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贈収賄事件

  • 福島県作成の土木事業単価表

    【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

    賄賂を渡した田村市内業者の思惑  田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 【続報】裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた... 下記の記事を参照にしてください。 https://www.seikeitohoku.com/%e3%80%90%e7%94%b0%e6%9d%91%e5%b8%82%e3%83%bb%e8%b4%88%e5%8f%8e%e8%b3%84%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%80%91%e7%a9%8d%e7%ae%97%e3%82%bd%e3%83%95%e3%83%88%e4%bc%9a%e7%a4%be%e3%81%ae%e3%80%8c%e3%82%ab%e3%83%a2/

  • 田村市役所

    【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。   代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 【田村市・贈収賄事件】第1弾の記事は下記です。 https://www.seikeitohoku.com/tamura-city-bribery-case/

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

    賄賂を渡した田村市内業者の思惑  田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 【続報】裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた... 下記の記事を参照にしてください。 https://www.seikeitohoku.com/%e3%80%90%e7%94%b0%e6%9d%91%e5%b8%82%e3%83%bb%e8%b4%88%e5%8f%8e%e8%b3%84%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%80%91%e7%a9%8d%e7%ae%97%e3%82%bd%e3%83%95%e3%83%88%e4%bc%9a%e7%a4%be%e3%81%ae%e3%80%8c%e3%82%ab%e3%83%a2/

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。   代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 【田村市・贈収賄事件】第1弾の記事は下記です。 https://www.seikeitohoku.com/tamura-city-bribery-case/