辞職して鞍替えするとなれば、投票してくれた有権者に対して失礼に当たるからだ。  町内の事情通も、「その可能性はないと言っていい」という。  その根拠の1つに上げたのが、前述した「わずか2カ月後に辞職して鞍替えしたら有権者に失礼」ということ。加えて、「乾氏は改選後に副議長に立候補・就任した。すぐにポストを捨てるくらいなら、最初から副議長に立候補しないだろう。そこからしても、今回の県議選に立候補する考えはないと見ていい。一部の外野の人が勝手に言っているだけ」というのだ。  石川町では9月15日に改選後初となる臨時議会が開かれ、正副議長選挙が行われた。乾氏は副議長に立候補した。そのほか、菊池美知男氏と増子美知夫氏が立候補し、無記名投票の結果、乾氏6票、菊池氏2票、増子氏6票で、乾氏と増子氏が同数で並び、くじ引きの結果、乾氏が副議長に選ばれた。ちなみに、議長選は、近内雅洋氏、瀬谷寿一氏、小木芳郎氏の3人が立候補し、近内氏6票、瀬谷氏5票、小木氏3票で、近内氏が議長に選ばれた。  こうした背景から、乾氏の県議転身はないというのだ。  乾氏に「県議選に……という話が出ているが」と聞くと、次のように答えた。  「それは明確に否定します。石川町議として、町のために頑張っていきます」  これが、冒頭の石川郡内の住民の「乾さんが町議選に出たということは、県議選に出る可能性はなくなったと見ていいのか?」との疑問の答えだ。  前出・町内の事情通はこう話す。  「乾氏は、副議長選で同数得票のくじ引きで当選したように運にも恵まれ、それは大事な要素だと思います。ただ、これからもっと上のステージを目指すとしても、もう1、2期、町議をやってからでも遅くはないでしょう。仮にあと2期(8年)やったとしても、まだ45歳ですからね。そもそも、将来的に楽しみな部分はあるかもしれないが、現状は、『フレッシュな女性議員』というだけですから」  乾氏が町議として実績を積み、期待感を持たせてくれるような存在になれば、「もっと活躍の場を広げられるステージに挑戦してはどうか」といった話になるのかもしれないが、少なくとも、まだそのときではないということだろう。

  • 内堀知事「二つの憂鬱」

     ここ最近、内堀雅雄知事(59)を悩ませていたのがジャニーズ事務所の性加害問題と、東京電力福島第一原発の敷地内に溜まる汚染水(ALPS処理水)の海洋放出だ。二つの問題は現在進行形だが、ジャニーズ問題は県としての対応を発表し、海洋放出は国・東電が実行に踏み切ったことで、県の手を離れたかのような雰囲気が漂っている。 ジャニーズ問題、汚染水放出にどう対応したか  世間を大きく揺るがすジャニーズ事務所の性加害問題。所属タレントはこれまで多くのメディアを席巻してきたが、前社長による若手タレントへの複数の性加害を、同事務所があったと認め謝罪すると、大企業を中心に所属タレントのCM起用を見合わせる動きが一斉に広まった。  こうした中で注目を集めたのが福島県の動向だった。  県は震災翌年の2012年度からジャニーズ事務所のアイドルグループ「TOKIO」と連携し、県産農林水産物のPR活動などを展開してきた。TOKIOが震災前から頻繁に県内を訪れ、DASH村などの番組づくりをしてきた縁でメンバーが風評払拭などの取り組みに積極的に関わってきた。震災から12年経ち、メンバーが5人から3人になってもTOKIOの「福島を応援したい」という姿勢は変わらず、県は現在も県産農林水産物のCMやポスターにメンバーを起用している。  2021年度からはTOKIOとの連携がさらに深まり、県は風評・風化戦略室内にTOKIOとの窓口となるバーチャル課「TOKIO課」を設置。昨年5月には西郷村内に福島の自然を生かした交流施設「TOKIO―BA」が設けられ、メンバーが不定期に訪れて来場者と接するなど活動範囲は広がりを見せていた。  前社長による性加害問題は、そんなTOKIOと福島県の結び付きに水を差すものだった。  「所属タレントの起用はチャイルド・アビューズ(子どもへの虐待)を認めることになる」  「被害者への救済策が示されると同時に、事務所運営の抜本的是正が認められなければ取引を続けることはできない」  という厳しい声のもと、経済界のジャニーズ離れが加速していく中、県はTOKIOとの連携を継続するのか、それとも解消するのか――9月15日に発表された「県の正式な考え方」とする談話は次のようなものだった。  《大前提として、いかなる性加害も絶対に許されるものではない。性加害は、被害者の尊厳を踏みにじる極めて悪質な行為》《ジャニーズ事務所においては、人権を尊重し、被害者救済や再発防止策など、社会的責任をしっかり果たすべき》《TOKIOの皆さんは、震災と原発事故後、私たちが風評被害などで最も悩み苦しんでいた時も、福島に寄り添い続け、県民を勇気づけていただいた。長年にわたり、県産農林水産物のPRなどに協力いただくなど、福島を全力で応援し続けていただいていることに心から感謝している》《TOKIOの皆さんには、今後も変わらず福島県を応援していただきたい》  県はTOKIOとの連携を継続すると明言したのだ。この2日前、農林水産省がメンバーの城島茂さんについて、広報大使としての起用を取りやめると発表した際は「国がやめれば県も従うのではないか」と囁かれたが、予想に反して連携解消には向かわなかった。同じく所属タレントの起用を控えると発表した小池百合子東京都知事や大村秀章愛知県知事と比べても、福島県は独自の判断を下したことが見て取れる。  県の判断は概ね好意的に受け止められている。ネット上では「TOKIOとの縁が切れずによかった」「彼らはずっと福島に寄り添い続けてくれた。連携継続は当然だ」と評価され、福島民報と福島テレビが共同で行った県民世論調査でも「連携継続に賛成」と答えた人は73・9%に上った(福島民報9月25日付)。  上辺だけの付き合いしかしてこなかった大企業と異なり、福島県は長い時間をかけてTOKIOとの絆を構築し、県民はメンバーの活動する姿を間近で見続けてきた。県民が寄せる彼らへの尊敬と信頼は絶大。そう考えると、7割以上の人が賛成という結果は驚きでも何でもなく、ごく自然なことと言える。  そうした事実を踏まえた上で、しかし、冷静に判断するための材料をここに提示したい。  ジャニーズ事務所の関連会社として2020年7月22日に設立された㈱TOKIOは、同事務所と同じ東京都港区赤坂九丁目6―35に本店を置く。資本金1000万円。  事業目的は①芸能人・文化人等のマネジメント、②イベント・コンサート・講演会等の企画、制作および運営、③本・グッズ・CD・DVD等の商品の企画、制作および製造販売、④映画・テレビ番組等の企画、制作および運営、⑤著作権・著作隣接権等の管理、⑥広告の制作、代理店業、⑦不動産の管理および運営。  役員は代表取締役藤島ジュリー景子、取締役城島茂、國分太一、松岡昌宏の各氏。 ジャニーズ資本の会社 TOKIOを起用した「ふくしまの米」をPRするポスター  ㈱TOKIOは対外的に「社長」は城島さん、「副社長」は國分さんと松岡さんと発表しているが、3氏は代表権を持っておらず、創業者一族である藤島氏がオーナーとして君臨しているのである。県は「㈱TOKIOとは付き合いがあるが、ジャニーズ事務所と契約しているわけではない」と説明するが、両社が同じ場所に事務所を構えていることは知っているはずで、詭弁に過ぎない。  こうした状況を、ジャニーズ問題で人権侵害とともに叫ばれているコンプライアンス(法令順守)の視点から考えてみたい。  企業が事件を起こした時、取引先は一斉に契約を解除し、場合によっては違約金を請求することもある。担当社員は優秀で仕事ができる。好感度も高い。本音はその社員と今後も付き合いを継続していきたい。しかし、所属する企業が問題を起こした以上、コンプライアンスの観点から契約を解除せざるを得ない――こうした考え方のもと、県は企業と取引してきたはずだ。  「所属タレントに罪はなく彼らも被害者」と擁護する人もいるが、だったら事件を起こした一般企業の社員も同じように擁護されなければ不公平だ。「TOKIOは他とは別」と言い切るのも、コンプライアンスのなし崩しにつながってしまう。  どこまで行ってもジャニーズ事務所の影がチラつく限り、㈱TOKIOとの連携はどこかスッキリしない感覚に陥るのだ。  しかし、TOKIOとの連携はこれからも是非継続したいということなら、人権尊重とコンプライアンスを担保するためにも、㈱TOKIOがジャニーズ事務所の資本から離脱し、本店も移して独立採算制に移行した方がいい、というのが本誌の見解である。  実際、先の県民世論調査でも「連携継続に反対」は13・2%、「分からない」は12・8%に上った。この3割の人たちも、TOKIOのこれまでの活動に感謝しているはずだが、一方で人権尊重やコンプライアンスの視点は欠くべきではないと考えているのではないか。そういう意味では、TOKIOへの感情移入だけで答えていない冷静な人たちと言えるのかもしれない。  人権尊重に対する認識は、一昔前とは大きく変わっているが、世界標準と比べると日本はまだまだ遅れている。海外では有名な映画監督や大物プロデューサーがかつての性加害行為で追及されると、スポンサー契約を打ち切られ、会社を追われるだけでなく、その会社は生き残るために社名を変更して出直す事態が頻繁に起こっている。社会全体が「性加害は絶対に許さない」という考え方で一致している。  誤解されては困るが、本誌はTOKIOとの連携継続に反対しているわけではない。今まで福島県を応援し続けてくれたことには素直に感謝している。しかし、所属事務所に忌まわしい事件が起きてしまった以上は、モヤモヤ感が残ったまま応援してもらうより、㈱TOKIOにジャニーズ事務所との資本関係を見直してもらい、あらためて結び付きを深めていった方がいいのではないか。  この問題に限らず、内堀知事は難しい問題について踏み込んだ発言を一切しないので、関係見直しを提案することは考えにくいが、人権尊重とコンプライアンスの考えを持ち合わせているなら、先の「県の正式な考え方」を発表して終わるのではなく、県民が素直に歓迎できるよう、TOKIOとのスッキリした新しい関係を構築していくべきだ。 知事の責任を問う神山県議 神山悦子県議  県議会9月定例会は9月11日に開会し、13、14日に代表質問、19、20日に一般質問が行われた。代表質問は共産党の神山悦子議員、自民党の小林昭一議員、県民連合の亀岡義尚議員が質問台に立ち、それぞれが汚染水(ALPS処理水)の海洋放出に関する質問を行った。一般質問でも、質問した10人中3人がこの問題に触れた。  初日の代表質問について、地元紙は14日付紙面で伝えたが、海洋放出関連の質問・答弁は、福島民報では全く触れられておらず、福島民友では小さく扱われただけだった。  複数議員がこの問題を取り上げた中でも、神山悦子議員は「漁業者をはじめ、県民の合意がないまま海洋放出を強行した国と東京電力に強く抗議し、撤回中止を求めるべき」と迫った。  神山議員は「国、東京電力は県漁連と2015年8月に交わした『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』との約束を反故にした」、「知事はまるで他人事のように、『国が責任を持って対応すべきもの』と述べ、国に責任を丸投げしている。県民を代表する首長としてはいかがなものか」などと述べた。  そのうえで、「東京電力は先日、初回分の7788立方㍍の放出が完了したと発表し、設備の点検のため、現段階では放出を停止しています。海洋放出後に発生したこの間の国内外における様々な問題を見ても、このまま中止することが解決の確かな道ではないでしょうか? 漁業者との約束を反故にし、漁業者をはじめ、県民の合意がないまま海洋放出を強行した国と東京電力に強く抗議し、撤回中止を求めるべきと思いますが、知事の考えをうかがいます」として、内堀知事の見解を問うた。  これに対し、内堀知事はこう答弁した。  「海洋放出に当たっては、廃炉等を進めるうえで、やむを得ないとする意見がある一方で、海洋放出に反対する意見や、新たな風評を懸念する声など、様々な意見が示されています。処理水の海洋放出は、長期間にわたる取り組みが必要であり、安全の確保や新たな風評を生じさせないなど、万全な対策を徹底的に講じることが重要です。このため、8月22日に経済産業大臣に対し、あらためて安全確保の徹底や国内外への正確な情報発信、万全な風評対策に取り組むことに加え、特に水産業については、漁業関係者が風評の発生を強く懸念していることから、復興の取り組みを妨げることなく、将来にわたってなりわいを継続し、次世代へ確実につないでいけるよう、必要な対策を徹底的に講じることを強く求めました。処理水の問題は、福島県だけではなく、日本全体の問題です。引き続き、国に対し、国が前面に立ち、政府一丸となって、万全な対策を講じ、最後まで全責任を全うするよう求めていきます」  神山議員が再質問を行う。  「8月から福島復興共同センターが緊急に署名運動に取り組みました。これは海洋放出を強行しないことを求める緊急署名です。8月31日に7万1617人分の署名を国に提出しています。現時点でオンライン署名は約14万6000人分、紙ベース署名は約5600人分ですから合計約15万1600人分です。さらに、今回の海洋放出決定後に放出差し止め訴訟が福島地裁に提起されました。ここには漁業関係者も入っています。この間、こうした県民運動がいろいろありました」  「知事は2015年の県漁連と国、東京電力が交わした約束について何も触れていませんが、私はこれは重要な約束だったと思うんです。この約束が本当に守られているかどうか、私は客観的に見て破られたと思いますよ。いま、(1回目の海洋放出を終え、設備点検のために)止まっていますから、海洋放出をしないこの状態を県として、知事として国、東京電力に求めることが様々な問題を解決することになり、そういう立場だと思いますから、知事もう一度お答えいただけませんか」  内堀知事の答弁はこうだ。  「ALPS処理水の海洋放出について、県漁連は『ALPS処理水の放出事業が進み、廃炉が完遂した時点で、福島の漁業がなりわいとして継続していれば、約束は果たされたこととしたい』と述べられました。国、東京電力は、こうした漁業者の皆さんの思いをしっかり胸に刻み、新たな風評を生じさせないという決意のもと、漁業者の皆さんが将来にわたり漁業を継続していけるよう万全の対策を講じるなど、最後まで全責任を持って取り組むべきであると考えています」  最後に、神山議員は「そんな先の約束より、いまに注視して、それで皆さんの声を聞いていく、と。知事はそのくらいの立場に立つべきだと思います。いまちょうど(海洋放出が)止まっていますから、そういった声を聞いて判断すべきだと思いますので、中止という立場も踏まえてご答弁をお願いします」と訴えた。  内堀知事は次のように答弁した。  「ALPS処理水の海洋放出について、漁業者の皆さんからは風評被害などに対する不安や懸念、県産魚介類の販路拡大の支援などを求める意見とともに、我々の願いは漁業を続けていくというその一点であるといった切実な声を示されています。国、東京電力は、そうした漁業者の皆さんの思いを真摯に受け止め、新たな風評を生じさせないという決意のもと、漁業者の皆さんが将来にわたり漁業を継続していけるよう万全の対策を講じるなど、最後まで責任を持って取り組むべきであると考えています」  内堀知事はこれまで通り、「国の責任で」という姿勢に終始した。 国に従順な内堀知事 内堀雅雄知事  この間、本誌で何度も指摘してきたように、内堀知事は官僚出身ということもあってか「国に従順」との評価が定着している。その代表例として言われているのが、原発事故直後、国から県に寄せられたスピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報を、当時副知事だった内堀氏の判断で公表しなかったとされる問題。「国がスピーディの情報を公表していないのに、県が先駆けて公表するわけにはいかない」といった官僚気質がそうした事態を招いたと言われている。  ほかにもコロナ対策について、本誌では「基本は外出自粛などの徹底と、国民の生活保障、自粛に伴う事業者への減収補償のセットでなければならない。幸い福島県(県民、県内企業など)は原発賠償の経験から『補償』に関する知識があるから先行事例になれる。それを生かして、福島県が率先して事業者への減収補償を行えばいい。福島県がそれをやれば他地域に広がり、コロナ対策が実のあるものとなる」と指摘した。その一方で、「国が『休業補償はしない』という中で、国に従順な内堀知事がそれをやるとは思えないが……」とも書いた。  今回の問題も同様で、国への従順姿勢から海洋放出を黙認し、「国が責任を持って対応すべき」との見解しか示さない。福島県民の代表として役割を果たしているとは言い難い。

  • 【郡山市】選挙漫遊(県議選)

     取材日を11月5、6日に設定。3日の夕方に全候補者(12人)の事務所に電話をして、「5、6日のいずれかで、街頭演説や個人集会などの予定があれば教えてほしい。その様子を取材させてもらったうえで、終了後に5分くらい、次の予定があるならもっと短くてもいいので、候補者への個別取材の時間を設けてほしい。両日に街頭演説や個人集会などの予定がなければ、事務所で取材させてほしい」ということを依頼した。  その時点で、街頭演説や個人集会などの予定が把握できた、あるいは事務所での取材のアポイントが取れたのが10人。計ったように5日と6日で半々(5人ずつ)に分散した。もっとも、時間が被っていた人もいたので、その場合は手分けして取材に当たった。  残りの2人は流動的だったが、どちらも「お昼(12時から13時)は一度事務所に戻ると思う」とのことだったので、「5日から6日のお昼を目安に事務所に行くか電話をする」旨を伝えた。  こうして取材をスタート。2日間かけて、比較的、スムーズに全候補者に会うことができた。 担当:末永 補佐:本田 福島県議選【郡山市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=1756 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松郡山市の解説は29:16~ 定数10 立候補者12 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601621.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601654.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 今井久敏 https://www.youtube.com/watch?v=G6hR6C2WpO4  ――真っ先に取り組むべき県政の課題は。  「物価高騰対策と防災・減災ということに尽きると思います。それを徹底してやっていきます」  ――そのほかでは?  「原発処理水の問題を含めた復興の加速です。われわれが提案したイノベーション・コースト構想がしっかりと実を結ぶように取り組んでいきます」 一言メモ  公明党・山口那津男代表が応援に駆けつけたこともあり、演説会場の郡山駅前広場には多くの聴衆が集まった。警察・警備でかなりの厳戒態勢。その中で、動き回って写真撮影をしていたため、おそらく筆者は「注意人物」扱いだった。(末永) 山田平四郎 https://www.youtube.com/watch?v=F0pB6JNMgzE  ――この選挙戦での有権者の反応は。  「私の地元は田村町で、4年前の台風被害で選挙ムードではない部分がありました。それから見ると、地元では支援の輪が広がっていることを感じる一方、『いつ選挙ですか』と聞かれることもあり、関心という部分では分からない点もあります」  ――県政の課題は。  「内堀知事も大きな課題に挙げていますが、人口減少問題です。郡山市は微減にとどまっていますが、郡山市で育った子どもが大学進学等で都市部に出て、なかなか戻ってこない実態があります。事業承継の問題も含めて、魅力ある郡山市にしていかなければならないと思っています。東日本大震災、原発事故、令和元年東日本台風、昨年・一昨年の福島県沖地震がありましたが、災害に負けないまちづくりをしていかなければなりません。国会議員の先生方と一緒に、郡山市の地区ごとの課題を踏まえながら、まちづくりをしていかなければなりません」    一言メモ  事前連絡では「基本的には昼には事務所に戻る」とのことだったが、6日昼前に事務所に確認すると、「今日は昼は戻ってこない」という。ただ、「〇〇町の〇〇という食堂で昼食をとる予定だから、12時過ぎに行けば会える」とのこと。教えてもらった場所に行くと、事前に事務所から候補者に連絡があったようで、すんなり取材できた。(末永) 佐藤徹哉 https://www.youtube.com/watch?v=t1NCu14mPiw  ――この選挙戦で住民の声をどう受け止めているか。  「若者が活躍できる環境をつくることと、子育て世代の仲間からは、教育の充実、子育て支援の充実を求める声を数多くいただいています」  ――県議会では、県立高校の空き校舎の問題について質問を行っていた。  「空き校舎は、上手く活用することで地域の発展に寄与できるものだと思っています。受け入れる自治体がどう扱うか。郡山市は安積高校御館校が対象で、立地的に人が集まる場所ではありません。逆に、大きな音を出しても問題なければ、楽団の練習、夜間の合唱の練習に使わせてもらいたい、といった要望はあります。決定権は郡山市にあるので、市にどう訴えていくかが今後の課題です」 一言メモ  本誌の問い合わせに対して、候補者本人から「事務所で取材を受けます。事務所の雰囲気も見てほしいので」と連絡があった。実際、事務所を訪ねると、若い人が多いのが目に付いた。(末永) 高橋翔 https://www.youtube.com/watch?v=TnGRnB_Q_-M  ――今回の選挙の位置付けは?  「郡山市は当初、無投票が予想されていました。人材不足が顕著で、現職が後継者を育てられてない。同じ顔ぶれで、選挙公報を見ても言っていることも同じ。そのレベルなんですよ。そもそも、この4年間で『県議ってどこで何をしているの?』という声が結構多かったので、そこを改善するために、民間人・有権者側の立場で立候補することにしました」  ――今回は選挙区である郡山市だけでなく、県内全域を回っているそうだが。  「郡山選挙区から立候補したから、ほかは関係ないという考え方は危険だと思います。それは僕からしたら当たり前のこと。若い人は、そういうスケールの小さい考えの人の方が少ない。いまはそういう若い人は選挙に行かないかもしれない。でも、いずれ選挙に関わるようになったときに履歴がない。30代で立候補する人はほとんどいないから。若手が本当の意味での無所属で立候補した場合、どれだけ求められているか。僕がその履歴をつくる意味もあります」  一言メモ  演説内容を聞いても、個別取材でも、1人だけ「異質」で、フラットな視点で見るならば、最も興味深い人物。もちろん、それが良いか悪いかは有権者の判断による。(末永) 佐藤憲保 https://www.youtube.com/watch?v=W6F8KQenANs  ――地域の課題は。  「郡山市は、他地域に比べて若い世帯が多いが、少子高齢化が迫っている流れは同じ。県の中心である郡山市がもっと経済中心地にならなければなりませんが、まだまだそうはなっていません。郡山市を経済中心地として発展させていく必要があります。震災後は、逢瀬ワイナリーや医療機器開発支援センター、三春町の環境創造センターの誘致を行い、これらを郡山市ならびに周辺地域の経済発展の核にしていきたいと思っていましたが、リンクした民間企業の貼り付けがなかなか進んでいないのが課題です。機能的、有機的に連携して民間企業の誘致を進めていきたい」  ――県全体の課題は。  「やはり震災復興。東日本大震災の復興は一定の形になってきたが、原発事故・廃炉を抱える県にとって、廃炉が終了するまでは課題として対応していく」 一言メモ  事務所での取材とは別に、JR舞木駅での街頭演説(11月6日13時55分から)を取材。平日にも関わらず約20名の群衆がおり、固定支持者層の厚さを見た。在任期間が長く人脈も広い。コロナ対応の話などに聞き入った。(本田) 二瓶陽一 https://www.youtube.com/watch?v=tdYBBR3r0GM  ――立候補の経緯は。  「郡山市を良くしようと8月の郡山市議選に立候補しましたが、落選したため実現できませんでした。私も71歳ですから、4年後の市議選を目指すよりも、元気なうちにやりたいことをやらなければならないと思い、今回の県議選への立候補を決めました」  ――ズバリ、県政の課題は。  「県議のこの4年間の任期は、あまり活躍の場が見られなかった。コロナで、そういう場に恵まれなかったのかもしれませんが、あまりにもないので、このままでいいのか、と。そうした中で、私はインバウンド計画、英語オンライン教育推進などに取り組みたいと思っています」   一言メモ  市議選では「日本維新の会」から立候補。ただ、「政策的に合わない部分もある」と今回は無所属に。政党などに縛られない自由な視点・発想を売りにしている。(末永) 神山悦子 https://www.youtube.com/watch?v=JxtEHjADPrw  ――県政の課題は。  「多数あるが、まずは暮らしを守ること。県内の86%が学校給食費を無料にしており、県が半分補助すれば県内全市町村が給食費半額になります。そういった資金を出せるだけの財源もあります。『子育て日本一』と謳っている福島県であり、国でも検討を始めたいまだからこそ、県として実施すれば全国トップクラスになると思います。  震災後、18歳以下の医療費無料を公約で掲げて実現しました。これも全国でいち早い取り組みでした。県民が原発事故や様々な災害に苦しんでいる中でも、まずは子どもを守る。教育費の負担軽減を県が率先してやるべきです。  県は『健康長寿県』も謳っているが、であれば高齢者のバス代無料化やタクシー補助を行うべき。どちらも県内自治体では実施しているところが多く、県が率先し全県で進めるべき。  医療面でも、医師不足が続いており、震災によってさらに大変になっています。そういった部分に優先して予算を回すべきです。  中には、『年を越せるのか』と不安視している事業者もいます。そのような県民の暮らしの痛みを感じて、そういった方々の暮らしを守るために予算を投じることを、知事の判断でやるべきです。そうなっていないのが県政の一番の課題だと思います」 一言メモ  住宅地での街頭演説。群衆はそれほど多くないが、花束を持って応援に来る支持者もおり、アットホームな雰囲気。給食費無料化や高齢者向けのタクシー補助など、訴える内容も生活に寄り添った事柄が多かった。(本田) 鈴木優樹 https://www.youtube.com/watch?v=whtXAY6sn9E  ――県政の課題は。  「復興と、人口減対策ですね。特に、復興の部分は浜通りが多い。それは当然ですが、中通り、会津も含めたオールふくしまでやっていかなければならないと思います」  ――有権者から何を求められていると感じるか。  「政治に対する不満があるのだと思いますが、訴えたことに対する跳ね返り、それは声だけでなく顔(表情)を含めて、厳しいなと感じています。政治への不信感を払拭して、参加しよう、自分たちの意思表示をしようと思ってもらえるようにしなければなりません。ただ、われわれはすべての方に接触はできない。ですから、こういうところ(個人演説会に来てくれた人)から広めてもらう。われわれも発信していくような地道な作業が必要だと思います」   一言メモ  安原地区での個人演説会を取材。広い郡山市内でも、本来の地盤ではないところで、自発的(地元町会主導)に後援会がつくられたという。地元住民は「地元選出の市議会議員とのタッグでの活躍を期待している」と話していた。(末永) 佐久間俊男 https://www.youtube.com/watch?v=_ZpgUSpL-OA   ――今日で告示から5日目になりますが、有権者の声をどう捉えていますか。  「人口減少の現状をしっかりと捉えて選挙戦に臨んでほしいという声が多いですね。もう1つは、もっともっと魅力ある郡山にして、若者の県外流出を抑制できるようにしてほしい、と。これは私も同じ思いです」  ――それを踏まえ、県政ではどういった活動をしていくか。  「選挙でいただいた意見を県政に伝えていくわけですが、限られた予算の中で、県民生活に直結する部分への予算配分にもっと重きを置くべき。そういったことを訴えていきたいと思います」 一言メモ  馬場雄基衆議院議員らが応援演説に駆けつける。下校途中の中学生から「頑張れー」と声をかけられていた。(末永) 長尾トモ子 https://www.youtube.com/watch?v=1WvkS95D9gY  ――県政の一番の課題は。  「少子高齢化の問題に加え、震災・原発事故から12年7カ月が経ち、浜通り、双葉地区の人口減少が進んでいる中、新しいふくしまの産業を充実させていかなければなりません。国、国際研究機構と連携しながら、地元の人たちが活躍できるような場をつくっていくことが課題だと思います。もう1つは、会津地方をはじめ、県内広域で農業が衰退しているので、農業のあり方を変えながら、素晴らしい福島県の農産物を継承できるような仕組みをつくっていなかればなりません」  ――地元・郡山としてはどうでしょうか。  「私は県議会議員ですから、郡山だけでなく、会津も、いわきも、広い視点で福島県を見ていきたい。その中でも、私は45年間、幼稚園・保育園の園長をしてきましたから、子どもたちがどういうふうに育っていくのか、社会でどんな活躍をするのか、自分をどう表現するのか、その機会をつくることが得意とする分野ですので、そのための活動をしていきたい」   一言メモ  選挙期間中は毎日、平日の朝8時から郡山駅前で街頭演説をしているという。取材日は、障がいを持つ子どもの母親、障がい者支援団体の関係者らが応援に駆けつけ、マイクを握った。(末永) 椎根健雄 https://www.youtube.com/watch?v=ULAyLeT9vFQ  ――今日の演説で強調していたコロナ後の対策、物価高対策について具体的には。  「県では石油・ガスの支援を行っており、それを拡大させるべく、今後の補正予算や、2月には当初予算審議が行われますので、しっかりと会派として執行部に訴えていきたい」  ――そのほかの課題は?  「少子高齢化が進んでおり、限られた財源の中で、いかに子育て世代に財源を持っていくかということと、医療・福祉・介護の問題にしっかりと取り組んでいきたい」   一言メモ  佐藤雄平前知事、玄葉光一郎衆院議員らが駆けつけるなど、個人演説会は盛況。(末永) 山口信雄 https://www.youtube.com/watch?v=ixAEI6CI8hk  ――選挙戦で有権者の思いをどのように受け止めているか。  「コロナがあり、事業に対する不安の声などが多く聞かれました。コロナからの経済復活のため、郡山市から県に、県から国に伝えていかなければならないと思っています」  ――県全体の課題は。  「一番は人口減少、流出です。あとは復興に関する部分ですが、エフレイ(福島国際研究教育機構)との連携、効果を浜通りだけでなく、全県に広げていけるようにしていかなければならないと思います」   一言メモ  安積地区での集会を取材。安積町は令和元年東日本台風の被害が大きく、支持者の中にも被災者がいた。山口候補自身、防災士の資格を持っており、県議として水害対応や防災を望む声が多かった。(本田)

  • 【いわき市】選挙漫遊(県議選)

       「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。  11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。  11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当:志賀 補佐:荻野 福島県議選【いわき市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=3730 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松いわき市の解説は1:02:10~ 定数10 立候補者13 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601557.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601653.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 安田成一 https://www.youtube.com/watch?v=47YD6DvqYVs  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。 「いわき市に関しては、水害被害が起きたことを考えると、防災対策、災害に強いまちづくりをしっかり進めることが最大の課題と考えています。令和元年東日本台風のときは市議だったが、河川改修を早く進めてもらいたいという要望を受けても、市としてなかなか対応できない面があった。その時のもどかしい思いから県議会への立候補を決意した。  3年経って二級河川の改修工事が進められたが、支流の方が進んでいない。先月には線状降水帯の影響による水害も発生した。いわき市とタッグを組んで予算をつけ、できる限り早く改修工事を進めることで安心して暮らせるまちづくりを実現したいと思っています。  エフレイとの連携も必要だと思っています。福島高専、東日本国際大学と人材育成の面で協定も結んでいるので、新産業をいわき市、福島県に根付かせて、そこで雇用創出につながれば人口減少の予測も変わってくるのではないかと考えています。優秀な人材がいわき市、福島県に留まってもらう取り組み、戻ってきてもらう取り組みを強力に進めて貰えればと考えています」 一言メモ  ロードバイクで駆け付けた支持者がちらほら(趣味仲間?)。演説に耳を傾けていたのは40~50代の子育て世代が中心で、女性もほかの陣営より見受けられた。今回回った中で一番支持者の幅が広いと感じた。新人候補だがもともといわき市議だったこともあって、知名度も高いのだろうか。(荻野) 鳥居作弥 https://www.youtube.com/watch?v=B4cQKb5wLJk  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「僕は今回の選挙では、単純に子育てと教育と福祉というところしか訴えていません。特に子育て支援と高齢者福祉は近いものだと考えていて、2つを組み合わせて対策を講じることが重要だと考えています。例えば特定の地域のみで働ける『地域限定保育士』という制度があるので、それを活用して、高齢者の皆さんが働けるようにしてもいい。その方法を考えるのは政治の役割です」  ――日本維新の会から県議選に立候補した理由について。  「分かりにくい政治にジレンマがあった。例えばALPS処理水についても、反対するのはいいが、その後どうするの?ってなってしまう。そういう意味で、日本維新の会が掲げる政策ははっきりしていて分かりやすい。ALPS処理水について、私は『全国各地で分担して捨てましょう。そうすれば早く放出できて、福島県への負担も最小限で抑えられる』と訴えています。人間関係で選挙をやるのではなく、分かりやすい政策を的確な言葉で伝えられるという点で日本維新の会はいい政党だと感じます」 一言メモ  演説会場のイオンモールいわき小名浜前は、目の前が「ツール・ド・いわき」ゴール地点になっており、イベントの音声がガンガン流れてくるトホホな環境。ただ、車や歩道橋から手を振る人もおり、着実に支持が広まっている様子も感じた。汚染水(ALPS処理水)放出について、「福島から30年以上も海洋放出したら負担が大きくなる。日本全国から放出したら数年で終わるはず」と主張。その是非はともかく、選挙という場で、独自性のある意見を主張していく姿勢は歓迎したい。(志賀) 吉田英策 https://www.youtube.com/watch?v=1scL7EG_A4k  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「福島県の財政力は全国3位だが、復興と称した大型開発や道路整備にばかりお金が使われていると感じています。県民の暮らしを応援するという視点から、教育や子育てなどに予算を割くべきです。特にいわきは医師数が少ないので医療機関の充実に充実させるべきだと思います」  ――今年2月の一般質問で会計年度任用職員の雇い止めについて質問していました。是正はされたでしょうか。  「1年契約ではあるもののボーナスを支給するということだったが、実際は労働時間が短縮されただけだったりして総額が増えているわけではない。一般の職員の待遇に改善することが必要だと思います」 一言メモ  共産党独自のしきたりなのか、本人到着までに支持者が歩道に横並びで〝戦争やめろ!〟などのコールを行っていた場面が印象的。支持者の方々と触れ合う写真を撮ろうとしたが、場所が郵便局の真向かいであまり長居できる場所ではなかったため、演説が終わると即時撤収。ある意味場馴れしているというか、統率が取れている感じを抱いた。(荻野) 真山祐一 https://www.youtube.com/watch?v=qVYED1Pb2Zc  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「課題はたくさんあります。中でも水害対策に関しては、流域治水をしっかり進めていくべきだと訴えています。『防災減災を社会の主流にしていくべきだ』というのは公明党がここ数年来主張していることです」  ――令和5年6月議会の一般質問では、「金属スクラップヤードでの事故を防ぐために許可制にして指導監視を強化しては」と指摘していました。県執行部は質問を受けて何か具体的に動いたでしょうか。  「『不適切な事例があれば県としての指導監視を図っていく』という答弁でしたが、具体的に条例ができたり、変化が起きているというところには至っていません。そういう意味ではまだこれからの課題だと思います」 一言メモ  JRいわき駅前で、山口那津男公明党代表が応援に来る街頭演説会を実施。駅前のペデストリアンデッキ、ラトブ前が多くの公明党支持者で埋めつくされ、お祭り・フェスのような熱気。市外からも応援に来ていた模様。山口代表が繰り返していた「ネットワーク」の強さをあらためて実感した次第。(志賀) 西丸武進 https://www.youtube.com/watch?v=_ssuXAFt_nI  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。 「1つは震災・原発事故からの復興です。復旧工事は行われていますが〝創生〟には至っていないので、そういう視点で復興を進めるべきです。2つはコロナ対応。まだ安心できない状況なので、いま受け皿対策や公衆衛生の管理の充実を徹底していく必要があります。3つは〝汚染水〟海洋投棄の問題です。投棄が完了するまで30年以上かかるとされることを踏まえ、県民の命を守るというスタンスで、問題が風化することない監視体制を構築する必要があります。環境、教育、福祉の充実・強化にもしっかり努めていきます」  ――昨年12月議会の代表質問で、JRの赤字路線への県の対応について質問していました。人口減少で鉄道維持が容易でなくなる中、県がどのように支援していくべきだと考えますか。  「県内の赤字路線では、まず地域住民の組織を作り、問題意識を共有化してから、行政が住民組織の提言を取りまとめ、財源の作り方を考えていく、という流れになっています。そういう意味では、まず地域ごと、駅ごとにまとまって組織を作っていけるかが重要になると思います。その道筋は行政側が責任を持って提供するべきです」 一言メモ  19時開始の個人演説会だけあって、力が入った長尺の演説。前段の後援会長のあいさつも力が入っていた。7期のベテラン議員だが、今回立候補した新人4人のうち2人は元いわき市議、ほか2人もそれぞれ維新公認、れいわ推薦を受けていることもあって、かなり警戒してる様子が見られた(荻野) 宮川絵美子 https://www.youtube.com/watch?v=467NOJKf-lw  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「県執行部には県民の生の声を聞いてほしい。給料はなかなか上がらないし、世論調査では教育費の負担を軽くしてほしいという声も多い。高校入学時のタブレット購入費を生徒が負担しているのは、東北では福島県だけです。高齢者の足の確保など高齢者支援も問題です。県議会ではその都度質問しています」  ――質問をすることで県執行部の対応は変わっていますか。  「問題提起をすると少し変わってくる。学校給食の無料化を訴えていたら、県内市町村が導入するようになった。子どもの医療費の無料化についても主張していたら、12年前の県議選の後に無料化が実現した。選挙は世論を喚起するチャンスであり、ずっと運動を続けてきたことに焦点が当たって、選挙の節目で変わっていくことも多いので、主張を続けることに意義があると考えています」 一言メモ  イオンモールいわき小名浜前の道路沿いで、施設に向かって演説する宮川候補。買い物客は足を止めることなく施設に入っていった。定数10に対し13人が立候補する激戦区だが、有権者の盛り上がりは今ひとつ……という状況を象徴する光景だった。(志賀) 矢吹貢一 動画撮れず。 取材に応じず。 一言メモ  事前に事務所に確認したところ、「事務所の方針で街角演説をする考えはありません。市内で一日選挙カーを走らせて、20時ごろ事務所に戻る予定です」とのこと。やむなく20時前に事務所に訪れ、スタッフとともに戻ってきた選挙カーを出迎えた。降りてきた矢吹候補に「政経東北です。ちょっとお話しお聞かせいただけないですか」と話しかけると、あからさまに苦笑いを浮かべ、無言で手を横に振りながら事務所内に入っていった。  しばらく外で待っていると、スタッフが出てきて「すみません、これから打ち合わせなので……。明日も街頭演説の予定はなく、戻ってきた後も時間が取れません。せっかく来ていただいたのにすみません」と謝られた。街頭演説もせずマスコミ取材にも応じないということは、自分の意見を広く知ってもらえる機会を放棄しているようなもの。矢吹陣営としては、新たな票の開拓は必要なく、既存の支持者を対象とした演説会で余裕で当選できるという判断なのだろう。  翌朝8時過ぎ、宿泊したいわき駅前のホテルで仕事をしていたら、矢吹候補の選挙カーの声が聞こえてきた。急いで窓から外を眺めたが見つけられず、そのまま声は小さくなっていった。(志賀) 安部泰男 https://www.youtube.com/watch?v=lhjMYDQJjt0  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「これまで信念として取り組んできたのは、住民が安全に暮らせる環境を作るということであり、防災・減災に対する思いは強いです」  ――9月議会の一般質問ではパートナーシップ・ファミリーシップ制度の導入について質問していました。県執行部は質問を受けて何か具体的に動きましたか。  「LGBT当事者の方から直接相談を受けて質問したものです。男女共同参画社会を築くために差別のない社会を築く、という県の方針を示したうえで、総括質疑では導入に向けてやっていくと答弁していました。県内市町村で導入の動きが加速しているのに県が何もやらないわけにはいかないと思います」 一言メモ  山口那津男公明党代表が応援に来ることもあって、エブリア北側駐車場の一角に公明党支持者100~200人が集結。SP・警察も多数。そのにぎわいに圧倒される。「いわき市に免許センターがないので、免許証がすぐにもらえない。県内で最も人口が多いのに。改善すべきだ」という主張はこの地域に住んでいなければ分からない視点で、ハッとさせられた。これこそ選挙漫遊の魅力。(志賀) 古市三久 https://www.youtube.com/watch?v=YV0IrOHy6O0  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。 「人口減少、少子高齢化で地域が衰退していることです。中山間地では草刈りをする人も減っており、自分で買い物に行くのも難しいという人が現実にいる。もし当選できたら総括質疑という形でなく、一般質問で問題提起したい」  ――ALPS処理水の海洋放出反対のスタンスを取っており、県議会でも陸上保管すべきと主張していたが、県は国の海洋放出方針に追随する形になりました。   「内堀雅雄知事が県民を代表して反対の声明を出すべきだったと考えています。これは新聞社などのアンケートにも書いている点です」 一言メモ  処理水海洋放出、原発事故収束作業に正面から疑問を呈するスタンス。海に面するいわき市選挙区でも意外とこういう演説は少ない。平日ということもあってか聴衆は2、3人だった。(志賀) 鈴木智 https://www.youtube.com/watch?v=CCwk0J33tMs  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「いわきにおいては水害対応だと考えています。自民党県連の動きと連動して、発災翌日から内堀雅雄知事に現地視察に入ってもらい、被害状況や地域の皆さんの声を聞いてもらいました」  ――令和5年9月議会の一般質問で、ドライバー不足が小名浜港の貨物に与える影響について質問していました。  「小名浜港に影響が出るのであれば質問しなければならないと考えた次第です。問題が可視化されるのに加え、県執行部も私も理解も深まるので、こうした質問をするのは意義があることだと考えています」 一言メモ  3連休最終日に予定されていた鹿島公民館での個人演説会。前回選挙では8位当選(定数10)だったこともあってか、応援弁士や陣営幹部からは気を引き締めるよう求める発言が続出。坂本竜太郎氏の県議選立候補見合わせで、逆に混乱している印象だった。(志賀) 青木稔 https://www.youtube.com/watch?v=Y0yiCo0MrsU  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「演説でも触れたが、やっぱり一番のポイントは人口減少。安心して働ける企業を誘致できるかが重要になると思う。そういう意味で注目しているのが福島イノベーション・コースト構想であり、エフレイ(福島国際研究教育機構)です。実現すれば必ず有力企業が来るので、いかにいわきの方につなげられるかが重要になります。そのために私も自民党県連としての立場でできる限りのことに取り組む考えです」  ――現在9期目で、演説では当初立候補を見合わせる方針だったという話もありました。  「年齢も年齢なので家族と相談して立候補を見合わせる決意をして、周囲にも伝えていましたが、さまざまな方から要請を受け、再び立候補することを決意しました」 一言メモ  地元・中央台の公民館で個人演説会を開催。参加者は約30人でほとんどが年配の方々。自民党県連いわき支部の重鎮ということもあって、森雅子参院議員のほか、今後の動向が注目される坂本竜太郎県議、市議らが応援演説に駆けつけた。1945(昭和20)年生まれで、いわき市議時代を含め議員生活は40年以上に上る。最後は10選に向けてガンバロー三唱。パワフルさでは誰にも負けていない。(志賀) 木村謙一郎 https://www.youtube.com/watch?v=ZVBagsrdRFQ    ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「河川整備を進めて水害の減災・防災に努めるのも必要だし、一次産業の後継者不足も深刻です。一番大きいのは人口減少ですね。都市部、山間部、それぞれ事情が異なるので、しっかり議論して解決していかなければならないと思います」  ――立候補を決意した理由は。  「11年にわたり市議会議員として活動してきましたが、市議会議員では解決できない問題にたびたび直面してきました。たとえば医療問題などは県にイニシアチブを発揮してもらわなければ改善は難しい。加えて現役世代として声を聞いてほしいという思いや、いわき市の中心部から外れた久之浜地域を代表する立場から県議会で意見を述べていきたいと思いがあり、立候補を決意しました」 一言メモ  昼前の時間帯にしては人の集まりがまばらだった。支持者は子育て世代と高齢者の人が中心の印象。演説でも触れていたように「久之浜地区から県議を!」という気概が非常に強く、地元での遊説の様子も気になるところ。(荻野) 山口洋太 https://www.youtube.com/watch?v=fX1X0UkWfaM  ――県政・県土の課題、いわきの課題と感じる点は。  「演説でお話しした通り、現役医師としていわき市で働くようになって医療体制に課題を感じ、そこを改善すべきだと考えたので立候補を決意しました」  ――れいわ新選組の推薦を受けていますが、無所属で立候補した理由は。 「基本的には特定の政党に属さず、市民から聞いた話を基に政策を打ち出していきたいと考えています。これまで1万8000軒を超えるお宅にお邪魔して話を聞いてきました」 一言メモ  演説予定場所の商業施設前に、ピンク色の選挙カーがさっそうと登場。聴衆は支持者と思われる高齢者が数人。車内から手を振るドライバーも。「この間1万8000軒以上を訪問した」という言葉は伊達じゃないということか。33歳という若さ、現役医師が医師不足解消を訴える点も支持拡大につながっている様子。(志賀)

  • 【会津若松市】選挙漫遊(県議選)

     「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。  11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。  11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当 佐藤仁 福島県議選【会津若松市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=5569 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松会津若松市の解説は1:32:49~ 定数4 立候補者5 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601555.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601647.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 水野さち子 https://www.youtube.com/watch?v=b3Eu3Gw4XPk 候補者のコメント  私は7月の会津若松市長選に立候補しましたが、あれだけ票を離されれば(※4選された室井照平氏が2万3231票に対し、水野氏は1万3738票)、市民の皆さんは現状維持を望んだのだろうと思います。県議を2期務め、2019年の参院選に落選した後、4年間の浪人生活を経て臨んだ市長選だったので、いったんは全ての電話も解約して区切りをつける考えでした。しかし、支援者への挨拶回りをする中で「これで終わってもらっては困る」「議員として働いてほしい」というたくさんの声をいただき、私自身も「自分の人生、これで終わっていいのか」と8月いっぱい熟慮した結果、3期目を目指して県議選に挑むことを決断しました。「市長選に出たのは県議選を見越して」という見方があるのは承知していますが、身近な人ほど私の真意を理解してくれていると思っています。  まずは会津若松市が先頭に立って会津の基幹産業である観光の再興を成し遂げることが大切です。そうすることで交流人口、関係人口が増加し、地域経済が活性化していくと考えます。只見線が注目を集める中、二次交通の整備や飲食、お土産、宿泊など県の立場でできること、県と会津17市町村が連携してやるべきこと、国にお願いすべきこと等々、でき得る施策はあるんだろうと思います。また、0~2歳児の保育料を所得制限なしで無償化することや、デジタル田園都市国家構想を生かして認知症の早期発見・治療を可能とするシステムをつくるなど、県独自では難しい施策を国と連携しながら実現を目指したい。  私は無所属で活動しています。他の政党からお声がけがあったのは事実ですし、今回も山口和之さん(日本維新の会所属の元参院議員)からため書きをいただきましたが、無所属なので「来るもの拒まず」のスタンスをとっています。 一言メモ  街頭演説は国道49号の大きな交差点で行ったため、足を止める人は皆無。ただ、車から手を振る人は数人いた。事務所は女性スタッフばかり。水野候補は「意識したわけではないが、支えてくれる人が集まったらこうなった」と話す。(佐藤仁) 佐藤義憲 https://www.youtube.com/watch?v=ywda67vOQQ4 候補者のコメント  今、福島県の課題は大きく二つあります。一つは人口減少、もう一つは次世代を育てる教育です。  大変残念なことですが、福島県では教員の不祥事が後を絶ちません。内堀雅雄知事も何とかしなければならないと悩んでおられますが、教員の質を上げると当時に教育の質も上げることが非常に重要と考えます。教員の働き方改革を進め、スリム化すべきところはスリム化する。そうやって教員の質を上げれば教育の質も上がっていくので、そこは現場に言うべきことを言っていきたいと思います。  その上で人口減少を考えた時、移住・定住をするにはその地域の教育レベルも一つの選択肢になるので、そこをしっかりやらないと、福島県は移住先の選択肢の中に入っていかないんだろうと思います。 一言メモ  メガドンキの前で街頭演説を行ったこともあり、若い買い物客数人が立ち止まって聞いていた。中学生くらいの男子2人も近くで演説を聞いていた。この場所を選んだのは、メガドンキ内に期日前投票所が設けられているため、投票を棄権しないように呼びかけることと、投票するなら自分の名前を書いてもらおうという狙いがあったようだ。  応援弁士として広瀬めぐみ参院議員(岩手選挙区)が駆け付ける。大竹俊哉市議、長谷川純一市議の姿もあった。(佐藤仁) 佐藤郁雄 https://www.youtube.com/watch?v=W9DUoKJU6NA 取材に応じず。 一言メモ  当初は取材に応じるとしていたが、当日になって事務所から「現在当落線上におり、大変厳しい選挙となっている。1人でも多くの有権者と接するには5分でも10分でも時間が惜しい。大変勝手を言って申し訳ないが、取材は遠慮させてほしい」という断わりの連絡が入る。  街頭演説には広瀬めぐみ参院議員(岩手選挙区)が駆け付ける。スタッフ10人弱、支持者10人弱と多くはなく、立ち止まって演説を聞く人は皆無だったが、佐藤氏を支持する人が集まったこともあり、一定の熱量は感じられた。  一方、当落線上にいることは本人も実感しているのか、少し落ち着かない様子も見られ、街頭演説の開始は14時半からなのに、14時25分ごろに「もう始めてもいいかな」と言い、支持者から「慌てるな。あと5分あるぞ」とたしなめられるシーンもあった。(佐藤仁) 渡部優生 https://www.youtube.com/watch?v=0X2lJQhc2MY 候補者のコメント   まずは災害に強い県土づくりが大切です。毎年のように大きな災害が発生し、県民の命に関わる状況が起きているので、早急に対応する必要があります。建物や橋などの耐震強化や河道掘削など、県が取り組むべきことはたくさんあると思います。  震災・原発事故からの復興も大切です。令和7年度で「第2期復興・創生期間」が切れますが、県内を見渡すと復興はまだまだ道半ばです。第3期への計画延長と、その裏付けとなる予算をどう確保するかは福島県にとって喫緊の課題です。  急速に進む人口減少にどう対応するかも問題です。人口流出をいかに食い止めるか、そして流入を促すために魅力的な雇用の場を生み出せるか。企業誘致と産業基盤強化は私が最も訴えている政策の一つです。  どうも今の福島県はイノベーション・コースト構想やロボット、水素や廃炉など、浜通りに設置した次世代産業に目を向けがちですが、現実的には自動車や半導体など、国が注力している産業やサプライチェーンにもっと注目してもいいのではないかと考えます。  会津ならではの産業、具体的には観光、農林業、酒や漆器に代表される地場産業、さらには会津大学と地元資源の掘り起こしや磨き上げも必要なんだろうと感じています。 一言メモ  前日に事務所に問い合わせた際、街頭演説は「18時半からリオン・ドール会津アピオ店前」と伝えられていたが、実際はそれより1時間も早い17時半から始まっていた。おかげで渡部候補の街頭演説の動画を収録できなかった。現場にいた事務所スタッフに「予定では18時半からではなかったか」と尋ねると「変更になったことを連絡しようと思っていたが忘れていた」とのこと。スタッフの対応の良し悪しは候補者の評判に直結するので、注意されてはいかがだろうか。  演説には小熊慎司衆院議員と馬場雄基衆院議員が駆け付ける。夕方で辺りは暗く、足を止めて演説を聞く人は皆無。ただ、10人近い支持者が集まり、拍手と声援を送っていた。(佐藤仁) 宮下雅志 https://www.youtube.com/watch?v=HHc1ct7vu14 候補者のコメント   人口減少が一番の課題だと思います。選挙戦では、今やらないと間に合わない、そこに真正面から取り組むべきだと強く訴えています。  それと同時に、安心・安全な暮らしを送れるよう雇用の創出や景気対策、医療・福祉や災害対応などを進めていくことが大切です。こうした取り組みが地域の魅力を高め、ここに住み続けたいと思う、あるいは他の地域から移住したいと思う条件になると考えます。併せて、そこに高い文化力も備わってくればワクワクした地域となり、自然とそこに住みたい、住み続けたいという気持ちが芽生えてくるのではないか。  会津には「ならぬものはならぬ」という考え方があります。それを地場のものづくりに照らし、若者を中心としたごまかしの利かない、真面目なものづくり産地を構築していけば人間力の向上にもつながると思います。文化力と人間力で地域の魅力を高める、これが私の持論です。  正直、こうした取り組みは非常に長くかかるし、すぐに結果が出るわけではなりません。しかし、人口減少が急速に進む中、今始めないと間に合わなくなるというのが今回の私の最大の主張です。  人口減少は何か一つやれば解決するものではありません。ただ、これまでと同じことをやっていては意味がなく、子育て支援についても今までの常識にとらわれない大胆な財政出動等をする必要があるんだろうと思います。県独自でやれることはきちんとやりつつ、国に求めることはしっかり求めていく。それをスピード感を持って、他県に先駆けてやらないと福島県としての特色は出せないと思います。 一言メモ  個人演説会は19時から一箕公民館で。用意した30席に対し25人くらい集まる。演説の後は出席者から鋭い質問も寄せられ、宮下候補が答える場面もあった。集まったのは熱心な支持者ということもあり、それなりの熱が感じられた。  小熊慎司衆院議員が応援弁士を務め、馬場雄基衆院議員が来賓として出席していた。(佐藤仁)

  • 【福島市】選挙漫遊(県議選)

    マスコミが伝えない候補者の人柄 月刊「政経東北」11月号に、本誌に連載していただいている畠山理仁さんの映画「NO選挙,NO LIFE」公開を記念したインタビュー記事を掲載した。畠山さん、前田亜紀監督、大島新プロデューサーに映画の見どころや選挙の魅力について語ってもらったもの。 詳細は誌面で読んでいただきたいが、選挙取材にかける畠山さんの情熱に触れて、本誌記者は居ても立っても居られなくなり、このたび新たな企画に挑戦することになった。 その名も「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。 11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。 11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当 佐藤大 補佐 佐々木 福島県議選【福島市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=597 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松福島市の解説は9:57~ 定数8 立候補者9 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601554.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601651.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 誉田憲孝 https://www.youtube.com/watch?v=mRf88TnrX5o  ――県政、県土の課題は?  「回っていて一番言われるのはやっぱり物価高です。家計のやりくりが厳しくなっているという方が現実的に多いですね。家庭の収入を上げていくためには、中小企業へのテコ入れが必要でしょう。  農業についても、いろんな資材費用などが高くなっているので、それをいかに価格に乗せていくかが課題だと思います。 ほかにも、『今年はリンゴの色づきがすごく悪い』などの話も聞きました。そういった気候変動に対する農業の手当なども大事になってくると思います」  ――立候補した理由は?  「市議を8年務め、いろんな政策を立案してきましたが、市の財政状況が厳しいという現実があり、市議会だけではどうしようもない部分がありました。そういったものを解決していくためには、予算なども含め県のテコ入れが必要だろうと感じていたので、自分が市と県の繋ぎ役になりたいと考えました」 一言メモ 街頭演説の場所も相まってか「アットホーム」を感じる選挙活動に思えた。4年前の雪辱を晴らすため、新人ならではの「必死さ」も感じ取れ、取材にも快く応じていただき、好印象だった。事務所から取材を終えて帰るときに「お見送り」までする徹底っぷり。 根っからの明るさや笑顔がひしひしと伝わってきたので、「人前に出るってことは、こういうことを自然にできる人」なんだなと感じた。(佐藤大) 佐藤雅裕 https://www.youtube.com/watch?v=SICPZdOyuhk  ――県政・県土の課題は。  「街頭演説でも話した通り、人口減少に尽きます。①事業者の人手不足、後継者不足、②地域活動の担い手不足、③マーケットの縮小などの影響が出ると考えられ、進行すれば地域が維持できなくなるので、早急に対策を講じる必要があります。地域の魅力づくり、産業振興など、総合的に底上げしていかないと解決しない問題だと思うので、たとえ商工業についての質問・意見を出す際も、必ず人口減少を踏まえた形で行うようにしています」  ――令和3年2月議会で、相馬福島道路霊山インターチェンジと福島市中心部のアクセスを良くするため、県道山口渡利線を整備すべき、と質問していました。その後、整備状況に変化はありましたか。   「実現するとなれば、県単独ではなく、福島市や地元経済界、国も巻き込んだ大きな事業になります。県の担当職員などとやり取りする中で質問したもので、整備に向けたコンセンサスは形成されつつあると思います」 一言メモ 選挙スタッフに取材をお願いし、「忙しいところ申し訳ないが、取材可否の折り返しの電話をいただきたい」と伝えたが、折り返しがなかった。 翌日、「取材の件はどうなりましたか?」と選挙スタッフに問い合わせをすると、選挙スタッフが「あれ? 奥様から折り返しの電話いってないですか?」と言われ、私は「来てません」と伝えた。 その後、街頭演説の写真と動画の撮影をしに行った際、佐藤候補に直接「2,3分、取材をよろしいでしょうか」と尋ねると、佐藤候補は「すぐ出るから、申し訳ないけど、、」と言われたので、私が「そうですよね、忙しいところすみません。明日は事務所にいる時間ありますでしょうか?」と尋ねたら、佐藤候補が「選挙中だから」と言って立ち去った。 その後、選挙スタッフに電話をして、「ほかの候補者が取材を受けている中、2,3分の時間もとれないんですか」と伝えて電話を切った。 それから2日後、選挙スタッフから「今日の夜の8時だったら時間をとれます」と言われたので、私は「伺います」と伝えたが、もうすでに気持ちが冷めていたので、記者の志賀に取材を託した。 これが畠山さんだったら、新聞社だったら、取材をすんなり受けたか受けていないか。 故・佐藤剛男衆院議員の娘婿として県議になりたてのころは「謙虚さ」がみられたが、4期目を目指すともなるとこうも変わるのだろうか。 佐藤候補は、目の前の1票を捨てた。政経東北が福島市に会社があり、スタッフの多くが福島市の有権者だということも想定できないのだろうか。 「絶対に投票しない唯一の1人」確定となった。(佐藤大) 記者の志賀が取材を終えて↓ 「スケジュールが詰まっていて2、3分取るのも難しい。こういう取材をしたいなら事前に言ってもらわないと。今日は何とか時間を確保した」。陣営ごとの〝塩対応〟〝神対応〟を体験できるのも選挙漫遊の魅力だ。(志賀) 大場秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=rfJWeMjUUx8  ――県政、県土の課題についてどう認識しているか。    「短期的課題としては原発の処理水放出問題。農水産物や観光業に風評被害の影響がまだ顕著にはなっていないが、それをどう防いでいくか。長期的課題としては超少子高齢化社会の中でいかに地域を守っていくか、また高齢者が安心した生活が送れるかが大きな問題と認識しています」    ――その課題解決に向け、どのような議会活動や取り組みを展開してきたか。  「処理水放出問題としては、SNSやテレビCM等による安全性について首都圏のみならず関西圏も含めて積極的に訴えていくべきと議会で発言しています。あわせて超少子高齢化問題については、交通弱者対策の一環であるバス路線の維持、不登校児童に対する積極的な支援についても訴えかけています」    ――県執行部の動きはいかがですか。  「風評被害対策については、補正予算を組むなど積極的に向き合っていると感じていますし、評価しています。また、不登校児童やさまざまな事情を抱える子ども達に対しても、NPO法人との連携強化、相談体制の充実を図ってきており、さらに進めていくべきと考えます」    ――県議会においては、令和5年6月議会にて「フルーツラインの整備状況」について質問されました。その後の県執行部の反応はいかがですか。  「福島市にはすばらしい温泉、自慢できる果物など魅力にあふれていますが、『点』の観光のままなのは残念。フルーツラインは『点』と『点』を『線』で結び、ひいては面的な観光振興における重要な道路です。ハード面としては、通行に難がある『天戸橋(あまとばし)』の整備について、議会ではしつこく質問しています。この間、予算の執行など目に見えて動きが進んでいると感じます」 一言メモ 聴衆の大半は男性高齢者であったがみな真剣に演説を聞いていた印象。一方でそれなりの熱気は感じた。(佐々木) 高橋秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=cDO9Ommjau8  ――県政、県土の課題は?  「物価高と燃料費高騰というのは喫緊の課題だと思っています」  ――その課題を解決するためにどのように行動しましたか?  「経済支援について、県独自の施策について要望を知事の方にさせていただきましたが、多少なりともその要望に対して実現した部分はありました。  また今、国の方では所得税の軽減についても議論されているようですが、やはりそれだければ賄いきれないだろうところがありますので、さらなる要請もしていきたいですし、県独自の新たな政策を、経済状況を見ながら、求めていきたいなと思ってます」  ――令和5年2月の代表質問で「移住定住に向けテレワーク導入に対する施策を要望」していますが。  「もうひとつの課題は人口減少です。また、それに伴う労働人口の減少が課題です。県も二地域居住などを、移住促進計画として提唱していますが、さらにメスを入れていって改善できればと考えています。相談窓口を東京の日本橋に設けて、そういった取り組みに関して厚みが出てきているとは感じています」 一言メモ 朝早い中、快く取材に応じていただき、かなり好印象。時間と場所を決めた街頭演説を予定せず、30分毎ほどに立ち止まって遊説するスタイルが印象的だった。事務所スタッフの方々も丁寧に対応してくれて、そこも好印象。いくら候補者がよくても事務所スタッフの質が微妙だと、うまくいく選挙もうまくいかないと感じた。(佐藤大) 宮本しづえ https://www.youtube.com/watch?v=E_OWLVbFn_A ――県政、県土の課題は?  「この物価高ですから、どう政治がきちんと対策をとっていくのかってことが最大の課題だと思います。  例えば、物価高で何やるかって言ったときに真っ先にやるべきなのは消費税の減税です。しかし、県の執行部は『国が決めることです』としか答えません。国が決めることだったら『国で決めてくれ』と働きかけることが大事だと思うんです。  『今の県民の暮らしどうすんのよ』っていうのはなかなか具体的には見えてこないですね」 ――令和5年9月の統括審査会の質問で「ALPS処理水について、県漁連と国・東電との約束が破られていないと県が判断した理由」を尋ねていますが。  「約束が守られないということは、民主主義に関わる重要な問題です。一つ一つの約束事が破られていったら、廃炉の安全性に対する信頼そのものに関わる問題になります。  約束事を守らせるということをしっかりやらせないと、県民が安心して暮らせるかどうかっていうことにも関わってきます」 一言メモ 聴衆のほとんどが女性だったのが印象的だった。写真撮影をするスタッフもおり、共産党というのは組織的に動ける集団なんだなと感じた。 選挙カーについて。ほかの候補者のほとんどがボックスカーをレンタカーしている中、宮本候補は共産党が自前でもっている車を使用しているのも印象に残った。 政策は給食費無料というパンチ力と分かりやすさ。 宮本候補はJR福島駅西口のイトーヨーカドー福島店前の道路で演説をしたのだが、その後、東口のこむこむで伊藤達也候補の大観衆を見たこともあり、公明党と共産党の「力の差」をまざまざと見せつけられたことが印象的だった。 取材での宮本候補の印象はとても温和な方で話しやすかった。 (佐藤大) 半沢雄助 https://www.youtube.com/watch?v=aYqbfb6CN2g  ――県議選立候補を決意した理由。  「先ほどの決意表明でお示しした通り。この間、医療従事者として勤務するとともに、労働組合活動にも注力してきた。このたび紺野長人県議の後継者に指名され、重責ではあるが責任を果たすべく、地盤(議席)をしっかり守ることが私の使命と考える」  ――県政、県土の課題について。  「人口流出問題が大きな課題と考える。解決に向け克服すべき点は多岐にわたるが、本県の維持・発展のためにも人口流出を防いでいる自治体を参考にしながら鋭意取り組む必要がある。また、医療従事者の経験から、また子を持つ親として『命と暮らし』を守りながら、次世代が住んで良かったと思えるような地域づくりや政策が重要と考える」 聴衆の大半は高齢者であったが、女性の割合が多い印象だった。新人候補ということもあり半沢候補者の初々しさもときおり感じた。(佐々木) 伊藤達也 https://www.youtube.com/watch?v=x4EDhiMTiyI  ――県政、県土の課題は? 「喫緊の課題は人口減少です。また経済面では、航空宇宙産業のモノづくり人材の育成を推進していきます。開発企業と連携して『下町ロケット』ようになっていければと思っています」  ――令和5年9月の一般質問で「公衆衛生獣医師の確保」について質問していますが。 「動物愛護施策を進める上で、獣医師の確保はとても重要です。ただ、全国的に獣医師不足で取り合いとなっており、本県も職員が不足しています。動物愛護だけではなく産業用の獣医師も必要ですし、鳥インフルなどの脅威も踏まえて、県としての獣医師確保が課題となっております。 私が県に働きかけたことで、修学資金の新しい制度をつくらせていただき、獣医学生研修として『福島県家保研修』と『獣医学生福島体験』を実施しています。引き続き県への働きかけを進めていきます」 一言メモ 30分前に会場に着いたのだが、公明党の山口代表も応援に駆けつけることもあってか、既に警察が40人ほど、公明党スタッフが30人ほど居た。メディアも毎日新聞、共同通信、福島テレビ、ほかにも居た。 聴衆がいなかったので「聴衆よりも多かったスタッフと警察」というタイトルや筋書きを考えたが、開始前に聴衆があっという間に150人ほどとなり、「公明党のネットワーク力恐るべし」と感じた。 伊藤候補の政策も「ワンイシュー」に目を向けており、動物愛護の「アニマル伊藤」、航空宇宙産業に強い「スカイ伊藤」と、わかりやすかった。 私は創価学会員ではないが、公明党のように何か物事を遂行していくためにはパワーやネットワークが必要なのかもしれないと感じた。佐藤優氏の著書『創価学会と平和主義』を読んでいたこともあり、創価学会への偏見が薄れていたのも大きい。(佐藤大) 渡辺哲也 https://www.youtube.com/watch?v=8lMxuSzHznA  ――県政、県土の課題は?  「人口減が喫緊の課題だと思っています。子育て支援や教育に注力しながら、20年、30年のスパンで、シニアの方にも元気で活躍してもらうような『まちづくり』をすすめて、次の世代につなげていくことが大事です。  高齢者の方々が元気に働ける環境を作っていくことが、人口減対策につながると思っています」  ――令和4年2月の一般質問で「市町村における犯罪被害者等支援条例制定に向け、どのように支援するか」質問しましたが。  「闇バイト事件を含めて、いつ誰がどこで巻き込まれるかわからない、そういった時代じゃないですか。  県には『安全で安心な県づくりの推進に関する条例』というものがあります。犯罪被害者支援についての文言が一文だけあったんですが、先進県や先進市町村では、見舞金の支給や加害者に代わって被害者にお金を寄付するような仕組みもあり、県は遅れをとっていました。県に『このまま何もしなければ、最後になりますよ』と訴えたら、改善に向けて動き始めました。県が動いたことで、市町村もそれに続いてくれており、要望したことが実現している実感があります」 一言メモ 飯坂温泉駅での街頭演説ということもあって、誉田候補と同様「アットホーム感」があった。 取材で事務所を訪れると、多くのスタッフが和やかにしており、雰囲気も良かった。 取材を受ける受けないでひと悶着あったのもあり、渡辺候補を勝手に「気難しい人」と決めつけていたが、会ってみるととても気さくで接しやすい方で、思い込みはいけないと感じた次第。 政策に関しても県議1期目らしい「ワンイシュー」に目を向けており、人口減や物価高などの大きな課題よりも現実的に見えて、よい印象を受けた。(佐藤大) 西山尚利 https://www.youtube.com/watch?v=jB8cE0t0Oww  ――県政、県土の課題は? 「令和5年2月の代表質問で『入札の地域の守り手育成型方式』について質問しました。入札不正の一方で、地元の建設業に災害対策をしてもらわなければなりません。あらゆるものに対する備えと発信が必要だと思っています」   一言メモ 取材を受ける受けないで事務所スタッフと揉めたが、走行ルートの集合場所に行って西山候補に話を振ると「今ここで話すよ」と気さくに応じてくれた。人柄的に「飾らず、オープン」という感じで話しやすかった。街頭演説はせず選挙カーを走らせるだけのスタイルのため、動画が短くなっている。 取材の可否のほか、走行ルートを選挙スタッフに尋ねたが、間違った情報を伝えられた。ボランティアで働いている人もいるのだろうから、企業並みの対応を期待するのは間違っているのかもしれないが、「なんだかな」と感じた。(佐藤大)

  • 元町長に大差をつけた渡部裕太氏【南会津町】【若手新人議員】

    元町長に大差をつけた渡部裕太氏 町の課題を語る渡部裕太氏  本誌2019年6月号に「南会津町議選 湯田芳博氏当選で嵐の予感」という記事を掲載した。  4年前の南会津町議選に、元町長の湯田芳博氏が立候補し、2位当選者の倍近い得票数(1466票)でぶっちぎりのトップ当選を果たしたことを報じたもの。  湯田氏は昨年4月の南会津町長選にも立候補したが、元副町長の渡部正義氏との対決に敗れ、4度連続の町長選落選となった。すると、今年4月の町議選に立候補した。  今回も圧倒的な票数でトップ当選するのかと思いきや、湯田氏と同じ田島地区の新人候補がその座を奪い取った(別掲参照)。 選挙結果(4月23日投開票、投票率77・74%)当1538渡部 裕太 (31)無新当836湯田 芳博 (72)無元当755渡部 訓正 (69)無現当626丸山 陽子 (68)公現当575古川  晃 (62)無新当543芳賀 正義 (75)無新当540山内  政 (70)無現当499楠  正次 (68)無現当449湯田  哲 (66)無現当446森  秀一 (72)無元当434川島  進 (68)無現当430室井 英雄 (66)無現当422酒井 幸司 (65)無新当392高野 精一 (73)無現当328星  和孝 (57)無新当297湯田 剛正 (62)無新275馬場  浩 (61)無現  「若い議員は少ないので、トップ当選を目指し、できる限り多くの方に得票してもらいたいと考えて全力で活動していました」  こう語るのは31歳で町議となった渡部裕太氏だ。今回の当選者では最年少となる。  会津高卒。「地域医療に携わりたい」と自治医大入学を目指し、予備校に通いながら浪人生活を続けている中で、2019年、父親の渡部英明氏が県議選に立候補することになり、手伝いのため同町にUターン。結局、父親は選挙戦で敗れたが、そのまま町内の企業に就職した。  こうした活動中に驚かされたのが、若い世代の選挙への関心のなさだ。  「民間企業だと退職するぐらいの年齢の人が議員を務めており、接点も親近感もない」という意見が聞かれた。それならば、若者が1人でも議員になることで、思いが伝えやすくなり、政治参加もするようになるのではないか――。  渡部氏は地元に戻って以来、地域のスポーツ活動、山岳救助消防団など、さまざまな活動に参加していた。多くの人の話を聞く機会がある自分が若い世代の受け皿になろうと考えた。その結果、多くの票を得て町議に当選したのだから、期待している人が多いということだろう。 会社員との兼務生活  経営者の理解を得て、地元の建材店に勤めながら、議員活動に取り組む。ちなみに地方自治法では町の事業を請け負う企業の役員が地方議員を兼ねることが禁じられているが、渡部氏は役員にはなっていない。議会の会期中は閉会後に会社に戻って仕事をこなす。「正直、当選後は休みがありません」と笑う。  公約には空き家の活用、体験型観光資源の創出、地域の魅力発掘などを掲げた。6月定例会では、早速空き家対策について執行部にただした。  「現場に行って話を聞いて初めて分かることも多い。例えば、移住者を増やすための施策が行われているが、『移住者のニーズとはかみ合っていない』という声が聞かれる。町への窓口、つなぎ役としての役割を果たしていきながら、公約実現を目指していきたい。特に空き家問題については、いま会社で不動産部門を担当しており、現場でその実態を知っているという強みがあるので、積極的に取り組んでいきたいですね」  11月に父親の渡部英明氏が県議選に再び立候補することについては「もし当選させてもらえば、相互に連携して県・町のパイプ役として機能できると思います」と語る。  地域を問わず入れてもらった多くの票は若き立候補者への期待の表れ。後は行動で示すだけだ。

  • 地域おこしで移住した長友海夢氏【猪苗代町】【若手新人議員】

    地域おこしで移住した長友海夢氏  猪苗代町は、6月に町長選が行われ、そこに佐瀬誠氏、佐藤悦男氏の2人が議員を辞職して立候補したほか、二瓶隆雄氏が在職中の2021年4月に亡くなったことで欠員3となっていた。  そのため、町長選と同時日程(6月13日告示、18日投開票)で議員補欠選挙が行われた。町議補選には、長友海夢氏(27)、山内浩二氏(68)、松江克氏(68)の3人が立候補し、無投票での当選が決まった。ちなみに、町長選は前述の佐瀬氏、佐藤氏のほか、二瓶盛一氏、高橋翔氏の新人4人が立候補し、二瓶氏が当選を果たした。  議員任期は来年2月までで、今年6月の町議補選で当選しても、任期は約8カ月しかない。そんな事情もあり、町内では「この時期の補選では、なかなか立候補しようという人が出てこない」と言われていた。  実は、4年前の町長選の際も、現職町議が町長選に立候補したことと、現職議員の死去によって欠員2が生じ、町議補選が行われた。ただ、事前の立候補予定者説明会では出席者がゼロで、告示日当日になっても、「立候補者が出てこず、欠員のままになるのではないか」と囁かれていたほど。最終的には急遽2人が立候補し、無投票で当選が決まったが、なり手不足を嘆く町民は少なくなかった。  今回の町議補選前も、「時期(残任期が短い)的なこともあり、なかなかなり手がいない」と言われていたが、選挙戦にはならなかったものの、欠員3を埋めることができた。  その中で注目されるのが長友氏だ。選挙時は27歳で、県内最年少議員になる。  長友氏はどんな人物なのか。町内複数人に聞いてみたが、「分からない」という人がほとんど。知っている人でも「地域おこし協力隊でこっちに来た人のようだね」という程度で、「それ以上のことは分からない」とのこと。 経歴と移住の経緯 ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供  長友氏に話を聞いた。  1995年8月生まれ。現在28歳(選挙時は27歳)。栃木県出身だが、アルペンスキーをやっており、猪苗代町を練習拠点にしていた。小学5、6年生のときは同町内の小学校に通っていた。  その後、中学校は地元栃木県の学校に通い、高校は日大山形高校、大学は日大体育学科でスキーを続けた。競技者としては大学までで一区切りとし、卒業後は通信系の会社に就職した。  そこで3年ほど働いたが、ひたすら自社の利益だけを求められる環境だったようで、「収入(高収入を得ること)よりも、人や地域の役に立つ仕事がしたい」と思うようになったという。  そんな折、猪苗代町で地域おこし協力隊員を募集していることを知り、「思い入れのある猪苗代町で、地域のために仕事がしたい」と応募、2020年4月から3年間の任期で地域おこし協力隊員(※総務省HPに掲載されている地域おこし協力隊の概要を別掲)になり、移住した。 地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期はおおむね1年から3年です。  具体的な活動内容や条件、待遇等は各自治体により様々ですが、総務省では、地域おこし協力隊員の活動に要する経費に対して隊員1人あたり480万円を上限として財政措置を行っています。また、任期中は、サポートデスクやOB・OGネットワーク等による日々の相談、隊員向けの各種研修等様々なサポートを受けることができます。任期終了後の起業・事業継承に向けた支援もあります。  令和4年度で6447名の隊員が全国で活動していますが、地方への新たな人の流れを創出するため、総務省ではこの隊員数を令和8年度までに1万人とする目標を掲げており、目標の達成に向けて地域おこし協力隊の取り組みを更に推進することとしています。  長友氏は、その任期中の昨年7月に㈱いなびしを設立した。  「猪苗代湖の水質環境保全事業を行っているのですが、毎年、夏になると大量の『ひし』(水草)が発生します。それを放っておくと腐敗してヘドロになるなど、水質汚濁の原因となってしまいます。そのため、ひしの駆除を行うのですが、それを有効活用する目的で設立したのが『いなびし』です」(長友氏) ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供  社名は、地名(猪苗代)とひしから取ったもの。ひしは湖にとって厄介者で、行政が船を出すなどして駆除し、それを運搬・処分していた。当然そのための費用がかかる。長友氏(いなびし)は、その厄介者を資源にできないかと考え、「猪苗代湖産ひし茶」として商品化した。本誌記者も取材中にいただいたが、味はそば茶と似ている。 猪苗代湖産ひし茶=長友氏提供  「現在は、道の駅猪苗代で販売しているほか、町内のカフェや旅館、アクティビティー施設などで使ってもらっています。クセがなく飲みやすいので、食事、特に和食に合うと思います。商品の売り上げの一部は水質環境保全事業に寄付しています」(同)  今後は海外への販売も視野に入れている。ひしの実は、乾燥するとかなりの硬度になり、古くは忍者が敵の足元に撒き、動きを鈍らせるための道具「マキビシ」の元になっていたとも言われているという。ひしを撒くから「マキビシ」というわけ。  「どの国に、どんな形で売り出すかはまだこれからですが、海外で忍者人気は高いですから、マキビシエピソードと絡めて『ニンジャティー』といった形で売り出せば、海外の人にも興味を持ってもらえるのではないかと考えています」(同)  このほか、郡山市の猪苗代湖畔に畑を借り、ひしの実を肥料化する取り組みも進めている。また、町内新町の空き店舗を借りて事務所兼店舗にしており、ひし茶の製造のほか、教育旅行・ツアー等の体験コンテンツ提供、そば店、そば打ち体験、夏季の日曜日限定のかき氷販売などを行っている。  これら事業は、新しいビジネスへの挑戦や、地域課題の解決に取り組むビジネスプランを表彰する「ふくしまベンチャーアワード2022」で優秀賞に輝いた。 議員になったきっかけ ひしの実  こうした事業を営むかたわら、議員に立候補しようと思ったきっかけは何だったのか。  「会社勤めをしていた時に、取引先企業の担当者が政財界とつながりがあり、私もそうした場に行くことがありました。その時は、議員になろうとかではなく、それまで縁遠かった議員について認識することができました。その後、会社を辞めて、地域おこし協力隊に応募した際、役場の課長さんの面接があったのですが、その時に『ここで、地域のためになる仕事がしたい』、『いずれは起業したいし、議員として地域のために働きたいと考えている』ということを伝えました。今年3月に地域おこし協力隊の任期が終わり、この機会だと思って立候補しました」  長友氏によると、県内他地域では地域おこし協力隊で移住し、後に起業するという事例が、もっと活発に行われているところもあるという。そのため、「議員として、地域おこし協力隊のさらなる活性化に加えて、自分が空き店舗を借りて事務所兼店舗にした経験から、空き家・空き店舗の有効活用、移住促進、統廃合によって空いた学校の有効活用などに取り組みたい」と意気込む。  9月は議員になって初めての定例会が行われる。そこで、一般質問デビューを果たすべく、いま(本誌取材時の8月下旬)は、数ある課題の中から何を取り上げるか、限られた時間で効率よく質問するためにはどうするか等々を思案中という。

  • 断トツ得票を記録した深谷勝仁氏【須賀川市】【若手新人議員】

    新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏  本誌6月号に「須賀川市議選 異例の連続無投票が現実味」という記事を掲載した。任期満了に伴う須賀川市議選は、7月30日告示、8月6日投開票で行われたが、事前情報(6月号記事掲載時点)では、「無投票の可能性が高い」と言われていた。  前回(2019年8月)は、同市にとって、1954年の市制施行以来、初めての無投票で、市民からは「連続無投票は避けなければならない」、「無投票になった次は多くの候補者が出そうなものだが、そうならないのが問題だ」といった声が出ていた。  その後、7月3日に立候補予定者説明会が開かれ、それまで立候補の動きがなかった新人3陣営が出席。このうちの1人が正式に立候補表明したことから、定数24に25人(現職19人、新人6人)が立候補し、8年ぶりの選挙戦となった。  結果は別掲の通り。現職19人、新人5人の計24人が当選した。投票率は45・28%で、過去最低だった前々回の55・89%を10・61ポイント下回り、過去最低を更新した。 選挙結果(8月6日投開票、投票率45・28%)当 3141 深谷 勝仁 (39)無新当 1914 松川 勇治 (45)無新当 1640 鈴木 正勝 (70)公現当 1380 大河内和彦 (56)無現当 1334 深谷 政憲 (66)無現当 1278 大寺 正晃 (61)無現当 1206 溝井 光夫 (62)無現当 1203 佐藤 暸二 (67)無現当 1159 横田 洋子 (64)共現当 1078 鈴木 洋二 (64)無現当 1078 本田 勝善 (58)無現当 1072 浜尾 一美 (51)無現当 1067 五十嵐 伸 (60)無現当 1039 堂脇 明奈 (40)共現当 1016 大内 康司 (83)自現当  891 古川 達也 (50)無新当  881 市村 喜雄 (66)無現当  881 関根 篤志 (47)無新当  768 斉藤 秀幸 (47)無現当  767 石堂 正章 (65)無現当  722 柏村 修吾 (66)無新当  588 大柿 貞夫 (71)無現当  573 熊谷 勝幸 (52)無現当  516 小野 裕史 (54)無現 513 桜井  誠 (37)無新  この中で目に付くのが、新人でトップ当選を果たした深谷勝仁氏(39)。今回の当選者では最年少になる。  選挙戦となった直近3回の最多得票は2015年が2098票、2011年が2005票、2007年が2472票といずれも2000票から2500票の間。今回の深谷氏は3141票で、それらを大きく上回っている。今回2番目に得票が多かったのは新人の松川勇治氏(45)で1914票だから、2位に約1200票差を付けている。過去のトップ当選者との比較に加えて、今回の低投票率を考えると、深谷氏の得票がいかに多いかがうかがえよう。  深谷氏はどんな人物なのか。  本人のSNSなどに掲載されたプロフィールによると、1984年生まれ。須賀川高校(現・須賀川創英館)、東北文化学園大学医療福祉学部卒。2007年に市社会福祉協議会の職員となり、今年3月まで勤務した。  年度末に社協を辞め、4月以降は市議選の準備をしてきた格好だ。  過去に仕事上の付き合いがあったという市民はこう話す。  「深谷氏は、福祉を必要とする高齢者や障がい者、その家族などからの信頼が厚く、彼のことを悪く言う人は聞いたことがありませんね。そのくらい、誠実で人柄がいい。それに加えて『若さと実行力』というキャッチフレースが有権者に響いたのだと思います。社協職員の経験から、『社会的に弱い立場の人への支援』といったことも訴えており、それも共感を得たのでしょうね」  さらにある市民はこう語る。  「深谷氏の実家は、栄町にある『深谷石材店』で、そこは深谷氏の実兄が継いでおり、深谷氏自身もその近くに住んでいます。今回の選挙では、これまで栄町には議員がいなかったことから、『この地区から議員を出そう』と、町内会がかなり支援したようです(※編集部注・深谷氏の自宅は市内中山だが、栄町、中山などを含む複数大字の地区が新栄町町内会に該当する)。また、深谷氏は学生のころから熱心に野球に取り組んでおり、いまも『市町村対抗福島県軟式野球大会』に出場するなど、野球繋がりの支援も多かった。加えて、社協職員時代に、高齢者や障がい者、その家族などの評判も良かったから、そういった層も深谷氏に投票したと思われます。その結果、断トツの得票数になったものと思われます」  一方で、ある議員経験者は「ちょっと勝ち過ぎの感もある」と話す。  「表立っては言わなくても、深谷氏があれだけ票を取ったことで、自分の票が減ったとか、そういう思いを抱いている人もいると思う。もちろん、それはその人(票を減らした人)の問題なんですが、どうしても、こういう世界は、妬み嫉みがありますからね。まさか、議員活動を妨害されるようなことはないとは思いますが、ちょっとしたことで揚げ足を取られるようなこともあるかもしれない。深谷氏にはそういったことに気を付けつつ、萎縮することなく頑張ってほしいですね」 深谷氏に聞く  深谷氏に話を聞いた。なお、本誌が取材したのは8月22日で、議員任期がスタートする前だった。  ――議員を目指したきっかけは?  「社会福祉協議会に勤務していた時の最初のころは高齢者福祉、後半は障がい者福祉を担当していました。その中で、高齢者福祉、障がい者福祉ともに、まだまだ課題があると感じており、『福祉の充実』を図りたいというのが、議員を目指した一番の要因です」  ――3000票オーバーという得票についてはどう捉えているか。  「正直、驚いています。喜びと同時に責任を感じます」  ――本誌取材では、若い世代、高齢者・障がい者福祉を必要としている人、その家族などに支持が広がったと聞いている。  「確かに、新聞等では『若い世代の票が入った』と書かれていましたが、実際にどうだったかは分析が追いついていません。ただ、私自身、小学生の娘が2人いますから、子育て世代や、高齢者・障がい者福祉を必要としている人たちの思いは受け止められると思っていますし、(任期スタート後は)そのための活動をしていきたいと思っています」  ――もう1つは、町内会の支援が大きかったとも聞いた。  「新栄町町内会では、(議員が誕生するのは)40年ぶりくらいだそうです。この地区では、JR須賀川駅西口開発(※深谷氏の地元は須賀川駅西側に当たり、須賀川駅は西側から駅に出入りすることができないため、西側に出入り口と駅前広場をつくる計画が進められている)などの動きもありますから、そういった点からも、町内会の皆様に応援していただけたのだと思います。そのほか、同級生、先輩・後輩にも支えていただきました」  ――当然、議会の常任委員会は、福祉関係を所管する委員会に所属したい?  「その辺はどうなんでしょうか。市議会は会派制ですから、会派で誰がどの委員会になるかということだと思います」  ――就任後すぐに9月定例会(※通常は9月中に行われるが、選挙があった年は9月末から10月にかけて行われる)が開かれることになるが、早速、一般質問をするか。  「その辺も、会派の構成などが決まってからですかね」  議員の任期は9月4日からスタートする。「若さと実行力」を売りにする深谷氏の今後に注目したい。

  • 【福島県議会選挙】立民党員が自民推薦で立候補【南会津郡】

     南会津郡選挙区(定数1)では現職引退に伴い、新人同士の選挙戦になる見通し。前回選挙で現職に数十票差まで迫った野党系候補のほか、立憲民主党から鞍替えした自民党推薦候補が名乗りを上げている。 自治労出身候補者との新人対決 渡部英明氏 大桃英樹氏  南会津郡選挙区は定数1。対象となる町村は下郷町、南会津町、只見町、檜枝岐村。6月1日現在の選挙人名簿登録者数は2万0854人。  同選挙区の現職は星公正氏(70、3期)。南会津町の建設会社・星組(現在は大富士土建工業、福南建設と合併し、「南総建」となっている)の元社長で、自民党所属。今年2月に今期限りでの引退を表明した。  現時点で立候補を表明しているのは2人。  1人目は、前回2019年の県議選に立候補し、星氏に74票差(8263票)で敗れた新人の渡部英明氏(56)だ。  南会津町出身、会津高卒。田島町(南会津町)役場に勤めながら、自治労福島県本部書記次長、連合福島南会津地区連合会議長を歴任。早期退職し、立憲民主党、国民民主党、社民党の推薦を受け県議選に挑んだ。  落選後は次期県議選でのリベンジに向け準備しつつ、同町田島地区の自宅に行政書士事務所を立ち上げた。  4人の子どものうち、3人が同町内の企業に勤める。4月には、その1人で長男の渡部裕太氏(31)が南会津町議選に立候補し、得票数1538票でトップ当選を果たした(88頁からの記事参照)。自宅近くに設けた選挙事務所はそのまま父親の選挙事務所として使われる予定だ。  「親子で議員職を独占し、互いの選挙活動を応援し合う姿勢を見て、シラける人も増えそうだ」(町内の経営者)と懸念する向きもあるが、渡部英明氏は「支持者からネガティブな声は聞こえていない。息子と二馬力で地域を盛り上げたい」と意気込みを示す。  2人目は、新人で元南会津町議の大桃英樹氏(48)だ。  南会津町出身。喜多方高卒、米テンプル大学JAPAN(=日本校)中退。旧南郷村職員(南会津町職員)を経て、2011年に36歳で南会津町議選初当選、連続3期務めた。今年4月の町議選立候補を見送り、星氏引退に伴い自民党南会津総支部が実施した県議選公認候補の公募に応募。同党から推薦を受ける形で、7月に立候補を表明した。  同選挙区内で話題になっているのがこの大桃氏の経歴だ。  実は大桃氏、4年前の町議選に国民民主党から立候補し、その後は立憲民主党党員として活動してきた人物なのだ。特に旧福島4区選出の小熊慎司衆院議員(55、4期、立憲民主党)を応援し、行動を共にしてきた。それが一転して自民党推薦候補となったため、与野党双方から反発の声が上がっている。  「町内の立憲民主党関係者は〝裏切り行為〟に呆れているし、自民党南会津総支部の各地区の責任者からも『応援する気になれない』という声が漏れ聞こえる」(会津地方の選挙事情に詳しいジャーナリスト)  大桃氏に関しては、南会津町長選にも立候補の意思を示して翻すなど、周囲を翻弄するような言動が目立ち、公私ともにさまざまなウワサが流れていた。自民党南会津総支部内で反発の声が上がった背景にはそうした事情もあるのだろう。  「自民党南会津総支部で会合をやったとき、座長を務めていた菅家一郎衆院議員(68、4期、自民党)が『自民党員が誰も出ないっていうんだから大桃君でいいんじゃないか』と詳しい事情も知らないのに話した。さすがに各地区の責任者が激怒して、一斉に帰ってしまったらしい」(同)  そんな声を吹き飛ばすように、大桃氏は8月6日、SNSに菅家氏とのツーショット写真をアップ。お盆期間には菅家氏と共に新盆の支持者宅をあいさつ回りするなど、支持拡大に奔走している。  なぜ立憲民主党を離党して自民党から立候補しようと考えたのか。本誌取材に対し大桃氏はこう語った。  「前回、今回と県議選立候補を希望し、小熊さんに相談して調整してもらっていたが、渡辺英明氏が連合福島の推薦で立候補する関係上、立憲民主党から『(県議選での立候補は)あきらめてください』と言われていた。やむなく2月末ごろに離党し、無所属でも立候補する覚悟を決めていたところ、自民党関係者を通じて星氏からお声がけいただき、公募に申し込んだのです」  小熊氏に相談しても立候補の道が開けず、失意の離党をした直後に自民党からスカウトされた、と。 評価下げた菅家氏と小熊氏 菅家一郎氏 小熊慎司氏  大桃氏は渡部恒三氏が唱えていた二大政党制の実現を目指し、小熊氏と行動してきたが、ここ数年は立憲民主党が打ち出す野党共闘路線に違和感を抱いていたという。同党所属のまま人口減少・少子高齢化が急速に進む南会津地域を振興していけるのか不安を抱いているタイミングで県議選立候補の断念要請が重なり、離党を決意した。  大桃氏によると、地元自民党支持者の反応は「応援の声も多くいただいているが、『俺は認めないよ』という方もいる」。同町内では以前から「与党県議がいれば大規模公共事業を南会津地域に持ってくる可能性が高まる。星氏の後継者を探すべきだ」という声が聞かれていた。与党支持者の受け皿としてそれなりに支持が広まっていくかもしれない。  なお県内の国民民主党関係者によると、大桃氏をめぐっては、「小熊氏のアイデアで、まずは無所属で立候補し、後から国民民主党入りする動きがあった。国民民主党の役員らは本気で準備していたが、ふたを開けてみたら小熊氏は全く動いておらず、本人にも話が届いていなかった。自民党に公募を出していた話を知って愕然とした」という話があったとか。振り回された格好の国民民主党関係者は小熊氏に強い不信感を抱き、周囲に不満を漏らしている。前出・菅家氏といい、小熊氏といい、今回の県議選でそろって評価を落とした格好だ。  同選挙区の課題は人口減少と少子高齢化、産業振興に尽きる。コロナ禍と原油・物価高騰はあらゆる業界に打撃を与えており、民間企業は青息吐息の状態。こうした中、地域活性化の道筋を付けるべく、県執行部にさまざまな意見を出して改善を促す県議が求められる。  渡部氏、大桃氏ともにインフラ整備や観光振興、人口減対策などを訴えるが、どこまで実現できるのか。  渡部氏、大桃氏とも大票田である南会津町田島地区在住。  渡部氏は前回の県議選で只見町と檜枝岐村で苦戦した。星氏が社長を務めていた星組との結び付きが強いエリアだったためとみられ、ここをどう攻略できるかが渡部氏にとって鍵になる。一方の大桃氏は父親が南会津地方広域市町村圏組合消防本部で消防長を務め、出身は旧南郷村という点がプラスに働きそう。  元役場職員同士の対決となる見通しだが、今後さらなる新人が立候補する可能性もある。支持が入り乱れる激戦を制するのは誰か。