6月2日早朝、福島市笹木野地区に現れた1頭のツキノワグマが、4人を襲った末に工場内に立てこもる事件が起きた。市はその後、クマ対策を強化しているが、市民からは「本当に実効性があるのか」と疑問の声が上がっている。
求められる抜本的対策と現体制の検証
6月の〝クマ立てこもり事件〟については本誌7月号で取り上げた。

クマが工場の従業員や近隣住民を襲いながら移動し、笹木野地区内の電子機器製造会社「OKIシンフォテック」の工場内に入り込んだ。
市は緊急銃猟を許可したが、「建物内には引火性物質があり、跳弾などの危険性も高い」として、実弾は使わない方針となり、狩猟免許を持つ市職員ハンター(鳥獣被害対策専門職員=ガバメントハンター)が麻酔銃での捕獲を試みた。
だが、麻酔銃は命中したものの薬剤が注入されず、約1日半にわたって捕獲を試みた末に、建物の窓から逃げられた。「大捕物」となった挙げ句に、人を襲ったクマを仕留めきれず、再び市街地に逃がすという最悪の事態となった。
さらには、報道機関向けのプレスリリースを出すまでにタイムラグがあり、市民向けの情報発信も大幅に遅れたことが問題視された。
馬場雄基市長は緊急記者会見で「関係機関の協力を得て最善を尽くしてきたが、結果を出せず反省している」と述べた。その一方で、クマが水道の蛇口に手をかけて水を飲んだり、窓の鍵を開けて出て行ったとみられることから「極めて知能が高いクマだと思う」と言及した。
ただ、新聞などに登場した専門家からは「前足をバタバタさせていたら、たまたま鍵が開いた可能性はある」「偶発的に爪にひっかかるなどして開いたと考えるのが妥当ではないか」といった指摘も出た。
緊急銃猟で主体となり現場の指揮を執るのは市町村だ。今回は福島市が司令塔となったわけだが、県や警察の関係者からは「市が事前に定めたマニュアル通りに全く進まず、現場対応に課題が残った」「これで県や警察に責任が及ぶのでは納得できない」「知能が高いクマだったから仕方ないというような説明では市民の理解は得られない」という声が漏れ聞こえていた。
なぜ麻酔銃による捕獲はうまくいかなかったのか、わなを複数設置して捕らえられなかったのか、警察など大人数で包囲していたのになぜ逃げられたのか。どんな課題が隠されていたのか、検証すべき点は多い。
記者会見で馬場市長は緊急銃猟での現場対応や監視体制、情報共有について、関係機関と協議して検証・見直しを進め、情報発信の遅れに関しても改善する考えを示していた。事件から2カ月以上が経過した8月下旬、市に対策の進捗状況を尋ねたところ、以下のような説明があった。
▽6月の事例は農政部が担当し、2日間にわたって緊急体制を継続したが、想定を超える長期対応となったことで、マンパワー不足と担当職員の疲労が課題となった。その反省から、今後は危機事象発生時に危機管理室が司令塔の役割を担い、庁内横断的な連携を強化する。
▽クマが逃走した際に市民への周知が遅れたことを教訓に、市公式LINEと防災メール(キャリアメール)で24時間情報を配信する体制を整えた。目撃時刻と市への入電時刻のタイムラグが2時間未満の情報は「緊急性あり」と定義し、24時間情報発信の対象とする。
▽河川敷の草刈りについて福島河川国道事務所に要望し、実施につなげた。また、馬場市長が東北直轄河川治水期成同盟会連合会の会長として、中央省庁に要望活動を行う中で、国交省、内閣府、財務省に、河川敷へのクマの侵入抑制に向けた予算確保を求めた。その結果、通常の治水・維持管理予算とは別枠で、クマ対策専用の予算を確保する道筋を付けた。
このほか、従来から取り組んでいる対策としては、▽ガバメントハンターの配置、▽目撃情報を地図上で確認できる「獣マップ」の運用、▽クマ忌避音響装置の設置など。
こうして並べてみると、6月の事例を教訓にさまざまな対策メニューを打ち出して取り組んでいるように見えるが、それらが実際にクマ出没数の抑制や人的被害の防止につながるのかという点については、市民から厳しい見方も出ている。
「LINEで情報を流すのはもともとやっていたが、頻繁に開いて見るものでもない。効果があるのだろうか。そもそも知らされてどう対応すればいいかも分からない」
「他の自治体でも河川敷の草刈りをはじめとした侵入抑制策を実施しているが、それでもクマは出没する。予算を確保できたのは結構なことだが、そこからどうするのか、具体的な方向性が見えない。正直、〝やっている感〟を演出してるようにしか見えない」
「以前から獣マップを掲載しているが、同じ個体だろうがなんだろうが、ただ目撃情報を地図に表示しているだけなので見づらいし、どう警戒すればいいか分からない」
「クマ忌避音響装置で追っ払ったところで、別の場所へ移動するだけではないか。箱わなにかかったクマも必ず駆除されるわけではないとも聞く。こうした取り組みが根本的な解決につながるのか疑問だ」
市議会で指摘された課題
昨年秋には県がクマの緊急対策として約3000万円の補正予算を組み、市町村を支援する緊急対策事業を行った。専門家や県職員を市町村に派遣し、捕獲の指導やパトロールの強化に取り組むほか、ドラム缶式の箱わなやクマ撃退スプレーを貸し出すというものだ。こうした新たな対策を増やす一方で、実際にクマと向き合う「現場の体制」は十分なのだろうか。
福島市議会では昨年12月定例会の一般質問で、この問題を先取りするような質疑が行われていた。
わな猟免許を持ち、猟友会員として鳥獣被害対策実施隊で活動する川又康彦市議(真結の会、3期)は、市が荒川上流に設置した忌避音響装置や、クマへのGPS装着、ガバメントハンターとして活動する鳥獣被害対策専門職員などの取り組みを評価する一方、猟友会との連携強化を求めた。

質疑で見えてきたのが、箱わなをめぐる情報共有の実態だった。市が所有するクマ用の箱わなは11基で、出没ピーク時は10基を設置する状況となっていた。ところが、市は猟友会が保有する箱わなの数を把握していなかったのだ。
川又市議は「支部長に確認して、『各方部で個別に管理しているので数の把握までは必要ない』と言われたから、それで連携は終わり、では話が進まない」と指摘。猟友会が持つ箱わなや人員をより積極的に活用するよう求めた。これに対して市も「農業企画課職員4人と鳥獣被害対策専門職員(ガバメントハンター)2人だけで担うことには限界がある」と認め、猟友会で構成する実施隊とのさらなる連携を図る考えを示した。
佐々木優市議(日本共産党、3期)も一般質問で、市のクマ対応を担う人員不足や猟友会との連携を取り上げた。

市によると、捕獲など専門的知見が必要な現場対応は、前述した農業企画課職員4人と鳥獣被害対策専門職員2人が中心になる。ただ、同じ時間帯に複数箇所でクマが出没するケースもあり、市は「職員体制の確保に苦慮している」と明かした。
このほか、佐々木市議は、農地にクマの足跡やふんが確認され、人的被害が懸念される場合には迅速にわなを設置すべきだと要求。市は、人的被害防止のための捕獲は市の権限で行えると説明する一方、「職員の人員体制の状況から、人的被害の対応だけで今のところ手いっぱいであり、猟友会に捕獲を依頼する状況なので、意見交換しながら対応していきたい」と答弁した。
また、佐々木市議は猟友会関係者から「市の緊急連絡用携帯電話がなかなかつながらない」との声が出ていることも紹介し、担当職員の増員や待遇改善、猟友会との一層の連携を求めた。
これらの質疑が6月の〝クマ立てこもり事件〟より前に行われていたわけ。
議会ではすでに市職員だけで対応することの限界や猟友会との連携不足が指摘され、市自身も現在の人員体制には限界があることを認めていた。そう考えると、6月の事件を受けて情報発信や庁内の指揮命令系統を見直すだけでなく、猟友会の人員、装備、経験や知見を緊急時にどう生かすのかまで踏み込んで体制を構築できるかが重要になる。
もっとも、担当職員やガバメントハンターを単純に増員すれば解決するという話でもないだろう。クマの生態に詳しい有識者も市のアドバイザーに就任しているが、クマの個体数や目撃数の抑制という点でその知見がどう生かされているのか、検証すべき点はまだ多い。これについては稿を改めて取り上げたい。
秋に向けて検証を

クマの出没や人的被害は全国各地で相次いでいる。屋外イベントが急遽中止になるケースもあり、登山やキャンプなどのアウトドアの行動にも影響を与えている。山あいの自治体にとって、クマへの不安から交流人口が減少すれば、地域経済への影響も避けられない。だからこそ、行政には活用できる人材や経験、知恵を総動員して対策に当たることが求められる。
川又
市内での今年4月以降のクマ目撃件数は4月11件、5月23件、6月53件、7月14件。7月は例年と比べて少なく、ニュースで取り上げられることも減っていたが、8月25日には福島市渡利地区の住宅地でクマの目撃が相次いだ。周辺には渡利小学校、渡利中学校、わたり病院などがある。
これから到来する秋は冬ごもりを前にクマがエサを求めて活発に動く時期だ。昨年は10月に145件、11月に131件の目撃情報が寄せられた。市街地で再び人的被害が起きないという保証はない。
馬場市長には市民から寄せられる耳の痛い意見にも向き合いながら、「対策の数を増やした」だけで終わらせず、それらが抜本的対策につながるのかという視点から、クマ対策を検証し続けていくことが求められる。






















に向けて掲げられたプラカード。過激な言葉が並んだ=2025年10月19日、仙台市青葉区河北新報提供-002_eyecatch-520x305.jpg)



