近年の福島県の高校野球は聖光学院を抜きにして語れない。東日大昌平の江井監督も「まずは聖光学院との対戦にピークを持っていかなければならない」と語るほど、甲子園を目指すうえで絶対に意識しなければならないチームだ。その聖光学院は、追われる立場から、追う立場になったわけだが、指揮官は東日大昌平の戦いぶりをどのように見て、いま何を思うのか。

8月中旬、伊達市にある聖光学院のグラウンドでは、新チームが秋季大会に向けた練習をしていた。例年であれば、この時期は甲子園の熱戦の最中にいることが多い。2007年から2019年まで打ち立てた前人未到の「夏13連覇」(※コロナ禍で甲子園が中止になった2020年の独自大会を含めると14連覇)をはじめ、昨年までの過去20年間で18回の選手権出場を誇る同校にとって、8月中旬に自校のグラウンドで練習する姿は「珍しい光景」と言える。
夏の甲子園出場を逃したショックは当然あっただろうが、斎藤智也監督は立ち止まることなく、敗戦を冷静に受け止め、「次」を見据えていた。

「たまたま今年はそんなに暑くないから、まだいいけどね。この時期にここ(地元)にいること自体が久々ですよ」
グラウンドの選手たちに視線を送りつつ、本誌記者にそう切り出した斎藤監督。福島県大会準決勝で東日大昌平に敗れたあの試合に話が及ぶと、一拍置いてこう話した。
「負けたことは認めざるを得ないですね。あの試合の東日大昌平・照沼(佑崇)投手のピッチングを褒めるしかない。コントロール、配球の切り替えが素晴らしく、無四球で94球の完投ですからね。うちが狙い球を絞ると、縦のスライダーを中心に配球を切り替えてきた。打つ術がないくらい素晴らしい内容でした。うちの選手たちの心の中に『打てないことはないだろう』という過度な自信や隙があったのかもしれない」
自らの采配や狙い球の指示、選手たちの心理状態などを冷静に分析しながら、指揮官はまっすぐに敗戦を受け止めていた。
今夏の聖光学院は、斎藤監督自身が「歴代でも指折りのチーム」と胸を張るほどの完成度を誇っていた。
昨年秋と今年春の県大会で優勝し、県内負けなし。6月の春季東北大会では、共にセンバツに出場した八戸学院光星(青森県)、東北(宮城県)に勝利し、決勝では今夏の甲子園でベスト8に進出した仙台育英(宮城県)を相手に、苦しい試合ながら、逆転サヨナラ勝ちで優勝した。その前後では、今春の甲子園でベスト4に進出した専大松戸(千葉県)、今夏の甲子園で準優勝だった健大高崎(群馬県)と練習試合を行い、勝利していた。それもかなり内容のいいゲームだった。
第三部の高校野球通お笑い芸人との座談会で、「今年の聖光学院は、甲子園でも上位候補に挙がるんじゃないかという下馬評でした」(いけだてつやさん)、「夏の大会までに、強い勝ち方で強豪校を倒していたから、今年も福島県は聖光学院で固いと思っていました」(かみじょうたけしさん)との談話があった。そこからも今年の聖光学院のチーム力の高さがうかがえよう。
「2022年の全国ベスト4を上回るのではないか」――そんな期待さえあったチームが、県大会の準決勝で姿を消したのだ。
「いままでの感覚なら、これくらいのチームなら、間違いなく上(全国の上位)で勝負できるという自負がありました。それが負けたんだから、まさに青天の霹靂ですよ。自分たちがいままで積み上げてきた常識も考え方も全部ひっくり返されたような感覚。でも、甲子園に行くのは決して当たり前ではない。60分の1(参加校約60校に対して、甲子園の切符は1つ)の確率を勝ち取る奇跡なんだという厳しさを、あらためて叩きつけられた瞬間でした」(斎藤監督)
聖光学院は過去20年以上にわたり、多い時で約90校、現在は約60校のライバルたちが抱く「甲子園出場」という夢をことごとく跳ね除けてきた。だからこそ、斎藤監督は「お前たちは何十校、何百人の夢を奪ってきたんだ。だから、勝者には勝者としての責務がある」と選手たちに説き続けてきた。
それが今回は「夢を奪われる側」になった。その中での気づきもあったという。
「『甲子園に行くのが当たり前』『勝ち続けるのが当たり前』という思いが、自分の中のどこかにあったのかもしれないし、傲慢になっていた部分もあったかもしれない。でも、その通りにいかないのが勝負の世界。足元を冷徹に見つめ直す、最高のきっかけになったと思っています」
東北大会での仙台育英、練習試合での専大松戸、健大高崎との対戦では、ドラフト候補と言われる好投手を攻略していた。今年に入ってから、練習試合を含め、唯一打てなかったのが県大会準決勝で対戦した東日大昌平の照沼投手だった。
「甲子園も見ていたけど、(照沼投手は)ウチとの試合が一番状態が良かったと思います。照沼投手だけでなく、バッティング、走塁、守備といろんな角度から見たけど、甲子園で勝つにふさわしい状態に仕上がっていました。江井(康胤)監督のチーム作りも素晴らしいと思うし、いままでの東日大昌平とは明らかに次元が変わりましたね」
斎藤監督は、ライバルの台頭を素直に称賛しつつも、その言葉の端々には静かな闘志が宿っていた。
「実績にあぐらをかくつもりはサラサラない。向こう(東日大昌平)が光を放ったのなら、こっちはそれを超える泥臭い野球で挑むだけですよ」
実は、聖光学院には、あるジンクスが存在する。甲子園常連校と言われるようになって以降、夏の県大会で負けたのは、今年と2006年、2021年のわずか3回しかない。その中で、甲子園出場を逃した2006年、2021年はともに秋季県大会優勝、東北大会準優勝で、翌春のセンバツの切符を手にしている。
夏の甲子園に出場したチームは、地元凱旋後に束の間の休息を経て新チームを始動させるため、どうしてもチーム作りに遅れが生じる。聖光学院は常にそういうスケジュールで秋の公式戦に臨んでいた。ただ、甲子園に出ていないときは十分な準備期間がある。その場合の聖光学院は強いということだ。
実際、今夏も敗戦直後から練習試合をかなりのペースでこなし、8月中旬時点で20試合以上の実戦を重ねている。他県の強豪と対戦する中で、新チームの骨格が形成されつつある。
「2021年秋のチームは、結成当初は力がなかった。大勝する試合は1つもなくて、2対1とか3対2とか接戦ばかり。でも、守って守って、スクイズなどの小技を駆使して1点を取って勝っていくうちに、チームが急成長していった。今年の新チームもまさにそのタイプ。投手陣には計算が立つ素材が揃っているから、ロースコアの接戦をモノにする聖光らしい野球を徹底的に叩き込んでいます」
夏に悔しい思いをした後の聖光学院の秋の強さ――それは単に、十分な準備期間があるということだけではない。先輩たちの無念を自分たちが晴らすという強い思いの結晶でもある。この伝統こそが、聖光学院の「本当の強さ」。この秋はそれを見せてくれるに違いない。





















に向けて掲げられたプラカード。過激な言葉が並んだ=2025年10月19日、仙台市青葉区河北新報提供-002_eyecatch-520x305.jpg)



