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  • 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま【三島町・金山町・昭和村・只見町】

    【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

     2000年代を中心に、国の意向で進められた「平成の大合併」。県内では、合併したところ、単独の道を選択したところ、合併を模索したもののまとまらなかったところと、さまざまある中、本誌ではシリーズで合併しなかった市町村の現状を取り上げている。今回は、人口減少や高齢化率の上昇が大きな課題となっている奥会津編。(末永) 人口減・高齢化率上昇が課題の三島・金山・昭和  「奥会津」は正式な地名ではなく、明確な定義があるわけではない。ただ、観光面などでの広域連携の中でそうした表現が使われている。主に会津南西部を指す。 只見川・伊南川流域の町村で構成される「只見川電源流域振興協議会」が発行したパンフレット「歳時記の郷 奥会津の旅」には次のように記されている。 《「奥会津」は、福島県南西部に位置する只見川流域、伊南川流域の7町村「柳津町」「三島町」「金山町」「昭和村」「只見町」「南会津町」「檜枝岐村」の総称です》 柳津町は河沼郡、三島町、金山町、昭和村は大沼郡、只見町、南会津町、檜枝岐村は南会津郡と3つの郡にまたがる。今回は、そのうち大沼郡の三島町、金山町、昭和村と南会津郡の只見町の現状を取材した。 「平成の大合併」の際、三島町、金山町、昭和村の3町村は、河沼郡の会津坂下町、柳津町との郡をまたいだ合併案があった。当時の合併に関する研究会のメンバーだった関係者はこう述懐する。 「県会津地方振興局の勧めもあって5町村で合併について話し合うことになりました。当時の5町村長は基本的には合併もあり得るとの考えだったように思います。理由は、国は合併しなければ段階的に地方交付税を減らすとの方針で、将来的な財政の裏付けがなかったことです」 当時の5町村の人口(2005年1月1日時点)は、会津坂下町約1万8600人、柳津町約4400人、三島町約2300人、金山町約2900人、昭和村約1600人で、計約2万9800人。合併後の新市移行の条件である「人口3万人」にギリギリ届いていなかったが、「振興局の担当者は『市になれると思う』とのことだった」(前出の関係者)という。 「人口比率から言っても、中心になるのは会津坂下町だが、そこに役場(市役所)が置かれるとして、金山町、昭和村からはかなり遠くなります。加えて、当時の会津坂下町は財政状況が良くなかったため、(ほかの4町村の住民・関係者は)会津坂下町にいろいろと吸い上げられてしまう、といった思いもありました。そんな中で、(会津坂下町を除いた)柳津町、三島町、金山町、昭和村の4町村での合併案も出たが、結局はどれもまとまりませんでした。住民の多くも合併を望んでいなかった、ということもあります」 一方で、南会津郡は、2006年3月に、田島町、舘岩村、伊南村、南郷村が合併して南会津町が誕生した。それに先立ち、下郷町、只見町、檜枝岐村を含めた南会津郡7町村で研究会が立ち上げられ、合併に向けた調査・研究を行っていた。そこから、正式な合併協議会に移行する際、下郷町、只見町、檜枝岐村は参加しなかった経緯がある。 当時のことを知る只見町の関係者はこう話す。 「田子倉ダム(電源立地地域対策交付金)があるから、という事情もあったと思いますが、それよりも『昭和の大合併』の後遺症のようなものが残っており、只見町は最初から前向きでなかった」 只見町は、いわゆる「昭和の大合併」で誕生した。1955(昭和30)年に只見村と明和村が合併し、その4年後の1959(昭和34)年に朝日村が編入して、只見町になった。「平成の大合併」議論が出たころは、それから50年ほどが経っていたが、その後遺症が残っていたというのだ。 「一例を挙げると、只見地区(旧只見村)には町役場の中心的機能、明和地区(旧明和村)には温浴施設、朝日地区(旧朝日村)には診療所という具合に、1つの地区に何かを設けるとすると、残りの2地区には何らかの代わりの手当てをする、といった手法でないと、物事が進まないような状況なのです。これでは行政運営のうえで、あまりにも効率が悪い」(同) それは「平成の大合併」議論から十数年(「昭和の大合併」から60年以上)が経ったいまも変わっていないという。 その際たる例が役場庁舎の問題。同町の本庁舎は、只見町誕生の翌年(1960年)に建てられ、老朽化が進んでいた。2008年度に実施した耐震診断の結果、震度6強以上の地震で倒壊する危険性があるCランクと診断された。 そこで、目黒吉久元町長時代の2011年に「只見町役場庁舎建設基本計画」が策定され、新庁舎建設計画が進められた。ただ、実現させることができず、目黒町長はその責任を取る形で、2016年12月に2期目の任期満了で退任した。 この後を受けた菅家三雄前町長は、「暫定移転」として、中学校合併によって空いた旧只見中学校に、議会、総務課、農林建設課、教育委員会などの役場の中心的な機能を移転し、「町下庁舎」とした。そのほかの部署は、駅前庁舎とあさひヶ丘庁舎に分散する形になった。この暫定移転が完了したのが2018年で、これに伴い、旧庁舎は解体された。 ただ、この暫定庁舎(分散庁舎)は、町民や観光客などから、「必要な部署(用事がある部署)がどこにあるのか分かりにくい」として不評だった。 一方で、一部町民からは「新しい役場庁舎ができても、町民生活には何の恩恵もない。そんな生産性のないものに多額のお金をかけるべきではない。いまのまま(暫定庁舎)で十分」、「暫定庁舎の整備には5億円以上の費用がかかっている。そのうえ、さらに新しい庁舎を建てるのは、税金の無駄遣いだ」といった声が出た。とりわけ、明和地区、朝日地区では、そうした意見が多いという。 このほか、現在、同町では道の駅整備計画が進められているが、同事業でも「(旧3村の)どこにつくるか」が最大のポイントになっていた。「合併前の旧3村の感情論が絡みなかなか物事が進まない」というのはこういったことを指している。 「平成の大合併」では、核となる市があって、そこに近隣町村が〝編入〟した(形式上は対等合併でも実質的にそうなったものも含む)パターンと、同規模町村が合併して市になったパターンの大きく2つに分けられる。その中でも、後者は「均衡ある発展」を掲げ、その結果、分散型の行政組織や財政運用になった。 それが良いか悪いかは別にして、只見町は「昭和の大合併」以降、そうした状況が続いているというのだ。そんな事情から「平成の大合併」議論が出た際、住民・関係者は拒否反応を示し、南会津郡の合併に参加しなかったわけ。 こうして、三島町、金山町、昭和村、只見町は合併せず単独の道を歩むことになった。 さて、ここからは過去のシリーズと同様、単独の道を歩むうえで最も重要になる財政面について見ていきたい。ちょうど、全国的に「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。別表は同法に基づき公表された4町村の各指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ライスパイレス指数をまとめたもの。 三島町の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度6・8012・6318・5103・80・162008年度8・6713・8917・868・70・152009年度10・2812・1915・644・90・132010年度――――13・01・80・122011年度――――11・2――0・122012年度――――9・6――0・122013年度――――7・9――0・122014年度――――6・1――0・132015年度――――4・2――0・132016年度――――3・1――0・142017年度――――2・8――0・142018年度――――3・5――0・152019年度――――4・1――0・152020年度――――4・8――0・15※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 金山町の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度3・826・0720・782・30・242008年度3・667・6618・755・70・232009年度3・907・7915・527・90・232010年度2・970・8311・621・30・222011年度――――8・5――0・212012年度――――6・1――0・202013年度――――4・4――0・202014年度――――3・5――0・202015年度――――2・9――0・222016年度――――3・2――0・232017年度――――3・6――0・232018年度――――4・1――0・232019年度――――4・5――0・242020年度――――4・4――0・24※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 昭和村の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度1・323・9415・110・60・112008年度4・078・5813・5――0・112009年度2・877・0011・4――0・102010年度――――10・5――0・092011年度――――9・7――0・092012年度――――8・0――0・082013年度――――6・7――0・082014年度――――5・0――0・082015年度――――4・4――0・092016年度――――3・7――0・092017年度――――3・7――0・092018年度――――4・4――0・092019年度――――5・3――0・102020年度――――5・9――0・10※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 只見町の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度2・245・1112・816・10・312008年度8・2111・2611・326・10・302009年度3・595・639・6――0・292010年度――――6・8――0・282011年度――――5・0――0・272012年度――――3・9――0・252013年度――――3・7――0・252014年度――――3・5――0・252015年度――――2・9――0・252016年度――――3・1――0・252017年度――――3・2――0・252018年度――――3・2――0・252019年度――――3・0――0・252020年度――――3・0――0・25※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  県市町村財政課による2020年度指標の総括によると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも差はない。 実質公債費比率は、全国市区町村平均が5・7%、県内平均が6・1%。昭和村は5・9%で全国平均を0・2ポイント上回っているが、ほかの3町村はいずれも全国平均を下回っている。推移を見ると、いずれもここ数年は最も良かったころからは多少比率が上がってはいるものの、単独を決めたころから比べると、だいぶ良化していることが分かる。 将来負担比率は、31市町村が発生しておらず、4町村はいずれもそれに当てはまる。しかも、早い段階から「算出なし」となっている。一方で、4町村とも財政力指数は低い。 4町村長に聞く  4町村長に財政指標、職員数などの数字をどう捉えるか、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応について見解を求めた。 矢澤源成三島町長  当時、三位一体の改革の下、財政基盤の強化、行政運営の効率化のため合併が進められたが、その後、地方創生総合戦略や東京一極集中是正の流れから、地域の特性を生かした地域づくりに財源が配分され、合併以前の状況とは異なるが、将来に向けては財政基盤がぜい弱な小規模自治体では不安がある。将来人口推計よりも早く、少子化、人口減少が進行しているが、再生可能エネルギーや地域資源を生かした経済循環とDXの推進等持続可能な地域づくりを進めることにより、財政基盤の強化や行政運営の効率化に繋がるものと考えている。 押部源二郎金山町長  財政状況については、実質公債費比率が健全な状況にあり、適切な状態を維持していると考えている。財政基盤強化については、総人件費と町債の抑制により安定的な財政基盤の確保に努めてきた。行政運営の効率化においても社会情勢の変化に即応した体制や効率化を図っており、今後も状況に応じた対応に努めていく。 舟木幸一昭和村長  本村は自主財源が乏しく、地方交付税を始めとする依存財源に頼らざるを得ない状況にあるので、歳出面では人件費や物件費、維持補修費や補助費などの見直しを図るとともに、村の振興を進めるため昭和村振興計画の実施計画を策定し、事業の平準化なども行ってきた。歳入面では財源確保として、積極的に国や県の補助金を活用するとともに、村債は後年度の償還に有利な過疎対策事業債を起債するなど工夫してきたことから、余剰金については財政調整基金や目的基金に積み立て、後年度負担すべき財源の確保に努めてきた。このことにより、財政健全化法が施行された2007年度から連続して健全財政を維持している。 職員数については、5年ごとに定員管理計画を定め、条例定数61人に対し定員50人を維持している。また、いわゆる団塊の世代の退職後は、職員の平均年齢が県内でも比較的若い状況であることから、ラスパイレス指数が低い状況となっている。 本村は、今後の人口減少を緩やかにしていくため、様々なアイデアを駆使し、移住・定住人口の確保に努めているが、今後想定される公共施設やインフラ設備の補修・改修などの大規模な財政支出により、財政を取り巻く状況は決して楽観できない状態が続くと予想される。今後も、これまでの堅実な財政運営を維持しつつ、産業の振興や移住・定住施策を進めるとともに、新たな試みにも果敢にチャレンジしながら、より一層、村の振興を進めていく。 渡部勇夫只見町長  「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」は合併の目的の大きな柱の1つであると理解している。同時にもう1つの大きな柱である「まちづくり」の方針(構想)も欠くことのできない点だと理解している。当町の財政状況は厳しい環境にあると認識しているので、「まちづくり」により一層力を注ぎながら取り組んでいく。 非合併の影響は軽微  前段で、三島町、金山町、昭和村の3町村は、会津坂下町、柳津町との合併話があり、その研究会関係者の「国は合併しなければ段階的に地方交付税を減らす方針で、将来的な財政の裏付けがないから、当時の5町村長は合併もあり得ると考えていた」とのコメントを紹介した。 実際、過去のこのシリーズでは合併議論最盛期に、県内で首長を務めていた人物のこんな声を紹介した。 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」 そうした国の方針は、この首長経験者にとっては、脅しのような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、「合併するしか道はない」と考えたようだ。 一方で、シリーズ4回目の「東白川郡」では、「合併しない宣言」で知られる矢祭町の状況をリポートした。同町は2001年10月に議会が「合併しない宣言」を可決した。言うなれば真っ先に国に逆らった形になる。そのため、国による締め付け等があったのではないかと思い、佐川正一郎矢祭町長に見解を求めると次のような回答だった。 「『合併しない宣言』が決議された当時、私自身はそうした情報を知り得る立場にありませんでしたが、当時を知る職員に話を聞くと、少なからず、地方交付税等の削減はあったものの、国からの締め付けは思ったほどではなく、合併をしないことによる財政的な影響は少なかったと聞いています」 さらに、「合併しない宣言」後の大部分(2007年〜2019年)で舵取りを担った古張允前町長にも話を聞いたが、「締め付けというほどのことはなかった」と話した。 「確かに、国は合併しなかったら交付税を減らす、という方針でしたが、実際はそうでもなかった。(それほど影響がなかった背景には)二度の政権交代(自民党→民主党→自民党)の影響もあったと思います。財政的にも、根本良一前町長の時代に組織改革が行われ、必要な部分の投資も終わっていました。ですから、財政的にもそれほど厳しいということはなかった」 矢祭町の現・前町長の言葉からも分かるように、当時の関係者が危惧したような状況にはなっていない。今回の奥会津4町村についても、決して財政的に豊かではないが、少なくとも著しく住民サービスが劣ったり、行政運営ができない状況には陥っていない。当然、そこには各町村の努力もあるだろうが。 一方、奥会津で合併した南会津町の合併前の旧町村の予算規模(2004年度当初予算=福島民報社の『民報年鑑』より)は次の通り。 田島町▽65億9200万円 舘岩村▽28億4700万円 伊南村▽22億5200万円 南郷村▽25億円 合わせると141億9100万円になる。これに対し、合併後の南会津町の2022年度の当初予算額は126億3400万円。 以前、合併しなかった自治体の役場関係者はこう話していた。 「例えば、うちの自治体だと年間約30億円の予算が組まれる。それが合併したら、この地区(合併前の旧自治体の域内)に30億円分の予算が投じられることはまず考えられない。そういった点からも、合併すべきではないと考えている」 つまりは、合併後の核になる旧自治体は別として、単独の方がそこに投じられる予算が大きいから、住民にとってもその方がいい、ということだ。「なるほど」と思わされる見解と言えよう。 住民に聞いても、「合併しなくて良かった」との声が多かった。 「合併しなくてよかったと感じる。独自のまちづくりができるわけだから」(金山町民) 「結論から言えば合併しなくてよかった。この辺りは、『平成23(2011)年新潟・福島豪雨』で大きな被害を受けたが、水害対応にしても、只見線復旧にしても、町と意思疎通が図りやすいし、(水害の問題で)裁判などを起こす際にも動きやすい面はあったからね」(金山町民) 「合併しなくて良かったと断言できる。合併すれば役場は遠くに持って行かれ、昭和村にはせいぜい10人ほどの職員がいる支所が置かれる程度だったに違いない。その分、サービスは悪くなるし、住民の声が届きにくくなる。いま村では、カスミソウの栽培推進や、からむし織事業が行われ、新規就農で都会から30代の夫婦が来ている。新聞でもよく取り上げられ、成功していると言っていい。これは合併していたらできなかった。あとは(会津美里町と昭和村を結ぶ国道401号の)博士トンネルが2023年度に開通することになっており、これができれば人の動きも出てくるだろう」(昭和村民) 「合併すると、どうしても旧町村間の感情論で、『あそこ(中心部)だけいろいろな施設ができて、ほかは何もできない』といった問題が出てくる。そういった意味でも、合併しなくて良かったのではないか。現状、余裕がないながらも、特に不便なく存続できているわけだから。それが一番だと思いますよ」(只見町民) 最大の課題は人口減少  一方で、大きな課題になっているのが人口減少と高齢化率の上昇だ。別表は4町村と奥会津地区で合併した南会津町の人口の推移をまとめたもの。各町村とも「平成の大合併」議論のころから3〜4割の減少になっている。もっとも、南会津町の例を見ても分かるように、合併してもしなくても、その傾向に大差はない。もし、合併して「市」になっていたとしてもこの流れは変えられなかった。 さらに、県が昨年の敬老の日(9月19日)に合わせて、9月18日に発表したデータによると、昨年8月1日時点の県総人口は179万3522人で、このうち65歳以上は57万8120人、高齢化率は32・9%(前年比0・4ポイント上昇)だった。 市町村別の高齢化率は、①飯舘村68・6%、②金山町61・9%、③昭和村55・4%、④三島町55・1%、⑤川内村52・5%と続く。上位5つのうち、奥会津の3町村が入っている。ちなみに、飯舘村と川内村は原発事故の避難指示区域に指定され、避難指示解除後に戻ったのは高齢者が多いという特殊事情がある。 昭和村の社会動態は増加  人口減少・高齢化問題について、4町村長に見解を求めた。 矢澤源成三島町長  人口減少と高齢化対策は、日本全体の課題であり、当町のような地方自治体は最も進行している地域であることから、対策のモデル地域となり得るが、雇用や働き方改革、結婚・子育て支援、住環境、教育支援等、社会全体で取り組む必要があると考える。 押部源二郎金山町長  人口減少と高齢化は町の最重要課題である。少子高齢化に伴う人口減少に特効薬はないが、引き続き移住・定住対策、交流人口の増加に力を入れていきたい。 舟木幸一昭和村長  出生と死亡の差は歴然としており、人口減少に大きな影響を与えているが、総務省による2022年の住民基本台帳人口移動報告では9人の転入超過、過去5年間の合計でも20人の転入超過となっているように、自然減を社会増で補おうとしているところ。1994年度から続く「からむし織体験生事業」による織姫・彦星の受け入れや、カスミソウ栽培に従事する新規就農者等の移住が社会増に寄与しており、新年度からは新たに、本村が所有者から空き家を借り上げてリフォームし、就農希望者等の住居として貸し出す「移住定住促進空き家利活用事業」を立ち上げ、集落活性化に繋げていきたい。※高齢化率は約55%で、近年大きな変動はない。 渡部勇夫只見町長  非常に大きな課題だと認識している。町の魅力向上とともに関係人口の拡大に向けた事業に取り組んでいきたい。 前段で、昭和村民の「カスミソウの栽培推進や、からむし織事業が行われ、新規就農で都会から移住してくるなど成功している。これは合併していたらできなかった」との声を紹介した。舟木村長のコメントでも、「自然動態では人口は減少しているが、社会動態ではプラスになっている」という。その要因として、「からむし織体験生事業」による織姫・彦星の受け入れや、カスミソウ栽培に従事する新規就農者等の移住を挙げており、同村の事例を見ると、やれることはあるということだ。 このほか、同地域の住民はこんな意見を述べた。 「いまの社会情勢で人口減少や高齢化率上昇は避けられない中、もっと町村間の連携を強化すべき。『奥会津行政組合』のようなものを立ち上げ、ある程度縦断して行政機能が発揮されるようにすべきだと思う」 このシリーズの第1回の桑折町・国見町、第2回の大玉村、第4回の西郷村は、県内でも条件がいい町村だった。そのため、「合併する必要がない」といったスタンスだった。その点でいうと、今回の奥会津の4町村は条件的には厳しく、それら町村とは違う。一方で、人口規模が小さいがゆえの小回りが利くことを生かした思い切った仕掛けをすることも可能になる。そういった創意工夫が求められよう。 あわせて読みたい 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【東白川郡編】合併しなかった福島県内自治体のいま 【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

    【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

    区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

     選挙区の変更に翻弄されたり、陰で「もう辞めるべきだ」と囁かれている県内衆院議員たち。その最新動向を追った。 新3区支部長は菅家氏、上杉氏は比例単独へ 森山氏と並んで取材に応じる菅家氏(右)と上杉氏(左)=3月21日の党県連大会  衆院区割り改定を受け、県南地方の一部(旧3区)と会津全域(旧4区)が一つになった新3区。この新しい選挙区で自民党から立候補を目指していたのが、旧3区で活動する上杉謙太郎氏(47)=2期、比例東北=と、旧4区を地盤とする菅家一郎氏(67)=4期、比例東北=だ。 次期衆院選の公認候補予定者となる新3区の支部長について、党本部は「勝てる候補者を擁立する」という方針のもと、上杉氏と菅家氏が共に比例復活当選だったこと、県内の意向調査で両氏を推す声が交錯していたことなどを理由に選定を先延ばししてきた。一方、中央筋から伝わっていたのは、党本部は上杉氏を据えたい意向だが、両氏が所属する派閥(清和政策研究会)は菅家氏を推しているというものだった。 選定の行方が注目されていた中、党本部は3月14日、新3区の支部長に菅家氏を選び、上杉氏は県衆院比例区支部長として次期衆院選の比例東北で名簿上位の優遇措置が取られることが決まった。 森山裕選対委員長は、菅家氏を選んだ理由を「主な地盤が会津だったから」と説明した。県南と比べ会津の方が有権者数が多いことが判断基準になったという。 本誌は1月号の記事で、上杉氏は新3区から立候補したいが菅家氏に遠慮していると指摘。併せて「菅家氏は会津若松市長を3期務めたのに小熊慎司氏に選挙区で負けており、支部長に相応しくない」という上杉支持者の声を紹介した。 それだけに上杉支持者は今回の選定に落胆しているかと思ったが、意外にも冷静な分析をしていた。 「有権者数を比べれば、県南(白河市、西白河郡、東白川郡)より会津の方が多いので、菅家氏が選ばれるのは妥当です。上杉氏がいきなり会津に行っても得票できないでしょうからね」(ある支持者) そう話す支持者が見据えていたのは、負ける確率が高い「次」ではなく「次の次」だった。 「菅家氏は次の衆院選で相当苦戦するでしょう。小熊氏と毎回接戦を演じているところに、県南の一部が入ることで玄葉光一郎氏の応援がプラスされる。今回の選定は、党本部が『菅家氏が選挙区で負けても、上杉氏が比例で当選すれば御の字』と考えた結果と捉えています」(同) そこまで言い切る理由は、両氏に対し、一方が小選挙区、もう一方が比例単独で立候補し、次の選挙では立場を入れ替えるコスタリカ方式を導入しなかったことにある。 「コスタリカを組むと、選挙区に回った候補者が負けた場合、比例に回った候補者は『オマエが一生懸命やらなかったから(選挙区の候補者が)負けた』と厳しく批判され、次に選挙区から出る際のマイナス材料になってしまう」(同) 上杉氏は次の衆院選で、菅家氏のために一生懸命汗をかくことになるが、その結果、菅家氏が負けてもコスタリカを組んでいないので批判の矛先は向きにくい。一方、汗をかいた見返りに、これまで未開の地だった会津に立ち入ることができる。すなわちそれは、次の衆院選を菅家氏のために戦いながら、次の次の衆院選を見据えた自分の戦いにつながることを意味する。 「もし菅家氏が負ければ、既に2回比例復活当選しているので支部長には就けないから、次の次は上杉氏の出番になる。上杉氏はその時を見越して(比例当選で)バッジをつけながら選挙区で勝つための準備を進めればいい、と」(同) もちろん、このシナリオは菅家氏が負けることが前提になっており、もし菅家氏が勝てば、今度は上杉氏が比例東北で2回連続優遇とはいかないだろうから、途端に行き場を失う恐れがある。前出・森山選対委員長は上杉氏に「次の次は支部長」と密かに約束したとの話も漏れ伝わっているが、これだってカラ手形に終わる可能性がある。 いずれにしても「選挙はやってみなければ分からない」ので、今回の選定が両氏にとって吉と出るか凶と出るかは判然としない。 党本部のやり方に拗ねる馬場氏 馬場雄基氏  馬場雄基氏(30)=1期、比例東北=が3月15日に行ったツイッターへの投稿が波紋を生んでいる。 《質問終え、新聞見て、目を疑いました。事実確認のために、常任幹事会の議事録見て、本当と知ってショックが大きすぎます。県連常任幹事会で話したことは正しく伝わっているのでしょうか。本人の知らないところで、こうやって決まっていくのですね。気持ちの整理がつきません》 https://twitter.com/yuki_8ba/status/1635848039670882309  真に言いたいことは分からないが、立憲民主党本部が行った「何らかの決定」にショックを受け、不満を露わにしている様子は伝わってくる。 投稿にある「新聞」とは、3月15日付の地元紙を指す。そこには党本部が、次期衆院選の公認候補予定者となる支部長について、新1区は金子恵美氏、新3区は小熊慎司氏を選任したという記事が載っていた。 実は、馬場氏も冒頭の投稿に福島民友の記事写真を掲載したが、同記事には馬場氏に関する記載がなかったため、尚更「何にショックを受けたのか」と憶測を呼んだのだ。 党県連幹事長の髙橋秀樹県議に思い当たることがあるか尋ねると、次のように話した。 「私も支持者から『あの投稿はどういう意味?』と聞かれたが、彼の言わんとすることは分かりません。県連で話したことが党本部に正しく伝わっていないと不満をのぞかせている印象だが、県連の方針は党本部にきちんと伝えてあります」 馬場氏をめぐる県連の方針とは、元外相玄葉光一郎氏(58)=10期、旧3区=とのコスタリカだ。 衆院区割り改定を受け、玄葉氏は新2区から立候補する考えを示したが、旧2区で活動する馬場氏も玄葉氏に配慮し明言は避けつつも、新2区からの立候補に意欲をにじませていた。これを受け県連は2月27日、両氏を対象にコスタリカ方式を導入することを党本部に上申した。 この時の馬場氏と玄葉氏のコメントが読売新聞県版の電子版(3月1日付)に載っている。 《記者会見で、馬場氏はコスタリカ方式の要請について、「現職同士が重なる苦しい状況を打開し、党本部の決定を促すためだ」と強調。「その部分が決定してから様々なことが決まる」と述べた。玄葉氏は「活動基盤を新2区にしていく。私にとっては大きな試練だ」とし、「比例に回った方が優遇される環境が前提だが、私の場合、小選挙区で出る前提で準備を進める」とも述べた》 馬場氏は玄葉氏とのコスタリカを認めるよう党本部に強く迫り、それが決まらないうちは他の部分は決まらないと強調したのだ。 ただ党本部は、コスタリカで比例区に転出する候補者(馬場氏)は名簿上位で優遇する必要があり、他県と調整しなければならないため、3月10日に大串博志選対委員長が「統一地方選前の決定はあり得ない」との見解を示していた。 そして4日後の同14日、党本部は前述の通り金子氏を新1区、小熊氏を新3区の支部長とし、新2区については判断を持ち越したため、馬場氏はショックのあまりツイッターに思いを吐露したとみられる。 進退にも関わることなので馬場氏の気持ちは分からなくもないが、前出・高橋県議は至って冷静だ。 「もしコスタリカを導入すれば立憲民主党にとっては初の試みで、比例名簿の上位登載は他県の候補者との兼ね合いもあるため、簡単に『やる』とは発表できない。調整に時間がかかるという党本部の説明は理解できます」(高橋県議) 要するに今回の出来事は、多方面と調整しなければ結論を出せない党本部の苦労を理解せずに、馬場氏が拗ねてツイッターに投稿した、ということらしい。 馬場事務所に投稿の真意を尋ねると、馬場氏本人から次のようなコメントが返ってきた。 「多くの方々に支えられて議員として活動させていただいていることに誇りと責任を持って行動していきます。難しい状況だからこそ、より応援の輪を広げていけるよう精進して参ります」 ここからも真意は読み取れない。 前述の上杉・菅家両氏といい、馬場氏といい、衆院区割り改定に翻弄される人たちは心身が休まることがないということだろう。 健康不安の吉野氏に引退を求める声 吉野正芳氏  選定が難航する区もあれば、すんなり決まった区もある。そのうちの一つ、自民党の新4区支部長には昨年12月、現職の吉野正芳氏(74)=8期、旧5区=が選任された。 選挙の実績で言えば、支部長選任は順当。ただ周知の通り、吉野氏は健康問題を抱え、このまま議員を続けても満足な政治活動は難しいという見方が大勢を占めている。 復興大臣を2018年に退任後、脳梗塞を発症。療養を経て現場復帰したが、身体に不自由を来し、移動は車椅子に頼っているほか、喋りもスムーズではない状態にある。 「正直、会話にはならない。吉野先生から返ってくる言葉も、こもった話し方で『〇くん、ありがとね』という具合ですから」(ある議員) 要するに今の吉野氏は、国会・委員会での質問や聴衆を前にした演説など、衆院議員として当たり前の仕事ができずにいるのだ。3月21日に開かれた党県連の定期大会さえも欠席(秘書が代理出席)している。 ここで難しいのは、政治家の出処進退は自分で決めるということだ。周りがいくら「辞めるべき」と思っても、本人が「やる」と言えば認めざるを得ない。 ただ、吉野氏の場合は前回(2021年10月)の衆院選も同様の健康状態で挑み、この時は周囲も「あと1期やったら流石に引退だろう」と割り切って支援した経緯があった。ところが今回、新4区支部長に選任され、本人も事務所も「まだまだやれる」とふれ回っているため、地元では「いい加減にしてほしい」と思いつつ、首に鈴をつける人がいない状況なのだ。 写真は3月21日の党県連定期大会を欠席した吉野氏が会場に宛てた祝電  「吉野氏の後釜を狙う坂本竜太郎県議は内心、『まだやるつもりか』と不満に思っているだろうが、ここで波風を立てれば自分に出番が回ってこないことを恐れ、ひたすら沈黙を貫いています」(ある選挙通) 旧5区、そして新たに移行する新4区は強力な野党候補が不在の状態が続いている。それが、満足な政治活動ができない吉野氏でも容易に当選できてしまう要因になっている。ただ、いつまでも当選できるからといって「議員であり続けること」に固執するのは有権者に失礼だ。 それでなくても新4区は原発被災地が広がるエリアで、復興の途上にある。元復興大臣という肩書きを笠に着て、行動力に期待が持てない議員に課題山積の新4区を任せるのは違和感がある。 あわせて読みたい 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き

  • 【鏡石町】政治倫理審査後も続く議会の騒動

    【鏡石町】政治倫理審査後も続く議会の騒動

    込山靖子議員が渡辺定己元議員から不適切な言動を受けたと訴え、政治倫理審査会(政倫審)を設置して審査が行われた問題は、昨年12月に政倫審が報告書をまとめたことで、一応の決着を見たと思われていた。ところが、3月上旬、渡辺元議員が反論文を関係各所に送付したことで、新たな問題が生まれようとしている。 「不適切」認定された元議員が反論 込山靖子議員 渡辺定己元議員  込山議員は昨年8月19日付で古川文雄議長に政治倫理審査請求書を提出した。同請求書は込山議員を含む7人の議員の連名で、渡辺議員から受けた16項目に及ぶ不適切な言動が綴られている。 それから4日後の同23日付で渡辺議員は古川議長に辞職願を提出し、受理された。辞職理由は「健康上の問題」だった。 この経過だけを見ると、政倫審請求を受け、渡辺議員が逃げ出したように映る。実際、そう捉えている関係者もいるが、その前に渡辺議員は入院しており、「このままでは迷惑をかける」、「治療に専念したい」といった考えから辞職したようだ。 これを受け、町議会事務局は県町村議会議長会に対して「政倫審請求書提出後に辞職した議員について、審査することは可能か」等々の問い合わせをしていた。このため、その後の動きに時間を要したが、県町村議会議長会の顧問弁護士から「今回のケースでは辞職した渡辺元議員の審査を行うことが可能である」旨の回答があったという。 ある議員はこう解説する。 「条例文の解釈では、要件を満たした状況で、議長に政倫審請求書を提出し、それが受理された段階で『政倫審は立ち上がっている』ということになる。つまり、昨年8月19日に政倫審請求書を提出した時点で、政倫審は発足している、と。その4日後に渡辺議員が辞職したが、町議会事務局が県町村議会議長会の顧問弁護士に確認したところでは、『審査を行うことは可能で、渡辺元議員への招致要請もできる。ただし、強制はできない』とのことでした」 不適切行為を一部認定  こうした確認を経て、昨年10月、政倫審委員として、畑幸一議員(副議長)、大河原正雄議員、角田真美議員の議員3人と、門脇真弁護士(郡山さくら通り法律事務所)、佐藤玲子氏(町人権擁護委員)、村越栄子氏(町民生児童委員)の民間人3人の計6人が選任された。委員長には門脇弁護士が就いた。 政倫審は昨年11月14日、29日、12月20日と計3回開催され、3回目で報告書をまとめて古川議長に提出した。それによると、審査対象は「渡辺元議員の込山議員に対する行為がセクシャルハラスメント行為、パワーハラスメント行為、議会基本条例第7条第1号(町民の代表として、その品位または名誉を損なう行為を禁止し、その職務に関し不正の疑惑を持たれるおそれのある行為をしないこと)に違反するか否か」である。 審査結果は次の通り。   ×  ×  ×  × 本件審査請求の対象とされる行為のうち、委員会の会議中に、審査対象議員(渡辺元議員)が審査請求代表者(込山議員)に依頼して、審査対象議員の足に湿布を貼ってもらった行為は、審査会の調査によって認定することができる。そして、特段やむを得ない事情も認められない本件当時の状況を踏まえると、当該行為は、議案等の審査等を責務とする委員会活動中における町民の代表者としてふさわしい行為とは言えず、町民の代表者としての品位を損なう行為であり、条例第7条第1号に違反するとの結論に至った。 なお、本件審査請求の対象とされる行為のうち、審査対象議員個人の行為とはいえない行為及び当事者間の金銭請求の当否を求めることにほかならない行為については審査不適との結論に至った。 また、その他の行為については審査会の調査によっても真偽不明であり、その存否について判断できないとの結論に至った。   ×  ×  ×  × この結果を受け、当時の本誌取材に込山議員は次のように述べた。 「(政倫審の報告書は)形式的なものでしかなかったが、一応『不適切』と認められた部分もありますし、町民の中には『もっとやるべきことがあるのではないか』といった声もあるので、私としてはこれで良しとするしかないと思っています。ほかの議員からは(もっと厳しく審査・追及すべきという意味で)『納得できない』といった意見も出ました。そうした発言で救われた部分もある」 要は「納得したわけではないが、これで矛を収めるしかない」との見解だったのである。 これで一応の決着を見たと思われたが、3月上旬、渡辺元議員が「当事者として今・真実を語る!!」と題した反論文を関係各所に送付した。 本誌も渡辺元議員を取材してそれを受け取り、話を聞いた。一方で、込山議員からも政倫審請求書を提出した直後や、政倫審の結果が出た後に話を聞いているが、双方の主張は180度異なっている。 すなわち、込山議員は「選挙期間中、あるいは当選後の議員活動の中で、渡辺議員からこんなことを言われた」、「こんなことをされた」と訴え、それに対し、渡辺元議員は「それは違う。実際はこうだった」と主張しているのだ。 ほとんどが2人のときの出来事で、客観的な判断材料があるわけではない。そのため、どこまで行っても、水掛け論になってしまう。 実際、先に紹介した政倫審の報告書でも、大部分は「真偽不明で、その存否について判断できない」とされている。唯一、認定されたのは、委員会の会議中に、渡辺議員(当時)が込山議員を呼びつけ、足に湿布を貼らせたという行為。これはほかの議員も見ていた場でのことのため、関係者に確認し「間違いなくそういうことがあった」と認定され、「町民の代表としての品位、名誉を損なう行為」とされたのだ。 政倫審後に反論の理由  一方で、政倫審は渡辺元議員に説明、資料提出、政倫審への出席を求めたが、渡辺元議員はいずれの対応もしなかった。にもかかわらず、ここに来て、反論文を関係各所に送付したのはなぜか。渡辺元議員は次のように説明した。 「今回の件は、(議会内の対立構造の中で)私を貶めようというのが根底にあったのです。だから、相手にするつもりもなかったし、『人の噂も75日』というから黙っていました。ただ、『謝罪しろ』とか、あまりにも騒ぎ立てるので、黙っていられなくなった」 政倫審の結果が出た後、議会内では「不適切と認められた部分について、公開の場(議場)で、渡辺元議員に謝罪を求めるべき」との意見が出た。渡辺元議員の「『謝罪しろ』と騒ぎ立てるので黙っていられなくなった」とのコメントはそのことを指している。なお、3月議会最終日の3月17日、議員から「鏡石町議会として元鏡石町議会議員・渡辺定己氏に公開の議場での謝罪を求める決議(案)」が出されたが、否決された。 一方で、「不適切」と認定された湿布を貼らせた行為については、渡辺元議員はこう説明した。 「私が医師から受けた診断は狭窄症で、時折、極度の神経痛が襲う。あの時(委員会中に込山議員に湿布を貼らせた時)は本当に辛かった。一部は自分で湿布を貼ったが、それ以上は自分でできず、うずくまっていたところに、ちょうど込山議員が目に入り、貼ってくれ、と頼んだ」 「その点については反省し、謝罪もした」という渡辺元議員。ただ、込山議員は「謝罪は受けていない。委員会という執行部やほかの議員が見ている場で、込山議員はオレ(渡辺元議員)の子分だということを示したかったからとしか思えない」と語っていた。 いずれにしても、このことが政倫審で「町民の代表としての品位、名誉を損なう行為」と認められたことだけは事実として残っている。 込山議員は、現職議員の死去に伴い、昨年5月の町長選と同時日程で行われた町議補選(欠員2)に立候補し初当選した。補選に当たり、込山議員に「議員をやってみないか」と打診し、選挙活動の指南・手伝いをしたのが渡辺元議員だった。そういう関係性からスタートして、今回のような事態になった。この補選を巡り、渡辺元議員は「選挙費用を立て替えた。その分を返還してほしい」、込山議員は「私の知らないところで勝手にいろいろされた」といったトラブルも発生している。 込山議員は「最初は(渡辺元議員を)尊敬できる人だと思って、いろいろ勉強させてもらおうと思ったが、実際は全然違った」と言い、渡辺元議員は「(込山議員を)自分の後継者になってもらいたいと思い、目をかけたが裏切られた思いだ」と明かす。 出口の見えない抗争はさらに続くのか。 あわせて読みたい 【鏡石町議会】不適切言動の責任を問われる渡辺定己元議員

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

    ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 続・現職退任で混沌とする猪苗代町長選

    現職退任で混沌とする猪苗代町長選

     任期満了に伴う猪苗代町長選は6月13日告示、同18日投開票の日程で行われる。現職・前後公氏は今期限りでの退任を表明しており、次の舵取り役が誰になるのかが注目されている。(※記事は3月27日時点での情勢をまとめたもの) 前後氏の後継者と佐瀬氏の一騎打ちか 前後公町長  猪苗代町議会3月定例会の最終日(3月20日)。閉会のあいさつに立った前後公町長は、同議会に上程した議案が議決されたことへの感謝を述べた後、「私事ですが」として、こう話した。 「6月に行われる町長選には立候補しない。3期12年、東日本大震災・原発事故があった中、年間100万人が訪れる道の駅猪苗代がオープンし、認定こども園2カ所も開所することができた。中学校統合の道筋もできた。後進に道を譲りたい」 前後氏は1941年生まれ。日本大学東北工業高(現・日大東北高)卒。1961年に町職員となり、生涯学習課長などを務めた。2011年の町長選で初当選し、3期目。 現在81歳で、県内市町村長では最年長になる。年齢的な面で、以前から関係者の間では「今期までだろう」と言われており、その見立て通りの退任表明だった。 「就任して少し経ったころは、疲れているのかなと思うこともあったが、町長の職務に慣れてきてからは就任前より元気なのではないかと思うくらい、気力が充実していたように感じます。酒席などに出ても長居することは少なく、健康面にはかなり気を使っていました。実際、この間、大きな病気をしたことはない。ただ、いまは元気でも任期中に何かあったら迷惑がかかるという思いはずっとあったようです」(ある支持者) 近隣の関係者はこう評価する。 「よく『開かれた町政』ということを掲げる人がいますが、前後町長は任期中、一度も町長室の扉を閉めたことがなく、文字通り『開かれた』町政だった。そうして町民と気軽に接することができるようにしたのは立派だったと思います。もっとも、本当に気軽に町長室に入っていく町民はあまりいなかったでしょうけどね。それに対して、ある首長は部屋(市町村長室)の鍵をかけておくんですから、えらい違いですよ」 この間、本誌記者も幾度となく前後町長と面会したが、確かに町長室の扉が閉められた(閉まっていた)のは見たことがない。前後町長はよく「誰かに聞かれて困るようなことは何もない」、「(扉を閉めて)密室で何をしているのかと思われるよりはよっぽどいい」、「誰でも入ってきて要望等、言いたいことを言ってくれたらいい」と言っていた。 さて、前後町長退任後の町長選だが、同町議員の佐瀬真氏が3月定例会初日の3月7日に、渡辺真一郎議長に辞職願を提出し、本会議で許可された。同時に町長選への立候補を表明した。なお、議員辞職は会期中であれば議会の許可が必要になり、閉会中だと議長の権限で辞職の可否を決めることができる。 佐瀬氏は1953年生まれ。会津高卒。2012年2月の町議選で初当選。2015年6月の町長選に立候補し、前後氏に敗れた。その後、2016年2月の町議選で返り咲きを果たした。2019年6月の町長選にも立候補し、前後氏と再戦。最初のダブルスコアでの落選から、だいぶ票差を詰めたが当選には届かなかった。2020年の町議選で三度返り咲きを果たしたが、前述したようにすでに辞職して町長選に向けた準備に入っている。 ある町民はこう話す。 「最初の町長選(2015年)は、佐瀬氏本人も『予行演習』と言っていたくらいで、2期目を目指す現職の前後氏に勝てるとは思っていなかったようです。ただ、2回目(2019年)は本気で取りに行くと意気込んでいた。結果は、1回目よりは善戦したものの、現職の前後氏に連敗となりました。その後は地元を離れて仕事をしているという情報もあったが、翌年(2020年)の町議選で復帰したことで、次の町長選も出るつもりだろうと言われていました。ですから、佐瀬氏の立候補表明は予想通りでした」 前後町長の後継者は誰に  一方で、別の町民は次のように語った。 「佐瀬氏は過去2回、町長選に出ていますが、いずれもその翌年の町議選で議員に復帰しています。『町長選がダメでも、また議員に戻ればいい』とでも考えているのではないかと疑ってしまう。少なくとも、私からしたらそういう感じがミエミエで、町民の中にも『どれだけ本気なのか』、『そんな中途半端では応援する気になれない』という人は少なくないと思いますよ」 確かに、同様の声を町内で何度か耳にした。町長選の8カ月後に町議選がある並びというも良くない。ちなみに、2020年の町議選は無投票で、町によると、記録が残る1964年以降で初めてのことだったという。労せずして議員に返り咲いたことになる。 3月27日時点で、佐瀬氏のほかに立候補の意思を明らかにしている人物はいないが、前後氏の後継者が立候補することが確実視される。 前後氏の後援会関係者は次のように話す。 「前後町長は後援会役員に、『今期で引退する。後継者は私が責任を持って決める。私が決めた人で納得してもらえるなら、応援してほしい』と宣言しました」 そんな中で、名前が挙がるのが元町議の神田功氏(70)。過去にも町長選の候補者に名前が挙がったことがあった。 「その時は家族の理解が得られなかったようだ。それと関係しているかどうかは分からないが、直前で息子さんが亡くなり、町長選どころではなくなった」(ある町民) 神田氏は2008年の町議選を最後に議員を引退した。現在は、家業である民宿を経営している。 「もともとは前後町長の対立側にいた人物で、もし、神田氏が前後町長の後継者に指名されたら、後援会関係者の中には、『神田氏では納得できない』という人も出てくるかもしれない」(前後氏の支持者) いずれにしても、前後町長の後継者と佐瀬氏の一騎打ちになる公算が高く、有権者がどのような判断を下すのかが注目される。 あわせて読みたい 続・現職退任で混沌とする猪苗代町長選

  • 【伊達市議会】物議を醸す【佐藤栄治】議員の言動

     伊達市議会の佐藤栄治市議(60、2期)が昨年12月の定例会議(同市議会は2021年5月から通年議会制を導入)で一般質問した際、執行部が不適切発言であることを指摘するシーンがあった。佐藤市議は以前から一般質問で非常識な言動を繰り返しており、「この機会に徹底的に責任追及すべき」との声も聞かれる。 執行部の〝不適切発言〟指摘に本人反論 建設中のバイオマス発電所  昨年12月の市議会定例会議の一般質問。動画が同市議会のホームページで公開されているが、12月5日に行われた佐藤栄治市議の分だけ「調整中」となっている。市議会事務局によると「固有名詞を出している個所があり、確認を進めている。まだ公表できる段階ではない」という。 事前に提出していた通告によると、佐藤市議は①厚労省勧告に基づく伊達市救急指定病院の再編について、②梁川バイオマス発電事業者の原材料運搬方法等について――の2点について質問した。佐藤市議や傍聴者によると、物議を醸したのは②の質問だった。 同市梁川町の工業団地・梁川テクノパークでは、バイオマス発電所の建設が計画されている。事業者はログ(群馬県、金田彰社長)。資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2022年7月期の売上高20億0800万円、当期純利益3億2514万円。 同発電所をめぐっては、▽木材だけでなく建築廃材や廃プラスチックも焼却される、▽バイオマス事業のガイドラインを無視し、住民への十分な説明がない、▽ダイオキシンの発生などが懸念される――等々の理由から、梁川町を中心に反対の声があがっている。住民などによる「梁川地域市民のくらしと命を守る会」が組織されており、本誌では2021年6月号「バイオマス計画で揺れる伊達市梁川町」をはじめ、たびたび報じてきた経緯がある。 予定地にはすでに発電所の大きな建物が建てられており、今年秋には試運転が始まる予定だ。 佐藤市議が着目したのは、そんなバイオマス発電所の建設に伴い、重さ20㌧超のトレーラーが1日何台も市道を通る点だった。 道路法では道路を通行する車両の重さの最高限度(一般的制限値)を20㌧と定めており、それ以上の重さの「特殊車両」は道路管理者の道路使用許可を取る必要がある。 一般質問ではそのことを説明した上で、「ログ社の車は20㌧以上が多いようだ。国見町では補修中の徳江大橋の通行を20㌧以下に制限し、ふくしま市町村支援機構もそのように指導する流れとなっている。伊達市側の市道も許可なしで通行させるべきではないのではないか」と指摘した。 「国見町は国見町。伊達市は伊達市の方針で進める」といった趣旨の答弁に終始する執行部に対し、「間もなく市町村支援機構が正式に方針を示し、国見町も従うだろう」と佐藤市議が返した。そうしたところ、執行部が反問権を行使し、「公式かつ確定した話でもないのに、議会で紹介するのか。不適切発言ではないか」と答弁したという。 後日、執行部から市議会に、正確な情報に基づく議会運営を求める申し入れがあったという。当の佐藤氏はワクチン接種に伴う体調不良を理由に12月定例会議の最終日を欠席し、採決に加わらなかった。 市議会では以前から佐藤氏の行き過ぎた発言が問題視されており、一部市議の間では「今回の件はさすがに看過できない。議会として明確に意思表示し、何らかの形で責任を問う必要があるのではないか」という声が強まっているようだ。 伊達市議会では議員政治倫理条例が2016年9月に施行されている。同条例では《市民を代表する機関の一員として、高い倫理観と良識を持ち、議会の権威と品位を重んじるとともに、その秩序を保持し、議員に対する市民の揺るぎない信頼を得なければならない》としており、《市民全体の代表者として、名誉と品位を損なうような一切の行為を慎み、その職務に関して不正の疑惑を持たれる恐れのある行為をしないこと》と定めている。 2019年9月には、同年6月定例会の全員協議会で半沢隆市議が同僚議員に侮辱的発言をしたとして、政治倫理審査会が開催され、当該発言の謝罪と撤回を行っている。 市議会事務局に問い合わせたところ、事務局長は政倫審の手続きが進められているかどうかも含めて、コメントを控え、「現在議会内で対応を検討しているが、公表する段階ではない」と話した。複数の市議に問い合わせても口をつぐんだが、議会での過去の発言を検証しているのは間違いないようなので、近いうちに何らかの発表がありそうだ。 過去にも危うい言動 佐藤栄治伊達市議  「市民にはあまり知られていないが、佐藤市議の危うい言動は今に始まったことではない」と語るのは市内の事情通。 「伊達市議の名刺を示し、まるで市の代表者のような雰囲気で、国や県の出先機関、近隣市町村の役場、企業、団体などに顔を出す。複数の知り合いから『先日、佐藤市議が突然うちの事務所に来た。何なんですかあの人は』と戸惑う声を聞いている。建設業者を引き連れて市役所に行ったり、自分の見立てを国や県の考えのように話すなど、かなり危うい言動もみられる。実際に一般質問で思い込みの発言をしてしまい、議事録から関連発言が削除されることもありました」(同) 例えば2020年3月定例会の一般質問。入札参加資格建設業者の実態調査の問題点を指摘した際、佐藤市議はこのように話している。 《結論から申し上げますと、県からはまだ言わないようにと言われているのですけれども、間もなく伊達市の、具体的に言うと財務部の契約検査室、ここに県の立入調査が入ります。容疑と言ったらおかしいけれども、容疑は建設業法違反の入札を認めていたということで、立入調査に何人かで来るというふうに県からは聞いております》 市財政課契約検察係(※当時から部署名が変更した)に確認したところ、その後、県の立ち入り調査が行われた事実はなかったという。 議会のホームページで公開されている2021年度の政務活動費収支では、年間36万円が支給され、29万6653円を支出したことが記されている。2021年11月には「伊達市の企業誘致についての懇談」という目的で経済産業省に行っている(旅費2万1117円)。 報告書には活動の内容及び成果として「経産省の企業立地補助及び産業政策のアドバイス及び個別企業等へのコンタクトのアドバイス」と書かれていたが、「一人で経産省に行って懇談して、どう企業誘致につながるのか」といぶかしむ声も聞かれる。何ともうさん臭さが拭えないのだ。 佐藤氏は1962(昭和37)年生まれ。保原高、福島大経済学部卒。実家は建設関連業の三共商事。本人の話によると、第一勧業銀行に入行後、顧客のつながりで政治家とのパイプが生まれ、元衆院議員・元岡山市長の萩原誠司氏の秘書を務めた。髙橋一由・伊達市議が同市長選に立候補した際には陣営の事務局長を務めている。昨年4月の市議選(定数22)では、629票を獲得し、22位で再選を果たした。 本誌では2019年7月号「伊達市の新人議員2氏に経歴詐称疑惑」という記事で佐藤氏についてリポートした。①同市保原町大柳に自宅があるが、実際は同市南堀(旧伊達町)の妻の実家で生活している、②保原高卒なのに周囲に福島高卒と話している――という点で疑惑が浮上していることを報じたもの。 本誌取材に対し、佐藤氏は「旧伊達町の妻の実家には夕飯を食べに行っているだけで、夜は保原町の自宅で寝泊まりしている。住民票も保原町に置いている。出身高校は保原高校で、福島高校卒業なんて言った覚えはない。私は福島大学卒業なので、それと勘違いして第三者が勝手に(福島高校卒業と)思い込んでいるだけではないか」と主張した。  12月の定例会議のやり取りが物議を醸している件について、本人はどう受け止めているのか。保原町の自宅にいた佐藤市議に話を聞いた。   ×  ×  ×  × ――12月の定例会議が物議を醸している。 「『梁川地域市民のくらしと命を守る会』から相談され、調べているうちに、道路法の観点が抜け落ちたまま工事が進められていることに気付いた。『守る会』のメンバーとともに国見町に足を運び、徳江大橋の件も確認した。一般質問3日後の12月8日には国見町が徳江大橋の特殊車両通行禁止を発表した。間違いではなかったことになる。道路法では、『2つの自治体にまたがる道路の場合は協議して対応を決める』と定められているが、市はどう対応するつもりなのか」 ――市議の中では不適切発言の責任を問う声もあるようだが。 「倫理問題調査会が立ち上げられ、調査に協力したが、自分の発言は正当性があると考えている。そもそも同調査会は法的には何の権限もないはず。道路法をめぐる問題は引き続き議会で追及していきたい」 ――一般質問で固有名詞を出し、公式発言ではない発言を紹介することも多い。そうした発言が不適切と受け止められるのではないか。実際、議事録から削除されている個所も多く見かけた。 「裏取りに行って具体的な話を聞いたので議場で紹介しているだけのこと。過去の経歴の中で、霞が関や県庁、経済人などに同級生・友人がいる。調査している件や疑問点があれば、具体的な話を聞きに行く」   ×  ×  ×  × 今回の不適切発言だけでなく過去の質問も問題視されているのに、「そんなの関係ねえ」と言わんばかりの態度なのだ。こうした振る舞いを看過すれば、議会全体が信頼を失いかねないが、議会は追及できるか。 経済人やマスコミ関係者などとのつながりがある〝情報通〟であり、一般質問では法律・条令に基づきさまざまな角度から執行部を鋭く批判する――佐藤市議に関してはこうした評価も耳にするが、一方で、議員らしからぬ〝きな臭いウワサ〟も囁かれている。地元住民や政治家経験者からは「自分のことしか考えていない。地元で応援している人は少ない」と辛辣な評判が聞かれた。もっとも、本人はそうした声すら気にせず、開き直って暴走するタイプに見える。 市議会をウオッチングしている市内の経済人は「徹底追及は難しいのではないか」と見る。 「一般質問での内容が事実と違った件は『自分は確かにそう聞いた』と主張されれば追及しようがない。かつて一緒に行動していたり、政策面で共闘しているなどの理由で、批判し切れない市議もいるだろう。一人の政治家を徹底追及するのは容易ではない。議長が注意して幕引きとする可能性もある」 2023年第1回定例会議は3月14日まで開催される予定で、大きな動きがあるのは会期終了後になりそう。果たして議会はどのような判断をするのか、そして佐藤市議はどう受け止めるのか。

  • 幻に終わった会津若松市長選「新人一本化」【小熊氏の辞退要請を拒んだ水野氏】

    幻に終わった会津若松市長選「新人一本化」

    任期満了に伴う会津若松市長選は7月23日告示、同30日投開票で行われる。注目されたのは、他の立候補予定者より正式表明が遅れていた元女性県議の動向だった。 小熊氏の辞退要請を拒んだ水野氏 2月20日現在、市長選に立候補を表明しているのは現職で4選を目指す室井照平氏(67)と新人で市議の目黒章三郎氏(70)。ここに元県議の水野さち子氏(60)が加わり選挙戦は三つ巴になるとみられているが、室井氏と目黒氏が記者会見を開いて正式表明したのに対し、水野氏は立候補の意欲を示し続けるだけの状況が続いた。  そのため、選挙通の間では  「(市長選に)出る、出ると散々名前を売って結局出ず、その後に控える秋の県議選で返り咲きを狙っているのではないか」  と「本命は県議選」説が囁かれていたが、ある経済人は  「いや、本命は市長選で間違いないと思いますよ」  と言う。  「市内の有力者たちを回り、支援を要請している。『今の市政では市民が気の毒』『参院選でいただいた票を無駄にできない』『(選挙に必要な)お金は準備した』と話しているそうだから、有力者たちは『水野氏は本気だ』と受け止めている」(同)  水野氏は司会業やラジオパーソナリティーなどを経て2011年の県議選に立候補し初当選。2期途中で辞職し、2019年の参院選に野党統一候補として立候補したが、自民党の森雅子氏に敗れた。  落選したとはいえこの時、水野氏は34万5001票(当選した森氏は44万5547票)を獲得。それを受けて水野氏は「参院選の票を無駄にできない」と述べているわけだが、  「あれは野党が揃って支援し(当時参院議員の)増子輝彦氏が後押ししたから獲れた票数。それを自分が獲ったと勘違いしていたら(市長選に立候補しても)厳しい」(同)  水野氏の基礎票は2回の県議選で獲得した「7000票前後」と見るべきだが、それだって小熊慎司衆院議員の全面的なバックアップがあったことを忘れてはならない。  実は水野氏をめぐっては、その小熊氏が立候補を見送るよう水面下で打診していた。  事情通が解説する。  「室井氏は、自身の実績と強調する『スマートシティAiCT(アイクト)』がとにかく不評で、観光業と建設業の人たちからはソッポを向かれている。そもそも歴代の会津若松市長は最長3期までで、4期やった人は皆無。そのため室井氏の4選出馬を歓迎しない人は多いのです」  だから、室井氏の4選を阻止するには新人との一騎打ちに持ち込む必要があるのに、前出・目黒氏と水野氏が立候補したら現職の批判票が割れ、室井氏に有利に働いてしまう。  というわけで小熊氏は水野氏の説得を試みたが、2月18日付の福島民報によると、水野氏は立候補の意思を固め、同26日に正式表明するというから、小熊氏の辞退要請を聞き入れなかった模様。ただ、小熊氏は室井氏と個人的に親しいので、行動の目的が室井氏の4選阻止だったとは断言できない。  「市民の間には、高齢の目黒氏より女性の水野氏の方が新鮮という声が意外に多い。目黒氏が政策通で、市議会議長として議会改革を推し進めたことは間違いないが、前回も市長選に出ると言いながら結局出なかったため、ここに来て『今更出られても』という見方につながっているようです」(同)  新人の一本化は、水野氏が取りやめるのではなく、目黒氏が辞退することで実現する可能性もゼロではないようだ。

  • 【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

    【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

     2000年代を中心に、国の意向で進められた「平成の大合併」。本誌では昨年12月号から、合併に参加しなかった市町村の個々の現状をリポートしている。4回目となる今回は、県内では稀有な人口が増えている自治体である西郷村のいまに迫る。 白河と合併した旧村民が羨む「恵まれた条件」  西郷村は西白河郡に属する。もともと同郡には、同村のほかに、表郷村、東村、泉崎村、中島村、矢吹町、大信村の計7町村があった。 「平成の大合併」議論が巻き起こった際は、2000年9月に同郡7町村と、同地域の中心自治体である白河市で、「西白河地方市町村合併研究会」を設立した。同研究会では「合併することが前提ではない」と前置きしたうえで、合併のメリット・デメリットなどの調査・研究が行われた。「平成の大合併」では、任意合併協議会→法定合併協議会→実際の合併といった流れだったが、同研究会は任意合併協議会に至る前の勉強会といった位置付けだった。 その後、白河青年会議所メンバーが中心となり、白河市・西白河郡8市町村での法定合併協議会設置に向けた署名活動が展開され、2002年1月、8市町村に直接請求が行われた。これを受け、それぞれの議会で、直接請求の法定合併協議会設置に関する議案が審議された。結果は、白河市、表郷村、大信村の3市村が可決、西郷村、東村、泉崎村、中島村、矢吹町の5町村が否決だった。 つまりは、後者5町村(議会)は合併に否定的だったということ。 その後も、調査・研究などは行われており、2003年10月、白河市長・助役(現副市長)が西白河郡の各町村を訪問して「任意合併協議会設置」を打診した。これに、前年に議会が法定合併協議会設置の直接請求を可決していた表郷村と大信村が賛同し、同年12月、3市村で任意合併協議会が設立された。翌2004年8月には東村からも参加意向が示され、同年9月に4市村で法定合併協議会が設置された。その後は4市村で合併協議が進められ、2005年11月に新・白河市が誕生した。 西郷村は、西白河地方の合併に誘われたものの、加わらずに「単独の道」を選んだわけ。 財政指標の推移  さて、ここからは過去3回のこのシリーズと同様、単独の道を歩むうえで最も重要になる財政面について見ていきたい。ちょうど、全国的に「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。別表は同法に基づき公表されている各指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ラスパイレス指数をまとめたもの。比較対象として、一緒に合併の勉強をしていた白河市の財政指標を併記した。 西郷村の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度3・2917・2814・453・01・172008年度3・1115・0613・529・21・382009年度2・5619・2812・038・61・442010年度――――14・650・61・272011年度――――17・438・71・012012年度――――12・422・70・882013年度――――11・90・50・892014年度――――10・8――0・892015年度――――9・0――0・882016年度――――9・9――0・902017年度――――8・2――0・902018年度――――6・9――0・892019年度――――5・6――0・912020年度――――4・1――0・94※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 白河市の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度8・4220・6723・6208・10・582008年度7・5119・5922・3186・80・612009年度6・7417・1319・9156・30・602010年度――――16・6136・80・582011年度――――14・6126・50・572012年度――――12・8115・60・552013年度――――11・188・50・572014年度――――9・873・40・582015年度――――9・359・70・602016年度――――9・758・80・602017年度――――10・557・80・602018年度――――10・963・00・612019年度――――11・470・10・632020年度――――10・453・00・64※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 西郷村の職員数とラスパイレス指数の推移年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数2010年139人99・42011年139人108・02012年141人108・62013年146人100・82014年150人100・62015年144人100・32016年146人100・22017年146人100・22018年140人100・42019年142人100・72020年145人100・1※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  県市町村財政課による2020年度指標の総括によると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも差はない。 実質公債費比率は、全国市区町村平均が5・7%、県内平均が6・1%で、西郷村はそれを下回っている。推移を見ても、年々良化していることが分かる。 将来負担比率は、31市町村が発生しておらず、西郷村はその1つ。しかも、早い段階から「算出なし」となっている。そのほか、財政力指数も高い。 いずれの指標も、白河市と比べると「いい数字」が並んでいることが分かる。 ある村民は「合併しなかった最大の理由はそこにある」という。国が「平成の大合併」を推進したのは、財政基盤の強化と行政の効率化が大きな狙いだったが、同村はもともと財政基盤が強く、一時期は地方交付税の不交付団体だった。そのため、当初から「合併しなくてもやっていける」といった考えがあったというのである。 その背景にあるのは条件の良さだ。代表的なのが新幹線が停車する新白河駅があること。同村は「日本で唯一の新幹線の駅がある村」としても知られる。そのほか、東北自動車道白河ICがあるのも同村。いずれも「白河」の地名が付いているが、実際に立地しているのは同村なのだ(※新白河駅の一部は白河市)。 そうした施設・設備があることを背景に、交通の利便性が良く首都圏から近いこともあり、白河オリンパス、信越半導体、MGCエレクトロテクノなど優良企業の工場が稼働し、1000人規模の従業員が勤務している。さらにはイオン白河西郷店や場外馬券売り場・JRAウインズ新白河、ビジネスホテルなどもある。おおよそ「村」という行政区分には考えられないような充実度である。 「加えて、白河市などと比較すると地価が安いため、西郷村に移り住む子育て世代も多い。白河市まではすぐだし、働き口、学校、病院、買い物(食料品・日用品の調達先)などでも不便はないから、十分選択肢になり得る」(ある村民) この言葉に裏付けられるように、同村の人口は年々増えている(左頁表参照)。これは県内では稀有なことで、同村のほかではこのシリーズの2回目で取り上げた大玉村しかない。隣接する白河市が合併直後から約8000人減少していることから考えても、西郷村の状況の良さが分かる。周辺地区の「いいとこ取り」のような格好とも言える。 高橋村長に聞く 高橋廣志村長  高橋廣志村長に、「単独」を選択した当時の関係者の選択の是非や、財政状況・行政運営面、人口が増えていることなどについて、どう捉えているのかを聞いた。なお、高橋村長は2015年から村議を務め、2018年の村長選で初当選し、昨年の村長選では無投票で再選された。 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧白河市と西白河郡3村の合併がありました。その前段で、白河市と西白河郡7町村で「西白河地方市町村合併研究会」が立ち上げられ、合併についての調査・研究を行い、その後、白河青年会議所メンバーを中心に、西白河地方8市町村を対象とした法定合併協議会設置に関する直接請求がありました。これに対し、西郷村議会は「法定合併協議会設置案」を否決しましたが、当時の村長・議会をはじめ、関係者が「単独の道」を選択したことについて、いまあらためてどう感じていますか。 「平成14(2002)年第1回定例会において、住民発議による合併協議会設置の議案が上程され、議会審議の結果、否決となりました。当時の村長・議会及び諸先輩の方々が、合併に伴う西郷村のメリット、デメリットについて熟慮を重ねた結果として、合併協議会設置案が否決されたものと理解しています。 本村は、先人たちの英知とたゆまぬ努力により、立村以来一度の合併、分村もなく現在に至っている歴史があります。現在の西郷村は、県内でも数少ない人口が増加している自治体であり、財政力も他の町村と比較して上位に位置する財政基盤があります。現時点におきましては、先人たちが『単独の道』を選択したことについて良い選択であったと感じています」 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。別紙(別表)は県市町村財政課が公表している「財政状況資料」(財政指標、職員数とラス指数)から抜粋したものですが、それら数字についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。 「当村の財政指標の推移を見るに、高い財政力を維持しつつ、かつ健全な財政運営が続けられていると読み取れます。また、職員数については、従来、国、県が行っていた業務が権限移譲されておりますが、大幅な職員の増員は行わず、職員給与の指標であるラスパイレス指数についても、平均以上が維持されていると読み取れます。 今後の対応として、過去に誘致した製造業からの法人税、固定資産税に頼るだけではなく、再生可能エネルギーなどの他の産業からの税収確保に努めて『財政基盤強化』を図るとともに、現在の行政体系の見直し、職員の人材育成の強化、公共施設の統廃合、集約化により、『行政運営の効率化』を図っていきます」 ――別紙(別表)は人口の推移をまとめたものですが、西郷村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。 「様々な要因が考えられ、一概にこれというものを特定することは難しいですが、村内に東北新幹線新白河駅(1982年)と東北自動車道白河インターチェンジ(1973年)が整備されたことにより、都市圏からのアクセスの優位性が向上し、以降近隣市町村も含め、多くの企業や大型商業施設の進出により雇用の場が創出されました。 また、『恵まれた自然環境』『里山と田園風景が残る農村環境』『新白河駅周辺の都市的環境』といった特色ある3つの環境が共存した均衡がとれた村であり、様々なライフスタイルが実現できる村として注目されています。 人口が増加していることは、大変喜ばしいことではありますが、単に人口が増加するだけでは意味がなく、お住まいになられている皆様の満足度を向上させることが最も大切であると思っています。 西郷村は中学生以下のお子さんをお持ちの子育て世代の転入が多くみられ、生産年齢人口の割合が比較的大きいことから、子育て・教育支援、就業・雇用支援、移住定住支援を充実し安心して子育てができる環境を築くと共に、全ての方が生きがいを持って、いつまでも愛される、また外の方からは『ここはいい村だね』と自然に語られるような魅力のある村づくりに取り組んでいきたいと思います」 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。 「『単独』だからこそ、村でありながら2万人規模の人口を有しながらも、高い財政力を維持でき、他市町村と比較しても、標準又は標準以上の行政サービスを維持できていると思われます。 強みとしては、単独の小規模自治体であるが故、住民要望に対する予算化、実行に至るプロセスが短く、大規模自治体に比べ迅速に対応できる点が挙げられます」 人口増加について、「一概にこれというものを特定することは難しい」との回答だったが、やはり、新白河駅、白河ICが整備されたことに伴う、複数の企業立地や大型商業施設進出などを挙げた。前述したように財政状況が良いのはそれに基づく部分が多い。 「単独」の利点を生かせ  合併議論が本格化したころから、その後の大部分で村政を担ったのは佐藤正博氏だった。白河市職員、村収入役を経て2002年の村長選で初当選し、2018年まで4期16年間務めた。 佐藤氏の在職時、近隣自治体などで話を聞くと、多くの行政関係者が「あの村長は個性的だからね」と評した。象徴的なのは、原発事故を受け、会津・県南地方が「自主的避難区域」から外された際、両地方の首長・議長などが集まり、「分断を許さないためにも、両地方の関係者が連携していこう」といった趣旨の協議会設置のための集会が開かれた時のこと。その場に居合わせた首長・議長から「とりあえず、西郷村の佐藤村長が仮議長になって、進めればいいのでは」といった声が上がり、佐藤氏がタクトを振った。最終的に両地方の中心都市である会津若松市と白河市の両市長が代表者といった立場になったが、首長・議長が勢揃いする中で、その前段を佐藤氏が取り仕切ったのだ。それだけ、インパクトの強い人物だったと言える。 ただ、在職時に佐藤氏が何か目を引くような政策を打ち出したか、というと思い浮かばない。結局のところは、条件面で恵まれているから、すべてが上手く回っていたということではないか。 白河市と合併した旧村の住民からは「そりゃあ西郷村はいいよ。あらゆる面で恵まれているから。あれだけ条件が良かったら、ウチも合併しなかった」との声も聞かれたほど。 条件面に恵まれていることにあぐらをかかず、「単独」を選択したことで、小回りが利くからこそできる「新たな仕掛け」を生み出していってもらいたい。 あわせて読みたい 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【東白川郡編】合併しなかった福島県内自治体のいま 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

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    候補者乱立の北塩原村議選

     任期満了に伴う北塩原村議選が4月18日告示、23日投票の日程で行われる。それに先立ち、3月14日に村コミュニティーセンターで立候補予定者説明会が開かれた。定数10に対し、現職7人、元職2人、新人8人の17陣営が出席した。 「対立派包囲網」を敷く遠藤村長  同村議会については、前回(2019年4月)の改選直後から村民の間でこんなことが囁かれていた。 「2019年4月の村議選は、村として初めての無投票だった。それによって議員の質が落ちている。次回は絶対に無投票は避けなければならない」 実際、議会でのやり取りや議員の普段の振る舞いなどを見て、「やっぱり、村民の審判を受けていない議員はダメだ」との声を聞くことが多々あった。そのため、「次回は無投票にならないようにしてもらいたい」との意見が根強かったのである。 迎える今改選。3月14日に開かれた立候補予定者説明会には、定数10に対し、現職7人、元職2人、新人8人の計17陣営の関係者が出席した。立候補予定者(説明会出席者)は次の通り(敬称略)。 現職▽佐藤善博、伊関明子、五十嵐正典、小椋真、伊藤敏英、遠藤祐一、池田睦宏 元職▽遠藤春雄、五十嵐善清 新人▽黒原範雄、柏谷孝雄、渡部哲夫、北原安奈、角田弥生、佐藤弘喜、遠藤康幸、新井学 前回の無投票から一転、新人8人を含む17人が立候補を予定し、候補者乱立の様相を呈している。 ある村民はこう話す。 「前回が無投票でそれを良しとしない人が多かったこと、今回から選挙公営制度が採用されることの2つから、多くの候補者が出たのです」 選挙公営制度は、金のかからない選挙の推進や、候補者間の選挙運動機会の均等化を図るために採用されるもの。大まかなルールは公選法で規定され、詳細は各自治体の条例によって定める。同村では、選挙運動用自動車(いわゆる選挙カー)やポスター代などが公費で賄われる。 この2つの理由から、今回は多くの候補者が出てきたわけだが、前出の村民によると、「それは表向きの理由で、実際は遠藤和夫村長が声掛けをしたようだ」という。 「現状、遠藤村長を支える立場の議員は、伊藤敏英議員くらい。そのため、遠藤村長は自派議員を増やそうと、いろいろと声を掛けたようです。全ての新人がそうではないが、大部分は遠藤村長とその一派が立候補を促した。ただ、新人候補の中には、人となりや何をしたいのかなどがよく分からない人もいます。もちろん、無投票は良くないが、だからと言ってこういう訳の分からない人が大勢出るのもどうかと思ってしまいます」 議会対策に苦労する村長  遠藤村長は元村議で2020年8月の村長選で初当選し現在1期目。なお、菅家一郎衆院議員(4期、自民、比例東北)は義理の弟(菅家氏の姉が遠藤村長の妻)に当たる。遠藤氏の村長就任後、初めての村議選になる。 遠藤村長は昨年6月議会で、辞職勧告決議案を出され、賛成5、反対2、退席2の賛成多数で可決された。その背景には、介護保険の高額介護サービス費の支給先に誤りがあったこと、支給事務手続きが遅延したことがある。 ある関係者によると、「その問題について追及された遠藤村長が『自分の責任ではない』との発言をした」という。そんな経過もあり、議会で村長の責任を追及する動議が出され、最終的に辞職勧告決議に至った。 そのほか、同議会では一般会計補正予算案が賛成3、反対6の賛成少数で否決されたほか、今年2月の臨時議会でも一般会計補正予算案が否決された。 これは、ふるさと納税の返礼に関する補正予算で、議員から「県外の人からのふるさと納税の比率はどのくらいか」といった質問が出た。ところが、執行部から明確な回答がなかったため、「そんないい加減では議決できない」として否決されたのだという。 要するに、遠藤村長は議会対策に苦労しているのだ。 小椋議長の存在  ある関係者は「中でも、遠藤村長が気にしているのが小椋真議長の存在だろう」という。 小椋議長は現在6期目で、県町村議長会長を務める〝大物〟。議長会長を務める中で、国・県、他町村の関係者などとのつながりもでき、役場職員の中には何か困ったことがあると、小椋議長に相談に行く人もいるという。 そのほかでは、佐藤善博議員と池田睦宏議員が議会のたびに執行部に厳しい質問をぶつけており、遠藤村長から疎ましく思われている様子。特に、佐藤議員は元役場職員で知識もあるため、余計にそう思われているのだろう。 もっとも、議員が議会で追及するのは普通のことだが、一部村民(村長支持者)は「村長に嫌がらせをしている」と捉えているフシがあり、実際にそう吹聴することもある。 この2人は小椋議長の差し金(子分)と見ている村民は少なくない。佐藤議員と池田議員はともに1期目で、確かに、古参の小椋議長に教えを請うこともあるようだ。 「そういったこともあり、遠藤村長が小椋議長を良く思っていないのは明らか」(前出の関係者) つまりは、小椋議長、佐藤議員、池田議員の3人の得票を削るために、3人と同地区、あるいは同業関係者などを候補者に立てようとしている、ということだ。 「新人候補の中には、最初から当選する気はなく、小椋議長とその子分の票を削れればいいと考えている人もいる。小椋議長を落選させるのは無理でも、佐藤議員、池田議員を落選させ、小椋議長を孤立させればいい、という目論見もあるのかもしれない。何にせよ、そんな気持ちで立候補するのは有権者に失礼だし、その候補者のために(選挙公営制度で)公費が支出されるのはどうなのか」(前出の関係者) もっとも、「立候補予定者説明会に出席した17人がすべて出馬するとは限らず、直前で立候補を取りやめる人もいるかもしれない」との情報もあり、実際には少し変動があるかもしれない。 いずれにしても、村民からすると「よく分からない勢力争いをしている。そんなことより、村長も議会も村のためにしっかりと働いてもらいたい」との思いのようだ。 最後に。元職の五十嵐善清氏は4年前の村議選に立候補せず引退した。かつては「村長候補」と言われていた。喜多方市で不動産業を営んでおり、息子に会社の実務を任せようとしていたが、2016年の村長選直前に交通事故で亡くした。そのため、村長選を諦め、議員も辞めて、本業に注力することになった。それが今回の村議選で復帰を目指す意向で、「とりあえず、議員に復帰して議長などの役職を得た後、来年夏の村長選に出るつもりでは」との見方もある。 あわせて読みたい 来春に迫った北塩原村議選2つの注目ポイント (2022年12月号)

  • 〝不祥事連続〟楢葉町で行われていた「職員カンパ」

    楢葉町で3年連続職員不祥事

     楢葉町で3年連続となる職員不祥事が発生した。建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作して、自宅分の家賃納付約127万円分を免れていた。町では昨年9月、不祥事再発防止に向けた改善計画を策定したが、未だ体質を変えるまでには至っていないようだ。 不正操作をしていた建設課の男性主査  町によると、不正操作をしていたのは建設課の男性主査(29)。災害公営住宅など町営住宅の家賃徴収を担当しており、自らも災害公営住宅に住んでいた。 家賃の納付は振り込みや納付書による納付、生活保護による納付などに分かれているうえ、滞納、残高不足による支払い遅延なども頻繁に起こる。そのため、専用のシステムで情報を管理し、入金が確認された人の名前をチェックしている。他市町村でも使われているシステムだ。 この男性主査はそのシステムを悪用し、毎月自分のところにチェックを入れて、家賃を払っているように装い続けていた。未納付分は2020年11月から22年11月までの2年分、計127万6000円に上る。 家賃徴収には正担当と副担当がいて、滞納者のチェックなどは2人で行っていた。だが、実際の入出金は町全体の財務会計システムで管理されている。それを基に一人ひとりの納付金額まで照らし合わせていたわけではなかった。 男性主査は数年前に正担当になり、今年度から別の仕事を兼務しつつ、副担当として新たな正担当への業務引き継ぎ・サポートを行っていた。 昨年12月7日、新担当がチェックを進めるうえで不審に思い、翌8日、男性主査に直接確認したところ、自ら不正を認めた。町の調べに対し「別の支払いがあったため」と語っていたという。 正担当から外れたのに平然と未納を続けていたのは、「どうせばれないだろう」という自信があったのか。あるいは「いつばれるのか」と恐れていたのか。 町は昨年12月27日、男性主査を懲戒免職処分とし、建設課長など管理監督責任のある職員を減給や戒告処分とした。なお未納分の家賃はすでに全額納付済み。すぐに発表せず、20日近く経って発表となった理由は「いろいろ準備していたから」(総務課長)だという。 ある町内在住の女性は「何とか災害公営住宅の家賃を払っている世帯もある中で、自分だけ平然と未納を続けていたことが許せない」と憤る。 年配男性は「これで楢葉町では3年連続、4回目の職員不祥事が起きたことになる。いったいどうなっているのか」と嘆く。 2021年9月には、産業振興課職員が楢葉町土地改良区と楢葉町多面的機能広域活動保全会の通帳から約3800万円の公金を横領していたことが発覚した(本誌2021年10月号参照)。職員は懲戒免職処分となり、同年12月に告訴(土地改良区)・告発(町・土地改良区)された。町総務課によると、現在も捜査が続いているようだ。 昨年2月には、町と土地改良区が連名で、元職員への損害賠償を求める訴訟を提起。同年4月、土地改良区に4157万4648円(遅延損害金等含む)、町に30万1309円(同)の支払いを命じる判決が下された。元職員は口頭弁論期日に出頭せず、答弁書の請求原因に対する認否の記載もなかったため、請求原因事実について争う意思を示さず、自白したものとみなされた。ただ、「未だに弁済は行われていない」(町総務課長)という。 昨年2月には、建設課職員が複数の指名競争入札で、指名業者名や設計価格を指名業者に漏洩していたとして、公契約関係競売入札妨害及び官製談合防止法違反の容疑で逮捕、起訴された(本誌昨年3月号参照)。この元職員も懲戒免職処分となり、同年6月の刑事裁判で懲役2年執行猶予4年の有罪判決が下された。 昨年4月には、政策企画課職員が退庁後、国道6号を走行中に無免許運転で現行犯逮捕された。交通取り締まりの警察官に運転免許証を提示したところ、免許が失効していた。2~3月ごろに失効の事実に気付いていたにもかかわらず、公用車、私用車を平然と運転し続けていたというから呆れる。 もはや打つ手なし!?  町は相次ぐ不祥事を受け、職員不祥事の再発防止に関する第三者委員会を設置。同委員会の報告書をもとに、昨年9月、再発防止に向けた「職員・組織改善計画」を策定。「意識・制度・組織を変える」という方針を掲げ、全職員に内容を周知していた。 それからわずか3カ月後の不祥事。松本幸英町長はホームページ上に「またも町民の皆様の信頼を大きく失墜させる事態が発生したことに対しまして、深くお詫び申し上げます。あらためまして、この事実を重く受け止め、これ以上不祥事が起こらないように、一層の綱紀粛正の徹底を図ってまいるほか道はないと考えております」とコメントを掲載した。 松本幸英町長  猪狩充弘総務課長は「職員・組織改善計画でチェック体制などを強化したが、今回の家賃未納付はその前から始まっていた。そこまでチェックできなかった」と語る。改善計画を立ててもすぐ不祥事が起き、打つ手なしといったところだろう。 町内を駆け巡った「内部告発文書」  同町に関しては、本誌宛てに「通報書」と題した匿名投書が寄せられていた。消印は12月18日付。同町の不正行為が隠蔽されていることを明かす内容で、今回発覚した不祥事についても記されていた。 《楢葉町現職員の公金管理システム不当捜査による粉飾事案 令和3年から隠蔽 当時建設課で公営住宅の家賃管理を担当していた職員が、自ら入居していた住宅家賃を支払ったかのようにシステムを不正に操作し粉飾した不正行為について、いまだに隠蔽し続け、本日現在も公表していない》(「通報書」より引用) 前述した通り、この件を町が公表したのは昨年12月27日。文書の作成日は12月14日付となっており、本誌にはその数日後に郵便で届いた。他のマスコミや町議などにも送付され、町役場も確認しているようだ。 不正行為の情報をキャッチし、公表されていないことを不審に思った役場関係者が送付したのだろう。内部の人間が不祥事隠蔽を疑い、内部告発文書を外部に送付する事態にまでなっているということだ。 ちなみに同文書には「こども園で保護者からの預かり金を管理していた職員が横領していた事実を隠蔽。問題が公になる前に依願退職として処理した」とも書かれていた。ただ、猪狩総務課長に確認したところ、「確かに依願退職した職員はいるが、そもそも保護者からの預り金を管理する業務は存在しない。業界団体の会計処理を手伝うこともあったようだが、監査を受け適正に処理されている」と疑惑を明確に否定した。 同文書には「本通報は責任者(※編集部注・松本町長のこと)及び組織の本質が変わらない限り、他の違反行為等に関し継続する」と書かれており、今後も内部告発を続けることを示唆している。 専門家に聞く再発防止策  さて楢葉町に限らず、県内では自治体職員のカネをめぐる不祥事が相次いでいる。 本誌12月号では会津若松市職員が約1億7700万円を詐取していた事件についてリポートした。 1月14日には古殿町の40代男性職員が、事業を委託する2団体の口座から133万6745円を横領したとして、1月6日付で懲戒免職処分になったことが発表された。関係職員も減給処分となり、岡部光徳町長ら特別職3人の給与を3カ月間、10%減額する条例案が町議会臨時会で可決された。町は、人事院の懲戒処分の公表指針に基づく判断として、職員の所属や氏名を公表していない。 地元紙報道によると、団体の関係者からの相談で発覚。職員は団体を支援する業務で、通帳を管理する立場だった。上司もいたが、「ダブルチェックができていなかった」(木村穣副町長)。横領した金は全額弁済済みで、町は今後の対応を弁護士と相談している。 なぜここに来てこうした不祥事が目立つのか。民間企業で経理を務めた経験があり、自治体や企業の内部事情に詳しい神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏はこう語る。 「まず民間企業でも横領などは起きているが、大抵の場合、依願退職扱いにして、退職金を弁済に充てる形で内々に済ませる。自治体の場合、そうはいかないから目立ってしまう。コロナ禍以降は国や県からさまざまな補助金が入っており、膨大な件数の事務作業をこなさなければならないため、チェック体制も甘くなっている。そうした中で、『不正をやってもバレないのではないか』と考える人が出ているのでしょう」 原発被災地で関連の補助金を多く取り扱う楢葉町は、なおさらそう考えやすい環境なのかもしれない。 中村氏が「横領などが起こる背景を考えるうえで非常に参考になる」と語るのは、前出・会津若松市の公金詐取事件に関する記者会見資料(同市ホームページで公開中)だ。 「公金詐取していた職員は管理システムの盲点を悪用し、不正な操作を繰り返した。チェックする副担当には入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充て、ばれにくい体制を構築した。パソコン関連の仕事を詳しい人間に任せ、ろくにチェックもしていない自治体・民間企業の管理職は読んでゾッとするのではないか。同市もよくここまで内情を書いたと思います。かつて在籍していた民間企業の経理部門では『不正は10万円までに見つけろ』と言われていました。それ以上の金額になると感覚が麻痺して横領額が膨れ上がる。もう少し早く異変に気付けていれば、約1億7700万円も詐取されることはなかったでしょう」 このほか、市町村職員の高くない給与(借金・ローンの有無)、長時間労働を看過する職場環境も横領の遠因になると中村氏は指摘する。 肝心の再発防止策については、次のように話す。 「会津若松市の元職員は市の調査に『(不正が)できるからやった』、『不正はやる気になればできる』と話した。正直、経理の仕事はそう感じるときがあるが、それでもほとんどの人はルールを守ってやっている。チェック機能の強化はもちろんですが、最も重要なのは倫理教育でしょう。また、穏便に済ませるのではなく、『不正をやった場合どうなるか』もしっかり示し、抑止力が働くようにしなければなりません」 穏便に対応すればまた不祥事が発生する、と。 楢葉町においては第三者委員会による報告書を受け、改善を図っていた直後だけに、この言葉を重く受け止める必要があろう。 職員の意識改革はもちろん、議会、さらには住民が厳しい目で行政を監視し、再発防止を図っていくことが重要になる。 あわせて読みたい 【不祥事連続】楢葉町で行われていた「職員カンパ」

  • 現職退任で混沌とする玉川村長選

    現職退任で混沌とする玉川村長選

     任期満了に伴う玉川村長選は4月18日告示、同23日投開票の日程で行われる。現職・石森春男氏は昨年12月議会で今期限りでの引退を表明しており、村内では「石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を立てる可能性が高い」との見方がもっぱらだ。 石森派候補と反石森派候補の一騎打ちか  石森春男村長(71、4期)は昨年12月議会の一般質問への答弁で、今期限りでの引退を表明した。 退任を表明した石森氏  石森村長は「村政の課題を考えると、新たな視点で行政を推進することが大事であり、後進に道を譲りたい。後継者は考えていない」(福島民友昨年12月13日付)と述べた。 石森村長は1951年生まれ。同村出身。須賀川(現須賀川創英館)高卒。1971年に村役場職員となり、企画財政課長、農業委員会事務局長などを経て、2007年の村長選で初当選。4期のうち、選挙戦になったのは2015年のみで、それ以外はすべて無投票当選だった。 石森村長をめぐっては、こんな憶測も流れている。 「同村唯一の女性議員である林芳子議員に石森村長が暴言を吐いたという。内容は女性を軽視するようなものだったとか。そうした問題があり、今回、引退を表明したのではないか」(ある村民) 林議員はいわゆる反村長派議員で、議会のたびに石森村長(執行部)に厳しい質問をぶつけてきた。その林議員に石森村長が女性を軽視するような暴言を吐いたというのだ。 どういった状況で、どんな言葉を発したのかは分かっていないが、林議員と近い議員(反村長派議員)によると、「当人(林議員)から、そういったことがあったとは聞いている」という。内容・程度はともかく、そうしたことがあったのは間違いなさそう。もっとも、それが石森村長引退のきっかけになったかは不明。 村長選をめぐっては、1月23日時点で表立った動きはない。ただ、村内では「誰もが納得するような候補者が出てきたら別だが、石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を擁立する可能性が高い」との見方がもっぱらだ。つまりは、新人同士の一騎打ちになるのではないか、と。前述したように1月23日時点で表立った動きはないが、チラホラと名前は挙がっている。 「石森村長を支持していたグループ」で、名前が挙がっているのが小針竹千代議員と大和田宏議員の2人である。 「小針議員と大和田議員は奥さんの関係で、親戚筋に当たるため、双方の調整が必要になり、水面下でその辺の話し合いが行われているようだ。ともに60代半ばで、できたとしても2期だろう」(ある村民) 小針議員は2期目、大和田議員は4期目で、それぞれ最初の村議選ではトップ当選を果たしたが、その後は票を減らしている。前段で紹介した石森氏の答弁では「後継者は考えていない」とのことだったが、実質、このどちらかが後継者という扱いになりそう。 一方、対立グループの候補として名前が挙がるのが、2015年の村長選に立候補した小林正司氏。元須賀川市職員で現在71歳。2015年の村長選では、石森氏2558票、小林氏2037票で落選した(同年4月26日投開票、投票率82・98%)。実は、小林氏は前回(2019年)の村長選の際も名前が挙がり、本人もそのつもりだった。 「当時、反石森派の人たちが熱心に誘い、小林氏本人もその気になっていた。ところが、直前で反意し、立候補を取りやめた経緯がある。結果、前回は無投票になり、反石森派の落胆は大きかった。今回も、一応名前は挙がっているが、反石森派の人たちは『前回のことがあるから、われわれの方から小林氏に対して立候補してほしいとお願いすることはしない。本人から立候補するから応援してほしいと言って来ない限りは応援するつもりはない』と話していた。結局は本人次第ということだが、71歳という年齢を考えると、できても2期、下手すると1期しかできないかもしれない。それを踏まえると、可能性は低いと思う」(前出の村民) 有力視される女性議員  このほかで、対立グループの候補として名前が挙がっているのが前述した林議員。現在1期目だが、2020年の村議選では416票でトップ当選だった。 「女性ということもあり、票を取ることだけを考えたら、林議員はかなり有力だと思う。ただ、新村長になったとして、任期がスタートするのは4月末だから、石森村長の下で人事・予算などが決まった後に就任することになる。林議員は議会のたびに村長・執行部に厳しい質問をしており、石森村長のやり方を否定する部分が多かったことから、おそらく村長になったら、大幅な路線修正をすることになると思う。ただ、いま話した経緯から、役場職員、特に課長連中がちゃんと応えてくれるか、上手く使いこなせるかといった問題がある。下手すると、村長になったはいいけど、路線修正だけで1期目のほとんど費やしてしまった、なんてことにもなりかねない。そもそも、現在67歳で、できても2期くらいだろうから、1期目をそんなふうに過ごしたら、何もできずに終わってしまう可能性もある」(同) 一方で、別の村民はこう話す。 「いまの村政・役場には危機感が感じられない。それを変えるには林議員が適任だと思う。たとえ、目に見えるような大きな仕事はできなかったとしても、役場内の意識改革をして次にバトンタッチしてもらえれば、十分役目を果たしたと言えるのではないか」 こうして聞くと、林議員への期待は大きいようだが、前出の林議員と近い議員によると、「年始に林議員と会った際、村長選に立候補する考えはあるかと聞きたら、『いまのところは考えていない』とのことでした」という。 村内の会社役員は「誰が出るにしても、とにかく現状を変えなければならない」と危機感を募らせる。 「村の財政状況は決していいとは言えない。戦略に基づく財政投資ならいいが、例えば、1年半前にオープンした『森の駅ヨッジ』は人が入っていないし、いま事業を進めている『かわまちづくり』にしても、乙字が滝周辺にボートを浮かべて人が来るとは思えない。村民にとってプラスになるとは思えない事業が多いのです。若い人・子育て世代などからは『今度、須賀川市に家を建てる』といった話もチラホラ聞かれますし、村内に立地している企業・工場だって、いつまでも村内に居続けるとは限らない。そういったことに危機感を持って対応してくれる候補者が出てくることを願いたい」 そうした問題に危機感を持って取り組む候補者は現れるか。現職退任で混沌とする同村長選だが、構図が見えてくるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。 その後の動向  3月下旬時点で立候補を表明しているのは、いずれも新人で、元村議の須藤安昭氏(67)、元村議の林芳子氏(68)、前副村長の須釜泰一氏(63)の3人。本誌はこの3人に取材を申し込んだところ、須藤氏と須釜氏の2人が応じた。【2023年4月号】で両立候補予定者に村の課題への対応や選挙公約、意気込みなどを掲載する。

  • 現在地か移転かで割れる会津坂下町庁舎新築議論

    現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論

     本誌昨年10月号に「会津坂下町 庁舎新築議論で紛糾 『4年前の決定』継続派と再考派で割れる」という記事を掲載した。会津坂下町で進められている役場庁舎新築議論についてリポートしたものだが、その後、新たな動きがあったので続報をお伝えしたい。 一部議員が「厚生病院跡地は候補地に不適」と指摘  同町役場本庁舎は、1961年に建設され老朽化が進んでいること、1996年に実施した耐震診断結果で構造耐震指標を大きく下回ったこと、本庁舎のほかに東分庁舎・南分庁舎があり、機能が分散して不便であること等々から、2017年から新庁舎建設を検討していた。 同年、町は社会福祉協議会や商工会、観光物産協会、区長・自治会長会の役員などで構成する「会津坂下町新庁舎建設検討委員会」を立ち上げ、調査・検討を諮問した。 最大のポイントは「建設場所をどこにするか」だった。同委員会は、①現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地、②旧営林署・保健福祉センター・中央公園用地、③南幹線南側町取得予定県有地――の3案を基本線に検討を行い、2018年2月、町に「現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地が適地である」と答申した。 同年3月議会では、同案に関する議案が提出され、賛成13、反対2の賛成多数で議決した。これにより、最大のポイントである「建設場所をどこにするか」は現在地周辺で決着したことになる。 ところが、同年9月、町(齋藤文英町長=当時)は「事務事業を見直し、将来の財政状況を算定したところ、計画通り進めれば住民サービスに大きな影響を及ぼすことが予想されることになった。財政健全化を重視し新庁舎建設延期という重い決断をした」として、庁舎建設の延期を決めた。 それから3年半ほどは事業凍結状態だったが、昨年4月、役場内に「庁舎整備課」が新設され、庁舎建設事業が再開されることになった。 ただ、それを受け、昨年5月に町民有志「まちづくりを考える青年の会」(加藤康明代表)から議会に対して、庁舎建設場所の再考を促す請願が提出された。同請願は総務産業建設常任委員会に付託され、委員会で採択された。その後、本会議に諮られ、賛成・反対討論があった後に採決が行われ、賛成8、反対5の賛成多数で同請願は採択された。これを受け、議会は庁舎建設場所の再考を促す意見書を、町執行部(古川庄平町長)に提出した。 町は議会からの意見書を受け、新庁舎建設検討委員会を立ち上げ(※2017年に立ち上げた委員会が解散されておらず、正確には「再開」だが、委員に変更等があった)、昨年7月から検討を再開した。その中で、町民の声を聞くために、まちづくり懇談会、新庁舎建設に関するアンケートを実施することになった。 こうした動きに、議会内では意見が割れ、町内7地区で開催された町民懇談会でも賛否両論が出た。 再考反対派の意見は「4年前に建設場所が決まり、議会で議決しているのに、なぜ再考しなければならないのか」、「そんなことをしていたら、いつまで経ってもできない。早く建設すべき」、「2021年8月に東分庁舎・東駐車場用地の隣にある競売物件の寿司店の土地・建物を取得し、2022年5月から解体工事を進めている。場所を変えたら、取得・解体費が無駄になってしまう」というもの。 再考賛成派の意見は「事業休止していた4年間で、坂下厚生総合病院が新築移転したこと、坂下高校が大沼高校と統合して、事実上、坂下高校がなくなったこと、新築移転した坂下厚生総合病院の近くに商業施設『メガステージ会津坂下』がオープンしたこと等々から、生活環境や人の流れが変わっていることを考慮すべき」、「コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、建設資材が高騰しており、コスト増加は間違いない。4年前の計画をそのまま進められる状況ではない」というもの。 現在地か移転かで町が二分されている状況だ。 アンケートの結果  本誌昨年10月号記事では、そうした詳細をリポートしたわけだが、その後、昨年11月25日には新庁舎建設に関するアンケート結果が公表された。アンケートは昨年10月、町内在住の15歳以上の1500人を無作為抽出し、調査票を郵送して実施。期日までに回答があったのは726人で、回収率は48・4%だった。ちなみに、同町の人口(今年1月1日現在)は1万4352人だから、アンケート送付数は全人口の10%弱、回答数は約5%になる。 回答者の内訳(カッコ内は構成比)は、年齢別では10代24人(3・3%)、20代36人(5・0%)、30代59人(8・1%)、40代88人(12・1%)、50代100人(13・8%)、60代179人(24・7%)、70代以上239人(32・9%)、無回答1人(0・1%)。地区別では坂下地区310人(42・7%)、若宮地区109人(15・0%)、金上地区71人(9・8%)、広瀬地区92人(12・7%)、川西地区57人(7・9%)、八幡地区55人(7・6%)、高寺地区29人(4・0%)、無回答3人(0・4%)だった。 質問はいくつかに分かれているほか、自由記入欄もあるが、ポイントとなる「現在、建設予定地は『現本庁舎・北庁舎・東分庁舎及び東駐車場用地』ですが、再考すべきと考えますか」という質問では、「現建設予定地のままでよい」が248人(34・2%)、「再考すべきである」が430人(59・2%)、「その他」と「無回答」が合わせて48人(6・6%)だった。再考すべきが6割近くを占めた。 この質問で「再考すべき」「その他」と答えた人に「現時点において、町が把握している未利用地は、以下の箇所(※旧坂下厚生総合病院跡地、旧坂下高等学校跡地、南幹線沿線県有地)があります。建設地として望ましいと思うものを次の中からひとつだけ選んでください」という質問では以下のような回答結果だった。旧坂下厚生総合病院跡地273人(61・3%)、旧坂下高等学校跡地39人(8・8%)、南幹線沿線県有地95人(21・3%)、その他・無回答38人(8・5%)。 こうして見ると、最初の質問で「現建設予定地(現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地)のままでよい」と答えた248人より、「再考すべき」→「旧坂下厚生総合病院跡地」と答えた273人の方が多いことが分かる。前述のように、アンケート回答者は同町の人口の約5%だから、これを「町民の総意」と捉えていいかどうかは難しいところだが、この結果だけを見れば、町民が求めているのは旧坂下厚生総合病院跡地への庁舎建設ということになる。 解体工事が行われている厚生病院跡地  ただ、昨年12月議会で、それがひっくり返るようなことがあった。同議会で、五十嵐一夫議員が「新庁舎建設位置について、町長はどこにしたいのか。まちづくり懇談会の町民周知は適切か。旧坂下厚生総合病院跡地は候補地として適切か」といった内容で一般質問を行った。 その中で五十嵐議員が明かしたところでは、JA福島厚生連に質問状を出し、坂下厚生病院跡地の対応について尋ねたところ、「厚生連からは『〇〇社から購入したいと申し入れがあり、すでに売却を決定した』と回答があった。回答は10月3日付の文書でもらった」というのだ。 そのうえで、古川町長、庁舎整備課長に「そのことを知っていたのか」と質問した。これに対し、庁舎整備課長は「厚生病院跡地の買い手が決まったという正式な連絡は受けていない」と答弁した。 さらに町は、1万平方㍍以上の町内の未利用地を「庁舎建設の候補になり得る場所」として、町民懇談会やアンケートなどで示したものであり、ある程度、本決まりになるまでは所有者との事前協議はできない、といった考えを示した。 五十嵐議員は再質問で「(前述の事情から)厚生病院跡地は庁舎建設の候補地になり得ない」と指摘し、古川町長に「売却先が決定したことを知らなかったのか」と質問した。これに対して、古川町長は「知らなかった」と答弁した。 もっとも、今年1月中旬、本誌がJA福島厚生連に問い合わせたところ、担当者は「(坂下厚生病院跡地は)現在、解体工事を行っており、その後のことは未定」とのこと。「いま、会津坂下町では庁舎建設議論が進められており、その中で、坂下厚生病院跡地が候補地になっているが」と尋ねると、「町からはそういった話はない」と話した。 一方、五十嵐議員に確認すると、「昨年10月3日付文書で、間違いなくそういった(※売却先が決定したこと)回答を得ている。議会では『〇〇社』としたが、その回答文書には実名も記されていた」という。 近く議会に説明  あらためて、町庁舎整備課にこの件について尋ねたところ、次のように説明した。 「どんな事業でもそうですが、構想段階では権利者とは交渉できない。ある程度、決まってから用地交渉などに入ることになります。(今回の件でも)まだ構想が固まっていませんから(厚生連には)話をしていません」 記者が「アンケートでは厚生病院跡地への庁舎建設を望む声が一番多かった。ただ、五十嵐議員が指摘したように、そこが売却決定済みで候補地になり得ないとするならば、厚生病院跡地を外して、それ以外でどこがいいかを再度聞くなどの手順が必要になるということか」と尋ねると、同課担当者は「その件については近く町長から議会に対して説明することになっている」と話した。 要は、「議会に説明する前に本誌取材に答えることはできない」ということだが、何か含みをもたせた言い方だったのが気になるところ。「厚生病院跡地売却決定済み」話には、〝ウラ事情〟があるということか。 その点で言うと、福島民報(1月14日付)に《会津坂下町の坂下厚生総合病院跡地の土壌から、土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出された。県は土地の使途を変更する場合、県に届け出るよう県報に告示した(後略)》との記事が掲載された。この場合、用途・売買等、制約が伴うから、それが関係しているのかもしれない。 町は今年度中(3月末まで)に候補地を決定する方針だが、現在地周辺か移転かで意見が割れる中、どんな判断をするのか注目だ。 あわせて読みたい 【会津坂下町】庁舎新築議論で紛糾【継続派と再考派で割れる】(2022年10月号)

  • 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪(男性に性交強いた富岡町男性職員)

    【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪

     公務員の性犯罪が県内で相次いでいる。町職員、中学教師、警察官、自衛官と職種は多様。教師と警官に至っては立場を利用した犯行だ。「お堅い公務員だから間違ったことはしない」という性善説は捨て、住民が監視を続ける必要がある。 男性に性交強いた富岡町男性職員【町の性的少数者支援策にも影響か】  1月24日、準強制性交などに問われている元富岡町職員北原玄季被告(22)=いわき市・本籍大熊町=の初公判が地裁郡山支部で開かれた。郡山市や相双地区で、睡眠作用がある薬を知人男性にだまして飲ませ、性交に及んだとして、同日時点で二つの事件で罪に問われている。被害者は薬の作用で記憶を失っていた。北原被告は他にも同様の事件を起こしており、追起訴される予定。次回は2月20日午後2時半から。 北原被告は高校卒業後の2019年4月に入庁。税務課課税係を経て、退職時は総務課財政係の主事を務めていた。20年ごろから不眠症治療薬を処方され、一連の犯行に使用した。 昨年5月には、市販ドリンクに睡眠薬を混ぜた物を相双地区の路上で知人男性に勧め犯行に及んだ。同9月の郡山市の犯行では、「酔い止め」と称し、酒と一緒に別の知人男性に飲ませていた。 懸念されるのは、富岡町が県内で初めて導入しようとしている、性的少数者のカップルの関係を公的に証明する「パートナーシップ制度」への影響だ。多様性を認める社会に合致し、移住にもつながる可能性のある取り組みだが、いかんせんタイミングが悪かった。町も影響がないことを祈っている様子。 優先すべきは厳罰を求めている被害者の感情だ。薬を盛られ、知らない間に性暴力を受けるのは恐怖でしかない。罪が確定してからになるだろうが、山本育男町長は「性別に関係なく性暴力は許さない」というメッセージを出す必要がある。 男子の下半身触った石川中男性講師【保護者が恐れる動画拡散の可能性】  石川中学校の音楽講師・西舘成矩被告(40)は、男子生徒42人の下半身を触ったとして昨年11月に懲戒免職。その後、他の罪も判明し、強制わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)で逮捕・起訴された。 県教委の聞き取りに「女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話していたという(昨年11月26日付福島民友)。 事情通が内幕を語る。 「あいつは地元の寺の息子だよ。生徒には人気があったらしいな。被害に遭った子どもが友達に『触られた』と話したらしい。そしたらその友達がたまげちゃって、別の先生に話して公になった」 当人たちは「おふざけ」の延長と捉えていたとのこと。ただ、10代前半の男子は、性に興味津々でも正しい知識は十分身に着いていないだろう。監督すべき教師としてあるまじき行為だ。 西舘被告は一部行為の動画撮影に及んでいた。それらはネットを介し世界中で売買されている可能性もある。子どもの将来と保護者の不安を考えれば「トンデモ教師が起こしたワイセツ事件」と矮小化するのは早計だ。注目度の高い初公判は2月14日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる予定。 うやむやにされる「警察官の犯罪」【巡査部長が原発被災地で下着物色】  浜通りの被災地をパトロールする部署の男性巡査部長(38)が、大熊町、富岡町の空き家に侵入し女性用の下着を盗んでいた。配属後間もない昨年4月下旬から犯行を50~60回繰り返し、自宅からはスカートやワンピースなど約1000点が見つかった(昨年12月8日付福島民友)。1人の巡回が多く、行動を不審に思った同僚が上司に報告し、発覚したという。県警は逮捕せず、書類のみ地検に送った。巡査部長は懲戒免職になっている。  県警は犯人の実名を公表していないが、《児嶋洋平本部長は、「任意捜査の内容はこれまでも(実名は)言ってきていない」などと説明した》(同12月21日付朝日新聞)。身内に甘い。  通常は押収物を武道場に並べるセレモニーがあるが、今回はないようだ。昨年6月に郡山市の会社員の男が下着泥棒で逮捕された時は、1000点以上の押収物を陳列した。容疑は同じだが、立場を利用した犯行という点でより悪質なのに、対応に一貫性がない。  初犯であり、社会的制裁を受けているとして不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高いが、物色された被災者の怒りは収まらないだろう。 判然としない強制わいせつ自衛官【裁判に揺れる福島・郡山両駐屯地】 五ノ井さんに集団で強制わいせつした男性自衛官たちが勤務していた陸自郡山駐屯地  昨年12月5日、陸上自衛隊福島駐屯地の吾妻修平・3等陸曹(27)=福島市=が強制わいせつ容疑で逮捕された(同6日付福島民報)。5月25日夜、市内の屋外駐車場で面識のない20代女性の体を触るなどわいせつな行為をしたという。事件の日、吾妻3等陸曹は午後から非番だった。2月7日午前11時から福島地裁で初公判が予定されている。 県内の陸自駐屯地をめぐっては、郡山駐屯地で男性自衛官たちからわいせつな行為を受けた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=が国と加害者を相手取り民事訴訟を起こす準備を進めている。刑事では強制わいせつ事件として、検察が再捜査しているが、嫌疑不十分で不起訴になる可能性もある。五ノ井さんは最悪の事態を考え提訴を検討したということだろう。 加害者が県内出身者かどうかが駐屯地を受け入れている郡山市民の関心事だが、明らかになる日は近い。 あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠【百条委員会】

    白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

    事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

     JR福島駅前で進む市街地再開発事業。事業主体は地権者らでつくる再開発組合だが、福島市は同所に建設される複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」を公共施設として買い取ることになっている。しかし、事業費が昨年5月時点で当初計画より増え、今後さらに増えそうな見通しのため、市の財政に深刻な影響を与える懸念が浮上している。 大型事業連発で危機的な福島市財政  福島駅東口地区第一種市街地再開発事業は駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、駐車場棟(7階建て)、住宅棟(13階建て)を建設する計画で、一帯では現在、既存建物の解体工事が行われている。 事業主体は地権者らでつくる福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、福島市も同事業に二つの面から関わっている。一つは巨額の補助金支出、もう一つは複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を公共施設として同組合から買い取ることだ。 拠点施設は複合棟の3・4階に整備される。メーンは4階に設けられる1500の客席と広い舞台を備えた大ホールだが、客席を収納することで展示ホールとして使えたり、800席のホールと中規模の展示ホールを併用することもできる。3階には多目的スタジオや練習スタジオ、会議室が設けられる。 同事業に市がどの程度関わっているか、まずは補助金から見ていく。 同組合設立時の2021年7月に発表された事業計画では、事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で市の負担は54億5000万円となる。 ところが、昨年5月に市議会全員協議会で配られた資料には、事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円(同)と明記されていた。これにより、市の負担も6億5000万円増の61億円になる見通しとなった。 理由は、延べ床面積が当初計画より90平方㍍増えて7万2540平方㍍になったことと、建設資材の高騰によるものだった。 これだけでも市にとっては重い負担だが、さらに大きな負担が待ち構えている。それが、二つ目の関わりである保留床の取得だ。 市は拠点施設を「公共施設=保留床」として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし前述・市議会全員協議会で配られた資料には190億円かかると明記されていた。このほか備品購入費も負担する必要があるが、その金額は「開館前に決定」とされているため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 前述の補助金と合わせると市の負担は「251億円+α」となるが、問題はこれが最終確定ではなく、さらに増える可能性があることだ。 市議会の昨年12月定例会で、斎藤正臣議員(2期)が次のような一般質問を行っている。   ×  ×  ×  × 斎藤 原料や資材の高騰が事業計画に与える影響は。 都市政策部長 影響は少なからずあるが、具体的な影響は福島駅東口地区市街地再開発組合で精査中だ。 斎藤 5月の全員協議会では事業費492億円、補助金244億円と示されたが、ここへの影響は。 都市政策部長 事業費への影響は少なからずあるが、具体的な影響は同組合で精査しており、市はその結果をもとに補助金への影響を精査する予定だ。 斎藤 保留床取得費も昨年5月の全員協議会で当初計画より上がっていたが、ここへの影響は。 商工観光部長 保留床取得費への影響も避けられないと考えている。具体的な影響は同組合で精査中だ。 斎藤 保留床取得費は令和5年度から予算計上し、今後年割で払っていくと思われるが、年度末まで残された日時が限られる中、取得費が確定しないと新年度予算に計上できないのではないか。 商工観光部長 現時点で保留床取得費が明らかになる時期は申し上げられないが、新年度予算への計上に向けて協議を進めており、タイミングを見て議会にもお示しできると考えている。   ×  ×  ×  × 詳細は同組合の精査後に判明するとしながら、市は補助金と保留床取得費がさらに増える可能性があることを認めたのだ。 ロシアによるウクライナ侵攻と円安で原材料費やエネルギー価格が高騰。それに伴い、建設業界でも資材価格の上昇が続いている。国土交通省や一般財団法人建設物価調査会が発表している資料などを見ると、2020年第4四半期を100とした場合、22年第4四半期は建築用資材価格で126・3、土木用資材価格で118・0とわずか2年で1・2倍前後まで上昇している。 とはいえ、こうした状況は他地域で行われている大型事業にも当てはまるが、福島市の場合は「別の懸念材料」も存在する。 3年後には基金残高ゼロ  市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通し(2023~27年度)によると、市債残高は毎年のように増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されている(別表参照)  ある市職員OBによると「瀬戸孝則市長(2001~13年)は借金を減らすことを意識し、任期中の市債残高は1000億円を切っていた。そのころと比べると、市債残高は急増している印象を受ける」というから、短期間のうちに財政が悪化していることが分かる。 事実、中期財政収支の見通しの中で、市は次のような危機を予測している。 ▽拠点施設整備をはじめとする大型事業の本格化などにより投資的経費の額が高水準で推移し、その財源に市債を活用することから、公債費および市債残高の増加が続く。 ▽各年度に20~50億円余の財源不足が見込まれ、財政調整基金と減債基金で補う必要があるが、2026年度には両基金の残高がなくなり財源不足を埋められず、必要な予算が編成できなくなる見通し。 ▽市債発行に当たっては地方交付税措置のある有利な起債の活用に努めているが、それでもなお実質公債費比率は2027年度には5・5%まで上昇し(18年度は1・1%)、公債費が財政運営を圧迫することが予測される。 ▽試算の結果、2026年度以降の財源を確保できない見通し。公設地方卸売市場や市立図書館、学習センターの再整備など、構想を開始していても実施時期や概算事業費、一般会計への影響が未定で今回の試算に組み込まれていない大型事業もあるため、今後の財政運営は試算以上に厳しい状況に直面する可能性がある。 「基金残高がなくなる」「必要な予算が編成できない」「財源を確保できない」等々、衝撃的な言葉が並んでいることに驚かされるが、ここまで市の財政がひっ迫している要因は大型事業が目白押しになっていることが挙げられる。 市役所本庁舎の隣では2024年度中の完成を目指し、事業費70億円で(仮称)市民センターの建設計画が進められている。このほか新学校給食センター、あぶくまクリーンセンター焼却工場、消防本部などの整備・再編が予定されるが、これ以外にも公設地方卸売市場や市立図書館など建て替えが必要な施設は少なくない。そうした中、市最大の事業に位置付けられるのが拠点施設の買い取りなのだ。 「2011年1月に開庁した本庁舎は事業費89億円だが、これが市にとって過去最大のハコモノ事業だった。しかし、拠点施設は本庁舎を大きく上回る190億円+αで、資材価格や人件費によってはさらに増えるというから、市の財政を心配する声が出てくるのは当然です」(前出・市職員OB) 市職員OBは今後の懸念材料として①事業費全体が上がると保留床取得費だけでなく、例えば住宅棟(マンション)の価格も上がり、投機目的の購入が増えるのではないか。そうなると、せっかく整備した住宅棟に市民が入居できず、空き家だらけになる恐れもある。②これ以上の事業費増加を防ぐために計画を見直せば、拠点施設が期待された機能を発揮できず、駅前に陳腐な施設が横たわることになる。③拠点施設は東日本大震災で被災した公会堂の後継施設となるが、さらに保留床取得費が増えると「現在地で建て替えた方が安く済んだのではないか」という意見が出かねない、④駅前ばかりに投資が集中すると、行かない・使わない市民から反発の声が出てくる――等々を挙げる。 「市は時に、借金をしてでもやらなければならない事業があるが、その前提となるのは納税者である市民の理解が得られるかどうかだ。自分が行かない・使わない施設に巨額の税金を投じることに納得する市民はいない。市には、大勢の市民が行きたくなる・使いたくなるような施設の整備が求められる」(同) 計画が既に動き出している以上、大幅な見直しは難しいが、拠点施設を多くの市民に利用してもらえるような工夫や仕掛けはまだまだ検討の余地があるということだろう。 投資に見合う施設になるか  市が2020年3月に発表した計画によると、拠点施設の年間の目標稼働率は大ホールが80%、展示ホールが60%、目標利用者数は32万人を掲げている。一方、年間の管理運営費は4億円。素人目にも目標達成のハードルは高く、管理運営費も高額な印象を受ける。 「管理運営はPFI方式で民間に任せるようだが、稼働率や利用者数を上げることを意識し、多くのイベントや会議を誘致した結果、市民が使いづらくなっては意味がない。拠点施設は公会堂の後継施設ということを踏まえると、市民が使いたい時に使える方策も必要です」(同) 市コンベンション施設整備課に取材を申し込むと 「昨年5月の全員協議会で示した資料が最新の計画で、そこに書かれている以上のことは話せない。補助金や保留床取得費がどうなるかは、同組合の精査後に見極めたい」 とのことだった。昨年12月定例会では「福島駅前交流・集客拠点施設の公共施設等運営権に係る実施方針に関する条例」が可決され、今後、施設運営に関する方針が決まる。 251億円+αの投資に見合う施設になるのかどうか。事業の本格化に合わせ、市民の見る目も厳しさを増していくと思われる。 福島市のホームページ あわせて読みたい 【福島市】木幡浩市長インタビュー 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 合併しなかった福島県内自治体のいま【東白川郡編】矢祭町・鮫川村・棚倉町・塙町

    【東白川郡編】合併しなかった福島県内自治体のいま

     「平成の大合併」に参加しなかった県内自治体のいまに迫るシリーズ。第3弾となる今回は、「合併しない宣言」で知られる矢祭町、合併を模索したものの、住民投票の結果、合併が立ち消えになった棚倉町、塙町、鮫川村の東白川郡4町村を検証していく。(末永) 国の方針に背いた矢祭町は「影響が軽微」  東白川郡は棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村の4町村で構成される。国の方針で「平成の大合併」議論が巻き起こった際、矢祭町議会は「合併しない宣言」を可決した。それが2001年10月のことで、早々に「単独の道」を選択したのである。同町は県最南端の県境に位置するため、合併すれば〝どん詰まり感〟が増す。町民の多くも「合併を望まない」との意向だった。 一方、ほかの3町村は「合併は避けられない」と考え、町村長、議会が勉強会を実施し、2002年2月に任意合併協議会、同年7月には県内初となる法定合併協議会を設置した。当時、3町村の人口は、棚倉町が約1万6000人、塙町が約1万1000人、鮫川村が約4500人で、新市への移行要件である「人口3万人」を少し超える規模だった。合併期日は2004年3月1日に設定し、実現すれば「平成の大合併」県内第1号、新市誕生となるはずだった。 ただ、2003年7月に実施した合併の賛否を問う住民投票で情勢が一変した。住民投票の結果、棚倉町は65%が賛成だったが、塙町は55%、鮫川村は71%が反対だったのだ。 事前の見立てでは、「棚倉町は賛成が上回るのは間違いない。塙町は拮抗するが、若干、賛成が上回るのではないか。鮫川村は反対が上回る可能性が高いが、それほど大きな差にはならないだろう」というもの。ところが、蓋を開けてみると、棚倉町は予想通りとなったが、塙町は予想に反して反対が上回り、鮫川村の反対比率も予想以上だった。 棚倉町は県南農林事務所の一部機能、土木事務所などの県の出先が置かれ、東白川郡の中心に当たる。そのため、合併後の新事務所(市役所)が置かれる公算が高かった。新市の中心になれる棚倉町と、そうでない2町村では合併に対する住民の捉え方が違っていたということだ。 住民投票の結果を受け、3町村長は「住民は合併を望んでいない」と判断し、法定合併協議会の解散を決めた。 その直後には鮫川村の芳賀文雄村長が辞職した。芳賀村長は2003年4月に5回目の当選を果たしたばかりで、「合併を成し遂げることが自身の最後の仕事」と捉えていたようだ。しかし、合併が立ち消えになったため、5選されてからわずか3カ月程度で自ら身を引いた格好。 こうして、東白川郡4町村はそれぞれ単独の道を歩むことになったのである。ちなみに、合併協議に当たり、住民投票を行ったのは県内ではこの3町村だけだった。 単独の道を歩むうえで、最も重要になるのが財政面だ。別表は4町村の各財政指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ライスパイレス指数をまとめたもの。 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  県市町村財政課の2020年度のまとめによると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも大差はない。 実質公債費比率の全国の市区町村平均は5・7%、県内平均は6・1%で、矢祭町はここ数年は多少上昇傾向にあるものの、全国・県内平均を大きく下回っている。 将来負担比率は、県内31市町村が発生しておらず、棚倉町、矢祭町、鮫川村がそれに該当する。棚倉町は2020年度から「算出なし」だが、矢祭町と鮫川村は早い段階から発生していない。 こうして見ると、矢祭町の指標がいいことが分かる。「合併しない宣言」以降、相応の努力をしてきたのだろう。 4町村長に聞く  4町村長に財政指標、職員数などの数字をどう捉えるか、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応について見解を求めた。 湯座一平棚倉町長  平成15(2003)年以降の棚倉町の財政は、地方交付税の削減幅が予測より小さかったことや地方への税源移譲により、歳入が堅調に推移してきたため、住民サービスの低下を招くことなく安定した運営ができています。財政力指数についても、県内平均より高い水準で推移してきていますので、合併しなかったことで財政的に行き詰まるといった心配は、杞憂に終わりました。 職員数については、合併を想定して策定した定員適正化計画に基づいた定員管理を行うことで、平成14(2002)年の168人から令和4(2022)年には126人と、この20年間で42人の減員を進めてきました。これは、指定管理者制度の導入やIT技術の導入による事務の効率化、さらには組織機構の改編をこまめに行い事務の効率化・簡素化に取り組んできた結果です。 ラスパイレス指数については、平成18(2006)年の給与制度改正時に年齢別職員の偏在により一時高い数値を示しましたが、現在は落ち着いた数値で推移しています。 「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと今後の対応につきましては、歳入に見合った予算編成を是とし、住民サービスの質を落とすことなく、将来の財政需要に備えて基金の積み増しや、計画的な施設の維持補修を行い、将来的に人口減少と少子高齢化の課題解決ができるよう取り組みを展開していきます。 佐川正一郎矢祭町長  財政指標に対する見解については、本町は30~40%の財政力指数が示すとおり、自主財源に乏しい小規模自治体ではありますが、2012年度以降の実質公債費比率が5%未満であるなど、財政の基本である「入るを量りて出ずるを為す」の精神が受け継がれ、健全財政を堅持できていることは、「合併しない宣言」以降の徹底的な行財政改革の成果であると思っています。職員数とラス指数については、ここ数年増加傾向にありますが、多様化する町民ニーズへの対応や高度化する行政課題解決のための必要最小限の増員であり、職員の負担が減少していない現状を考えると更なる対応が必要であると思っています。 これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みについては、「子育てサポート日本一!」をスローガンに掲げ、議員定数の削減や議員報酬日当制の導入、事務事業の見直しや業務の効率化に伴う職員の大幅な削減等で捻出した財源を少子化対策に充てるなど、次代を担う子どもたちのための施策を充実させてきました。 今後も行政サービスの低下を招かず、コスト削減をするにはどうすればよいか、受益者負担の適正化についても、町民と共に考えながら、DXを推進するためのデジタル人材の育成やデジタルサービスの提供による利便性の向上と業務の効率化に注力し、更なる行財政改革を進めていきます。 宮田秀利塙町長  財政状況資料の各種数値は、人間に例えれば、健康度合の指数と捉え、栄養不足・偏り、肥満、運動不足にならないように、常に、注視を怠らないように心がけています。 また、当町では福島財務事務所へ平成29(2017)年度と令和2(2020)年度の二度、町の財政状況の診断をお願いしており、その結果、当面問題となるような数値はないとの診断をいただいております。この後も時々に診断をお願いし、財政基盤強化の指針としていく考えです。 更に財政基盤強化のためには、自主財源である町税確保のために、町内での起業支援を広範に推進して参りたいと考えています。 行政運営の効率化については、地域の環境整備とコミュニティ維持を目的として実施中の「地域振興事業交付金事業」に代表されるように、住民が自ら出来ることは自分達で担い、行政はその一助として財政的に支援するという「住民協働と行政参画」の推進を行い、様々な行政サービスの受益と負担の関係を、より一層明確化するとともに、地域の住民が、行政サービスの費用負担とそこから得られる受益を比較・考慮して、出来るだけ、自らの判断と責任で地域の行政サービスの水準を決定できるような仕組みに改めていく必要があると考えています。 また、職員には、事業費の財源の内容提示の徹底を図ることで、財源確保の意識を高め、積極的な交付金、補助金の活用を推進して参りながら、前例に、こだわることなく、あらゆる可能性の中での財政基盤強化、効率化への取り組みを進めて参りたいと考えています。 関根政雄鮫川村長  財政力指数は0・17と全県的にも下位にあり、自主財源確保も厳しい状況にあります。 本村は平成18(2006)年の行財政改革のひとつとして特別職や議会議員の報酬を20~25%削減するなど財政再建を図りながら現在に至ります。「入るを量りて出ずるを為す」。ふるさと納税等の自主財源確保と目的を果たした公有財産の処分等、「身丈にあった財政計画」を推進しています。 また、運営の効率化においては、既に給食センター運営は隣町と連携しています。少子高齢化に相応する職員の採用計画と配置も不可欠です。さらに業務の効率化優先で「住民サービス」が低下しないよう最大考慮すべきであると考えます。   ×  ×  ×  × 「単独」の強みとは  このほか、「単独」だからできたこと、その強み等々についても見解を聞いたので紹介したい。 湯座一平棚倉町長 棚倉町の場合は、合併に賛成したけれども単独の道になったという事情がありますが、合併協議を経験したことで、以前のようにフル装備の町を目指すのではなく、住民生活に必要なものを見極めて、必要なものだけを整備していくという考え方で、代替えできる施設については、廃止するなどの対応をしてきています。例を挙げると町民プールはルネサンス棚倉のプールや各小中学校のプールを活用することで廃止とし、中央公民館についても文化センターに公民館機能を持たせることで廃止しています。また、図書館については、代替えがきかない必要な施設として新たに整備しています。 さらに、合併しなかったことにより、城下町の特性に着目し「東北の小京都」として観光PRを展開するなど、町にある資源に着目したまちづくりを進めています。 まちづくりの基本理念は「住民が主役のまち」「安心で優しいまち」「誇りと愛着のもてるまち」であり、「人を・心を・時をつなぐ たなぐらまち」を目指す将来像としてきめ細やかな行政運営に徹しています。 佐川正一郎矢祭町長 「単独」だからできたこと、「小さな自治体」だからできたことは、そう多くはなかったと思いますが、自信も持って言えることは、住民自治の重要性に気づき、逸早く行政の守備範囲を見直し、町民や各種団体等がそれぞれのできる範囲で行政に参加し、町と協働して地域を運営するという、町民が自分たちの手で地域を育てていく仕組みづくりを構築できたことであると思います。 また、その強み等々については、小さな自治体は、地域住民が自らの地域に目を向け、地域を調べ、知り、考えることから始まります。高齢者等の見守りや援助の体制、まちづくりに関わる住民との連携など、住民の顔が見える小さな自治体であればこそ、きめ細かい対応が可能になると思っています。また、災害が起こった場合どこが危険かなど、地域の環境について知悉(ちしつ)している職員がいることで、迅速な対応ができることも、強みであると思っています。 宮田秀利塙町長 町内のインフラ整備等の要望に対しまして、きめ細やかな対応が出来たことかと思っています。地域代表者と直接の話し合いの場を持つことで、地域の現状をしっかりと把握し、現状に即し、地域の皆様が喜ぶ工事・修復を実施することが出来ました。ひいてはそれが無駄な出費の削減にもつながりました。 具体的には、町の財政節減の考えを説明することで、その現場の対応を、町が行うべきか、あるいは地域での対応が妥当なのか、を話し合いの中から導き出した結果、最良な対応の選択が可能となり、迅速で無駄の少ない行政サービスの提供につながってきました。当然のことながら、地域で対応する場合は、資材等の支給を町が行うと共に、資材以外の部分でも財政支援を行うことで住民の負担軽減にも努めました。 「単独」であったことの、最大の強みは、住民の様々な思いを、直接聞きやすい環境であるため、住民の声に対し、きめ細やかに、しかも素早い対応が出来ることかと思っています。 関根政雄鮫川村長 他町村から比較すると、全ての生活環境において条件が整っていないと思いきや、過疎地域の環境には大きな個性的魅力があります。さらに人口減少は避けられないが、全村民に「村づくりの理念」や「希望や喜び」を隅々まで丁寧に伝えることができる利点もあります。 村の最大の魅力は「小さな村であること」であり、「村民主体の村づくり」を推進し「幸福度」を高めるためには理想の自治体規模であると考えています。   ×  ×  ×  × 1つ例を挙げたい。原発事故の影響で、県内では牧草から基準値超の放射性物質が検出される事例が相次いだ。これを受け、畜産農家が多い鮫川村では、海外から干し草を購入し、村内約140戸の畜産農家に配布した。それにかかった費用は、後に村が東京電力に賠償請求する仕組みをつくった。言わば、村が畜産農家の牧草調達と東電への賠償請求を代行した格好。当初、東電は自治体の賠償には消極的で対応が遅かったが、この仕組みは「鮫川ルール」として、比較的迅速に賠償支払いが行われた。畜産農家からしたら、面倒な手続きを村が代行してくれ、ありがたかったに違いない。これは、単独だからできたことと言えよう。 顕著な人口減少  一方で、大きな課題になっているのが人口減少だ。別表は東白川郡4町村の人口の推移。各町村とも人口減少が顕著になっている。もっともこれは、合併していたとしても同じ結果になっていたはず。全国的な課題で、なかなか打開策はないが、合併しなかったことで、小回りが利くことを生かして、それぞれやれることをやるしかない。  このほか、郡内住民の声を聞くと「結果的に合併しなくてよかったのではないか」といった意見が多い。 「何がどう、と聞かれると難しいけど、結果的に合併しなくても不自由なことはなかったから、(合併がなくなったのは)よかったのではないか」(棚倉町民) 「当時の国の方針は、合併しなければ交付税を減らすというものだった。でも、住民投票の結果、合併話がなくなり、これから大変だぞ、と思ったけど、実際はそれほどではなかった。まあ、(行政の)内部は大変だったのかもしれないけど。いずれにしても、東白川郡の現状を見ると、合併しなくてよかったのだと思う」(棚倉町民) 「(隣接する)茨城県で合併したところの住民に聞いたけど、『合併してここが良くなった』という具体的な話は聞かない。矢祭町は最初から合併しない方針だったけど、正解だったと思う」(矢祭町民) 東白川郡に限らず、住民の心情としては、「できるなら、いまのままで存続してほしい」といった意見が多い。ただ、当時、行政の内部にいた人に話を聞くと、「地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」、「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」との不安があったという。そのため、「国の方針に従った方がいい」として合併を模索し、実際に成立させたわけ。 国に逆らった影響  その点で言うと、矢祭町は「合併しない宣言」を議会が可決し、言うなれば真っ先に国に逆らった形になる。その影響や、締め付け等を感じることはあったのか。この点について、佐川町長に見解を求めると次のような回答だった。 「『合併しない宣言』が決議された当時、私自身はそうした情報を知り得る立場にありませんでしたが、当時を知る職員に話を聞くと、少なからず、地方交付税等の削減はあったものの、国からの締め付けは思ったほどではなく、合併をしないことによる財政的な影響は少なかったと聞いています」 「合併しない宣言」後の大部分(2007〜2019年)で舵取りを担った古張允前町長にも話を聞いたが、「締め付けというほどのことはなかった」と話した。 「確かに、国は合併しなかったら交付税を減らすとの方針でしたが、実際はそうでもなかった。(それほど影響がなかった背景には)二度の政権交代(自民党→民主党→自民党)も関係していると思います。財政的にも、根本良一元町長の時代に行財政改革が行われ、必要な部分の投資もある程度は完了していました。私の時代の大きな事業といえば、こども園建設と小学校統合くらいですかね。ですから、財政的にすごく苦労したということはありませんでした。むしろ、国の締め付け云々よりも、『日本一の町長』と評された根本町長の後を受けたプレッシャーの方が大きかったですよ」 最後に。いま同郡内で不安材料になっているのが衆議院小選挙区の区割り改定だ。これまでは須賀川市、白河市、田村市などと同じ3区だったが、改定後は会津地方、白河市、西白河郡と一緒の新3区になる。 東白川郡は車両ナンバーが「いわき」で、どちらかというと浜よりの文化・生活圏。県内でも会津とは縁遠い。そのため、「東白川郡はもともと票(人口)が多くないし、会津地方と一緒になったら、代議士の先生の目が向きにくくなるのではないか、といった不安がある」というのだ。 合併の話からは逸れてしまったが、今後の同郡内の行政を考えるうえでは、そこが不安材料になっているようだ。 あわせて読みたい 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

     二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁) 「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長  まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者) 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。 低迷する城報館 2階部分から伸びる渡り廊下  城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員) ※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。  市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主) 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同) 三保恵一市長  本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。 上司とは思えない言動  前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同) 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者) 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。 加害者意識のない部長  しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課) ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」 疲弊する地方公務員  荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者) 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。 ※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査  心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏) 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。  ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。 あわせて読みたい 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」 ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

    なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

    福島大学の学生が語る投票率アップのヒント  若者の投票率が低迷を続けている。昨年10月に行われた福島県知事選挙は10代から30代の有権者の投票率がいずれも3割に満たなかった。その中でも最低は20代の21・35%。なぜ若者は選挙に行かないのか。どうすれば投票率を上げられるのか。若者への選挙啓発を中心に活動する福島大学の学生団体「福大Vote(ボート)プロジェクト」(以下、福大Voteと表記)に所属する学生に話を聞いた。(佐藤大) 若者の投票率がほかの世代と比べてどれだけ低いのか  昨年10月に行われた福島県知事選挙の投票率は42・58%だった。一方、年代別投票率はグラフの通り。 福島県,令和4年10月30日執行 福島県知事選挙 年代別投票率https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/543772.pdf  最も高いのは70代の59・52%、最も低かったのは20代で前回より1・77ポイント低い21・35%、次いで10代が同4・52ポイント低い26・22%、30代が同1・47ポイント低い28・68%と、若い世代がいずれも3割に満たない結果となった。 若者の投票率が低い原因にはどんなことがあるのか 【①社会と接する機会】  東京都が行った「選挙に関する啓発事業アンケート結果」(2018年)によると、若年層の投票率が低い背景について「政治を身近に感じられないから」(70・7%)が最も高く、以下「選挙結果で生活が変わらないと考えているから」(69・7%)、「政治や社会情勢に関する知識が不十分だから」(46・4%)と続いている。 東京都,選挙に関する啓発事業アンケート結果,2018https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/29/01_07.html(若年層の投票率が低い背景)  「政治を身近に感じられない」のはなぜか。その原因を探るため、若者への選挙啓発を目的に、2016年に福島大学の学生有志で結成された福大Voteのメンバーに生の声を聞いた。 福大Voteは設立当初、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることを受けて、大学や福島市選挙管理委員会に働きかけ、学内の図書館に期日前投票所を設置することに尽力した。現在のメンバーは7人で、若者に向けた選挙啓発を中心に活動している。 代表の関谷康太さんは「そもそも友達同士で政治や選挙が話題に上がらない」と話す。 「政治の話はタブーという雰囲気がありますね。あとは普通に生活していると、自分のことで精一杯というか……。大人になってから政治が及ぼす影響を考えるようになるのかもしれません」(関谷さん) 若者は他の年代と比べて社会との接点が少ない。人は年を重ね、会社に入ったり、家族を持ったりすることで社会、地域、教育といった問題を自分事として捉え始める。 東京都主税局の「租税に対する国民意識」(2017年)によると、中間層の税負担について、日本は「あまりに高すぎる」「高すぎる」と回答した人の割合が60%を超えている。また、回答者の60%以上が官公庁からの情報発信が不十分としており、情報提供の充実を求めている。 東京都主税局,租税に対する国民意識と税への理解を深める取組,2017https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/tzc29_s1/15-1.pdf(6ページ)  福島県の「少子化・子育てに関する県民意識調査」(2019年)によると、子育て環境の整備や少子化対策で期待することは「児童・児童扶養手当拡充、医療費助成、保育料等軽減等、子育て世帯への経済的な支援」(44・7%)が最も高い。 福島県,少子化・子育てに関する県民意識調査,2019https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/344247.pdf(9ページ)  払う金は少なくしたい、でも、もらえる金は多くしたい、という本音が透けて見える。 社会人になって初めて気付く社会保険料のインパクト……。新卒1年目、しゃかりきに働いてやっと掴んだ1万円の昇給……その金が住民税でチャラになってしまう虚しさ……所得税も地味に負担となる……。 「税金が高すぎる」――こんな叫びが、結果として政治に関心を持つきっかけになるということだろう。 【②住民票問題】  山形県出身の井上桜さんは「福大周辺に住んでいますが、山形から福島に住民票を移していないので投票には行きませんでした」と話す。 「私が通う行政政策学類は多少なりとも政治に興味があって入っている人が少なくない。なので実家暮らしで住民票がある人は『投票に行った』とよく聞きますね」(井上さん) 井上さんが福大Voteに入ったきっかけは大学の受験科目「政治・経済」を深く勉強していく中で政治に興味を持ったからだという。入学前からサークルを調べ、自らSNSでダイレクトメッセージを送って福大Voteに入った。そこまで政治に興味がある彼女ですら選挙に行かなかった(行けなかった)のだ。 総務省が行った「18歳選挙権に関する意識調査」(2016年)によると、投票に行かなかった理由として「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから」が最も多く、年齢別では18歳(15・6%)よりも19歳(27・5%)の割合が高い。 総務省,18歳選挙権に関する意識調査の概要,2016https://www.soumu.go.jp/main_content/000456090.pdf(2ページ)  選挙は通常、住民票に登録された住所に投票所入場券が送付される。高校を卒業して県外の大学に進学した学生の多くは、住民票を実家から移さないため、帰省のタイミングで選挙がない限り進学先では投票できない。 不在者投票といった救済制度はあるが、選挙管理委員会への書類請求や投票用紙の郵送が必要で、手続きが煩わしい。 実際、福島県知事選挙の投票率を詳細に見ていくと、18歳は34・21%だったが、19歳は17・83%と最も低かった。 【③なじみの薄い選挙】  読書が好きで、もともと政治に関心が高い山本雅博さんは「政治は面白いのに、面白さに気付いてない」と話す。 「周りを見てみると、政治に関心がないし、あまり知識がない印象です。それでも僕が友人に熱心に語りかけると、『投票行ったよ』と言ってくれる人もいる。もっと政治を話す場があれば選挙に行くきっかけになるだろうし『誰々は選挙に行ったみたいだ』という話が広まればさらに選挙に行く人は増えると思います」(山本さん) 福大Voteは県選管の協力を得て、知事選前の10月27・28日、投票率アップにつなげようと、大学図書館の一角で学生が選挙や政治について気軽に話すことができる「選挙カフェ」を開いた。テーマを決めて議論し、訪れた学生と意見を交わした。 市町村の選管も、若者の投票率向上のためさまざまな取り組みを行っている。 須賀川市選管ではバス車内で投票ができる移動期日前投票所を市内の高校に初めて開設するなど、若者が投票しやすい工夫を凝らした。 福島市選管では市内の中学校で選挙への理解を促す出前授業を開き、生徒が模擬投票を体験した。 決定に関わる取り組みを子どものころに経験し、積極的に物事に関わる姿勢(若者の主権者意識)が醸成されれば、民主主義の基盤を早くから意識できる。 投票率を上げるためにはどうすればいいのか 【①情報】  各選管は移動期日前投票所の設置や模擬投票の実施など若者の投票率向上に躍起だが、冒頭に示した投票率の通り結果は伴っていない。 若者の投票率を上げる方策はあるのか。 前出・渋谷さんは次のように指摘する。 「若者の目に留まりやすいSNSなどを活用し、社会に関心を持ってもらうような啓蒙活動を多面的にアプローチすることが必須なんじゃないかなと思います」 例えば、知事選の候補者だった内堀雅雄氏と草野芳明氏は若者からすると、言ってしまえばどちらも〝知らないおじさん〟でしかない。 東京都知事選挙は22人が立候補し、テレビで見たことがある馴染みの候補者が何人もいた。宮崎県知事選挙はタレントの東国原英夫氏が立候補するなど、地方の選挙でも有名人が立候補することは珍しくなくなった。 もちろん知名度があればいいというわけではないが、話題性は高くなるので、結果的に有権者は候補者の素性や公約を知る機会が増える。 新聞・テレビ離れが進み、若者が候補者の情報をキャッチする機会は減り続けている。一方、スマートフォンが普及し、アプリが多様化する中、若者は求める情報を自らキャッチしにいくのが当たり前になっている。 若者が普段使っているアプリ―ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、ティックトック―挙げたらきりがないが、各選管は予算をかけて多方面で周知を図る必要があるだろう。 【②選挙に出よう】  日本財団ジャーナルが行った意識調査(2021年)によると、「投票しない」「投票できない」「分からない・迷っている」と回答した人にその理由を尋ねたところ「投票したい候補者・政党がいないから」が最も多く22%だった。 日本財団ジャーナル,意識調査,2021 https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/63822  本誌で連載しているライター、畠山理仁氏の「選挙古今東西」(昨年6月号)を引用する。 私はかねてから「選挙に行こう」ではなく「選挙に出よう」と呼びかけてきた。選挙に出る人が増えれば選択肢が増える。選択肢が増えれば投票に行く人も増える。つまり、自分の1票を実感できるチャンスが増える。候補者が増えて適正な競争が行われれば、政治業界全体のレベルも上がる。多様な候補者が立候補することで「今、政治には何が求められているか」も可視化される。誰にとっても不都合はない。  (中略)  もう一つの問題は「立候補のしかた」を学校で教えないことだ。そのため、どうやって立候補したらいいのかわからない人が多くいる。  安心してほしい。私たちの社会は、そんな時のために働いてくれる人たちをちゃんと用意している。役所にある選挙管理委員会(選管)の人たちだ。そこをたずねて「立候補したい」と伝えれば、懇切丁寧に立候補までサポートしてくれる。  選挙の約1カ月前には、各地の選管で「立候補予定者事前説明会」が開かれる。一度出席してみれば、すべての候補者がとても複雑な手続きや高いハードルを超えて立候補していることがわかる。会場を出るころには候補者への敬意を抱くこと間違いなしだ。ぜひ、自分の権利を確認するためにも訪ねてみてほしい。  参議院議員と都道府県知事の被選挙権は満30歳以上だが、衆議院議員、県議会議員、市町村長、市町村議会議員は満25歳以上だ。供託金などの費用が最大のネックではあるが、20代がもっと当事者意識を持っていいはずだ。 【③与野党への考え】  福大Voteの3人に「政党についてどう考えているか」を聞いた。 「特定の支持政党は無いですね。ただ、野党には頼れないので、結局与党に投票することが多いです」(関谷さん) 「私も与党野党どちらを支持するとかはないです。政治全体を見て判断したいですね」(井上さん) 「根本に政権交代してほしいという思いがあるので、野党の国民民主党を支持していたことはあります。ただ結局、政治は多数決で、数が必要という要素があるので、今はどこがどうというのはありません」(山本さん) 本誌主幹・奥平はたびたび「政府与党の傲慢さと野党のだらしなさ」を指摘している。投票しようにも、推したい政党・候補者がいなければ選挙離れは進む一方だ。 左から井上桜さん、関谷康太さん、山本雅博さん 投票しないことのデメリットは何か  福大Voteの3人に「政治に求めるもの」を聞いた。 「若い世代の支援をもうちょっと増やしてほしいです。あとは地方創生、教育格差の是正です。生まれた家庭環境によって教育機会に違いがあるのはおかしいと思います」(関谷さん) 「大学周辺に買い物ができる場所がないんです。スーパーが1軒でもあれば……。電車やバスの本数ももっと増やしてほしいですね」(井上さん) 「防衛費はGDPの何%ということではなく、必要なものを精査して調達することが重要だと思いますし、それに合わせた予算を組むべきです。防衛省の情報が分かりにくいので、国防上明かせない情報があったとしても『こういう戦略で国を守っていく』と分かりやすく説明してほしいです」(山本さん) 3人はまだ学生なのに、それぞれしっかりした考えを持っている。ここまで意識が高ければ、黙っていても選挙に行くだろう。問題は、政治に全く興味がない人へのアプローチだ。 人が行動する動機は2種類しかない。「快楽を得たい」か「痛みを避けたい」かのどちらかだ。 政治に興味がない人に、選挙に行くメリットを説いても響かない。快楽を得るほどの成果も生まれない。それであれば、痛みを避けるパターンで訴えていくしかない。 再び畠山氏の「選挙古今東西」(2020年4月号)を引用する。  選挙は積極的に参加したほうが絶対に「得」だ。参加しなければ「損」をすると言っても過言ではない。  今、日本人は収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している。これは「国民負担率」という数字で表されるが、令和2年度の見通しは44・6%。このお金の使い道を決めていくのが政治家だ。  幸いなことに、日本は独裁国家ではない。民主主義国家だから、有権者は自分たちの代表である政治家を選挙で選ぶことができる。18歳以上で日本国籍を有していれば、性別や学歴、収入や職業的地位に関係なく、誰もが同じ力の「1票」を持っている。実はこれはスゴイことだ。  もっとわかりやすく言う。  「無収入の人も年収1億円の人も平社員も社長も同じ1票しかない」  それを誰に投じるかは有権者次第であり、1票でも多くの票を得た候補が当選する。これがルールだ。  つまり、選挙に積極的に関わらないでスルーしていると、自分の理想とは違う社会がやってくる可能性がある。考えようによっては、かなりヤバイ。自分の収入の約4割をドブに捨てることにもなりかねない。  今は国政選挙でも投票率5割を切る時代だ。地方選挙ではもっと低いこともある。つまり、「確実に選挙に行く人たち」の力が相対的に大きくなっている。貴重な1票を捨てている人は、あっという間に社会から切り捨てられる存在になるだろう。  政治に参加せず、「収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している」現状を放置すれば、それが5割、6割と高くなっていくのは目に見えている。痛みを避けたければ、まずは選挙に行くしかない。

  • 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

     2000年代を中心に、国の意向で進められた「平成の大合併」。県内では、合併したところ、単独の道を選択したところ、合併を模索したもののまとまらなかったところと、さまざまある中、本誌ではシリーズで合併しなかった市町村の現状を取り上げている。今回は、人口減少や高齢化率の上昇が大きな課題となっている奥会津編。(末永) 人口減・高齢化率上昇が課題の三島・金山・昭和  「奥会津」は正式な地名ではなく、明確な定義があるわけではない。ただ、観光面などでの広域連携の中でそうした表現が使われている。主に会津南西部を指す。 只見川・伊南川流域の町村で構成される「只見川電源流域振興協議会」が発行したパンフレット「歳時記の郷 奥会津の旅」には次のように記されている。 《「奥会津」は、福島県南西部に位置する只見川流域、伊南川流域の7町村「柳津町」「三島町」「金山町」「昭和村」「只見町」「南会津町」「檜枝岐村」の総称です》 柳津町は河沼郡、三島町、金山町、昭和村は大沼郡、只見町、南会津町、檜枝岐村は南会津郡と3つの郡にまたがる。今回は、そのうち大沼郡の三島町、金山町、昭和村と南会津郡の只見町の現状を取材した。 「平成の大合併」の際、三島町、金山町、昭和村の3町村は、河沼郡の会津坂下町、柳津町との郡をまたいだ合併案があった。当時の合併に関する研究会のメンバーだった関係者はこう述懐する。 「県会津地方振興局の勧めもあって5町村で合併について話し合うことになりました。当時の5町村長は基本的には合併もあり得るとの考えだったように思います。理由は、国は合併しなければ段階的に地方交付税を減らすとの方針で、将来的な財政の裏付けがなかったことです」 当時の5町村の人口(2005年1月1日時点)は、会津坂下町約1万8600人、柳津町約4400人、三島町約2300人、金山町約2900人、昭和村約1600人で、計約2万9800人。合併後の新市移行の条件である「人口3万人」にギリギリ届いていなかったが、「振興局の担当者は『市になれると思う』とのことだった」(前出の関係者)という。 「人口比率から言っても、中心になるのは会津坂下町だが、そこに役場(市役所)が置かれるとして、金山町、昭和村からはかなり遠くなります。加えて、当時の会津坂下町は財政状況が良くなかったため、(ほかの4町村の住民・関係者は)会津坂下町にいろいろと吸い上げられてしまう、といった思いもありました。そんな中で、(会津坂下町を除いた)柳津町、三島町、金山町、昭和村の4町村での合併案も出たが、結局はどれもまとまりませんでした。住民の多くも合併を望んでいなかった、ということもあります」 一方で、南会津郡は、2006年3月に、田島町、舘岩村、伊南村、南郷村が合併して南会津町が誕生した。それに先立ち、下郷町、只見町、檜枝岐村を含めた南会津郡7町村で研究会が立ち上げられ、合併に向けた調査・研究を行っていた。そこから、正式な合併協議会に移行する際、下郷町、只見町、檜枝岐村は参加しなかった経緯がある。 当時のことを知る只見町の関係者はこう話す。 「田子倉ダム(電源立地地域対策交付金)があるから、という事情もあったと思いますが、それよりも『昭和の大合併』の後遺症のようなものが残っており、只見町は最初から前向きでなかった」 只見町は、いわゆる「昭和の大合併」で誕生した。1955(昭和30)年に只見村と明和村が合併し、その4年後の1959(昭和34)年に朝日村が編入して、只見町になった。「平成の大合併」議論が出たころは、それから50年ほどが経っていたが、その後遺症が残っていたというのだ。 「一例を挙げると、只見地区(旧只見村)には町役場の中心的機能、明和地区(旧明和村)には温浴施設、朝日地区(旧朝日村)には診療所という具合に、1つの地区に何かを設けるとすると、残りの2地区には何らかの代わりの手当てをする、といった手法でないと、物事が進まないような状況なのです。これでは行政運営のうえで、あまりにも効率が悪い」(同) それは「平成の大合併」議論から十数年(「昭和の大合併」から60年以上)が経ったいまも変わっていないという。 その際たる例が役場庁舎の問題。同町の本庁舎は、只見町誕生の翌年(1960年)に建てられ、老朽化が進んでいた。2008年度に実施した耐震診断の結果、震度6強以上の地震で倒壊する危険性があるCランクと診断された。 そこで、目黒吉久元町長時代の2011年に「只見町役場庁舎建設基本計画」が策定され、新庁舎建設計画が進められた。ただ、実現させることができず、目黒町長はその責任を取る形で、2016年12月に2期目の任期満了で退任した。 この後を受けた菅家三雄前町長は、「暫定移転」として、中学校合併によって空いた旧只見中学校に、議会、総務課、農林建設課、教育委員会などの役場の中心的な機能を移転し、「町下庁舎」とした。そのほかの部署は、駅前庁舎とあさひヶ丘庁舎に分散する形になった。この暫定移転が完了したのが2018年で、これに伴い、旧庁舎は解体された。 ただ、この暫定庁舎(分散庁舎)は、町民や観光客などから、「必要な部署(用事がある部署)がどこにあるのか分かりにくい」として不評だった。 一方で、一部町民からは「新しい役場庁舎ができても、町民生活には何の恩恵もない。そんな生産性のないものに多額のお金をかけるべきではない。いまのまま(暫定庁舎)で十分」、「暫定庁舎の整備には5億円以上の費用がかかっている。そのうえ、さらに新しい庁舎を建てるのは、税金の無駄遣いだ」といった声が出た。とりわけ、明和地区、朝日地区では、そうした意見が多いという。 このほか、現在、同町では道の駅整備計画が進められているが、同事業でも「(旧3村の)どこにつくるか」が最大のポイントになっていた。「合併前の旧3村の感情論が絡みなかなか物事が進まない」というのはこういったことを指している。 「平成の大合併」では、核となる市があって、そこに近隣町村が〝編入〟した(形式上は対等合併でも実質的にそうなったものも含む)パターンと、同規模町村が合併して市になったパターンの大きく2つに分けられる。その中でも、後者は「均衡ある発展」を掲げ、その結果、分散型の行政組織や財政運用になった。 それが良いか悪いかは別にして、只見町は「昭和の大合併」以降、そうした状況が続いているというのだ。そんな事情から「平成の大合併」議論が出た際、住民・関係者は拒否反応を示し、南会津郡の合併に参加しなかったわけ。 こうして、三島町、金山町、昭和村、只見町は合併せず単独の道を歩むことになった。 さて、ここからは過去のシリーズと同様、単独の道を歩むうえで最も重要になる財政面について見ていきたい。ちょうど、全国的に「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。別表は同法に基づき公表された4町村の各指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ライスパイレス指数をまとめたもの。 三島町の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度6・8012・6318・5103・80・162008年度8・6713・8917・868・70・152009年度10・2812・1915・644・90・132010年度――――13・01・80・122011年度――――11・2――0・122012年度――――9・6――0・122013年度――――7・9――0・122014年度――――6・1――0・132015年度――――4・2――0・132016年度――――3・1――0・142017年度――――2・8――0・142018年度――――3・5――0・152019年度――――4・1――0・152020年度――――4・8――0・15※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 金山町の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度3・826・0720・782・30・242008年度3・667・6618・755・70・232009年度3・907・7915・527・90・232010年度2・970・8311・621・30・222011年度――――8・5――0・212012年度――――6・1――0・202013年度――――4・4――0・202014年度――――3・5――0・202015年度――――2・9――0・222016年度――――3・2――0・232017年度――――3・6――0・232018年度――――4・1――0・232019年度――――4・5――0・242020年度――――4・4――0・24※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 昭和村の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度1・323・9415・110・60・112008年度4・078・5813・5――0・112009年度2・877・0011・4――0・102010年度――――10・5――0・092011年度――――9・7――0・092012年度――――8・0――0・082013年度――――6・7――0・082014年度――――5・0――0・082015年度――――4・4――0・092016年度――――3・7――0・092017年度――――3・7――0・092018年度――――4・4――0・092019年度――――5・3――0・102020年度――――5・9――0・10※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 只見町の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度2・245・1112・816・10・312008年度8・2111・2611・326・10・302009年度3・595・639・6――0・292010年度――――6・8――0・282011年度――――5・0――0・272012年度――――3・9――0・252013年度――――3・7――0・252014年度――――3・5――0・252015年度――――2・9――0・252016年度――――3・1――0・252017年度――――3・2――0・252018年度――――3・2――0・252019年度――――3・0――0・252020年度――――3・0――0・25※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  県市町村財政課による2020年度指標の総括によると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも差はない。 実質公債費比率は、全国市区町村平均が5・7%、県内平均が6・1%。昭和村は5・9%で全国平均を0・2ポイント上回っているが、ほかの3町村はいずれも全国平均を下回っている。推移を見ると、いずれもここ数年は最も良かったころからは多少比率が上がってはいるものの、単独を決めたころから比べると、だいぶ良化していることが分かる。 将来負担比率は、31市町村が発生しておらず、4町村はいずれもそれに当てはまる。しかも、早い段階から「算出なし」となっている。一方で、4町村とも財政力指数は低い。 4町村長に聞く  4町村長に財政指標、職員数などの数字をどう捉えるか、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応について見解を求めた。 矢澤源成三島町長  当時、三位一体の改革の下、財政基盤の強化、行政運営の効率化のため合併が進められたが、その後、地方創生総合戦略や東京一極集中是正の流れから、地域の特性を生かした地域づくりに財源が配分され、合併以前の状況とは異なるが、将来に向けては財政基盤がぜい弱な小規模自治体では不安がある。将来人口推計よりも早く、少子化、人口減少が進行しているが、再生可能エネルギーや地域資源を生かした経済循環とDXの推進等持続可能な地域づくりを進めることにより、財政基盤の強化や行政運営の効率化に繋がるものと考えている。 押部源二郎金山町長  財政状況については、実質公債費比率が健全な状況にあり、適切な状態を維持していると考えている。財政基盤強化については、総人件費と町債の抑制により安定的な財政基盤の確保に努めてきた。行政運営の効率化においても社会情勢の変化に即応した体制や効率化を図っており、今後も状況に応じた対応に努めていく。 舟木幸一昭和村長  本村は自主財源が乏しく、地方交付税を始めとする依存財源に頼らざるを得ない状況にあるので、歳出面では人件費や物件費、維持補修費や補助費などの見直しを図るとともに、村の振興を進めるため昭和村振興計画の実施計画を策定し、事業の平準化なども行ってきた。歳入面では財源確保として、積極的に国や県の補助金を活用するとともに、村債は後年度の償還に有利な過疎対策事業債を起債するなど工夫してきたことから、余剰金については財政調整基金や目的基金に積み立て、後年度負担すべき財源の確保に努めてきた。このことにより、財政健全化法が施行された2007年度から連続して健全財政を維持している。 職員数については、5年ごとに定員管理計画を定め、条例定数61人に対し定員50人を維持している。また、いわゆる団塊の世代の退職後は、職員の平均年齢が県内でも比較的若い状況であることから、ラスパイレス指数が低い状況となっている。 本村は、今後の人口減少を緩やかにしていくため、様々なアイデアを駆使し、移住・定住人口の確保に努めているが、今後想定される公共施設やインフラ設備の補修・改修などの大規模な財政支出により、財政を取り巻く状況は決して楽観できない状態が続くと予想される。今後も、これまでの堅実な財政運営を維持しつつ、産業の振興や移住・定住施策を進めるとともに、新たな試みにも果敢にチャレンジしながら、より一層、村の振興を進めていく。 渡部勇夫只見町長  「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」は合併の目的の大きな柱の1つであると理解している。同時にもう1つの大きな柱である「まちづくり」の方針(構想)も欠くことのできない点だと理解している。当町の財政状況は厳しい環境にあると認識しているので、「まちづくり」により一層力を注ぎながら取り組んでいく。 非合併の影響は軽微  前段で、三島町、金山町、昭和村の3町村は、会津坂下町、柳津町との合併話があり、その研究会関係者の「国は合併しなければ段階的に地方交付税を減らす方針で、将来的な財政の裏付けがないから、当時の5町村長は合併もあり得ると考えていた」とのコメントを紹介した。 実際、過去のこのシリーズでは合併議論最盛期に、県内で首長を務めていた人物のこんな声を紹介した。 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」 そうした国の方針は、この首長経験者にとっては、脅しのような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、「合併するしか道はない」と考えたようだ。 一方で、シリーズ4回目の「東白川郡」では、「合併しない宣言」で知られる矢祭町の状況をリポートした。同町は2001年10月に議会が「合併しない宣言」を可決した。言うなれば真っ先に国に逆らった形になる。そのため、国による締め付け等があったのではないかと思い、佐川正一郎矢祭町長に見解を求めると次のような回答だった。 「『合併しない宣言』が決議された当時、私自身はそうした情報を知り得る立場にありませんでしたが、当時を知る職員に話を聞くと、少なからず、地方交付税等の削減はあったものの、国からの締め付けは思ったほどではなく、合併をしないことによる財政的な影響は少なかったと聞いています」 さらに、「合併しない宣言」後の大部分(2007年〜2019年)で舵取りを担った古張允前町長にも話を聞いたが、「締め付けというほどのことはなかった」と話した。 「確かに、国は合併しなかったら交付税を減らす、という方針でしたが、実際はそうでもなかった。(それほど影響がなかった背景には)二度の政権交代(自民党→民主党→自民党)の影響もあったと思います。財政的にも、根本良一前町長の時代に組織改革が行われ、必要な部分の投資も終わっていました。ですから、財政的にもそれほど厳しいということはなかった」 矢祭町の現・前町長の言葉からも分かるように、当時の関係者が危惧したような状況にはなっていない。今回の奥会津4町村についても、決して財政的に豊かではないが、少なくとも著しく住民サービスが劣ったり、行政運営ができない状況には陥っていない。当然、そこには各町村の努力もあるだろうが。 一方、奥会津で合併した南会津町の合併前の旧町村の予算規模(2004年度当初予算=福島民報社の『民報年鑑』より)は次の通り。 田島町▽65億9200万円 舘岩村▽28億4700万円 伊南村▽22億5200万円 南郷村▽25億円 合わせると141億9100万円になる。これに対し、合併後の南会津町の2022年度の当初予算額は126億3400万円。 以前、合併しなかった自治体の役場関係者はこう話していた。 「例えば、うちの自治体だと年間約30億円の予算が組まれる。それが合併したら、この地区(合併前の旧自治体の域内)に30億円分の予算が投じられることはまず考えられない。そういった点からも、合併すべきではないと考えている」 つまりは、合併後の核になる旧自治体は別として、単独の方がそこに投じられる予算が大きいから、住民にとってもその方がいい、ということだ。「なるほど」と思わされる見解と言えよう。 住民に聞いても、「合併しなくて良かった」との声が多かった。 「合併しなくてよかったと感じる。独自のまちづくりができるわけだから」(金山町民) 「結論から言えば合併しなくてよかった。この辺りは、『平成23(2011)年新潟・福島豪雨』で大きな被害を受けたが、水害対応にしても、只見線復旧にしても、町と意思疎通が図りやすいし、(水害の問題で)裁判などを起こす際にも動きやすい面はあったからね」(金山町民) 「合併しなくて良かったと断言できる。合併すれば役場は遠くに持って行かれ、昭和村にはせいぜい10人ほどの職員がいる支所が置かれる程度だったに違いない。その分、サービスは悪くなるし、住民の声が届きにくくなる。いま村では、カスミソウの栽培推進や、からむし織事業が行われ、新規就農で都会から30代の夫婦が来ている。新聞でもよく取り上げられ、成功していると言っていい。これは合併していたらできなかった。あとは(会津美里町と昭和村を結ぶ国道401号の)博士トンネルが2023年度に開通することになっており、これができれば人の動きも出てくるだろう」(昭和村民) 「合併すると、どうしても旧町村間の感情論で、『あそこ(中心部)だけいろいろな施設ができて、ほかは何もできない』といった問題が出てくる。そういった意味でも、合併しなくて良かったのではないか。現状、余裕がないながらも、特に不便なく存続できているわけだから。それが一番だと思いますよ」(只見町民) 最大の課題は人口減少  一方で、大きな課題になっているのが人口減少と高齢化率の上昇だ。別表は4町村と奥会津地区で合併した南会津町の人口の推移をまとめたもの。各町村とも「平成の大合併」議論のころから3〜4割の減少になっている。もっとも、南会津町の例を見ても分かるように、合併してもしなくても、その傾向に大差はない。もし、合併して「市」になっていたとしてもこの流れは変えられなかった。 さらに、県が昨年の敬老の日(9月19日)に合わせて、9月18日に発表したデータによると、昨年8月1日時点の県総人口は179万3522人で、このうち65歳以上は57万8120人、高齢化率は32・9%(前年比0・4ポイント上昇)だった。 市町村別の高齢化率は、①飯舘村68・6%、②金山町61・9%、③昭和村55・4%、④三島町55・1%、⑤川内村52・5%と続く。上位5つのうち、奥会津の3町村が入っている。ちなみに、飯舘村と川内村は原発事故の避難指示区域に指定され、避難指示解除後に戻ったのは高齢者が多いという特殊事情がある。 昭和村の社会動態は増加  人口減少・高齢化問題について、4町村長に見解を求めた。 矢澤源成三島町長  人口減少と高齢化対策は、日本全体の課題であり、当町のような地方自治体は最も進行している地域であることから、対策のモデル地域となり得るが、雇用や働き方改革、結婚・子育て支援、住環境、教育支援等、社会全体で取り組む必要があると考える。 押部源二郎金山町長  人口減少と高齢化は町の最重要課題である。少子高齢化に伴う人口減少に特効薬はないが、引き続き移住・定住対策、交流人口の増加に力を入れていきたい。 舟木幸一昭和村長  出生と死亡の差は歴然としており、人口減少に大きな影響を与えているが、総務省による2022年の住民基本台帳人口移動報告では9人の転入超過、過去5年間の合計でも20人の転入超過となっているように、自然減を社会増で補おうとしているところ。1994年度から続く「からむし織体験生事業」による織姫・彦星の受け入れや、カスミソウ栽培に従事する新規就農者等の移住が社会増に寄与しており、新年度からは新たに、本村が所有者から空き家を借り上げてリフォームし、就農希望者等の住居として貸し出す「移住定住促進空き家利活用事業」を立ち上げ、集落活性化に繋げていきたい。※高齢化率は約55%で、近年大きな変動はない。 渡部勇夫只見町長  非常に大きな課題だと認識している。町の魅力向上とともに関係人口の拡大に向けた事業に取り組んでいきたい。 前段で、昭和村民の「カスミソウの栽培推進や、からむし織事業が行われ、新規就農で都会から移住してくるなど成功している。これは合併していたらできなかった」との声を紹介した。舟木村長のコメントでも、「自然動態では人口は減少しているが、社会動態ではプラスになっている」という。その要因として、「からむし織体験生事業」による織姫・彦星の受け入れや、カスミソウ栽培に従事する新規就農者等の移住を挙げており、同村の事例を見ると、やれることはあるということだ。 このほか、同地域の住民はこんな意見を述べた。 「いまの社会情勢で人口減少や高齢化率上昇は避けられない中、もっと町村間の連携を強化すべき。『奥会津行政組合』のようなものを立ち上げ、ある程度縦断して行政機能が発揮されるようにすべきだと思う」 このシリーズの第1回の桑折町・国見町、第2回の大玉村、第4回の西郷村は、県内でも条件がいい町村だった。そのため、「合併する必要がない」といったスタンスだった。その点でいうと、今回の奥会津の4町村は条件的には厳しく、それら町村とは違う。一方で、人口規模が小さいがゆえの小回りが利くことを生かした思い切った仕掛けをすることも可能になる。そういった創意工夫が求められよう。 あわせて読みたい 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【東白川郡編】合併しなかった福島県内自治体のいま 【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

     選挙区の変更に翻弄されたり、陰で「もう辞めるべきだ」と囁かれている県内衆院議員たち。その最新動向を追った。 新3区支部長は菅家氏、上杉氏は比例単独へ 森山氏と並んで取材に応じる菅家氏(右)と上杉氏(左)=3月21日の党県連大会  衆院区割り改定を受け、県南地方の一部(旧3区)と会津全域(旧4区)が一つになった新3区。この新しい選挙区で自民党から立候補を目指していたのが、旧3区で活動する上杉謙太郎氏(47)=2期、比例東北=と、旧4区を地盤とする菅家一郎氏(67)=4期、比例東北=だ。 次期衆院選の公認候補予定者となる新3区の支部長について、党本部は「勝てる候補者を擁立する」という方針のもと、上杉氏と菅家氏が共に比例復活当選だったこと、県内の意向調査で両氏を推す声が交錯していたことなどを理由に選定を先延ばししてきた。一方、中央筋から伝わっていたのは、党本部は上杉氏を据えたい意向だが、両氏が所属する派閥(清和政策研究会)は菅家氏を推しているというものだった。 選定の行方が注目されていた中、党本部は3月14日、新3区の支部長に菅家氏を選び、上杉氏は県衆院比例区支部長として次期衆院選の比例東北で名簿上位の優遇措置が取られることが決まった。 森山裕選対委員長は、菅家氏を選んだ理由を「主な地盤が会津だったから」と説明した。県南と比べ会津の方が有権者数が多いことが判断基準になったという。 本誌は1月号の記事で、上杉氏は新3区から立候補したいが菅家氏に遠慮していると指摘。併せて「菅家氏は会津若松市長を3期務めたのに小熊慎司氏に選挙区で負けており、支部長に相応しくない」という上杉支持者の声を紹介した。 それだけに上杉支持者は今回の選定に落胆しているかと思ったが、意外にも冷静な分析をしていた。 「有権者数を比べれば、県南(白河市、西白河郡、東白川郡)より会津の方が多いので、菅家氏が選ばれるのは妥当です。上杉氏がいきなり会津に行っても得票できないでしょうからね」(ある支持者) そう話す支持者が見据えていたのは、負ける確率が高い「次」ではなく「次の次」だった。 「菅家氏は次の衆院選で相当苦戦するでしょう。小熊氏と毎回接戦を演じているところに、県南の一部が入ることで玄葉光一郎氏の応援がプラスされる。今回の選定は、党本部が『菅家氏が選挙区で負けても、上杉氏が比例で当選すれば御の字』と考えた結果と捉えています」(同) そこまで言い切る理由は、両氏に対し、一方が小選挙区、もう一方が比例単独で立候補し、次の選挙では立場を入れ替えるコスタリカ方式を導入しなかったことにある。 「コスタリカを組むと、選挙区に回った候補者が負けた場合、比例に回った候補者は『オマエが一生懸命やらなかったから(選挙区の候補者が)負けた』と厳しく批判され、次に選挙区から出る際のマイナス材料になってしまう」(同) 上杉氏は次の衆院選で、菅家氏のために一生懸命汗をかくことになるが、その結果、菅家氏が負けてもコスタリカを組んでいないので批判の矛先は向きにくい。一方、汗をかいた見返りに、これまで未開の地だった会津に立ち入ることができる。すなわちそれは、次の衆院選を菅家氏のために戦いながら、次の次の衆院選を見据えた自分の戦いにつながることを意味する。 「もし菅家氏が負ければ、既に2回比例復活当選しているので支部長には就けないから、次の次は上杉氏の出番になる。上杉氏はその時を見越して(比例当選で)バッジをつけながら選挙区で勝つための準備を進めればいい、と」(同) もちろん、このシナリオは菅家氏が負けることが前提になっており、もし菅家氏が勝てば、今度は上杉氏が比例東北で2回連続優遇とはいかないだろうから、途端に行き場を失う恐れがある。前出・森山選対委員長は上杉氏に「次の次は支部長」と密かに約束したとの話も漏れ伝わっているが、これだってカラ手形に終わる可能性がある。 いずれにしても「選挙はやってみなければ分からない」ので、今回の選定が両氏にとって吉と出るか凶と出るかは判然としない。 党本部のやり方に拗ねる馬場氏 馬場雄基氏  馬場雄基氏(30)=1期、比例東北=が3月15日に行ったツイッターへの投稿が波紋を生んでいる。 《質問終え、新聞見て、目を疑いました。事実確認のために、常任幹事会の議事録見て、本当と知ってショックが大きすぎます。県連常任幹事会で話したことは正しく伝わっているのでしょうか。本人の知らないところで、こうやって決まっていくのですね。気持ちの整理がつきません》 https://twitter.com/yuki_8ba/status/1635848039670882309  真に言いたいことは分からないが、立憲民主党本部が行った「何らかの決定」にショックを受け、不満を露わにしている様子は伝わってくる。 投稿にある「新聞」とは、3月15日付の地元紙を指す。そこには党本部が、次期衆院選の公認候補予定者となる支部長について、新1区は金子恵美氏、新3区は小熊慎司氏を選任したという記事が載っていた。 実は、馬場氏も冒頭の投稿に福島民友の記事写真を掲載したが、同記事には馬場氏に関する記載がなかったため、尚更「何にショックを受けたのか」と憶測を呼んだのだ。 党県連幹事長の髙橋秀樹県議に思い当たることがあるか尋ねると、次のように話した。 「私も支持者から『あの投稿はどういう意味?』と聞かれたが、彼の言わんとすることは分かりません。県連で話したことが党本部に正しく伝わっていないと不満をのぞかせている印象だが、県連の方針は党本部にきちんと伝えてあります」 馬場氏をめぐる県連の方針とは、元外相玄葉光一郎氏(58)=10期、旧3区=とのコスタリカだ。 衆院区割り改定を受け、玄葉氏は新2区から立候補する考えを示したが、旧2区で活動する馬場氏も玄葉氏に配慮し明言は避けつつも、新2区からの立候補に意欲をにじませていた。これを受け県連は2月27日、両氏を対象にコスタリカ方式を導入することを党本部に上申した。 この時の馬場氏と玄葉氏のコメントが読売新聞県版の電子版(3月1日付)に載っている。 《記者会見で、馬場氏はコスタリカ方式の要請について、「現職同士が重なる苦しい状況を打開し、党本部の決定を促すためだ」と強調。「その部分が決定してから様々なことが決まる」と述べた。玄葉氏は「活動基盤を新2区にしていく。私にとっては大きな試練だ」とし、「比例に回った方が優遇される環境が前提だが、私の場合、小選挙区で出る前提で準備を進める」とも述べた》 馬場氏は玄葉氏とのコスタリカを認めるよう党本部に強く迫り、それが決まらないうちは他の部分は決まらないと強調したのだ。 ただ党本部は、コスタリカで比例区に転出する候補者(馬場氏)は名簿上位で優遇する必要があり、他県と調整しなければならないため、3月10日に大串博志選対委員長が「統一地方選前の決定はあり得ない」との見解を示していた。 そして4日後の同14日、党本部は前述の通り金子氏を新1区、小熊氏を新3区の支部長とし、新2区については判断を持ち越したため、馬場氏はショックのあまりツイッターに思いを吐露したとみられる。 進退にも関わることなので馬場氏の気持ちは分からなくもないが、前出・高橋県議は至って冷静だ。 「もしコスタリカを導入すれば立憲民主党にとっては初の試みで、比例名簿の上位登載は他県の候補者との兼ね合いもあるため、簡単に『やる』とは発表できない。調整に時間がかかるという党本部の説明は理解できます」(高橋県議) 要するに今回の出来事は、多方面と調整しなければ結論を出せない党本部の苦労を理解せずに、馬場氏が拗ねてツイッターに投稿した、ということらしい。 馬場事務所に投稿の真意を尋ねると、馬場氏本人から次のようなコメントが返ってきた。 「多くの方々に支えられて議員として活動させていただいていることに誇りと責任を持って行動していきます。難しい状況だからこそ、より応援の輪を広げていけるよう精進して参ります」 ここからも真意は読み取れない。 前述の上杉・菅家両氏といい、馬場氏といい、衆院区割り改定に翻弄される人たちは心身が休まることがないということだろう。 健康不安の吉野氏に引退を求める声 吉野正芳氏  選定が難航する区もあれば、すんなり決まった区もある。そのうちの一つ、自民党の新4区支部長には昨年12月、現職の吉野正芳氏(74)=8期、旧5区=が選任された。 選挙の実績で言えば、支部長選任は順当。ただ周知の通り、吉野氏は健康問題を抱え、このまま議員を続けても満足な政治活動は難しいという見方が大勢を占めている。 復興大臣を2018年に退任後、脳梗塞を発症。療養を経て現場復帰したが、身体に不自由を来し、移動は車椅子に頼っているほか、喋りもスムーズではない状態にある。 「正直、会話にはならない。吉野先生から返ってくる言葉も、こもった話し方で『〇くん、ありがとね』という具合ですから」(ある議員) 要するに今の吉野氏は、国会・委員会での質問や聴衆を前にした演説など、衆院議員として当たり前の仕事ができずにいるのだ。3月21日に開かれた党県連の定期大会さえも欠席(秘書が代理出席)している。 ここで難しいのは、政治家の出処進退は自分で決めるということだ。周りがいくら「辞めるべき」と思っても、本人が「やる」と言えば認めざるを得ない。 ただ、吉野氏の場合は前回(2021年10月)の衆院選も同様の健康状態で挑み、この時は周囲も「あと1期やったら流石に引退だろう」と割り切って支援した経緯があった。ところが今回、新4区支部長に選任され、本人も事務所も「まだまだやれる」とふれ回っているため、地元では「いい加減にしてほしい」と思いつつ、首に鈴をつける人がいない状況なのだ。 写真は3月21日の党県連定期大会を欠席した吉野氏が会場に宛てた祝電  「吉野氏の後釜を狙う坂本竜太郎県議は内心、『まだやるつもりか』と不満に思っているだろうが、ここで波風を立てれば自分に出番が回ってこないことを恐れ、ひたすら沈黙を貫いています」(ある選挙通) 旧5区、そして新たに移行する新4区は強力な野党候補が不在の状態が続いている。それが、満足な政治活動ができない吉野氏でも容易に当選できてしまう要因になっている。ただ、いつまでも当選できるからといって「議員であり続けること」に固執するのは有権者に失礼だ。 それでなくても新4区は原発被災地が広がるエリアで、復興の途上にある。元復興大臣という肩書きを笠に着て、行動力に期待が持てない議員に課題山積の新4区を任せるのは違和感がある。 あわせて読みたい 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き

  • 【鏡石町】政治倫理審査後も続く議会の騒動

    込山靖子議員が渡辺定己元議員から不適切な言動を受けたと訴え、政治倫理審査会(政倫審)を設置して審査が行われた問題は、昨年12月に政倫審が報告書をまとめたことで、一応の決着を見たと思われていた。ところが、3月上旬、渡辺元議員が反論文を関係各所に送付したことで、新たな問題が生まれようとしている。 「不適切」認定された元議員が反論 込山靖子議員 渡辺定己元議員  込山議員は昨年8月19日付で古川文雄議長に政治倫理審査請求書を提出した。同請求書は込山議員を含む7人の議員の連名で、渡辺議員から受けた16項目に及ぶ不適切な言動が綴られている。 それから4日後の同23日付で渡辺議員は古川議長に辞職願を提出し、受理された。辞職理由は「健康上の問題」だった。 この経過だけを見ると、政倫審請求を受け、渡辺議員が逃げ出したように映る。実際、そう捉えている関係者もいるが、その前に渡辺議員は入院しており、「このままでは迷惑をかける」、「治療に専念したい」といった考えから辞職したようだ。 これを受け、町議会事務局は県町村議会議長会に対して「政倫審請求書提出後に辞職した議員について、審査することは可能か」等々の問い合わせをしていた。このため、その後の動きに時間を要したが、県町村議会議長会の顧問弁護士から「今回のケースでは辞職した渡辺元議員の審査を行うことが可能である」旨の回答があったという。 ある議員はこう解説する。 「条例文の解釈では、要件を満たした状況で、議長に政倫審請求書を提出し、それが受理された段階で『政倫審は立ち上がっている』ということになる。つまり、昨年8月19日に政倫審請求書を提出した時点で、政倫審は発足している、と。その4日後に渡辺議員が辞職したが、町議会事務局が県町村議会議長会の顧問弁護士に確認したところでは、『審査を行うことは可能で、渡辺元議員への招致要請もできる。ただし、強制はできない』とのことでした」 不適切行為を一部認定  こうした確認を経て、昨年10月、政倫審委員として、畑幸一議員(副議長)、大河原正雄議員、角田真美議員の議員3人と、門脇真弁護士(郡山さくら通り法律事務所)、佐藤玲子氏(町人権擁護委員)、村越栄子氏(町民生児童委員)の民間人3人の計6人が選任された。委員長には門脇弁護士が就いた。 政倫審は昨年11月14日、29日、12月20日と計3回開催され、3回目で報告書をまとめて古川議長に提出した。それによると、審査対象は「渡辺元議員の込山議員に対する行為がセクシャルハラスメント行為、パワーハラスメント行為、議会基本条例第7条第1号(町民の代表として、その品位または名誉を損なう行為を禁止し、その職務に関し不正の疑惑を持たれるおそれのある行為をしないこと)に違反するか否か」である。 審査結果は次の通り。   ×  ×  ×  × 本件審査請求の対象とされる行為のうち、委員会の会議中に、審査対象議員(渡辺元議員)が審査請求代表者(込山議員)に依頼して、審査対象議員の足に湿布を貼ってもらった行為は、審査会の調査によって認定することができる。そして、特段やむを得ない事情も認められない本件当時の状況を踏まえると、当該行為は、議案等の審査等を責務とする委員会活動中における町民の代表者としてふさわしい行為とは言えず、町民の代表者としての品位を損なう行為であり、条例第7条第1号に違反するとの結論に至った。 なお、本件審査請求の対象とされる行為のうち、審査対象議員個人の行為とはいえない行為及び当事者間の金銭請求の当否を求めることにほかならない行為については審査不適との結論に至った。 また、その他の行為については審査会の調査によっても真偽不明であり、その存否について判断できないとの結論に至った。   ×  ×  ×  × この結果を受け、当時の本誌取材に込山議員は次のように述べた。 「(政倫審の報告書は)形式的なものでしかなかったが、一応『不適切』と認められた部分もありますし、町民の中には『もっとやるべきことがあるのではないか』といった声もあるので、私としてはこれで良しとするしかないと思っています。ほかの議員からは(もっと厳しく審査・追及すべきという意味で)『納得できない』といった意見も出ました。そうした発言で救われた部分もある」 要は「納得したわけではないが、これで矛を収めるしかない」との見解だったのである。 これで一応の決着を見たと思われたが、3月上旬、渡辺元議員が「当事者として今・真実を語る!!」と題した反論文を関係各所に送付した。 本誌も渡辺元議員を取材してそれを受け取り、話を聞いた。一方で、込山議員からも政倫審請求書を提出した直後や、政倫審の結果が出た後に話を聞いているが、双方の主張は180度異なっている。 すなわち、込山議員は「選挙期間中、あるいは当選後の議員活動の中で、渡辺議員からこんなことを言われた」、「こんなことをされた」と訴え、それに対し、渡辺元議員は「それは違う。実際はこうだった」と主張しているのだ。 ほとんどが2人のときの出来事で、客観的な判断材料があるわけではない。そのため、どこまで行っても、水掛け論になってしまう。 実際、先に紹介した政倫審の報告書でも、大部分は「真偽不明で、その存否について判断できない」とされている。唯一、認定されたのは、委員会の会議中に、渡辺議員(当時)が込山議員を呼びつけ、足に湿布を貼らせたという行為。これはほかの議員も見ていた場でのことのため、関係者に確認し「間違いなくそういうことがあった」と認定され、「町民の代表としての品位、名誉を損なう行為」とされたのだ。 政倫審後に反論の理由  一方で、政倫審は渡辺元議員に説明、資料提出、政倫審への出席を求めたが、渡辺元議員はいずれの対応もしなかった。にもかかわらず、ここに来て、反論文を関係各所に送付したのはなぜか。渡辺元議員は次のように説明した。 「今回の件は、(議会内の対立構造の中で)私を貶めようというのが根底にあったのです。だから、相手にするつもりもなかったし、『人の噂も75日』というから黙っていました。ただ、『謝罪しろ』とか、あまりにも騒ぎ立てるので、黙っていられなくなった」 政倫審の結果が出た後、議会内では「不適切と認められた部分について、公開の場(議場)で、渡辺元議員に謝罪を求めるべき」との意見が出た。渡辺元議員の「『謝罪しろ』と騒ぎ立てるので黙っていられなくなった」とのコメントはそのことを指している。なお、3月議会最終日の3月17日、議員から「鏡石町議会として元鏡石町議会議員・渡辺定己氏に公開の議場での謝罪を求める決議(案)」が出されたが、否決された。 一方で、「不適切」と認定された湿布を貼らせた行為については、渡辺元議員はこう説明した。 「私が医師から受けた診断は狭窄症で、時折、極度の神経痛が襲う。あの時(委員会中に込山議員に湿布を貼らせた時)は本当に辛かった。一部は自分で湿布を貼ったが、それ以上は自分でできず、うずくまっていたところに、ちょうど込山議員が目に入り、貼ってくれ、と頼んだ」 「その点については反省し、謝罪もした」という渡辺元議員。ただ、込山議員は「謝罪は受けていない。委員会という執行部やほかの議員が見ている場で、込山議員はオレ(渡辺元議員)の子分だということを示したかったからとしか思えない」と語っていた。 いずれにしても、このことが政倫審で「町民の代表としての品位、名誉を損なう行為」と認められたことだけは事実として残っている。 込山議員は、現職議員の死去に伴い、昨年5月の町長選と同時日程で行われた町議補選(欠員2)に立候補し初当選した。補選に当たり、込山議員に「議員をやってみないか」と打診し、選挙活動の指南・手伝いをしたのが渡辺元議員だった。そういう関係性からスタートして、今回のような事態になった。この補選を巡り、渡辺元議員は「選挙費用を立て替えた。その分を返還してほしい」、込山議員は「私の知らないところで勝手にいろいろされた」といったトラブルも発生している。 込山議員は「最初は(渡辺元議員を)尊敬できる人だと思って、いろいろ勉強させてもらおうと思ったが、実際は全然違った」と言い、渡辺元議員は「(込山議員を)自分の後継者になってもらいたいと思い、目をかけたが裏切られた思いだ」と明かす。 出口の見えない抗争はさらに続くのか。 あわせて読みたい 【鏡石町議会】不適切言動の責任を問われる渡辺定己元議員

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 現職退任で混沌とする猪苗代町長選

     任期満了に伴う猪苗代町長選は6月13日告示、同18日投開票の日程で行われる。現職・前後公氏は今期限りでの退任を表明しており、次の舵取り役が誰になるのかが注目されている。(※記事は3月27日時点での情勢をまとめたもの) 前後氏の後継者と佐瀬氏の一騎打ちか 前後公町長  猪苗代町議会3月定例会の最終日(3月20日)。閉会のあいさつに立った前後公町長は、同議会に上程した議案が議決されたことへの感謝を述べた後、「私事ですが」として、こう話した。 「6月に行われる町長選には立候補しない。3期12年、東日本大震災・原発事故があった中、年間100万人が訪れる道の駅猪苗代がオープンし、認定こども園2カ所も開所することができた。中学校統合の道筋もできた。後進に道を譲りたい」 前後氏は1941年生まれ。日本大学東北工業高(現・日大東北高)卒。1961年に町職員となり、生涯学習課長などを務めた。2011年の町長選で初当選し、3期目。 現在81歳で、県内市町村長では最年長になる。年齢的な面で、以前から関係者の間では「今期までだろう」と言われており、その見立て通りの退任表明だった。 「就任して少し経ったころは、疲れているのかなと思うこともあったが、町長の職務に慣れてきてからは就任前より元気なのではないかと思うくらい、気力が充実していたように感じます。酒席などに出ても長居することは少なく、健康面にはかなり気を使っていました。実際、この間、大きな病気をしたことはない。ただ、いまは元気でも任期中に何かあったら迷惑がかかるという思いはずっとあったようです」(ある支持者) 近隣の関係者はこう評価する。 「よく『開かれた町政』ということを掲げる人がいますが、前後町長は任期中、一度も町長室の扉を閉めたことがなく、文字通り『開かれた』町政だった。そうして町民と気軽に接することができるようにしたのは立派だったと思います。もっとも、本当に気軽に町長室に入っていく町民はあまりいなかったでしょうけどね。それに対して、ある首長は部屋(市町村長室)の鍵をかけておくんですから、えらい違いですよ」 この間、本誌記者も幾度となく前後町長と面会したが、確かに町長室の扉が閉められた(閉まっていた)のは見たことがない。前後町長はよく「誰かに聞かれて困るようなことは何もない」、「(扉を閉めて)密室で何をしているのかと思われるよりはよっぽどいい」、「誰でも入ってきて要望等、言いたいことを言ってくれたらいい」と言っていた。 さて、前後町長退任後の町長選だが、同町議員の佐瀬真氏が3月定例会初日の3月7日に、渡辺真一郎議長に辞職願を提出し、本会議で許可された。同時に町長選への立候補を表明した。なお、議員辞職は会期中であれば議会の許可が必要になり、閉会中だと議長の権限で辞職の可否を決めることができる。 佐瀬氏は1953年生まれ。会津高卒。2012年2月の町議選で初当選。2015年6月の町長選に立候補し、前後氏に敗れた。その後、2016年2月の町議選で返り咲きを果たした。2019年6月の町長選にも立候補し、前後氏と再戦。最初のダブルスコアでの落選から、だいぶ票差を詰めたが当選には届かなかった。2020年の町議選で三度返り咲きを果たしたが、前述したようにすでに辞職して町長選に向けた準備に入っている。 ある町民はこう話す。 「最初の町長選(2015年)は、佐瀬氏本人も『予行演習』と言っていたくらいで、2期目を目指す現職の前後氏に勝てるとは思っていなかったようです。ただ、2回目(2019年)は本気で取りに行くと意気込んでいた。結果は、1回目よりは善戦したものの、現職の前後氏に連敗となりました。その後は地元を離れて仕事をしているという情報もあったが、翌年(2020年)の町議選で復帰したことで、次の町長選も出るつもりだろうと言われていました。ですから、佐瀬氏の立候補表明は予想通りでした」 前後町長の後継者は誰に  一方で、別の町民は次のように語った。 「佐瀬氏は過去2回、町長選に出ていますが、いずれもその翌年の町議選で議員に復帰しています。『町長選がダメでも、また議員に戻ればいい』とでも考えているのではないかと疑ってしまう。少なくとも、私からしたらそういう感じがミエミエで、町民の中にも『どれだけ本気なのか』、『そんな中途半端では応援する気になれない』という人は少なくないと思いますよ」 確かに、同様の声を町内で何度か耳にした。町長選の8カ月後に町議選がある並びというも良くない。ちなみに、2020年の町議選は無投票で、町によると、記録が残る1964年以降で初めてのことだったという。労せずして議員に返り咲いたことになる。 3月27日時点で、佐瀬氏のほかに立候補の意思を明らかにしている人物はいないが、前後氏の後継者が立候補することが確実視される。 前後氏の後援会関係者は次のように話す。 「前後町長は後援会役員に、『今期で引退する。後継者は私が責任を持って決める。私が決めた人で納得してもらえるなら、応援してほしい』と宣言しました」 そんな中で、名前が挙がるのが元町議の神田功氏(70)。過去にも町長選の候補者に名前が挙がったことがあった。 「その時は家族の理解が得られなかったようだ。それと関係しているかどうかは分からないが、直前で息子さんが亡くなり、町長選どころではなくなった」(ある町民) 神田氏は2008年の町議選を最後に議員を引退した。現在は、家業である民宿を経営している。 「もともとは前後町長の対立側にいた人物で、もし、神田氏が前後町長の後継者に指名されたら、後援会関係者の中には、『神田氏では納得できない』という人も出てくるかもしれない」(前後氏の支持者) いずれにしても、前後町長の後継者と佐瀬氏の一騎打ちになる公算が高く、有権者がどのような判断を下すのかが注目される。 あわせて読みたい 続・現職退任で混沌とする猪苗代町長選

  • 【伊達市議会】物議を醸す【佐藤栄治】議員の言動

     伊達市議会の佐藤栄治市議(60、2期)が昨年12月の定例会議(同市議会は2021年5月から通年議会制を導入)で一般質問した際、執行部が不適切発言であることを指摘するシーンがあった。佐藤市議は以前から一般質問で非常識な言動を繰り返しており、「この機会に徹底的に責任追及すべき」との声も聞かれる。 執行部の〝不適切発言〟指摘に本人反論 建設中のバイオマス発電所  昨年12月の市議会定例会議の一般質問。動画が同市議会のホームページで公開されているが、12月5日に行われた佐藤栄治市議の分だけ「調整中」となっている。市議会事務局によると「固有名詞を出している個所があり、確認を進めている。まだ公表できる段階ではない」という。 事前に提出していた通告によると、佐藤市議は①厚労省勧告に基づく伊達市救急指定病院の再編について、②梁川バイオマス発電事業者の原材料運搬方法等について――の2点について質問した。佐藤市議や傍聴者によると、物議を醸したのは②の質問だった。 同市梁川町の工業団地・梁川テクノパークでは、バイオマス発電所の建設が計画されている。事業者はログ(群馬県、金田彰社長)。資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2022年7月期の売上高20億0800万円、当期純利益3億2514万円。 同発電所をめぐっては、▽木材だけでなく建築廃材や廃プラスチックも焼却される、▽バイオマス事業のガイドラインを無視し、住民への十分な説明がない、▽ダイオキシンの発生などが懸念される――等々の理由から、梁川町を中心に反対の声があがっている。住民などによる「梁川地域市民のくらしと命を守る会」が組織されており、本誌では2021年6月号「バイオマス計画で揺れる伊達市梁川町」をはじめ、たびたび報じてきた経緯がある。 予定地にはすでに発電所の大きな建物が建てられており、今年秋には試運転が始まる予定だ。 佐藤市議が着目したのは、そんなバイオマス発電所の建設に伴い、重さ20㌧超のトレーラーが1日何台も市道を通る点だった。 道路法では道路を通行する車両の重さの最高限度(一般的制限値)を20㌧と定めており、それ以上の重さの「特殊車両」は道路管理者の道路使用許可を取る必要がある。 一般質問ではそのことを説明した上で、「ログ社の車は20㌧以上が多いようだ。国見町では補修中の徳江大橋の通行を20㌧以下に制限し、ふくしま市町村支援機構もそのように指導する流れとなっている。伊達市側の市道も許可なしで通行させるべきではないのではないか」と指摘した。 「国見町は国見町。伊達市は伊達市の方針で進める」といった趣旨の答弁に終始する執行部に対し、「間もなく市町村支援機構が正式に方針を示し、国見町も従うだろう」と佐藤市議が返した。そうしたところ、執行部が反問権を行使し、「公式かつ確定した話でもないのに、議会で紹介するのか。不適切発言ではないか」と答弁したという。 後日、執行部から市議会に、正確な情報に基づく議会運営を求める申し入れがあったという。当の佐藤氏はワクチン接種に伴う体調不良を理由に12月定例会議の最終日を欠席し、採決に加わらなかった。 市議会では以前から佐藤氏の行き過ぎた発言が問題視されており、一部市議の間では「今回の件はさすがに看過できない。議会として明確に意思表示し、何らかの形で責任を問う必要があるのではないか」という声が強まっているようだ。 伊達市議会では議員政治倫理条例が2016年9月に施行されている。同条例では《市民を代表する機関の一員として、高い倫理観と良識を持ち、議会の権威と品位を重んじるとともに、その秩序を保持し、議員に対する市民の揺るぎない信頼を得なければならない》としており、《市民全体の代表者として、名誉と品位を損なうような一切の行為を慎み、その職務に関して不正の疑惑を持たれる恐れのある行為をしないこと》と定めている。 2019年9月には、同年6月定例会の全員協議会で半沢隆市議が同僚議員に侮辱的発言をしたとして、政治倫理審査会が開催され、当該発言の謝罪と撤回を行っている。 市議会事務局に問い合わせたところ、事務局長は政倫審の手続きが進められているかどうかも含めて、コメントを控え、「現在議会内で対応を検討しているが、公表する段階ではない」と話した。複数の市議に問い合わせても口をつぐんだが、議会での過去の発言を検証しているのは間違いないようなので、近いうちに何らかの発表がありそうだ。 過去にも危うい言動 佐藤栄治伊達市議  「市民にはあまり知られていないが、佐藤市議の危うい言動は今に始まったことではない」と語るのは市内の事情通。 「伊達市議の名刺を示し、まるで市の代表者のような雰囲気で、国や県の出先機関、近隣市町村の役場、企業、団体などに顔を出す。複数の知り合いから『先日、佐藤市議が突然うちの事務所に来た。何なんですかあの人は』と戸惑う声を聞いている。建設業者を引き連れて市役所に行ったり、自分の見立てを国や県の考えのように話すなど、かなり危うい言動もみられる。実際に一般質問で思い込みの発言をしてしまい、議事録から関連発言が削除されることもありました」(同) 例えば2020年3月定例会の一般質問。入札参加資格建設業者の実態調査の問題点を指摘した際、佐藤市議はこのように話している。 《結論から申し上げますと、県からはまだ言わないようにと言われているのですけれども、間もなく伊達市の、具体的に言うと財務部の契約検査室、ここに県の立入調査が入ります。容疑と言ったらおかしいけれども、容疑は建設業法違反の入札を認めていたということで、立入調査に何人かで来るというふうに県からは聞いております》 市財政課契約検察係(※当時から部署名が変更した)に確認したところ、その後、県の立ち入り調査が行われた事実はなかったという。 議会のホームページで公開されている2021年度の政務活動費収支では、年間36万円が支給され、29万6653円を支出したことが記されている。2021年11月には「伊達市の企業誘致についての懇談」という目的で経済産業省に行っている(旅費2万1117円)。 報告書には活動の内容及び成果として「経産省の企業立地補助及び産業政策のアドバイス及び個別企業等へのコンタクトのアドバイス」と書かれていたが、「一人で経産省に行って懇談して、どう企業誘致につながるのか」といぶかしむ声も聞かれる。何ともうさん臭さが拭えないのだ。 佐藤氏は1962(昭和37)年生まれ。保原高、福島大経済学部卒。実家は建設関連業の三共商事。本人の話によると、第一勧業銀行に入行後、顧客のつながりで政治家とのパイプが生まれ、元衆院議員・元岡山市長の萩原誠司氏の秘書を務めた。髙橋一由・伊達市議が同市長選に立候補した際には陣営の事務局長を務めている。昨年4月の市議選(定数22)では、629票を獲得し、22位で再選を果たした。 本誌では2019年7月号「伊達市の新人議員2氏に経歴詐称疑惑」という記事で佐藤氏についてリポートした。①同市保原町大柳に自宅があるが、実際は同市南堀(旧伊達町)の妻の実家で生活している、②保原高卒なのに周囲に福島高卒と話している――という点で疑惑が浮上していることを報じたもの。 本誌取材に対し、佐藤氏は「旧伊達町の妻の実家には夕飯を食べに行っているだけで、夜は保原町の自宅で寝泊まりしている。住民票も保原町に置いている。出身高校は保原高校で、福島高校卒業なんて言った覚えはない。私は福島大学卒業なので、それと勘違いして第三者が勝手に(福島高校卒業と)思い込んでいるだけではないか」と主張した。  12月の定例会議のやり取りが物議を醸している件について、本人はどう受け止めているのか。保原町の自宅にいた佐藤市議に話を聞いた。   ×  ×  ×  × ――12月の定例会議が物議を醸している。 「『梁川地域市民のくらしと命を守る会』から相談され、調べているうちに、道路法の観点が抜け落ちたまま工事が進められていることに気付いた。『守る会』のメンバーとともに国見町に足を運び、徳江大橋の件も確認した。一般質問3日後の12月8日には国見町が徳江大橋の特殊車両通行禁止を発表した。間違いではなかったことになる。道路法では、『2つの自治体にまたがる道路の場合は協議して対応を決める』と定められているが、市はどう対応するつもりなのか」 ――市議の中では不適切発言の責任を問う声もあるようだが。 「倫理問題調査会が立ち上げられ、調査に協力したが、自分の発言は正当性があると考えている。そもそも同調査会は法的には何の権限もないはず。道路法をめぐる問題は引き続き議会で追及していきたい」 ――一般質問で固有名詞を出し、公式発言ではない発言を紹介することも多い。そうした発言が不適切と受け止められるのではないか。実際、議事録から削除されている個所も多く見かけた。 「裏取りに行って具体的な話を聞いたので議場で紹介しているだけのこと。過去の経歴の中で、霞が関や県庁、経済人などに同級生・友人がいる。調査している件や疑問点があれば、具体的な話を聞きに行く」   ×  ×  ×  × 今回の不適切発言だけでなく過去の質問も問題視されているのに、「そんなの関係ねえ」と言わんばかりの態度なのだ。こうした振る舞いを看過すれば、議会全体が信頼を失いかねないが、議会は追及できるか。 経済人やマスコミ関係者などとのつながりがある〝情報通〟であり、一般質問では法律・条令に基づきさまざまな角度から執行部を鋭く批判する――佐藤市議に関してはこうした評価も耳にするが、一方で、議員らしからぬ〝きな臭いウワサ〟も囁かれている。地元住民や政治家経験者からは「自分のことしか考えていない。地元で応援している人は少ない」と辛辣な評判が聞かれた。もっとも、本人はそうした声すら気にせず、開き直って暴走するタイプに見える。 市議会をウオッチングしている市内の経済人は「徹底追及は難しいのではないか」と見る。 「一般質問での内容が事実と違った件は『自分は確かにそう聞いた』と主張されれば追及しようがない。かつて一緒に行動していたり、政策面で共闘しているなどの理由で、批判し切れない市議もいるだろう。一人の政治家を徹底追及するのは容易ではない。議長が注意して幕引きとする可能性もある」 2023年第1回定例会議は3月14日まで開催される予定で、大きな動きがあるのは会期終了後になりそう。果たして議会はどのような判断をするのか、そして佐藤市議はどう受け止めるのか。

  • 幻に終わった会津若松市長選「新人一本化」

    任期満了に伴う会津若松市長選は7月23日告示、同30日投開票で行われる。注目されたのは、他の立候補予定者より正式表明が遅れていた元女性県議の動向だった。 小熊氏の辞退要請を拒んだ水野氏 2月20日現在、市長選に立候補を表明しているのは現職で4選を目指す室井照平氏(67)と新人で市議の目黒章三郎氏(70)。ここに元県議の水野さち子氏(60)が加わり選挙戦は三つ巴になるとみられているが、室井氏と目黒氏が記者会見を開いて正式表明したのに対し、水野氏は立候補の意欲を示し続けるだけの状況が続いた。  そのため、選挙通の間では  「(市長選に)出る、出ると散々名前を売って結局出ず、その後に控える秋の県議選で返り咲きを狙っているのではないか」  と「本命は県議選」説が囁かれていたが、ある経済人は  「いや、本命は市長選で間違いないと思いますよ」  と言う。  「市内の有力者たちを回り、支援を要請している。『今の市政では市民が気の毒』『参院選でいただいた票を無駄にできない』『(選挙に必要な)お金は準備した』と話しているそうだから、有力者たちは『水野氏は本気だ』と受け止めている」(同)  水野氏は司会業やラジオパーソナリティーなどを経て2011年の県議選に立候補し初当選。2期途中で辞職し、2019年の参院選に野党統一候補として立候補したが、自民党の森雅子氏に敗れた。  落選したとはいえこの時、水野氏は34万5001票(当選した森氏は44万5547票)を獲得。それを受けて水野氏は「参院選の票を無駄にできない」と述べているわけだが、  「あれは野党が揃って支援し(当時参院議員の)増子輝彦氏が後押ししたから獲れた票数。それを自分が獲ったと勘違いしていたら(市長選に立候補しても)厳しい」(同)  水野氏の基礎票は2回の県議選で獲得した「7000票前後」と見るべきだが、それだって小熊慎司衆院議員の全面的なバックアップがあったことを忘れてはならない。  実は水野氏をめぐっては、その小熊氏が立候補を見送るよう水面下で打診していた。  事情通が解説する。  「室井氏は、自身の実績と強調する『スマートシティAiCT(アイクト)』がとにかく不評で、観光業と建設業の人たちからはソッポを向かれている。そもそも歴代の会津若松市長は最長3期までで、4期やった人は皆無。そのため室井氏の4選出馬を歓迎しない人は多いのです」  だから、室井氏の4選を阻止するには新人との一騎打ちに持ち込む必要があるのに、前出・目黒氏と水野氏が立候補したら現職の批判票が割れ、室井氏に有利に働いてしまう。  というわけで小熊氏は水野氏の説得を試みたが、2月18日付の福島民報によると、水野氏は立候補の意思を固め、同26日に正式表明するというから、小熊氏の辞退要請を聞き入れなかった模様。ただ、小熊氏は室井氏と個人的に親しいので、行動の目的が室井氏の4選阻止だったとは断言できない。  「市民の間には、高齢の目黒氏より女性の水野氏の方が新鮮という声が意外に多い。目黒氏が政策通で、市議会議長として議会改革を推し進めたことは間違いないが、前回も市長選に出ると言いながら結局出なかったため、ここに来て『今更出られても』という見方につながっているようです」(同)  新人の一本化は、水野氏が取りやめるのではなく、目黒氏が辞退することで実現する可能性もゼロではないようだ。

  • 【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま

     2000年代を中心に、国の意向で進められた「平成の大合併」。本誌では昨年12月号から、合併に参加しなかった市町村の個々の現状をリポートしている。4回目となる今回は、県内では稀有な人口が増えている自治体である西郷村のいまに迫る。 白河と合併した旧村民が羨む「恵まれた条件」  西郷村は西白河郡に属する。もともと同郡には、同村のほかに、表郷村、東村、泉崎村、中島村、矢吹町、大信村の計7町村があった。 「平成の大合併」議論が巻き起こった際は、2000年9月に同郡7町村と、同地域の中心自治体である白河市で、「西白河地方市町村合併研究会」を設立した。同研究会では「合併することが前提ではない」と前置きしたうえで、合併のメリット・デメリットなどの調査・研究が行われた。「平成の大合併」では、任意合併協議会→法定合併協議会→実際の合併といった流れだったが、同研究会は任意合併協議会に至る前の勉強会といった位置付けだった。 その後、白河青年会議所メンバーが中心となり、白河市・西白河郡8市町村での法定合併協議会設置に向けた署名活動が展開され、2002年1月、8市町村に直接請求が行われた。これを受け、それぞれの議会で、直接請求の法定合併協議会設置に関する議案が審議された。結果は、白河市、表郷村、大信村の3市村が可決、西郷村、東村、泉崎村、中島村、矢吹町の5町村が否決だった。 つまりは、後者5町村(議会)は合併に否定的だったということ。 その後も、調査・研究などは行われており、2003年10月、白河市長・助役(現副市長)が西白河郡の各町村を訪問して「任意合併協議会設置」を打診した。これに、前年に議会が法定合併協議会設置の直接請求を可決していた表郷村と大信村が賛同し、同年12月、3市村で任意合併協議会が設立された。翌2004年8月には東村からも参加意向が示され、同年9月に4市村で法定合併協議会が設置された。その後は4市村で合併協議が進められ、2005年11月に新・白河市が誕生した。 西郷村は、西白河地方の合併に誘われたものの、加わらずに「単独の道」を選んだわけ。 財政指標の推移  さて、ここからは過去3回のこのシリーズと同様、単独の道を歩むうえで最も重要になる財政面について見ていきたい。ちょうど、全国的に「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための指標が公表されるようになった。別表は同法に基づき公表されている各指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ラスパイレス指数をまとめたもの。比較対象として、一緒に合併の勉強をしていた白河市の財政指標を併記した。 西郷村の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度3・2917・2814・453・01・172008年度3・1115・0613・529・21・382009年度2・5619・2812・038・61・442010年度――――14・650・61・272011年度――――17・438・71・012012年度――――12・422・70・882013年度――――11・90・50・892014年度――――10・8――0・892015年度――――9・0――0・882016年度――――9・9――0・902017年度――――8・2――0・902018年度――――6・9――0・892019年度――――5・6――0・912020年度――――4・1――0・94※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 白河市の財政指標の推移実質赤字比率連結実質赤字比率実質公債費比率将来負担比率財政力指数2007年度8・4220・6723・6208・10・582008年度7・5119・5922・3186・80・612009年度6・7417・1319・9156・30・602010年度――――16・6136・80・582011年度――――14・6126・50・572012年度――――12・8115・60・552013年度――――11・188・50・572014年度――――9・873・40・582015年度――――9・359・70・602016年度――――9・758・80・602017年度――――10・557・80・602018年度――――10・963・00・612019年度――――11・470・10・632020年度――――10・453・00・64※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 西郷村の職員数とラスパイレス指数の推移年度職員数(臨時含む)ラスパイレス指数2010年139人99・42011年139人108・02012年141人108・62013年146人100・82014年150人100・62015年144人100・32016年146人100・22017年146人100・22018年140人100・42019年142人100・72020年145人100・1※県市町村財政課公表の「財政状況資料」を基に本誌作成 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  県市町村財政課による2020年度指標の総括によると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも差はない。 実質公債費比率は、全国市区町村平均が5・7%、県内平均が6・1%で、西郷村はそれを下回っている。推移を見ても、年々良化していることが分かる。 将来負担比率は、31市町村が発生しておらず、西郷村はその1つ。しかも、早い段階から「算出なし」となっている。そのほか、財政力指数も高い。 いずれの指標も、白河市と比べると「いい数字」が並んでいることが分かる。 ある村民は「合併しなかった最大の理由はそこにある」という。国が「平成の大合併」を推進したのは、財政基盤の強化と行政の効率化が大きな狙いだったが、同村はもともと財政基盤が強く、一時期は地方交付税の不交付団体だった。そのため、当初から「合併しなくてもやっていける」といった考えがあったというのである。 その背景にあるのは条件の良さだ。代表的なのが新幹線が停車する新白河駅があること。同村は「日本で唯一の新幹線の駅がある村」としても知られる。そのほか、東北自動車道白河ICがあるのも同村。いずれも「白河」の地名が付いているが、実際に立地しているのは同村なのだ(※新白河駅の一部は白河市)。 そうした施設・設備があることを背景に、交通の利便性が良く首都圏から近いこともあり、白河オリンパス、信越半導体、MGCエレクトロテクノなど優良企業の工場が稼働し、1000人規模の従業員が勤務している。さらにはイオン白河西郷店や場外馬券売り場・JRAウインズ新白河、ビジネスホテルなどもある。おおよそ「村」という行政区分には考えられないような充実度である。 「加えて、白河市などと比較すると地価が安いため、西郷村に移り住む子育て世代も多い。白河市まではすぐだし、働き口、学校、病院、買い物(食料品・日用品の調達先)などでも不便はないから、十分選択肢になり得る」(ある村民) この言葉に裏付けられるように、同村の人口は年々増えている(左頁表参照)。これは県内では稀有なことで、同村のほかではこのシリーズの2回目で取り上げた大玉村しかない。隣接する白河市が合併直後から約8000人減少していることから考えても、西郷村の状況の良さが分かる。周辺地区の「いいとこ取り」のような格好とも言える。 高橋村長に聞く 高橋廣志村長  高橋廣志村長に、「単独」を選択した当時の関係者の選択の是非や、財政状況・行政運営面、人口が増えていることなどについて、どう捉えているのかを聞いた。なお、高橋村長は2015年から村議を務め、2018年の村長選で初当選し、昨年の村長選では無投票で再選された。 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧白河市と西白河郡3村の合併がありました。その前段で、白河市と西白河郡7町村で「西白河地方市町村合併研究会」が立ち上げられ、合併についての調査・研究を行い、その後、白河青年会議所メンバーを中心に、西白河地方8市町村を対象とした法定合併協議会設置に関する直接請求がありました。これに対し、西郷村議会は「法定合併協議会設置案」を否決しましたが、当時の村長・議会をはじめ、関係者が「単独の道」を選択したことについて、いまあらためてどう感じていますか。 「平成14(2002)年第1回定例会において、住民発議による合併協議会設置の議案が上程され、議会審議の結果、否決となりました。当時の村長・議会及び諸先輩の方々が、合併に伴う西郷村のメリット、デメリットについて熟慮を重ねた結果として、合併協議会設置案が否決されたものと理解しています。 本村は、先人たちの英知とたゆまぬ努力により、立村以来一度の合併、分村もなく現在に至っている歴史があります。現在の西郷村は、県内でも数少ない人口が増加している自治体であり、財政力も他の町村と比較して上位に位置する財政基盤があります。現時点におきましては、先人たちが『単独の道』を選択したことについて良い選択であったと感じています」 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。別紙(別表)は県市町村財政課が公表している「財政状況資料」(財政指標、職員数とラス指数)から抜粋したものですが、それら数字についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。 「当村の財政指標の推移を見るに、高い財政力を維持しつつ、かつ健全な財政運営が続けられていると読み取れます。また、職員数については、従来、国、県が行っていた業務が権限移譲されておりますが、大幅な職員の増員は行わず、職員給与の指標であるラスパイレス指数についても、平均以上が維持されていると読み取れます。 今後の対応として、過去に誘致した製造業からの法人税、固定資産税に頼るだけではなく、再生可能エネルギーなどの他の産業からの税収確保に努めて『財政基盤強化』を図るとともに、現在の行政体系の見直し、職員の人材育成の強化、公共施設の統廃合、集約化により、『行政運営の効率化』を図っていきます」 ――別紙(別表)は人口の推移をまとめたものですが、西郷村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。 「様々な要因が考えられ、一概にこれというものを特定することは難しいですが、村内に東北新幹線新白河駅(1982年)と東北自動車道白河インターチェンジ(1973年)が整備されたことにより、都市圏からのアクセスの優位性が向上し、以降近隣市町村も含め、多くの企業や大型商業施設の進出により雇用の場が創出されました。 また、『恵まれた自然環境』『里山と田園風景が残る農村環境』『新白河駅周辺の都市的環境』といった特色ある3つの環境が共存した均衡がとれた村であり、様々なライフスタイルが実現できる村として注目されています。 人口が増加していることは、大変喜ばしいことではありますが、単に人口が増加するだけでは意味がなく、お住まいになられている皆様の満足度を向上させることが最も大切であると思っています。 西郷村は中学生以下のお子さんをお持ちの子育て世代の転入が多くみられ、生産年齢人口の割合が比較的大きいことから、子育て・教育支援、就業・雇用支援、移住定住支援を充実し安心して子育てができる環境を築くと共に、全ての方が生きがいを持って、いつまでも愛される、また外の方からは『ここはいい村だね』と自然に語られるような魅力のある村づくりに取り組んでいきたいと思います」 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。 「『単独』だからこそ、村でありながら2万人規模の人口を有しながらも、高い財政力を維持でき、他市町村と比較しても、標準又は標準以上の行政サービスを維持できていると思われます。 強みとしては、単独の小規模自治体であるが故、住民要望に対する予算化、実行に至るプロセスが短く、大規模自治体に比べ迅速に対応できる点が挙げられます」 人口増加について、「一概にこれというものを特定することは難しい」との回答だったが、やはり、新白河駅、白河ICが整備されたことに伴う、複数の企業立地や大型商業施設進出などを挙げた。前述したように財政状況が良いのはそれに基づく部分が多い。 「単独」の利点を生かせ  合併議論が本格化したころから、その後の大部分で村政を担ったのは佐藤正博氏だった。白河市職員、村収入役を経て2002年の村長選で初当選し、2018年まで4期16年間務めた。 佐藤氏の在職時、近隣自治体などで話を聞くと、多くの行政関係者が「あの村長は個性的だからね」と評した。象徴的なのは、原発事故を受け、会津・県南地方が「自主的避難区域」から外された際、両地方の首長・議長などが集まり、「分断を許さないためにも、両地方の関係者が連携していこう」といった趣旨の協議会設置のための集会が開かれた時のこと。その場に居合わせた首長・議長から「とりあえず、西郷村の佐藤村長が仮議長になって、進めればいいのでは」といった声が上がり、佐藤氏がタクトを振った。最終的に両地方の中心都市である会津若松市と白河市の両市長が代表者といった立場になったが、首長・議長が勢揃いする中で、その前段を佐藤氏が取り仕切ったのだ。それだけ、インパクトの強い人物だったと言える。 ただ、在職時に佐藤氏が何か目を引くような政策を打ち出したか、というと思い浮かばない。結局のところは、条件面で恵まれているから、すべてが上手く回っていたということではないか。 白河市と合併した旧村の住民からは「そりゃあ西郷村はいいよ。あらゆる面で恵まれているから。あれだけ条件が良かったら、ウチも合併しなかった」との声も聞かれたほど。 条件面に恵まれていることにあぐらをかかず、「単独」を選択したことで、小回りが利くからこそできる「新たな仕掛け」を生み出していってもらいたい。 あわせて読みたい 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【東白川郡編】合併しなかった福島県内自治体のいま 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 候補者乱立の北塩原村議選

     任期満了に伴う北塩原村議選が4月18日告示、23日投票の日程で行われる。それに先立ち、3月14日に村コミュニティーセンターで立候補予定者説明会が開かれた。定数10に対し、現職7人、元職2人、新人8人の17陣営が出席した。 「対立派包囲網」を敷く遠藤村長  同村議会については、前回(2019年4月)の改選直後から村民の間でこんなことが囁かれていた。 「2019年4月の村議選は、村として初めての無投票だった。それによって議員の質が落ちている。次回は絶対に無投票は避けなければならない」 実際、議会でのやり取りや議員の普段の振る舞いなどを見て、「やっぱり、村民の審判を受けていない議員はダメだ」との声を聞くことが多々あった。そのため、「次回は無投票にならないようにしてもらいたい」との意見が根強かったのである。 迎える今改選。3月14日に開かれた立候補予定者説明会には、定数10に対し、現職7人、元職2人、新人8人の計17陣営の関係者が出席した。立候補予定者(説明会出席者)は次の通り(敬称略)。 現職▽佐藤善博、伊関明子、五十嵐正典、小椋真、伊藤敏英、遠藤祐一、池田睦宏 元職▽遠藤春雄、五十嵐善清 新人▽黒原範雄、柏谷孝雄、渡部哲夫、北原安奈、角田弥生、佐藤弘喜、遠藤康幸、新井学 前回の無投票から一転、新人8人を含む17人が立候補を予定し、候補者乱立の様相を呈している。 ある村民はこう話す。 「前回が無投票でそれを良しとしない人が多かったこと、今回から選挙公営制度が採用されることの2つから、多くの候補者が出たのです」 選挙公営制度は、金のかからない選挙の推進や、候補者間の選挙運動機会の均等化を図るために採用されるもの。大まかなルールは公選法で規定され、詳細は各自治体の条例によって定める。同村では、選挙運動用自動車(いわゆる選挙カー)やポスター代などが公費で賄われる。 この2つの理由から、今回は多くの候補者が出てきたわけだが、前出の村民によると、「それは表向きの理由で、実際は遠藤和夫村長が声掛けをしたようだ」という。 「現状、遠藤村長を支える立場の議員は、伊藤敏英議員くらい。そのため、遠藤村長は自派議員を増やそうと、いろいろと声を掛けたようです。全ての新人がそうではないが、大部分は遠藤村長とその一派が立候補を促した。ただ、新人候補の中には、人となりや何をしたいのかなどがよく分からない人もいます。もちろん、無投票は良くないが、だからと言ってこういう訳の分からない人が大勢出るのもどうかと思ってしまいます」 議会対策に苦労する村長  遠藤村長は元村議で2020年8月の村長選で初当選し現在1期目。なお、菅家一郎衆院議員(4期、自民、比例東北)は義理の弟(菅家氏の姉が遠藤村長の妻)に当たる。遠藤氏の村長就任後、初めての村議選になる。 遠藤村長は昨年6月議会で、辞職勧告決議案を出され、賛成5、反対2、退席2の賛成多数で可決された。その背景には、介護保険の高額介護サービス費の支給先に誤りがあったこと、支給事務手続きが遅延したことがある。 ある関係者によると、「その問題について追及された遠藤村長が『自分の責任ではない』との発言をした」という。そんな経過もあり、議会で村長の責任を追及する動議が出され、最終的に辞職勧告決議に至った。 そのほか、同議会では一般会計補正予算案が賛成3、反対6の賛成少数で否決されたほか、今年2月の臨時議会でも一般会計補正予算案が否決された。 これは、ふるさと納税の返礼に関する補正予算で、議員から「県外の人からのふるさと納税の比率はどのくらいか」といった質問が出た。ところが、執行部から明確な回答がなかったため、「そんないい加減では議決できない」として否決されたのだという。 要するに、遠藤村長は議会対策に苦労しているのだ。 小椋議長の存在  ある関係者は「中でも、遠藤村長が気にしているのが小椋真議長の存在だろう」という。 小椋議長は現在6期目で、県町村議長会長を務める〝大物〟。議長会長を務める中で、国・県、他町村の関係者などとのつながりもでき、役場職員の中には何か困ったことがあると、小椋議長に相談に行く人もいるという。 そのほかでは、佐藤善博議員と池田睦宏議員が議会のたびに執行部に厳しい質問をぶつけており、遠藤村長から疎ましく思われている様子。特に、佐藤議員は元役場職員で知識もあるため、余計にそう思われているのだろう。 もっとも、議員が議会で追及するのは普通のことだが、一部村民(村長支持者)は「村長に嫌がらせをしている」と捉えているフシがあり、実際にそう吹聴することもある。 この2人は小椋議長の差し金(子分)と見ている村民は少なくない。佐藤議員と池田議員はともに1期目で、確かに、古参の小椋議長に教えを請うこともあるようだ。 「そういったこともあり、遠藤村長が小椋議長を良く思っていないのは明らか」(前出の関係者) つまりは、小椋議長、佐藤議員、池田議員の3人の得票を削るために、3人と同地区、あるいは同業関係者などを候補者に立てようとしている、ということだ。 「新人候補の中には、最初から当選する気はなく、小椋議長とその子分の票を削れればいいと考えている人もいる。小椋議長を落選させるのは無理でも、佐藤議員、池田議員を落選させ、小椋議長を孤立させればいい、という目論見もあるのかもしれない。何にせよ、そんな気持ちで立候補するのは有権者に失礼だし、その候補者のために(選挙公営制度で)公費が支出されるのはどうなのか」(前出の関係者) もっとも、「立候補予定者説明会に出席した17人がすべて出馬するとは限らず、直前で立候補を取りやめる人もいるかもしれない」との情報もあり、実際には少し変動があるかもしれない。 いずれにしても、村民からすると「よく分からない勢力争いをしている。そんなことより、村長も議会も村のためにしっかりと働いてもらいたい」との思いのようだ。 最後に。元職の五十嵐善清氏は4年前の村議選に立候補せず引退した。かつては「村長候補」と言われていた。喜多方市で不動産業を営んでおり、息子に会社の実務を任せようとしていたが、2016年の村長選直前に交通事故で亡くした。そのため、村長選を諦め、議員も辞めて、本業に注力することになった。それが今回の村議選で復帰を目指す意向で、「とりあえず、議員に復帰して議長などの役職を得た後、来年夏の村長選に出るつもりでは」との見方もある。 あわせて読みたい 来春に迫った北塩原村議選2つの注目ポイント (2022年12月号)

  • 楢葉町で3年連続職員不祥事

     楢葉町で3年連続となる職員不祥事が発生した。建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作して、自宅分の家賃納付約127万円分を免れていた。町では昨年9月、不祥事再発防止に向けた改善計画を策定したが、未だ体質を変えるまでには至っていないようだ。 不正操作をしていた建設課の男性主査  町によると、不正操作をしていたのは建設課の男性主査(29)。災害公営住宅など町営住宅の家賃徴収を担当しており、自らも災害公営住宅に住んでいた。 家賃の納付は振り込みや納付書による納付、生活保護による納付などに分かれているうえ、滞納、残高不足による支払い遅延なども頻繁に起こる。そのため、専用のシステムで情報を管理し、入金が確認された人の名前をチェックしている。他市町村でも使われているシステムだ。 この男性主査はそのシステムを悪用し、毎月自分のところにチェックを入れて、家賃を払っているように装い続けていた。未納付分は2020年11月から22年11月までの2年分、計127万6000円に上る。 家賃徴収には正担当と副担当がいて、滞納者のチェックなどは2人で行っていた。だが、実際の入出金は町全体の財務会計システムで管理されている。それを基に一人ひとりの納付金額まで照らし合わせていたわけではなかった。 男性主査は数年前に正担当になり、今年度から別の仕事を兼務しつつ、副担当として新たな正担当への業務引き継ぎ・サポートを行っていた。 昨年12月7日、新担当がチェックを進めるうえで不審に思い、翌8日、男性主査に直接確認したところ、自ら不正を認めた。町の調べに対し「別の支払いがあったため」と語っていたという。 正担当から外れたのに平然と未納を続けていたのは、「どうせばれないだろう」という自信があったのか。あるいは「いつばれるのか」と恐れていたのか。 町は昨年12月27日、男性主査を懲戒免職処分とし、建設課長など管理監督責任のある職員を減給や戒告処分とした。なお未納分の家賃はすでに全額納付済み。すぐに発表せず、20日近く経って発表となった理由は「いろいろ準備していたから」(総務課長)だという。 ある町内在住の女性は「何とか災害公営住宅の家賃を払っている世帯もある中で、自分だけ平然と未納を続けていたことが許せない」と憤る。 年配男性は「これで楢葉町では3年連続、4回目の職員不祥事が起きたことになる。いったいどうなっているのか」と嘆く。 2021年9月には、産業振興課職員が楢葉町土地改良区と楢葉町多面的機能広域活動保全会の通帳から約3800万円の公金を横領していたことが発覚した(本誌2021年10月号参照)。職員は懲戒免職処分となり、同年12月に告訴(土地改良区)・告発(町・土地改良区)された。町総務課によると、現在も捜査が続いているようだ。 昨年2月には、町と土地改良区が連名で、元職員への損害賠償を求める訴訟を提起。同年4月、土地改良区に4157万4648円(遅延損害金等含む)、町に30万1309円(同)の支払いを命じる判決が下された。元職員は口頭弁論期日に出頭せず、答弁書の請求原因に対する認否の記載もなかったため、請求原因事実について争う意思を示さず、自白したものとみなされた。ただ、「未だに弁済は行われていない」(町総務課長)という。 昨年2月には、建設課職員が複数の指名競争入札で、指名業者名や設計価格を指名業者に漏洩していたとして、公契約関係競売入札妨害及び官製談合防止法違反の容疑で逮捕、起訴された(本誌昨年3月号参照)。この元職員も懲戒免職処分となり、同年6月の刑事裁判で懲役2年執行猶予4年の有罪判決が下された。 昨年4月には、政策企画課職員が退庁後、国道6号を走行中に無免許運転で現行犯逮捕された。交通取り締まりの警察官に運転免許証を提示したところ、免許が失効していた。2~3月ごろに失効の事実に気付いていたにもかかわらず、公用車、私用車を平然と運転し続けていたというから呆れる。 もはや打つ手なし!?  町は相次ぐ不祥事を受け、職員不祥事の再発防止に関する第三者委員会を設置。同委員会の報告書をもとに、昨年9月、再発防止に向けた「職員・組織改善計画」を策定。「意識・制度・組織を変える」という方針を掲げ、全職員に内容を周知していた。 それからわずか3カ月後の不祥事。松本幸英町長はホームページ上に「またも町民の皆様の信頼を大きく失墜させる事態が発生したことに対しまして、深くお詫び申し上げます。あらためまして、この事実を重く受け止め、これ以上不祥事が起こらないように、一層の綱紀粛正の徹底を図ってまいるほか道はないと考えております」とコメントを掲載した。 松本幸英町長  猪狩充弘総務課長は「職員・組織改善計画でチェック体制などを強化したが、今回の家賃未納付はその前から始まっていた。そこまでチェックできなかった」と語る。改善計画を立ててもすぐ不祥事が起き、打つ手なしといったところだろう。 町内を駆け巡った「内部告発文書」  同町に関しては、本誌宛てに「通報書」と題した匿名投書が寄せられていた。消印は12月18日付。同町の不正行為が隠蔽されていることを明かす内容で、今回発覚した不祥事についても記されていた。 《楢葉町現職員の公金管理システム不当捜査による粉飾事案 令和3年から隠蔽 当時建設課で公営住宅の家賃管理を担当していた職員が、自ら入居していた住宅家賃を支払ったかのようにシステムを不正に操作し粉飾した不正行為について、いまだに隠蔽し続け、本日現在も公表していない》(「通報書」より引用) 前述した通り、この件を町が公表したのは昨年12月27日。文書の作成日は12月14日付となっており、本誌にはその数日後に郵便で届いた。他のマスコミや町議などにも送付され、町役場も確認しているようだ。 不正行為の情報をキャッチし、公表されていないことを不審に思った役場関係者が送付したのだろう。内部の人間が不祥事隠蔽を疑い、内部告発文書を外部に送付する事態にまでなっているということだ。 ちなみに同文書には「こども園で保護者からの預かり金を管理していた職員が横領していた事実を隠蔽。問題が公になる前に依願退職として処理した」とも書かれていた。ただ、猪狩総務課長に確認したところ、「確かに依願退職した職員はいるが、そもそも保護者からの預り金を管理する業務は存在しない。業界団体の会計処理を手伝うこともあったようだが、監査を受け適正に処理されている」と疑惑を明確に否定した。 同文書には「本通報は責任者(※編集部注・松本町長のこと)及び組織の本質が変わらない限り、他の違反行為等に関し継続する」と書かれており、今後も内部告発を続けることを示唆している。 専門家に聞く再発防止策  さて楢葉町に限らず、県内では自治体職員のカネをめぐる不祥事が相次いでいる。 本誌12月号では会津若松市職員が約1億7700万円を詐取していた事件についてリポートした。 1月14日には古殿町の40代男性職員が、事業を委託する2団体の口座から133万6745円を横領したとして、1月6日付で懲戒免職処分になったことが発表された。関係職員も減給処分となり、岡部光徳町長ら特別職3人の給与を3カ月間、10%減額する条例案が町議会臨時会で可決された。町は、人事院の懲戒処分の公表指針に基づく判断として、職員の所属や氏名を公表していない。 地元紙報道によると、団体の関係者からの相談で発覚。職員は団体を支援する業務で、通帳を管理する立場だった。上司もいたが、「ダブルチェックができていなかった」(木村穣副町長)。横領した金は全額弁済済みで、町は今後の対応を弁護士と相談している。 なぜここに来てこうした不祥事が目立つのか。民間企業で経理を務めた経験があり、自治体や企業の内部事情に詳しい神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏はこう語る。 「まず民間企業でも横領などは起きているが、大抵の場合、依願退職扱いにして、退職金を弁済に充てる形で内々に済ませる。自治体の場合、そうはいかないから目立ってしまう。コロナ禍以降は国や県からさまざまな補助金が入っており、膨大な件数の事務作業をこなさなければならないため、チェック体制も甘くなっている。そうした中で、『不正をやってもバレないのではないか』と考える人が出ているのでしょう」 原発被災地で関連の補助金を多く取り扱う楢葉町は、なおさらそう考えやすい環境なのかもしれない。 中村氏が「横領などが起こる背景を考えるうえで非常に参考になる」と語るのは、前出・会津若松市の公金詐取事件に関する記者会見資料(同市ホームページで公開中)だ。 「公金詐取していた職員は管理システムの盲点を悪用し、不正な操作を繰り返した。チェックする副担当には入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充て、ばれにくい体制を構築した。パソコン関連の仕事を詳しい人間に任せ、ろくにチェックもしていない自治体・民間企業の管理職は読んでゾッとするのではないか。同市もよくここまで内情を書いたと思います。かつて在籍していた民間企業の経理部門では『不正は10万円までに見つけろ』と言われていました。それ以上の金額になると感覚が麻痺して横領額が膨れ上がる。もう少し早く異変に気付けていれば、約1億7700万円も詐取されることはなかったでしょう」 このほか、市町村職員の高くない給与(借金・ローンの有無)、長時間労働を看過する職場環境も横領の遠因になると中村氏は指摘する。 肝心の再発防止策については、次のように話す。 「会津若松市の元職員は市の調査に『(不正が)できるからやった』、『不正はやる気になればできる』と話した。正直、経理の仕事はそう感じるときがあるが、それでもほとんどの人はルールを守ってやっている。チェック機能の強化はもちろんですが、最も重要なのは倫理教育でしょう。また、穏便に済ませるのではなく、『不正をやった場合どうなるか』もしっかり示し、抑止力が働くようにしなければなりません」 穏便に対応すればまた不祥事が発生する、と。 楢葉町においては第三者委員会による報告書を受け、改善を図っていた直後だけに、この言葉を重く受け止める必要があろう。 職員の意識改革はもちろん、議会、さらには住民が厳しい目で行政を監視し、再発防止を図っていくことが重要になる。 あわせて読みたい 【不祥事連続】楢葉町で行われていた「職員カンパ」

  • 現職退任で混沌とする玉川村長選

     任期満了に伴う玉川村長選は4月18日告示、同23日投開票の日程で行われる。現職・石森春男氏は昨年12月議会で今期限りでの引退を表明しており、村内では「石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を立てる可能性が高い」との見方がもっぱらだ。 石森派候補と反石森派候補の一騎打ちか  石森春男村長(71、4期)は昨年12月議会の一般質問への答弁で、今期限りでの引退を表明した。 退任を表明した石森氏  石森村長は「村政の課題を考えると、新たな視点で行政を推進することが大事であり、後進に道を譲りたい。後継者は考えていない」(福島民友昨年12月13日付)と述べた。 石森村長は1951年生まれ。同村出身。須賀川(現須賀川創英館)高卒。1971年に村役場職員となり、企画財政課長、農業委員会事務局長などを経て、2007年の村長選で初当選。4期のうち、選挙戦になったのは2015年のみで、それ以外はすべて無投票当選だった。 石森村長をめぐっては、こんな憶測も流れている。 「同村唯一の女性議員である林芳子議員に石森村長が暴言を吐いたという。内容は女性を軽視するようなものだったとか。そうした問題があり、今回、引退を表明したのではないか」(ある村民) 林議員はいわゆる反村長派議員で、議会のたびに石森村長(執行部)に厳しい質問をぶつけてきた。その林議員に石森村長が女性を軽視するような暴言を吐いたというのだ。 どういった状況で、どんな言葉を発したのかは分かっていないが、林議員と近い議員(反村長派議員)によると、「当人(林議員)から、そういったことがあったとは聞いている」という。内容・程度はともかく、そうしたことがあったのは間違いなさそう。もっとも、それが石森村長引退のきっかけになったかは不明。 村長選をめぐっては、1月23日時点で表立った動きはない。ただ、村内では「誰もが納得するような候補者が出てきたら別だが、石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を擁立する可能性が高い」との見方がもっぱらだ。つまりは、新人同士の一騎打ちになるのではないか、と。前述したように1月23日時点で表立った動きはないが、チラホラと名前は挙がっている。 「石森村長を支持していたグループ」で、名前が挙がっているのが小針竹千代議員と大和田宏議員の2人である。 「小針議員と大和田議員は奥さんの関係で、親戚筋に当たるため、双方の調整が必要になり、水面下でその辺の話し合いが行われているようだ。ともに60代半ばで、できたとしても2期だろう」(ある村民) 小針議員は2期目、大和田議員は4期目で、それぞれ最初の村議選ではトップ当選を果たしたが、その後は票を減らしている。前段で紹介した石森氏の答弁では「後継者は考えていない」とのことだったが、実質、このどちらかが後継者という扱いになりそう。 一方、対立グループの候補として名前が挙がるのが、2015年の村長選に立候補した小林正司氏。元須賀川市職員で現在71歳。2015年の村長選では、石森氏2558票、小林氏2037票で落選した(同年4月26日投開票、投票率82・98%)。実は、小林氏は前回(2019年)の村長選の際も名前が挙がり、本人もそのつもりだった。 「当時、反石森派の人たちが熱心に誘い、小林氏本人もその気になっていた。ところが、直前で反意し、立候補を取りやめた経緯がある。結果、前回は無投票になり、反石森派の落胆は大きかった。今回も、一応名前は挙がっているが、反石森派の人たちは『前回のことがあるから、われわれの方から小林氏に対して立候補してほしいとお願いすることはしない。本人から立候補するから応援してほしいと言って来ない限りは応援するつもりはない』と話していた。結局は本人次第ということだが、71歳という年齢を考えると、できても2期、下手すると1期しかできないかもしれない。それを踏まえると、可能性は低いと思う」(前出の村民) 有力視される女性議員  このほかで、対立グループの候補として名前が挙がっているのが前述した林議員。現在1期目だが、2020年の村議選では416票でトップ当選だった。 「女性ということもあり、票を取ることだけを考えたら、林議員はかなり有力だと思う。ただ、新村長になったとして、任期がスタートするのは4月末だから、石森村長の下で人事・予算などが決まった後に就任することになる。林議員は議会のたびに村長・執行部に厳しい質問をしており、石森村長のやり方を否定する部分が多かったことから、おそらく村長になったら、大幅な路線修正をすることになると思う。ただ、いま話した経緯から、役場職員、特に課長連中がちゃんと応えてくれるか、上手く使いこなせるかといった問題がある。下手すると、村長になったはいいけど、路線修正だけで1期目のほとんど費やしてしまった、なんてことにもなりかねない。そもそも、現在67歳で、できても2期くらいだろうから、1期目をそんなふうに過ごしたら、何もできずに終わってしまう可能性もある」(同) 一方で、別の村民はこう話す。 「いまの村政・役場には危機感が感じられない。それを変えるには林議員が適任だと思う。たとえ、目に見えるような大きな仕事はできなかったとしても、役場内の意識改革をして次にバトンタッチしてもらえれば、十分役目を果たしたと言えるのではないか」 こうして聞くと、林議員への期待は大きいようだが、前出の林議員と近い議員によると、「年始に林議員と会った際、村長選に立候補する考えはあるかと聞きたら、『いまのところは考えていない』とのことでした」という。 村内の会社役員は「誰が出るにしても、とにかく現状を変えなければならない」と危機感を募らせる。 「村の財政状況は決していいとは言えない。戦略に基づく財政投資ならいいが、例えば、1年半前にオープンした『森の駅ヨッジ』は人が入っていないし、いま事業を進めている『かわまちづくり』にしても、乙字が滝周辺にボートを浮かべて人が来るとは思えない。村民にとってプラスになるとは思えない事業が多いのです。若い人・子育て世代などからは『今度、須賀川市に家を建てる』といった話もチラホラ聞かれますし、村内に立地している企業・工場だって、いつまでも村内に居続けるとは限らない。そういったことに危機感を持って対応してくれる候補者が出てくることを願いたい」 そうした問題に危機感を持って取り組む候補者は現れるか。現職退任で混沌とする同村長選だが、構図が見えてくるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。 その後の動向  3月下旬時点で立候補を表明しているのは、いずれも新人で、元村議の須藤安昭氏(67)、元村議の林芳子氏(68)、前副村長の須釜泰一氏(63)の3人。本誌はこの3人に取材を申し込んだところ、須藤氏と須釜氏の2人が応じた。【2023年4月号】で両立候補予定者に村の課題への対応や選挙公約、意気込みなどを掲載する。

  • 現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論

     本誌昨年10月号に「会津坂下町 庁舎新築議論で紛糾 『4年前の決定』継続派と再考派で割れる」という記事を掲載した。会津坂下町で進められている役場庁舎新築議論についてリポートしたものだが、その後、新たな動きがあったので続報をお伝えしたい。 一部議員が「厚生病院跡地は候補地に不適」と指摘  同町役場本庁舎は、1961年に建設され老朽化が進んでいること、1996年に実施した耐震診断結果で構造耐震指標を大きく下回ったこと、本庁舎のほかに東分庁舎・南分庁舎があり、機能が分散して不便であること等々から、2017年から新庁舎建設を検討していた。 同年、町は社会福祉協議会や商工会、観光物産協会、区長・自治会長会の役員などで構成する「会津坂下町新庁舎建設検討委員会」を立ち上げ、調査・検討を諮問した。 最大のポイントは「建設場所をどこにするか」だった。同委員会は、①現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地、②旧営林署・保健福祉センター・中央公園用地、③南幹線南側町取得予定県有地――の3案を基本線に検討を行い、2018年2月、町に「現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地が適地である」と答申した。 同年3月議会では、同案に関する議案が提出され、賛成13、反対2の賛成多数で議決した。これにより、最大のポイントである「建設場所をどこにするか」は現在地周辺で決着したことになる。 ところが、同年9月、町(齋藤文英町長=当時)は「事務事業を見直し、将来の財政状況を算定したところ、計画通り進めれば住民サービスに大きな影響を及ぼすことが予想されることになった。財政健全化を重視し新庁舎建設延期という重い決断をした」として、庁舎建設の延期を決めた。 それから3年半ほどは事業凍結状態だったが、昨年4月、役場内に「庁舎整備課」が新設され、庁舎建設事業が再開されることになった。 ただ、それを受け、昨年5月に町民有志「まちづくりを考える青年の会」(加藤康明代表)から議会に対して、庁舎建設場所の再考を促す請願が提出された。同請願は総務産業建設常任委員会に付託され、委員会で採択された。その後、本会議に諮られ、賛成・反対討論があった後に採決が行われ、賛成8、反対5の賛成多数で同請願は採択された。これを受け、議会は庁舎建設場所の再考を促す意見書を、町執行部(古川庄平町長)に提出した。 町は議会からの意見書を受け、新庁舎建設検討委員会を立ち上げ(※2017年に立ち上げた委員会が解散されておらず、正確には「再開」だが、委員に変更等があった)、昨年7月から検討を再開した。その中で、町民の声を聞くために、まちづくり懇談会、新庁舎建設に関するアンケートを実施することになった。 こうした動きに、議会内では意見が割れ、町内7地区で開催された町民懇談会でも賛否両論が出た。 再考反対派の意見は「4年前に建設場所が決まり、議会で議決しているのに、なぜ再考しなければならないのか」、「そんなことをしていたら、いつまで経ってもできない。早く建設すべき」、「2021年8月に東分庁舎・東駐車場用地の隣にある競売物件の寿司店の土地・建物を取得し、2022年5月から解体工事を進めている。場所を変えたら、取得・解体費が無駄になってしまう」というもの。 再考賛成派の意見は「事業休止していた4年間で、坂下厚生総合病院が新築移転したこと、坂下高校が大沼高校と統合して、事実上、坂下高校がなくなったこと、新築移転した坂下厚生総合病院の近くに商業施設『メガステージ会津坂下』がオープンしたこと等々から、生活環境や人の流れが変わっていることを考慮すべき」、「コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、建設資材が高騰しており、コスト増加は間違いない。4年前の計画をそのまま進められる状況ではない」というもの。 現在地か移転かで町が二分されている状況だ。 アンケートの結果  本誌昨年10月号記事では、そうした詳細をリポートしたわけだが、その後、昨年11月25日には新庁舎建設に関するアンケート結果が公表された。アンケートは昨年10月、町内在住の15歳以上の1500人を無作為抽出し、調査票を郵送して実施。期日までに回答があったのは726人で、回収率は48・4%だった。ちなみに、同町の人口(今年1月1日現在)は1万4352人だから、アンケート送付数は全人口の10%弱、回答数は約5%になる。 回答者の内訳(カッコ内は構成比)は、年齢別では10代24人(3・3%)、20代36人(5・0%)、30代59人(8・1%)、40代88人(12・1%)、50代100人(13・8%)、60代179人(24・7%)、70代以上239人(32・9%)、無回答1人(0・1%)。地区別では坂下地区310人(42・7%)、若宮地区109人(15・0%)、金上地区71人(9・8%)、広瀬地区92人(12・7%)、川西地区57人(7・9%)、八幡地区55人(7・6%)、高寺地区29人(4・0%)、無回答3人(0・4%)だった。 質問はいくつかに分かれているほか、自由記入欄もあるが、ポイントとなる「現在、建設予定地は『現本庁舎・北庁舎・東分庁舎及び東駐車場用地』ですが、再考すべきと考えますか」という質問では、「現建設予定地のままでよい」が248人(34・2%)、「再考すべきである」が430人(59・2%)、「その他」と「無回答」が合わせて48人(6・6%)だった。再考すべきが6割近くを占めた。 この質問で「再考すべき」「その他」と答えた人に「現時点において、町が把握している未利用地は、以下の箇所(※旧坂下厚生総合病院跡地、旧坂下高等学校跡地、南幹線沿線県有地)があります。建設地として望ましいと思うものを次の中からひとつだけ選んでください」という質問では以下のような回答結果だった。旧坂下厚生総合病院跡地273人(61・3%)、旧坂下高等学校跡地39人(8・8%)、南幹線沿線県有地95人(21・3%)、その他・無回答38人(8・5%)。 こうして見ると、最初の質問で「現建設予定地(現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地)のままでよい」と答えた248人より、「再考すべき」→「旧坂下厚生総合病院跡地」と答えた273人の方が多いことが分かる。前述のように、アンケート回答者は同町の人口の約5%だから、これを「町民の総意」と捉えていいかどうかは難しいところだが、この結果だけを見れば、町民が求めているのは旧坂下厚生総合病院跡地への庁舎建設ということになる。 解体工事が行われている厚生病院跡地  ただ、昨年12月議会で、それがひっくり返るようなことがあった。同議会で、五十嵐一夫議員が「新庁舎建設位置について、町長はどこにしたいのか。まちづくり懇談会の町民周知は適切か。旧坂下厚生総合病院跡地は候補地として適切か」といった内容で一般質問を行った。 その中で五十嵐議員が明かしたところでは、JA福島厚生連に質問状を出し、坂下厚生病院跡地の対応について尋ねたところ、「厚生連からは『〇〇社から購入したいと申し入れがあり、すでに売却を決定した』と回答があった。回答は10月3日付の文書でもらった」というのだ。 そのうえで、古川町長、庁舎整備課長に「そのことを知っていたのか」と質問した。これに対し、庁舎整備課長は「厚生病院跡地の買い手が決まったという正式な連絡は受けていない」と答弁した。 さらに町は、1万平方㍍以上の町内の未利用地を「庁舎建設の候補になり得る場所」として、町民懇談会やアンケートなどで示したものであり、ある程度、本決まりになるまでは所有者との事前協議はできない、といった考えを示した。 五十嵐議員は再質問で「(前述の事情から)厚生病院跡地は庁舎建設の候補地になり得ない」と指摘し、古川町長に「売却先が決定したことを知らなかったのか」と質問した。これに対して、古川町長は「知らなかった」と答弁した。 もっとも、今年1月中旬、本誌がJA福島厚生連に問い合わせたところ、担当者は「(坂下厚生病院跡地は)現在、解体工事を行っており、その後のことは未定」とのこと。「いま、会津坂下町では庁舎建設議論が進められており、その中で、坂下厚生病院跡地が候補地になっているが」と尋ねると、「町からはそういった話はない」と話した。 一方、五十嵐議員に確認すると、「昨年10月3日付文書で、間違いなくそういった(※売却先が決定したこと)回答を得ている。議会では『〇〇社』としたが、その回答文書には実名も記されていた」という。 近く議会に説明  あらためて、町庁舎整備課にこの件について尋ねたところ、次のように説明した。 「どんな事業でもそうですが、構想段階では権利者とは交渉できない。ある程度、決まってから用地交渉などに入ることになります。(今回の件でも)まだ構想が固まっていませんから(厚生連には)話をしていません」 記者が「アンケートでは厚生病院跡地への庁舎建設を望む声が一番多かった。ただ、五十嵐議員が指摘したように、そこが売却決定済みで候補地になり得ないとするならば、厚生病院跡地を外して、それ以外でどこがいいかを再度聞くなどの手順が必要になるということか」と尋ねると、同課担当者は「その件については近く町長から議会に対して説明することになっている」と話した。 要は、「議会に説明する前に本誌取材に答えることはできない」ということだが、何か含みをもたせた言い方だったのが気になるところ。「厚生病院跡地売却決定済み」話には、〝ウラ事情〟があるということか。 その点で言うと、福島民報(1月14日付)に《会津坂下町の坂下厚生総合病院跡地の土壌から、土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出された。県は土地の使途を変更する場合、県に届け出るよう県報に告示した(後略)》との記事が掲載された。この場合、用途・売買等、制約が伴うから、それが関係しているのかもしれない。 町は今年度中(3月末まで)に候補地を決定する方針だが、現在地周辺か移転かで意見が割れる中、どんな判断をするのか注目だ。 あわせて読みたい 【会津坂下町】庁舎新築議論で紛糾【継続派と再考派で割れる】(2022年10月号)

  • 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪

     公務員の性犯罪が県内で相次いでいる。町職員、中学教師、警察官、自衛官と職種は多様。教師と警官に至っては立場を利用した犯行だ。「お堅い公務員だから間違ったことはしない」という性善説は捨て、住民が監視を続ける必要がある。 男性に性交強いた富岡町男性職員【町の性的少数者支援策にも影響か】  1月24日、準強制性交などに問われている元富岡町職員北原玄季被告(22)=いわき市・本籍大熊町=の初公判が地裁郡山支部で開かれた。郡山市や相双地区で、睡眠作用がある薬を知人男性にだまして飲ませ、性交に及んだとして、同日時点で二つの事件で罪に問われている。被害者は薬の作用で記憶を失っていた。北原被告は他にも同様の事件を起こしており、追起訴される予定。次回は2月20日午後2時半から。 北原被告は高校卒業後の2019年4月に入庁。税務課課税係を経て、退職時は総務課財政係の主事を務めていた。20年ごろから不眠症治療薬を処方され、一連の犯行に使用した。 昨年5月には、市販ドリンクに睡眠薬を混ぜた物を相双地区の路上で知人男性に勧め犯行に及んだ。同9月の郡山市の犯行では、「酔い止め」と称し、酒と一緒に別の知人男性に飲ませていた。 懸念されるのは、富岡町が県内で初めて導入しようとしている、性的少数者のカップルの関係を公的に証明する「パートナーシップ制度」への影響だ。多様性を認める社会に合致し、移住にもつながる可能性のある取り組みだが、いかんせんタイミングが悪かった。町も影響がないことを祈っている様子。 優先すべきは厳罰を求めている被害者の感情だ。薬を盛られ、知らない間に性暴力を受けるのは恐怖でしかない。罪が確定してからになるだろうが、山本育男町長は「性別に関係なく性暴力は許さない」というメッセージを出す必要がある。 男子の下半身触った石川中男性講師【保護者が恐れる動画拡散の可能性】  石川中学校の音楽講師・西舘成矩被告(40)は、男子生徒42人の下半身を触ったとして昨年11月に懲戒免職。その後、他の罪も判明し、強制わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)で逮捕・起訴された。 県教委の聞き取りに「女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話していたという(昨年11月26日付福島民友)。 事情通が内幕を語る。 「あいつは地元の寺の息子だよ。生徒には人気があったらしいな。被害に遭った子どもが友達に『触られた』と話したらしい。そしたらその友達がたまげちゃって、別の先生に話して公になった」 当人たちは「おふざけ」の延長と捉えていたとのこと。ただ、10代前半の男子は、性に興味津々でも正しい知識は十分身に着いていないだろう。監督すべき教師としてあるまじき行為だ。 西舘被告は一部行為の動画撮影に及んでいた。それらはネットを介し世界中で売買されている可能性もある。子どもの将来と保護者の不安を考えれば「トンデモ教師が起こしたワイセツ事件」と矮小化するのは早計だ。注目度の高い初公判は2月14日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる予定。 うやむやにされる「警察官の犯罪」【巡査部長が原発被災地で下着物色】  浜通りの被災地をパトロールする部署の男性巡査部長(38)が、大熊町、富岡町の空き家に侵入し女性用の下着を盗んでいた。配属後間もない昨年4月下旬から犯行を50~60回繰り返し、自宅からはスカートやワンピースなど約1000点が見つかった(昨年12月8日付福島民友)。1人の巡回が多く、行動を不審に思った同僚が上司に報告し、発覚したという。県警は逮捕せず、書類のみ地検に送った。巡査部長は懲戒免職になっている。  県警は犯人の実名を公表していないが、《児嶋洋平本部長は、「任意捜査の内容はこれまでも(実名は)言ってきていない」などと説明した》(同12月21日付朝日新聞)。身内に甘い。  通常は押収物を武道場に並べるセレモニーがあるが、今回はないようだ。昨年6月に郡山市の会社員の男が下着泥棒で逮捕された時は、1000点以上の押収物を陳列した。容疑は同じだが、立場を利用した犯行という点でより悪質なのに、対応に一貫性がない。  初犯であり、社会的制裁を受けているとして不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高いが、物色された被災者の怒りは収まらないだろう。 判然としない強制わいせつ自衛官【裁判に揺れる福島・郡山両駐屯地】 五ノ井さんに集団で強制わいせつした男性自衛官たちが勤務していた陸自郡山駐屯地  昨年12月5日、陸上自衛隊福島駐屯地の吾妻修平・3等陸曹(27)=福島市=が強制わいせつ容疑で逮捕された(同6日付福島民報)。5月25日夜、市内の屋外駐車場で面識のない20代女性の体を触るなどわいせつな行為をしたという。事件の日、吾妻3等陸曹は午後から非番だった。2月7日午前11時から福島地裁で初公判が予定されている。 県内の陸自駐屯地をめぐっては、郡山駐屯地で男性自衛官たちからわいせつな行為を受けた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=が国と加害者を相手取り民事訴訟を起こす準備を進めている。刑事では強制わいせつ事件として、検察が再捜査しているが、嫌疑不十分で不起訴になる可能性もある。五ノ井さんは最悪の事態を考え提訴を検討したということだろう。 加害者が県内出身者かどうかが駐屯地を受け入れている郡山市民の関心事だが、明らかになる日は近い。 あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

     JR福島駅前で進む市街地再開発事業。事業主体は地権者らでつくる再開発組合だが、福島市は同所に建設される複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」を公共施設として買い取ることになっている。しかし、事業費が昨年5月時点で当初計画より増え、今後さらに増えそうな見通しのため、市の財政に深刻な影響を与える懸念が浮上している。 大型事業連発で危機的な福島市財政  福島駅東口地区第一種市街地再開発事業は駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、駐車場棟(7階建て)、住宅棟(13階建て)を建設する計画で、一帯では現在、既存建物の解体工事が行われている。 事業主体は地権者らでつくる福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、福島市も同事業に二つの面から関わっている。一つは巨額の補助金支出、もう一つは複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を公共施設として同組合から買い取ることだ。 拠点施設は複合棟の3・4階に整備される。メーンは4階に設けられる1500の客席と広い舞台を備えた大ホールだが、客席を収納することで展示ホールとして使えたり、800席のホールと中規模の展示ホールを併用することもできる。3階には多目的スタジオや練習スタジオ、会議室が設けられる。 同事業に市がどの程度関わっているか、まずは補助金から見ていく。 同組合設立時の2021年7月に発表された事業計画では、事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で市の負担は54億5000万円となる。 ところが、昨年5月に市議会全員協議会で配られた資料には、事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円(同)と明記されていた。これにより、市の負担も6億5000万円増の61億円になる見通しとなった。 理由は、延べ床面積が当初計画より90平方㍍増えて7万2540平方㍍になったことと、建設資材の高騰によるものだった。 これだけでも市にとっては重い負担だが、さらに大きな負担が待ち構えている。それが、二つ目の関わりである保留床の取得だ。 市は拠点施設を「公共施設=保留床」として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし前述・市議会全員協議会で配られた資料には190億円かかると明記されていた。このほか備品購入費も負担する必要があるが、その金額は「開館前に決定」とされているため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 前述の補助金と合わせると市の負担は「251億円+α」となるが、問題はこれが最終確定ではなく、さらに増える可能性があることだ。 市議会の昨年12月定例会で、斎藤正臣議員(2期)が次のような一般質問を行っている。   ×  ×  ×  × 斎藤 原料や資材の高騰が事業計画に与える影響は。 都市政策部長 影響は少なからずあるが、具体的な影響は福島駅東口地区市街地再開発組合で精査中だ。 斎藤 5月の全員協議会では事業費492億円、補助金244億円と示されたが、ここへの影響は。 都市政策部長 事業費への影響は少なからずあるが、具体的な影響は同組合で精査しており、市はその結果をもとに補助金への影響を精査する予定だ。 斎藤 保留床取得費も昨年5月の全員協議会で当初計画より上がっていたが、ここへの影響は。 商工観光部長 保留床取得費への影響も避けられないと考えている。具体的な影響は同組合で精査中だ。 斎藤 保留床取得費は令和5年度から予算計上し、今後年割で払っていくと思われるが、年度末まで残された日時が限られる中、取得費が確定しないと新年度予算に計上できないのではないか。 商工観光部長 現時点で保留床取得費が明らかになる時期は申し上げられないが、新年度予算への計上に向けて協議を進めており、タイミングを見て議会にもお示しできると考えている。   ×  ×  ×  × 詳細は同組合の精査後に判明するとしながら、市は補助金と保留床取得費がさらに増える可能性があることを認めたのだ。 ロシアによるウクライナ侵攻と円安で原材料費やエネルギー価格が高騰。それに伴い、建設業界でも資材価格の上昇が続いている。国土交通省や一般財団法人建設物価調査会が発表している資料などを見ると、2020年第4四半期を100とした場合、22年第4四半期は建築用資材価格で126・3、土木用資材価格で118・0とわずか2年で1・2倍前後まで上昇している。 とはいえ、こうした状況は他地域で行われている大型事業にも当てはまるが、福島市の場合は「別の懸念材料」も存在する。 3年後には基金残高ゼロ  市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通し(2023~27年度)によると、市債残高は毎年のように増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されている(別表参照)  ある市職員OBによると「瀬戸孝則市長(2001~13年)は借金を減らすことを意識し、任期中の市債残高は1000億円を切っていた。そのころと比べると、市債残高は急増している印象を受ける」というから、短期間のうちに財政が悪化していることが分かる。 事実、中期財政収支の見通しの中で、市は次のような危機を予測している。 ▽拠点施設整備をはじめとする大型事業の本格化などにより投資的経費の額が高水準で推移し、その財源に市債を活用することから、公債費および市債残高の増加が続く。 ▽各年度に20~50億円余の財源不足が見込まれ、財政調整基金と減債基金で補う必要があるが、2026年度には両基金の残高がなくなり財源不足を埋められず、必要な予算が編成できなくなる見通し。 ▽市債発行に当たっては地方交付税措置のある有利な起債の活用に努めているが、それでもなお実質公債費比率は2027年度には5・5%まで上昇し(18年度は1・1%)、公債費が財政運営を圧迫することが予測される。 ▽試算の結果、2026年度以降の財源を確保できない見通し。公設地方卸売市場や市立図書館、学習センターの再整備など、構想を開始していても実施時期や概算事業費、一般会計への影響が未定で今回の試算に組み込まれていない大型事業もあるため、今後の財政運営は試算以上に厳しい状況に直面する可能性がある。 「基金残高がなくなる」「必要な予算が編成できない」「財源を確保できない」等々、衝撃的な言葉が並んでいることに驚かされるが、ここまで市の財政がひっ迫している要因は大型事業が目白押しになっていることが挙げられる。 市役所本庁舎の隣では2024年度中の完成を目指し、事業費70億円で(仮称)市民センターの建設計画が進められている。このほか新学校給食センター、あぶくまクリーンセンター焼却工場、消防本部などの整備・再編が予定されるが、これ以外にも公設地方卸売市場や市立図書館など建て替えが必要な施設は少なくない。そうした中、市最大の事業に位置付けられるのが拠点施設の買い取りなのだ。 「2011年1月に開庁した本庁舎は事業費89億円だが、これが市にとって過去最大のハコモノ事業だった。しかし、拠点施設は本庁舎を大きく上回る190億円+αで、資材価格や人件費によってはさらに増えるというから、市の財政を心配する声が出てくるのは当然です」(前出・市職員OB) 市職員OBは今後の懸念材料として①事業費全体が上がると保留床取得費だけでなく、例えば住宅棟(マンション)の価格も上がり、投機目的の購入が増えるのではないか。そうなると、せっかく整備した住宅棟に市民が入居できず、空き家だらけになる恐れもある。②これ以上の事業費増加を防ぐために計画を見直せば、拠点施設が期待された機能を発揮できず、駅前に陳腐な施設が横たわることになる。③拠点施設は東日本大震災で被災した公会堂の後継施設となるが、さらに保留床取得費が増えると「現在地で建て替えた方が安く済んだのではないか」という意見が出かねない、④駅前ばかりに投資が集中すると、行かない・使わない市民から反発の声が出てくる――等々を挙げる。 「市は時に、借金をしてでもやらなければならない事業があるが、その前提となるのは納税者である市民の理解が得られるかどうかだ。自分が行かない・使わない施設に巨額の税金を投じることに納得する市民はいない。市には、大勢の市民が行きたくなる・使いたくなるような施設の整備が求められる」(同) 計画が既に動き出している以上、大幅な見直しは難しいが、拠点施設を多くの市民に利用してもらえるような工夫や仕掛けはまだまだ検討の余地があるということだろう。 投資に見合う施設になるか  市が2020年3月に発表した計画によると、拠点施設の年間の目標稼働率は大ホールが80%、展示ホールが60%、目標利用者数は32万人を掲げている。一方、年間の管理運営費は4億円。素人目にも目標達成のハードルは高く、管理運営費も高額な印象を受ける。 「管理運営はPFI方式で民間に任せるようだが、稼働率や利用者数を上げることを意識し、多くのイベントや会議を誘致した結果、市民が使いづらくなっては意味がない。拠点施設は公会堂の後継施設ということを踏まえると、市民が使いたい時に使える方策も必要です」(同) 市コンベンション施設整備課に取材を申し込むと 「昨年5月の全員協議会で示した資料が最新の計画で、そこに書かれている以上のことは話せない。補助金や保留床取得費がどうなるかは、同組合の精査後に見極めたい」 とのことだった。昨年12月定例会では「福島駅前交流・集客拠点施設の公共施設等運営権に係る実施方針に関する条例」が可決され、今後、施設運営に関する方針が決まる。 251億円+αの投資に見合う施設になるのかどうか。事業の本格化に合わせ、市民の見る目も厳しさを増していくと思われる。 福島市のホームページ あわせて読みたい 【福島市】木幡浩市長インタビュー 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 【東白川郡編】合併しなかった福島県内自治体のいま

     「平成の大合併」に参加しなかった県内自治体のいまに迫るシリーズ。第3弾となる今回は、「合併しない宣言」で知られる矢祭町、合併を模索したものの、住民投票の結果、合併が立ち消えになった棚倉町、塙町、鮫川村の東白川郡4町村を検証していく。(末永) 国の方針に背いた矢祭町は「影響が軽微」  東白川郡は棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村の4町村で構成される。国の方針で「平成の大合併」議論が巻き起こった際、矢祭町議会は「合併しない宣言」を可決した。それが2001年10月のことで、早々に「単独の道」を選択したのである。同町は県最南端の県境に位置するため、合併すれば〝どん詰まり感〟が増す。町民の多くも「合併を望まない」との意向だった。 一方、ほかの3町村は「合併は避けられない」と考え、町村長、議会が勉強会を実施し、2002年2月に任意合併協議会、同年7月には県内初となる法定合併協議会を設置した。当時、3町村の人口は、棚倉町が約1万6000人、塙町が約1万1000人、鮫川村が約4500人で、新市への移行要件である「人口3万人」を少し超える規模だった。合併期日は2004年3月1日に設定し、実現すれば「平成の大合併」県内第1号、新市誕生となるはずだった。 ただ、2003年7月に実施した合併の賛否を問う住民投票で情勢が一変した。住民投票の結果、棚倉町は65%が賛成だったが、塙町は55%、鮫川村は71%が反対だったのだ。 事前の見立てでは、「棚倉町は賛成が上回るのは間違いない。塙町は拮抗するが、若干、賛成が上回るのではないか。鮫川村は反対が上回る可能性が高いが、それほど大きな差にはならないだろう」というもの。ところが、蓋を開けてみると、棚倉町は予想通りとなったが、塙町は予想に反して反対が上回り、鮫川村の反対比率も予想以上だった。 棚倉町は県南農林事務所の一部機能、土木事務所などの県の出先が置かれ、東白川郡の中心に当たる。そのため、合併後の新事務所(市役所)が置かれる公算が高かった。新市の中心になれる棚倉町と、そうでない2町村では合併に対する住民の捉え方が違っていたということだ。 住民投票の結果を受け、3町村長は「住民は合併を望んでいない」と判断し、法定合併協議会の解散を決めた。 その直後には鮫川村の芳賀文雄村長が辞職した。芳賀村長は2003年4月に5回目の当選を果たしたばかりで、「合併を成し遂げることが自身の最後の仕事」と捉えていたようだ。しかし、合併が立ち消えになったため、5選されてからわずか3カ月程度で自ら身を引いた格好。 こうして、東白川郡4町村はそれぞれ単独の道を歩むことになったのである。ちなみに、合併協議に当たり、住民投票を行ったのは県内ではこの3町村だけだった。 単独の道を歩むうえで、最も重要になるのが財政面だ。別表は4町村の各財政指標の推移と、職員数(臨時を含む)、ライスパイレス指数をまとめたもの。 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  県市町村財政課の2020年度のまとめによると、一般会計等の実質赤字額を示す「実質赤字比率」と、一般会計等と公営事業会計の連結実質赤字額を示す「連結実質赤字比率」が発生している市町村は県内にはない。つまり、そこにはどの市町村にも大差はない。 実質公債費比率の全国の市区町村平均は5・7%、県内平均は6・1%で、矢祭町はここ数年は多少上昇傾向にあるものの、全国・県内平均を大きく下回っている。 将来負担比率は、県内31市町村が発生しておらず、棚倉町、矢祭町、鮫川村がそれに該当する。棚倉町は2020年度から「算出なし」だが、矢祭町と鮫川村は早い段階から発生していない。 こうして見ると、矢祭町の指標がいいことが分かる。「合併しない宣言」以降、相応の努力をしてきたのだろう。 4町村長に聞く  4町村長に財政指標、職員数などの数字をどう捉えるか、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応について見解を求めた。 湯座一平棚倉町長  平成15(2003)年以降の棚倉町の財政は、地方交付税の削減幅が予測より小さかったことや地方への税源移譲により、歳入が堅調に推移してきたため、住民サービスの低下を招くことなく安定した運営ができています。財政力指数についても、県内平均より高い水準で推移してきていますので、合併しなかったことで財政的に行き詰まるといった心配は、杞憂に終わりました。 職員数については、合併を想定して策定した定員適正化計画に基づいた定員管理を行うことで、平成14(2002)年の168人から令和4(2022)年には126人と、この20年間で42人の減員を進めてきました。これは、指定管理者制度の導入やIT技術の導入による事務の効率化、さらには組織機構の改編をこまめに行い事務の効率化・簡素化に取り組んできた結果です。 ラスパイレス指数については、平成18(2006)年の給与制度改正時に年齢別職員の偏在により一時高い数値を示しましたが、現在は落ち着いた数値で推移しています。 「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと今後の対応につきましては、歳入に見合った予算編成を是とし、住民サービスの質を落とすことなく、将来の財政需要に備えて基金の積み増しや、計画的な施設の維持補修を行い、将来的に人口減少と少子高齢化の課題解決ができるよう取り組みを展開していきます。 佐川正一郎矢祭町長  財政指標に対する見解については、本町は30~40%の財政力指数が示すとおり、自主財源に乏しい小規模自治体ではありますが、2012年度以降の実質公債費比率が5%未満であるなど、財政の基本である「入るを量りて出ずるを為す」の精神が受け継がれ、健全財政を堅持できていることは、「合併しない宣言」以降の徹底的な行財政改革の成果であると思っています。職員数とラス指数については、ここ数年増加傾向にありますが、多様化する町民ニーズへの対応や高度化する行政課題解決のための必要最小限の増員であり、職員の負担が減少していない現状を考えると更なる対応が必要であると思っています。 これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みについては、「子育てサポート日本一!」をスローガンに掲げ、議員定数の削減や議員報酬日当制の導入、事務事業の見直しや業務の効率化に伴う職員の大幅な削減等で捻出した財源を少子化対策に充てるなど、次代を担う子どもたちのための施策を充実させてきました。 今後も行政サービスの低下を招かず、コスト削減をするにはどうすればよいか、受益者負担の適正化についても、町民と共に考えながら、DXを推進するためのデジタル人材の育成やデジタルサービスの提供による利便性の向上と業務の効率化に注力し、更なる行財政改革を進めていきます。 宮田秀利塙町長  財政状況資料の各種数値は、人間に例えれば、健康度合の指数と捉え、栄養不足・偏り、肥満、運動不足にならないように、常に、注視を怠らないように心がけています。 また、当町では福島財務事務所へ平成29(2017)年度と令和2(2020)年度の二度、町の財政状況の診断をお願いしており、その結果、当面問題となるような数値はないとの診断をいただいております。この後も時々に診断をお願いし、財政基盤強化の指針としていく考えです。 更に財政基盤強化のためには、自主財源である町税確保のために、町内での起業支援を広範に推進して参りたいと考えています。 行政運営の効率化については、地域の環境整備とコミュニティ維持を目的として実施中の「地域振興事業交付金事業」に代表されるように、住民が自ら出来ることは自分達で担い、行政はその一助として財政的に支援するという「住民協働と行政参画」の推進を行い、様々な行政サービスの受益と負担の関係を、より一層明確化するとともに、地域の住民が、行政サービスの費用負担とそこから得られる受益を比較・考慮して、出来るだけ、自らの判断と責任で地域の行政サービスの水準を決定できるような仕組みに改めていく必要があると考えています。 また、職員には、事業費の財源の内容提示の徹底を図ることで、財源確保の意識を高め、積極的な交付金、補助金の活用を推進して参りながら、前例に、こだわることなく、あらゆる可能性の中での財政基盤強化、効率化への取り組みを進めて参りたいと考えています。 関根政雄鮫川村長  財政力指数は0・17と全県的にも下位にあり、自主財源確保も厳しい状況にあります。 本村は平成18(2006)年の行財政改革のひとつとして特別職や議会議員の報酬を20~25%削減するなど財政再建を図りながら現在に至ります。「入るを量りて出ずるを為す」。ふるさと納税等の自主財源確保と目的を果たした公有財産の処分等、「身丈にあった財政計画」を推進しています。 また、運営の効率化においては、既に給食センター運営は隣町と連携しています。少子高齢化に相応する職員の採用計画と配置も不可欠です。さらに業務の効率化優先で「住民サービス」が低下しないよう最大考慮すべきであると考えます。   ×  ×  ×  × 「単独」の強みとは  このほか、「単独」だからできたこと、その強み等々についても見解を聞いたので紹介したい。 湯座一平棚倉町長 棚倉町の場合は、合併に賛成したけれども単独の道になったという事情がありますが、合併協議を経験したことで、以前のようにフル装備の町を目指すのではなく、住民生活に必要なものを見極めて、必要なものだけを整備していくという考え方で、代替えできる施設については、廃止するなどの対応をしてきています。例を挙げると町民プールはルネサンス棚倉のプールや各小中学校のプールを活用することで廃止とし、中央公民館についても文化センターに公民館機能を持たせることで廃止しています。また、図書館については、代替えがきかない必要な施設として新たに整備しています。 さらに、合併しなかったことにより、城下町の特性に着目し「東北の小京都」として観光PRを展開するなど、町にある資源に着目したまちづくりを進めています。 まちづくりの基本理念は「住民が主役のまち」「安心で優しいまち」「誇りと愛着のもてるまち」であり、「人を・心を・時をつなぐ たなぐらまち」を目指す将来像としてきめ細やかな行政運営に徹しています。 佐川正一郎矢祭町長 「単独」だからできたこと、「小さな自治体」だからできたことは、そう多くはなかったと思いますが、自信も持って言えることは、住民自治の重要性に気づき、逸早く行政の守備範囲を見直し、町民や各種団体等がそれぞれのできる範囲で行政に参加し、町と協働して地域を運営するという、町民が自分たちの手で地域を育てていく仕組みづくりを構築できたことであると思います。 また、その強み等々については、小さな自治体は、地域住民が自らの地域に目を向け、地域を調べ、知り、考えることから始まります。高齢者等の見守りや援助の体制、まちづくりに関わる住民との連携など、住民の顔が見える小さな自治体であればこそ、きめ細かい対応が可能になると思っています。また、災害が起こった場合どこが危険かなど、地域の環境について知悉(ちしつ)している職員がいることで、迅速な対応ができることも、強みであると思っています。 宮田秀利塙町長 町内のインフラ整備等の要望に対しまして、きめ細やかな対応が出来たことかと思っています。地域代表者と直接の話し合いの場を持つことで、地域の現状をしっかりと把握し、現状に即し、地域の皆様が喜ぶ工事・修復を実施することが出来ました。ひいてはそれが無駄な出費の削減にもつながりました。 具体的には、町の財政節減の考えを説明することで、その現場の対応を、町が行うべきか、あるいは地域での対応が妥当なのか、を話し合いの中から導き出した結果、最良な対応の選択が可能となり、迅速で無駄の少ない行政サービスの提供につながってきました。当然のことながら、地域で対応する場合は、資材等の支給を町が行うと共に、資材以外の部分でも財政支援を行うことで住民の負担軽減にも努めました。 「単独」であったことの、最大の強みは、住民の様々な思いを、直接聞きやすい環境であるため、住民の声に対し、きめ細やかに、しかも素早い対応が出来ることかと思っています。 関根政雄鮫川村長 他町村から比較すると、全ての生活環境において条件が整っていないと思いきや、過疎地域の環境には大きな個性的魅力があります。さらに人口減少は避けられないが、全村民に「村づくりの理念」や「希望や喜び」を隅々まで丁寧に伝えることができる利点もあります。 村の最大の魅力は「小さな村であること」であり、「村民主体の村づくり」を推進し「幸福度」を高めるためには理想の自治体規模であると考えています。   ×  ×  ×  × 1つ例を挙げたい。原発事故の影響で、県内では牧草から基準値超の放射性物質が検出される事例が相次いだ。これを受け、畜産農家が多い鮫川村では、海外から干し草を購入し、村内約140戸の畜産農家に配布した。それにかかった費用は、後に村が東京電力に賠償請求する仕組みをつくった。言わば、村が畜産農家の牧草調達と東電への賠償請求を代行した格好。当初、東電は自治体の賠償には消極的で対応が遅かったが、この仕組みは「鮫川ルール」として、比較的迅速に賠償支払いが行われた。畜産農家からしたら、面倒な手続きを村が代行してくれ、ありがたかったに違いない。これは、単独だからできたことと言えよう。 顕著な人口減少  一方で、大きな課題になっているのが人口減少だ。別表は東白川郡4町村の人口の推移。各町村とも人口減少が顕著になっている。もっともこれは、合併していたとしても同じ結果になっていたはず。全国的な課題で、なかなか打開策はないが、合併しなかったことで、小回りが利くことを生かして、それぞれやれることをやるしかない。  このほか、郡内住民の声を聞くと「結果的に合併しなくてよかったのではないか」といった意見が多い。 「何がどう、と聞かれると難しいけど、結果的に合併しなくても不自由なことはなかったから、(合併がなくなったのは)よかったのではないか」(棚倉町民) 「当時の国の方針は、合併しなければ交付税を減らすというものだった。でも、住民投票の結果、合併話がなくなり、これから大変だぞ、と思ったけど、実際はそれほどではなかった。まあ、(行政の)内部は大変だったのかもしれないけど。いずれにしても、東白川郡の現状を見ると、合併しなくてよかったのだと思う」(棚倉町民) 「(隣接する)茨城県で合併したところの住民に聞いたけど、『合併してここが良くなった』という具体的な話は聞かない。矢祭町は最初から合併しない方針だったけど、正解だったと思う」(矢祭町民) 東白川郡に限らず、住民の心情としては、「できるなら、いまのままで存続してほしい」といった意見が多い。ただ、当時、行政の内部にいた人に話を聞くと、「地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」、「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」との不安があったという。そのため、「国の方針に従った方がいい」として合併を模索し、実際に成立させたわけ。 国に逆らった影響  その点で言うと、矢祭町は「合併しない宣言」を議会が可決し、言うなれば真っ先に国に逆らった形になる。その影響や、締め付け等を感じることはあったのか。この点について、佐川町長に見解を求めると次のような回答だった。 「『合併しない宣言』が決議された当時、私自身はそうした情報を知り得る立場にありませんでしたが、当時を知る職員に話を聞くと、少なからず、地方交付税等の削減はあったものの、国からの締め付けは思ったほどではなく、合併をしないことによる財政的な影響は少なかったと聞いています」 「合併しない宣言」後の大部分(2007〜2019年)で舵取りを担った古張允前町長にも話を聞いたが、「締め付けというほどのことはなかった」と話した。 「確かに、国は合併しなかったら交付税を減らすとの方針でしたが、実際はそうでもなかった。(それほど影響がなかった背景には)二度の政権交代(自民党→民主党→自民党)も関係していると思います。財政的にも、根本良一元町長の時代に行財政改革が行われ、必要な部分の投資もある程度は完了していました。私の時代の大きな事業といえば、こども園建設と小学校統合くらいですかね。ですから、財政的にすごく苦労したということはありませんでした。むしろ、国の締め付け云々よりも、『日本一の町長』と評された根本町長の後を受けたプレッシャーの方が大きかったですよ」 最後に。いま同郡内で不安材料になっているのが衆議院小選挙区の区割り改定だ。これまでは須賀川市、白河市、田村市などと同じ3区だったが、改定後は会津地方、白河市、西白河郡と一緒の新3区になる。 東白川郡は車両ナンバーが「いわき」で、どちらかというと浜よりの文化・生活圏。県内でも会津とは縁遠い。そのため、「東白川郡はもともと票(人口)が多くないし、会津地方と一緒になったら、代議士の先生の目が向きにくくなるのではないか、といった不安がある」というのだ。 合併の話からは逸れてしまったが、今後の同郡内の行政を考えるうえでは、そこが不安材料になっているようだ。 あわせて読みたい 【桑折町・国見町】合併しなかった福島県内自治体のいま 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【西郷村】合併しなかった福島県内自治体のいま 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

     二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁) 「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長  まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者) 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。 低迷する城報館 2階部分から伸びる渡り廊下  城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員) ※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。  市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主) 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同) 三保恵一市長  本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。 上司とは思えない言動  前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同) 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者) 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。 加害者意識のない部長  しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課) ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」 疲弊する地方公務員  荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者) 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。 ※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査  心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏) 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。  ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。 あわせて読みたい 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」 ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

    福島大学の学生が語る投票率アップのヒント  若者の投票率が低迷を続けている。昨年10月に行われた福島県知事選挙は10代から30代の有権者の投票率がいずれも3割に満たなかった。その中でも最低は20代の21・35%。なぜ若者は選挙に行かないのか。どうすれば投票率を上げられるのか。若者への選挙啓発を中心に活動する福島大学の学生団体「福大Vote(ボート)プロジェクト」(以下、福大Voteと表記)に所属する学生に話を聞いた。(佐藤大) 若者の投票率がほかの世代と比べてどれだけ低いのか  昨年10月に行われた福島県知事選挙の投票率は42・58%だった。一方、年代別投票率はグラフの通り。 福島県,令和4年10月30日執行 福島県知事選挙 年代別投票率https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/543772.pdf  最も高いのは70代の59・52%、最も低かったのは20代で前回より1・77ポイント低い21・35%、次いで10代が同4・52ポイント低い26・22%、30代が同1・47ポイント低い28・68%と、若い世代がいずれも3割に満たない結果となった。 若者の投票率が低い原因にはどんなことがあるのか 【①社会と接する機会】  東京都が行った「選挙に関する啓発事業アンケート結果」(2018年)によると、若年層の投票率が低い背景について「政治を身近に感じられないから」(70・7%)が最も高く、以下「選挙結果で生活が変わらないと考えているから」(69・7%)、「政治や社会情勢に関する知識が不十分だから」(46・4%)と続いている。 東京都,選挙に関する啓発事業アンケート結果,2018https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/29/01_07.html(若年層の投票率が低い背景)  「政治を身近に感じられない」のはなぜか。その原因を探るため、若者への選挙啓発を目的に、2016年に福島大学の学生有志で結成された福大Voteのメンバーに生の声を聞いた。 福大Voteは設立当初、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることを受けて、大学や福島市選挙管理委員会に働きかけ、学内の図書館に期日前投票所を設置することに尽力した。現在のメンバーは7人で、若者に向けた選挙啓発を中心に活動している。 代表の関谷康太さんは「そもそも友達同士で政治や選挙が話題に上がらない」と話す。 「政治の話はタブーという雰囲気がありますね。あとは普通に生活していると、自分のことで精一杯というか……。大人になってから政治が及ぼす影響を考えるようになるのかもしれません」(関谷さん) 若者は他の年代と比べて社会との接点が少ない。人は年を重ね、会社に入ったり、家族を持ったりすることで社会、地域、教育といった問題を自分事として捉え始める。 東京都主税局の「租税に対する国民意識」(2017年)によると、中間層の税負担について、日本は「あまりに高すぎる」「高すぎる」と回答した人の割合が60%を超えている。また、回答者の60%以上が官公庁からの情報発信が不十分としており、情報提供の充実を求めている。 東京都主税局,租税に対する国民意識と税への理解を深める取組,2017https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/tzc29_s1/15-1.pdf(6ページ)  福島県の「少子化・子育てに関する県民意識調査」(2019年)によると、子育て環境の整備や少子化対策で期待することは「児童・児童扶養手当拡充、医療費助成、保育料等軽減等、子育て世帯への経済的な支援」(44・7%)が最も高い。 福島県,少子化・子育てに関する県民意識調査,2019https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/344247.pdf(9ページ)  払う金は少なくしたい、でも、もらえる金は多くしたい、という本音が透けて見える。 社会人になって初めて気付く社会保険料のインパクト……。新卒1年目、しゃかりきに働いてやっと掴んだ1万円の昇給……その金が住民税でチャラになってしまう虚しさ……所得税も地味に負担となる……。 「税金が高すぎる」――こんな叫びが、結果として政治に関心を持つきっかけになるということだろう。 【②住民票問題】  山形県出身の井上桜さんは「福大周辺に住んでいますが、山形から福島に住民票を移していないので投票には行きませんでした」と話す。 「私が通う行政政策学類は多少なりとも政治に興味があって入っている人が少なくない。なので実家暮らしで住民票がある人は『投票に行った』とよく聞きますね」(井上さん) 井上さんが福大Voteに入ったきっかけは大学の受験科目「政治・経済」を深く勉強していく中で政治に興味を持ったからだという。入学前からサークルを調べ、自らSNSでダイレクトメッセージを送って福大Voteに入った。そこまで政治に興味がある彼女ですら選挙に行かなかった(行けなかった)のだ。 総務省が行った「18歳選挙権に関する意識調査」(2016年)によると、投票に行かなかった理由として「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから」が最も多く、年齢別では18歳(15・6%)よりも19歳(27・5%)の割合が高い。 総務省,18歳選挙権に関する意識調査の概要,2016https://www.soumu.go.jp/main_content/000456090.pdf(2ページ)  選挙は通常、住民票に登録された住所に投票所入場券が送付される。高校を卒業して県外の大学に進学した学生の多くは、住民票を実家から移さないため、帰省のタイミングで選挙がない限り進学先では投票できない。 不在者投票といった救済制度はあるが、選挙管理委員会への書類請求や投票用紙の郵送が必要で、手続きが煩わしい。 実際、福島県知事選挙の投票率を詳細に見ていくと、18歳は34・21%だったが、19歳は17・83%と最も低かった。 【③なじみの薄い選挙】  読書が好きで、もともと政治に関心が高い山本雅博さんは「政治は面白いのに、面白さに気付いてない」と話す。 「周りを見てみると、政治に関心がないし、あまり知識がない印象です。それでも僕が友人に熱心に語りかけると、『投票行ったよ』と言ってくれる人もいる。もっと政治を話す場があれば選挙に行くきっかけになるだろうし『誰々は選挙に行ったみたいだ』という話が広まればさらに選挙に行く人は増えると思います」(山本さん) 福大Voteは県選管の協力を得て、知事選前の10月27・28日、投票率アップにつなげようと、大学図書館の一角で学生が選挙や政治について気軽に話すことができる「選挙カフェ」を開いた。テーマを決めて議論し、訪れた学生と意見を交わした。 市町村の選管も、若者の投票率向上のためさまざまな取り組みを行っている。 須賀川市選管ではバス車内で投票ができる移動期日前投票所を市内の高校に初めて開設するなど、若者が投票しやすい工夫を凝らした。 福島市選管では市内の中学校で選挙への理解を促す出前授業を開き、生徒が模擬投票を体験した。 決定に関わる取り組みを子どものころに経験し、積極的に物事に関わる姿勢(若者の主権者意識)が醸成されれば、民主主義の基盤を早くから意識できる。 投票率を上げるためにはどうすればいいのか 【①情報】  各選管は移動期日前投票所の設置や模擬投票の実施など若者の投票率向上に躍起だが、冒頭に示した投票率の通り結果は伴っていない。 若者の投票率を上げる方策はあるのか。 前出・渋谷さんは次のように指摘する。 「若者の目に留まりやすいSNSなどを活用し、社会に関心を持ってもらうような啓蒙活動を多面的にアプローチすることが必須なんじゃないかなと思います」 例えば、知事選の候補者だった内堀雅雄氏と草野芳明氏は若者からすると、言ってしまえばどちらも〝知らないおじさん〟でしかない。 東京都知事選挙は22人が立候補し、テレビで見たことがある馴染みの候補者が何人もいた。宮崎県知事選挙はタレントの東国原英夫氏が立候補するなど、地方の選挙でも有名人が立候補することは珍しくなくなった。 もちろん知名度があればいいというわけではないが、話題性は高くなるので、結果的に有権者は候補者の素性や公約を知る機会が増える。 新聞・テレビ離れが進み、若者が候補者の情報をキャッチする機会は減り続けている。一方、スマートフォンが普及し、アプリが多様化する中、若者は求める情報を自らキャッチしにいくのが当たり前になっている。 若者が普段使っているアプリ―ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、ティックトック―挙げたらきりがないが、各選管は予算をかけて多方面で周知を図る必要があるだろう。 【②選挙に出よう】  日本財団ジャーナルが行った意識調査(2021年)によると、「投票しない」「投票できない」「分からない・迷っている」と回答した人にその理由を尋ねたところ「投票したい候補者・政党がいないから」が最も多く22%だった。 日本財団ジャーナル,意識調査,2021 https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/63822  本誌で連載しているライター、畠山理仁氏の「選挙古今東西」(昨年6月号)を引用する。 私はかねてから「選挙に行こう」ではなく「選挙に出よう」と呼びかけてきた。選挙に出る人が増えれば選択肢が増える。選択肢が増えれば投票に行く人も増える。つまり、自分の1票を実感できるチャンスが増える。候補者が増えて適正な競争が行われれば、政治業界全体のレベルも上がる。多様な候補者が立候補することで「今、政治には何が求められているか」も可視化される。誰にとっても不都合はない。  (中略)  もう一つの問題は「立候補のしかた」を学校で教えないことだ。そのため、どうやって立候補したらいいのかわからない人が多くいる。  安心してほしい。私たちの社会は、そんな時のために働いてくれる人たちをちゃんと用意している。役所にある選挙管理委員会(選管)の人たちだ。そこをたずねて「立候補したい」と伝えれば、懇切丁寧に立候補までサポートしてくれる。  選挙の約1カ月前には、各地の選管で「立候補予定者事前説明会」が開かれる。一度出席してみれば、すべての候補者がとても複雑な手続きや高いハードルを超えて立候補していることがわかる。会場を出るころには候補者への敬意を抱くこと間違いなしだ。ぜひ、自分の権利を確認するためにも訪ねてみてほしい。  参議院議員と都道府県知事の被選挙権は満30歳以上だが、衆議院議員、県議会議員、市町村長、市町村議会議員は満25歳以上だ。供託金などの費用が最大のネックではあるが、20代がもっと当事者意識を持っていいはずだ。 【③与野党への考え】  福大Voteの3人に「政党についてどう考えているか」を聞いた。 「特定の支持政党は無いですね。ただ、野党には頼れないので、結局与党に投票することが多いです」(関谷さん) 「私も与党野党どちらを支持するとかはないです。政治全体を見て判断したいですね」(井上さん) 「根本に政権交代してほしいという思いがあるので、野党の国民民主党を支持していたことはあります。ただ結局、政治は多数決で、数が必要という要素があるので、今はどこがどうというのはありません」(山本さん) 本誌主幹・奥平はたびたび「政府与党の傲慢さと野党のだらしなさ」を指摘している。投票しようにも、推したい政党・候補者がいなければ選挙離れは進む一方だ。 左から井上桜さん、関谷康太さん、山本雅博さん 投票しないことのデメリットは何か  福大Voteの3人に「政治に求めるもの」を聞いた。 「若い世代の支援をもうちょっと増やしてほしいです。あとは地方創生、教育格差の是正です。生まれた家庭環境によって教育機会に違いがあるのはおかしいと思います」(関谷さん) 「大学周辺に買い物ができる場所がないんです。スーパーが1軒でもあれば……。電車やバスの本数ももっと増やしてほしいですね」(井上さん) 「防衛費はGDPの何%ということではなく、必要なものを精査して調達することが重要だと思いますし、それに合わせた予算を組むべきです。防衛省の情報が分かりにくいので、国防上明かせない情報があったとしても『こういう戦略で国を守っていく』と分かりやすく説明してほしいです」(山本さん) 3人はまだ学生なのに、それぞれしっかりした考えを持っている。ここまで意識が高ければ、黙っていても選挙に行くだろう。問題は、政治に全く興味がない人へのアプローチだ。 人が行動する動機は2種類しかない。「快楽を得たい」か「痛みを避けたい」かのどちらかだ。 政治に興味がない人に、選挙に行くメリットを説いても響かない。快楽を得るほどの成果も生まれない。それであれば、痛みを避けるパターンで訴えていくしかない。 再び畠山氏の「選挙古今東西」(2020年4月号)を引用する。  選挙は積極的に参加したほうが絶対に「得」だ。参加しなければ「損」をすると言っても過言ではない。  今、日本人は収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している。これは「国民負担率」という数字で表されるが、令和2年度の見通しは44・6%。このお金の使い道を決めていくのが政治家だ。  幸いなことに、日本は独裁国家ではない。民主主義国家だから、有権者は自分たちの代表である政治家を選挙で選ぶことができる。18歳以上で日本国籍を有していれば、性別や学歴、収入や職業的地位に関係なく、誰もが同じ力の「1票」を持っている。実はこれはスゴイことだ。  もっとわかりやすく言う。  「無収入の人も年収1億円の人も平社員も社長も同じ1票しかない」  それを誰に投じるかは有権者次第であり、1票でも多くの票を得た候補が当選する。これがルールだ。  つまり、選挙に積極的に関わらないでスルーしていると、自分の理想とは違う社会がやってくる可能性がある。考えようによっては、かなりヤバイ。自分の収入の約4割をドブに捨てることにもなりかねない。  今は国政選挙でも投票率5割を切る時代だ。地方選挙ではもっと低いこともある。つまり、「確実に選挙に行く人たち」の力が相対的に大きくなっている。貴重な1票を捨てている人は、あっという間に社会から切り捨てられる存在になるだろう。  政治に参加せず、「収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している」現状を放置すれば、それが5割、6割と高くなっていくのは目に見えている。痛みを避けたければ、まずは選挙に行くしかない。