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  • 【大玉村】合併しなかった県内自治体のいま

    【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま

    郡山市が通勤圏内、プラント立地で人口増  国の意向で2000年代を中心に進められた「平成の大合併」。県内では90市町村から59市町村に再編された。そこに参加しなかった県内自治体のいまに迫るこのシリーズ。今回は、安達郡で唯一「単独の道」を選択した大玉村を検証していく。(末永)  「平成の大合併」前、安達郡は大玉村のほか、安達町、岩代町、東和町、本宮町、白沢村の4町2村で構成されていた。これに二本松市を加えた1市4町2村が「安達地方」に位置付けられ、それら市町村で消防行政やごみ・し尿処理施設、斎場(火葬場)運営などを担う「安達地方広域行政組合」が組織されていた。  「平成の大合併」では、2005年12月1日付で二本松市と安達町、岩代町、東和町が合併して新・二本松市に、2007年1月1日付で本宮町と白沢村が合併して本宮市になったが、大玉村はいずれにも加わらなかった。これにより、安達地方広域行政組合の構成員は2市1村となり、安達郡は大玉村のみとなった。ちなみに、県内で1郡1村(1郡1町を含む)は安達郡(大玉村)だけである。 当時の大玉村役場関係者はこう述懐する。 「いまも存在していますが、以前から本宮町、大玉村、白沢村の首長、助役(※当時=現在は副市町村長に名称変更)、議員などで構成する『南逹地方振興協議会』というものがあり、広域的に地域振興や課題への対応などを協議していました。ですから、『平成の大合併』の議論が巻き起こった際、それが1つの枠組みになるのではないかと捉えられていました。東北部(二本松市)との合併は、当初からそれほど話題にはなっていなかったように思います」 前述したように、「安達地方」は1市4町2村で構成されていたが、二本松市、安達町、岩代町、東和町の「東北逹」と、本宮町、大玉村、白沢村の「南逹」が合併の枠組みとして捉えられていたというのだ。 当時の本誌取材の感覚では、「東北逹」は二本松市と安達町は地理的な条件面などで優れているが、岩代町と東和町は国道4号やJR東北本線のラインから外れ、地理的条件などが厳しかった。そのため、「東北逹」の合併は二本松市と安達町が岩代町と東和町を救済するといった側面があったように思われる。 一方、「南逹」は当時の大玉村役場関係者のコメントにもあったように、「南逹地方振興協議会」というものがあり、もともと広域連携や交流、結び付きがあった。そのため、「合併するなら、この3町村で」と捉えられていたようだ。 ただ、当時、本宮町は工業団地の造成に伴う財政負担が大きく、大玉村からすると合併相手としては決していい条件とは言えなかった。 一方で、白沢村は岩代・東和両町と同様、国道4号やJR東北本線が通っている自治体に比べると、地理的条件などが厳しかった。 そのため、大玉村は消極的で、本宮町と白沢村で合併協議が進められることになった。なお、当時の国の方針では、新市(市政施行)への移行条件は「人口3万人以上」だった。合併時、本宮町の人口は約2万2000人、白沢村は約9000人で、それを満たしていたこともあり、両町村が合併して本宮市が誕生した。 こうして、安達地方は2市1村に再編され、大玉村は「単独の道」を選択した。なお、合併議論が巻き起こった際、大玉村長だったのは浅和定次氏で1993年から2013年まで5期20年務めた。2013年からは押山利一氏が村長に就き、現在3期目。押山氏は元役場職員で、浅和村長の下で、総務課長や教育長などを歴任した。「単独の道」を決めた浅和氏、それを近くで見てきた押山氏が合併議論の渦中と、その後の村政を担ってきたのである。 押山利一村長 一部に「心配」の声  とはいえ、前出・当時の大玉村役場関係者によると、「大玉村役場内でも、一部では合併すべきといった意見もあった」という。その理由は、やはり「合併しなかったら、すなわち国の意向に逆らったら、地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」といった心配事があったからだ。 前号の「桑折町・国見町編」でも紹介したが、合併議論最盛期に、県内で首長を務めていた人物はこう語っていた。 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」 この首長経験者にとって、そうした国の方針は「脅し」のような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、合併を選択したというのである。 大玉村でも、同様の心配をする声があったということだ。行政の内部にいたら、そういった思いになるのは当然のことと言えるが、「いまになって、あらためて振り返ってみると、合併しなくて良かったと思う」(前出・当時の大玉村役場関係者)という。 それは、合併しなかった市町村への国からの〝締め付け〟が思ったほどではなかったから、と言えよう。 もっとも、前号で検証した桑折町・国見町もそうだったが、合併しなかった市町村は、それなりの「努力の形跡」が見て取れる。 ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための各種指標が公表されるようになった。 別表は同法に基づき公表されている大玉村の各指標の推移。比較対象として、同地区で合併した本宮市の各指標を併記した。 大玉村の職員数とラスパイレス指数の推移 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  全体的に指標は良化していることが見て取れる。実質公債費比率は近年は若干増加傾向にあり、本宮市に「逆転」された形になっているが、将来負担比率は2020年度は「算出なし(ゼロ、あるいはマイナス)」となっている。 もっとも、前号でも紹介したが、元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏によると、ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善しているという。 「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏) 次に職員数とラスパイレス指数について。近年、臨時を含めた職員数は増えている。その要因については、後段で押山村長に見解を聞いている。 特筆すべきは人口の推移。別表に安達地方3市村の人口の推移をまとめたが、二本松市が合併直後と比べると約1万人減、本宮市が微減となっている中、大玉村だけは増加し続けている。これは県内市町村では極めて稀有なこと。特に、福島県の場合は、東日本大震災・原発事故を受け、人口減少が加速した。そんな中で、一時的に増加に転じるところはあっても、安定的かつ長年にわたって増加し続けているのは、県内では大玉村と西郷村だけである。 こうした各種指標や人口の推移などについてどう捉えているのか、押山村長に聞いた。 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧二本松市と安達郡3町、本宮町と白沢村の合併がありました。大玉村にもその誘いがあったと思いますが、当時の村長はじめ、関係者の「単独の道」という選択をしたことについて、いまあらためてどう感じていますか。 「当時、私は村役場総務課長として市町村合併を担当しておりました。安達管内は二本松藩の域内であり歴史的に結びつきが強く『安達はひとつ』の考えの下に『安達地方広域行政組合』をはじめとして、強い結びつきがありました。 当初は、域内7市町村または3町村の合併論議はありましたが、当村では伝統的に『自主独立』の気運が強く、村内での住民との意見交換会でも『合併すべき』の意見はごく一部で大多数が反対意見でした。 議会をはじめ、各種機会に意見をうかがいましたが、議会及び村民の合併に対する意見は、大多数が合併は望まないとのものでした。そこで、大玉村としては『村民の望まない合併はしない』と早い段階で決定した次第です。 その選択が村民にとって良かったかどうかは、その時点で選択の余地がなかったとはいえ、単独の道を選んだ以上は村民の皆さんがそのようなことを意識しないで生活できる村政の執行が肝要だと思っています」 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。(別表で示した)財政指標、職員数とラス指数についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。 「『財政指標』については、もともと4割弱の財政力指数が示す通り典型的な小規模自治体ですが、『住民サービスを落とさずに健全財政を維持する』をテーマとして、前村長時代からの村政執行のベースとなっています。 『入るを量りて出ずるを為す』は当然のこととして、行政の先行投資の部分も当初から行われていたと思います。例えば、保育料や幼稚園の一部減免、定住化政策への助成などのソフト面から、ハード面は徹底して身の丈に合った施設でランニングコストを極力抑えるものとする等の徹底も財政力指標に表れていると考えています。 『職員数とラスパイレス指数』については、近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加であるが、それでも職員の負担は旧に倍して増大しています(※職員定数は116人)。 『財政基盤強化』、『行政運営の効率化』への取り組みと今後の対応については、住民サービスの水準を落とさずに財政調整基金等の積み増しを図りつつ、将来を見据えて新規事業に取り組んでいます。 今後も子育て支援や定住化政策、健康長寿の村づくり、公共交通網の整備等の『村民の満足度を高める政策』の継続と、将来のための企業の誘致基盤の確立に努めていきます」 人口増加の要因  ――大玉村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。 「『人口の推移』については、国勢調査で45年連続増加しているが、国県等の人口減少の中で、大玉村だけが増加を維持することは困難と考えています。 また、コロナウイルス感染症による出生数の激減が危惧されており、今から将来に向けての新たな対策が不可欠と考えています。 現在までの人口増の要因は複合的であり、子育て支援や定住化政策、福島・郡山・二本松・本宮が通勤通学圏内、国道4号沿いである交通の利便性、安達太良山から広がる景観、そして地価が廉価等の理由が挙げられます。 今後もこれらの利点をさらに高めて人口維持に努めますが、減少すればしたなりの行政運営があるだろうと考えています」 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。 「『単独』だからできたこと、『その強み等々』については、合併せずに単独の道を選んで現在に至っているので、その過程で『小さいからこそ可能な村のメリット』があるとの思いで、きめ細かな行政運営に徹してきました。 前村長の言で『住民に目の届く、住民から手の届く村政』や私の村政の基本的な考え方『村民に日本一近い村政』の実現を目指しています。 ただ、逆に財政的に住民にサービスを届けられない『小さいゆえのデメリット』も多々あります。 幸いにも管内(二本松市、本宮市、大玉村)の結びつきが強く、各合併後も各種分野で連携が維持されており、特に消防、衛生関係など『安達地方広域行政組合』、『安達地方市町村会』等が有効に機能しています」 やはり、役場内、議員、村民のいずれも、当初から「合併」には消極的だったようだ。実際、村民からすると「(全国的に合併議論が巻き起こった際も)最初からそういう機運はなかった」という。 そのほか、押山村長は職員数の増加については「近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加」と明かし、人口増加については「複合的な要因」と分析した。 恵まれた条件  前出・当時の村役場関係者はこう話す。 「1つ例を挙げると、大玉村にはほかの多くの市町村にあるような、企業・工場を誘致するために行政が造成したいわゆる工業団地がありません。それは、農業で生計を立てている人が多いこともありますが、働き口として本宮市や郡山市に依存できる、といった部分が大きい。そのほかでも、行政サービスは別として、普段の生活の面では本宮市や郡山市に頼れるところが多い。そのため、そういった部分で行政が財政投資をしなくてもいい、といった側面があります。そのことが財政指標の良化につながっている面は多分にあると思います」 二本松市、本宮市、郡山市などが通勤・通学圏内で、働き口や医療・介護など、さまざまな面でそれらに依存できる地理的条件にある。そのため、そういった部分に財政投資する必要がないことから、財政指標の良化につながっている面があるというのだ。 加えて、それらの市に比べると、地価が安いため、若い世代が移り住み人口増加につながっている。押山村長が語っていたように、子育て支援や定住化政策など、村の努力によるとこもあるだろうが、やはり条件面で優れていることが大きい。だからこそ、早い段階で「合併しない」ことを決断できたのだろう。 ある村民は「唯一、不便なところを挙げると、大玉村にはJR東北本線の駅がないこと」という。ただ、役場周辺から本宮駅までは3㌔ほどで、村内各所から本宮駅までコミュニティーバス、デマンドタクシーなどを運行している。 その代わり、というわけではないが、現在、村では東北道のスマートインターチェンジ(IC)誘致を進めている。役場周辺から本宮ICまでは5㌔ほど、二本松ICまでは8㌔ほどで、スマートIC設置により、村ではさらなる交通の利便性向上と周辺開発を期待している。それに当たり、村内では「スマートICより、JR東北本線の駅をつくってほしい」といった意見もあったという。前述したように、「大玉村にはJR東北本線の駅がないのが唯一の弱点」といった意見もあったが、駅間の距離、利用見込みなどから、現実的ではないようだ。 そのほか、別の村民によると「プラントの存在も大きいと思う」という。プラント(PLANT)は総合ディスカウントストアで、「プラント―5 大玉店」は2006年2月にオープンした。ちょうど、「平成の大合併」議論が巻き起こっていたころで、当然、その前から「プラントが出店する」ということは分かっていた。地元雇用が見込めるし、若い世代が移り住むにも大きな要素となる。具体的な数字は不明だが、固定資産税なども相応と聞くから、その点も「単独の道」を後押ししたに違いない。 こうして聞くと、村の努力も当然あったと思われるが、それ以上に、県内最大の経済都市である郡山市が通勤圏内であること、大型商業施設が立地していること、近隣の市に比べて地下が安いこと――等々の条件が揃っていたのが大きい。 一方で、前号の「桑折町・国見町編」でも同様の指摘をしたが、「大玉モデル」や「大玉ブランドの新名物」と言われ、全国から注目を集めるような特別な仕掛けがあったかと言うと、思い当たらない。現状に満足せず、新たな仕掛けを生み出していくことも求められよう。

  • 【大玉村】合併しなかった福島県内自治体のいま

    郡山市が通勤圏内、プラント立地で人口増  国の意向で2000年代を中心に進められた「平成の大合併」。県内では90市町村から59市町村に再編された。そこに参加しなかった県内自治体のいまに迫るこのシリーズ。今回は、安達郡で唯一「単独の道」を選択した大玉村を検証していく。(末永)  「平成の大合併」前、安達郡は大玉村のほか、安達町、岩代町、東和町、本宮町、白沢村の4町2村で構成されていた。これに二本松市を加えた1市4町2村が「安達地方」に位置付けられ、それら市町村で消防行政やごみ・し尿処理施設、斎場(火葬場)運営などを担う「安達地方広域行政組合」が組織されていた。  「平成の大合併」では、2005年12月1日付で二本松市と安達町、岩代町、東和町が合併して新・二本松市に、2007年1月1日付で本宮町と白沢村が合併して本宮市になったが、大玉村はいずれにも加わらなかった。これにより、安達地方広域行政組合の構成員は2市1村となり、安達郡は大玉村のみとなった。ちなみに、県内で1郡1村(1郡1町を含む)は安達郡(大玉村)だけである。 当時の大玉村役場関係者はこう述懐する。 「いまも存在していますが、以前から本宮町、大玉村、白沢村の首長、助役(※当時=現在は副市町村長に名称変更)、議員などで構成する『南逹地方振興協議会』というものがあり、広域的に地域振興や課題への対応などを協議していました。ですから、『平成の大合併』の議論が巻き起こった際、それが1つの枠組みになるのではないかと捉えられていました。東北部(二本松市)との合併は、当初からそれほど話題にはなっていなかったように思います」 前述したように、「安達地方」は1市4町2村で構成されていたが、二本松市、安達町、岩代町、東和町の「東北逹」と、本宮町、大玉村、白沢村の「南逹」が合併の枠組みとして捉えられていたというのだ。 当時の本誌取材の感覚では、「東北逹」は二本松市と安達町は地理的な条件面などで優れているが、岩代町と東和町は国道4号やJR東北本線のラインから外れ、地理的条件などが厳しかった。そのため、「東北逹」の合併は二本松市と安達町が岩代町と東和町を救済するといった側面があったように思われる。 一方、「南逹」は当時の大玉村役場関係者のコメントにもあったように、「南逹地方振興協議会」というものがあり、もともと広域連携や交流、結び付きがあった。そのため、「合併するなら、この3町村で」と捉えられていたようだ。 ただ、当時、本宮町は工業団地の造成に伴う財政負担が大きく、大玉村からすると合併相手としては決していい条件とは言えなかった。 一方で、白沢村は岩代・東和両町と同様、国道4号やJR東北本線が通っている自治体に比べると、地理的条件などが厳しかった。 そのため、大玉村は消極的で、本宮町と白沢村で合併協議が進められることになった。なお、当時の国の方針では、新市(市政施行)への移行条件は「人口3万人以上」だった。合併時、本宮町の人口は約2万2000人、白沢村は約9000人で、それを満たしていたこともあり、両町村が合併して本宮市が誕生した。 こうして、安達地方は2市1村に再編され、大玉村は「単独の道」を選択した。なお、合併議論が巻き起こった際、大玉村長だったのは浅和定次氏で1993年から2013年まで5期20年務めた。2013年からは押山利一氏が村長に就き、現在3期目。押山氏は元役場職員で、浅和村長の下で、総務課長や教育長などを歴任した。「単独の道」を決めた浅和氏、それを近くで見てきた押山氏が合併議論の渦中と、その後の村政を担ってきたのである。 押山利一村長 一部に「心配」の声  とはいえ、前出・当時の大玉村役場関係者によると、「大玉村役場内でも、一部では合併すべきといった意見もあった」という。その理由は、やはり「合併しなかったら、すなわち国の意向に逆らったら、地方交付税が減らされ、立ち行かなくなるのではないか」といった心配事があったからだ。 前号の「桑折町・国見町編」でも紹介したが、合併議論最盛期に、県内で首長を務めていた人物はこう語っていた。 「当時の国の方針は、財政面を背景とする合併推奨だった。三位一体改革を打ち出し、地方交付税は段階的に減らすが、合併すればその分は補填する、というもの。そのほか、合併特例債という合併市町村への優遇措置もあった。要するにアメをちらつかせたやり方だった」 この首長経験者にとって、そうした国の方針は「脅し」のような感覚だったようだ。「地方交付税が減らされたらやっていけない。住民サービスが維持できず、住民に必要な事業もできなくなるのではないか」といった強迫観念に駆られ、合併を選択したというのである。 大玉村でも、同様の心配をする声があったということだ。行政の内部にいたら、そういった思いになるのは当然のことと言えるが、「いまになって、あらためて振り返ってみると、合併しなくて良かったと思う」(前出・当時の大玉村役場関係者)という。 それは、合併しなかった市町村への国からの〝締め付け〟が思ったほどではなかったから、と言えよう。 もっとも、前号で検証した桑折町・国見町もそうだったが、合併しなかった市町村は、それなりの「努力の形跡」が見て取れる。 ちょうど、「平成の大合併」が進められていた2007年6月に「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)が公布され、同年度決算以降、財政健全化を判断するための各種指標が公表されるようになった。 別表は同法に基づき公表されている大玉村の各指標の推移。比較対象として、同地区で合併した本宮市の各指標を併記した。 大玉村の職員数とラスパイレス指数の推移 用語解説(県市町村財政課公表の資料を元に本誌構成) ●実質赤字比率 歳出に対する歳入の不足額(いわゆる赤字額)を、市町村の一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●連結実質赤字比率 市町村のすべての会計の赤字額と黒字額を合算することにより、市町村を1つの法人とみなした上で、歳出に対する歳入の資金不足額を、一般財源の標準的な規模を表す「標準財政規模」で除したもの。表の数字が示されている年度は、それだけの「赤字」が発生しているということ。表の「――」は「赤字」が発生していないということ。 ●実質公債費比率 2006年度から地方債の発行が従来の許可制から協議制に移行したことに伴い導入された財政指標。義務的に支出しなければならない経費である公債費や公債費に準じた経費の額を、標準財政規模を基本とした額で除したものの過去3カ年の平均値。この数字が高いほど、財政の弾力性が低く、一般的には15%が警告ライン、20%が危険ラインとされている。 ●将来負担比率 実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率の3つの指標は、それぞれ当該年度において解消すべき赤字や負債の状況を示すもの(すなわち「現在の負担」の状況)。一方、将来負担比率は、市町村が発行した地方債残高だけでなく、例えば、土地開発公社や、市町村が損失補償を付した第三セクターの債務などを幅広く含めた決算年度末時点での将来負担額を、標準財政規模を基本とした額で除したもの(すなわち「将来の負担」の状況)。数字が高いほど、将来、財政を圧迫する可能性が高い。表の「――」は「将来負担」が算出されていないということ。 ●財政力指数 当該団体の財政力を表す指標で、算定方法は、基準財政収入額(標準的な状態において見込まれる税収入)を基準財政需要額(自治体が合理的かつ妥当な水準における行政を行った場合の財政需要)で除して得た数値の過去3カ年の平均値。数値が高くなるほど財政力が高いとされる。 ●ラスパイレス指数 地方公務員の給与水準を表すものとして、一般に用いられている指数。国家公務員(行政職員)の学歴別、経験年数別の平均給料月額を比較して、国家公務員の給与を100としたときの地方公務員(一般行政職)の給与水準を示すもの。  全体的に指標は良化していることが見て取れる。実質公債費比率は近年は若干増加傾向にあり、本宮市に「逆転」された形になっているが、将来負担比率は2020年度は「算出なし(ゼロ、あるいはマイナス)」となっている。 もっとも、前号でも紹介したが、元福島大学教授で、現在は公益財団法人・地方自治総合研究所(東京都千代田区)の主任研究員を務める今井照氏によると、ここ数年は制度的な事情で、全国自治体の財政事情が改善しているという。 「2020年度以降、国では法人税収が増加していて、それを反映して地方交付税の原資も改善され、新たな借金(臨時財政対策債)の発行をほとんどしなくて済むばかりか、これまでの借金(臨時財政対策債)を償還する原資も国から交付されています。つまり全国の自治体財政の財政指標はこの3年間で大きく改善されているのです」(今井氏) 次に職員数とラスパイレス指数について。近年、臨時を含めた職員数は増えている。その要因については、後段で押山村長に見解を聞いている。 特筆すべきは人口の推移。別表に安達地方3市村の人口の推移をまとめたが、二本松市が合併直後と比べると約1万人減、本宮市が微減となっている中、大玉村だけは増加し続けている。これは県内市町村では極めて稀有なこと。特に、福島県の場合は、東日本大震災・原発事故を受け、人口減少が加速した。そんな中で、一時的に増加に転じるところはあっても、安定的かつ長年にわたって増加し続けているのは、県内では大玉村と西郷村だけである。 こうした各種指標や人口の推移などについてどう捉えているのか、押山村長に聞いた。 ――「平成の大合併」の議論が進められていた際、近隣では旧二本松市と安達郡3町、本宮町と白沢村の合併がありました。大玉村にもその誘いがあったと思いますが、当時の村長はじめ、関係者の「単独の道」という選択をしたことについて、いまあらためてどう感じていますか。 「当時、私は村役場総務課長として市町村合併を担当しておりました。安達管内は二本松藩の域内であり歴史的に結びつきが強く『安達はひとつ』の考えの下に『安達地方広域行政組合』をはじめとして、強い結びつきがありました。 当初は、域内7市町村または3町村の合併論議はありましたが、当村では伝統的に『自主独立』の気運が強く、村内での住民との意見交換会でも『合併すべき』の意見はごく一部で大多数が反対意見でした。 議会をはじめ、各種機会に意見をうかがいましたが、議会及び村民の合併に対する意見は、大多数が合併は望まないとのものでした。そこで、大玉村としては『村民の望まない合併はしない』と早い段階で決定した次第です。 その選択が村民にとって良かったかどうかは、その時点で選択の余地がなかったとはいえ、単独の道を選んだ以上は村民の皆さんがそのようなことを意識しないで生活できる村政の執行が肝要だと思っています」 ――当時の合併の目的として「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」があり、合併しないとなると、当然、その部分での努力が求められます。(別表で示した)財政指標、職員数とラス指数についてどう捉えていますか。また、これまでの「財政基盤強化」、「行政運営の効率化」への取り組みと、今後の対応についてはどう考えていますか。 「『財政指標』については、もともと4割弱の財政力指数が示す通り典型的な小規模自治体ですが、『住民サービスを落とさずに健全財政を維持する』をテーマとして、前村長時代からの村政執行のベースとなっています。 『入るを量りて出ずるを為す』は当然のこととして、行政の先行投資の部分も当初から行われていたと思います。例えば、保育料や幼稚園の一部減免、定住化政策への助成などのソフト面から、ハード面は徹底して身の丈に合った施設でランニングコストを極力抑えるものとする等の徹底も財政力指標に表れていると考えています。 『職員数とラスパイレス指数』については、近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加であるが、それでも職員の負担は旧に倍して増大しています(※職員定数は116人)。 『財政基盤強化』、『行政運営の効率化』への取り組みと今後の対応については、住民サービスの水準を落とさずに財政調整基金等の積み増しを図りつつ、将来を見据えて新規事業に取り組んでいます。 今後も子育て支援や定住化政策、健康長寿の村づくり、公共交通網の整備等の『村民の満足度を高める政策』の継続と、将来のための企業の誘致基盤の確立に努めていきます」 人口増加の要因  ――大玉村は県内では数少ない人口が増えている自治体です。その要因とこれまでの対策、これからの取り組みについて。 「『人口の推移』については、国勢調査で45年連続増加しているが、国県等の人口減少の中で、大玉村だけが増加を維持することは困難と考えています。 また、コロナウイルス感染症による出生数の激減が危惧されており、今から将来に向けての新たな対策が不可欠と考えています。 現在までの人口増の要因は複合的であり、子育て支援や定住化政策、福島・郡山・二本松・本宮が通勤通学圏内、国道4号沿いである交通の利便性、安達太良山から広がる景観、そして地価が廉価等の理由が挙げられます。 今後もこれらの利点をさらに高めて人口維持に努めますが、減少すればしたなりの行政運営があるだろうと考えています」 ――「単独」だからできたこと、その強み等々について、感じていることがあれば。 「『単独』だからできたこと、『その強み等々』については、合併せずに単独の道を選んで現在に至っているので、その過程で『小さいからこそ可能な村のメリット』があるとの思いで、きめ細かな行政運営に徹してきました。 前村長の言で『住民に目の届く、住民から手の届く村政』や私の村政の基本的な考え方『村民に日本一近い村政』の実現を目指しています。 ただ、逆に財政的に住民にサービスを届けられない『小さいゆえのデメリット』も多々あります。 幸いにも管内(二本松市、本宮市、大玉村)の結びつきが強く、各合併後も各種分野で連携が維持されており、特に消防、衛生関係など『安達地方広域行政組合』、『安達地方市町村会』等が有効に機能しています」 やはり、役場内、議員、村民のいずれも、当初から「合併」には消極的だったようだ。実際、村民からすると「(全国的に合併議論が巻き起こった際も)最初からそういう機運はなかった」という。 そのほか、押山村長は職員数の増加については「近年の保育所の入所増、幼稚園の3年保育実施、増え続ける行政需要に対応するための増加」と明かし、人口増加については「複合的な要因」と分析した。 恵まれた条件  前出・当時の村役場関係者はこう話す。 「1つ例を挙げると、大玉村にはほかの多くの市町村にあるような、企業・工場を誘致するために行政が造成したいわゆる工業団地がありません。それは、農業で生計を立てている人が多いこともありますが、働き口として本宮市や郡山市に依存できる、といった部分が大きい。そのほかでも、行政サービスは別として、普段の生活の面では本宮市や郡山市に頼れるところが多い。そのため、そういった部分で行政が財政投資をしなくてもいい、といった側面があります。そのことが財政指標の良化につながっている面は多分にあると思います」 二本松市、本宮市、郡山市などが通勤・通学圏内で、働き口や医療・介護など、さまざまな面でそれらに依存できる地理的条件にある。そのため、そういった部分に財政投資する必要がないことから、財政指標の良化につながっている面があるというのだ。 加えて、それらの市に比べると、地価が安いため、若い世代が移り住み人口増加につながっている。押山村長が語っていたように、子育て支援や定住化政策など、村の努力によるとこもあるだろうが、やはり条件面で優れていることが大きい。だからこそ、早い段階で「合併しない」ことを決断できたのだろう。 ある村民は「唯一、不便なところを挙げると、大玉村にはJR東北本線の駅がないこと」という。ただ、役場周辺から本宮駅までは3㌔ほどで、村内各所から本宮駅までコミュニティーバス、デマンドタクシーなどを運行している。 その代わり、というわけではないが、現在、村では東北道のスマートインターチェンジ(IC)誘致を進めている。役場周辺から本宮ICまでは5㌔ほど、二本松ICまでは8㌔ほどで、スマートIC設置により、村ではさらなる交通の利便性向上と周辺開発を期待している。それに当たり、村内では「スマートICより、JR東北本線の駅をつくってほしい」といった意見もあったという。前述したように、「大玉村にはJR東北本線の駅がないのが唯一の弱点」といった意見もあったが、駅間の距離、利用見込みなどから、現実的ではないようだ。 そのほか、別の村民によると「プラントの存在も大きいと思う」という。プラント(PLANT)は総合ディスカウントストアで、「プラント―5 大玉店」は2006年2月にオープンした。ちょうど、「平成の大合併」議論が巻き起こっていたころで、当然、その前から「プラントが出店する」ということは分かっていた。地元雇用が見込めるし、若い世代が移り住むにも大きな要素となる。具体的な数字は不明だが、固定資産税なども相応と聞くから、その点も「単独の道」を後押ししたに違いない。 こうして聞くと、村の努力も当然あったと思われるが、それ以上に、県内最大の経済都市である郡山市が通勤圏内であること、大型商業施設が立地していること、近隣の市に比べて地下が安いこと――等々の条件が揃っていたのが大きい。 一方で、前号の「桑折町・国見町編」でも同様の指摘をしたが、「大玉モデル」や「大玉ブランドの新名物」と言われ、全国から注目を集めるような特別な仕掛けがあったかと言うと、思い当たらない。現状に満足せず、新たな仕掛けを生み出していくことも求められよう。