公益社団法人郡山市シルバー人材センター(郡山市、齋藤正夫理事長)の男性会員がセンターを介して結んだ草刈りの業務委託契約を巡り、2024年11月に施行されたフリーランス新法違反があったとして是正を求めている。申し出はセンターからクレーム扱いされ弁護士対応に。さらに一方的に契約解除されたとして、男性は損害賠償を求める民事調停を申し立てた。高齢者のやりがいづくりを目的に行われるシルバー人材事業では、会員の怪我や発生した損害にセンターの安全配慮義務はなく、危険を伴う草刈り作業では種々の問題が起きている。
「フリーランス新法を無視」と公取委に通報

郡山市シルバー人材センターに対して業務委託契約の解除無効と損害賠償を求める民事調停を郡山簡易裁判所に申し立てたのは同センター会員で市内在住のXさん(63)。本誌8月号記事「郡山市シルバー人材センターが抱える会員・職員との揉め事」で詳報した。Xさんは草刈り業務の是正をセンターに事あるごとに申し出、上部団体である県シルバー人材センター連合会や全国シルバー人材センター事業協会にも相談したところ、「業務妨害に当たるクレーム」と判断され、郡山市シルバー人材センターが雇った弁護士からやめるようにと内容証明郵便が届いた。
Xさんは、その後もセンターを介して結んだ業務委託契約を巡り個人事業主を守るフリーランス新法違反があったとして、公正取引委員会や郡山市役所に通報した。民事調停は、厚生労働省が第二東京弁護士会に運営を委託している「フリーランス・トラブル110番」(0120―532―110)に連絡した際に勧められたという。
Xさんが事の経緯を振り返る。
「私はこれまで林業や造園業に携わってきました。中でも草刈りは得意であり気に入っている仕事です。民間事業者の下請けに入って県内各地の草刈りに出張してきました。自前の道具も持っています。特技の草刈りを生かしたいと郡山市シルバー人材センターの会員になりました」
2025年に同センターに会員登録し、今年5月から草刈りチームに所属し毎週月、火、水曜日を基本に業務を請け負うことになった。草刈り機を持ち込み、自前の軽トラを作業に用いた。当初、センター事務局の職員から「報酬は1時間当たり1400円」と説明されたが、これがトラブルの元になる。
「初日に現場に到着して同僚に報酬額を確認したところ、1時間当たりの報酬は草刈り機を使用した時のみ1400円で、草むしりや集積、運搬などのその他の作業は最低賃金の1033円と伝えられました。事務局職員に確認すると『伝えなかったのは申し訳ない』と謝罪を受けました」(Xさん)
職員の謝罪から、業務の受託者であるXさんへの説明不足が明らかになった。だが、Xさんによると、草刈り業務に関わる業務委託契約書を渡されなかったという。毎日の作業報告もチームリーダーが1人でまとめて行っており、Xさんが内容を確認する機会はなかった。作業前に空欄の就業報告書を渡されたが、自分で記入することはなかったという。
「2024年11月のフリーランス新法施行後、業務委託契約は発注者と特定受託事業者が直接結ぶ形に改められました。シルバー人材センターの会員は特定受託事業者です。これまでは、官公庁や民間事業者が発注者となりセンターに委託、そこから会員に再委託する形でした(図参照)。会員が発注者との契約内容を知らされず、業務報告も本人の知らないうちにチームリーダーの管理下で行われるのは同法に違反すると思います」(同)
厚労省職業安定局高齢者雇用対策課の担当者も、フリーランス新法がシルバー人材センター会員にも適用されることを明言する。
「全国のシルバー人材センターにはフリーランス新法に準じた契約に移行するよう促しています。センターは再委託者ではなく、発注者と会員を仲介して結びつける橋渡しの役割に変わりました(図参照)」

Xさんが参照したのは、同法3条の次の部分。
《業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない》
弁護士からの内容証明
草刈り機を使った報酬額1400円とそれ以外の額1033円が混在することを発注者から書面で知らされなかったのは同法に抵触するとの言い分だ。 ただし、この条文には《正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない》ともある。Xさんのケースに「正当な理由」が当てはまるかどうかは不明だが、いずれにせよ事後的にでも書面で契約内容を明示する必要がある。
Xさんは契約内容を書面で明らかにしようと、①業務委託契約書、②報酬額の内訳、③請負作業報告書(日報)の用紙を交付するようセンターの担当職員に求めた。だが、明確な回答はなく交付されなかったという。再三の求めが執拗と受け取られたのだろうか。7月4日にセンターの代理人弁護士から「受任通知書」が内容証明郵便で自宅に送られてきた。要約すると次のような内容だった。
Xさんは職員に対し仕事に関する苦情を頻繁にしている。センターとしてはこれまで誠実に説明してきたが納得してもらえないようなのでもうやめてほしい。センターの他、県シルバー人材センター連合会や全国シルバー人材センター事業協会などの上部団体にまで苦情を申し立てたのは「就業不適格会員に対する取扱要領」に抵触する恐れがあるので、処置を講じる場合もある。今後の交渉窓口は代理人弁護士になるので、センターへは直接連絡しないように。
悪いことは重なるもので、7月6日には車の故障で1時間遅れるとチームリーダーに電話したところ「もう来なくていい」と言われた。現場に駆けつけて聞くと、センター事務局の了解の上だという。担当職員に確認したところ、「業務委託契約はいつでも解除できる」と言われたが、Xさんは「一方的な解除は無効」と主張し、民事調停で損害賠償と契約解除無効を求めている。
センターは発注者と会員に業務を紹介するに当たり報酬額を定めている。センターの不適切な点は、草刈りの報酬額の内訳に関して、事務局職員の説明が不足していたこと、業務報告して報酬を計算する際にチームリーダーがXさんの確認を得ずに決定したことに集約される。
センターから「もう来なくていい」と言われたXさんは、現在、民間事業者から草刈り業務を請け負っている。比較すると、センターの草刈り作業は効率や安全面で不備があったという。
「夏の熱い時間帯での作業は熱中症の危険がありますが、休憩は十分ではありませんでした。発注は多いのですが、従事する会員が少ないので1チーム当たり数多くこなさなければなりません。道路脇では車との衝突を防ぐために柵の設置や見張り人員が必要ですし、砂利が飛散して周囲の車に損害を与えないように防護ネットで覆う人も欠かせません。私の所属していたチームでは対策が施されておらず、事務局に改善を訴えましたが聞き入れてもらえませんでした」
事故が多い草刈り
シルバー人材センターが期待されている草刈り業務は会員の高齢化で全国的に事故率が上がっている。大怪我をしても、センターは会員と雇用関係がないため安全配慮義務がなく、十分な補償が得られない。大阪府ではセンターの傷害保険で賄いきれない分の治療費を求め会員が損害賠償を求め訴訟になった事例もあった(東京新聞2022年9月28日付)。
全国のセンターと同じように、郡山市シルバー人材センターも「怪我は自己責任である」と承諾書に署名した上で会員に登録する。
・就業中の傷害や損害事故はセンターが担保している範囲の保険金の支払いが限度。治療にかかる全費用は会員本人が加入する健康保険で対応すること。
・会員の故意または重大な過失により、または自動車の所有、使用、管理に起因する賠償責任が発生した場合「シルバー人材センター総合賠償責任保険」で対応できない場合は、会員が負うものとすること。
シルバー人材センターは「やりがい」を打ち出しているので、軽微な仕事が多く報酬は低い。センターの会員数は2009年度のピーク時79万人から15%減る一方、民間で自分に合った仕事を探す機会は増え、ネットアプリ「タイミー」に登録する高齢者は1年で2倍になったという(日経新聞6月5日付)。
今後、福島県内でもシルバー人材センターの会員減少がますます進むことが予想される。





















に向けて掲げられたプラカード。過激な言葉が並んだ=2025年10月19日、仙台市青葉区河北新報提供-002_eyecatch-520x305.jpg)



