「温泉むすめ」で全国トップクラスの盛り上がりを見せ、何かと注目を集めている飯坂温泉。温泉街の中にある共同浴場のお湯ばりに〝熱い〟話題を紹介する。(志賀)
熱唱と自然体トークでファン魅了 吉岡茉祐さんが語った公演の感想

巻頭グラビアで、5月に福島市飯坂町で開かれた「温泉むすめ」イベントをリポートした。ミニライブ&トークイベントは今回で4回目。ファンが足を運び続ける背景には、飯坂温泉のキャラクター・飯坂真尋役を演じる声優・吉岡茉祐さんの魅力も大きいだろう。今回の公演を終えた感想について、吉岡さんにコメントを寄せてもらった。
吉岡さんは1995年生まれ、大阪府出身。震災後の仙台で活動するアイドルグループを描いたアニメ『Wake Up, Girls!』で、メインヒロイン・島田真夢役を演じて人気を集めた。2018年から飯坂真尋役を演じ、2019年9月には福島市と飯坂温泉観光協会から飯坂温泉の特別観光大使に任命された。
「何度来ても発見がある」
飯坂温泉で開かれたイベントには今回を含め6回出演し、そのうちミニライブ&トークイベントには4回出演。プライベートでも家族と飯坂温泉に訪れるほどになっている。
トークイベントでは、明るく飾らない話ぶりで笑いを誘いつつ、来場客とやり取りしながら進行し、他の声優に当意即妙のツッコミを入れる。ミニライブでは、迫力のある歌声で「温泉むすめ」関連のオリジナル曲を歌いこなし、ステージ映えするキレのあるダンスで来場客を一気にステージへ引き込む。
飯坂真尋ちゃんは飯坂けんか祭りに参加するぐらい勇ましい性格という設定だが、吉岡さんはそのキャラクター像を体現したようなステージでファンを増やし続けている。
公演後、吉岡さんに今回の公演を終えての感想や飯坂温泉への思いについて語ってもらった。
――公演を終えて、現在の率直な感想を教えてください。
吉岡 トークからライブまで、率直に楽しくてあっという間でした! 本当に「これがミニか???」という規模のミニライブ。体感数秒で、終わるのがもったいないと感じるくらいでした。それも、一緒に盛り上がって熱くなってくれた〝ぽかさん〟たちのおかげです(※ぽかさんとは、「温泉むすめ」のファンを指す「ぽか旦那」、「ぽか女将」の総称)。また飯坂でこの熱さを体感したいです!
――今回で飯坂温泉でのイベント開催は6回目の出演とのことですが、福島市や飯坂温泉への思いを聞かせてください。
吉岡 何度来ても「新鮮さがあるな」と思います。もちろん変わらず素敵な部分はたくさんあって、その上で新しい発見が尽きないのは、きっと進化し続けているからだと思います。初めて訪れた時は「復興」がまだまだ残る印象でしたが、小さな新しさの発見が明るさと彩りに見えて、私もとてもうれしく思います。
――2018年から飯坂真尋役を演じています。いまどのような思いを抱いていますか。
吉岡 長く付き合っていく中で、私なりに「飯坂真尋」としてパフォーマンスできることに自信を持てるようになりました。朗読劇のコーナーでもお話ししましたが、イベントを通していろんな「温泉むすめ」との関わりが生まれることで、さらにキャラクターを深掘りでき、共に「新しい真尋ちゃん」に挑戦させてもらっている感覚です。とても楽しいです!
ミニライブ中には「ライブは楽しいですね!」と笑顔を見せ、飯坂温泉でのイベントには今後もできる限り参加したい思いをのぞかせた吉岡さん。飯坂温泉で「温泉むすめ」が単発的な企画に終始せず、継続的な盛り上がりを見せている背景には、担当声優である吉岡さん自身が何度も訪れ、地元と関係性を築いていることも大きいと言える。
そうした〝熱い思い〟の積み重ねにより、飯坂真尋ちゃんというキャラクターが立体的な存在となり、ファンを強く惹きつけているのだろう。
「温泉むすめ」イベント初体験ルポ 客席と一体となるステージに感動

「温泉むすめ」の魅力とはどのような点なのか。その謎を探るべく、本誌記者が福島市飯坂町で開催されたイベントに実際参加してみた。
記者が「温泉むすめ」に触れたきっかけは、本誌2023年6月号で、漫画・アニメ・ゲームを愛する吉川屋の畠正樹社長を取材した際、飯坂真尋ちゃん関連の取り組みについて説明してもらったことだった。
それを受けて、本誌2024年5月号に「『温泉むすめ』人気に沸き立つ福島市飯坂温泉」という記事を掲載し、その流れで同年10月に開催されたミニライブ&トークイベントを取材、同年12月号巻頭グラビアで取り上げた。
衝撃を受けたのはそのミニライブの熱狂ぶりだ。人気曲「青春サイダー」では歌に合わせて出演者・来場者共にタオルを振り回し、会場が一体となった。吉岡さんの圧巻のステージパフォーマンスにも触れ、「今度は観客として参加してみたい」という思いを抱いていた。そこで、今回はチケットを購入し、「一般客」として参加した。
トークライブを経てスタートしたミニライブでは、吉岡さんら4人が「温泉むすめ」関連のオリジナル曲から、さまざまなジャンルの人気曲を披露した。ただ、どうしても俯瞰的に見ることができず、吉岡さんの迫力ある歌唱とキレのあるダンスに目を奪われてしまう。これが「〝推し〟ができた」ということなのか。
この日もミニライブの最後に、「青春サイダー」を歌うことが明かされ、満を持して開演前に購入したイベント限定タオル(2500円)を取り出した。だが、リズム感がないためか周りのようにうまくタオルを振れず、苦笑いするしかなかった。それでも、4人の歌唱に合わせてペンライトが揺れる光景は圧巻で、終盤に来場客全員が「ラララ……」と大合唱するシーンは、胸にこみ上げるものがあった。
開演数時間前から会場内に物販コーナーやロビー展示、DJブースが設置され、じっくり楽しんでいるうちに時間が経っていた。トークイベントではお笑い芸人・天津飯大郎さんが進行役を務め、吉岡さんらの不規則発言にタジタジになったり鋭いツッコミを入れ、思わず吹き出してしまう場面もあった。
驚いたのは、吉岡さんらが客席に向けて飯坂温泉に宿泊する人を尋ねた際、100人近くの来場客が手を挙げたこと。イベント後には食事場所を求めて温泉街を歩く人の姿も見られた。飯坂温泉観光協会によると、2023年9月に行われたイベントに750人が参加し宿泊やお土産の購入などで約3700万円の経済波及効果が発生したという。今回も同様かそれ以上の経済効果が見込まれるのではないか。
全国に示した成功例
翌日開催された「温泉むすめサミットin飯坂温泉」も開場前から長蛇の列ができ、会場限定グッズを購入する人の列ができた。こちらは「温泉むすめ」を展開するエンバウンド主導ではなく、温泉地関係者による手作りイベントだったが、会場は大いににぎわった。
来場客の9割超が20歳以上にもかかわらず、異様な盛り上がりを見せたのが、飯坂町のマスコットキャラクター「ゆげお」と、草津温泉観光大使「ゆもみちゃん」の対決企画だ。
体の構造上、器用ではないはずの「ゆげお」がけん玉を奇跡的に成功させたシーンでは大歓声が起き、会場に笑顔があふれた。素朴なイベントでも十分盛り上げられる――そのことを飯坂温泉が全国の温泉地の先頭に立って示した格好だ。
神奈川県から足を運んだ30代女性はこのように話した。
「あるゲームをきっかけに『温泉むすめ』の存在を知り、お気に入りのキャラクターができて、モデルとなった温泉地に足を運ぶうちにハマってしまいました。全国の温泉地の中でもダントツに『温泉むすめ』が盛り上がっていて、初心者でも楽しみやすいのが飯坂温泉です。『少し関心がある』と軽い気持ちで訪れた人が、どっぷりハマって帰っていく姿を何度も見てきました」
2日間の取材を終えて、気づけば「青春サイダー」を口ずさみ、次の関連イベントには誰を誘っていくかと考えている自分がいた。飯坂温泉おそるべし、である。
ジュラク花ももの湯「日帰り」終了の背景 飲食料金込み定額プランを導入か

福島市飯坂町の飯坂ホテルジュラクは5月1日、同ホテルに併設されている温泉施設「いいざか花ももの湯」の日帰り入浴と、ランチバイキングの営業を6月末で終了する方針を発表した。背景には、混雑解消のほか、宿泊料金に食事やドリンク、アクティビティーなどが含まれる「オールインクルーシブ」導入に向けた動きがあるとみられている。
いいざか花ももの湯は震災・原発事故の影響による風評被害で客数が減少していることを受け、県内外から多くの観光客を呼び込む狙いから2013年4月に開業した。
木造1階建て・鉄骨造2階建て。敷地面積4500平方㍍、延べ床面積828平方㍍。総事業費約10億円。3本の源泉から湯を引き、温度の違う3種類の内湯、寝ころびの湯、立ち見の湯などバリエーションに富んだ露天風呂、サウナを備えており、市内外から利用客が訪れていた。入館料(浴衣・バスタオル使用料込み)は大人1600円、小学生900円、3歳から未就学児700円。
同施設のファンによると、その魅力は、▽無料駐車場(平面、立体)が設置され、福島交通飯坂線でも足を運べるなど交通アクセスに優れている点、▽サウナで汗を流した後に温泉に入浴できる点、▽休憩室が完備されており長時間過ごせる点、▽ランチバイキング「ライブキッチン花もも」、ラーメンや軽食を注文できる「湯けむり茶屋」で食事も取れる点だとか。それだけに日帰り入浴の終了が発表されると、サウナ愛好者を中心にSNSなどで大きな反響を集めた。
休日には多くの人でにぎわい、営業不振というわけでもなさそうだが、なぜジュラクは日帰り入浴を終了するのか。花ももの湯の神野生裕館長はこう説明する。
「週末の午後など、宿泊のお客様がチェックイン直後に入浴したくても日帰り客で混雑していることが増えました。時間制限を設けてもなかなか解消されなかったので、宿泊客の方が落ち着いた環境の中でくつろげるようにするため、日帰り入浴を終了することになりました」
ジュラク本館には「ゆらり」という大浴場があったが、2年前に老朽化などの理由で営業休止。その結果、宿泊客と日帰り客が花ももの湯に集中し、宿泊客から「落ち着いて入浴できない」という声をもらうこともあった。そのため、「苦渋の決断」で日帰り入浴終了を決めたという。
一方で、地元紙の報道では、飯坂ホテルジュラクのオールインクルーシブ導入を見据えた対応との見方も示されていた。
オールインクルーシブとは、滞在中の食事や温泉、ラウンジでのドリンク(ビール含む)や館内外でのアクティビティーの料金が宿泊料金に含まれているため、追加料金を気にしたり財布を持ち歩かずに旅行を満喫できるというもの。全国7カ所あるホテルジュラクグループのホテルでもオールインクルーシブもしくはフリーフロー(館内でのアルコールやおつまみを自由に飲み食いできる)を導入し好調だという。
神野館長は明言を避けたが、花ももの湯日帰り終了は飯坂ホテルジュラクのオールインクルーシブ導入への布石という面も大きそうだ。
温泉街全体で導入の動き
飯坂温泉では、国登録有形文化財「旧採進堂酒店」を大規模改修してゲストハウスをオープンさせた㈱イノベーションシフト(福島市)社長の浪木克文さんが中心となり、地域全体でオールインクルーシブを導入する構想も検討されている。
素泊まり料金プラス1人2万円前後で、エリア内の飲食店やスナック、菓子店、アクティビティーを自由に利用できるというもので、すでに旅館や飲食店、菓子店などが参加を表明している。今後、関係者間の調整を進め、試験的な実施を経て、本格導入を目指すとのこと。浪木さんによると、インバウンド客などの利用も想定している。
観光庁の旅行・観光消費動向調査(2026年1―3月期1次速報)によると、日本人が国内旅行1回に使う金額は4万9133円で、宿泊・日帰りとも前年同期比を上回っている。物価高・燃料高で日常では節約を余儀なくされるが、せっかく旅行に行くなら出費を惜しまず、その土地ならではの魅力に触れて満喫したい――。こうしたトレンドからオールインクルーシブ型宿泊施設が人気を集める中、飯坂温泉でも導入を進めて観光客増加、温泉街の活性化につなげることができるのか。飯坂ホテルジュラク、そして飯坂町エリア全体でのオールインクルーシブ導入に向けた動きに引き続き注目していきたい。

























