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  • 巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

    巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

     田村市常葉地区で整備が進む東部産業団地の敷地から巨大な岩が次々と出土。そのうちの一つは高さ17㍍にもなり、あまりの大きさに市内外から見物客が訪れるほどだ。テレビでも「観光地にしてはどうか」と好意的な声が紹介されているが、半面「あそこに団地をつくるのは最初から無理があった」と否定的な声はクローズアップされていない。巨岩のおかげで工事費は当初予定より増えたが、議会は問題アリと認識しているのに執行部を厳しく批判できない事情を抱える。 議会が市長、業者を追及しないワケ 敷地から出土した巨岩。隣の重機と比べると、その大きさが分かる  田村市船引地区から都路地区に向かって国道288号を車で走ると、両地区に挟まれた常葉地区で大規模な造成工事が行われている場所が見えてくる。実際の工事は高台で進んでいるため、目に入るのは綺麗に整備された法面だが、それと一緒に気付くのが巨大な岩の存在だ。  国道沿いにポツンとある一軒家と余平田集会所の向こう側にそびえる巨岩は軽く10㍍を超えている。表面はつるつるしていて、どこか人工物のようにも見える。近付いてみると横で作業する重機がまるでおもちゃのようで、思わず笑ってしまう。  「今の時間帯は誰もいないけど、結構見物客が来てますよ。先日はテレビ局が来た。その前は新聞記者も来たっけな」  現場にいた作業員がそう教えてくれた。説明が手馴れていたのは、いろいろな人が来て同じような質問をされるからだろう。  ここは田村市が整備を進める東部産業団地の敷地内だ。巨岩があるのは、ちょうど調整池を整備する場所に当たる。  昨年11月22日付の河北新報によると、同所はもともと大きな石が数多く露出する地域で、出土した巨石群は花こう岩の一種。市の試算では体積計1万4000立方㍍以上、総重量3万6400㌧以上。一方、同29日にテレビ朝日が報じたところによれば、巨岩は高さ17㍍、横30㍍、奥行き22㍍と推測され、奈良の大仏の台座を含めた高さ(18㍍)に匹敵するという。  巨岩は民家に隣接しているため、発破は危険。そこで市は重機で破砕する予定だったが、想定より硬く、そのままにせざるを得なかった。  これにより、調整池の工事は変更される事態となった。巨岩を動かせないため、そこを避けるようにして調整池の形・深さを変え、予定していた水量を確保できるようにする。  変更に伴い市は工事費を増額。発注額は2億7100万円だったが、昨年12月定例会で市は6億9900万円に増額する契約変更議案を提出し、議決された。工期も2024年3月末までだったが、同年9月末までに延長された。  気になるのは、壊すことも動かすこともできない巨岩の今後だ。同団地の担当部署である市商工課に問い合わせると  「進出企業の工場建設計画もあるので、市としては団地を早期に完成させることを優先したい。巨岩をどうするかはこれから議論していく」(担当者)  巨岩は市内外から見物客が訪れており、市民からは「あんな立派な巨岩はお目にかかれない。観光地にしてはどうか」との意見が上がっている。市でもそういう意見があることは承知しており、白石高司市長もテレビ局の取材に「地域おこしにつながらないか。巨岩を活用するアイデアを募っていきたい」とコメントしている。  実は、都路地区にはさまざまな名前の付いた巨石が点在し、ちょっとした観光スポットになっていることをご存知だろうか。  例えば亀の形をした「古代亀石」は高さ10・7㍍、周囲50・5㍍、重さ2800㌧。近くに立てられた看板にはこんな伝説が書かれている。 「古代亀石」  《古きからの言い伝えによると無病息災鶴は千年亀は万年と言われた亀によく似た石を住民が〆縄張り崇拝したと言う。石の上部に天狗が降りた足跡を残した奇観有りと言う。地区の人々が名石の周りを清掃し関心の想を呼び起して居ます》  古代亀石のすぐ近くには笠石山の登山口があり、頂上付近に「笠石」や「夫婦石」という巨石がある。登山口から1~2分の場所には綺麗に真っ二つに割れた「笠石山の刃」という巨石もあり、漫画『鬼滅の刃』で主人公・竈門炭次郎が師匠との修行で最終段階に挑んだ岩に似ていると密かに評判になっている。 「笠石山の刃」  さらに古代亀石の周辺には、文字通り船の形をした「船石」や「博打石」といった巨石もある。  これらの巨石群と東部産業団地の巨岩は車で10~15分の距離しか離れておらず、観光ルートとして確立することは十分可能だろう。  偶然にも巨岩が大々的に報じられる1カ月前には、都路地区と葛尾村にまたがる五十人山の巨石が話題になった。巨石には坂上田村麻呂が50人の家来を座らせて蝦夷平定の戦略を練ったという伝説があり、都路小学校の児童が授業中に「本当に50人座れるの?」と質問したことをきっかけに、市と村が昨年10月に実証体験会を開いた。結果は53人が座り、伝説は本当だったことが証明された。  ユニークな取り組みだが、正直、巨岩・巨石観光は地味に映る。しかし、市内の観光業関係者は  「確かに地味だが、どの世界にもマニアは存在する。数は少なくても、マニアは足繁く通い、深い知識を持ってSNSで発信する。それがじわじわと評判を呼び、興味のない人も引き寄せる。そんな好循環が期待できると思います」  磨けば有益な観光資源になる可能性を秘めている、と。  実際、巨岩はしめ縄を付ければ神秘性が生まれそう。破砕すれば、なんだかバチが当たりそうな雰囲気もあるから不思議だ。 団地にふさわしくない場所 本田仁一前市長 白石高司市長  もっとも、市内には巨岩を明るい話題と捉える人ばかりではない。東部産業団地が抱える本質的な問題を指摘する人もいる。  もともと同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代の2020年に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、場所については当初から疑問視する向きが多くあった。  すなわち、同団地は①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならないという二つの大きな労力が要る場所だった。前述の通り大きな石が数多く露出しており、その処理に苦労することも予想された。  なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。  加えて、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことも、同団地が歓迎されない要因になっていた。  こうした疑惑を抱えた同団地の区画セールスを、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から進出企業は見つかるのかという懸念が囁かれた。  幸い、二つある区画のうち、B区画(9・1㌶)には電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)、A区画(14・3㌶)には道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が進出することが決まった。大成ロテックは昨年11月に地鎮祭を行い、操業は2025年度中。ヒメジ理化も昨年12月に起工式があり、25年3月の操業開始を目指している。  あとは調整池の工事を終え、工場が稼働し、巨岩の活用方法を考えるだけ――と言いたいところだが、実は、造成工事をめぐり表沙汰になっていない問題がある。  造成工事を受注したのは富士工業と三和工業のJVであることは前述したが、当初の工事費は45億9800万円だった。それが、昨年3月定例会で61億1600万円に、さらに12月定例会で64億6000万円に契約変更された。当初から18億6200万円も増えたことになる。  市商工課によると、工事費が増えた理由は  「工事が始まる前は軟岩と思っていたが、出土した岩を調べると中硬岩であることが分かった。加えて岩が想定以上に分布していたこともあり、造成工、掘削工、法枠工が変更され、それに伴い工事費が増えた」(担当者)  この話を聞くだけで、最初から産業団地にふさわしくない場所だったことが分かるが、問題は工事費が増えた経緯だ。 進め方の順序が逆  土木業界関係者はこう話す。  「市は昨年3月定例会で46億円から61億円に増額した際、増えるのは今回限りとしていたが、半年後の9月にはあと1回増やす必要があるとの認識を示していたそうです」  問題は工事費がさらに増えると分かったあと、造成工事がどのように進められたか、である。  「普通は見積もりをして、工事費がいくら増えると分かってから、市が議会に契約変更の議案を提出します。議案が議決されれば、市と業者は変更契約を交わし、市は増額分の予算を執行、業者は増額分の工事に着手します」(同)  しかし、61億1600万円から64億6000万円に増額された際はこの順序を踏んでいなかったという。  「12月定例会の時点で造成工事はほぼ終わっており、その結果、工事費が61億円から64億円に増えたため、あとから市が契約変更の議案を提出したというのです」(同)  工事費が3億円も増えれば、それに伴って工期も延長されるのが一般的。「土木の現場で1億円の予算を1カ月で消化するのは無理」(同)というから、3カ月延長されてもいいはず。ところが今回の契約変更では、予算は64億6000万円に増えたのに、工期は従前の2024年3月末で変わらなかった。  そのことを知って「おかしい」と感じていた土木業界関係者の耳に、市役所内から「どうやら造成工事はほぼ終わっており、工事費が予定より3億円オーバーしたため、その分を増額した契約変更の議案があとから議会に提出されたようだ」との話が漏れ伝わってきたという。  「公共工事の進め方としては順序が逆。もしかすると岩の数量が不確定で工事費を算出できず、いったん仮契約を結んだあと、工事費が確定してから契約変更を議決したのかもしれないが、巨大工事を秘密裏に進めているようで解せない」(同)  このような進め方が通ってしまったのは、事業費(107億3800万円)が福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出され、市の持ち出しはゼロという点も関係しているのかもしれない。  「事業費107億円のうち、実際に執行されたのは100億円と聞いています。つまり、まだ7億円余裕があるし、これ以上遅れると進出企業に迷惑がかかるので、工事を先に進めることを優先したのでは。市の財政から出すことになっていたら、順序が逆になるなんてあり得ない」(同)  この点を市商工課に質すと、担当者はしばらく押し黙ったあと、造成工事が先に進み、変更契約があとになったことを認めた。  「ちょっと……現場の者とも確認して、今後については……」  言葉を詰まらせる担当者に「公共工事の進め方としてはおかしいのではないか。どこに問題点があったか上層部と認識を共有すべきだ」と告げると「はい」とだけ答えた。  本誌はあらためて、市商工課にメールで四つの質問をぶつけた。  ①増額分の3億円余りの工事は12月定例会で契約変更が議決された時点でどこまで進んでいたのか。それとも、議決された時点で工事は完了していたのか。  ②工事費が3億円余り増えると市が知った経緯を教えてほしい。  ③工事費の増額は、業者から「見積もりをしたら増えることが分かったので、その分をみてほしい」と言われたのか。それとも工事が終わってから「かかった金額を調べたところ64億円になったので、オーバーした3億円を市の方でみてほしい」と言われたのか。  ④市は「工事費が増えるなら契約変更をしなければならないので、関連議案が議決されてから追加の工事に入ってほしい」と業者に注意しなかったのか。もし業者が勝手に工事を進めていたとしたら「なぜ契約変更前に工事を進めたのか」と注意すべきではなかったのか。  これらは締め切り間際に判明し、担当者の出張等も重なったため、市からは期日までに回答を得られなかった。期日後に返答があれば、あらためて紹介したい(※1)。 ※1 今号の締め切りは昨年12月22日だったが、市商工課からは「25日以降に回答したい」と連絡があった。  富士工業にも問い合わせたが「現場を知る者が出たり入ったりしていていつ戻るか分からない」(事務員)と言うので、市商工課と同じく質問をメールで送った。こちらも締め切り間際だったこともあり期日までに回答がなかったので、期日後に返答があれば紹介したい(※2)。 ※2 締め切り直後、猪狩恭典社長から連絡があり「岩量が確定せず正確な工事費が出せない状況で、市といったん仮契約を結んだ。進め方の順序が逆と言われればそうだが、問題があったとは認識していなかった」などといった回答が寄せられたが、「詳細を話すのは御社に対する市の回答を待ってからにしたい」とのことだった。 契約変更前の施工はアウト 今井照・地方自治総合研究所特任研究員  自治体政策が専門の今井照・地方自治総合研究所特任研究員は次のような見解を示す。  「契約で工事費が61億円となっているのに、議会で契約変更を議決する前に64億円の工事をしていたらアウトです。一方、見積もりをしたら64億円になることが分かったというなら、まだ施工していないのでセーフです。ポイントは、市が契約変更の議案を提出した時点で工事の進捗率がどれくらいだったのか、だと思います」  今井氏によると、契約変更の議決を経ずに施工するのは「違法行為」になるという(神戸地判昭和43年2月29日行政事件裁判例集19巻1・2号「違法支出補てん請求事件」)。  「ただし罰則はないので、業者が市に損害を与えていれば損害賠償を請求できるが、今回の場合はそうとは言い切れない。神戸地裁の判例でも賠償責任は否定されています」(同)  問題は市と業者だけにあるのではない。一連の出来事を見過ごした議会にも責任がある。  「本来なら『なぜ順序が逆になったのか』と議会が追及する場面。しかし、白石市長と対峙する議員は本田前市長を支持し、東部産業団地は本田氏が推し進めた事業なので強く言えない。工事を受注しているのが本田氏を応援していた富士工業という点も、追及できない理由なのでは……。一方、白石氏を支持する議員も本来は『おかしい』と言うべきなのに、同団地は本田氏から引き継いだ事業なので、白石氏を責め立てるのは酷と控えめになっている。だから、両者とも騒ぎ立てず『仕方がない』となっているのかもしれない」(議会ウオッチャー)  それとも、これ以上工事が遅れれば同団地に進出するヒメジ理化と大成ロテックの操業計画にも影響が及ぶので、順序が逆になっても工事を進めることを市政全体が良しとする空気になっていたのだろうか。  巨岩に沸き立ち、とりわけテレビは面白おかしく報じているが、造成工事が異例の進め方になっていること、もっと言うと、そもそもあの場所は産業団地に不適だったことを認識すべきだ。

  • 田村市の新病院工事問題で新展開

    田村市の新病院工事問題で新展開

     7月に開かれた田村市議会の臨時会で、市が提出した新病院の工事請負契約に関する議案が反対多数で否決されたことを先月号で伝えたが、その後、新たな動きがあった。 安藤ハザマとの請負契約が白紙に 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  新病院の施工予定者は、昨年4~6月にかけて行われた公募型プロポーザルで、選定委員会が最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、百条委員会が設置された。  今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は法的な問題点を見つけられず、白石市長に「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。  そうした因縁を引きずり迎えた7月の臨時会は、直前の6月定例会で新病院に関する予算が賛成多数で可決していたこともあり、安藤ハザマとの工事請負契約も可決するとみられていた。ところが、結果はまさかの否決。白石市長が反対に回った議員をどのように説得するのか今後の対応が注目されたが、本誌に飛び込んできたのは予想外の情報だった。  「市は6月下旬に安藤ハザマと仮契約を結んだが、白紙に戻し入札をやり直すというのです」(経済人)  議会筋によると、7月下旬に開かれた会派代表者会議で市から入札をやり直す方針が伝えられたという。今後、6月定例会で可決した新病院に関する予算を減額補正し、新たに入札を行って施工予定者を選び直す模様。設計はこれまでのものを踏襲するか、若干の変更があるかもしれないという。  「安藤ハザマは今回の新病院工事で、地元企業に十数億円の仕事を発注する予定だったが、船引町商工会に『契約が白紙になったため、地元発注ができなくなった』と連絡してきたそうです」(前出・経済人)  船引町商工会の話。  「8月上旬に安藤ハザマから連絡がありました。市から契約白紙を告げられたそうです。担当者からは繰り返し謝罪されたが、経済が落ち込む中、地元企業に様々な仕事が落ちると期待していただけに残念でなりません」(白石利夫事務局長)  船引町商工会では安藤ハザマと取引を希望する地元企業から見積もりを出してもらうなど、同社とのつなぎ役を務めていた。ガソリンスタンド、車両のリース、弁当など様々な業種から既に見積もりが寄せられていただけに「取引がなくなり、皆落胆しています」(同)という。  市のホームページによると、新病院は2023~24年度にかけて工事を行い25年度に開院予定となっているが、議会筋によると、入札をやり直せば工事は24年夏~26年夏、開院はその後にずれ込む。予定より1年以上開院が遅れることになる。  「白石市長は否決された工事請負契約を可決させるため、反対した議員を説得すると思われたが、そうした努力を一切せずに入札やり直しを決めた。一方、反対した議員も、当初計画より工事費が高いことを理由に否決したが、これ以上工事が遅れれば物価高やウクライナ問題のあおりで工事費はさらに割高になる。白石市長も反対した議員も新病院が必要なことでは一致しているのに、互いに歩み寄らなかった結果、『開院の遅れ』と『工事費のさらなる増額』という二つの不利益を市民に強いることになった」(前出・経済人) 白石高司市長  入札をやり直して開院を遅らせるのではなく、政治的な協議で軌道修正を図り、予定通り開院させる方法は取れなかったのか。  市内では「互いに正論を述べているつもりかもしれないが、市民の立場に立って成熟した議論ができないようでは話にならない」と冷めた意見も聞かれる。白石市長も議会も猛省すべきだ。 ※新病院建設を担当する市保健課に問い合わせると「安藤ハザマとの契約はいったんリセットされる。今後どのように入札を行うかは9月定例会など正式な場でお伝えすることになる」とコメントした。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

  • 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

    【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

     本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 したたかさを備えなければ市政は機能しない 会対策に苦慮する白石高司市長  まずはこの間の経緯を振り返る。 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため) しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す) 123石井 忠治 ⑥××〇半谷 理孝 ⑥××〇大和田 博 ⑤××〇菊地 武司 ⑤××〇吉田 文夫 ④××〇安瀬 信一 ③××〇遠藤 雄一 ③×〇〇渡辺 照雄 ③××〇石井 忠重 ②×〇×管野 公治 ①××〇猪瀬  明 ⑥〇〇×橋本 紀一 ⑥〇〇×佐藤 重実 ②〇〇×二瓶恵美子 ②〇〇×大河原孝志 ①〇〇×蒲生 康博 ①〇〇×吉田 一雄 ①〇〇×※〇は賛成、×は反対※1は工事請負契約の賛否※2は6月定例会での予算の賛否※3は百条委設置の賛否※丸数字は期数  反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員) 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通) なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」 「政局での反対じゃない」 田村市百条委員会  百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。 市民のために歩み寄りを 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  前出・議会通はこう指摘する。 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通) 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。

  • 田村市の〝いわくつき産業団地〟が完売

    田村市の「いわくつき産業団地」が完売

     道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が田村市常葉町に整備中の東部産業団地(仮称)に進出する。3月31日、同社の西田義則社長と白石高司市長が基本協定を締結した。 《民間企業として国内初の大型舗装実験走路を備えた研究施設を建設する。2023年度に着工し、24年度中の運用開始を目指す》《実験走路は1周約1・0㌔の楕円状で、トレーラーを自動運転させ、開発中のコンクリートやアスファルト舗装の耐久性などを調べる。トレーラーを監理する管理棟や車両の点検・整備を行うトラックヤードなども設ける》(福島民友4月1日付より) 大成ロテックは同団地の二つある区画のうちA区画(約14・3㌶)に進出。残るB区画(約9・1㌶)には昨年10月、電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)が進出することが発表されているため、同団地はこれで完売したことになる。 「これほど巨大な団地を、あんな辺ぴな場所につくって売れるのかと内心ヒヤヒヤしていました」 と話すのは市役所関係者だ。 同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、設置場所については当初から疑問視する向きが多くあった。 すなわち、同団地は田村市常葉町山根地区の国道288号沿いにあるが、①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならない、という二つの大きな労力が要る場所だったのだ。 なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉町が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉町は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。 また設置場所だけでなく、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことなども、同団地が歓迎されない要因になっていた。 こうした疑惑を抱えた同団地の区画販売を、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した前出・白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から販売に苦労するのではないかという見方が浮上していた。 幸い、市の熱心な営業活動でヒメジ理化と大成ロテックの進出が決まり、これらの不安は一掃された形。とはいえ、解決しなければならない課題はまだ残っているのだという。 「想定外の巨岩が地中に埋まっていて工事に時間がかかっている。岩は家1軒分よりも大きくて硬く、動かすのは不可能なため、壊して運び出すことになるようです」(前出・市役所関係者) 敷地内に残された巨岩  実際、現地に行くと、国道288号からすぐ見える場所に、2階建ての住宅より大きな岩がむき出しで横たわっているのが分かる。これほどの巨岩を処理するのは確かに容易ではなさそう。 ただ、市商工課によると「残る作業は舗装の一部や調整池の整備などで、これらを進めながら進出企業も必要な工事に着手する予定です」(担当者)と、巨岩の処理を行っても両社の操業スケジュールに影響は出ないとしている。 疑惑にさいなまれた同団地の正常な稼働が待たれる。 あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 未完成の【田村市】屋内遊び場〝歪んだ工事再開〟【屋根が撤去されドームの形がむき出しになった建物(2022年8月撮影)】

    未完成の【田村市】屋内遊び場「歪んだ工事再開」

    (2022年9月号)  2021年4月、設置した屋根に歪みが見つかり、工事が中断したままになっている田村市の屋内遊び場。対応を協議してきた市は、計1億5000万円の補正予算を組んで工事を再開させる予定だが、違和感を覚えるのは原因究明が終わっていない中、歪みを生じさせた業者に引き続き工事を任せることだ。それこそ〝歪んだ工事再開〟にも映るが、背景を探ると、白石高司市長の苦渋の決断が浮かび上がってきた。 前市長の失政に未だ振り回される白石市長 白石高司市長  田村市屋内遊び場(以下「屋内遊び場」と略)は田村市船引運動場の敷地内で2020年8月から工事が始まった。計画では3000平方㍍の敷地に建築面積約730平方㍍、延べ床面積約580平方㍍、1階建て、鉄筋コンクリート造・一部木造の施設をつくる。利用定員は100人で、駐車場は65台分を備える。 総事業費は2億9810万円。内訳は建築が2億0680万円、電気が2600万円、機械設備が2340万円、遊具が4190万円。財源は全額を「福島定住等緊急支援交付金」と「震災復興特別交付金」で2分の1ずつまかない、市の持ち出しはゼロとなっている。 2021年3月には愛称が「おひさまドーム」に決まり、あとは同7月のオープンを待つばかりだった。ところが同4月、工事は思わぬ形で中断する。設置した屋根が本来の高さから5㌢程度沈み、両側が垂れ下がるなどの歪みが生じたのだ。 建物本体の施工は鈴船建設(田村市、鈴木広孝社長)、設計は畝森泰行建築設計事務所(東京都台東区、畝森泰行社長。以下「畝森事務所」と略)とアンス(東京都狛江市、荒生祐一社長)の共同体、設計監理は桑原建築事務所(田村市、桑原俊幸所長)が請け負っていた。 問題発覚時、ある市議は本誌の取材にこう話していた。 「鈴船建設は『設計図通りに施工しただけ』、畝森事務所は『設計に問題はない』、桑原建築事務所は『監理に落ち度はない』と、全員が〝自分は悪くない〟と主張し、原因究明には程遠い状況と聞いている」 実は、屋内遊び場は非常にユニークなつくりで、市内の観光名所であるあぶくま洞と入水鍾乳洞をイメージした六つのドームに屋根を架ける構造になっている(別図①)。 屋根も奇抜で、一本の梁に屋根を乗せ、玩具「やじろべえ」の要領でバランスを取る仕組み。ただ、それだと屋根が落下する危険性があるため、別図②のように屋根の片側(下側)をワイヤーで引っ張り、安定させるつくりになっていた。 しかし、屋根を架けた途端、沈みや歪みが生じたことで、市は別図③のように棒で支える応急措置を施し、原因究明と今後の対応に乗り出していた。  ある業者は 「こういうつくりの建物は全国的にも珍しいが、行き過ぎたデザインが仇になった印象。屋内遊び場なんて単純な箱型で十分だし、空き施設をリフォームしても間に合う」 とデザイン先行のつくりに疑問を呈したが、市が鈴船建設、畝森事務所、桑原建築事務所を呼び出して行った聞き取り調査では原因究明には至らなかった。市議会の市民福祉常任委員会でも調査を進めたが、はっきりしたことはつかめなかった。 本誌は2021年7月号に「暗礁に乗り上げた田村市・二つの大型事業」という記事を載せているが、その中で屋内遊び場について次のように書いている。   ×  ×  ×  × (前略)前出・某業者が興味深い話をしてくれた。 「六つのドームから構成される屋内遊び場は一つの建物ではなく、単体の建物の集合体と見なされ、建築基準法上は『4号建築物』として扱われている。4号建築物は建築確認審査を省略することができ、構造計算も不要。建築確認申請時に構造計算書の提出も求められない。もし施工業者に問題がないとすれば、その辺に原因はなかったのかどうか」 畝森事務所は構造計算書を提出していなかったようだが、屋根にゆがみが生じると「構造計算上は問題ない」と市に同書を提出したという。4号建築物なので提出していなかったこと自体は問題ないのかもしれないが、ゆがみが生じた途端「構造計算上は問題ない」と言われても〝後出しジャンケン〟と同じで納得がいかない。 そもそも公共施設なのに、なぜ4号建築物として扱ったのか疑問も残る。主に小さい子どもが利用する施設なら、なおのこと安心・安全を確保しなければならないのに、建築確認審査を省略できて構造計算も不要の4号建築物に位置付けるのは違和感を覚える。4号建築物として扱うことにゴーサインを出したのは誰なのか、調べる必要がある。 ちなみに、畝森事務所・アンス共同体は2019年10月に行われた公募型プロポーザルに応募し、審査を経て選ばれた。請負金額は基本・実施設計を合わせて3000万円。審査を行ったのは、当時の本田仁一市長をはじめ総務部長、保健福祉部長、教育部長、経営戦略室長、こども未来課長、都市計画課長、生涯学習課長、公民館長の計9人だ。   ×  ×  ×  × 今回、この記事を補足する証言を得ることができた。当事者の一人、桑原建築事務所の桑原俊幸所長だ。 改正建築士法に抵触⁉  「確かに4号建築物は構造計算が不要だが、2020年3月に施行された改正建築士法で、4号建築物についても構造計算書を15年間保存することが義務化されたのです」 義務化の狙いは、建築物の構造安全性に疑義が生じた場合、構造安全性が確保されていることを建築士が対外的に立証できるようにすると同時に、建築設計の委託者を保護することがある。つまり、構造計算は不要とされているが、事実上必要ということだ。 「しかし畝森事務所は、歪みの発生を受けて白石高司市長が直接行ったヒヤリング調査の10日後に、ようやく構造計算書を提出した。最初から同書を持っていれば調査時点で提出できたはずなのに、10日も経って提出したのは手元になかった証拠。これは改正建築士法に抵触する行為ではないのか」(同) まさに、これこそ〝後出しジャンケン〟ということになるが、 「後から『構造計算書はある』と言われても構造計算の数値が合っている・合っていない以前の問題で、建築設計事務所としての信頼性が問われる行為だと思う」(同) 同時に見過ごしてならないのは、構造計算書が存在することを確認せず、図面にゴーサインを出した市の責任だ。最初に図面を示された際、市が畝森事務所に同書の存在を確認していれば、問題発生後に慌てて同書を提出するという不審な行動は起こらなかった。そういう意味では、市も安全・安心に対する意識が欠落していたと言われても仕方がない。 「畝森事務所は工事が始まった後も『軒が長いから短くしたい』と図面を手直ししていた。問題がなければ手直しなんてする必要がない。要するに、あの屋根は最初から奇抜だった、と。玩具『やじろべえ』の要領と言っても、1本の梁に7対3の割合で屋根を乗せる構造ではバランスが取れるはずがない」(同) 桑原所長は屋根に歪みが生じた2021年4月の出来事を今もはっきりと覚えていた。 「設計の段階で、畝森事務所と市には『こういう屋根のつくりで本当に大丈夫か』と何度も言いました。しかし、同事務所も市も『大丈夫』と繰り返すばかり。そこまで言うならと2021年3月末、現場で屋根を架けてみると、屋根自体の重さで沈み込み、ジャッキダウンしたらすぐに歪みが生じた。目の錯覚ではなく、水平の糸を使って確認しても歪んでいるのは明白だった」(同) ところが驚いたことに、それでも畝森事務所と市は、現場に持ち込んだパソコンでポチポチと数値を打ち込み「問題ない」と言い張ったという。自分たちの目の前で実際に沈み込みや歪みが起きているのに、パソコンの画面を注視するとは〝机上の空論〟以外の何ものでもない。 「結局、翌日には歪みはもっと酷くなり、棒などの支えがないと屋根は落下しそうな状態だった」(同) 前出の業者が指摘した「デザイン先行」は的を射ていたことになる。 「もし時間を戻せるなら」  建物本体を施工する鈴船建設の鈴木広孝社長は、本誌2021年7月号の取材時、 「施工業者はどんな建物も図面通りにつくる。屋内遊び場も同じで、当社は図面に従って施工しただけです。屋根を架ける際も、畝森事務所には『本当に大丈夫か』と何度も確認した。現場は風が強く、近年は台風や地震が増えており、積雪も心配される。ああいう奇抜なつくりの屋根だけに、さまざまな気象条件も念頭に確認は念入りに行った。それでも畝森事務所は『大丈夫』と言い、構造計算業者も『問題ない』と。にもかかわらず、屋根を架けて数日後に歪みが生じ、このまま放置するのは危険となった」 と話している。 今回、鈴木社長にもあらためて話を聞いたが、2021年と証言内容は変わらなかった。 「畝森事務所と市には『こんな屋根で本当に大丈夫か』と何度も尋ねたが、両者とも『大丈夫』としか言わなかった。問題発生後に行われた市の調査には『当社は図面通りに施工しただけ』と一貫して説明している。市からは、当社に非があったという類いのことは言われていない」 設計監理と施工に携わる両社にここまで力強く証言されると、屋根が歪んだ原因は図面を引いた畝森事務所に向くことになるが……。 本誌2021年7月号の取材時、畝森事務所は 「田村市が調査中と明言を避けている中、それを差し置いて当社が話すことは控えたい」 とコメントしたが、今回は何と答えるのか。 「田村市が話していること以上の内容を当社から申し上げることはできない。ただ、市の調査には引き続き協力していく意向です」 当事者たちの話から原因の大枠が見えてきた中、この間、調査を進めてきた市は事実関係をどこまで把握できたのか。 「各社から個別に聞き取り調査を行い、そこで分かったことを弁護士や一般財団法人ふくしま市町村支援機構に照会し、再び各社に問い合わせる作業を繰り返している。現時点では屋根が歪んだ原因は明確になっておらず、市として公表もしていません」(市こども未来課の担当者) 問題発覚後に開かれた各定例会でも、議員から原因究明に関する質問が相次いだが、市は明言を避けている。そうした中、白石市長が最も踏み込んだ発言をしたのが、2021年12月定例会(12月3日)で半谷理孝議員(6期)が行った一般質問に対する答弁だった。 「屋根の歪みの原因は設計か施工のいずれかにあると思っています。この件については、市長就任前の議員時代から情報収集しており、約1年前から屋根に懸念があるという情報をつかんでいました。もし時間を戻せるなら、施工前に設計者、施工者、発注者の市が話し合い、何らかの設計変更をすべきだったのではないか、と。もしタイムマシンがあれば戻りたいという気持ちです」 「施工者や監理者から話を聞いたところ、当初の図面から昨年(※2020年)12月に設計変更して、屋根の長さを短くしたとのことです。それは、自ずと屋根が歪むのではないか、この構造で持つのか、という投げ掛けがあり、屋根を小さくしたとのことでした。さらに施工前に懸念されていたことが、実際に施工して起きた、これも事実です。こうしたことを含めて、責任の所在がどこにあるのか考えていきたい」 明言こそしていないが、白石市長は設計側に原因があったのではないかと受け止めているようだ。 印象的なのは「もし時間を戻せるなら」「タイムマシンがあれば戻りたい」と繰り返している点だ。その真意について、前出の業者はこんな推測を披露する。 「屋内遊び場は、白石市長が就任前の本田仁一前市長時代に工事が始まり、就任後に歪みが生じた。白石市長からすると、本田氏から迷惑な置き土産を渡された格好。しかし自分が市長になった以上、本音は『オレは関係ない』と思っていても問題を放置するわけにはいかない。議員時代から調査していた白石市長は、そのころから『自分が市長ならこういうやり方でトラブルを回避していた』という思いがあったはず。だから、つい『時間を戻せるなら』と愚痴にも似た言葉が出たのでしょう。見方を変えれば、本田氏への恨み節と捉えることもできますね」 責任追及に及び腰のワケ  状況を踏まえると、歪みが生じた原因は明らかになりつつあると言っていい。にもかかわらず、市が責任追及の行動に移そうとしないのはなぜなのか。 某市議が市役所内の事情を明かしてくれた。 「責任の所在は業者だけでなく市にも一定程度ある。畝森事務所から上がってきた図面を見て、最終的にゴーサインを出したのは市だからです。逆に言うと、図面を見て『この屋根のつくりではマズい』とストップできたのも市だった。そういう意味では、市のチェック体制はザルだったことになり、業者だけを悪者にするわけにはいかないのです」 つまり、白石市長が責任追及に及び腰なのは身内(市職員)を庇うためなのか。某市議は「傍から見るとそう映るかもしれないが、そんな単純な話ではない」と漏らす。 「一つは、市町村役場に技術系の職員がいないことです。技術系の職員がいれば、図面を見た時に『この屋根のつくりはおかしい』と見抜いたかもしれないが、田村市役所にはそういう職員がいない。業者はそれを分かっているから『どうせ見抜けるはずがない』と自分に都合の良い図面を出してくるわけです。結果、図面上の問題は見過ごされ、専門知識を持たない市職員は提出された書類に不備がないか法律上のチェックのみに留まるのです。もう一つは、市職員はおかしいと思っても、上からやれと指示されたらやらざるを得ないことです。屋内遊び場をめぐり当時の本田市長が部下にどんな指示をしたかは分からないが、専門知識を持つ桑原建築事務所や鈴船建設が心配して何度確認しても、市は大丈夫と押し通したというから、担当した市職員は本田氏の強い圧力を受けていたと考えるのが自然でしょう」 こうした状況を念頭に「白石市長は市職員の責任を問うのは酷と逡巡している」(同)というのだ。 「本来責任を問うべきは当時の最終決定者である本田氏だが、本田氏は既に市長を退いており責任を問えない。じゃあ、本田氏から指示された市職員を処分すればいいかというと、それは酷だ、と。もちろん、最終的には市長自らが責任を負うことになるんでしょうが」(同) 事実、白石市長は前出・半谷議員の「これによって生じる責任の全てを業者ではなく、市長が負うと理解していいのか」という質問(2021年12月定例会)にこう答弁している。 「現時点では私が田村市のトップなので、全て私の責任で今後対応してまいります」 考えられる処分は市長報酬の一定期間減額、といったところか。 一方で、白石市長が原因究明を後回しにしているのは、屋内遊び場の完成を優先させているからという指摘もある。 屋内遊び場の事業費が全額交付金でまかなわれていることは前述したが、期限(工期)内に竣工・オープンしないと国から返還を迫られる可能性がある。当初の期限は2021年7月末だったが、市は屋根に歪みが生じた後、交付金の窓口である復興庁と交渉し、期限延長が了承された。しかし、新たに設定した期限(2022年度中の竣工・来年4月オープン)が守られなければ交付金は返還しなければならず、事業費は全額市が負担することになる。 もはや再延長は認められない中、市は2021年12月定例会で屋根の撤去費用1500万円、新しい屋根の葺き替え費用4500万円、計6000万円の補正予算案を計上し議会から承認された。ところが2022年6月定例会に、再び屋内遊び場に関する補正予算案として9000万円が計上された。ウッドショック(木材の不足と価格高騰)への対応や人件費など経費の高騰、さらには木造から鉄筋に変更したことで工程上の問題が生じ、更なる予算が必要になったというのだ。 この補正予算案が認められなければ屋内遊び場は完成しないため、結局、議会から承認されたものの、計1億5000万円は市の一般財源からの持ち出し。すなわち全額交付金でまかない、市の持ち出しはゼロだったはずの計画は、一転、市が1億5000万円も負担する羽目になったのだ。 さらに問題なのは、引き続き工事を行うのが鈴船建設、畝森事務所・アンス共同体と顔ぶれが変わらないことだ(桑原建築事務所は8月時点では未定)。市民からは 「歪みを生じさせた当事者に、そのまま工事を任せるのはおかしい」 と〝歪んだ工事再開〟に疑問の声が上がっている。 「市民の間では、信頼関係が失われている面々に引き続き工事をやらせることへの反発が大きい。『そういう業者たちに任せて、ちゃんとしたものができるのか』と心配の声が出るのは当然です」(前出の業者) 1.5億円の「請求先」  そうした懸念を払拭するため、市では構造設計を専門とするエーユーエム構造設計(郡山市)とコンストラクション・マネジメント契約を締結。同社が市の代理人となって施工者、設計者、設計監理者との仲介に努めていくという。業者間の信頼関係が疑われる中、同社が〝緩衝材の役目〟を果たすというわけ。 「すでに工事が3~4割進んでいる中、業者を変更して工事を再開させるのは難しいし、そもそも他社が手を付けた〝瑕疵物件〟を途中から引き受ける業者が現れることは考えにくい。そこで、同じ業者にトラブルなく仕事を全うさせるため、市はコンストラクション・マネジメントという苦肉の策を導入したのです」(前出の市議) 市としては補助金返還を絶対に避けるため、なりふり構わず施設の早期完成を目指した格好。 ちなみに、エーユーエム構造設計には「それなりの委託料」が支払われているが、これも市の一般財源からの持ち出しだ。 最後に。同じ業者に引き続き工事を任せる理由は分かったが、竣工・オープン後に待ち受けるのは、市が負担した1億5000万円(プラスエーユーエム構造設計への委託料)をどこに請求するかという問題だ。なぜなら、これらの経費は屋根に歪みが生じなければ発生しなかった。本来なら市が負担する必要のない余計な経費であり、その「原因者」に請求するのは当然だ。言うまでもなく「原因者」とは屋根の歪みを生じさせた業者を指す。 今は中途半端になっている原因究明の動きだが、最終局面は2022年度中の完成・2023年4月にオープン後、1億5000万円を請求する際に迎えることになる。 (6/9追記)2023年5月、田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」がオープン 田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」(田村市HPより) おひさまドームオフィシャルサイト 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  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

    【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民

    【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民

     田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐり、周辺住民が市を相手取り訴訟を起こしていた問題で、仙台高裁は2月14日、一審の福島地裁判決を支持し、住民側の控訴を棄却する判決を下した。 同発電所の事業者は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」で、市は同社に補助金を支出している。訴訟では、住民グループは「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当である」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、現在は白石高司市長)が事業者に、補助金17億5583万円を返還請求するよう求めていた。 住民グループの基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」といったことがある。そうした背景があり、反対運動を展開し、2019年9月に住民訴訟を起こすに至ったのである。 一審判決は昨年1月25日に言い渡され、住民側の請求は棄却された。その後、住民グループは同2月4日付で控訴し、3回の控訴審口頭弁論を経て判決が言い渡された。冒頭で述べたように、控訴審判決は、一審判決を支持し、住民側の控訴を棄却するというものだった。 その後、住民グループは会見を開き、代理人の坂本博之弁護士は次のように述べた。 「例えば、我々は『(市や事業者側が示した)HEPAフィルターの規格は放射性物質に対応したものではない』と主張したが、それに対して判決では『(放射性物質に対応した規格ではなくても)放射性物質を集塵できないとは言えない』とされており、そのほかにも『〇〇できないとは言えない』というような表現が多い。当初はきちんと審理してくれるかと思ったが、証拠・根拠がないのに、被告(市)・補助参加人(※事業者の田村バイオマスエナジーが補助参加人となっている)の説明を鵜呑みにしたいい加減な判決としか言いようがない」 住民グループ代表の久住秀司さんはこう話した。 「残念で悔しい判決だった。私は個人的に民事訴訟の経験がある。その時は、裁判所は証拠資料をしっかり確認して審理してくれた。ただ、行政を相手取った裁判となると、こんなにも違うのかと驚いた。平等な視点で進行してくれるものと思っていたが、そうではなく、司法・裁判所への信頼がなくなった」 報道陣から「上告するか」との質問が飛ぶと、坂本弁護士は「検討のうえで決めたい」と話した。 一方、市は判決から1週間後の時点で「判決文を精査中」とのこと。 住民グループの話を聞いていると、「○月×日に発電所のメンテナンスが入った」とか、「発電所の敷地内に焼却灰などが入ったフレコンバッグが置かれていたが、○日夜から翌日の朝にかけてどこかに搬出された」というように、発電所の動向を細かくチェックしている様子がうかがえた。裁判では訴えが棄却されたが、住民グループは「今後も継続して監視や放射線量の測定などを行っていきたい」との考えを示した。 あわせて読みたい 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠【百条委員会】

    白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化 田村市役所

    第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。 執行部・議会は真相究明に努めよ  元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。 三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。 近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。 求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。 もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。 護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。 本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。 護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。 もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。 政治家に翻弄される建設業者  市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。 三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。 三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。 本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。 田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。 田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。 護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。 原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。 「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【田村市】白石高司市長インタビュー

    【田村市】白石高司市長インタビュー

     しらいし・たかし 1960年生まれ。田村市(旧船引町)出身。上武大学商学部卒。同市議1期を経て2021年4月の同市長選で初当選を果たした。  ――市内ではコロナの出口戦略に向け、特に観光面で明るい材料が散見されます。 「昨年行った『たむらの桜88撰総選挙』が好評を得、愛称が『田村の美桜88景』に決まり、今年はフォトスタンプラリーを行います。88カ所は1年では回りきれないので、数年かけて回ることでリピーターになっていただく狙いがあります。併せて桜ウオークも開催する予定となっています。 第2回クワガタサミットも開催します。昨年開いた第1回サミットには全国から昆虫好きの方々が集まり大好評をいただきました。全国には昆虫でまちおこしを行っている地域が多くあるので、昆虫の聖地を目指した協議会を立ち上げようと準備を進めています。昆虫は良好な自然環境の象徴という意味で復興をアピールする材料にもなり得るので、いずれは世界サミットを開催したい希望も持っています。 今年はあぶくま洞が開洞50周年を迎え、9月の秋まつりでイベントを行います。また、あぶくま洞は『恋人の聖地』認定を受けていますが、福島市の四季の里も認定され県内2カ所となったので、両施設でさまざまな連携を図り、PRに努めていきたいです」 ――常葉町地内に整備中の東部産業団地に工場進出が決定しました。 「2区画あるうち、昨年1社の進出が決定しました。残り1区画もご検討いただいている企業があるので、早期に決定できるよう引き続き営業活動に注力します」 ――移住・定住に向け田村市・東京リクルートセンターや田村サポートセンターを開設しましたが、その効果は。 「令和3年度は移住相談が86件寄せられ、5世帯12人が市内に移住されました。4年度は12月現在で相談237件、10世帯16人が移住されました。移住希望者の中には仕事を探している方もいるので、市では独自の創業・起業支援としてキッチンカー移住チャレンジ事業を行っています。キッチンカーを無償で用意し、商品開発や出店支援を行うもので、3月には市内のイベントでカレー、ハンバーガー、パンケーキのキッチンカーがデビューします。食材も地元産にこだわり、農産物の6次化につながることも期待しています。 以前、この地域は葉タバコ栽培が盛んでしたが、現在、市場は縮小しています。そこでサツマイモ栽培に力を入れ、一昨年にはサツマイモ貯蔵施設が完成・稼働しました。同施設には東北でも珍しいキュアリング設備があり、サツマイモを貯蔵するだけでなく食味向上も図れるので、昨今のサツマイモブームにのって葉タバコに代わる農産物栽培と6次化につなげていきたいです」 ――たむら市民病院の新病院建設をめぐり、市議会内に百条委員会が設置され調査が続いています(※白石市長へのインタビューは2月13日に行った)。 「公共事業の役割は、社会資本を整備することと地域経済を活性化させることだと思います。この二つの観点から、私は最優秀提案者に安藤ハザマを選びました。 プロポーザル委員会は最優秀提案者に鹿島を選びました。しかし両社の企画案を比べると、安藤ハザマの方が建設費が安く、地域貢献度も高かった。さらに多数決では、委員7人のうち4人が同社を選んでいた。にもかかわらず、その後の話し合いで鹿島が選ばれました。 もちろん、プロポーザル委員会は理由があって鹿島を選んだのでしょうが、市民から直接選ばれた立場である市長としては、市民にとって良い選択、すなわち将来に負担(借金)を残さないためには少しでも建設費が安い方がいいし、多くの地域貢献がもたらされる方がいいと判断しました。また、市民や市議会から『なぜこの業者を選んだのか』と問われた時、明確に説明できる材料がある方を選んだ方が余計な疑いを招かなくて済む、とも考えました。 今回、市議会内に百条委員会が設置され、(同委員会による)証人喚問では事実のみを丁寧に述べさせていただいたつもりです」 ――元職員が逮捕・起訴された贈収賄事件をめぐっては市発注の入札に市内の業者が関与していたことが明らかになりました。 「今回の事態を深刻に受け止め、こういったことが二度と起きないような組織体制を構築すべきと考え、副市長を先頭に綱紀粛正を図っているところです。 ただ、言葉で言うだけでは実現は難しいので、全職員を対象にコンプライアンス研修を行い、全庁が同じ方向を向いて仕事を行えるよう倫理観の向上に努めているところです。また、各所属長に依頼し、職員への聞き取りやシステム・パスワード管理に関する調査を行いました。これにより現状を把握するとともに、改善が必要と認められた部分はその都度改善を行うようにしています」 ――屋根工事などにトラブルが発生し、事業が中断していた屋内遊び場の進捗状況について。 「多くの市民の方にご心配をいただきましたが、建築主体工事は、ほぼ完了し、現在は内装や遊具設置、外構工事などを行っています。3月下旬には完成し、4月末のオープンに向けて運営業者に委託し進めていきます」  ――昨年11月、JR東日本の2021年度収支で磐越東線のいわき―小野新町間が6億9000万円の赤字という報道がありました。 「報道後すぐに小野・三春両町長と話し合いを持ちましたが、沿線自治体という点では郡山・いわき両市や県との協力も不可欠です。ただ、ある一定の区間が赤字だからといって全線が不要かというと、それは乱暴な考え方だと思います。 磐越東線は三十数年前も廃止対象となり、田村青年会議所を中心に存続運動が展開された経緯があります。市内には実に六つの駅が存在しますが、同線は市民にとっても貴重な移動手段であり、地域公共交通体系の根幹となる要素ですので、存続に向けた取り組みをしっかりと行っていきたい」 ――最後に、令和5年度の重点事業について。 「五つの政策枠を設けます。一つ目は豊かなふるさと実現枠。この中には新病院建設、健康長寿サポート事業、ムシムシランド移設などが含まれます。二つ目は地域創生枠。移住定住対策や産業振興、少子化対策などを行います。三つ目は新生活創造枠。昨年立ち上げたオンラインショップの運営やDXの推進などを図っていきます。四つ目は復旧・復興枠。都路町の複合商業施設の建設を進め、林業推進などにも努めます。五つ目は危機管理枠。自主防災組織を構築し、有事の際は機能できる体制にしていきたいです」 田村市のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】

  • 完成した田村バイオマス発電所

    田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

     本誌昨年2月号に「棄却された田村バイオマス住民訴訟 控訴審、裁判外で『訴え』続ける住民団体」という記事を掲載した。田村市大越町に建設されたバイオマス発電所に関連して、周辺の住民グループが起こした住民訴訟で昨年1月25日に地裁判決が言い渡され、住民側の請求が棄却されたことなどを伝えたもの。  その後、住民グループは昨年2月4日付で控訴し、6月17日には1回目の控訴審口頭弁論が行われた。裁判での住民側の主張は「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しており、それに基づいて市は補助金を支出している。しかし、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問があり、市の補助金支出は不当」というものだが、原告側からすると「一審ではそれらが十分に検証されなかった」との思いが強い。  ただ、二審では少し様子が違ったようだ。  「一審では、実地検証や本田仁一市長(当時)の証人喚問を求めたが、いずれも却下された。バグフィルターとHEPAフィルターがきちんと機能しているかを確認するため、詳細な設計図を出してほしいと言っても、市側は守秘義務がある等々で出さなかった。フィルター交換のチェック手順などの基礎資料も示されなかった。結局、二重のフィルターが本当に機能しているのか分からずじまいで、HEPAフィルターに至っては、本当に付いているのかも確認できなかった。にもかかわらず、判決では『安全対策は機能している』として、請求が棄却された。ただ、控訴審では、裁判長が『HEPAフィルターの内容がはっきりしない。具体的資料を出すように』と要求した」(住民グループ関係者)  そのため、住民グループは「二審では、その辺を明らかにしてくれそうで、今後に期待が持てた」と話していた。  その後、8月26日に2回目、11月18日に3回目の口頭弁論が開かれた。3回目の口頭弁論で、同期日までに提出された書類を確認した後、裁判長は「これまでに提出された資料から、この事件の判決を書くことが可能だと思う。控訴人から出されている証人尋問申請、検証申立、文書提出命令申立、調査嘱託申立は、必要がないと考えるので却下する。本日で結審する」と宣言した。  原告(住民グループ)の関係者はこう話す。  「被告はわれわれの様々な指摘に『否認する』と主張するだけで、何ら具体的な説明をせず、データや資料なども出さなかった。論点ずらしに終始し、二審でようやく資料のようなものが出てきたが、それだってツッコミどころ満載で、最終的には『HEPAフィルターは安心のために設置したもので、集塵率などのデータは存在しない』と居直った。裁判長は、これまでの経過から、事業者が設置したとされるHEPAフィルターが、その機能、性能を保証できない『偽物』『お飾り』であると分かったうえで結審を宣言したのか。それとも、一応、原告側の言い分を聞いてきちんと審理したとのポーズを取っただけなのか」  当初は、「一審と違い、HEPAフィルターの効果などをきちんと審理してくれそうでよかった」と語っていた住民グループ関係者だが、結局、証人尋問や現地実証は認められず、最大のポイントだった「HEPAフィルターの効果」についても十分な審理がなされたとは言い難いまま結審を迎えた。このため、原告側は不満を募らせているようだ。  判決の言い渡しは、2月14日に行われることが決まり、まずはそれを待ちたい。 あわせて読みたい 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図【田村市役所】

    第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄に問われた元市職員の判決が1月13日午後2時半から福島地裁で言い渡される。裁判では除染関連の公共事業発注に関し、談合を主導していた業者の証言が提出された。予定価格の漏洩が常態化していたことも明らかになり、事件は前市長、そして懇意の業者が共同で公共事業発注をゆがめた結果、倫理崩壊が市職員にも蔓延して起こったと言える。 汚職のきっかけは前市長派業者への反感  元市職員の武田護被告(47)=郡山市=は市内の土木建築業者から賄賂を受け取った罪を全面的に認めている。昨年12月7日の公判で検察側が求めた刑は懲役2年6月と追徴金29万9397円。注目は実刑か執行猶予が付くかどうかだ。立件された贈賄の経路は二つある。  一つは三和工業の役員(当時)に非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取ったルート。もう一つが秀和建設ルートだ。市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6月27日~9月27日にかけて行われた入札で、武田被告は予定価格を同社の吉田幸司社長(当時)に教えた見返りに飲食の接待を受けた。同社は3件落札、落札率は96・95~97・90%だった。  三和工業の元役員には懲役8月、執行猶予3年が確定した。秀和建設の吉田氏は在宅起訴されている。  田村市は設計金額と予定価格を同額に設定している。武田被告は少なくともこの2社に設計金額を教え、見返りを得ていた。他の業者については、見返りの受け取りは否定しているが、やはり教えてきたという。  入札の公正さをゆがめ、公務員としての信頼に背いたのは確かだが、後付けとはいえ彼なりの理由があったようだ。2社に便宜を図った動機を取り調べでこう述べている。  「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」  「真面目にやっている人」とは武田被告からすると三和工業と秀和建設。では「楽に仕事を得ようとしている人」とは誰か。それは、本田仁一前市長時代に受注調整=談合を主導していた「市長派業者」を指している。検察側は田村市で行われていた公共事業発注について、次の事実を前提としたうえで武田被告に尋問していた。  ・船引町建設業組合では事前に落札の優先順位を決めるのが慣例だった。  ・除染除去物質端末輸送業務では一時保管所を整地した業者が優先的に落札する決まりがあった。  ・田村市復興事業協同組合(既に解散)が受注調整=談合をしていた。  これらの事実は船引町建設業組合を取りまとめる業者の社長と市復興事業協同組合長を務める業者の社長が取り調べで認めている。  「落札の優先順位を定める円滑調整役だった。業者は優先順位に従って落札する権利を与えられ、業者同士が話し合う。どこの輸送業務をどの業者が落札するか決定し、船引町の組合には結果が報告されてくる。それを同町を除く市内の各組合長に伝えていた」(船引町建設業組合長)  市復興事業協同組合長も「一時保管所を整地したら除染土壌の運搬も担うよう他地区と調整していた」と認めている。この組合長については本誌2018年8月号「田村市の公共事業を仕切る〝市長派業者〟の評判」という記事で市内の老舗業者が言及している。  「本田仁一市長の地元・旧常葉町に本社がある㈱西向建設工業の石井國仲社長は本田市長の後援会長を務めている。一方、市内の建設業界を取り仕切るのは田村市復興事業組合で組合長を務める富士工業㈱の猪狩恭典社長。この2人が『これは本田市長の意向だ』として公共工事を仕切っているんです」(同記事より)  除染土壌の輸送業務をめぐっては業者が落札の便宜を図ってもらうために、本田前市長派業者の主導で市に多額の匿名寄付をし、除染費用を還流させていた問題があった。元市職員が刑事事件に問われたことで、公共事業発注の腐敗体質が明らかになったわけだ。  武田被告は本田前市長派業者による不正が行われていた中で、自分も懇意の業者に便宜を図ろうと不正に手を染めたことになる。取り調べに「楽に仕事を得ようとする業者」に反感があったと語ったが、自分もまた同様の業者を生み出してしまった。田村市では予定価格を業者に教えるのが常態化していたというから、規範が崩れ、不正を犯すハードルが低くなっていたことが分かる。 不必要な事業を発注か  武田被告は公共事業発注の腐敗体質について、市の事業に決定権を持つ者、つまり本田前市長や職員上層部の関与もほのめかしている。  「我々公務員は言われた仕事をやる立場。決定する立場の人間が必要な事業なのか判断しているのか疑問だった。そのような事業を取る会社はそういう(=楽をして仕事を取ろうとする)会社も見受けられた」  上層部が不必要な事業をつくり、一部の業者が群がっていたという構図が見て取れる。  武田被告が市職員を辞めたのは2022年3月末。本誌は前号で、宮城県川崎町の職員が単価表データを地元の建設会社役員と積算ソフト会社社員に漏らして報酬を受け取った事件を紹介した。本誌は同種の事件を起こしていた武田被告が立件を恐れて退職したとみていたが、本人の証言によると、単に「堅苦しい役所がつまらなかった」らしい。  2022年1~2月には就職活動を行い、土木資料の販売を行う民間会社から内定を得た。市役所退職後の4月から働き始め、市の建設業務に携わった経験を生かして営業やパソコンで図面を作る仕事をしていた。市役所の閉塞感から解放され「楽しくて、初めて仕事にやりがいを感じた」という。  武田被告は1995年3月に短大を卒業後、郡山市の広告代理店に就職。解雇され職探しをしていたところ、父親の勧めで96年に旧大越町役場に入庁した。建設部水道課に所属していた2013、14年ごろに秀和建設の役員(吉田前社長の実弟)と知り合い、年に3、4回飲みに行く仲になった。  役所内に情報源を持ちたかった吉田氏の意向で、実弟は武田被告への接待をセッティング。吉田氏と武田被告はLINEで設計金額を教える間柄になった。この時期の贈収賄は時効を迎えたため立件されていない。当時は冨塚宥暻市長の時代だから、市長が誰かにかかわらず設計金額漏洩は悪習化していたようだ。  後始末に追われる白石高司市長だが、自身も公募型プロポーザルの審査委員が選定した新病院施工者を独断で覆した責任を問われ、市議会が百条委員会を設置し調査を進めている。前市政から続く問題で市民からの信頼を失っている田村市だが、武田被告が「市役所はつまらない」と評したように、内部(市職員)からも見限られてはいないか。外部からメスが入ったことを契機に膿を出し切り、生まれ変わるきっかけにするべきだ。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

    【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

     田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。 賄賂を渡した田村市内業者の思惑  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 あわせて読みたい 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

    【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。 田村市贈収賄「三和工業ルート」の構図  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の2022年11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。  単価表をめぐるコンピュータシステム研究所の動き 田村市宮城県川崎町1996年武田護氏が大越町(当時)に入庁2014年武田和樹氏が三和工業に入社、護氏と再会し飲みに行く関係に2020年2月ごろ~21年5月ごろ研究所社員のSが和樹氏を仲介役に護氏から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2010年ごろ~2021年4月ごろ研究所の社員と地元建設業役員が共謀して町職員から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2021年5月宮城県警が本格捜査2021年6月コンピュータシステム研究所が「コンプライアンス」を理由に非公開の単価表入手をやめる2021年6月30日贈収賄に関わった3人が逮捕2021年7月21日受託収賄や贈賄で3人を起訴2021年12月27日3人に執行猶予付き有罪判決2022年3月末護氏が田村市を退職2022年9月24日贈収賄で福島県警が護氏と和樹氏を逮捕河北新報や福島民報の記事を基に作成  代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。 宮城県で同様の事件  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。 狙われた自治体は他にも!?  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの2022年11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

    【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が〝鶴の一声〟で変更された。市幹部などでつくる選定委員会は、公募型プロポーザルに参加した3社の中から鹿島建設を最優秀提案者に選んだが、白石高司市長の指示で次点者の安藤ハザマに覆ったのである。 〝本田派議員〟が疑惑追及の百条委設置 「新病院の施工予定者が白石市長の指示で変更されたらしい」 そんなウワサを田村市内の自民党関係者から聞いたのは、2022年7月に行われた参院選の前だった。  新病院とは、田村地方の医療を支えるたむら市民病院(病床数32)の後継施設を指す。公には6月30日に市のホームページで「新病院の施工予定者選定に係る公募型プロポーザルの最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者は鹿島建設」と発表され、7月4日付の福島建設工業新聞にも「新病院の施工予定者に安藤ハザマ」という記事が掲載された。 造成工事を終えた新病院予定地  ところが実際の審査では、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選ばれていたというのだ。  「2022年6月、市幹部などでつくる選定委員会が白石市長に『審査の結果、鹿島に決まった』と報告した。しかし白石市長が納得せず、次点の安藤ハザマに変更するよう指示したというのです。選定委員会は『何のために審査したか分からない』と不満に思ったが、上から言われれば従うしかない」(市内の自民党関係者)  一度聞いただけではまさかとしか思えない話。だが、それはウワサでもまさかでもなく、事実だった。  市長の指示で施工予定者が突然覆される――そんなかつての〝天の声〟を彷彿とさせる出来事はなぜ起きたのか。  たむら市民病院は、同市船引町の国道288号沿いで診療を行っている。もともとは医療法人社団真仁会が大方病院という名称で運営していたが、院長が急死したため2019年7月に市が事業継承、公的医療機関として生まれ変わった。診療科目は内科、人工透析内科、外科など10科。運営は指定管理者制度で公益財団法人星総合病院(郡山市)に委託している。  市立病院の設置は、2005年に旧5町村が合併した田村市にとって悲願だった。しかし、事業継承した時点で建物の老朽化、必要な病床数の確保、救急受け入れなどの課題を抱えていた。そこで市は2020年3月に新病院建設基本計画を策定、現在地から北東1・3㌔の場所(船引町船引字屋頭清水地内)に新病院を建設する方針を打ち出した。  2020~21年度にかけて予定地の造成を行い、その後は22年度着工、24年度開院というスケジュールが組まれたが、21年4月の市長選で状況が変化した。当時現職の本田仁一氏を破り初当選した白石高司市長が、公約に本田市政のもとで始まった公共工事の見直し(事業検証)を掲げたことから、新病院建設も一時中断を余儀なくされたのである。  その後、関係部局の職員たちが4カ月にわたり事業検証を行い、最終的に「新病院は市民にとって必要」と判断されたため、計画は予定より1年遅れて再始動した。2022年3月には建設基本設計概要書が公表され、新病院の具体像が示された。  問題の公募型プロポーザルはこの後に行われるが、ここからは、本誌が情報開示請求で市から入手した公文書に基づいて書いていく。  新病院の概要は病床50床、鉄筋コンクリート造地上4階建て、建築面積2790平方㍍、延べ面積6420平方㍍。このほか厨房施設と付属棟、250台分の駐車場を整備し、工期は2023年7月から25年1月。想定事業費は36億円程度となっている。  市は建設コスト縮減と工期短縮を図るため、施工者が設計段階から技術協力を行うECI方式の採用を決定。4月19日にプロポーザルの公告を行い、清水建設、鹿島、安藤ハザマから参加申し込みがあった。同28日には一次審査が行われ、3社とも通過した。  続く二次審査は6月25日に行われ、各社のプレゼンテーションと選定委員会によるヒアリング、さらには各委員による採点で最優秀提案者と次点者が選定された。 最高評価を受けていた鹿島  まずは評価が一目で分かる採点から見ていく。別表は選定委員7人による評価シートの合計だ。  選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、そのうちの3人は南相馬市立総合病院の及川友好院長、たむら市民病院の指定管理者である星総合病院の担当者、日大工学部教授だったことが判明している。残り1人は不明。  その7人による採点の合計を見ると(各自の採点結果は開示された公文書が黒塗りで不明)、A社は505点、B社は480点、C社は405点となっている(満点は700点)。アルファベット表記になっているが、公文書を読み進めるとA社は鹿島、B社は安藤ハザマ、C社は清水建設であることが分かり「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」と書かれている。  では、各委員の評価ポイントはどうだったのか。公文書には当時の発言順に次のように記されていた。  「A社は丁寧な技術提案や書類のつくり込みで好感が持てた。ヒアリングでのやり取りからもネガティブな要素は感じられず、安心して任せられると感じた。C社にはA社と全く逆の印象を持った。書類のつくり込みが粗いばかりか、ヒアリングでも発注者・審査員に対し礼を失する発言が多く、誠実さが感じられなかった。B社は様々な提案を盛り込んでいるが、果たしてそれがうまく収まるのか不安を感じた。工期に余裕がない点もネガティブ要素だった」(黒塗りで発言者不明)  「地域貢献に関して、書類上の金額と現実性が乖離している提案が目立った。特にB社の発注予定額は経験的に実現不可能と受け止めている。技術力に関しては提案者ごとにかなり差があると感じた。順位付けをするならA社<B社<C社の順だが、メンテナンス体制も含めるとA社の有意性がより際立つと感じた」(同)  「技術面では3社とも特に問題ないだろうと感じた。その中でも、A社は一番丁寧に提案書がつくられていた。地域貢献に関しては、その是非や実現性を判断するための情報が不足している」(佐藤委員)  「技術的な優劣は判断できない。市の姿勢として地域貢献を前面に出していただく必要がある」(渡辺委員)  「ここまでの委員の発言に同意。地域貢献に関しては、B社提案はリップサービスが過ぎたように感じる」(黒塗りで発言者不明)  「技術的な優劣は判断できないが、A社の提案は書類・説明ともに好印象だった。しっかりとした病院を確実に建てることが第一で、地域貢献はその次に考えること。地域貢献の配点が大きいため、個人的な評価と点数が一致していない。B社が提示した五つの課題は市の感覚とずれているように感じた」(石井委員長)  総体的に、A社(鹿島)の評価が高く、C社(清水建設)は厳しい意見が多く聞かれた。B社(安藤ハザマ)の提案も各委員が半信半疑に捉えている様子がうかがえる。  ただ、採点結果と評価ポイントのすり合わせを行っても順位の一致に至らなかったため、規程に基づき多数決を行った結果、A社4人、B社1人、C社0人となり、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。  この結果を選定委員会事務局が白石市長に報告し、決裁後、速やかに各社に通知、市のホームページでも公表する手筈だったが、公文書(6月30日付の発議書)には次のような驚きの記述があった。  《6月28日及び同30日に実施した市長報告において、市長から本件プロポーザルにおいては地域貢献と見積額が重要な判断基準であるため、当該提案において最も有利な条件を提示している㈱安藤・間東北支店が次点者という審査結果は妥当性を欠くため、該社を最優秀提案者として決定するよう指示がありました》  白石市長から安藤ハザマに変更するよう指示があったと明記されていたのだ。  最終的にこの変更は6月30日に了承され、安藤ハザマには《厳正に審査した結果、御社の提案が最も評価が高く、本事業の最優秀提案者として選定されましたので通知いたします》、鹿島には《御社の提案が2番目に評価が高く、本事業の次点者として選定されました》という通知が白石市長名で送られた。市のホームページでも同日中に公表された。「厳正に審査」が白々しく聞こえるのは本誌だけだろうか。 百条委設置の経緯  前述した建設工業新聞の記事はこの直後に書かれたが、当時は最優秀提案者が覆された事実は公になっていなかった。ただ市議会では、安藤ハザマを最優秀提案者に選定したことに「別の視点」から疑問の声が上がっていた。  「6月に市役所ホールの吹き抜けの窓から雨漏りしている個所が見つかったが、市役所を施工したのが安藤ハザマと地元業者によるJVだったため、議員から『そんな業者に新病院建設を任せて大丈夫か』という懸念が出たのです」(市内の事情通)  市役所は2014年12月に竣工したが、事情通によると落札金額は安く抑えられたものの、その後、追加工事が相次ぎ、結局、事業費が膨らんだ苦い経験があるため、  「議員の間には『今回も安藤ハザマは同様の手口で事業費を増やしていくのではないか』という疑いが根強くある」(同)  これ以外にも、安藤ハザマは「過去に指名停止を受けている」「市に除染費用を水増し請求した」などの不信感が持たれている。ただ同様のトラブルは、鹿島や清水建設など他のゼネコンでも見られるので、安藤ハザマだけを殊更問題視するのはバランスを欠く。  「そうこうしているうちに『最優秀提案者は、本当は鹿島だったらしい』という話が議員にも伝わり、9月定例会で選定経過に関する質問が行われたが、白石市長は『地域貢献度も含め適正に審査した』と曖昧な答弁に終始したため、過半数の議員が反発する事態となった」(同)  ウワサは次第に尾鰭をまとい「〇〇社が白石市長に頼んで安藤ハザマに変わったらしい」「実際の工事は白石市長と同級生の××社が請け負うようだ」「白石市長は安藤ハザマからいくらもらったんだ」等々、真偽不明の話まで囁かれるようになった。白石市長が明確な答弁を避けたことが「何か隠している」という印象を与えたわけ。  9月定例会が終わりに近付くころには、一部議員の間で「真相を究明するには地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置するしかない」という話が持ち上がり、10月27日に開かれた臨時議会で議員発議による設置が正式決定された。  《市は安藤ハザマを最優秀提案者にした理由の説明を避けてきたため、一部議員が反発していた。白石市長は臨時議会開会前の議員全員協議会で鹿島が選定委員会で最も点数が高かったと認め、「積算工事費や地域貢献計画などを比較し、安藤ハザマにした」と説明したが、採決の結果、賛成9、反対8で百条委設置が決まった》(福島民報10月28日付)  田村市議会は定数18。採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛成・反対の内訳は別掲の通りだが、賛成した9人のうち、半谷理孝議員を除く8人は2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を支援していた。  ちなみに百条委の委員も、賛成した9人から大和田議員を除いた8人全員が就き、反対した8人からは誰も就かなかった。そのため「市長選の私怨が絡んだ面々で正しい調査ができるのか」と言われているが、委員に就いた議員からは「反対した議員には『調査の公平・公正を担保するため、そちら(反対)の議員も百条委に加わるべきだ』と申し入れたが断わられた」という不満が漏れている。  反対した8人は白石市長と距離が近いが、話を聞くと「百条委設置に反対したのに委員に就くのは筋が通らないと思った」と言う。しかし筆者は、本気で真相を究明するなら設置の賛否にこだわらず、議会全体で疑惑の有無を探るべきと考える。そうでなければ、せっかくつくった百条委が「反白石派の腹いせに利用されている」とねじ曲がった見方をされかねないからだ。  市保健福祉部の担当者はこう話す。  「百条委が設置されたことは承知しているが、具体的な動きがない限り市側はアクションを起こせないので、今後どうなるかは全く想像がつかない」  最後に、白石市長が安藤ハザマに変更した際に重視したとされる工事費や地域貢献度については市から入手した公文書にこんな記述がある。  例えば安藤ハザマは▽直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注、▽事務用品その他も4000万円以上を市内企業から購入、▽市内における関係者個人消費は3000万円以上。さらに概算工事費は45億8700万円と提示している。  一方、鹿島については市内業者への発注額、市内企業からの建設資機材購入額、概算工事費とも黒塗りされ詳細は不明だが、白石市長に次点者に追いやられたということは、いずれの金額も安藤ハザマより劣っていたことが推察される。 開院遅れで市民に不利益  だが、プロポーザルへの参加者を公募した際の公文書(4月19日付)にはこのように書かれている。  《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》  選定委員会が最も高く評価した提案者を、市長の〝鶴の一声〟で変更していいとは書かれていない。白石市長は「工事費や地元貢献度の観点から安藤ハザマの方が優れており、やましい理由で変更したわけではない」と言いたいのだろうが、ルールに無い変更を独断で行った結果、疑惑を招き、市政を混乱させたことは事実であり、真摯に反省しなければならない。  何より新病院建設は前述した事業見直しで一時中断しており、今回の百条委でさらに遅れる可能性が出ている。高齢者や持病のある人にとって新病院は待望の施設なのに、開院がどんどん後ろ倒しになるのは不利益以外の何ものでもない。白石市長はたとえやましいことが無かったとしても、安藤ハザマに変更した理由を明確に示さない限り、市議会(百条委)は納得しないし、市民からも理解を得られないだろう。  白石市長は百条委設置を受け「プロポーザルに参加した業者の技術に差はなく、市民の利益を十分検討し最終決定した。調査には真摯に対応したい」とコメントしたが、今後の百条委で何を語るのか、それを聞いて百条委がどのように判断するのか注目される。 田村市ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

     田村市常葉地区で整備が進む東部産業団地の敷地から巨大な岩が次々と出土。そのうちの一つは高さ17㍍にもなり、あまりの大きさに市内外から見物客が訪れるほどだ。テレビでも「観光地にしてはどうか」と好意的な声が紹介されているが、半面「あそこに団地をつくるのは最初から無理があった」と否定的な声はクローズアップされていない。巨岩のおかげで工事費は当初予定より増えたが、議会は問題アリと認識しているのに執行部を厳しく批判できない事情を抱える。 議会が市長、業者を追及しないワケ 敷地から出土した巨岩。隣の重機と比べると、その大きさが分かる  田村市船引地区から都路地区に向かって国道288号を車で走ると、両地区に挟まれた常葉地区で大規模な造成工事が行われている場所が見えてくる。実際の工事は高台で進んでいるため、目に入るのは綺麗に整備された法面だが、それと一緒に気付くのが巨大な岩の存在だ。  国道沿いにポツンとある一軒家と余平田集会所の向こう側にそびえる巨岩は軽く10㍍を超えている。表面はつるつるしていて、どこか人工物のようにも見える。近付いてみると横で作業する重機がまるでおもちゃのようで、思わず笑ってしまう。  「今の時間帯は誰もいないけど、結構見物客が来てますよ。先日はテレビ局が来た。その前は新聞記者も来たっけな」  現場にいた作業員がそう教えてくれた。説明が手馴れていたのは、いろいろな人が来て同じような質問をされるからだろう。  ここは田村市が整備を進める東部産業団地の敷地内だ。巨岩があるのは、ちょうど調整池を整備する場所に当たる。  昨年11月22日付の河北新報によると、同所はもともと大きな石が数多く露出する地域で、出土した巨石群は花こう岩の一種。市の試算では体積計1万4000立方㍍以上、総重量3万6400㌧以上。一方、同29日にテレビ朝日が報じたところによれば、巨岩は高さ17㍍、横30㍍、奥行き22㍍と推測され、奈良の大仏の台座を含めた高さ(18㍍)に匹敵するという。  巨岩は民家に隣接しているため、発破は危険。そこで市は重機で破砕する予定だったが、想定より硬く、そのままにせざるを得なかった。  これにより、調整池の工事は変更される事態となった。巨岩を動かせないため、そこを避けるようにして調整池の形・深さを変え、予定していた水量を確保できるようにする。  変更に伴い市は工事費を増額。発注額は2億7100万円だったが、昨年12月定例会で市は6億9900万円に増額する契約変更議案を提出し、議決された。工期も2024年3月末までだったが、同年9月末までに延長された。  気になるのは、壊すことも動かすこともできない巨岩の今後だ。同団地の担当部署である市商工課に問い合わせると  「進出企業の工場建設計画もあるので、市としては団地を早期に完成させることを優先したい。巨岩をどうするかはこれから議論していく」(担当者)  巨岩は市内外から見物客が訪れており、市民からは「あんな立派な巨岩はお目にかかれない。観光地にしてはどうか」との意見が上がっている。市でもそういう意見があることは承知しており、白石高司市長もテレビ局の取材に「地域おこしにつながらないか。巨岩を活用するアイデアを募っていきたい」とコメントしている。  実は、都路地区にはさまざまな名前の付いた巨石が点在し、ちょっとした観光スポットになっていることをご存知だろうか。  例えば亀の形をした「古代亀石」は高さ10・7㍍、周囲50・5㍍、重さ2800㌧。近くに立てられた看板にはこんな伝説が書かれている。 「古代亀石」  《古きからの言い伝えによると無病息災鶴は千年亀は万年と言われた亀によく似た石を住民が〆縄張り崇拝したと言う。石の上部に天狗が降りた足跡を残した奇観有りと言う。地区の人々が名石の周りを清掃し関心の想を呼び起して居ます》  古代亀石のすぐ近くには笠石山の登山口があり、頂上付近に「笠石」や「夫婦石」という巨石がある。登山口から1~2分の場所には綺麗に真っ二つに割れた「笠石山の刃」という巨石もあり、漫画『鬼滅の刃』で主人公・竈門炭次郎が師匠との修行で最終段階に挑んだ岩に似ていると密かに評判になっている。 「笠石山の刃」  さらに古代亀石の周辺には、文字通り船の形をした「船石」や「博打石」といった巨石もある。  これらの巨石群と東部産業団地の巨岩は車で10~15分の距離しか離れておらず、観光ルートとして確立することは十分可能だろう。  偶然にも巨岩が大々的に報じられる1カ月前には、都路地区と葛尾村にまたがる五十人山の巨石が話題になった。巨石には坂上田村麻呂が50人の家来を座らせて蝦夷平定の戦略を練ったという伝説があり、都路小学校の児童が授業中に「本当に50人座れるの?」と質問したことをきっかけに、市と村が昨年10月に実証体験会を開いた。結果は53人が座り、伝説は本当だったことが証明された。  ユニークな取り組みだが、正直、巨岩・巨石観光は地味に映る。しかし、市内の観光業関係者は  「確かに地味だが、どの世界にもマニアは存在する。数は少なくても、マニアは足繁く通い、深い知識を持ってSNSで発信する。それがじわじわと評判を呼び、興味のない人も引き寄せる。そんな好循環が期待できると思います」  磨けば有益な観光資源になる可能性を秘めている、と。  実際、巨岩はしめ縄を付ければ神秘性が生まれそう。破砕すれば、なんだかバチが当たりそうな雰囲気もあるから不思議だ。 団地にふさわしくない場所 本田仁一前市長 白石高司市長  もっとも、市内には巨岩を明るい話題と捉える人ばかりではない。東部産業団地が抱える本質的な問題を指摘する人もいる。  もともと同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代の2020年に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、場所については当初から疑問視する向きが多くあった。  すなわち、同団地は①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならないという二つの大きな労力が要る場所だった。前述の通り大きな石が数多く露出しており、その処理に苦労することも予想された。  なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。  加えて、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことも、同団地が歓迎されない要因になっていた。  こうした疑惑を抱えた同団地の区画セールスを、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から進出企業は見つかるのかという懸念が囁かれた。  幸い、二つある区画のうち、B区画(9・1㌶)には電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)、A区画(14・3㌶)には道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が進出することが決まった。大成ロテックは昨年11月に地鎮祭を行い、操業は2025年度中。ヒメジ理化も昨年12月に起工式があり、25年3月の操業開始を目指している。  あとは調整池の工事を終え、工場が稼働し、巨岩の活用方法を考えるだけ――と言いたいところだが、実は、造成工事をめぐり表沙汰になっていない問題がある。  造成工事を受注したのは富士工業と三和工業のJVであることは前述したが、当初の工事費は45億9800万円だった。それが、昨年3月定例会で61億1600万円に、さらに12月定例会で64億6000万円に契約変更された。当初から18億6200万円も増えたことになる。  市商工課によると、工事費が増えた理由は  「工事が始まる前は軟岩と思っていたが、出土した岩を調べると中硬岩であることが分かった。加えて岩が想定以上に分布していたこともあり、造成工、掘削工、法枠工が変更され、それに伴い工事費が増えた」(担当者)  この話を聞くだけで、最初から産業団地にふさわしくない場所だったことが分かるが、問題は工事費が増えた経緯だ。 進め方の順序が逆  土木業界関係者はこう話す。  「市は昨年3月定例会で46億円から61億円に増額した際、増えるのは今回限りとしていたが、半年後の9月にはあと1回増やす必要があるとの認識を示していたそうです」  問題は工事費がさらに増えると分かったあと、造成工事がどのように進められたか、である。  「普通は見積もりをして、工事費がいくら増えると分かってから、市が議会に契約変更の議案を提出します。議案が議決されれば、市と業者は変更契約を交わし、市は増額分の予算を執行、業者は増額分の工事に着手します」(同)  しかし、61億1600万円から64億6000万円に増額された際はこの順序を踏んでいなかったという。  「12月定例会の時点で造成工事はほぼ終わっており、その結果、工事費が61億円から64億円に増えたため、あとから市が契約変更の議案を提出したというのです」(同)  工事費が3億円も増えれば、それに伴って工期も延長されるのが一般的。「土木の現場で1億円の予算を1カ月で消化するのは無理」(同)というから、3カ月延長されてもいいはず。ところが今回の契約変更では、予算は64億6000万円に増えたのに、工期は従前の2024年3月末で変わらなかった。  そのことを知って「おかしい」と感じていた土木業界関係者の耳に、市役所内から「どうやら造成工事はほぼ終わっており、工事費が予定より3億円オーバーしたため、その分を増額した契約変更の議案があとから議会に提出されたようだ」との話が漏れ伝わってきたという。  「公共工事の進め方としては順序が逆。もしかすると岩の数量が不確定で工事費を算出できず、いったん仮契約を結んだあと、工事費が確定してから契約変更を議決したのかもしれないが、巨大工事を秘密裏に進めているようで解せない」(同)  このような進め方が通ってしまったのは、事業費(107億3800万円)が福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出され、市の持ち出しはゼロという点も関係しているのかもしれない。  「事業費107億円のうち、実際に執行されたのは100億円と聞いています。つまり、まだ7億円余裕があるし、これ以上遅れると進出企業に迷惑がかかるので、工事を先に進めることを優先したのでは。市の財政から出すことになっていたら、順序が逆になるなんてあり得ない」(同)  この点を市商工課に質すと、担当者はしばらく押し黙ったあと、造成工事が先に進み、変更契約があとになったことを認めた。  「ちょっと……現場の者とも確認して、今後については……」  言葉を詰まらせる担当者に「公共工事の進め方としてはおかしいのではないか。どこに問題点があったか上層部と認識を共有すべきだ」と告げると「はい」とだけ答えた。  本誌はあらためて、市商工課にメールで四つの質問をぶつけた。  ①増額分の3億円余りの工事は12月定例会で契約変更が議決された時点でどこまで進んでいたのか。それとも、議決された時点で工事は完了していたのか。  ②工事費が3億円余り増えると市が知った経緯を教えてほしい。  ③工事費の増額は、業者から「見積もりをしたら増えることが分かったので、その分をみてほしい」と言われたのか。それとも工事が終わってから「かかった金額を調べたところ64億円になったので、オーバーした3億円を市の方でみてほしい」と言われたのか。  ④市は「工事費が増えるなら契約変更をしなければならないので、関連議案が議決されてから追加の工事に入ってほしい」と業者に注意しなかったのか。もし業者が勝手に工事を進めていたとしたら「なぜ契約変更前に工事を進めたのか」と注意すべきではなかったのか。  これらは締め切り間際に判明し、担当者の出張等も重なったため、市からは期日までに回答を得られなかった。期日後に返答があれば、あらためて紹介したい(※1)。 ※1 今号の締め切りは昨年12月22日だったが、市商工課からは「25日以降に回答したい」と連絡があった。  富士工業にも問い合わせたが「現場を知る者が出たり入ったりしていていつ戻るか分からない」(事務員)と言うので、市商工課と同じく質問をメールで送った。こちらも締め切り間際だったこともあり期日までに回答がなかったので、期日後に返答があれば紹介したい(※2)。 ※2 締め切り直後、猪狩恭典社長から連絡があり「岩量が確定せず正確な工事費が出せない状況で、市といったん仮契約を結んだ。進め方の順序が逆と言われればそうだが、問題があったとは認識していなかった」などといった回答が寄せられたが、「詳細を話すのは御社に対する市の回答を待ってからにしたい」とのことだった。 契約変更前の施工はアウト 今井照・地方自治総合研究所特任研究員  自治体政策が専門の今井照・地方自治総合研究所特任研究員は次のような見解を示す。  「契約で工事費が61億円となっているのに、議会で契約変更を議決する前に64億円の工事をしていたらアウトです。一方、見積もりをしたら64億円になることが分かったというなら、まだ施工していないのでセーフです。ポイントは、市が契約変更の議案を提出した時点で工事の進捗率がどれくらいだったのか、だと思います」  今井氏によると、契約変更の議決を経ずに施工するのは「違法行為」になるという(神戸地判昭和43年2月29日行政事件裁判例集19巻1・2号「違法支出補てん請求事件」)。  「ただし罰則はないので、業者が市に損害を与えていれば損害賠償を請求できるが、今回の場合はそうとは言い切れない。神戸地裁の判例でも賠償責任は否定されています」(同)  問題は市と業者だけにあるのではない。一連の出来事を見過ごした議会にも責任がある。  「本来なら『なぜ順序が逆になったのか』と議会が追及する場面。しかし、白石市長と対峙する議員は本田前市長を支持し、東部産業団地は本田氏が推し進めた事業なので強く言えない。工事を受注しているのが本田氏を応援していた富士工業という点も、追及できない理由なのでは……。一方、白石氏を支持する議員も本来は『おかしい』と言うべきなのに、同団地は本田氏から引き継いだ事業なので、白石氏を責め立てるのは酷と控えめになっている。だから、両者とも騒ぎ立てず『仕方がない』となっているのかもしれない」(議会ウオッチャー)  それとも、これ以上工事が遅れれば同団地に進出するヒメジ理化と大成ロテックの操業計画にも影響が及ぶので、順序が逆になっても工事を進めることを市政全体が良しとする空気になっていたのだろうか。  巨岩に沸き立ち、とりわけテレビは面白おかしく報じているが、造成工事が異例の進め方になっていること、もっと言うと、そもそもあの場所は産業団地に不適だったことを認識すべきだ。

  • 田村市の新病院工事問題で新展開

     7月に開かれた田村市議会の臨時会で、市が提出した新病院の工事請負契約に関する議案が反対多数で否決されたことを先月号で伝えたが、その後、新たな動きがあった。 安藤ハザマとの請負契約が白紙に 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  新病院の施工予定者は、昨年4~6月にかけて行われた公募型プロポーザルで、選定委員会が最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、百条委員会が設置された。  今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は法的な問題点を見つけられず、白石市長に「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。  そうした因縁を引きずり迎えた7月の臨時会は、直前の6月定例会で新病院に関する予算が賛成多数で可決していたこともあり、安藤ハザマとの工事請負契約も可決するとみられていた。ところが、結果はまさかの否決。白石市長が反対に回った議員をどのように説得するのか今後の対応が注目されたが、本誌に飛び込んできたのは予想外の情報だった。  「市は6月下旬に安藤ハザマと仮契約を結んだが、白紙に戻し入札をやり直すというのです」(経済人)  議会筋によると、7月下旬に開かれた会派代表者会議で市から入札をやり直す方針が伝えられたという。今後、6月定例会で可決した新病院に関する予算を減額補正し、新たに入札を行って施工予定者を選び直す模様。設計はこれまでのものを踏襲するか、若干の変更があるかもしれないという。  「安藤ハザマは今回の新病院工事で、地元企業に十数億円の仕事を発注する予定だったが、船引町商工会に『契約が白紙になったため、地元発注ができなくなった』と連絡してきたそうです」(前出・経済人)  船引町商工会の話。  「8月上旬に安藤ハザマから連絡がありました。市から契約白紙を告げられたそうです。担当者からは繰り返し謝罪されたが、経済が落ち込む中、地元企業に様々な仕事が落ちると期待していただけに残念でなりません」(白石利夫事務局長)  船引町商工会では安藤ハザマと取引を希望する地元企業から見積もりを出してもらうなど、同社とのつなぎ役を務めていた。ガソリンスタンド、車両のリース、弁当など様々な業種から既に見積もりが寄せられていただけに「取引がなくなり、皆落胆しています」(同)という。  市のホームページによると、新病院は2023~24年度にかけて工事を行い25年度に開院予定となっているが、議会筋によると、入札をやり直せば工事は24年夏~26年夏、開院はその後にずれ込む。予定より1年以上開院が遅れることになる。  「白石市長は否決された工事請負契約を可決させるため、反対した議員を説得すると思われたが、そうした努力を一切せずに入札やり直しを決めた。一方、反対した議員も、当初計画より工事費が高いことを理由に否決したが、これ以上工事が遅れれば物価高やウクライナ問題のあおりで工事費はさらに割高になる。白石市長も反対した議員も新病院が必要なことでは一致しているのに、互いに歩み寄らなかった結果、『開院の遅れ』と『工事費のさらなる増額』という二つの不利益を市民に強いることになった」(前出・経済人) 白石高司市長  入札をやり直して開院を遅らせるのではなく、政治的な協議で軌道修正を図り、予定通り開院させる方法は取れなかったのか。  市内では「互いに正論を述べているつもりかもしれないが、市民の立場に立って成熟した議論ができないようでは話にならない」と冷めた意見も聞かれる。白石市長も議会も猛省すべきだ。 ※新病院建設を担当する市保健課に問い合わせると「安藤ハザマとの契約はいったんリセットされる。今後どのように入札を行うかは9月定例会など正式な場でお伝えすることになる」とコメントした。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

  • 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

     本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 したたかさを備えなければ市政は機能しない 会対策に苦慮する白石高司市長  まずはこの間の経緯を振り返る。 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため) しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す) 123石井 忠治 ⑥××〇半谷 理孝 ⑥××〇大和田 博 ⑤××〇菊地 武司 ⑤××〇吉田 文夫 ④××〇安瀬 信一 ③××〇遠藤 雄一 ③×〇〇渡辺 照雄 ③××〇石井 忠重 ②×〇×管野 公治 ①××〇猪瀬  明 ⑥〇〇×橋本 紀一 ⑥〇〇×佐藤 重実 ②〇〇×二瓶恵美子 ②〇〇×大河原孝志 ①〇〇×蒲生 康博 ①〇〇×吉田 一雄 ①〇〇×※〇は賛成、×は反対※1は工事請負契約の賛否※2は6月定例会での予算の賛否※3は百条委設置の賛否※丸数字は期数  反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員) 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通) なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」 「政局での反対じゃない」 田村市百条委員会  百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。 市民のために歩み寄りを 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  前出・議会通はこう指摘する。 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通) 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。

  • 田村市の「いわくつき産業団地」が完売

     道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が田村市常葉町に整備中の東部産業団地(仮称)に進出する。3月31日、同社の西田義則社長と白石高司市長が基本協定を締結した。 《民間企業として国内初の大型舗装実験走路を備えた研究施設を建設する。2023年度に着工し、24年度中の運用開始を目指す》《実験走路は1周約1・0㌔の楕円状で、トレーラーを自動運転させ、開発中のコンクリートやアスファルト舗装の耐久性などを調べる。トレーラーを監理する管理棟や車両の点検・整備を行うトラックヤードなども設ける》(福島民友4月1日付より) 大成ロテックは同団地の二つある区画のうちA区画(約14・3㌶)に進出。残るB区画(約9・1㌶)には昨年10月、電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)が進出することが発表されているため、同団地はこれで完売したことになる。 「これほど巨大な団地を、あんな辺ぴな場所につくって売れるのかと内心ヒヤヒヤしていました」 と話すのは市役所関係者だ。 同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、設置場所については当初から疑問視する向きが多くあった。 すなわち、同団地は田村市常葉町山根地区の国道288号沿いにあるが、①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならない、という二つの大きな労力が要る場所だったのだ。 なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉町が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉町は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。 また設置場所だけでなく、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことなども、同団地が歓迎されない要因になっていた。 こうした疑惑を抱えた同団地の区画販売を、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した前出・白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から販売に苦労するのではないかという見方が浮上していた。 幸い、市の熱心な営業活動でヒメジ理化と大成ロテックの進出が決まり、これらの不安は一掃された形。とはいえ、解決しなければならない課題はまだ残っているのだという。 「想定外の巨岩が地中に埋まっていて工事に時間がかかっている。岩は家1軒分よりも大きくて硬く、動かすのは不可能なため、壊して運び出すことになるようです」(前出・市役所関係者) 敷地内に残された巨岩  実際、現地に行くと、国道288号からすぐ見える場所に、2階建ての住宅より大きな岩がむき出しで横たわっているのが分かる。これほどの巨岩を処理するのは確かに容易ではなさそう。 ただ、市商工課によると「残る作業は舗装の一部や調整池の整備などで、これらを進めながら進出企業も必要な工事に着手する予定です」(担当者)と、巨岩の処理を行っても両社の操業スケジュールに影響は出ないとしている。 疑惑にさいなまれた同団地の正常な稼働が待たれる。 あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 未完成の【田村市】屋内遊び場「歪んだ工事再開」

    (2022年9月号)  2021年4月、設置した屋根に歪みが見つかり、工事が中断したままになっている田村市の屋内遊び場。対応を協議してきた市は、計1億5000万円の補正予算を組んで工事を再開させる予定だが、違和感を覚えるのは原因究明が終わっていない中、歪みを生じさせた業者に引き続き工事を任せることだ。それこそ〝歪んだ工事再開〟にも映るが、背景を探ると、白石高司市長の苦渋の決断が浮かび上がってきた。 前市長の失政に未だ振り回される白石市長 白石高司市長  田村市屋内遊び場(以下「屋内遊び場」と略)は田村市船引運動場の敷地内で2020年8月から工事が始まった。計画では3000平方㍍の敷地に建築面積約730平方㍍、延べ床面積約580平方㍍、1階建て、鉄筋コンクリート造・一部木造の施設をつくる。利用定員は100人で、駐車場は65台分を備える。 総事業費は2億9810万円。内訳は建築が2億0680万円、電気が2600万円、機械設備が2340万円、遊具が4190万円。財源は全額を「福島定住等緊急支援交付金」と「震災復興特別交付金」で2分の1ずつまかない、市の持ち出しはゼロとなっている。 2021年3月には愛称が「おひさまドーム」に決まり、あとは同7月のオープンを待つばかりだった。ところが同4月、工事は思わぬ形で中断する。設置した屋根が本来の高さから5㌢程度沈み、両側が垂れ下がるなどの歪みが生じたのだ。 建物本体の施工は鈴船建設(田村市、鈴木広孝社長)、設計は畝森泰行建築設計事務所(東京都台東区、畝森泰行社長。以下「畝森事務所」と略)とアンス(東京都狛江市、荒生祐一社長)の共同体、設計監理は桑原建築事務所(田村市、桑原俊幸所長)が請け負っていた。 問題発覚時、ある市議は本誌の取材にこう話していた。 「鈴船建設は『設計図通りに施工しただけ』、畝森事務所は『設計に問題はない』、桑原建築事務所は『監理に落ち度はない』と、全員が〝自分は悪くない〟と主張し、原因究明には程遠い状況と聞いている」 実は、屋内遊び場は非常にユニークなつくりで、市内の観光名所であるあぶくま洞と入水鍾乳洞をイメージした六つのドームに屋根を架ける構造になっている(別図①)。 屋根も奇抜で、一本の梁に屋根を乗せ、玩具「やじろべえ」の要領でバランスを取る仕組み。ただ、それだと屋根が落下する危険性があるため、別図②のように屋根の片側(下側)をワイヤーで引っ張り、安定させるつくりになっていた。 しかし、屋根を架けた途端、沈みや歪みが生じたことで、市は別図③のように棒で支える応急措置を施し、原因究明と今後の対応に乗り出していた。  ある業者は 「こういうつくりの建物は全国的にも珍しいが、行き過ぎたデザインが仇になった印象。屋内遊び場なんて単純な箱型で十分だし、空き施設をリフォームしても間に合う」 とデザイン先行のつくりに疑問を呈したが、市が鈴船建設、畝森事務所、桑原建築事務所を呼び出して行った聞き取り調査では原因究明には至らなかった。市議会の市民福祉常任委員会でも調査を進めたが、はっきりしたことはつかめなかった。 本誌は2021年7月号に「暗礁に乗り上げた田村市・二つの大型事業」という記事を載せているが、その中で屋内遊び場について次のように書いている。   ×  ×  ×  × (前略)前出・某業者が興味深い話をしてくれた。 「六つのドームから構成される屋内遊び場は一つの建物ではなく、単体の建物の集合体と見なされ、建築基準法上は『4号建築物』として扱われている。4号建築物は建築確認審査を省略することができ、構造計算も不要。建築確認申請時に構造計算書の提出も求められない。もし施工業者に問題がないとすれば、その辺に原因はなかったのかどうか」 畝森事務所は構造計算書を提出していなかったようだが、屋根にゆがみが生じると「構造計算上は問題ない」と市に同書を提出したという。4号建築物なので提出していなかったこと自体は問題ないのかもしれないが、ゆがみが生じた途端「構造計算上は問題ない」と言われても〝後出しジャンケン〟と同じで納得がいかない。 そもそも公共施設なのに、なぜ4号建築物として扱ったのか疑問も残る。主に小さい子どもが利用する施設なら、なおのこと安心・安全を確保しなければならないのに、建築確認審査を省略できて構造計算も不要の4号建築物に位置付けるのは違和感を覚える。4号建築物として扱うことにゴーサインを出したのは誰なのか、調べる必要がある。 ちなみに、畝森事務所・アンス共同体は2019年10月に行われた公募型プロポーザルに応募し、審査を経て選ばれた。請負金額は基本・実施設計を合わせて3000万円。審査を行ったのは、当時の本田仁一市長をはじめ総務部長、保健福祉部長、教育部長、経営戦略室長、こども未来課長、都市計画課長、生涯学習課長、公民館長の計9人だ。   ×  ×  ×  × 今回、この記事を補足する証言を得ることができた。当事者の一人、桑原建築事務所の桑原俊幸所長だ。 改正建築士法に抵触⁉  「確かに4号建築物は構造計算が不要だが、2020年3月に施行された改正建築士法で、4号建築物についても構造計算書を15年間保存することが義務化されたのです」 義務化の狙いは、建築物の構造安全性に疑義が生じた場合、構造安全性が確保されていることを建築士が対外的に立証できるようにすると同時に、建築設計の委託者を保護することがある。つまり、構造計算は不要とされているが、事実上必要ということだ。 「しかし畝森事務所は、歪みの発生を受けて白石高司市長が直接行ったヒヤリング調査の10日後に、ようやく構造計算書を提出した。最初から同書を持っていれば調査時点で提出できたはずなのに、10日も経って提出したのは手元になかった証拠。これは改正建築士法に抵触する行為ではないのか」(同) まさに、これこそ〝後出しジャンケン〟ということになるが、 「後から『構造計算書はある』と言われても構造計算の数値が合っている・合っていない以前の問題で、建築設計事務所としての信頼性が問われる行為だと思う」(同) 同時に見過ごしてならないのは、構造計算書が存在することを確認せず、図面にゴーサインを出した市の責任だ。最初に図面を示された際、市が畝森事務所に同書の存在を確認していれば、問題発生後に慌てて同書を提出するという不審な行動は起こらなかった。そういう意味では、市も安全・安心に対する意識が欠落していたと言われても仕方がない。 「畝森事務所は工事が始まった後も『軒が長いから短くしたい』と図面を手直ししていた。問題がなければ手直しなんてする必要がない。要するに、あの屋根は最初から奇抜だった、と。玩具『やじろべえ』の要領と言っても、1本の梁に7対3の割合で屋根を乗せる構造ではバランスが取れるはずがない」(同) 桑原所長は屋根に歪みが生じた2021年4月の出来事を今もはっきりと覚えていた。 「設計の段階で、畝森事務所と市には『こういう屋根のつくりで本当に大丈夫か』と何度も言いました。しかし、同事務所も市も『大丈夫』と繰り返すばかり。そこまで言うならと2021年3月末、現場で屋根を架けてみると、屋根自体の重さで沈み込み、ジャッキダウンしたらすぐに歪みが生じた。目の錯覚ではなく、水平の糸を使って確認しても歪んでいるのは明白だった」(同) ところが驚いたことに、それでも畝森事務所と市は、現場に持ち込んだパソコンでポチポチと数値を打ち込み「問題ない」と言い張ったという。自分たちの目の前で実際に沈み込みや歪みが起きているのに、パソコンの画面を注視するとは〝机上の空論〟以外の何ものでもない。 「結局、翌日には歪みはもっと酷くなり、棒などの支えがないと屋根は落下しそうな状態だった」(同) 前出の業者が指摘した「デザイン先行」は的を射ていたことになる。 「もし時間を戻せるなら」  建物本体を施工する鈴船建設の鈴木広孝社長は、本誌2021年7月号の取材時、 「施工業者はどんな建物も図面通りにつくる。屋内遊び場も同じで、当社は図面に従って施工しただけです。屋根を架ける際も、畝森事務所には『本当に大丈夫か』と何度も確認した。現場は風が強く、近年は台風や地震が増えており、積雪も心配される。ああいう奇抜なつくりの屋根だけに、さまざまな気象条件も念頭に確認は念入りに行った。それでも畝森事務所は『大丈夫』と言い、構造計算業者も『問題ない』と。にもかかわらず、屋根を架けて数日後に歪みが生じ、このまま放置するのは危険となった」 と話している。 今回、鈴木社長にもあらためて話を聞いたが、2021年と証言内容は変わらなかった。 「畝森事務所と市には『こんな屋根で本当に大丈夫か』と何度も尋ねたが、両者とも『大丈夫』としか言わなかった。問題発生後に行われた市の調査には『当社は図面通りに施工しただけ』と一貫して説明している。市からは、当社に非があったという類いのことは言われていない」 設計監理と施工に携わる両社にここまで力強く証言されると、屋根が歪んだ原因は図面を引いた畝森事務所に向くことになるが……。 本誌2021年7月号の取材時、畝森事務所は 「田村市が調査中と明言を避けている中、それを差し置いて当社が話すことは控えたい」 とコメントしたが、今回は何と答えるのか。 「田村市が話していること以上の内容を当社から申し上げることはできない。ただ、市の調査には引き続き協力していく意向です」 当事者たちの話から原因の大枠が見えてきた中、この間、調査を進めてきた市は事実関係をどこまで把握できたのか。 「各社から個別に聞き取り調査を行い、そこで分かったことを弁護士や一般財団法人ふくしま市町村支援機構に照会し、再び各社に問い合わせる作業を繰り返している。現時点では屋根が歪んだ原因は明確になっておらず、市として公表もしていません」(市こども未来課の担当者) 問題発覚後に開かれた各定例会でも、議員から原因究明に関する質問が相次いだが、市は明言を避けている。そうした中、白石市長が最も踏み込んだ発言をしたのが、2021年12月定例会(12月3日)で半谷理孝議員(6期)が行った一般質問に対する答弁だった。 「屋根の歪みの原因は設計か施工のいずれかにあると思っています。この件については、市長就任前の議員時代から情報収集しており、約1年前から屋根に懸念があるという情報をつかんでいました。もし時間を戻せるなら、施工前に設計者、施工者、発注者の市が話し合い、何らかの設計変更をすべきだったのではないか、と。もしタイムマシンがあれば戻りたいという気持ちです」 「施工者や監理者から話を聞いたところ、当初の図面から昨年(※2020年)12月に設計変更して、屋根の長さを短くしたとのことです。それは、自ずと屋根が歪むのではないか、この構造で持つのか、という投げ掛けがあり、屋根を小さくしたとのことでした。さらに施工前に懸念されていたことが、実際に施工して起きた、これも事実です。こうしたことを含めて、責任の所在がどこにあるのか考えていきたい」 明言こそしていないが、白石市長は設計側に原因があったのではないかと受け止めているようだ。 印象的なのは「もし時間を戻せるなら」「タイムマシンがあれば戻りたい」と繰り返している点だ。その真意について、前出の業者はこんな推測を披露する。 「屋内遊び場は、白石市長が就任前の本田仁一前市長時代に工事が始まり、就任後に歪みが生じた。白石市長からすると、本田氏から迷惑な置き土産を渡された格好。しかし自分が市長になった以上、本音は『オレは関係ない』と思っていても問題を放置するわけにはいかない。議員時代から調査していた白石市長は、そのころから『自分が市長ならこういうやり方でトラブルを回避していた』という思いがあったはず。だから、つい『時間を戻せるなら』と愚痴にも似た言葉が出たのでしょう。見方を変えれば、本田氏への恨み節と捉えることもできますね」 責任追及に及び腰のワケ  状況を踏まえると、歪みが生じた原因は明らかになりつつあると言っていい。にもかかわらず、市が責任追及の行動に移そうとしないのはなぜなのか。 某市議が市役所内の事情を明かしてくれた。 「責任の所在は業者だけでなく市にも一定程度ある。畝森事務所から上がってきた図面を見て、最終的にゴーサインを出したのは市だからです。逆に言うと、図面を見て『この屋根のつくりではマズい』とストップできたのも市だった。そういう意味では、市のチェック体制はザルだったことになり、業者だけを悪者にするわけにはいかないのです」 つまり、白石市長が責任追及に及び腰なのは身内(市職員)を庇うためなのか。某市議は「傍から見るとそう映るかもしれないが、そんな単純な話ではない」と漏らす。 「一つは、市町村役場に技術系の職員がいないことです。技術系の職員がいれば、図面を見た時に『この屋根のつくりはおかしい』と見抜いたかもしれないが、田村市役所にはそういう職員がいない。業者はそれを分かっているから『どうせ見抜けるはずがない』と自分に都合の良い図面を出してくるわけです。結果、図面上の問題は見過ごされ、専門知識を持たない市職員は提出された書類に不備がないか法律上のチェックのみに留まるのです。もう一つは、市職員はおかしいと思っても、上からやれと指示されたらやらざるを得ないことです。屋内遊び場をめぐり当時の本田市長が部下にどんな指示をしたかは分からないが、専門知識を持つ桑原建築事務所や鈴船建設が心配して何度確認しても、市は大丈夫と押し通したというから、担当した市職員は本田氏の強い圧力を受けていたと考えるのが自然でしょう」 こうした状況を念頭に「白石市長は市職員の責任を問うのは酷と逡巡している」(同)というのだ。 「本来責任を問うべきは当時の最終決定者である本田氏だが、本田氏は既に市長を退いており責任を問えない。じゃあ、本田氏から指示された市職員を処分すればいいかというと、それは酷だ、と。もちろん、最終的には市長自らが責任を負うことになるんでしょうが」(同) 事実、白石市長は前出・半谷議員の「これによって生じる責任の全てを業者ではなく、市長が負うと理解していいのか」という質問(2021年12月定例会)にこう答弁している。 「現時点では私が田村市のトップなので、全て私の責任で今後対応してまいります」 考えられる処分は市長報酬の一定期間減額、といったところか。 一方で、白石市長が原因究明を後回しにしているのは、屋内遊び場の完成を優先させているからという指摘もある。 屋内遊び場の事業費が全額交付金でまかなわれていることは前述したが、期限(工期)内に竣工・オープンしないと国から返還を迫られる可能性がある。当初の期限は2021年7月末だったが、市は屋根に歪みが生じた後、交付金の窓口である復興庁と交渉し、期限延長が了承された。しかし、新たに設定した期限(2022年度中の竣工・来年4月オープン)が守られなければ交付金は返還しなければならず、事業費は全額市が負担することになる。 もはや再延長は認められない中、市は2021年12月定例会で屋根の撤去費用1500万円、新しい屋根の葺き替え費用4500万円、計6000万円の補正予算案を計上し議会から承認された。ところが2022年6月定例会に、再び屋内遊び場に関する補正予算案として9000万円が計上された。ウッドショック(木材の不足と価格高騰)への対応や人件費など経費の高騰、さらには木造から鉄筋に変更したことで工程上の問題が生じ、更なる予算が必要になったというのだ。 この補正予算案が認められなければ屋内遊び場は完成しないため、結局、議会から承認されたものの、計1億5000万円は市の一般財源からの持ち出し。すなわち全額交付金でまかない、市の持ち出しはゼロだったはずの計画は、一転、市が1億5000万円も負担する羽目になったのだ。 さらに問題なのは、引き続き工事を行うのが鈴船建設、畝森事務所・アンス共同体と顔ぶれが変わらないことだ(桑原建築事務所は8月時点では未定)。市民からは 「歪みを生じさせた当事者に、そのまま工事を任せるのはおかしい」 と〝歪んだ工事再開〟に疑問の声が上がっている。 「市民の間では、信頼関係が失われている面々に引き続き工事をやらせることへの反発が大きい。『そういう業者たちに任せて、ちゃんとしたものができるのか』と心配の声が出るのは当然です」(前出の業者) 1.5億円の「請求先」  そうした懸念を払拭するため、市では構造設計を専門とするエーユーエム構造設計(郡山市)とコンストラクション・マネジメント契約を締結。同社が市の代理人となって施工者、設計者、設計監理者との仲介に努めていくという。業者間の信頼関係が疑われる中、同社が〝緩衝材の役目〟を果たすというわけ。 「すでに工事が3~4割進んでいる中、業者を変更して工事を再開させるのは難しいし、そもそも他社が手を付けた〝瑕疵物件〟を途中から引き受ける業者が現れることは考えにくい。そこで、同じ業者にトラブルなく仕事を全うさせるため、市はコンストラクション・マネジメントという苦肉の策を導入したのです」(前出の市議) 市としては補助金返還を絶対に避けるため、なりふり構わず施設の早期完成を目指した格好。 ちなみに、エーユーエム構造設計には「それなりの委託料」が支払われているが、これも市の一般財源からの持ち出しだ。 最後に。同じ業者に引き続き工事を任せる理由は分かったが、竣工・オープン後に待ち受けるのは、市が負担した1億5000万円(プラスエーユーエム構造設計への委託料)をどこに請求するかという問題だ。なぜなら、これらの経費は屋根に歪みが生じなければ発生しなかった。本来なら市が負担する必要のない余計な経費であり、その「原因者」に請求するのは当然だ。言うまでもなく「原因者」とは屋根の歪みを生じさせた業者を指す。 今は中途半端になっている原因究明の動きだが、最終局面は2022年度中の完成・2023年4月にオープン後、1億5000万円を請求する際に迎えることになる。 (6/9追記)2023年5月、田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」がオープン 田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」(田村市HPより) おひさまドームオフィシャルサイト あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民

     田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐり、周辺住民が市を相手取り訴訟を起こしていた問題で、仙台高裁は2月14日、一審の福島地裁判決を支持し、住民側の控訴を棄却する判決を下した。 同発電所の事業者は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」で、市は同社に補助金を支出している。訴訟では、住民グループは「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当である」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、現在は白石高司市長)が事業者に、補助金17億5583万円を返還請求するよう求めていた。 住民グループの基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」といったことがある。そうした背景があり、反対運動を展開し、2019年9月に住民訴訟を起こすに至ったのである。 一審判決は昨年1月25日に言い渡され、住民側の請求は棄却された。その後、住民グループは同2月4日付で控訴し、3回の控訴審口頭弁論を経て判決が言い渡された。冒頭で述べたように、控訴審判決は、一審判決を支持し、住民側の控訴を棄却するというものだった。 その後、住民グループは会見を開き、代理人の坂本博之弁護士は次のように述べた。 「例えば、我々は『(市や事業者側が示した)HEPAフィルターの規格は放射性物質に対応したものではない』と主張したが、それに対して判決では『(放射性物質に対応した規格ではなくても)放射性物質を集塵できないとは言えない』とされており、そのほかにも『〇〇できないとは言えない』というような表現が多い。当初はきちんと審理してくれるかと思ったが、証拠・根拠がないのに、被告(市)・補助参加人(※事業者の田村バイオマスエナジーが補助参加人となっている)の説明を鵜呑みにしたいい加減な判決としか言いようがない」 住民グループ代表の久住秀司さんはこう話した。 「残念で悔しい判決だった。私は個人的に民事訴訟の経験がある。その時は、裁判所は証拠資料をしっかり確認して審理してくれた。ただ、行政を相手取った裁判となると、こんなにも違うのかと驚いた。平等な視点で進行してくれるものと思っていたが、そうではなく、司法・裁判所への信頼がなくなった」 報道陣から「上告するか」との質問が飛ぶと、坂本弁護士は「検討のうえで決めたい」と話した。 一方、市は判決から1週間後の時点で「判決文を精査中」とのこと。 住民グループの話を聞いていると、「○月×日に発電所のメンテナンスが入った」とか、「発電所の敷地内に焼却灰などが入ったフレコンバッグが置かれていたが、○日夜から翌日の朝にかけてどこかに搬出された」というように、発電所の動向を細かくチェックしている様子がうかがえた。裁判では訴えが棄却されたが、住民グループは「今後も継続して監視や放射線量の測定などを行っていきたい」との考えを示した。 あわせて読みたい 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。 執行部・議会は真相究明に努めよ  元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。 三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。 近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。 求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。 もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。 護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。 本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。 護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。 もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。 政治家に翻弄される建設業者  市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。 三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。 三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。 本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。 田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。 田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。 護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。 原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。 「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【田村市】白石高司市長インタビュー

     しらいし・たかし 1960年生まれ。田村市(旧船引町)出身。上武大学商学部卒。同市議1期を経て2021年4月の同市長選で初当選を果たした。  ――市内ではコロナの出口戦略に向け、特に観光面で明るい材料が散見されます。 「昨年行った『たむらの桜88撰総選挙』が好評を得、愛称が『田村の美桜88景』に決まり、今年はフォトスタンプラリーを行います。88カ所は1年では回りきれないので、数年かけて回ることでリピーターになっていただく狙いがあります。併せて桜ウオークも開催する予定となっています。 第2回クワガタサミットも開催します。昨年開いた第1回サミットには全国から昆虫好きの方々が集まり大好評をいただきました。全国には昆虫でまちおこしを行っている地域が多くあるので、昆虫の聖地を目指した協議会を立ち上げようと準備を進めています。昆虫は良好な自然環境の象徴という意味で復興をアピールする材料にもなり得るので、いずれは世界サミットを開催したい希望も持っています。 今年はあぶくま洞が開洞50周年を迎え、9月の秋まつりでイベントを行います。また、あぶくま洞は『恋人の聖地』認定を受けていますが、福島市の四季の里も認定され県内2カ所となったので、両施設でさまざまな連携を図り、PRに努めていきたいです」 ――常葉町地内に整備中の東部産業団地に工場進出が決定しました。 「2区画あるうち、昨年1社の進出が決定しました。残り1区画もご検討いただいている企業があるので、早期に決定できるよう引き続き営業活動に注力します」 ――移住・定住に向け田村市・東京リクルートセンターや田村サポートセンターを開設しましたが、その効果は。 「令和3年度は移住相談が86件寄せられ、5世帯12人が市内に移住されました。4年度は12月現在で相談237件、10世帯16人が移住されました。移住希望者の中には仕事を探している方もいるので、市では独自の創業・起業支援としてキッチンカー移住チャレンジ事業を行っています。キッチンカーを無償で用意し、商品開発や出店支援を行うもので、3月には市内のイベントでカレー、ハンバーガー、パンケーキのキッチンカーがデビューします。食材も地元産にこだわり、農産物の6次化につながることも期待しています。 以前、この地域は葉タバコ栽培が盛んでしたが、現在、市場は縮小しています。そこでサツマイモ栽培に力を入れ、一昨年にはサツマイモ貯蔵施設が完成・稼働しました。同施設には東北でも珍しいキュアリング設備があり、サツマイモを貯蔵するだけでなく食味向上も図れるので、昨今のサツマイモブームにのって葉タバコに代わる農産物栽培と6次化につなげていきたいです」 ――たむら市民病院の新病院建設をめぐり、市議会内に百条委員会が設置され調査が続いています(※白石市長へのインタビューは2月13日に行った)。 「公共事業の役割は、社会資本を整備することと地域経済を活性化させることだと思います。この二つの観点から、私は最優秀提案者に安藤ハザマを選びました。 プロポーザル委員会は最優秀提案者に鹿島を選びました。しかし両社の企画案を比べると、安藤ハザマの方が建設費が安く、地域貢献度も高かった。さらに多数決では、委員7人のうち4人が同社を選んでいた。にもかかわらず、その後の話し合いで鹿島が選ばれました。 もちろん、プロポーザル委員会は理由があって鹿島を選んだのでしょうが、市民から直接選ばれた立場である市長としては、市民にとって良い選択、すなわち将来に負担(借金)を残さないためには少しでも建設費が安い方がいいし、多くの地域貢献がもたらされる方がいいと判断しました。また、市民や市議会から『なぜこの業者を選んだのか』と問われた時、明確に説明できる材料がある方を選んだ方が余計な疑いを招かなくて済む、とも考えました。 今回、市議会内に百条委員会が設置され、(同委員会による)証人喚問では事実のみを丁寧に述べさせていただいたつもりです」 ――元職員が逮捕・起訴された贈収賄事件をめぐっては市発注の入札に市内の業者が関与していたことが明らかになりました。 「今回の事態を深刻に受け止め、こういったことが二度と起きないような組織体制を構築すべきと考え、副市長を先頭に綱紀粛正を図っているところです。 ただ、言葉で言うだけでは実現は難しいので、全職員を対象にコンプライアンス研修を行い、全庁が同じ方向を向いて仕事を行えるよう倫理観の向上に努めているところです。また、各所属長に依頼し、職員への聞き取りやシステム・パスワード管理に関する調査を行いました。これにより現状を把握するとともに、改善が必要と認められた部分はその都度改善を行うようにしています」 ――屋根工事などにトラブルが発生し、事業が中断していた屋内遊び場の進捗状況について。 「多くの市民の方にご心配をいただきましたが、建築主体工事は、ほぼ完了し、現在は内装や遊具設置、外構工事などを行っています。3月下旬には完成し、4月末のオープンに向けて運営業者に委託し進めていきます」  ――昨年11月、JR東日本の2021年度収支で磐越東線のいわき―小野新町間が6億9000万円の赤字という報道がありました。 「報道後すぐに小野・三春両町長と話し合いを持ちましたが、沿線自治体という点では郡山・いわき両市や県との協力も不可欠です。ただ、ある一定の区間が赤字だからといって全線が不要かというと、それは乱暴な考え方だと思います。 磐越東線は三十数年前も廃止対象となり、田村青年会議所を中心に存続運動が展開された経緯があります。市内には実に六つの駅が存在しますが、同線は市民にとっても貴重な移動手段であり、地域公共交通体系の根幹となる要素ですので、存続に向けた取り組みをしっかりと行っていきたい」 ――最後に、令和5年度の重点事業について。 「五つの政策枠を設けます。一つ目は豊かなふるさと実現枠。この中には新病院建設、健康長寿サポート事業、ムシムシランド移設などが含まれます。二つ目は地域創生枠。移住定住対策や産業振興、少子化対策などを行います。三つ目は新生活創造枠。昨年立ち上げたオンラインショップの運営やDXの推進などを図っていきます。四つ目は復旧・復興枠。都路町の複合商業施設の建設を進め、林業推進などにも努めます。五つ目は危機管理枠。自主防災組織を構築し、有事の際は機能できる体制にしていきたいです」 田村市のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】

  • 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

     本誌昨年2月号に「棄却された田村バイオマス住民訴訟 控訴審、裁判外で『訴え』続ける住民団体」という記事を掲載した。田村市大越町に建設されたバイオマス発電所に関連して、周辺の住民グループが起こした住民訴訟で昨年1月25日に地裁判決が言い渡され、住民側の請求が棄却されたことなどを伝えたもの。  その後、住民グループは昨年2月4日付で控訴し、6月17日には1回目の控訴審口頭弁論が行われた。裁判での住民側の主張は「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しており、それに基づいて市は補助金を支出している。しかし、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問があり、市の補助金支出は不当」というものだが、原告側からすると「一審ではそれらが十分に検証されなかった」との思いが強い。  ただ、二審では少し様子が違ったようだ。  「一審では、実地検証や本田仁一市長(当時)の証人喚問を求めたが、いずれも却下された。バグフィルターとHEPAフィルターがきちんと機能しているかを確認するため、詳細な設計図を出してほしいと言っても、市側は守秘義務がある等々で出さなかった。フィルター交換のチェック手順などの基礎資料も示されなかった。結局、二重のフィルターが本当に機能しているのか分からずじまいで、HEPAフィルターに至っては、本当に付いているのかも確認できなかった。にもかかわらず、判決では『安全対策は機能している』として、請求が棄却された。ただ、控訴審では、裁判長が『HEPAフィルターの内容がはっきりしない。具体的資料を出すように』と要求した」(住民グループ関係者)  そのため、住民グループは「二審では、その辺を明らかにしてくれそうで、今後に期待が持てた」と話していた。  その後、8月26日に2回目、11月18日に3回目の口頭弁論が開かれた。3回目の口頭弁論で、同期日までに提出された書類を確認した後、裁判長は「これまでに提出された資料から、この事件の判決を書くことが可能だと思う。控訴人から出されている証人尋問申請、検証申立、文書提出命令申立、調査嘱託申立は、必要がないと考えるので却下する。本日で結審する」と宣言した。  原告(住民グループ)の関係者はこう話す。  「被告はわれわれの様々な指摘に『否認する』と主張するだけで、何ら具体的な説明をせず、データや資料なども出さなかった。論点ずらしに終始し、二審でようやく資料のようなものが出てきたが、それだってツッコミどころ満載で、最終的には『HEPAフィルターは安心のために設置したもので、集塵率などのデータは存在しない』と居直った。裁判長は、これまでの経過から、事業者が設置したとされるHEPAフィルターが、その機能、性能を保証できない『偽物』『お飾り』であると分かったうえで結審を宣言したのか。それとも、一応、原告側の言い分を聞いてきちんと審理したとのポーズを取っただけなのか」  当初は、「一審と違い、HEPAフィルターの効果などをきちんと審理してくれそうでよかった」と語っていた住民グループ関係者だが、結局、証人尋問や現地実証は認められず、最大のポイントだった「HEPAフィルターの効果」についても十分な審理がなされたとは言い難いまま結審を迎えた。このため、原告側は不満を募らせているようだ。  判決の言い渡しは、2月14日に行われることが決まり、まずはそれを待ちたい。 あわせて読みたい 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄に問われた元市職員の判決が1月13日午後2時半から福島地裁で言い渡される。裁判では除染関連の公共事業発注に関し、談合を主導していた業者の証言が提出された。予定価格の漏洩が常態化していたことも明らかになり、事件は前市長、そして懇意の業者が共同で公共事業発注をゆがめた結果、倫理崩壊が市職員にも蔓延して起こったと言える。 汚職のきっかけは前市長派業者への反感  元市職員の武田護被告(47)=郡山市=は市内の土木建築業者から賄賂を受け取った罪を全面的に認めている。昨年12月7日の公判で検察側が求めた刑は懲役2年6月と追徴金29万9397円。注目は実刑か執行猶予が付くかどうかだ。立件された贈賄の経路は二つある。  一つは三和工業の役員(当時)に非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取ったルート。もう一つが秀和建設ルートだ。市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6月27日~9月27日にかけて行われた入札で、武田被告は予定価格を同社の吉田幸司社長(当時)に教えた見返りに飲食の接待を受けた。同社は3件落札、落札率は96・95~97・90%だった。  三和工業の元役員には懲役8月、執行猶予3年が確定した。秀和建設の吉田氏は在宅起訴されている。  田村市は設計金額と予定価格を同額に設定している。武田被告は少なくともこの2社に設計金額を教え、見返りを得ていた。他の業者については、見返りの受け取りは否定しているが、やはり教えてきたという。  入札の公正さをゆがめ、公務員としての信頼に背いたのは確かだが、後付けとはいえ彼なりの理由があったようだ。2社に便宜を図った動機を取り調べでこう述べている。  「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」  「真面目にやっている人」とは武田被告からすると三和工業と秀和建設。では「楽に仕事を得ようとしている人」とは誰か。それは、本田仁一前市長時代に受注調整=談合を主導していた「市長派業者」を指している。検察側は田村市で行われていた公共事業発注について、次の事実を前提としたうえで武田被告に尋問していた。  ・船引町建設業組合では事前に落札の優先順位を決めるのが慣例だった。  ・除染除去物質端末輸送業務では一時保管所を整地した業者が優先的に落札する決まりがあった。  ・田村市復興事業協同組合(既に解散)が受注調整=談合をしていた。  これらの事実は船引町建設業組合を取りまとめる業者の社長と市復興事業協同組合長を務める業者の社長が取り調べで認めている。  「落札の優先順位を定める円滑調整役だった。業者は優先順位に従って落札する権利を与えられ、業者同士が話し合う。どこの輸送業務をどの業者が落札するか決定し、船引町の組合には結果が報告されてくる。それを同町を除く市内の各組合長に伝えていた」(船引町建設業組合長)  市復興事業協同組合長も「一時保管所を整地したら除染土壌の運搬も担うよう他地区と調整していた」と認めている。この組合長については本誌2018年8月号「田村市の公共事業を仕切る〝市長派業者〟の評判」という記事で市内の老舗業者が言及している。  「本田仁一市長の地元・旧常葉町に本社がある㈱西向建設工業の石井國仲社長は本田市長の後援会長を務めている。一方、市内の建設業界を取り仕切るのは田村市復興事業組合で組合長を務める富士工業㈱の猪狩恭典社長。この2人が『これは本田市長の意向だ』として公共工事を仕切っているんです」(同記事より)  除染土壌の輸送業務をめぐっては業者が落札の便宜を図ってもらうために、本田前市長派業者の主導で市に多額の匿名寄付をし、除染費用を還流させていた問題があった。元市職員が刑事事件に問われたことで、公共事業発注の腐敗体質が明らかになったわけだ。  武田被告は本田前市長派業者による不正が行われていた中で、自分も懇意の業者に便宜を図ろうと不正に手を染めたことになる。取り調べに「楽に仕事を得ようとする業者」に反感があったと語ったが、自分もまた同様の業者を生み出してしまった。田村市では予定価格を業者に教えるのが常態化していたというから、規範が崩れ、不正を犯すハードルが低くなっていたことが分かる。 不必要な事業を発注か  武田被告は公共事業発注の腐敗体質について、市の事業に決定権を持つ者、つまり本田前市長や職員上層部の関与もほのめかしている。  「我々公務員は言われた仕事をやる立場。決定する立場の人間が必要な事業なのか判断しているのか疑問だった。そのような事業を取る会社はそういう(=楽をして仕事を取ろうとする)会社も見受けられた」  上層部が不必要な事業をつくり、一部の業者が群がっていたという構図が見て取れる。  武田被告が市職員を辞めたのは2022年3月末。本誌は前号で、宮城県川崎町の職員が単価表データを地元の建設会社役員と積算ソフト会社社員に漏らして報酬を受け取った事件を紹介した。本誌は同種の事件を起こしていた武田被告が立件を恐れて退職したとみていたが、本人の証言によると、単に「堅苦しい役所がつまらなかった」らしい。  2022年1~2月には就職活動を行い、土木資料の販売を行う民間会社から内定を得た。市役所退職後の4月から働き始め、市の建設業務に携わった経験を生かして営業やパソコンで図面を作る仕事をしていた。市役所の閉塞感から解放され「楽しくて、初めて仕事にやりがいを感じた」という。  武田被告は1995年3月に短大を卒業後、郡山市の広告代理店に就職。解雇され職探しをしていたところ、父親の勧めで96年に旧大越町役場に入庁した。建設部水道課に所属していた2013、14年ごろに秀和建設の役員(吉田前社長の実弟)と知り合い、年に3、4回飲みに行く仲になった。  役所内に情報源を持ちたかった吉田氏の意向で、実弟は武田被告への接待をセッティング。吉田氏と武田被告はLINEで設計金額を教える間柄になった。この時期の贈収賄は時効を迎えたため立件されていない。当時は冨塚宥暻市長の時代だから、市長が誰かにかかわらず設計金額漏洩は悪習化していたようだ。  後始末に追われる白石高司市長だが、自身も公募型プロポーザルの審査委員が選定した新病院施工者を独断で覆した責任を問われ、市議会が百条委員会を設置し調査を進めている。前市政から続く問題で市民からの信頼を失っている田村市だが、武田被告が「市役所はつまらない」と評したように、内部(市職員)からも見限られてはいないか。外部からメスが入ったことを契機に膿を出し切り、生まれ変わるきっかけにするべきだ。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

     田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。 賄賂を渡した田村市内業者の思惑  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 あわせて読みたい 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。 田村市贈収賄「三和工業ルート」の構図  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の2022年11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。  単価表をめぐるコンピュータシステム研究所の動き 田村市宮城県川崎町1996年武田護氏が大越町(当時)に入庁2014年武田和樹氏が三和工業に入社、護氏と再会し飲みに行く関係に2020年2月ごろ~21年5月ごろ研究所社員のSが和樹氏を仲介役に護氏から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2010年ごろ~2021年4月ごろ研究所の社員と地元建設業役員が共謀して町職員から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2021年5月宮城県警が本格捜査2021年6月コンピュータシステム研究所が「コンプライアンス」を理由に非公開の単価表入手をやめる2021年6月30日贈収賄に関わった3人が逮捕2021年7月21日受託収賄や贈賄で3人を起訴2021年12月27日3人に執行猶予付き有罪判決2022年3月末護氏が田村市を退職2022年9月24日贈収賄で福島県警が護氏と和樹氏を逮捕河北新報や福島民報の記事を基に作成  代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。 宮城県で同様の事件  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。 狙われた自治体は他にも!?  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの2022年11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が〝鶴の一声〟で変更された。市幹部などでつくる選定委員会は、公募型プロポーザルに参加した3社の中から鹿島建設を最優秀提案者に選んだが、白石高司市長の指示で次点者の安藤ハザマに覆ったのである。 〝本田派議員〟が疑惑追及の百条委設置 「新病院の施工予定者が白石市長の指示で変更されたらしい」 そんなウワサを田村市内の自民党関係者から聞いたのは、2022年7月に行われた参院選の前だった。  新病院とは、田村地方の医療を支えるたむら市民病院(病床数32)の後継施設を指す。公には6月30日に市のホームページで「新病院の施工予定者選定に係る公募型プロポーザルの最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者は鹿島建設」と発表され、7月4日付の福島建設工業新聞にも「新病院の施工予定者に安藤ハザマ」という記事が掲載された。 造成工事を終えた新病院予定地  ところが実際の審査では、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選ばれていたというのだ。  「2022年6月、市幹部などでつくる選定委員会が白石市長に『審査の結果、鹿島に決まった』と報告した。しかし白石市長が納得せず、次点の安藤ハザマに変更するよう指示したというのです。選定委員会は『何のために審査したか分からない』と不満に思ったが、上から言われれば従うしかない」(市内の自民党関係者)  一度聞いただけではまさかとしか思えない話。だが、それはウワサでもまさかでもなく、事実だった。  市長の指示で施工予定者が突然覆される――そんなかつての〝天の声〟を彷彿とさせる出来事はなぜ起きたのか。  たむら市民病院は、同市船引町の国道288号沿いで診療を行っている。もともとは医療法人社団真仁会が大方病院という名称で運営していたが、院長が急死したため2019年7月に市が事業継承、公的医療機関として生まれ変わった。診療科目は内科、人工透析内科、外科など10科。運営は指定管理者制度で公益財団法人星総合病院(郡山市)に委託している。  市立病院の設置は、2005年に旧5町村が合併した田村市にとって悲願だった。しかし、事業継承した時点で建物の老朽化、必要な病床数の確保、救急受け入れなどの課題を抱えていた。そこで市は2020年3月に新病院建設基本計画を策定、現在地から北東1・3㌔の場所(船引町船引字屋頭清水地内)に新病院を建設する方針を打ち出した。  2020~21年度にかけて予定地の造成を行い、その後は22年度着工、24年度開院というスケジュールが組まれたが、21年4月の市長選で状況が変化した。当時現職の本田仁一氏を破り初当選した白石高司市長が、公約に本田市政のもとで始まった公共工事の見直し(事業検証)を掲げたことから、新病院建設も一時中断を余儀なくされたのである。  その後、関係部局の職員たちが4カ月にわたり事業検証を行い、最終的に「新病院は市民にとって必要」と判断されたため、計画は予定より1年遅れて再始動した。2022年3月には建設基本設計概要書が公表され、新病院の具体像が示された。  問題の公募型プロポーザルはこの後に行われるが、ここからは、本誌が情報開示請求で市から入手した公文書に基づいて書いていく。  新病院の概要は病床50床、鉄筋コンクリート造地上4階建て、建築面積2790平方㍍、延べ面積6420平方㍍。このほか厨房施設と付属棟、250台分の駐車場を整備し、工期は2023年7月から25年1月。想定事業費は36億円程度となっている。  市は建設コスト縮減と工期短縮を図るため、施工者が設計段階から技術協力を行うECI方式の採用を決定。4月19日にプロポーザルの公告を行い、清水建設、鹿島、安藤ハザマから参加申し込みがあった。同28日には一次審査が行われ、3社とも通過した。  続く二次審査は6月25日に行われ、各社のプレゼンテーションと選定委員会によるヒアリング、さらには各委員による採点で最優秀提案者と次点者が選定された。 最高評価を受けていた鹿島  まずは評価が一目で分かる採点から見ていく。別表は選定委員7人による評価シートの合計だ。  選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、そのうちの3人は南相馬市立総合病院の及川友好院長、たむら市民病院の指定管理者である星総合病院の担当者、日大工学部教授だったことが判明している。残り1人は不明。  その7人による採点の合計を見ると(各自の採点結果は開示された公文書が黒塗りで不明)、A社は505点、B社は480点、C社は405点となっている(満点は700点)。アルファベット表記になっているが、公文書を読み進めるとA社は鹿島、B社は安藤ハザマ、C社は清水建設であることが分かり「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」と書かれている。  では、各委員の評価ポイントはどうだったのか。公文書には当時の発言順に次のように記されていた。  「A社は丁寧な技術提案や書類のつくり込みで好感が持てた。ヒアリングでのやり取りからもネガティブな要素は感じられず、安心して任せられると感じた。C社にはA社と全く逆の印象を持った。書類のつくり込みが粗いばかりか、ヒアリングでも発注者・審査員に対し礼を失する発言が多く、誠実さが感じられなかった。B社は様々な提案を盛り込んでいるが、果たしてそれがうまく収まるのか不安を感じた。工期に余裕がない点もネガティブ要素だった」(黒塗りで発言者不明)  「地域貢献に関して、書類上の金額と現実性が乖離している提案が目立った。特にB社の発注予定額は経験的に実現不可能と受け止めている。技術力に関しては提案者ごとにかなり差があると感じた。順位付けをするならA社<B社<C社の順だが、メンテナンス体制も含めるとA社の有意性がより際立つと感じた」(同)  「技術面では3社とも特に問題ないだろうと感じた。その中でも、A社は一番丁寧に提案書がつくられていた。地域貢献に関しては、その是非や実現性を判断するための情報が不足している」(佐藤委員)  「技術的な優劣は判断できない。市の姿勢として地域貢献を前面に出していただく必要がある」(渡辺委員)  「ここまでの委員の発言に同意。地域貢献に関しては、B社提案はリップサービスが過ぎたように感じる」(黒塗りで発言者不明)  「技術的な優劣は判断できないが、A社の提案は書類・説明ともに好印象だった。しっかりとした病院を確実に建てることが第一で、地域貢献はその次に考えること。地域貢献の配点が大きいため、個人的な評価と点数が一致していない。B社が提示した五つの課題は市の感覚とずれているように感じた」(石井委員長)  総体的に、A社(鹿島)の評価が高く、C社(清水建設)は厳しい意見が多く聞かれた。B社(安藤ハザマ)の提案も各委員が半信半疑に捉えている様子がうかがえる。  ただ、採点結果と評価ポイントのすり合わせを行っても順位の一致に至らなかったため、規程に基づき多数決を行った結果、A社4人、B社1人、C社0人となり、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。  この結果を選定委員会事務局が白石市長に報告し、決裁後、速やかに各社に通知、市のホームページでも公表する手筈だったが、公文書(6月30日付の発議書)には次のような驚きの記述があった。  《6月28日及び同30日に実施した市長報告において、市長から本件プロポーザルにおいては地域貢献と見積額が重要な判断基準であるため、当該提案において最も有利な条件を提示している㈱安藤・間東北支店が次点者という審査結果は妥当性を欠くため、該社を最優秀提案者として決定するよう指示がありました》  白石市長から安藤ハザマに変更するよう指示があったと明記されていたのだ。  最終的にこの変更は6月30日に了承され、安藤ハザマには《厳正に審査した結果、御社の提案が最も評価が高く、本事業の最優秀提案者として選定されましたので通知いたします》、鹿島には《御社の提案が2番目に評価が高く、本事業の次点者として選定されました》という通知が白石市長名で送られた。市のホームページでも同日中に公表された。「厳正に審査」が白々しく聞こえるのは本誌だけだろうか。 百条委設置の経緯  前述した建設工業新聞の記事はこの直後に書かれたが、当時は最優秀提案者が覆された事実は公になっていなかった。ただ市議会では、安藤ハザマを最優秀提案者に選定したことに「別の視点」から疑問の声が上がっていた。  「6月に市役所ホールの吹き抜けの窓から雨漏りしている個所が見つかったが、市役所を施工したのが安藤ハザマと地元業者によるJVだったため、議員から『そんな業者に新病院建設を任せて大丈夫か』という懸念が出たのです」(市内の事情通)  市役所は2014年12月に竣工したが、事情通によると落札金額は安く抑えられたものの、その後、追加工事が相次ぎ、結局、事業費が膨らんだ苦い経験があるため、  「議員の間には『今回も安藤ハザマは同様の手口で事業費を増やしていくのではないか』という疑いが根強くある」(同)  これ以外にも、安藤ハザマは「過去に指名停止を受けている」「市に除染費用を水増し請求した」などの不信感が持たれている。ただ同様のトラブルは、鹿島や清水建設など他のゼネコンでも見られるので、安藤ハザマだけを殊更問題視するのはバランスを欠く。  「そうこうしているうちに『最優秀提案者は、本当は鹿島だったらしい』という話が議員にも伝わり、9月定例会で選定経過に関する質問が行われたが、白石市長は『地域貢献度も含め適正に審査した』と曖昧な答弁に終始したため、過半数の議員が反発する事態となった」(同)  ウワサは次第に尾鰭をまとい「〇〇社が白石市長に頼んで安藤ハザマに変わったらしい」「実際の工事は白石市長と同級生の××社が請け負うようだ」「白石市長は安藤ハザマからいくらもらったんだ」等々、真偽不明の話まで囁かれるようになった。白石市長が明確な答弁を避けたことが「何か隠している」という印象を与えたわけ。  9月定例会が終わりに近付くころには、一部議員の間で「真相を究明するには地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置するしかない」という話が持ち上がり、10月27日に開かれた臨時議会で議員発議による設置が正式決定された。  《市は安藤ハザマを最優秀提案者にした理由の説明を避けてきたため、一部議員が反発していた。白石市長は臨時議会開会前の議員全員協議会で鹿島が選定委員会で最も点数が高かったと認め、「積算工事費や地域貢献計画などを比較し、安藤ハザマにした」と説明したが、採決の結果、賛成9、反対8で百条委設置が決まった》(福島民報10月28日付)  田村市議会は定数18。採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛成・反対の内訳は別掲の通りだが、賛成した9人のうち、半谷理孝議員を除く8人は2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を支援していた。  ちなみに百条委の委員も、賛成した9人から大和田議員を除いた8人全員が就き、反対した8人からは誰も就かなかった。そのため「市長選の私怨が絡んだ面々で正しい調査ができるのか」と言われているが、委員に就いた議員からは「反対した議員には『調査の公平・公正を担保するため、そちら(反対)の議員も百条委に加わるべきだ』と申し入れたが断わられた」という不満が漏れている。  反対した8人は白石市長と距離が近いが、話を聞くと「百条委設置に反対したのに委員に就くのは筋が通らないと思った」と言う。しかし筆者は、本気で真相を究明するなら設置の賛否にこだわらず、議会全体で疑惑の有無を探るべきと考える。そうでなければ、せっかくつくった百条委が「反白石派の腹いせに利用されている」とねじ曲がった見方をされかねないからだ。  市保健福祉部の担当者はこう話す。  「百条委が設置されたことは承知しているが、具体的な動きがない限り市側はアクションを起こせないので、今後どうなるかは全く想像がつかない」  最後に、白石市長が安藤ハザマに変更した際に重視したとされる工事費や地域貢献度については市から入手した公文書にこんな記述がある。  例えば安藤ハザマは▽直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注、▽事務用品その他も4000万円以上を市内企業から購入、▽市内における関係者個人消費は3000万円以上。さらに概算工事費は45億8700万円と提示している。  一方、鹿島については市内業者への発注額、市内企業からの建設資機材購入額、概算工事費とも黒塗りされ詳細は不明だが、白石市長に次点者に追いやられたということは、いずれの金額も安藤ハザマより劣っていたことが推察される。 開院遅れで市民に不利益  だが、プロポーザルへの参加者を公募した際の公文書(4月19日付)にはこのように書かれている。  《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》  選定委員会が最も高く評価した提案者を、市長の〝鶴の一声〟で変更していいとは書かれていない。白石市長は「工事費や地元貢献度の観点から安藤ハザマの方が優れており、やましい理由で変更したわけではない」と言いたいのだろうが、ルールに無い変更を独断で行った結果、疑惑を招き、市政を混乱させたことは事実であり、真摯に反省しなければならない。  何より新病院建設は前述した事業見直しで一時中断しており、今回の百条委でさらに遅れる可能性が出ている。高齢者や持病のある人にとって新病院は待望の施設なのに、開院がどんどん後ろ倒しになるのは不利益以外の何ものでもない。白石市長はたとえやましいことが無かったとしても、安藤ハザマに変更した理由を明確に示さない限り、市議会(百条委)は納得しないし、市民からも理解を得られないだろう。  白石市長は百条委設置を受け「プロポーザルに参加した業者の技術に差はなく、市民の利益を十分検討し最終決定した。調査には真摯に対応したい」とコメントしたが、今後の百条委で何を語るのか、それを聞いて百条委がどのように判断するのか注目される。 田村市ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠