急激な人口減少や少子高齢化、人手不足――。地方の市町村は単独での解決が困難な課題に直面している。そうした中、東白川郡(棚倉町、塙町、矢祭町、鮫川村)では10年後も持続可能な地域をつくる視点から、さまざまな分野で広域連携を検討している。行政DX、インフラ、医療、教育、観光の5つのテーマに対する4町村長の回答から広域連携の可能性と課題を探る(※各町村長からの回答を編集部が再構成した)。
参加者




広域連携で持続可能な地域を目指す【東白川郡】
――8月現在の東白川郡の郡内人口は約2万7400人です。今後、人口減少に伴う財政基盤の縮小や行政職員の不足などが懸念されています。限られた職員で行政サービスを維持していくためには、4町村に共通する業務を共同化するなど、自治体の枠を越えて効率化を図る発想も必要になりそうです。基幹システムの共同運用や総務・人事・発注といったバックオフィス業務の共通化は可能なのでしょうか。
宮田 行政職員が減少する中、業務の効率化は急務となっています。各町村でDX(デジタル変革)対応を進めていますが、システム導入・運用コストが増え、高度な専門知識を持つ職員の育成も課題になっています。単独での対応には限界があるので、基幹システムの共同運用や総務・人事・発注業務の集約化を含め、東白川郡全体で自治体間連携の在り方を検討していく必要があると考えています。
宗田 共同化できる業務を4町村で検討することは重要だと思います。ただ、DXは導入経費などの面でスケールメリットが働くので、県南9市町村や県全体など、より広域的な枠組みで取り組むことも有効と考えます。すでに県南9市町村では情報共有チャットツールを活用しています。そうした実績を踏まえながら、システムの共同利用や業務の標準化を考えていけると思います。
佐川 ネットワーク系については、すでに県南9市町村で構成する白河地方広域市町村圏整備組合で共同構築しており、効率化や一定のコスト削減は図られています。ただ、基幹システムの共同運用については簡単ではありません。どの町村にサーバーなどの機器類を設置するのか、共同運用のコストを各町村がどう負担するのかなど、実現までに克服しなければならない課題が多いです。
宮川 バックオフィスの共通化はメリットが多い一方、共通化することで各地域の特性やニーズなどが反映されにくくなる恐れもあります。DXによる自治体連携についても、基幹業務システムの標準化・共通化による共同調達やシステム共有、広域連携による外部人材確保などの効果が期待できますが、こちらも地域特性を考慮した制度設計や情報共有の仕組みが必要になると考えます。いずれも国や県のリーダーシップと支援が欠かせないと考えます。
――広域連携がすでに進んでいる分野の一つが防災ですが、高度経済成長期などに整備された道路や橋梁の老朽化が進み、技術職員の不足も課題になっています。激甚化する自然災害への備えを共同で進めるとともに、インフラの点検・修繕を共同発注する余地はあるでしょうか。
宮川 防災については、すでに郡内の町村で相互応援協定を締結し、災害時の応援・協力体制を整備しています。毎年度開催される福島県消防協会東白川幹部大会では、地域住民の安全・安心の確保のため、火災予防・災害対策などの充実強化に努めているところです。当町では2024年度に「災害用トイレトレーラー」を整備し、近隣自治体でトイレが不足した場合も出動できる体制を整えました。まさに町村の境界を越えた備えを進めています。
宗田 災害は町村境を越えて発生するもの。被害情報の共有、避難所や備蓄品の相互融通、応援職員の派遣など、平時から「顔の見える連携体制」を構築しておくことが大切だと考えています。
宮田 郡内町村間の消防・消防団の相互応援協定に加え、有事の際に備えて、郡内町村が共同で、東西しらかわ農業協同組合(JA東西しらかわ)と生活物資供給の協定を結んでいます。
子育て支援の新たな取り組み
――防災については、すでに複数の相互応援・物資供給の枠組みがあるわけですね。一方のインフラ管理についてはいかがでしょうか。
宮川 1960〜70年代にかけて集中的に整備された道路や橋梁が老朽化しており、特に建設から50年以上経つ橋梁が増えています。安全確保の維持管理には膨大なコストと手間がかかります。不具合が起きてから対応する「事後保全型」から計画的に修繕する「予防保全型」に転換するとともに、同じ課題を抱える近隣町村との広域的な発注も考える必要があります。
宗田 今後、技術職員が不足する中で老朽化が一層進み、点検・修繕に要する経費や業務量はさらに増えると予想されます。4町村それぞれのインフラの状況や発注時期を見ながら、点検業務の共同発注や技術的知見の共有などができないか検討し、安全性の確保と費用縮減につなげていきたいです。
宮田 インフラは各町村で構造物の種類や管理状況が異なるため、現状は個別に発注しています。ただ、上下水道施設の統廃合の検討も含め、広域的な視点で修繕計画を共有する必要性が高まっています。技術職員が限られる中、質を落とさず省力化するには、国や広域でのサポート体制も必要だと感じています。
佐川 共同発注によるコスト低減は期待できると思います。しかし、実務面では課題もあります。例えば、4町村で実施するなら、どこかが取りまとめ役を担わなければなりません。共同発注の範囲をどこまで設定するかという問題もあります。現在は可能性を模索している段階です。
――若者や子育て世代に「住み続けたい」「住んでみたい」と思ってもらうには、医療面の安心も欠かせません。東白川郡では昨年、塙厚生病院が医師不足などの理由から分娩の取り扱いを休止するなど、専門医不足が課題となっています。その一方で、今年度から4町村共同で「産婦人科・小児科オンライン」アプリが導入されています。
佐川 医師などに24時間相談ができるほか、育児に関する情報などを入手することができます。郡内で唯一産婦人科を設置している塙厚生病院でも医師・助産師が不足しています。小さなお子さんをお持ちの方、これから出産を迎える方の不安を少しでも解消する手段になると思っています。
宗田 産婦人科や小児科の専門医が身近に少ない地域だからこそ、オンライン相談は妊産婦や子育て世帯の不安を軽減する有効な手段になります。共同で導入することで、利用対象者を広く確保でき、費用負担の軽減や共通した利用案内、広報が可能になります。「東白川郡のどこに住んでいても専門家に相談できる」という環境を整えること自体が、地域全体の安心感を高めると思いますし、魅力発信につなげていければと考えています。
宮川 こうしたデジタル医療基盤を広域で共通化することは、限られた医療資源を補い、住民の移動負担を軽減することにつながります。子育て世代の孤独感や不安感をやわらげ、「いつでもつながれる」という安心感を提供することで、次世代が安心して生活し、子育てできる地域としてブランディングを図り、移住・定住の促進にも結び付くものと期待しております。
宮田 今後、こうしたサービスについては、利用ニーズや費用対効果、運用体制、関係機関との役割分担などを丁寧に整理しながら、より効果的な運用の在り方を検討していく必要があると考えています。
〝部活動〟広域連携の課題
――少子化の影響が出ているのが学校の部活動です。県内では単独維持が困難になった事例を見聞きします。郡全体を一つの単位とした「地域クラブ活動」に移行し、子どもの選択肢を守ることは現実的に可能だとお考えですか。
宗田 鮫川村では、実際に生徒数の減少に伴いチーム編成が難しくなり、部活動の選択肢が限られています。現在は校内での活動を維持しながら、近隣市町村との合同チームで大会に出場したり、他市町村のクラブチームに参加して活動を補っている状況です。郡教育長会で現状を共有したところ、各町村で実情が異なり、現時点では国や他市町村の動向を注視すべきであり、具体的な広域連携の着手は時期尚早との判断にとどまっています。それでも、広域連携の是非も含め、早急に対応すべき課題であると認識しています。
宮川 棚倉町でも独自に検討を進める一方、2024年度から郡内の教育委員会が連携して情報共有や先進事例研究などに取り組んでいます。昨年12月には文部科学省のガイドラインで地域クラブ活動の推進に関する考え方が示されました。将来にわたり子どもたちが継続的にスポーツ・文化芸術活動に親しむ機会の確保・充実や、教員の働き方改革推進のため、ガイドラインへの理解を深めていきたいと考えています。
佐川 郡内町村では部活動の地域展開を進めるための協議の場も設けています。今後、学校と地域が協働して環境整備を進め、興味・関心に応じて生徒が活動を選択できるようにしていきたいと考えています。
宮田 実際に広域で実施するとなると、指導や運営にあたる人材や拠点の確保の問題が出てきます。町村をまたいで活動するのであれば交通手段や安全の確保も必要です。学校や地域団体、郡内町村と協力しながらこうした課題を整理したうえで、子どもたちの選択肢を広げられるような、持続可能な活動環境を整備していきたいです。
――町村ごとに学校規模や活動実態が異なるので、部活動での広域連携を進めるうえではまず、運営主体や指導者、移動手段など具体的な条件を詰めていく必要がありそうですね。最後に、観光分野における広域連携の可能性をうかがいます。4町村にはそれぞれ異なる観光資源がありますが、周遊してもらうにはどんな取り組みが必要になるでしょうか。
佐川 観光面では2019年に、郡内を周遊しながら雄大な自然を楽しめる「奥久慈街道」サイクリングコースを設定しました。サイクルロゲイニングやサイクルトレインなど、さまざまな機関と連携したイベントを実施し、多くのサイクリストに来ていただいています。今後も大いに期待している取り組みです。
宮川 4町村が持つ観光資源・観光ポイントを「点」ではなく「線」で結ぶ周遊型観光ルートの確立が必要です。その観点から共同で郡内を巡るサイクリングイベントを行い、移動の足として「観光タクシー」や「レンタサイクル」事業などをそれぞれの町村で実施しています。ただ、さらなる観光誘客を図るには、町村の枠を越えて郡内の周遊性を高める「移動の足」をどのように確保するかが課題となります。
観光連携の肝は二次交通確保
宗田 歴史や文化、豊かな自然、温泉、食など、それぞれの町村に特色があります。それらを個別に発信するだけでなく、例えば自家用車で効率よく回れる広域周遊ルートとして結び、観光マップやモデルコース、案内表示、デジタル情報を充実させることが重要と考えています。一方で、やはり鉄道や高速バスなどで訪れる方には、観光地へ向かう二次交通が必要となります。レンタカーやタクシー、レンタサイクルなどを組み合わせ、利用ニーズや地域の実情を踏まえながら、4町村が連携して持続可能な移動手段を考える必要があると思います。
宮田 二次交通の確保は「東白川周遊型観光」を構築するうえで最優先課題です。既存の公共交通と民間サービスを連携させながら、4町村で「移動の足」を共同確保する新たな仕組みづくりを積極的に検討していきたいです。また、各町村の産業・自然資源を回遊できる共通のデジタルガイドマップを作成したり、周遊拠点で連携施策を展開することも有効だと思います。これらを通じて圏域の経済循環を強化し、10年後も持続可能な地域モデルの構築に全力を注ぐべきです。
佐川 二次交通を実際に共同運営するとなると、先に述べた共同発注同様、どの町村が取りまとめるのかという問題があります。また、各町村の利用者に共通した利用目的に合わせて、交通手段や経路を選定しなければなりません。これも課題が多いと思います。
宮川 今後は、郡内に留まらず県南地域や八溝山周辺地域定住自立圏など、より広い枠組みで周遊型観光を考えていくことが、地域のにぎわいづくりや地域活性化につながっていくのではないでしょうか。

4町村が広域連携を図り持続可能性を追求している現状を確認した一方で、課題に応じて最も効果的な「広域」の単位を見極めていく必要性も見えてきた。人口減少が続く中、それぞれの町村の個性を保ちながら、どの機能を共有し、どの課題をともに解決するのか。東白川郡の将来を考えるうえで、広域連携の重要性は今後ますます高まりそうだ。





















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