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本誌2021年8、10月号で、相馬市玉野地区で進められているメガソーラー事業についてリポートした。事業者は「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社で、アメリカ・コロラド州に拠点を置く太陽光発電事業者「GSSG Solar」の日本法人。 メガソーラー事業への反対運動:地元の懸念と説明会 玉野メガソーラー事業地(工事前) 玉野メガソーラー事業地(今年5月撮影) 同事業については、大きく以下の2点から、近隣住民や河川下流域の住民から反対の声が出ていた。 1つは、事業地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴うこと。近隣・下流域の住民からは「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安が噴出していた。 もう1つは、計画立案者で事業用地の大部分を所有する人物が、2021年7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土石流災害」現場の所有者と同一人物であること。この人物は地権者というだけで、直接的には事業に関与しないようだが、近隣住民などからは「あのような問題人物が関係しているとすれば不安だ」との声があった。 こうした事情もあり、2021年7月と10月に地元住民や下流域の住民を対象とした説明会が行われた。主催者は「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の現場担当者を招いての説明会だった。 説明会で配布された資料によると、事業区域面積は約122㌶で、うち森林面積が約117㌶、開発行為にかかる森林面積が約82㌶、発電容量は約82メガ㍗、最大出力60メガ㍗、太陽光パネル設置枚数16万6964枚などと書かれていた。 当然、説明会では前述のような不安の声が上がり、事業者は「問題のないように事業を進める」、「保険に入り、災害の際はそれで対応する」と回答した。ただ、そうした説明に反対派の住民は納得せず、平行線をたどった。 メガソーラー事業の現状:山林開発の進行と地元の不安 それからしばらくして、昨年2月ごろに、地元住民から「われわれの訴えも虚しく工事がスタートした」との情報が寄せられた。その直後に現地を訪ねた際は分からなかったが、最近、あらためて現地を訪ねると、山林がかなり切り開かれている様子がうかがえた。 以前の説明会に出席していた事業者の現場担当者に進捗状況を尋ねたところ、「一度、社内で話を通さないと取材にはお答えできないので、そのうえで再度連絡します」とのことだったが、締め切りまでに連絡はなかった。 以前の説明会で、事業者は「調整池を設置して洪水・土砂災害などが起きないようにする」と話していたが、あらためて丸裸にされた山林を見ると、近隣・下流域の住民は不安を増大させているだろうと感じる。 あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 (2021年8月号) 相馬玉野メガソーラー計画への懸念 (2021年10月号) 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 (2021年11月号)
相馬市は2022年夏の新型コロナ「第7波」の感染者(陽性者)の詳細な分析を行った。その内容を紹介・検証しつつ、すでに到来しつつある「第8波」に向けて、どのような対策が有効かを考えていきたい。 相馬市の陽性者分析で見えた対策 2022年11月23日時点での国内のコロナ感染者累計数は2409万4925人、死者数は4万8797人。およそ5人に1人がこれまでに罹患している計算になる。1日の感染者数で見ると、今夏の「第7波」と言われる感染拡大の中で、7月下旬から8月下旬にかけて連日20万人を超える新規感染者が確認された。その前後でも、1日に10万人から15万人の感染者が出ている。 県内で見ると、11月23日時点でのコロナ感染者累計数は24万9359人、死者数は335人。およそ7人に1人が感染している計算で、国内平均よりは低い。1日の感染者数が最も多かったのは、2022年8月19日で3584人。その前後で、2000人越え、3000人越えの日が相次いだ。7月下旬から9月上旬までが「第7波」に位置付けられる。 その後は、少し落ち着き500人から1000人弱の日が続いたが、11月中旬ごろからまた増え始めている。11月22日は3341人、23日は3191人と、過去最高に迫っている。すでに「第8波」が到来していると言えそうだ。 政府(新型コロナウイルス感染症対策本部)は、11月18日までに「今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合の対応について」をまとめた。いわゆる「第8波対策」である。 基本方針は「今秋以降の感染拡大が、今夏のオミクロン株と同程度の感染力・病原性の変異株によるものであれば、新たな行動制限は行わず、社会経済活動を維持しながら、高齢者等を守ることに重点を置いて感染拡大防止措置を講じるとともに、同時流行も想定した外来等の保健医療体制を準備する」というもの。 住民は、これまでと同様、3密回避、手指衛生、速やかなオミクロン株対応ワクチン接種、感染者と接触があった場合の早期検査、混雑した場所や感染リスクの高い場所への外出などを控える、飲食店での大声や長時間滞在の回避、会話する際のマスク着用、普段と異なる症状がある場合は外出、出勤、登校・登園等を控える――等々の基本的な対策が求められる。 「第8波対策」で、これまでと大きく変わったところは、「外来医療を含めた保健医療への負荷が相当程度増大し、社会経済活動にも支障が生じている段階(レベル3 医療負荷増大期)にあると認められる場合に、地域の実情に応じて、都道府県が『医療ひっ迫防止対策強化宣言』を行い、住民及び事業者等に対して、医療体制の機能維持・確保、感染拡大防止措置、業務継続体制の確保等に係る協力要請・呼びかけを実施する」「国は、当該都道府県を『医療ひっ迫防止対策強化地域』と位置付け、既存の支援に加え、必要に応じて支援を行う」とされていること。 つまり、都道府県の判断で「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を行い、営業自粛、移動自粛などの要請ができるということだ。 こうして「第8波」に向けた対策や基本方針が定められる中、相馬市が「第7波」の感染者について詳細な分析を行ったものが今後の参考になりそうなので紹介・検証したい。 ちなみに、同市の立谷秀清市長は、医師免許を持っており、地元医師会との意思疎通が図りやすいほか、全国の医師系市長で組織する「全国医系市長会長」を務め、他市の医療体制・感染状況などの情報交換がしやすいこと、全国市長会長を務め、比較的頻繁に国と意見交換ができる環境にある、といった強みがある。 ワクチンの効果 別表は、同市で「第7波」で陽性判定を受けた人の「陽性者数と陽性率」、「年代別、ワクチン接種回数別の陽性者と陽性率」、「陽性者の症状」をまとめたもの。 第7波の陽性者数と陽性率 適正回数接種者検査対象者2万8355人陰性者2万7095人(95・6%)陽性者1260人(4・4%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 適正回数未満接種者検査対象者5157人陰性者4241人(82・2%)陽性者916人(17・8%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 年代別、ワクチン接種回数別の陽性者数と陽性率 区分接種回数陽性者 カッコ内は対象総数陽性率未就学未接種228人(1327人)17・18%1回3人(5人)60・00%2回10人(78人)11・49%小学生未接種222人(875人)25・37%1回27人(44人)61・36%2回108人(874人)12・36%中学生未接種33人(162人)20・37%1回1人(12人)8・33%2回40人(217人)18・43%3回31人(512人)6・05%高校生未接種17人(94人)18・09%1回0人(4人)0・00%2回34人(132人)25・76%3回43人(707人)6・08%青壮年未接種311人(1492人)20・84%1回7人(82人)8・54%2回149人(1091人)13・66%3回954人(1万0705人)8・91%4回125人(4007人)3・12%高齢者未接種28人(606人)4・62%1回2人(36人)5・56%2回14人(244人)5・74%3回78人(838人)9・31%4回174人(9359人)1・86%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日まで。 陽性者の症状 無症状117人4・4%軽症2501人94・8%中等症Ⅰ13人0・5%中等症Ⅱ8人0・3%重症00・0%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日。 まず、陽性者数と陽性率だが、ワクチン適正回数接種者は対象2万8355人のうち、陽性者1260人で、陽性率は4・4%、適正回数未接種者は対象5157人のうち、陽性者916人で、陽性率は17・8%となっている。なお、ワクチンの適正接種回数は60歳以上が4回、12歳から59歳が3回以上、5歳から11歳が2回。 こうして見ると、ワクチンを適正回数接種した人は、していない人に比べて、陽性率が4分の1程度になっていることが分かる。 立谷市長は「ブレイクスルー(ワクチンを適正回数接種しても感染するケース)はあるものの、ワクチンの効果はあることが証明された」と説明した。 年代別で見ると、若年層の適正回数未接種者の陽性率が高い傾向にあることが分かる。若年層は、注意をしていても、人が集まる場に行く機会が多い、移動機会が多い、といった理由から、感染リスクが高くなると言われているが、それが裏付けられたような結果だ。対象的に、高齢者は適正回数接種者の陽性率は1・86%、それ以外でも10%以下と低くなっている。高齢者や基礎疾患がある人は重症化のリスクが高まるとされていることなどから、十分注意していることがうかがえる。 一方、陽性者の症状を見ると、94・8%が軽症となっており、無症状を含めると、99%以上が無症状・軽症になる。残りの0・8%は中等症Ⅰ、Ⅱで重症はゼロ。なお、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」によると、中等症Ⅰは「呼吸困難、肺炎所見」、中等症Ⅱは「酸素投与が必要」とされている。 立谷市長は以前の本誌取材に「ウイルス側も寄生するところがなくなったら生存できないわけだから、オミクロン株などに形を変えて『広く浅く』といった作戦に切り替えてきた。それをわれわれ人間がどう迎え撃つか。その戦いだ」と語っていたが、まさにそういった状況になっていることが分かる。 立谷市長 「今後、『第8波』が来る。年末年始で人の動きが活発になるということもあるが、基本的にこうしたウイルスは厳冬期は活性化しますからね」(立谷市長) もっとも、対策としては「これまで継続してやってもらっている基本対策(消毒、マスク着用、密回避など)と、早期のワクチン接種しかない。『第8波』が来る前に、11月上旬からワクチン接種を実施している」(立谷市長)とのことで、そこに尽きるようだ。 新型コロナ体験談 郡山市に住む50代男性。妻、子ども3人、義父母と暮らしています。 最初に感染したのは高1の娘。11月初めの夕方、高校に迎えに行くと喉がイガイガすると言う。まさかコロナじゃないだろうなと思いながら念のため車の窓を開けたが、娘も私もマスクを外していた。すると翌日、娘は咳をし出して発熱。病院でPCR検査を受け、陽性と判定された。 その2日後、私の体調に異変が表れた。喉がイガイガし、翌朝さらに酷くなった。次第に乾いた咳をするようになり、熱は38度台半ばに達した。抗原検査キットで陽性を確認。頭痛、寒気、関節の鈍い痛み等にも襲われ、寝るのもしんどい。解熱剤を服用してようやく眠れたが、その後、微熱と平熱を3、4日繰り返した。頭痛や寒気は翌日収まったが、喉のイガイガと咳は6日ほど続いた。寝過ぎた際に頭がボヤーっとする感じもしばらく残った。 私が発症した2日後には小学4年の次男も同じ症状に見舞われたが、幸い他の家族には広がらず、3人の感染で食い止めることができた。 私はワクチンを3回接種し、4回目の予約を検討しているところだった。インフルエンザに罹った時よりは辛くなかったが、できればもう感染したくないですね。 あわせて読みたい 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー コロナで3割減った郡山のスナック
たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。 ――2022年3月に発生した福島県沖地震で相馬市は大きな被害を受けました。 「特徴的な被害として挙げられるのは、ほぼ100%の住宅が被災したことです。家財道具が倒れたり、食器類が割れるなどの被害はほとんどの住宅であったと思います。家屋損壊も相当数に上りました。生活の現場で市民はさまざまな苦労を余儀なくされ、それは発災から8カ月経った今も続いています。 屋根には未だにブルーシートが被せられ、屋根瓦の修繕も思うように進んでいません。大工さんもフル回転で対応していますが、ここ20年で大工さんの人数自体が減っており、修繕に当たる人員は不足しているのが実情です。それでも市民の多くは、何とか自宅を再建しようと努力を続けていますが、中には再建を諦め、市営住宅や民間アパートに転居された方も少なくありません。それぞれ事情が異なるので(再建を諦めるという選択は)仕方ないのでしょうが、生活の基盤となる住宅が元通りにならないと『相馬は復旧した』という気持ちにはなれませんね。 産業では、観光業の方々を中心に国のグループ補助金が適用され、復旧費の4分の3が補助されます。それはありがたいことなのですが、残り4分の1は自己負担になります。平時ならまかなう余力があっても、新型コロナウイルス感染症の影響で客足が落ち込む中、自己負担分が今後の経営に影響を与えないか心配されます。また、後継者問題に直面していた事業者の中には先行きが見通せないとして、今回の被災で事業を取りやめたところもあったようです。事業者は千差万別、いろいろと悩みながら今後の経営を考えている状況です。主要な工場については、相馬共同火力新地発電所は現在も一部運転再開に至っていませんが、その他の工場はほぼ稼働しています。 東日本大震災から11年8カ月経ちますが、復興を遂げつつあった中で2021年2月、2022年3月と立て続けに地震に襲われ、市民の間には『大地震がまた来るのではないか』という憂鬱感が広がっています。そこに追い打ちをかけているのが新型コロナの影響による閉塞感と国際情勢の不安定さです。災害から復旧を果たしても、新型コロナの影響があって商売が上手くいかない、そこに原油高、円安、物価高が重なり、相馬市は非常に厳しい状況にあるというのが実感です。 とはいえ、市民がみんな下を向いているかと言うと、そんなことはありません。市職員も同様です。東日本大震災の時も実感しましたが、相馬市民は根性があります。市長として、この難局を市民一丸となって乗り越えていきたいと考えています」 ――相馬市内の新型コロナ感染状況はいかがですか。 「相馬市はPDCAサイクル(※)に則り、市ワクチン接種メディカルセンター会議で議論しながらワクチン接種を進めてきました。例えば接種方法は、スポーツアリーナそうまを会場とした集団接種が85%、病院での個別接種が15%という割合です。集団接種会場では何が起きても安心・安全が保てるよう万全の態勢を整えていますが、接種により何らかのリスクが生じる恐れのある方は最初から病院(個別接種)で対応しています。また、強い副反応が出た方にはその後の接種を勧めていません。 ワクチン接種の効果ですが、相馬市独自のデータではこれまでに約2600人(9月25日まで)の市民が感染し、そのうち中等症以上になられた方は21人(0・8%)で、99%以上の方は軽症です。感染確率は、ワクチンを適正回数接種した方が4・4%、適正回数接種していない、あるいは全く接種していない方が17・8%で約13㌽の差がありました。 これらの結果から、ワクチン接種の効果は確実にあると言えます。ただし、接種しても感染するブレイクスルー感染も見られるので『効果は絶対ではない』という点は認識しなければなりませんし、中にはさまざまな理由から接種しない・できない方もいるので、そうした意向も尊重しなければならないと思っています。 さらに課題になるのが、新型コロナは感染症法上の2類相当になるため、感染者や濃厚接触者の長期離脱が社会・経済に悪影響を及ぼしてしまうことです。今後、同法上の扱いをどうしていくのか、具体的には5類に引き下げられるのか国の動向を注視する必要があります」 ――年末に向けては第8波が懸念されていますが。 「相馬市では11月1日からオミクロン株対応ワクチンの集団接種を開始しており、医師は10月22日に全員接種済みです。接種間隔をめぐっては3カ月あけるのか、5カ月あけるのかという議論がありましたが、私は全国市長会長として『3カ月で接種させてほしい。そうでなければ第8波に間に合わない』と政府に申し入れ、10月21日に了承が得られた経緯があります。計画通り進めば12月20日には希望者の接種を終える予定です。 第7波は、感染者は多かったが重症者は少ないものでした。第8波がどのような特徴を示すか分かりませんが、事前の準備をしっかり整えておきたいと思います」 ――福島第一原発の敷地内に溜まる汚染水の海洋放出について、国、東電に求めることは。 「しっかりとしたエビデンスに基づき最終的な処理方法を国の責任で決めること、それによって漁業者等に被害が出ることがあればきちんと補償すること、この二つは一貫して申し上げてきました。実際に海洋放出した場合、どういう被害が出て、どこまで補償が必要かは現時点で分かりませんが、国と東電には被害者の声に耳を傾け、誠実な対応を強く求めたい」 ――観光振興への取り組みは。 「3月の地震で通行止めが続いていた市道大洲松川線が10月20日に通行再開しました。同線は海岸堤防上などを走る観光道路で、2020年10月にオープンした浜の駅松川浦、2022年10月に物産館がリニューアルされた道の駅そうま、さらに磯部加工施設の直売所を有機的に結び付ける役割を担っています。各施設とも評判は上々ですが、今後の課題はこれらの施設を訪れた方々をどうやって街中に誘導するかです。例えば相馬市では現在、相馬で水揚げされる天然トラフグを『福とら』の名でブランド化してPRに努めており、街中でトラフグ料理を味わってもらうのも一つのアイデアだと思います。また、新型コロナや地震の影響で旅館などが厳しい状況にあるので、市内に整備したサッカー場、ソフトボール場、パークゴルフ場などを生かした合宿の誘致も検討したいですね」 ――最後に抱負を。 「ダメージからの回復、これに尽きます。1日でも早く、市民が普通の生活に戻れるよう市長として尽力していきます」 相馬市ホームページ 政経東北【2022年12月号】
(2021年11月号) 本誌8月号、10月号で相馬市玉野地区に計画されている県内最大級のメガソーラーについて報じた。 事業者は「GSSGソーラージャパンホールディングス2」(東京都港区)で、アメリカ・コロラド州に拠点を置く太陽光発電事業者「GSSG Solar」の日本法人。 同計画の問題点は大きく2つ。 1つは、計画地は主に山林のため、大規模な林地開発を伴うこと。近隣や下流域の住民からは、「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安が出ている。 もう1つは、計画立案者で最大地権者は、7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者と同一人物であること。 関連報道によると、土石流が起きた原因は、河川上流の盛り土で、急な斜面に産廃を含む土砂が遺棄され、今回の豪雨で一気に崩落した、とされている。盛り土を行ったのは旧所有者だが、2011年に現所有者が取得。土石流の起点付近で不適切に土砂を投棄したほか、危険性を認識しながら適切な措置・対策を取っていなかったという。 遺族・被災者らは現旧所有者を相手取り損害賠償請求訴訟を起こすと同時に刑事告訴した。 その現所有者である麦島善光氏が玉野メガソーラー用地の約7割を所有しているのだ。登記簿謄本によると、東京都在住の個人が所有していたが、2002年に東京財務局が差押をした後、2011年8月、公売によって麦島氏が取得した。麦島氏が取得後、同所に抵当権などは設定されていない。 麦島氏はこの土地でメガソーラー事業を行う計画を立て、地元住民によると、「当初、麦島氏は自分でメガソーラーを開発、運営する考えだった。麦島氏とその部下がよくこちら(玉野地区)に来て、挨拶回りや説明を行っていた」という。 麦島氏は2016年9月、合同会社・相馬伊達太陽光発電所(東京都千代田区)を設立し、代表社員に就いた。しかし、自社での開発・運営を諦め、GSSGソーラージャパンホールディングス2が事業主体となった。麦島氏は同社に事業権を譲渡するとともに地代を受け取ることになる。 ただ、住民からすると「そういう問題人物が関わっていて、本当に大丈夫なのか」との不安は大きい。 10月11日、「相馬市民の会」主催で説明会が開かれた。当然、麦島氏のことが質問に出たのだが、事業者は「ただの地権者で事業そのものには関わらない」と、麦島氏の関与を否定した。 一方、「麦島氏は現在80歳を超えており、事業終了後(20〜40年後)はいない。開発で保水力を失った山林は事業終了後も管理が必要だが、その費用を麦島氏の後継者に請求できるか」との質問も出たが、これに対しては明確な回答はなかった。 麦島氏は直接的に事業に関与しないようだが、そういった点での不安は残されたままだ。 あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 相馬玉野メガソーラー計画への懸念
(2021年10月号) 本誌2021年8月号に「不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 静岡県熱海市土砂災害との意外な接点」という記事を掲載した。その後、相馬市9月議会で同計画に関連する動きがあったので続報する。 実らなかった住民団体「必死の訴え」 現在、相馬市玉野地区で、県内最大級のメガソーラー計画が進められている。計画地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴う。そのため、近隣住民や下流域の住民からは、「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安の声が出ていた。 こうした事情もあり、7月15日に玉野地区だけでなく、ほかの地区の住民も交えた説明会が開催された。主催したのは「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社の担当者を招いての説明会だった。 記事ではその模様を伝えたほか、①同事業用地の所有者で同事業の発案者は、7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者と同一人物であること、②県はそのことを認識しながら、7月15日に林地開発許可を出したこと――等々をリポートした。 一方、同記事では、説明会から4日後の7月19日に、住民団体「相馬市民有志の会」(※説明会を主催した「相馬市民の会」とは別団体)が県に対して、「同事業には安全面で問題があるため、林地開発許可を行わないよう求める」とする申入書を提出したことも伝えた。 申入書の趣旨は、1つは静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」を引き合いに、そうした問題人物の手掛ける事業に行政として、開発許可を出すのが妥当なのか、ということ。 もう1つは調整池の問題。「相馬市民有志の会」の関係者は当時の本誌取材に次のように話していた。 「2019年の台風では、同計画の設計基準とされている雨量を超えたほか、事業終了後の調整池の問題もあります。というのは、最初の説明会のとき、事業者は発電期間は20年間で、その後、メンテナンスを行い、さらに20年間、最大40年間を見込んでいるとのことでしたが、事業期間が終わり、パネルを撤退した時点では、山は丸裸のまんまです。一度剥いてしまった山林が保水力を取り戻すには数十年、場合によっては100年かかると言われており、事業終了後も調整池は残さなければならない。事業期間中は定期的にえん堤の修繕・堆積土浚渫などを行うそうだが、事業終了後は誰がそれをやるのか。国の制度では、2022年度から事業期間中に売電収入から外部積み立てをし、それを撤去費用に充てることになっていますが、調整池の保全管理費分も含むかどうかは不透明です。そういった面で、とにかく問題点が多過ぎる。将来的に、負の遺産になるかもしれないものは、地元住民として到底容認できないというのが申入書の趣旨です」 計画では事業区域は1号から7号までの各ブロックに分かれ、太陽光パネルが設置されたエリアはフェンスで覆い、その外側の周囲30㍍は残置森林とするほか、各ブロックに調整池を設置する、とされている。事業(発電)期間終了後、その調整池の管理の問題を問うのが申入書の趣旨だった。 8月号記事執筆時点では、この申入書に対する県からの回答はなかったが、8月11日付で県森林保全課から「相馬市民有志の会」に回答があった。内容は次の通り。 × × × × 林地開発許可について 令和3年4月28日付で合同会社相馬伊達太陽光発電所から林地開発許可申請があったこのことについて、「災害の防止」、「水害の防止」、「水の確保」、「環境の保全」の4要件で審査し、許可基準を満たすことを確認しました。さらに、福島県森林審議会に諮問した結果、「適当と認める」旨の答申を得たことから、令和3年7月15日付で許可しました。 GSSGソーラージャパンホールディングス2等の調査結果 申請者である合同会社相馬伊達太陽光発電所の代表社員GSSGソーラージャパンホールディングス2の存在を確認するとともに、開発行為が中断されることなく許可を受けた計画どおり適正に完遂させうる相当の資金力及び信用の有無を確認しています。なお、麦島善光氏(編集部注・静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者で、合同会社相馬伊達太陽光発電所の創設者、玉野地区メガソーラー計画地の地権者)につきましては、土地所有者であり、土地所有者の適正は審査項目に含まれておりません。 土砂災害警戒区域について 土砂災害防止法による開発規制は、指定区域において住宅分譲や災害時要援護者関連施設等の建築のための開発行為が対象であり、太陽光発電事業を目的とする開発行為は該当しない旨の回答を担当部局から得ています。また、当該地の警戒区域については、現時点で未指定であり、基礎調査の公表となっています。なお、環境省において再生可能エネルギーの促進地域から土砂災害の危険性が高い区域を除外する旨の通知等は示されていません × × × × 資源エネ庁に申し入れ 「相馬市民有志の会」が県に申入書を提出した直後、県森林保全課に確認したところ、林地開発については、手続き上、要件を満たしていれば開発許可を出すことになる、とのこと。 さらに、静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」との関係については、県森林保全課では、熱海市の土地所有者と、玉野地区のメガソーラー計画の事業地所有者が同一人物であることは認識していた。 そこで、記者が「すでに開発許可は出ているそうだが、そういう人(問題人物と思しき人)が関わっているということで、開発許可を再考するということにはならないのか」と尋ねると、こう明かした。 「許可申請者は別(GSSGの傘下のようになった相馬伊達太陽光発電所)ですし、(熱海市の件と同一人物が)所有者に名を連ねているのは承知していますが、それだけ、と言ったら何ですが……。そういうこと(開発許可を再考すること)にはならないと思います」 申入書に対する回答を見ると、まさにそういった内容のものだ。 一方、「相馬市民有志の会」は同様の観点から、8月下旬、相馬市に要望を行うと同時に、相馬市議会に陳情書を提出した。 それに先立ち、「相馬市民有志の会」は8月10日に資源エネルギー庁にも同趣旨の申入書を提出している。その際、資源エネルギー庁は「調整池は長期にわたり維持管理される必要があるが、調整池保全管理費については、外部機関積み立ての対象になっていない」との回答だったという。 国は2020年6月、メガソーラーなどの事業終了時のために、施設撤去費用を外部機関に積み立てることなどを定めた「エネルギー供給強靭化法」を制定したが、そこで定められた「外部機関積み立て」には、調整池保全管理費は含んでいないことが資源エネルギー庁への申し入れで明らかになったということだ。 「市が義務付けは難しい」と市長 これを受け、「相馬市民有志の会」は市と議会に対して「長期にわたる調整池の保全管理費が本来負担すべき事業者ではなく、相馬市民に押し付けられることになる」として、「そうしたことにならないよう、事業者との間に①事業終了後においても、調整池の保全管理費は事業者が負担すること。事業者は保全管理費の総計を算出し、それを相馬市と共有して積み立て実態も公開すること、②万が一、メガソーラー設置に起因する災害が発生したときは事業者が復旧及び被害救済に責任を負うこと、などを内容とする協定書を取り交わすべき」と要望・陳情したのである。 陳情は市議会文教厚生常任委員会に付託され、9月定例会中の9月8日に審議が行われたが、それに先立ち、同2日に一般質問が行われ、村松恵美子議員が関連の質問を行った。 内容は「県内最大規模のメガソーラー発電施設が玉野地区に設置される計画が進んでいる。メガソーラー設置区域には土砂流出警戒区域も含まれる。さらに大雨対策の調整池の維持管理が事業継続中は事業者の責任だが、事業終了後は事業者責任が無くなることが分かった。このような法整備が不完全の状態で設置が進むことを市長はどう考えるかうかがう」というもの。 まさに、「相馬市民有志の会」が懸念する「事業終了後の調整池の維持管理の問題」を質したのである。 これに対する市当局の答弁だが、まず、林地開発申請後、県から地元自治体として意見を求められ、意見書を提出したという。 その内容は、令和元年東日本台風により大きな被害を受けた下流地区の住民に、特に丁寧な説明を行い、水害への懸念を払拭すること、激甚災害相当規模の雨量にも対応できる設備を設置すること、林地開発にあたっては、開発地周辺住民に十分な説明機会を設け、理解を得ながら事業を進めること、意見や要望に対して十分な説明や誠意を持って対応すること――というもの。 そのうえで、立谷秀清市長は次のように答弁した。 「『相馬市民有志の会』から環境協定の中で事業終了後の調整池の管理を義務付けるよう要望が出ている。弁護士とも協議したが、民間事業者と地権者の契約の中で、市が事業者にその義務付けをすることはできない。協定書に盛り込めるとしたら、県の基準を順守しなさい、安全性を確保しなさい、というところまでしかできない」 さらに、立谷市長は「この件は全国的な問題として、これから出てくる。発端は熱海市の件。熱海市長とは親しくしているが、憤懣やるかたない思いだと言っていた。全国的な問題だから、全国市長会長の立場で問題提起・議論していきたい」とも語っていた。 問題は認識しつつも、民間事業者と地権者による民民のビジネス契約だから、市としてそこに関与することは難しい、ということだ。 陳情「委員会審議」の模様 陳情の審議が行われたのは、この一般質問があった数日後で、当日は陳情者の意見陳述が行われ、「相馬市民有志の会」関係者が陳情趣旨などを説明した。その後、議員(委員)から陳情者への質問、議員から執行部への質問、議員間討議、討論などが行われ、最後に採決された。採決結果は賛成ゼロで不採択だった。 反対討論は3人の議員が行ったが、端的に言うと、その内容は「相馬市民有志の会」が指摘した問題点について理解は示しつつ、基本的には民間事業者が民間の土地を借りて行う事業であり、行政として関与できるものではない、というものだった。この数日前の立谷市長の答弁を受け、議会でもそういった結論になったということだろう。 「相馬市民有志の会」の懸念は、民間事業者がビジネス(金儲け)をした後の後処理を誰がするのか、場合によっては行政が税金によって担うことになり、それはおかしい、ということである。だったら、そうならないようにあらかじめ対策を取っておくべき、ということで、趣旨としては分かりやすい。 ただ、市や議会の判断は前述の通りで、住民の感情や懸念と、行政・議会としてできることには隔たりがあるということだ。 同日は「相馬市民有志の会」関係者ら十数人が傍聴に訪れていたが、落胆の声が聞かれた。 前述したように、国は2020年6月、メガソーラーなどの事業終了時のために、施設撤去費用を外部機関に積み立てることなどを定めた「エネルギー供給強靭化法」を制定したが、そこで定められた「外部機関積み立て」には、調整池保全管理費は含んでいない。そこに、調整池保全管理費なども含めるよう、法制度を変えていくしかないということだろう。 一方で、関係者によると、10月中に事業者を招いた「相馬市民の会」主催の説明会が再度行われるというが、その席であらためてこの問題が取り上げられるのは間違いない。そこで、事業者がどのような回答を用意しているか、ひとまずはそこに注目だ。 相馬市のホームページ あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定
本誌2021年8、10月号で、相馬市玉野地区で進められているメガソーラー事業についてリポートした。事業者は「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社で、アメリカ・コロラド州に拠点を置く太陽光発電事業者「GSSG Solar」の日本法人。 メガソーラー事業への反対運動:地元の懸念と説明会 玉野メガソーラー事業地(工事前) 玉野メガソーラー事業地(今年5月撮影) 同事業については、大きく以下の2点から、近隣住民や河川下流域の住民から反対の声が出ていた。 1つは、事業地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴うこと。近隣・下流域の住民からは「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安が噴出していた。 もう1つは、計画立案者で事業用地の大部分を所有する人物が、2021年7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土石流災害」現場の所有者と同一人物であること。この人物は地権者というだけで、直接的には事業に関与しないようだが、近隣住民などからは「あのような問題人物が関係しているとすれば不安だ」との声があった。 こうした事情もあり、2021年7月と10月に地元住民や下流域の住民を対象とした説明会が行われた。主催者は「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の現場担当者を招いての説明会だった。 説明会で配布された資料によると、事業区域面積は約122㌶で、うち森林面積が約117㌶、開発行為にかかる森林面積が約82㌶、発電容量は約82メガ㍗、最大出力60メガ㍗、太陽光パネル設置枚数16万6964枚などと書かれていた。 当然、説明会では前述のような不安の声が上がり、事業者は「問題のないように事業を進める」、「保険に入り、災害の際はそれで対応する」と回答した。ただ、そうした説明に反対派の住民は納得せず、平行線をたどった。 メガソーラー事業の現状:山林開発の進行と地元の不安 それからしばらくして、昨年2月ごろに、地元住民から「われわれの訴えも虚しく工事がスタートした」との情報が寄せられた。その直後に現地を訪ねた際は分からなかったが、最近、あらためて現地を訪ねると、山林がかなり切り開かれている様子がうかがえた。 以前の説明会に出席していた事業者の現場担当者に進捗状況を尋ねたところ、「一度、社内で話を通さないと取材にはお答えできないので、そのうえで再度連絡します」とのことだったが、締め切りまでに連絡はなかった。 以前の説明会で、事業者は「調整池を設置して洪水・土砂災害などが起きないようにする」と話していたが、あらためて丸裸にされた山林を見ると、近隣・下流域の住民は不安を増大させているだろうと感じる。 あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 (2021年8月号) 相馬玉野メガソーラー計画への懸念 (2021年10月号) 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 (2021年11月号)
相馬市は2022年夏の新型コロナ「第7波」の感染者(陽性者)の詳細な分析を行った。その内容を紹介・検証しつつ、すでに到来しつつある「第8波」に向けて、どのような対策が有効かを考えていきたい。 相馬市の陽性者分析で見えた対策 2022年11月23日時点での国内のコロナ感染者累計数は2409万4925人、死者数は4万8797人。およそ5人に1人がこれまでに罹患している計算になる。1日の感染者数で見ると、今夏の「第7波」と言われる感染拡大の中で、7月下旬から8月下旬にかけて連日20万人を超える新規感染者が確認された。その前後でも、1日に10万人から15万人の感染者が出ている。 県内で見ると、11月23日時点でのコロナ感染者累計数は24万9359人、死者数は335人。およそ7人に1人が感染している計算で、国内平均よりは低い。1日の感染者数が最も多かったのは、2022年8月19日で3584人。その前後で、2000人越え、3000人越えの日が相次いだ。7月下旬から9月上旬までが「第7波」に位置付けられる。 その後は、少し落ち着き500人から1000人弱の日が続いたが、11月中旬ごろからまた増え始めている。11月22日は3341人、23日は3191人と、過去最高に迫っている。すでに「第8波」が到来していると言えそうだ。 政府(新型コロナウイルス感染症対策本部)は、11月18日までに「今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合の対応について」をまとめた。いわゆる「第8波対策」である。 基本方針は「今秋以降の感染拡大が、今夏のオミクロン株と同程度の感染力・病原性の変異株によるものであれば、新たな行動制限は行わず、社会経済活動を維持しながら、高齢者等を守ることに重点を置いて感染拡大防止措置を講じるとともに、同時流行も想定した外来等の保健医療体制を準備する」というもの。 住民は、これまでと同様、3密回避、手指衛生、速やかなオミクロン株対応ワクチン接種、感染者と接触があった場合の早期検査、混雑した場所や感染リスクの高い場所への外出などを控える、飲食店での大声や長時間滞在の回避、会話する際のマスク着用、普段と異なる症状がある場合は外出、出勤、登校・登園等を控える――等々の基本的な対策が求められる。 「第8波対策」で、これまでと大きく変わったところは、「外来医療を含めた保健医療への負荷が相当程度増大し、社会経済活動にも支障が生じている段階(レベル3 医療負荷増大期)にあると認められる場合に、地域の実情に応じて、都道府県が『医療ひっ迫防止対策強化宣言』を行い、住民及び事業者等に対して、医療体制の機能維持・確保、感染拡大防止措置、業務継続体制の確保等に係る協力要請・呼びかけを実施する」「国は、当該都道府県を『医療ひっ迫防止対策強化地域』と位置付け、既存の支援に加え、必要に応じて支援を行う」とされていること。 つまり、都道府県の判断で「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を行い、営業自粛、移動自粛などの要請ができるということだ。 こうして「第8波」に向けた対策や基本方針が定められる中、相馬市が「第7波」の感染者について詳細な分析を行ったものが今後の参考になりそうなので紹介・検証したい。 ちなみに、同市の立谷秀清市長は、医師免許を持っており、地元医師会との意思疎通が図りやすいほか、全国の医師系市長で組織する「全国医系市長会長」を務め、他市の医療体制・感染状況などの情報交換がしやすいこと、全国市長会長を務め、比較的頻繁に国と意見交換ができる環境にある、といった強みがある。 ワクチンの効果 別表は、同市で「第7波」で陽性判定を受けた人の「陽性者数と陽性率」、「年代別、ワクチン接種回数別の陽性者と陽性率」、「陽性者の症状」をまとめたもの。 第7波の陽性者数と陽性率 適正回数接種者検査対象者2万8355人陰性者2万7095人(95・6%)陽性者1260人(4・4%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 適正回数未満接種者検査対象者5157人陰性者4241人(82・2%)陽性者916人(17・8%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 年代別、ワクチン接種回数別の陽性者数と陽性率 区分接種回数陽性者 カッコ内は対象総数陽性率未就学未接種228人(1327人)17・18%1回3人(5人)60・00%2回10人(78人)11・49%小学生未接種222人(875人)25・37%1回27人(44人)61・36%2回108人(874人)12・36%中学生未接種33人(162人)20・37%1回1人(12人)8・33%2回40人(217人)18・43%3回31人(512人)6・05%高校生未接種17人(94人)18・09%1回0人(4人)0・00%2回34人(132人)25・76%3回43人(707人)6・08%青壮年未接種311人(1492人)20・84%1回7人(82人)8・54%2回149人(1091人)13・66%3回954人(1万0705人)8・91%4回125人(4007人)3・12%高齢者未接種28人(606人)4・62%1回2人(36人)5・56%2回14人(244人)5・74%3回78人(838人)9・31%4回174人(9359人)1・86%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日まで。 陽性者の症状 無症状117人4・4%軽症2501人94・8%中等症Ⅰ13人0・5%中等症Ⅱ8人0・3%重症00・0%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日。 まず、陽性者数と陽性率だが、ワクチン適正回数接種者は対象2万8355人のうち、陽性者1260人で、陽性率は4・4%、適正回数未接種者は対象5157人のうち、陽性者916人で、陽性率は17・8%となっている。なお、ワクチンの適正接種回数は60歳以上が4回、12歳から59歳が3回以上、5歳から11歳が2回。 こうして見ると、ワクチンを適正回数接種した人は、していない人に比べて、陽性率が4分の1程度になっていることが分かる。 立谷市長は「ブレイクスルー(ワクチンを適正回数接種しても感染するケース)はあるものの、ワクチンの効果はあることが証明された」と説明した。 年代別で見ると、若年層の適正回数未接種者の陽性率が高い傾向にあることが分かる。若年層は、注意をしていても、人が集まる場に行く機会が多い、移動機会が多い、といった理由から、感染リスクが高くなると言われているが、それが裏付けられたような結果だ。対象的に、高齢者は適正回数接種者の陽性率は1・86%、それ以外でも10%以下と低くなっている。高齢者や基礎疾患がある人は重症化のリスクが高まるとされていることなどから、十分注意していることがうかがえる。 一方、陽性者の症状を見ると、94・8%が軽症となっており、無症状を含めると、99%以上が無症状・軽症になる。残りの0・8%は中等症Ⅰ、Ⅱで重症はゼロ。なお、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」によると、中等症Ⅰは「呼吸困難、肺炎所見」、中等症Ⅱは「酸素投与が必要」とされている。 立谷市長は以前の本誌取材に「ウイルス側も寄生するところがなくなったら生存できないわけだから、オミクロン株などに形を変えて『広く浅く』といった作戦に切り替えてきた。それをわれわれ人間がどう迎え撃つか。その戦いだ」と語っていたが、まさにそういった状況になっていることが分かる。 立谷市長 「今後、『第8波』が来る。年末年始で人の動きが活発になるということもあるが、基本的にこうしたウイルスは厳冬期は活性化しますからね」(立谷市長) もっとも、対策としては「これまで継続してやってもらっている基本対策(消毒、マスク着用、密回避など)と、早期のワクチン接種しかない。『第8波』が来る前に、11月上旬からワクチン接種を実施している」(立谷市長)とのことで、そこに尽きるようだ。 新型コロナ体験談 郡山市に住む50代男性。妻、子ども3人、義父母と暮らしています。 最初に感染したのは高1の娘。11月初めの夕方、高校に迎えに行くと喉がイガイガすると言う。まさかコロナじゃないだろうなと思いながら念のため車の窓を開けたが、娘も私もマスクを外していた。すると翌日、娘は咳をし出して発熱。病院でPCR検査を受け、陽性と判定された。 その2日後、私の体調に異変が表れた。喉がイガイガし、翌朝さらに酷くなった。次第に乾いた咳をするようになり、熱は38度台半ばに達した。抗原検査キットで陽性を確認。頭痛、寒気、関節の鈍い痛み等にも襲われ、寝るのもしんどい。解熱剤を服用してようやく眠れたが、その後、微熱と平熱を3、4日繰り返した。頭痛や寒気は翌日収まったが、喉のイガイガと咳は6日ほど続いた。寝過ぎた際に頭がボヤーっとする感じもしばらく残った。 私が発症した2日後には小学4年の次男も同じ症状に見舞われたが、幸い他の家族には広がらず、3人の感染で食い止めることができた。 私はワクチンを3回接種し、4回目の予約を検討しているところだった。インフルエンザに罹った時よりは辛くなかったが、できればもう感染したくないですね。 あわせて読みたい 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー コロナで3割減った郡山のスナック
たちや・ひできよ 1951年生まれ。県立医大卒。95年から県議1期。2001年の市長選で初当選。現在6期目。18年6月から全国市長会会長を務める。 ――2022年3月に発生した福島県沖地震で相馬市は大きな被害を受けました。 「特徴的な被害として挙げられるのは、ほぼ100%の住宅が被災したことです。家財道具が倒れたり、食器類が割れるなどの被害はほとんどの住宅であったと思います。家屋損壊も相当数に上りました。生活の現場で市民はさまざまな苦労を余儀なくされ、それは発災から8カ月経った今も続いています。 屋根には未だにブルーシートが被せられ、屋根瓦の修繕も思うように進んでいません。大工さんもフル回転で対応していますが、ここ20年で大工さんの人数自体が減っており、修繕に当たる人員は不足しているのが実情です。それでも市民の多くは、何とか自宅を再建しようと努力を続けていますが、中には再建を諦め、市営住宅や民間アパートに転居された方も少なくありません。それぞれ事情が異なるので(再建を諦めるという選択は)仕方ないのでしょうが、生活の基盤となる住宅が元通りにならないと『相馬は復旧した』という気持ちにはなれませんね。 産業では、観光業の方々を中心に国のグループ補助金が適用され、復旧費の4分の3が補助されます。それはありがたいことなのですが、残り4分の1は自己負担になります。平時ならまかなう余力があっても、新型コロナウイルス感染症の影響で客足が落ち込む中、自己負担分が今後の経営に影響を与えないか心配されます。また、後継者問題に直面していた事業者の中には先行きが見通せないとして、今回の被災で事業を取りやめたところもあったようです。事業者は千差万別、いろいろと悩みながら今後の経営を考えている状況です。主要な工場については、相馬共同火力新地発電所は現在も一部運転再開に至っていませんが、その他の工場はほぼ稼働しています。 東日本大震災から11年8カ月経ちますが、復興を遂げつつあった中で2021年2月、2022年3月と立て続けに地震に襲われ、市民の間には『大地震がまた来るのではないか』という憂鬱感が広がっています。そこに追い打ちをかけているのが新型コロナの影響による閉塞感と国際情勢の不安定さです。災害から復旧を果たしても、新型コロナの影響があって商売が上手くいかない、そこに原油高、円安、物価高が重なり、相馬市は非常に厳しい状況にあるというのが実感です。 とはいえ、市民がみんな下を向いているかと言うと、そんなことはありません。市職員も同様です。東日本大震災の時も実感しましたが、相馬市民は根性があります。市長として、この難局を市民一丸となって乗り越えていきたいと考えています」 ――相馬市内の新型コロナ感染状況はいかがですか。 「相馬市はPDCAサイクル(※)に則り、市ワクチン接種メディカルセンター会議で議論しながらワクチン接種を進めてきました。例えば接種方法は、スポーツアリーナそうまを会場とした集団接種が85%、病院での個別接種が15%という割合です。集団接種会場では何が起きても安心・安全が保てるよう万全の態勢を整えていますが、接種により何らかのリスクが生じる恐れのある方は最初から病院(個別接種)で対応しています。また、強い副反応が出た方にはその後の接種を勧めていません。 ワクチン接種の効果ですが、相馬市独自のデータではこれまでに約2600人(9月25日まで)の市民が感染し、そのうち中等症以上になられた方は21人(0・8%)で、99%以上の方は軽症です。感染確率は、ワクチンを適正回数接種した方が4・4%、適正回数接種していない、あるいは全く接種していない方が17・8%で約13㌽の差がありました。 これらの結果から、ワクチン接種の効果は確実にあると言えます。ただし、接種しても感染するブレイクスルー感染も見られるので『効果は絶対ではない』という点は認識しなければなりませんし、中にはさまざまな理由から接種しない・できない方もいるので、そうした意向も尊重しなければならないと思っています。 さらに課題になるのが、新型コロナは感染症法上の2類相当になるため、感染者や濃厚接触者の長期離脱が社会・経済に悪影響を及ぼしてしまうことです。今後、同法上の扱いをどうしていくのか、具体的には5類に引き下げられるのか国の動向を注視する必要があります」 ――年末に向けては第8波が懸念されていますが。 「相馬市では11月1日からオミクロン株対応ワクチンの集団接種を開始しており、医師は10月22日に全員接種済みです。接種間隔をめぐっては3カ月あけるのか、5カ月あけるのかという議論がありましたが、私は全国市長会長として『3カ月で接種させてほしい。そうでなければ第8波に間に合わない』と政府に申し入れ、10月21日に了承が得られた経緯があります。計画通り進めば12月20日には希望者の接種を終える予定です。 第7波は、感染者は多かったが重症者は少ないものでした。第8波がどのような特徴を示すか分かりませんが、事前の準備をしっかり整えておきたいと思います」 ――福島第一原発の敷地内に溜まる汚染水の海洋放出について、国、東電に求めることは。 「しっかりとしたエビデンスに基づき最終的な処理方法を国の責任で決めること、それによって漁業者等に被害が出ることがあればきちんと補償すること、この二つは一貫して申し上げてきました。実際に海洋放出した場合、どういう被害が出て、どこまで補償が必要かは現時点で分かりませんが、国と東電には被害者の声に耳を傾け、誠実な対応を強く求めたい」 ――観光振興への取り組みは。 「3月の地震で通行止めが続いていた市道大洲松川線が10月20日に通行再開しました。同線は海岸堤防上などを走る観光道路で、2020年10月にオープンした浜の駅松川浦、2022年10月に物産館がリニューアルされた道の駅そうま、さらに磯部加工施設の直売所を有機的に結び付ける役割を担っています。各施設とも評判は上々ですが、今後の課題はこれらの施設を訪れた方々をどうやって街中に誘導するかです。例えば相馬市では現在、相馬で水揚げされる天然トラフグを『福とら』の名でブランド化してPRに努めており、街中でトラフグ料理を味わってもらうのも一つのアイデアだと思います。また、新型コロナや地震の影響で旅館などが厳しい状況にあるので、市内に整備したサッカー場、ソフトボール場、パークゴルフ場などを生かした合宿の誘致も検討したいですね」 ――最後に抱負を。 「ダメージからの回復、これに尽きます。1日でも早く、市民が普通の生活に戻れるよう市長として尽力していきます」 相馬市ホームページ 政経東北【2022年12月号】
(2021年11月号) 本誌8月号、10月号で相馬市玉野地区に計画されている県内最大級のメガソーラーについて報じた。 事業者は「GSSGソーラージャパンホールディングス2」(東京都港区)で、アメリカ・コロラド州に拠点を置く太陽光発電事業者「GSSG Solar」の日本法人。 同計画の問題点は大きく2つ。 1つは、計画地は主に山林のため、大規模な林地開発を伴うこと。近隣や下流域の住民からは、「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安が出ている。 もう1つは、計画立案者で最大地権者は、7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者と同一人物であること。 関連報道によると、土石流が起きた原因は、河川上流の盛り土で、急な斜面に産廃を含む土砂が遺棄され、今回の豪雨で一気に崩落した、とされている。盛り土を行ったのは旧所有者だが、2011年に現所有者が取得。土石流の起点付近で不適切に土砂を投棄したほか、危険性を認識しながら適切な措置・対策を取っていなかったという。 遺族・被災者らは現旧所有者を相手取り損害賠償請求訴訟を起こすと同時に刑事告訴した。 その現所有者である麦島善光氏が玉野メガソーラー用地の約7割を所有しているのだ。登記簿謄本によると、東京都在住の個人が所有していたが、2002年に東京財務局が差押をした後、2011年8月、公売によって麦島氏が取得した。麦島氏が取得後、同所に抵当権などは設定されていない。 麦島氏はこの土地でメガソーラー事業を行う計画を立て、地元住民によると、「当初、麦島氏は自分でメガソーラーを開発、運営する考えだった。麦島氏とその部下がよくこちら(玉野地区)に来て、挨拶回りや説明を行っていた」という。 麦島氏は2016年9月、合同会社・相馬伊達太陽光発電所(東京都千代田区)を設立し、代表社員に就いた。しかし、自社での開発・運営を諦め、GSSGソーラージャパンホールディングス2が事業主体となった。麦島氏は同社に事業権を譲渡するとともに地代を受け取ることになる。 ただ、住民からすると「そういう問題人物が関わっていて、本当に大丈夫なのか」との不安は大きい。 10月11日、「相馬市民の会」主催で説明会が開かれた。当然、麦島氏のことが質問に出たのだが、事業者は「ただの地権者で事業そのものには関わらない」と、麦島氏の関与を否定した。 一方、「麦島氏は現在80歳を超えており、事業終了後(20〜40年後)はいない。開発で保水力を失った山林は事業終了後も管理が必要だが、その費用を麦島氏の後継者に請求できるか」との質問も出たが、これに対しては明確な回答はなかった。 麦島氏は直接的に事業に関与しないようだが、そういった点での不安は残されたままだ。 あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 相馬玉野メガソーラー計画への懸念
(2021年10月号) 本誌2021年8月号に「不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 静岡県熱海市土砂災害との意外な接点」という記事を掲載した。その後、相馬市9月議会で同計画に関連する動きがあったので続報する。 実らなかった住民団体「必死の訴え」 現在、相馬市玉野地区で、県内最大級のメガソーラー計画が進められている。計画地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴う。そのため、近隣住民や下流域の住民からは、「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安の声が出ていた。 こうした事情もあり、7月15日に玉野地区だけでなく、ほかの地区の住民も交えた説明会が開催された。主催したのは「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社の担当者を招いての説明会だった。 記事ではその模様を伝えたほか、①同事業用地の所有者で同事業の発案者は、7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者と同一人物であること、②県はそのことを認識しながら、7月15日に林地開発許可を出したこと――等々をリポートした。 一方、同記事では、説明会から4日後の7月19日に、住民団体「相馬市民有志の会」(※説明会を主催した「相馬市民の会」とは別団体)が県に対して、「同事業には安全面で問題があるため、林地開発許可を行わないよう求める」とする申入書を提出したことも伝えた。 申入書の趣旨は、1つは静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」を引き合いに、そうした問題人物の手掛ける事業に行政として、開発許可を出すのが妥当なのか、ということ。 もう1つは調整池の問題。「相馬市民有志の会」の関係者は当時の本誌取材に次のように話していた。 「2019年の台風では、同計画の設計基準とされている雨量を超えたほか、事業終了後の調整池の問題もあります。というのは、最初の説明会のとき、事業者は発電期間は20年間で、その後、メンテナンスを行い、さらに20年間、最大40年間を見込んでいるとのことでしたが、事業期間が終わり、パネルを撤退した時点では、山は丸裸のまんまです。一度剥いてしまった山林が保水力を取り戻すには数十年、場合によっては100年かかると言われており、事業終了後も調整池は残さなければならない。事業期間中は定期的にえん堤の修繕・堆積土浚渫などを行うそうだが、事業終了後は誰がそれをやるのか。国の制度では、2022年度から事業期間中に売電収入から外部積み立てをし、それを撤去費用に充てることになっていますが、調整池の保全管理費分も含むかどうかは不透明です。そういった面で、とにかく問題点が多過ぎる。将来的に、負の遺産になるかもしれないものは、地元住民として到底容認できないというのが申入書の趣旨です」 計画では事業区域は1号から7号までの各ブロックに分かれ、太陽光パネルが設置されたエリアはフェンスで覆い、その外側の周囲30㍍は残置森林とするほか、各ブロックに調整池を設置する、とされている。事業(発電)期間終了後、その調整池の管理の問題を問うのが申入書の趣旨だった。 8月号記事執筆時点では、この申入書に対する県からの回答はなかったが、8月11日付で県森林保全課から「相馬市民有志の会」に回答があった。内容は次の通り。 × × × × 林地開発許可について 令和3年4月28日付で合同会社相馬伊達太陽光発電所から林地開発許可申請があったこのことについて、「災害の防止」、「水害の防止」、「水の確保」、「環境の保全」の4要件で審査し、許可基準を満たすことを確認しました。さらに、福島県森林審議会に諮問した結果、「適当と認める」旨の答申を得たことから、令和3年7月15日付で許可しました。 GSSGソーラージャパンホールディングス2等の調査結果 申請者である合同会社相馬伊達太陽光発電所の代表社員GSSGソーラージャパンホールディングス2の存在を確認するとともに、開発行為が中断されることなく許可を受けた計画どおり適正に完遂させうる相当の資金力及び信用の有無を確認しています。なお、麦島善光氏(編集部注・静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」現場の所有者で、合同会社相馬伊達太陽光発電所の創設者、玉野地区メガソーラー計画地の地権者)につきましては、土地所有者であり、土地所有者の適正は審査項目に含まれておりません。 土砂災害警戒区域について 土砂災害防止法による開発規制は、指定区域において住宅分譲や災害時要援護者関連施設等の建築のための開発行為が対象であり、太陽光発電事業を目的とする開発行為は該当しない旨の回答を担当部局から得ています。また、当該地の警戒区域については、現時点で未指定であり、基礎調査の公表となっています。なお、環境省において再生可能エネルギーの促進地域から土砂災害の危険性が高い区域を除外する旨の通知等は示されていません × × × × 資源エネ庁に申し入れ 「相馬市民有志の会」が県に申入書を提出した直後、県森林保全課に確認したところ、林地開発については、手続き上、要件を満たしていれば開発許可を出すことになる、とのこと。 さらに、静岡県熱海市の「伊豆山土砂災害」との関係については、県森林保全課では、熱海市の土地所有者と、玉野地区のメガソーラー計画の事業地所有者が同一人物であることは認識していた。 そこで、記者が「すでに開発許可は出ているそうだが、そういう人(問題人物と思しき人)が関わっているということで、開発許可を再考するということにはならないのか」と尋ねると、こう明かした。 「許可申請者は別(GSSGの傘下のようになった相馬伊達太陽光発電所)ですし、(熱海市の件と同一人物が)所有者に名を連ねているのは承知していますが、それだけ、と言ったら何ですが……。そういうこと(開発許可を再考すること)にはならないと思います」 申入書に対する回答を見ると、まさにそういった内容のものだ。 一方、「相馬市民有志の会」は同様の観点から、8月下旬、相馬市に要望を行うと同時に、相馬市議会に陳情書を提出した。 それに先立ち、「相馬市民有志の会」は8月10日に資源エネルギー庁にも同趣旨の申入書を提出している。その際、資源エネルギー庁は「調整池は長期にわたり維持管理される必要があるが、調整池保全管理費については、外部機関積み立ての対象になっていない」との回答だったという。 国は2020年6月、メガソーラーなどの事業終了時のために、施設撤去費用を外部機関に積み立てることなどを定めた「エネルギー供給強靭化法」を制定したが、そこで定められた「外部機関積み立て」には、調整池保全管理費は含んでいないことが資源エネルギー庁への申し入れで明らかになったということだ。 「市が義務付けは難しい」と市長 これを受け、「相馬市民有志の会」は市と議会に対して「長期にわたる調整池の保全管理費が本来負担すべき事業者ではなく、相馬市民に押し付けられることになる」として、「そうしたことにならないよう、事業者との間に①事業終了後においても、調整池の保全管理費は事業者が負担すること。事業者は保全管理費の総計を算出し、それを相馬市と共有して積み立て実態も公開すること、②万が一、メガソーラー設置に起因する災害が発生したときは事業者が復旧及び被害救済に責任を負うこと、などを内容とする協定書を取り交わすべき」と要望・陳情したのである。 陳情は市議会文教厚生常任委員会に付託され、9月定例会中の9月8日に審議が行われたが、それに先立ち、同2日に一般質問が行われ、村松恵美子議員が関連の質問を行った。 内容は「県内最大規模のメガソーラー発電施設が玉野地区に設置される計画が進んでいる。メガソーラー設置区域には土砂流出警戒区域も含まれる。さらに大雨対策の調整池の維持管理が事業継続中は事業者の責任だが、事業終了後は事業者責任が無くなることが分かった。このような法整備が不完全の状態で設置が進むことを市長はどう考えるかうかがう」というもの。 まさに、「相馬市民有志の会」が懸念する「事業終了後の調整池の維持管理の問題」を質したのである。 これに対する市当局の答弁だが、まず、林地開発申請後、県から地元自治体として意見を求められ、意見書を提出したという。 その内容は、令和元年東日本台風により大きな被害を受けた下流地区の住民に、特に丁寧な説明を行い、水害への懸念を払拭すること、激甚災害相当規模の雨量にも対応できる設備を設置すること、林地開発にあたっては、開発地周辺住民に十分な説明機会を設け、理解を得ながら事業を進めること、意見や要望に対して十分な説明や誠意を持って対応すること――というもの。 そのうえで、立谷秀清市長は次のように答弁した。 「『相馬市民有志の会』から環境協定の中で事業終了後の調整池の管理を義務付けるよう要望が出ている。弁護士とも協議したが、民間事業者と地権者の契約の中で、市が事業者にその義務付けをすることはできない。協定書に盛り込めるとしたら、県の基準を順守しなさい、安全性を確保しなさい、というところまでしかできない」 さらに、立谷市長は「この件は全国的な問題として、これから出てくる。発端は熱海市の件。熱海市長とは親しくしているが、憤懣やるかたない思いだと言っていた。全国的な問題だから、全国市長会長の立場で問題提起・議論していきたい」とも語っていた。 問題は認識しつつも、民間事業者と地権者による民民のビジネス契約だから、市としてそこに関与することは難しい、ということだ。 陳情「委員会審議」の模様 陳情の審議が行われたのは、この一般質問があった数日後で、当日は陳情者の意見陳述が行われ、「相馬市民有志の会」関係者が陳情趣旨などを説明した。その後、議員(委員)から陳情者への質問、議員から執行部への質問、議員間討議、討論などが行われ、最後に採決された。採決結果は賛成ゼロで不採択だった。 反対討論は3人の議員が行ったが、端的に言うと、その内容は「相馬市民有志の会」が指摘した問題点について理解は示しつつ、基本的には民間事業者が民間の土地を借りて行う事業であり、行政として関与できるものではない、というものだった。この数日前の立谷市長の答弁を受け、議会でもそういった結論になったということだろう。 「相馬市民有志の会」の懸念は、民間事業者がビジネス(金儲け)をした後の後処理を誰がするのか、場合によっては行政が税金によって担うことになり、それはおかしい、ということである。だったら、そうならないようにあらかじめ対策を取っておくべき、ということで、趣旨としては分かりやすい。 ただ、市や議会の判断は前述の通りで、住民の感情や懸念と、行政・議会としてできることには隔たりがあるということだ。 同日は「相馬市民有志の会」関係者ら十数人が傍聴に訪れていたが、落胆の声が聞かれた。 前述したように、国は2020年6月、メガソーラーなどの事業終了時のために、施設撤去費用を外部機関に積み立てることなどを定めた「エネルギー供給強靭化法」を制定したが、そこで定められた「外部機関積み立て」には、調整池保全管理費は含んでいない。そこに、調整池保全管理費なども含めるよう、法制度を変えていくしかないということだろう。 一方で、関係者によると、10月中に事業者を招いた「相馬市民の会」主催の説明会が再度行われるというが、その席であらためてこの問題が取り上げられるのは間違いない。そこで、事業者がどのような回答を用意しているか、ひとまずはそこに注目だ。 相馬市のホームページ あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定