今年2月末から緊迫化している中東情勢の余波が、県内産業を揺るがしている。原油価格の高騰や石油化学製品の基礎原料であるナフサの供給不安・価格高騰が主な要因だ。その影響は多方面に及ぶが、中でもマイナス要因が大きい運送業と建設業の現状を取材した。
「多重下請け構造」の運送業・建設業を直撃
福島商工会議所は5月から6月にかけて「経営状況等に関する調査」(対象・会員企業3462事業所、回答726社、解答率20・9%)を実施した。その結果を見ると、中東情勢の緊迫化が県内産業に深刻な影響を及ぼしていることを浮き彫りにしている。
中東情勢による原油価格高騰・供給不安について問う質問では、「すでにマイナスの影響がある」が40・2%、「現時点ではないが、今後マイナスの影響が見込まれる」が38・7%で、約80%が業績への悪影響を訴えていることが分かった。
「すでにマイナスの影響がある」、「現時点ではないが、今後マイナスの影響が見込まれる」と回答した事業所に、具体的な内容を問う質問の答え(複数回答)としては、以下のような点が挙げられた。
○原油由来の素材・原材料の高騰によるコスト増
○車両・発電設備・ボイラー等の燃料費のコスト増
○原油由来の素材・原材料の調達難納期遅延
こうして見ても、さまざまな影響があることが分かるが、とりわけ厳しい状況に立たされているのが「運送業(運輸業)」と「建設業」だ。
まず運送業の状況を見ると、中東情勢の緊迫化に伴う燃料高騰の影響をモロに受けている。車両(トラック)を使って商品・製品を輸送する業界だから、そうなるのは当然である。もっとも、仕事を請け負う際にその分の価格を上乗せしてもらえれば問題ないが、前述の調査によると「コスト増を全く運賃に価格転嫁できていない」と回答した企業が45%以上だった。そのほか、価格転嫁が「20%未満」、「20〜50%未満」がともに約14%。逆に「価格転嫁が80%以上できた」、「すべてできた」はゼロだった。多くの運送業者が、燃料費高騰分の大部分(あるいはすべて)を自社で被っている状況なのである。
これを裏付けるデータがある。中小企業庁が実施している「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」では、コスト増に対して価格転嫁できているかの調査結果が示されている。その業種別ランキングでは、32業種中、トラック運送は32位で最下位。つまり、運送業はコスト増に対する転嫁率が最も低い業種なのである。
それだけに、燃料高騰などに伴うコスト増は死活問題と言える。
こうした状況を受け、公益社団法人・福島県トラック協会(佐藤信成会長)は6月15日、県(内堀雅雄知事)に対して「中東情勢の緊迫化に伴う燃料高騰・資材不足に対するトラック事業者への緊急支援に関する要請について」という要請書を緊急提出した。

同協会によると、「6月8日に定時総会があり、そこでの声を踏まえて緊急要請に至った」という。
要請書の中で、トラック運送業者は「我が国の経済活動と市民生活を支えるエッセンシャルワーカー」であることを強調したうえで、「コストの急増と資材確保の困難により、過去にない深刻な経営危機に瀕している。物流の停滞は地域経済や住民生活へ甚大な影響を及ぼしかねない」と強い危機感を示している。
緊急要請の3項目
緊急要請の項目は以下の通り。
1、燃料価格高騰に対する激変緩和措置および直接的補助の実施
・軽油価格高騰分を補填するトラック事業者向け直接的な燃料費補助
・地域の実情に応じた地方創生臨時交付金等を活用した燃料費支援制度の実施
2、物流資材・部品の安定確保と調達支援
・エンジンオイル、車両部品、タイヤ、尿素水、ストレッチフィルムなどの必須資材の供給不足に対する流通実態の把握と安定供給への働きかけ
・資材価格高騰分に対する購入補助制度の創設
3、適正な運賃転嫁(Gメン機能の強化と荷主への働きかけ)の徹底
・行政による荷主企業への「燃料サーチャージ」導入や運賃転嫁への理解促進・指導の徹底
・下請法および物流関連法規に基づく監視体制の強化
これまでも、運送業会では燃料高騰の影響を受けることがたびたびあった。ただ、今回本誌がトラック協会関係者や事業者を取材したところ、従来の燃料高騰とは違った、より切迫した問題があることが分かった。
ある関係者はこう話す。
「燃料の値上がりもキツいですが、車両の整備用品が入ってこないことも大きな問題です」
要請書にもあるように、現場では燃料価格のみならず、エンジンオイル、車両部品、タイヤ、排ガス処理に必要な尿素水、荷崩れ防止用のストレッチフィルムなど、物流の継続に不可欠な油脂類・消耗品の供給が不安定になっている。
原油・化学製品の供給が途絶えることにより、エンジンオイルやクーラント(冷却水)が定期交換できない事態が発生すれば、トラックのエンジン故障や事故を招きかねない。タイヤや車両部品が調達できなければ、車両を走らせることもできない。つまりは「トラックはある、ドライバーもいる、仕事(荷物)もあるけど、消耗品が届かないためにトラックを動かせない」という事態に陥りかねないのだ。
さらに事業者を追い詰めるのが、前段で触れた運賃転嫁の問題である。
2024年4月から施行されたドライバーの時間外労働規制(いわゆる2024年問題)以降、運送業界は適正運賃交渉を進めてきた。しかし、今回の急激な燃料・資材高騰に対して、荷主側(発注者)に「趣旨自体は理解してもらっている」(トラック協会関係者)というものの、実際に「燃料サーチャージ」の導入に応じる荷主は一部の大手に限られている。県内の中小荷主や下請け構造の末端では、「値上げを言えばライバル他社に仕事を取られる」という恐怖心から、転嫁の申し入れすらできない事業者も少なくない。
トラック協会が県に対して、行政による荷主への強い指導促進や、下請法・物流関連法規に基づく監視体制を求めたのは、民間同士の交渉に任せていては、構造的弱者である運送事業者が遠からず限界に達するからにほかならない。
一方、建設業でも、コスト増分の価格転嫁が難しい状況がある。前述・福島商議所の調査によると、「全くできない」が約21%、「20%未満」が約13%、「20〜50%未満」が約18%で、50%以上が大幅なコスト増分を自己吸収せざるを得ない状況になっていることが分かる。
半面、「全てできた」が約8%、「80%以上」が約12%となっており、20%程度は大部分(あるいはすべて)で価格転嫁できている実態もある。
ただ、業界関係者によると、「それは官公庁の仕事のみを請け負っているケースでしょう」とのこと。
官公庁の工事ではスライド条項によって、工事期間中のコスト高騰に対応しているほか、県では6月から「中東情勢の変化による建設資材の流通状況を踏まえた設計変更」の運用も行っている。これは「ナフサ由来の建設資材について、代替資材を調達した場合や流通経路を見直して調達する場合などに、必要経費を設計変更により計上する」というもの。
公共工事では、物価や賃金の急激な高騰に対応するため「インフレスライド条項」「単品スライド条項」といった補填制度があるほか、今回の事態を受け、設計変更制度もある。そのため、「おおむね(あるいはすべて)価格転嫁できている」といった回答が20%程度あったわけ。
ただ、それら制度も「万能」ではない。スライド条項は、「1%を超える場合」しか適用されないため、1%未満のスライド(価格高騰)は補填してもらえない。
「工事を受注してから実際に着工するまでのタイムラグで、木材、鉄骨・鉄筋、生コンクリート、サイディング・屋根材、石膏ボード・フローリングなどが、それぞれ1%未満の価格上昇があったとしても、スライド条項に該当しません。一方で、それらが積み重なると大きなマイナスになります」(業界関係者)
設計変更についても、「ナフサ由来の建設資材について、代替資材を調達した場合や流通経路を見直して調達する場合」とされており、それ以外は対象外。
「砕石やアスファルトなども価格が高騰しているだけでなく、手配しにくい状況になっていますが、これらはナフサ由来ではないため、設計変更制度の対象外なのです」(同)
こうして聞いても、官公庁の工事は価格転嫁しやすい状況ではあるものの、完全でないことが分かる。
「多重下請け構造」の問題
一方で「民間の仕事ではさらに価格転嫁が難しい」(業界関係者)とのことで、それが「全く価格転嫁できない」、「一部にとどまる」といった状況を生み出している。
このほか、前述・福島商議所調査の自由回答では建設業者から以下のような回答があった。
○あらゆる住宅資材・電設資材・管材の出荷停止や納期遅延により段取りが組めず、現場がストップしたり休業したりする事態が発生している。
○資材や輸送費、重機の燃料費が高騰し、着工時にはすでに提出済みの見積額と合わなくなっており、価格高騰を理由とした施主の計画中止(受注減)も起きている。
○資材業者からはナフサ由来の建設資材の納期が不透明と言われるものの、価格が値上がりすると一定量供給されるため、中間業者のどこかが止めている可能性も感じている。
本誌が複数業界関係者に聞いたところ、ここに記されていることは大小の違いはあるものの、多くの現場で起きていることのようだ。
ここで取り上げた2つの業種に共通するのは「多重下請け構造」であることだ。元請けはコスト転嫁やリスク回避を行い、それが価格据え置き、資材調達の丸投げ、低運賃・低請負工賃の強要といった形で下請け・孫請けにツケが回ってくる構造なのである。とはいえ、運送業にしても、建設業にしても、現場で汗を流す人がいなくなれば、社会そのものが成り立たなくなる。すなわち、トラックが止まれば物流は麻痺し、地場の建設業者が立ちいかなくなれば除雪や災害復旧も不可能になる。
中東情勢の緊迫化による原油高・資材難は、「多重下請け構造」の問題点をより顕著にしたと言える。発注者や元請けは、下請けにコストとリスクを押し付ける「使い捨て」の慣習を改めなければならないし、行政は、多重下請け構造の適正化や不当な押し付けなどに対する指導を強化する必要がある。








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