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  • 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

    会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

     会津若松市職員(当時)による公金詐取事件は、だまし取った約1億7700万円の使い道が裁判で明らかになってきた。生活費をはじめ、競馬や宝くじ、高級車のローン返済や貯蓄、さらには実父や叔父への貸し付け、挙げ句には交際相手への資金援助。詐取金は、家族の協力を得ても半分しか返還できていない。本人が有罪となり刑期を終えても、一族を道連れに「返還地獄」が待っている。 一族を道連れにした「1.8億円の返還地獄」  会津若松市の元職員、小原龍也氏(51)=同市河東町=は在職中、児童扶養手当や障害者への医療給付を担当する立場を悪用し、データを改ざんして約1億7700万円もの公金をだまし取っていた。パソコンに長け、発覚しにくい方法を取っていただけでなく、決裁後の起案のグループ回覧を廃止したり、チェック役に新人職員や異動1年目の職員を充てて職員同士の監視機能が働かない体制をつくっていた。 不正発覚後、市は調査を進め、昨年11月7日に会津若松署に小原氏を刑事告訴した上で懲戒免職にした。同署は任意捜査を続け、同12月1日に詐欺容疑で逮捕した。  その後も、市は個別の犯行について被害届を提出。同署は一連の詐欺容疑で計5回逮捕し、地検会津若松支部がうち4件を詐欺罪で起訴している(原稿執筆時の3月中旬時点)。検察は全ての逮捕容疑を罪に問う見込みだ。小原氏は、これまでに法廷で読み上げられた起訴事実2件を「間違いございません」と認めている。一つの公判が開かれるたびに新たな起訴事実が読み上げられ、本格的な審理にまで至っていない。 地元の事情通が警察筋から聞いた話によると、捜査は2月中に終結する見込みだった。5回目の逮捕が3月9日だから、当初の想定よりずれ込んでいる。 逮捕5回は身に応えるのだろう。出廷した小原氏の髪は白髪交じりで首の後ろまで伸び、キノコのかさのように頭を覆っていた。もともと痩せていて背が高いのだろうが、体格のいい警察官に挟まれて連行されるとそれが際立った。顔はやつれ、いつも同じ黒のトレーナー上下とスリッパを身に着けていた。 刑事事件に問われているのは犯行の一部に過ぎない。2007~09年には、重度心身障害者医療費助成金約6500万円を詐取していたことが市の調査で分かっている(表参照)。だが、詐欺罪の公訴時効7年を過ぎているため立件されなかった。市は「民事上の対応で計約1億7700万円の返還を求めていく」としている。 元市職員による総額1億7700万円の公金詐取と返還の動き 1996年4月大学卒業後、旧河東町役場入庁。住民福祉課に配属1999年4月保健福祉課に配属2001年4月税務課に配属2005年4月建設課に配属11月合併で会津若松市職員に。健康福祉部社会福祉課に配属2007年4月~2009年12月6571万円を詐取(重度心身障害者医療費助成金)2011年4月財務部税務課に配属2014年11月健康福祉部こども保育課に配属2016年5月地元の金融機関から借金するなどして叔父に700万円を貸す7月実父に700万円を貸す2018年4月健康福祉部こども家庭課に配属。こども給付グループのリーダーに昇任2019年4月~2022年3月1億1068万円を詐取(児童扶養手当)2021年60万円を詐取(21年度子育て世帯への臨時特別給付金)2022年4月健康福祉部障がい者支援課に配属6月市が支給金額に異変を発見。内部調査を開始8月市が小原氏から詐取金の回収を開始9月市が返還への協力を求めて小原氏の家族と協議開始11月7日市が小原氏を刑事告訴し懲戒免職11月8日時点9112万円を返還(残額は全額の49%)11月30日8~10月の給料分56万円を返還12月1日1回目の逮捕12月28日家族を通じて11月の給料分2万円を返還2023年2月6日実父から市に40万円の支払い2月14日時点8489万円が未返還(残額は全額の48%)出典:会津若松市「児童扶養手当等の支給に係る詐欺事件への対応について」(2022年11月、23年2月発行)より。1000円以下は切り捨て。  市は早速、小原氏を懲戒免職にした後の昨年11月8日時点で半分に当たる9112万円を回収した。小原氏に預金を振り込ませたほか、生命保険を解約させたり、所有する車を売却させたりした。 小原氏が逮捕・起訴された後も回収は続いている。まず、小原氏が昨年8月から同11月に懲戒免職になるまでに支払われた給料約3カ月分、計約58万円を本人や家族を通じて返還させた。加えて小原氏の実父が40万円を支払った。それでも市が回収できた額は計約9210万円で、だまし取られた公金の全額には到底届かない。約48%に当たる約8489万円が未回収だ。 身柄を拘束されている小原氏は今すぐに働いて収入を得ることはできない。初犯ではあるが、多額の公金をだまし取った重大性と過去の判例を考慮すると実刑が濃厚だ。 ちなみに初公判が開かれた1月30日、同じ地裁会津若松支部では、粉飾決算で計3億5000万円をだまし取ったとして詐欺罪などに問われていた会社役員吉田淳一氏に懲役4年6月が言い渡されている(㈱吉田ストアの元社長・吉田氏については、本誌昨年9月号「逮捕されたOA機器会社社長の転落劇」で詳報しているので参照されたい)。 小原氏は3月中旬時点で五つの詐欺罪に問われており、本誌は罪がより重くなると考えている。同罪の法定刑は10年以下の懲役。二つ以上の罪は併合罪としてまとめられ、より重い罪の刑に1・5を掛けた刑期が与えられる。単純に計算すると10年×1・5=15年。最長で刑期は15年になる。実刑となればその期間の就労は不可能。刑務作業の報償金は微々たるもので当てにならない。 小原氏に実刑が科されれば、市は公金を全額回収できない事態に陥る。そのため市は、小原氏の家族にも返還への協力を求めてきた。小原氏は妻子とともに市内河東町の実家で両親と同居していたが、犯行発覚後に離婚したため、立て替えているのは両親だ。 実父は市に「年2回に分けて支払う」と申し出たが、前述の通りこれまでに支払ったのは1回につき40万円。残額は約8489万円だから、1年間に80万円ずつ返還すると仮定しても106年はかかる。今のペースのままでは、小原氏や家族が存命中に全額返還はかなわない。 返還が遅れると小原氏も不利益を被る。刑を軽くするには、贖罪の意思を行動で示すために少しでも多く返還する必要があるからだ。十分な返還ができず、刑期が減らなければ、その分だけ社会復帰が遅れ、返還に支障が出るという悪循環に陥る。 「裁判が終わるまでに全額返還」が市と小原氏、双方の共通目標と言える。だが、無い袖は振れない。ここで市が言う「民事上の対応も考えている」点が重要になる。小原氏側からの返還が滞り、返還に向けて努力する姿勢を見せなければ損害賠償請求も躊躇しないということを意味する。ただ、小原氏には財産がない以上、民事訴訟をしたところで回収は果たせるのか。親族に責任を求めて提訴する方法も考えられるが。 市に問い合わせると、 「詐取の責任は一義的に元市職員(小原氏)にあり、親族にまで民事訴訟をすることは考えていない」(市人事課) 確かに、返還義務があるのはあくまで犯行に及んだ小原氏だけだ。いくら親子関係にあっても互いに別人格を持った個人であり、犯罪の責任を親にかぶせることを求めてはいけない。現状、小原氏の実父が少額ずつであれ返還に協力している以上、強硬手段は取れない。小原氏や家族の資力を勘案して、できるだけ早く返還するよう強く求めることが、市が取れる手段だ。こうして見ると、一族が一生かかっても返還できない額をよく使い切ったものだと、小原氏の金銭感覚に呆れる。 実父、叔父、交際相手を援助 小原氏の裁判が開かれている福島地裁会津若松支部(1月撮影)  それでも、小原氏本人が返還できなければ、家族や親族を民事で訴えてでも回収すべきという意見も市民には根強い。なぜなら「公金詐取の引き金は親族への貸し付けが一要因である」との趣旨を小原氏が供述でほのめかしているからだ。 検察官が法廷で述べた供述調書の内容を記す。 小原氏は2016年5月ごろに叔父に700万円を貸している。小原氏と実父の供述調書では、小原氏は実父に頼まれて同年7月に700万円を貸している。 いずれの貸し付けも公金をそのまま貸したわけではなく、まずは地元の金融機関から借りるなどして捻出した金を叔父と実父に渡した。だが叔父からは十分な額を返してもらえず、小原氏はもともと抱えていた借金も重なって金融機関への返済に窮するようになった。その結果、公金詐取に再び手を染めたという。 事実が供述調書通りなのか、法廷での小原氏自身の発言を聞いたうえで判断する余地がある。だが逮捕前の市の調査でも、小原氏は「親族の借金を肩代わりするために公金を詐取した」と弁明しているので、供述との整合性が取れている。 地元ジャーナリストが小原氏の家族関係を話す。 「実父は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐという。三男(同)は公務員だそうだ。叔父は過去に勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあると聞いている。『親族の借金の肩代わり』とは叔父のことを指しているのかもしれない」 供述と証言を積み上げていくと、実父と叔父には自前では金を用意できない事情があった。2人は市役所職員という信頼のある職に就いていた小原氏に無心し、小原氏は金融機関から借金。もともと金に困っていたところに、借金でさらに首が回らなくなり、再び犯行に及んだことがうかがえる。 実父と叔父の無心は、既に公金詐取の「前科」があった小原氏を再犯に駆り立てた形だ。2人からすると「借りた相手が悪かった」と悔やんでいるかもしれないが、小原氏が市役所職員に見合わない金の使い方をしているのを傍で見ていて、いぶかしく思わなかったのだろうか。 だが、人は目の前に羽振りの良い人物がいたら「そのお金はどこから来たのか」とは面と向かって聞きづらいだろう。自分に尽くしてくれるなら疑念は頭の隅に置く。 小原氏には妻以外に交際相手がいた。相手が結婚を望むほどの仲で、小原氏はその子どもに食事をごちそうしたりおもちゃを買ったりしていたという。交際相手と子どもの3人で住むためのマンションも購入していた。しかし事件発覚後、交際相手は小原氏に現金100万円を渡している(検察が読み上げた交際相手の供述調書より)。自分たちが使っていた金の原資が公金なのではないかと思い、恐ろしくなって返したのではないか。 加算金でかさむ返還額 小原氏と実父が共有名義で持つ市内河東町の自宅。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  不動産を金に換える選択肢も残っている。ただ登記簿によると、市内河東町にある小原氏と実父の自宅は2000年10月に新築され、持ち分が実父3分の2、小原氏3分の1の共有名義。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。返済できなければ自宅は同信金によって処分されてしまうので、返還の財源に充てられるかは不透明だ。 小原氏のみならず、家族も窮状に陥っている。だがいかんせん、同情されるには犯行規模が大きすぎた。小原氏は国や県が負担する金にも手を出していたからだ。主に詐取した児童扶養手当の財源は3分の1が国負担(国からの詐取額約3689万円)、重度心身障害者医療費助成金は2分の1が県負担(県からの詐取額約3285万円)、子育て世帯への臨時特別給付金に至っては全額が国負担(国からの詐取額約60万円)だ。 早急に全額返金できなければ市は政府と県に顔向けできない。何より、いずれの財源も国民が納めた税金である。ここで生温い対応をしては、国民や市民からの視線が厳しくなる。市は引き続き妥協せずに回収していくとみられる。 利子に当たる金額をどうするかという問題も出てくる。公金詐取という重罪を、正当な取り引きである借金に当てはめることはできないが、他人の金を一時的に自分のものにしたという点では同じだ。借金なら、返す時に当然利子を支払わなければならない。だまし取ったにもかかわらず、利子に当たる金額を支払わずに済むのは、民間の感覚では到底許せない。 市に、利子に当たる金額の支払いを小原氏に求めるのか尋ねると「弁護士に相談して対応を決めている」(市人事課)。ただ、市に対し国負担分の返還を求めている政府は、部署によっては加算金を求めることがあるという。市が小原氏の代わりに加算金を負担する理由はないので、市はその分を含めた返還を小原氏に求めていくことになる。要するに、小原氏は加算金=利子も背負わなければならず、返還額はさらに増えるということだ。 小原氏は自身が罪に問われるだけでなく、一族を「公金の返還地獄」へと道連れにした。囚われの身の自分に代わり、家族が苦しむ姿に何を思うのだろうか。

  • 丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】

    芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

     会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵は2月28日、福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請した。債権者説明会では営業体制を見直し、自主再建を目指す方針が示されたが、取引先や同業者は「スポンサーからの支援を受けずに再建できるのか」と先行きを懸念する。 スポンサー不在を懸念する債権者  民間信用調査機関によると負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 《1994(平成6)年3月期にはバブル景気が追い風となり、売上高25億円とピークを迎えた。1995年3月期以降は景気後退で利用者数が減少。債務超過額も拡大していた》《2020(令和2)年に入ると新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。2022年3月期は売上高が5億円台まで後退し、2億円超の最終赤字を計上した。その後も業況は好転せず、資金繰りが限界に達した。丸峰庵はホテルに連鎖する形で民事再生法の適用を申請した》(福島民報3月1日付より) 申請代理人はDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士ほか2名が務めている。 債権者の顔ぶれや各自の債権額は判明していないが、主な仕入れ先は地元の水産卸売会社、食肉会社、冷凍食品会社、土産物卸商社など。そのほかリネン、アメニティー、旅行代理店、広告代理店、リース、コンパニオン派遣、組合など取引先は多岐に渡るとみられる。 最大の債権者である金融機関については、同ホテルの不動産登記簿に基づき権利関係を別掲しておく。 根抵当権極度額1250万円1972年設定会津商工信組根抵当権極度額2400万円1974年設定会津商工信組根抵当権極度額3600万円1976年設定会津商工信組根抵当権極度額4000万円1976年設定福島銀行根抵当権極度額3億円1979年設定商工中金根抵当権極度額2億4000万円1981年設定常陽銀行根抵当権極度額4億5000万円2011年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定商工中金根抵当権極度額3億円2018年設定商工中金  ㈱丸峰観光ホテル(1965年設立、資本金3000万円)は客室数65室の「丸峰本館」、同49室の「丸峰別館川音」、同6室の「離れ山翠」を運営する芦ノ牧温泉では最大規模の温泉観光ホテル。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子、田中博志、監査役=川井茂夫の各氏。 同ホテルでは「丸峰黒糖まんじゅう」などの菓子製造・販売も営み、ピーク時には郡山市の駅構内や駅前などで飲食店も経営していたが、業績が振るわず、2014年に関連会社の㈱丸峰庵(2006年設立、資本金300万円)に旅館経営以外の事業を移した。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子の各氏。 同ホテルの関係者によると「まんじゅうはともかく、飲食店は本業との相乗効果を生まないばかりか、ホテルで稼いだ利益を注ぎ込んだこともあったはずで、経営が傾く要因になったのは間違いない」。実際、丸峰庵は都内2カ所にも支店を構えるなど、身の丈に合わない経営が常態化していた様子がうかがえる。 同ホテルはホームページで、今後も事業を継続すること、引き続き予約を受け付けること、監督委員の指導のもと一日も早い再建を目指すことを告知している。 「再建に向け、メーンバンクの会津商工信組も尽力したが『思うようにいかない』と嘆いていた。もっとも同信組に、大規模な温泉観光ホテルを立て直すコンサル能力があるとは思えませんが」(同) 同ホテルは2019年に亡くなった先代で女将の星弘子氏が辣腕を振るっていた時代は上り調子だった。 「女将は茨城方面の営業に長け、そこを切り口に関東から多くの大型観光バスを呼び込んでいた。平日や冬季の稼働率を上げるため料金を下げ、それでいて利益を確保する商品を開発したり、歌手を呼ぶなどの企画を練ったり、常に経営のことを考えている人だった」(同) 1980~90年代にかけてはテレビCMを流したり、2時間ドラマの舞台になったり、高級車やクルーザーを所有するなど、成功者の威光を放っていた。 しかし、次第に団体客が減り、観光地間の競争が激化。そのタイミングで経営のかじ取りが星弘子氏の息子・保洋氏に代わると、以降は浮上のきっかけをつかめずにいた。 民事再生の申請後、本誌が耳にした同ホテルや星社長の評判は次のようなものだった。 ▽取引先との間で支払いの遅延が起きていた。 ▽星社長は経営合理化を進めるため、外部の管理職経験者を招き入れたが、強引な進め方が社内で反発を招き、ベテランや士気の高かった社員が相次いで退職した。 ▽その一方で、星社長は高級車レクサスに乗っていたため、ひんしゅくを買っていた。 ▽地元建設会社に改修工事を依頼するも、前回工事の未払い金が残っていることを理由に断られた。 丸峰庵をめぐっても、こんな話が聞かれた。 ▽顧客ごとの特注包装紙や新商品のパッケージングなど工夫を凝らしていたが、ロット発注になってしまうため、経費増が囁かれていた。 ▽道の駅などに通常の委託販売ではなく買い取り販売を依頼するも、在庫ロスへの懸念から断られた。 ▽賞味期限の短い商品を社員が直接納品するのではなく、宅配便で送るなど、商品管理体制が疑問視されていた。 ▽飲食店の家賃を滞納していた。 ちなみに1987年には、法人税法違反で法人としての同ホテルに罰金1600万円、当時の代表取締役である星弘子氏に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が福島地裁で言い渡されている。 難しい自主再建 臨時休業中の丸峰庵  ある債権者によると、社員たちは民事再生の申請を外部から知らされたという。 「ウチは当日(2月28日)の昼にファクスで通知が届いた。その日はちょうど仕入れ業者への支払日で、各業者が付き合いのある社員に『支払いはどうなるんだ』と個別に問い合わせたことで社員たちに知れ渡った。社員たちが星社長から話をされたのはその後だったそうです」 債権者説明会は同ホテルが3月3日、丸峰庵が同8日に開いたが、出席者は淡々としていたという。 「仕入れ業者からは『未払い分は払ってもらえるのか』『この先の支払い方法はどうなるのか』などの質問が出ていた。会津商工信組から発言はなかったが、商工中金が今後の経営体制を尋ねると、星社長は『ある程度目処がついたら経営から退く』と答えていた」(同) しかし、それを聞いた出席者たちは首を傾げた。 「理由は二つある。一つは既に決まっていると思われたスポンサーがおらず『今後の状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する』と星社長が述べたことです。物心両面で支援してくれるところがなければ、経営者の交代はもちろん再建もままならない。もう一つは星社長には子どもがいないため、後継者の見当がつかないことです」(同) スポンサー不在については、ホテル再建に携わった経験を持つ会社社長も「正直驚いた」と話す。 「民事再生はあらかじめ綿密な計画を立て、これでいけるとなったら申請―公表するが、その際、重要になるのがスポンサーの存在です。申請すれば新たな融資を受けられないので、スポンサー探しは必須。もちろん、スポンサー不在でも再建はできるだろうが、星社長はこの間、あらゆる手立てを尽くし、それでもダメだったのだから、尚のこと緻密な自主再建策を用意する必要がある。そうでなければ今後、同ホテルが再生計画案を示しても債権者から同意を得られるかは微妙だと思います」 なぜスポンサー不在をここまで嘆くのかというと、自主再建するには本業の将来収益から再生債権を弁済しなければならないからだ。そうした中でこの社長が注目したのは、冒頭の新聞記事中にある「売上高5億円、赤字2億円」という金額だ。 「単純に売り上げが7億円以上ないと黒字にならない。じゃあ7億円以上を売り上げるため、料金を何万円と設定し、1部屋に何人入れて何日稼働させると計算していくと相当ハードルが高いことが見えてくるんです。しかも、丸峰は規模が大きいので固定資産税がかかり、人件費も光熱費もかさむ。年月が経てばリニューアルも必要。挙げ句、お客さんは少ないので、お金は出ていくばかりだと思います」(同) この社長によると温泉観光ホテルは近年、客の見込めない平日を連休にすることが増えているが、丸峰観光ホテルは不定休だったという。 「1年中オープンするのが当たり前の温泉観光ホテルにとって連休はあり得ないことだったが、いざ休んでみると経費が抑えられ、少ない社員を効率良く配置できるなど経営にメリハリが出てくる。丸峰も連休を導入しつつ、3棟ある建物のどれかを臨時休館して経営資源を集中させる必要があるのではないか」(同) 聞けば聞くほど、スポンサー不在では再建は難しく感じる。実際、会津地方のスキー場に中国系企業が参入していることを受け「丸峰も外資が関心を示すといいのだが」との声があるが、芦ノ牧温泉の事情に詳しい人物によると、外資が登場する可能性は低いという。 「芦ノ牧温泉は地元の人たちが土地を所有し、経営者は地主らでつくる芦ノ牧温泉開発事業所に地代を払い、旅館・ホテルを建てている。経営をやめる場合は建物を壊し、土地を原状回復して地主に返さなければならない。同温泉街に廃旅館・廃ホテルが多いのは、解体費を捻出できない経営者が夜逃げしたためです」 要するに、外資にとって芦ノ牧温泉は魅力的な投資先ではない、と。 実際、同ホテルの不動産登記簿を確認すると、土地は芦ノ牧地区をはじめ市内の人たちの名義になっており、そこに同ホテルが地上権を設定し、建物を建てていた。 激減する入り込み数 自主再建を目指す丸峰観光ホテル  民事再生の申請から2週間後、星社長に話を聞けないか同ホテルを訪ねたが、 「社長は連日、取引先を回っており不在です。私たち社員は何も分からないので、それ以上のことはお答えできません」(フロント社員) 申請代理人のDEPT弁護士法人にも問い合わせてみた。 「債権者がスポンサー不在を心配しているのであれば真摯に受け止めなければならないが、私共が今やるべきことは債権者に納得していただける再生計画案を示すことなので、債権者以外の第三者にあれこれ話すのは控えたい」(田尾賢太弁護士) 同ホテルは今後、再生計画案を作成し裁判所に提出。その後、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。民事再生の申請から再生計画の認可までは通常5カ月程度。 前出・債権者は「同ホテルから示される再生計画案に債権者たちが納得するかは分からないが、これまで芦ノ牧温泉を引っ張ってきたホテルなので復活してほしい」と話した。 芦ノ牧温泉はピーク時、30軒近い旅館・ホテルがあったが、現在は8軒。一方、会津若松市の公表資料によると、同温泉の入り込み数は2001年約39万4000人、コロナ禍前の19年約23万1000人、コロナ禍の21年約10万3000人。入り込み数が激減する中、今日まで営業を続けてきた丸峰観光ホテルは善戦した方なのかもしれない。 丸峰観光ホテルのホームページ 政経東北5月号で続報【丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚】を掲載しています! https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-5/

  • 【会津若松市】富士通城下町〝工場撤退〟のその後

    【会津若松市】富士通城下町〝工場撤退〟のその後

     会津若松市にはかつて大手電気メーカー「富士通」の工場が立地し、4000人超が働いていた。その後、工場は完全に撤退したが、そのことでどのような変化が起きたのか。市長選まで半年を切ったこの時期にあらためて検証しておきたい。 デジタル事業は基幹産業になるか 富士通セミコンダクター会津若松工場(2013年6月撮影)  会津若松市にはかつて大手電気メーカー「富士通」の工場が立地し、4000人超が働いていた。その後、工場は完全に撤退したが、そのことでどのような変化が起きたのか。市長選まで半年を切ったこの時期にあらためて検証しておきたい。  会津地方の中核都市である会津若松市。昭和20年代後半から企業誘致の動きが活発になり、1960(昭和35)年には東北開発㈱会津ハードボード工場が落成。1964(昭和39)年にはエース電子㈱が進出した。そうした流れに乗って1967(昭和42)年に操業を開始したのが富士通会津工場だ。 富士通は1935(昭和10)年創業。富士電機製造㈱(現富士電機㈱)から電話部所管業務を分離させる形で設立された富士通信機製造㈱が前身。電話の自動交換機からコンピューター開発、通信、半導体などの事業に参入。業容を拡大させた。 同市で大規模企業の進出が相次いだ背景には、猪苗代湖で明治時代から水力発電開発が進められ、28カ所もの発電所が建設されたことがある。安価な電気料金(当時は距離が近い方が安かった)に惹かれ、日曹金属化学会津工場の前身である高田商会大寺精錬所、三菱製銅広田製作所の前身である藤田組広田精鉱所などが猪苗代湖周辺に進出していた。半導体の製造には大量の水を必要とする点も、富士通にとって決め手になったと思われる。 富士通会津工場の操業開始以降、農村地域工業導入促進法(1971年)、工業再配置促進法(1972年)が施行されたこともあり、同市には電子部品・デバイス企業が相次いで立地。半導体の国内有数の生産拠点として関連企業の集積が進んだ。 1997(平成9)年には、市内一箕町にあった富士通会津若松工場が移転拡大するのに合わせて、市が神指町高久地区に会津若松高久工業団地を整備した。 工業統計調査(従業員4人以上の事業所が対象)によると、同市の2007(平成19)年製造品出荷額等(2006年実績)3239億円のうち、半導体を含む電子部品・デバイス業は1037億円を占めた(構成比32%)。市内の製造業従業者数1万1548人のうち、電子部品・デバイス業従業者数は4217人。富士通とその関連事業所が同市経済を支えていたことから「富士通城下町」と呼ばれた。 ところが、2008(平成20)年にリーマン・ショックが発生し、世界同時不況に陥ると半導体の売り上げが急落。富士通も大打撃を受け、翌年にはLSI(大規模集積回路)事業を再編。グループ全体で2000人の配置転換を行った。 さらに2013(平成25)年には大規模な希望退職を募り、市内に立地する富士通グループ2工場の従業員約1100人のうち、400人超が早期退職に応じた。 本誌2013年7月号では次のように報じている。 《1980年代に世界を席巻した日本の半導体産業だが、90年代以降はサムスン電子をはじめとした韓国や台湾のメーカーが台頭し、日本企業は苦戦を強いられるようになった。長年半導体事業を進めていた同社だったが、今年2月、システムLSI事業を同業他社のパナソニックと事業統合し、新会社を設立することを発表。さらに、富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジ会津工場などの製造拠点を他社に売却・譲渡し、併せて人員削減も進めることで半導体事業を大幅に縮小する方針を打ち出している》 《(※2009年の配置転換実施時は)県外や全く畑違いの事業所への異動に難色を示す人が多く、配置転換を拒否して退職する人が相次いだ。ハローワーク会津若松によると、最終的に800人を超える離職者が発生したという。(中略)若い層の再就職率が高かったものの、働き盛りの年配層がなかなか再就職できず、就職率は約40%にとどまったという》 その後、富士通は半導体から撤退する姿勢を示し、関連工場を本体から切り離した。同市工場は「会津富士通セミコンダクター」として分社化され、製造子会社2社が設立されたが、それら子会社は2020年代に入ってからそれぞれ別の米国企業に完全譲渡された。会津富士通セミコンダクター本体は富士通セミコンダクターと称号変更。同市内から富士通関連の工場は姿を消した。 同市で富士通関連会社の社員と言えばちょっとしたステータスで、ローンの審査が通りやすいため、若いうちから一戸建てを構えている人も少なくなかった。ところが、再編に伴い転勤を命じられたため、転職を決意する人が相次いだ。 「子どもが生まれたばかりとか、受験生を抱えているといった事情の社員は地元の企業に転職した。転勤を受け入れても半導体事業自体が縮小する中だったので、希望の部署に就けるとは限らなかったようだ。最終的には九州に転勤になった人もいる。市内の松長団地では多くの住宅が売りに出され、地価が一気に下落した。地元住民の間では『松長ショック』と言われています」(松長団地に住む男性) 製造品出荷額等が激減 会津若松市役所  同市の2020(令和2)年製造品出荷額等は2290億円(2007年比70%)に落ち込んでおり、電子部品・デバイス・電子回路製造業はわずか約352億円(同33%)だった。従業者数は1544人(同36%)。数字はいずれもコロナ禍前の2019年の実績。 同市の市町村内総生産は2007年度4840億円、2018年度4639億円。製造業の総生産は2007年度1153億円、2018年度809億円。11年間のうちに300億円以上減少している。 「完成品を組み立てるセットメーカーの工場ではないので、市内に下請け企業が集積したわけではなかったのが不幸中の幸いだった」(市内の事情通)と見る向きもあるが、影響は決して小さくない。その穴をどのように埋めていくかが今後の市の課題と言えよう。 市が推し進めているのが、さらなる企業誘致だ。市企業立地課はセールスポイントを「交通インフラが整備されており、災害などが少ない面」と述べる。市内の工業団地はすべて分譲終了しているが、市議会2月定例会の施政方針演説で、新たな工業団地を整備する方針が示された。 ただ、企業誘致においては人手不足がネックとなる。 同市の1月1日現在の現住人口は11万4335人。1995(平成7)年の13万7065人をピークに減少傾向が続いている。 ハローワーク会津若松管内の昨年12月の有効求人倍率は1・6倍。市内の経済人などによると、建設業と製造業が特に不足しているという。 本誌2022年10月号で県内各市町村に「企業誘致を進める上での課題」をアンケート調査したところ、最も多かった回答が「労働人口の減少により働き手が確保できない」というものだった。人手不足に悩んでいるのはどこも共通しており、そうした中で人を集めるのは容易ではない。工業団地整備と同時進行で、会津地域内外から人を集める仕組みを検討する必要がある。 一方で、市が熱心に推し進めているのが、デジタルを活用したまちづくりだ。2011年8月の市長選で初当選した室井照平市長(3期目)が先頭に立って「スマートシティ会津若松」を推し進めてきた。 スマートシティとは、情報通信技術(ICT)などを活用して地域産業の活性化を図りながら、快適に生活できるまちづくりのこと。 同市はこの間、パソコンやスマートフォンによる申請書作成、除雪車ナビ、母子健康手帳の電子化、学校と家庭をつなぐ情報配信アプリ、オンライン診療、スマートアグリ、外国人向け観光情報ホームページといった取り組みを進めてきた。 市内にはコンピューターに特化した会津大学がある。同大の教員のレベルは経済界から高く評価されているが、地元経済の振興と結びついているとは言い難かった。同大と連携が図れれば、さまざまな成果を生み出し、卒業生の就職先につながることも期待できる。 市企業立地課によると、同市は人口10万人規模かつ人口減少など地方ならではの課題を抱えていることが「ICTを使った実証実験・課題解決に最適な場所」と評価されており、実際に企業が同市に拠点を設けるようになっているという。 「バランスが大事」 ICTオフィスビル「AiCT(アイクト)  そうした需要を見込み、2019年4月にはICTオフィスビル「AiCT(アイクト)」が開所。首都圏と同様のオフィス環境に加え、セキュリティや災害時の事業継続性に配慮した施設となっている。現在は二十数社が入居し、400人以上が勤務している。中心的な役割を担うのはコンサルティング会社のアクセンチュア(東京都港区)だ。 同市の事情通は次のように語る。 「室井市長は元市長で会津大設立に尽力した山内日出夫氏と親密な関係で、会津大を活用するアイデアをよく聞いていたようだ。富士通撤退で窮地に立ったとき、かつてのアイデアが頭をかすめたのではないだろうか」 昨年3月には、最有力候補と目されていた国の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の指定に落選したが、その後、国のデジタル田園都市国家構想推進交付金の採択を受けた。約80社の企業で構成される「AiCTコンソーシアム」が事業の実施主体となり、市から7億3400万円の補助を受けてサービス内容を作り上げている。 市が注力する事業の行方に注目が集まるが、当の市民に感想を尋ねると、「スマートシティを実感する機会はないし、生活が良くなったという実感もない」、「デジタルを活用するのに、アイクトのような建物が必要だったのか」などと冷ややかな意見が多かった。 市内の経済人からは「室井市長はICT産業の振興にばかり興味を示し、観光振興などには無関心」とのボヤキも聞かれており、本誌でたびたび指摘している。 室井照平・会津若松市長のコメント 室井照平・会津若松市長  「富士通城下町のいま」をどう捉えているか、室井市長に質問すると次のようにコメントした。 「富士通グループの工場は市内からなくなってしまったが、そのつながりでさまざまな半導体企業が進出し、それらはいまも操業している。確かに製造業出荷額等は落ち込んだが、昨年は進出企業の増設が相次ぎ200億円の投資があり、雇用増加や税収増につながった。ICTはもちろん、製造業、観光などいろいろな柱をバランスよく伸ばしていくことが大事だと考えています」 今夏には市長選が控えており、現職と複数の新人による選挙戦になる見込みだ。ある会津地方の政治経験者は「会津若松市長選はどこまで行っても『無尽』など人間関係で決まる」と冷ややかに見るが、立候補者を評価・選択する際はこうした視点も一つの参考になるのではないか。

  • 幻に終わった会津若松市長選「新人一本化」【小熊氏の辞退要請を拒んだ水野氏】

    幻に終わった会津若松市長選「新人一本化」

    任期満了に伴う会津若松市長選は7月23日告示、同30日投開票で行われる。注目されたのは、他の立候補予定者より正式表明が遅れていた元女性県議の動向だった。 小熊氏の辞退要請を拒んだ水野氏 2月20日現在、市長選に立候補を表明しているのは現職で4選を目指す室井照平氏(67)と新人で市議の目黒章三郎氏(70)。ここに元県議の水野さち子氏(60)が加わり選挙戦は三つ巴になるとみられているが、室井氏と目黒氏が記者会見を開いて正式表明したのに対し、水野氏は立候補の意欲を示し続けるだけの状況が続いた。  そのため、選挙通の間では  「(市長選に)出る、出ると散々名前を売って結局出ず、その後に控える秋の県議選で返り咲きを狙っているのではないか」  と「本命は県議選」説が囁かれていたが、ある経済人は  「いや、本命は市長選で間違いないと思いますよ」  と言う。  「市内の有力者たちを回り、支援を要請している。『今の市政では市民が気の毒』『参院選でいただいた票を無駄にできない』『(選挙に必要な)お金は準備した』と話しているそうだから、有力者たちは『水野氏は本気だ』と受け止めている」(同)  水野氏は司会業やラジオパーソナリティーなどを経て2011年の県議選に立候補し初当選。2期途中で辞職し、2019年の参院選に野党統一候補として立候補したが、自民党の森雅子氏に敗れた。  落選したとはいえこの時、水野氏は34万5001票(当選した森氏は44万5547票)を獲得。それを受けて水野氏は「参院選の票を無駄にできない」と述べているわけだが、  「あれは野党が揃って支援し(当時参院議員の)増子輝彦氏が後押ししたから獲れた票数。それを自分が獲ったと勘違いしていたら(市長選に立候補しても)厳しい」(同)  水野氏の基礎票は2回の県議選で獲得した「7000票前後」と見るべきだが、それだって小熊慎司衆院議員の全面的なバックアップがあったことを忘れてはならない。  実は水野氏をめぐっては、その小熊氏が立候補を見送るよう水面下で打診していた。  事情通が解説する。  「室井氏は、自身の実績と強調する『スマートシティAiCT(アイクト)』がとにかく不評で、観光業と建設業の人たちからはソッポを向かれている。そもそも歴代の会津若松市長は最長3期までで、4期やった人は皆無。そのため室井氏の4選出馬を歓迎しない人は多いのです」  だから、室井氏の4選を阻止するには新人との一騎打ちに持ち込む必要があるのに、前出・目黒氏と水野氏が立候補したら現職の批判票が割れ、室井氏に有利に働いてしまう。  というわけで小熊氏は水野氏の説得を試みたが、2月18日付の福島民報によると、水野氏は立候補の意思を固め、同26日に正式表明するというから、小熊氏の辞退要請を聞き入れなかった模様。ただ、小熊氏は室井氏と個人的に親しいので、行動の目的が室井氏の4選阻止だったとは断言できない。  「市民の間には、高齢の目黒氏より女性の水野氏の方が新鮮という声が意外に多い。目黒氏が政策通で、市議会議長として議会改革を推し進めたことは間違いないが、前回も市長選に出ると言いながら結局出なかったため、ここに来て『今更出られても』という見方につながっているようです」(同)  新人の一本化は、水野氏が取りやめるのではなく、目黒氏が辞退することで実現する可能性もゼロではないようだ。

  • 辞職勧告を拒否した石田典男会津若松市議

    辞職勧告を拒否した石田典男会津若松市議

     会津若松市議会は12月1日、石田典男議員(63、6期)に対する辞職勧告決議を賛成多数で可決した。決議案は同日開会した12月定例会議の本会議で審議され、石田議員と清川雅史議長、退席した4人、欠席した1人を除く19人で採決、全員が賛成した。  石田議員は会津若松地方広域市町村圏整備組合が2021年に行った新ごみ焼却施設の入札をめぐり、市の担当職員に非開示資料の閲覧を執拗に求めたり、入札参加予定企業の営業活動に同行するなどしていた。(詳細は本誌昨年11月号を参照) 関連記事は下記のリンクから読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/aizuwakamatsu-city-council-ishida-norio-bidding-intervention/  決議の採決結果は別掲の通り。清川議長は中立を守る立場上、採決に加わらなかったが、仮に議長でなくても石田議員と同じ会派に所属することから、市民クラブの他議員と一緒に退席していたとみられる。  「10月下旬に開かれた会派代表者会議で石田議員の処分内容が話し合われたが、市民クラブは『厳重注意でいいのではないか』とかばったものの他会派は『辞職勧告すべき』と主張した。市民クラブとしては〝仲間〟への辞職勧告決議案が出されれば賛成するわけにはいかないし、かと言って反対もしづらいので、退席して採決に加わらない方法を選択した」(事情通)  決議案は当初、11月9日開会の臨時会で採決する予定だったが、元職員による約1億8000万円の公金詐取事件(詳細は本誌昨年12月号を参照)が発覚したため、扱いが先送りされた経緯がある。 関連記事は下記のリンクから読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/%e4%bc%9a%e6%b4%a5%e8%8b%a5%e6%9d%be%e5%b7%a8%e9%a1%8d%e5%85%ac%e9%87%91%e8%a9%90%e5%8f%96%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%81%ae%e8%88%9e%e5%8f%b0%e8%a3%8f/  今回の採決前には、石田議員の一連の行為が議員政治倫理条例に違反するか否かについて市政治倫理審査会(中里真委員長=福島大学行政政策学類准教授)が審査を行い、清川議長に報告書(10月4日付)を提出していた。そこには《石田議員が会津若松市職員であるa氏に対し、本件ごみ焼却施設計画に関する非開示の資料の開示を何度も求めた事実はあったと判断します》《一連の行為は特異な行動であった》《石田議員の行為は公正な職務を妨げる行為と認められます》などと書かれ、《会津若松市議会議員政治倫理条例第4条第1項第5号に違反する》と結論付けていた。  「非開示資料を石田議員に見せた市職員a氏は減給6カ月の懲戒処分を受けた後、市を退職している。それを基準に考えると、議員に減給処分は科せないし、懲罰の対象にもならないため、辞職勧告は妥当な処分だと思う」(ある議員)  とはいえ、辞職勧告決議に法的拘束力はなく、石田議員も採決後のマスコミ取材に「決議は重く受け止めるが、後援会とも相談し議員活動は続けていく」とコメントしている。  「今後の焦点は、8月の任期満了を受けて行われる市議選に石田議員が出た時、有権者がどう判断するかです。そこで当選すれば、石田議員は『有権者にとって必要な議員』ということになる。有権者の良識が問われる選挙になると思います」(同)  渦中の議員に、市民がどのような審判を下すのか注目される。

  • 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証【福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」】

    日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

    福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」  一般社団法人・日本損害保険協会は昨年10月26日、最新の「全国交通事故多発交差点マップ」を公表した。同マップには都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載されている。それを基に、県内ワーストとなった交差点での人身事故のケースなどを検証すると同時に、あらためて事故防止のためにどういったことを心がければいいか考えていきたい。  一般社団法人・日本損害保険協会の広報担当者によると、「全国交通事故多発交差点マップ」は、交差点・交差点付近での交通事故防止・軽減を目的に、各都道府県の地方紙(記者)の協力を得て作成したという。データは2021年のもので、毎年、同時期に更新されている。同マップでは、都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載され、人身事故のケースや交差点の特徴、予防策などが紹介されている。  マップとともに掲載されたリポートによると、福島県全体の過去5年の人身事故件数、死傷者数の推移は別表の通り。人身事故の発生件数、死傷者数ともに年々減少傾向にあることが分かる。  一方で、2021年の人身事故2997件のうち、1653件(55・2%)が交差点とその付近で発生している。こうして見ても、やはり交差点とその付近はより注意が必要であることが分かっていただけよう。  では、実際にどこの交差点での人身事故が多かったのか。  ワースト1は、会津若松市一箕町の「北柳原交差点」だった。国道49号と国道118号が交差するところだ。さらに、そこから600㍍ほど東側に行ったところにある「郷之原交差点」がワースト2タイになっている(地図参照)。  もっとも、ワースト1の「北柳原交差点」とその付近で起きた人身事故は5件、ワースト2タイの「郷之原交差点」とその付近は4件だったから、びっくりするほど多いというわけではない。 「北柳原交差点」 郷之原交差点  ちなみに、そのほかのワースト2タイは、いわき市常磐の「下船尾交差点」、同市小名浜の「御代坂交差点」、郡山市横塚の「横塚三丁目交差点」喜多方市一本木上の「塗物町交差点」、福島市渡利の「渡利弁天山交差点」、同市仲間町の「仲間町交差点」の計6カ所。 その中から、今回はワースト1の会津若松市一箕町の「北柳原交差点」と、そのすぐ近くにある「郷之原交差点」について検証してみる。 まず「北柳原交差点」だが、国道49号と国道118号が交差する地点で、朝夕を中心に交通量が多い。国道49号の会津坂下方面から猪苗代方面に向かうと交差点付近が下り坂になっており、右折レーンが2車線ある、といった特徴がある。 「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートにも、交差点の特徴として、「国道同士が交わる交差点であり、東西に延びる国道は東側に向け下り坂、南北に延びる国道は交差点を頂上にそれぞれ下り坂になっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」と記されている。 実際の事故事例  事故の種別は重傷事故が1件、軽傷事故が4件、事故類型は右折直進が2件、追突、右折時、出会い頭がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「信号無視により、右折車両と衝突した」、「対向車が来るのをよく確認せずに右折したことにより、対向車と衝突した」と書かれており、予防方策としては「交通法規を遵守し、信号をよく確認して運転する」、「交差点を通行する際は、対向車がいないかよく確認し、速度を控えて運転する」と指摘している。  そこから東(国道49号の猪苗代方面)に600㍍ほど行ったところにあるのがワースト2タイの「郷之原交差点」。国道49号と県道会津若松裏磐梯線(通称・千石バイパス)が交わるT字路となっている。  マップのリポートには、交差点の特徴として、「東西に国道49号、南側に主要地方道会津若松裏磐梯線がそれぞれ交わる交差点であり、国道49号がカーブとなっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」とある。  事故の種別は軽傷事故が4件、事故類型は追突が2件、右折時、左折時がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「脇見等の動静不注視により、前車に追突した」、予防方策としては「運転に集中し、前車の動きや渋滞の発生を早めに見つけられるようにする」と書かれている。 ドライバーの声  普段、両交差点(付近)をよく走行するドライバーに話を聞いた。  「正直、『北柳原交差点や郷之原交差点とその付近で事故が多い』と言われても、ピンと来ない。そんなに〝危険個所〟といった認識はありませんね。ただ、いつも混んでいる印象で、当然、交通量が多ければそれだけ事故の確率も上がるでしょうから、そういうことなのかな、と思いますけどね」(仕事で同市によく行く会津地方の住民)  「両交差点に限ったことではないが、会津若松市内では県外ナンバー(観光客)をよく見る。普段、走り慣れていない人が多いことも要因ではないか」(ある市民)  「北柳原交差点は、国道49号を会津坂下方面から猪苗代方面に走行すると、下り坂になっていて見通しはあまり良くないですね。加えて、その方向に走ると、右折レーンが2つあり、本当は直進したいのに間違って右折レーンに入ってしまい、直進レーンに無理に戻ろうとしたクルマに出くわし、ビックリしたことがありました。郷之原交差点はT字路のため、左折信号があり、ちょっと気を抜いていると、それ(左折信号が点いたこと)に気づかないことがあります。その場合、後方から追いついてきたクルマに衝突される可能性が考えられます。そういったケースが事故につながっているのではないかと思います。もう1つは、両交差点に限ったことではありませんが、(積雪・凍結等の恐れがあるため)会津地方での冬季の運転はやっぱり怖いですよね」(同市をよく訪れる営業マン)  いずれの証言も、「なるほど」と思わされる内容。両交差点を通行する際はそういった点での注意が必要になろう。 「交通白書」記載の事例  ここからは、会津若松地区交通安全協会、会津若松地区安全運転管理者協会、会津若松地区交通安全事業主会、会津若松市交通対策協議会、会津若松警察署が発行している「令和3年 交通白書」を基に、さらに深掘りしてみたい。  2021年に同市内で起きた人身事故は167件で、死者1人、傷者186人となっている。2012年は633件、死者5人、傷者764人だったから、この10年でかなり改善されていることが分かる。人身事故発生件数が200件を下回ったのは1962年以来59年ぶりという。  同市内の人身事故の特徴は、「交差点・交差点付近の事故が全体の6割を占める」、「8時〜9時、17時〜18時の発生割合が高い」、「追突・出会い頭事故が全体の約6割を占める」、「国道49号での発生割合が高い」、「高齢運転者の事故が増加している」と書かれている。  実際に事故が多い交差点の状況についても記されており、当然、前述した「北柳原交差点」と「郷之原交差点」がワースト地点に挙げられている。ただ、同白書によると、両交差点での事故件数はともに6件となっており、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」に記された件数と開きが生じている。  会津若松署によると、その理由は「物件事故を含んでいることと、どこまでを交差点(交差点付近)と捉えるか、の違いによるもの」という。  同白書によると、「北柳原交差点(同付近)」の事故ケースは、右折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、出会い頭など、「郷之原交差点(同付近)」の事故ケースは追突、左折時に歩行者・自転車と接触、私有地から交差点に進入した際の歩行者・自転車との接触などが挙げられている。  このほか、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」には入っていなかったが、「北柳原交差点」から国道49号を西(会津坂下方面)に600㍍ほど行ったところにある「荒久田交差点」も両交差点に次いで事故が多い地点として挙げられている(2021年の事故発生件数は5件)。  同交差点(付近)では、左折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、追突といった事故事例が紹介されている。  会津若松署では、「やはり、単路より交差点での事故が多く、交差点付近では一層の注意が必要。心に余裕を持った運転を心がけてほしい」と呼びかける。  さらに、同署では、これら交差点に限らず、酒気帯び等の悪質なケースの取り締まり、事故被害を軽減するシートベルト着用の強化、行政・関係団体と連携した講習会の開催、道路管理者と連携した立て看板・電光掲示板での呼びかけなど、事故防止に努めている。  一方で、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートでは、「地元警察本部の取り組み」として、以下の点が挙げられている。  ○モデル横断歩道  各署・各分庁舎管内における信号機のない横断歩道で、過去に横断歩行者被害の交通事故が発生した場所や学校が近くにある場所、または、車両および横断歩行者が多いため、対策を必要とする場所を「モデル横断歩道」と指定し、横断歩行者の保護を図るもの。  ○参加・体験型交通安全講習会(運転者、高齢歩行者、自転車)  運転者、高齢歩行者、自転車の交通事故防止のため、警察職員が県内各地に出向き、「危険予測トレーニング装置(KYT装置)」等を使用して、参加・体験型の交通安全講習会を実施するもの。  ○家庭の交通安全推進員による高齢者への反射キーホルダーの配布  県内の全小学校6年生(約1万5000人)を「家庭の交通安全推進員」として各署・分庁舎で委嘱しており、その家庭の安全推進員の活動を通じて、祖父母など身近な高齢者に対して、交通安全のアドバイスをしながらお守り型の反射キーホルダーを手渡してもらうもの。  ○自転車指導啓発重点地区・路線の設定、公表による自転車交通事故防止対策の推進  警察署ごとに自転車事故の発生状況等を基に自転車指導啓発重点地区・路線を設定し、同地区・路線において自転車事故防止、交通事故防止の広報啓発を実施。 福島市で暴走事故  今回は、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」を基に、事故が多い交差点の紹介、その形状と特徴、事故発生時の事例、注意点などをリポートしてきたが、県内では昨年秋、高齢の男がクルマで暴走するというショッキングな事故があった。  この事故は11月19日午後4時45分ごろ、福島市南矢野目の市道で起きた。97歳の男が運転するクルマ(軽自動車)が歩道に突っ込み、42歳の女性がはねられて死亡。その後、信号待ちで前方に停止していたクルマ3台にも衝突し、街路樹2本をなぎ倒しながら数十㍍にわたって走行した。衝突されたクルマのうち、2台に乗っていた女性4人が軽傷を負った。  軽自動車を運転していた97歳の男は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕された。男は2020年夏に、免許を更新した際の認知機能検査では問題がなかったという。  地元紙報道には、事故に巻き込まれたドライバーの「こんな人が運転していいのかと感じた」という憤りの声が紹介されていた。  その後の警察の調べでは、現場にブレーキ痕はなかったことから、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性が高いという。  この事故を受け、警察庁の露木康浩長官は記者会見で、「(高齢運転者対策の)制度については不断の見直しが必要」との見解を示した。警察庁長官がそうしたことに言及をするのは異例と言える。  このほか、週刊誌(オンライン版)などでも、この事故が取り上げられ、逮捕された男の人物像に迫るような記事もいくつか見られた。  そのくらい、ショッキングな事故だったということである。  地方では、クルマを運転する人は多いが、ハンドルを握るということは、それ相応の責任が生じる。そのことを自覚し、各ドライバーが無理のない運転を心がけ、より注意を払い、事故防止のきっかけになれば幸いだ。

  • 【会津若松・喜多方・福島】市街地でクマ被害多発のワケ

    【会津若松・喜多方・福島】市街地でクマ被害多発のワケ

     2022年は市街地でのクマ出没やクマによる人的被害が目立った1年だった。会津若松市では大型連休初日、観光地の鶴ヶ城に出没し、関係部署が対応に追われた。クマは冬眠の時期に入りつつあるが、いまのうちに対策を講じておかないと、来春、再び深刻な被害を招きかねない。 専門家・マタギが語る「命の守り方」  会津若松市郊外部の門田町御山地区。中心市街地から南に4㌔ほど離れた山すそに位置し、周辺には果樹園や民家が並ぶ。そんな同地区に住む89歳の女性が7月27日正午ごろ、自宅近くの竹やぶで、頭に傷を負い倒れているところを家族に発見された。心肺停止状態で救急搬送されたが、その後死亡が確認された。クマに襲われたとみられる。  「畑に出かけて昼になっても帰ってこなかったので、家族が探しに行ったら、家の裏の竹やぶの真ん中で仰向けに倒れていた。額の皮がむけ、左目もやられ、帽子に爪の跡が残っていた。首のところに穴が空いており、警察からは出血性ショックで亡くなったのではないかと言われました」(女性の遺族) 女性が亡くなっていた竹やぶ  現場近くでは、親子とみられるクマ2頭の目撃情報があったほか、果物の食害が確認されていた。そのため、「食べ物を求めて人里に降りて来たものの戻れなくなり、竹やぶに潜んでいたタイミングで鉢合わせしたのではないか」というのが周辺住民の見立てだ。  8月27日早朝には、同市慶山の愛宕神社の参道で、散歩していた55歳の男性が2頭のクマと鉢合わせ。男性は親と思われるクマに襲われ、あごを骨折したほか、左腕をかまれるなどの大けがをした。以前からクマが出るエリアで、神社の社務所ではクマ除けのラジオが鳴り続けていた。 愛宕神社の参道  大型連休初日の4月29日早朝には、会津若松市の観光地・鶴ヶ城公園にクマが出没し、5時間にわたり立ち入り禁止となった。市や県、会津若松署、猟友会などが対応して緊急捕獲した。5月14日早朝には、同市城西町と、同市本町の諏訪神社でもクマが目撃され、同日正午過ぎに麻酔銃を使って緊急捕獲された。  市農林課によると、例年に比べ市街地でのクマ目撃情報が増えている。人的被害が発生したり、猟友会が緊急出動するケースは過去5~10年に1度ある程度だったが、2022年は少なくとも5件発生しているという。  鶴ヶ城に出没したクマの足取りを市農林課が検証したところ、千石バイパス(県道64号会津若松裏磐梯線)沿いの小田橋付近で目撃されていた。橋の下を流れる湯川の川底を調べたところ、足跡が残っていた。クマは姿を隠しながら移動する習性があり、草が多い川沿いを好む。  このことから、市中心部の東側に位置する東山温泉方面の山から、川伝いに街なかに降りてきた線が濃厚だ。複数の住民によると、東山温泉の奥の山にはクマの好物であるジダケの群落があり、クマが生息するエリアとして知られている。  市農林課は河川管理者である県と相談し、動きを感知して撮影する「センサーカメラ」を設置した。さらに光が点滅する「青色発光ダイオード」装置を取り付け、クマを威嚇。県に依頼して湯川の草刈りや緩衝帯作りなども進めてもらった。その結果、市街地でのクマ目撃情報はなくなったという。  それでも市は引き続き警戒しており、10月21日には県との共催により「市街地出没訓練」を初めて実施。関係機関が連携し、対応の手順を確認した。  市では2023年以降もクマによる農作物被害を減らし、人的被害をゼロにするために対策を継続する。具体的には、①深刻な農作物被害が発生したり、市街地近くで多くの目撃情報があった際、「箱わな」を設置して捕獲、②人が住むエリアをきれいにすることでゾーニング(区分け)を図り、山から出づらくする「環境整備」、③個人・団体が農地や集落に「電気柵」を設置する際の補助――という3つの対策だ。  さらに2023年からは、郊外部ばかりでなく市街地に住む人にも危機意識を持ってもらうべく、クマへの対応法に関するリーフレットなどを配布して周知に努めていく。これらの対策は実を結ぶのか、2023年以降の出没状況を注視していきたい。 一度入った農地は忘れない  本州に生息しているクマはツキノワグマだ。平均的な大きさは体長110~150㌢、体重50~150㌔。県が2016年に公表した生態調査によると、県内には2970頭いると推定される。  クマは狩猟により捕獲する場合を除き、原則として捕獲が禁じられている。鳥獣保護管理法に基づき、農林水産業などに被害を与える野生鳥獣の個体数が「適正な水準」になるように保護管理が行われている。  県自然保護課によると、9月までの事故件数は7件、目撃件数は364件。2021年は事故件数3件、目撃件数303件。2020年が事故件数9件、目撃件数558件。「件数的には例年並みだが、市街地に出没したり、事故に至るケースが短期間に集中した」(同課担当者)。  福島市西部地区の在庭坂・桜本地区では8月中旬から下旬にかけて、6日間で3回クマによる人的被害が続発した。9月7日早朝には、在庭坂地区で民家の勝手口から台所にクマが入り込み、キャットフードを食べる姿も目撃されている。  会津若松市に隣接する喜多方市でも10月18日昼ごろ、喜多方警察署やヨークベニマル喜多方店近くの市道でクマが目撃された。  河北新報オンライン9月23日配信記事によると、東北地方の8月までの人身被害数40件は過去最多だ。  クマの生態に詳しい福島大学食農学類の望月翔太准教授は「2021年はクマにとってエサ資源となるブナやミズナラが豊富で子どもが多く生まれたため、出歩くことが多かったのではないか」としたうえで、「2022年は2021年以上にエサ資源が豊富。2023年の春先は気を付けなければなりません」と警鐘を鳴らす。  「クマは基本的に憶病な動物ですが、人が近づくと驚いて咄嗟に攻撃します。また、一度農作物の味を覚えるとそれに執着するので、1回でも農地に入られたら、その農地を覚えていると思った方がいい」  今後取るべき対策としては「まず林や河川の周りの草木を伐採し、ゾーニングが図られるように見通しのいい環境をつくるべきです。また、収穫されずに放置しているモモやカキ、クリの木を伐採し、クマのエサをなくすことも重要。電気柵も有効ですが、イノシシ用の平面的な配置では乗り越えられてしまうので、クマ用に立体的に配置する必要があります」と指摘する。 近距離で遭遇したら頭を守れ クマと遭遇した時の対応を説明する猪俣さん  金山町で「マタギ」として活動し、小さいころからクマと対峙してきた猪俣昭夫さんは「そもそもクマの生態が変わってきている」と語る。 奥会津最後のマタギposted with ヨメレバ滝田 誠一郎 小学館 2021年04月20日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  「里山に入り薪を取って生活していた時代はゾーニングが図られていたし、人間に危害を与えるクマは鉄砲で駆除されていました。だが、里山に入る人や猟師が少なくなると、山の奥にいたクマが、農作物や果物など手軽にエサが手に入る人家の近くに降りてくるようになった。代を重ねるうちに人や車に慣れているので、人間と会っても逃げないし、様子を見ずに襲う可能性が高いです」  山あいの地域では日常的にクマを見かけることが多いためか、「親子のクマにさえ会わなければ、危険な目に遭うことはない」と語る人もいたが、そういうクマばかりではなくなっていくかもしれない。  では、実際にクマに遭遇したときはどう対応すればいいのか。猪俣さんはこう説明した。  「5㍍ぐらい距離があるといきなり襲ってくることはないが、それより近いとクマもびっくりして立ち上がる。そのとき、大きな声を出すと追いかけられて襲われるので、思わず叫びたくなるのをグッと抑えなければなりません。クマが相手の強さを測るのは『目の高さ』。後ずさりしながら、クマより高いところに移動したり、近くの木を挟んで対峙し行動の選択肢を増やせるといい。少なくとも、私の場合そうやって襲われたことはありません」  一方、前出・望月准教授は次のように話す。  「頭に傷を負うと致命傷になる可能性が高い。近距離でばったり出会った場合はうずくまったり、うつ伏せになり、頭を守るべきです。そうすれば、仮に背中を爪で引っかかれてもリュックを引き裂かれるだけで済む可能性がある。研修会や小学校などで周知しており、広まってほしいと思っています」  県では、会津若松市のように対策を講じる市町村を補助する「野生鳥獣被害防止地域づくり事業」(予算5300万円)を展開している。ただ、高齢化や耕作放棄地などの問題もあり、環境整備や効果的な電気柵設置は容易にはいかないようだ。  来春以降の被害を最小限に防ぐためにも、問題点を共有し、地域住民を巻き込んで抜本的な対策を講じていくことが求められている。

  • 【会津若松】巨額公金詐取事件の舞台裏

    【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

     会津若松市の元職員による巨額公金詐取事件。その額は約1億7700万円というから呆れるほかない。 専門知識を悪用した元職員  巨額公金詐取事件を起こしたのは障がい者支援課副主幹の小原龍也氏(51)。小原氏は2022年11月7日付で懲戒免職になっているため、正確には元職員となる。  発覚の経緯は2022年6月13日、2021年度の児童扶養手当支給に係る国庫負担金の実績報告書を県に提出するため、小原氏の後任となったこども家庭課職員が関係書類やシステムデータを確認したところ、実際に振り込んだ額とシステムデータに不整合があることを見つけたことだった。  内部調査を進めると、2021年度の児童扶養手当支給に複数の不整合があることが分かった。また小原氏の業務用パソコンからは、同年度の子育て世帯への臨時特別給付金について小原氏名義の預金口座に振込依頼していたデータや、重度心身障がい者医療費助成金をめぐり小原氏が給付事務を担当していた07~09年度に詐取していたことをうかがわせるデータも見つかった。市は会津若松署に報告し今後の対応を相談する一方、金融機関に小原氏名義の預金口座の照会を行うなど、詐取の証拠集めを2カ月かけて進めた。  市は2022年8月8日、小原氏に事情聴取した。最初は「分からない」「覚えていない」と非協力的な姿勢を見せていたが、集めた証拠類を示すと児童扶養手当と子育て世帯への臨時特別給付金を詐取したことを認めた。  小原氏は動機について「不正に振り込む方法を思い付いた。魔が差した」と語り、使途は「生活していく中で自然に使った」と説明したが、続く同9、10、15日に行った事情聴取では「親族の借金を肩代わりし返済に苦労していた」「競馬や宝くじに使った」「車のローンの返済に充てた」と次第に変化していった。  市は事情聴取と並行し、詐取された公金の回収に取り組んだ。預金口座からの振り込みに加え、生命保険の解約や車の売却といった保有財産の換価を行い、2022年11月8日現在、約9100万円を回収した。  2022年9月8日には小原氏に対する懲戒審査委員会を開き、懲戒免職が妥当と判断されたが、引き続き事情聴取と公金回収を進めるため、小原氏の職員としての身分を当面継続することとした。  小原氏は2022年10月7日、市に誓約書を提出した。内容は児童扶養手当(約1億1070万円)、子育て世帯への臨時特別給付金(60万円)、重度心身障がい者医療費助成金(約6570万円)、計約1億7700万円を詐取したことを認め、弁済することを誓約したものだ。  市は2022年11月7日付で会津若松署に詐欺罪で告訴状を提出し、その日のうちに受理された。また、同日付で小原氏を懲戒免職とし、併せて上司らの懲戒処分を行った。  「会津若松署が告訴状を受理したので、事件の全容解明は今後の捜査に委ねられることになる。警察筋の話によると、捜査は2023年2月くらいまでかかるようだ」(ある事情通)  それにしても、これほど巨額な詐取がなぜバレなかったのか不思議でならないが、  「市の説明や報道等によると、児童扶養手当の詐取は管理システムの盲点を悪用し不正な操作を繰り返した、子育て世帯への臨時特別給付金の詐取は本来の支給額より多い金額が自分の預金口座に振り込まれるようデータを細工した、重度心身障がい者医療費助成金の詐取もデータを細工する一方、帳票を改ざんして発覚を免れていた」(同) 合併自治体特有の「差」  それだけではない。こども家庭課に勤務していた時は、自分が児童扶養手当支給の主担当を担えるよう事務分担を変え、支給処理に携わる職員を1人減らし、それまで行っていた決裁後の起案のグループ回覧をやめることで他職員が関連書類に触れないようにしていた。また主担当の仕事をチェックする副担当に、入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充てることでチェックが機能しにくい体制をつくっていた。  「パソコンがかなり達者で、福祉関連の支給事務に精通していた。そこに狡猾さが加わり、不正がバレないやり方を身に付けていった」(同)  小原氏は市の事情聴取に「不正はやる気になればできる」と話したというから、詐取するには打って付けの職場環境だったに違いない。  小原氏は1996年4月、旧河東町役場に入庁。2005年11月、会津若松市との合併に伴い同市職員となった。社会福祉課に配属され、11年3月まで重度心身障がい者医療費助成金の給付事務を担当。18年4月からはこども家庭課で児童扶養手当と子育て世代への臨時特別給付金の給付事務を担当した。2022年4月、障がい者支援課副主幹に。事件はこの異動をきっかけに発覚した。  地元ジャーナリストの話。  「小原氏は妻と子どもがおり、父親と同居している。父親は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐと聞いた。三男(同)は、小原氏と職種は違うが公務員だそうだ」  小原氏は「親族の借金を肩代わりした」とも語っていたが、  「過去に叔父が勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあるという。親族の借金の肩代わりとは、それを指しているのかもしれない」(同) 会津若松市河東町にある小原氏の自宅  河東町にある自宅は2000年10月に新築され、持ち分が父親3分の2、小原氏3分の1の共有名義となっている。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  小原氏の職場での評判は「他職員が嫌がる仕事も率先して引き受け、仕事ぶりは迅速かつ的確」といい、地元の声も「悪いことをやる人にはとても見えない」と上々。しかし、会津若松市のように他町村と合併した自治体では「職員の差」が問題になることがある。  ある議員経験者によると、市町村合併では優秀な職員が多い自治体もあれば能力の低い職員が目立つ自治体、服装や挨拶など基本的なことすらできていない自治体等々、職員の能力や資質に差を感じる場面が少なくなかったという。  「合併から十数年経ち、職員の退職・入庁が繰り返されたため今は差を感じることは減ったが、中核となる市に周辺町村がくっついた合併では職員の能力や資質にだいぶ開きがあったと思います」(同)  元首長もこう話す。  「町村役場は、職員を似たような部署に長く置いて専門性を身に付けさせ、サービスの低下を防ぐ。そこで自然と専門知識が身に付くので、あとは個人の資質によるが、悪用する気になればできる、と」  小原氏は旧河東町時代も重度心身障がい者医療費助成金の支給事務を行っていたというから、専門知識は豊富だったことになる。  市町村職員になるには採用試験に合格しなければならないが、競争率が高いため「職員=優秀」というイメージが漠然と定着している。しかし現実は、小原氏のような悪質な職員も存在すること、さらに言うと合併自治体特有の、職員の能力や資質の差が今回のような事件の契機になることも認識する必要がある。  市は今後、未回収となっている約8600万円の回収に努め、場合によっては民事訴訟も視野に入れるという。事件を受け、室井照平市長は給料を7カ月2分の1に減額し、現任期(3期目)の退職手当も2分の1に減額する方針。  市の責任を形で示したわけだが、市民からは市が注力しているデジタル田園都市国家構想を踏まえ「巨額公金詐取を見抜けなかった市に膨大な市民の個人情報を預けて大丈夫なのか」と心配する声が聞かれる。ICT導入を熱心に進める前にチェック機能がない、いわば〝ザル〟の組織を立て直す方が先決ではないのか。 この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】

    「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】

     会津若松市の石田典男議員(63)が窮地に立たされている。会津若松地方広域市町村圏整備組合(以下、整備組合と略)の新ごみ焼却施設整備・運営事業の入札をめぐり、2021年8月、整備組合議会が設置した100条委員会から「関係者への働きかけがあった」と断定されたのに続き、2022年10月には市政治倫理審査会から「政治倫理条例に違反する行為があった」と認定されたのだ。 当人は「法令に違反していない」と反論 会津若松市の石田典男議員  会津若松市の石田典男議員(63)が窮地に立たされている。会津若松地方広域市町村圏整備組合(以下、整備組合と略)の新ごみ焼却施設整備・運営事業の入札をめぐり、2021年8月、整備組合議会が設置した100条委員会から「関係者への働きかけがあった」と断定されたのに続き、2022年10月には市政治倫理審査会から「政治倫理条例に違反する行為があった」と認定されたのだ。  整備組合(管理者・室井照平会津若松市長)は会津若松市、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町で構成され、圏域人口は17万4500人(2022年4月現在)。構成市町村のごみ・し尿・廃棄物処理、水道用水供給、介護認定審査、消防に関する事業を行っている。 既存のごみ焼却施設は会津若松市神指町南四号で稼働中だが、1988年竣工と老朽化が著しいため、整備組合では隣接するし尿処理施設を解体し、その跡地に新ごみ焼却施設を建設する計画を立てた。 10月下旬、現地を訪ねると、し尿処理施設は既に取り壊され、鉄板が広く敷かれた敷地内では複数の重機やトラックが稼働するなど、大規模な土木工事が始まっていた。 計画によると、し尿処理施設の解体から土木工事、プラント工事、試運転までを含む期間は2021年8月から26年3月。その後、営業運転が始まる予定だが、この工事の入札に執拗に介入していたとされるのが同市の石田典男議員だった。石田議員は当時、整備組合議会の議員を務めていた。 石田議員は何をしたのか。 入札は総合評価方式制限付一般競争で行われ、共に地元業者をパートナーとする日立造船JVと川崎重工業JVが参加。2021年2~5月にかけて、整備組合が設置した「新ごみ焼却施設整備・運営事業事業者選定委員会」(以下、選定委員会と略)による審査を経て、同6月、川崎重工業JVが落札者に決まった。本契約は同8月に交わされ、契約金額は約252億円だった。 新ごみ焼却施設は現在、土木工事が行われている  この入札過程で石田議員が関係者に対し、入札手続きに関する質問や問い合わせを繰り返したり、落選した日立造船JVの担当者らと一緒に行動していたことなどが明らかになった。きっかけは、選定委員会の委員2名から「石田議員から特定企業に対する便宜や利益誘導等の要請、依頼等の働きかけに該当する恐れのある行為を受けた」とする報告書が整備組合管理者の室井市長に提出されたことだった。委員2名とは、当時の市建築住宅課長と市廃棄物対策課長である。 事態を問題視した整備組合は、事実関係を調査するため入札手続きを一時中断。その結果、落札者の決定が当初4月上旬の予定から6月上旬と2カ月遅れた。 調査では、次のような事実関係が明らかになっている。 ①石田議員は複数回にわたり選定委員の建築住宅課長を訪ね、非公開の選定委員会資料を閲覧し、地元業者の入札参加要件などを公表前に聞き出そうとした。 ②石田議員は建築住宅課長に、落札者の選定に当たっては災害対応、地元業者の活用、景観的調和などが重要事項になると指摘した。 ③石田議員は選定委員の廃棄物対策課長に、災害に強い施設や発電設備の設置場所などのポイントについて説明した。 ①の行為が問題なのは説明するまでもないが、②と③の行為は、そこに挙げられた要件を重視すると日立造船JVの方が優れていると石田議員が示唆した――と委員2人は受け止め、これを「石田議員による働きかけ」と捉えたわけ。ちなみに、非公開資料を石田議員に閲覧させた建築住宅課長は減給6カ月の懲戒処分を受け、市を退職している。 このほか石田議員は、日立造船や地元業者の担当者らを連れて市役所や市公園緑地協会を訪ねている。目的は同協会に、審査項目の一つになっている関係表明書(もしそのJVが落札したら、地元業者に協力を約束する文書)の提出を求めるためだった。応札業者と議員が一緒に行動すれば、周囲から疑いの目で見られるのは避けられないのに、躊躇しなかったのは驚く。 ただ、整備組合の調査では「不当な働きかけや関係法令に抵触するような事実は確認できず、入札の公平な執行を妨げるまでには至っていない」と結論付けられた。「グレーかもしれないが、クロとまでは言い切れない」というわけだ。 この結論に納得がいかなかった整備組合議会は2021年5月、地方自治法100条に基づく「新ごみ焼却施設整備・運営事業等に係る事務調査特別委員会」(以下、特別委員会と略)を設置。特別委員会は同5~8月にかけて計23回開かれ、石田議員に対する証人尋問を行ったり、前述・選定委員2名(この時、既に委員を辞めていた)や市建設部副部長、整備組合職員を参考人招致したり、関係者に資料提出を求めるなどした。 これらの調査結果をまとめたのが同8月17日付で公表された「新ごみ焼却施設整備・運営事業等に係る事務調査報告書」である。その結論部分は次のよう書かれている。 狙いは石田議員〝抹殺〟⁉  《今般の調査を通して、石田議員は環境センター等への電話や訪問等により、記録が残されているだけでも十数回にわたり問い合わせや意見の申出、資料の請求、又は資料の提示を行っている。特に、入札公告前の入札に関する情報については、公表できないと何度も回答しているにもかかわらず、繰り返し秘密情報を探り出そうとする執拗な行為に職員は圧力を感じた、というものである。 こうした執拗な問い合わせや確認は、議員の権限を越えた入札手続きへの介入であり、執行機関の権限を侵害するものである。 一方、会津若松市建設部副部長との間における緑地協会からの関心表明書に係るやり取りについても、同様に問い合わせや確認が繰り返されたことから、今般新たに働きかけと認定されたところであり、本事業に係る入札手続きの中断は、まさに石田議員による選定委員会委員2名と会津若松市職員1名への働きかけが発端となったものである。加えて、石田議員は、整備組合の入札に応募する民間企業であることを理解した上で、その営業活動に同行するなどした一体性を疑われる行為は、議員活動の範囲を逸脱していると言わざるを得ず、とりわけ石田議員は整備組合とA社(報告書には実名が表記されているが、ここでは伏せる)単独または関係する企業グループ等との間における契約案件について、整備組合の議会議員として審査や決議を行う立場にありながら、企業の立場で資料を持参の上、質問や相談を行う行為には疑念を抱かざるを得ない》(39頁) このように「石田議員による働きかけや疑わしい行為があった」と断定しているが、報告書にはこうも書かれている。 《すべての委員において特定の者に有利、または不利に働くような趣旨の発言は一切なされなかったこと、さらに石田議員による非公開資料の閲覧、石田議員によるB・C両委員(建築住宅課長と廃棄物対策課長。報告書には実名が表記されているが、ここでは伏せる)への接触等によって、本事業に係る(中略)意思決定について、何ら影響を受けていないことを委員一同で確認した》(35頁) 《官製談合防止法や刑法をはじめとする関係法令等に接触し公契約締結に係る妨害行為に該当し得るような行為の有無を検証したものの、これらの関係法令に抵触するような行為はなかった》(37頁) 石田議員の一連の行為は「落札者の決定に影響を及ぼしておらず、関係法令にも抵触していなかった」というのである。 整備組合による調査に続き、特別委員会による調査でも「グレーかもしれないが、クロとまでは言い切れない」と結論付けられたわけ。併せて特別委員会は「告発までには至らない」とも結論付けている。 シロかクロか、はっきりさせるために設置したはずの特別委員会でも結局グレーとしか判断されず、どこかモヤモヤ感が残る。ただ報告書を読んでいくと、前述・委員2人や市建設部副部長、整備組合職員らの証言から、ある種の覚悟を感じ取ることができる。その証言とは、 「石田議員から『これは重要だよね』『やっぱりこういう点で見なきゃいけないよね』といった問いかけがあり、自分としては誘導されているというイメージ、依頼があったという認識を持った」 「石田議員の市議会建設委員会での質疑等から経験上、市へのアプローチの仕方を見てきており、今回も同じ方法で行われていると思った」 「細かい中身まで質問されることもあり、何か意図があるんだなと思うような質問もあった」 「入札そのものに関する情報は公表できないと何度も回答しているにもかかわらず、電話や来庁等により秘密情報を探り出そうとする執拗な行為に圧力を感じた」 石田議員は以前から「市発注の公共工事に首を突っ込み過ぎる」と評判で、記者も市職員から度々「石田議員の行為は迷惑」と聞かされていた。要するに、疑惑が取り沙汰されるのは今回が初めてではないのだ。 そうした中で、職員たちが石田議員を一斉に〝告発〟したのは「これ以上、入札への介入は許さない」という意思の表れだったのではないか。言い換えると、この際、職員たちは石田議員を〝抹殺〟しようとした、ということかもしれない。 不満露わにする石田議員  石田議員は現在6期目。前回(2019年8月)の市議選(定数28)では1954票を獲得し、5位当選を果たしている。上位当選で6期も務めているのだから、有権者の支持も高いのだろう。 もっとも、前述・特別委員会の報告書では地元の特定業者との近しい関係が指摘され、業者・業界による一定の支持が上位当選につながっている可能性もある。すなわち、石田議員は業者・業界の〝代理人〟としての役割を果たしつつ議員報酬(月額約45万円)を得ており、業者・業界は石田議員からもたらされる情報を有意義に活用している――という持ちつ持たれつの関係が浮かび上がってくる。 2021年8月、特別委員会の報告書が公表された後、整備組合議会は石田議員に対し、整備組合議会議員の辞職勧告を決議したが、石田議員は辞職しなかった。 一方、石田議員の一連の行為は関係法令には抵触していなかったが、市議会議員政治倫理条例に違反している可能性があるとして同11月、清川雅史議長に審査請求書が出されたことから、清川議長は同12月、第三者機関の「会津若松市政治倫理審査会」を設置した。同審査会は計8回開かれ、2022年10月4日、審査結果をまとめた「報告書」を清川議長に提出した。 報告書に書かれていた結論は「公正な職務の執行を妨げたり、妨げるような働きかけを禁じた同条例第4条第1項第5号に違反する」というものだった。併せて審査会は、清川議長に対しても▽本事案について議員に周知し、政治倫理基準の順守を徹底すること、▽政治倫理基準に反する活動に対し、条例の趣旨に則り議員がその職責を果たすことを求める、という意見を文書で伝えた。 清川議長に報告書と自身への意見について見解を尋ねると、次のようにコメントした。 「審査会の報告書と意見を重く受け止めている。現在、会派代表者会議で議会としての対応を検討中で、現時点で議長としての見解を述べることは差し控えたい」 この報告書を受け、石田議員は同18日、清川議長に「弁明書」を提出した。そこには《当該職員は何ら影響を受けずに活動できたものと思われる》《現に職務の公正性が害された事実はない》《報告書は「その他公正な職務を妨げる行為」がどのような行為を指すのか触れていない》と反論が綴られていたものの、《政治倫理条例第19条第1項は審査会の報告を尊重するものと定めており、議員としてこれに異はない》と同審査会の結論を受け入れる姿勢を示した。 石田議員の条例違反が明確になったことで、同市議会では今後、石田議員に対する処分が検討される。この稿を書いている10月下旬の段階では辞職勧告が決議されるという見方が出ているが、会派によっては厳重注意でいいのではないかという声もあり、温度差があるようだ。いずれにしても、11月中に開かれる予定の臨時会で最終的な処分が科される見通しである。 石田議員に電話で話を聞くと、弁明書では「異はない」としていたのに次々と反論が飛び出した。 「応札業者と一緒に行動したことは軽率だったと反省している。しかし、整備組合の調査も特別委員会の報告書も、私が法令違反を犯したとは結論付けておらず、告発も見送っている。私からすれば問題アリと言うなら告発してもらった方が、どういう法令違反があったかハッキリして、かえって有り難かった」 「審査会の報告書ももちろん重く受け止める。ただ、こちらも『その他公正な職務を妨げる行為』と抽象的な結論にとどまっている。私は議員として巨額の税金が投じられる公共工事について必要な調査を行っただけ。公の事業に関する情報を請求しただけなのに、なぜ悪く言われるのか。こちらが請求しても出せないと拒否するのは、隠し事があるからではないかと疑ってしまう。私は以前から公共工事について必要と思ったことは詳細に調査してきたし、勉強もしてきた。今回の入札も専門的知見から見るべき部分がたくさんあり、職員とは『それって必要なことだよね』と確認の意味を込めて話しただけ。私にとってはそれが『常識的なやり方』でもある。しかし、他の議員には私の『常識』が通じない。そういうことをやっている議員は他にいない、というわけです」 「自分が100%悪いことをしたとは思っていないが、専門委員や職員にはもしかするとハラスメントと受け取られかねない言動があったのかもしれない。今後は特別委員会や審査会の報告書を丹念に読み込み、自分の行為が法令や条例に違反するのか・しないのか、弁護士と相談しながら結論を導き出したい。そうすることで特別委員会や審査会の調査が正しかったのか、処分を科された自分が納得できる結論だったのかを精査していきたい」 石田議員によると、2021年8月に辞職勧告を決議された整備組合議会議員は、2022年10月に辞職したという。 同僚から冷ややかな声  法令違反はなく、自身の「常識」に基づく行為だったことを何度も強調した石田議員。しかし、同僚議員の見方は冷ややかだ。 「石田議員は弁明書で『他に資料請求をした議員がいないから〝特異な行動〟と言われるが、他に関心を持った議員が存在しなかっただけ』と述べているが、私から言わせると公共工事にそこまで関心を持つこと自体が不思議だ。あそこまで首を突っ込めば『業者に頼まれたから』と疑われてもやむを得ない。石田議員は『自分の行為は入札結果には影響していない』とも言っているが、そういう行為をしたことが問題なのであって、それに対する反省もない」 そのうえで、同僚議員は石田議員の今後を次のように展望する。 「市議会で辞職勧告を決議しても辞めないでしょう。議員は2023年8月に任期満了を迎え、市議選が行われる。石田議員の今回の行為は議員として相応しくないと思うが、もし市議選に出馬して7選を果たしたら、それは有権者が判断したことなので他の議員は従うしかない」 一定の結論が出されたことで、石田議員が入札に介入することは今後難しくなるだろう。いわば主だった活動が制限される中、議員を続ける意義を見いだせるのかが問われる。もっとも、それが主だった活動というのは、議員としていかがなものかと思ってしまうが……。

  • 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

     会津若松市職員(当時)による公金詐取事件は、だまし取った約1億7700万円の使い道が裁判で明らかになってきた。生活費をはじめ、競馬や宝くじ、高級車のローン返済や貯蓄、さらには実父や叔父への貸し付け、挙げ句には交際相手への資金援助。詐取金は、家族の協力を得ても半分しか返還できていない。本人が有罪となり刑期を終えても、一族を道連れに「返還地獄」が待っている。 一族を道連れにした「1.8億円の返還地獄」  会津若松市の元職員、小原龍也氏(51)=同市河東町=は在職中、児童扶養手当や障害者への医療給付を担当する立場を悪用し、データを改ざんして約1億7700万円もの公金をだまし取っていた。パソコンに長け、発覚しにくい方法を取っていただけでなく、決裁後の起案のグループ回覧を廃止したり、チェック役に新人職員や異動1年目の職員を充てて職員同士の監視機能が働かない体制をつくっていた。 不正発覚後、市は調査を進め、昨年11月7日に会津若松署に小原氏を刑事告訴した上で懲戒免職にした。同署は任意捜査を続け、同12月1日に詐欺容疑で逮捕した。  その後も、市は個別の犯行について被害届を提出。同署は一連の詐欺容疑で計5回逮捕し、地検会津若松支部がうち4件を詐欺罪で起訴している(原稿執筆時の3月中旬時点)。検察は全ての逮捕容疑を罪に問う見込みだ。小原氏は、これまでに法廷で読み上げられた起訴事実2件を「間違いございません」と認めている。一つの公判が開かれるたびに新たな起訴事実が読み上げられ、本格的な審理にまで至っていない。 地元の事情通が警察筋から聞いた話によると、捜査は2月中に終結する見込みだった。5回目の逮捕が3月9日だから、当初の想定よりずれ込んでいる。 逮捕5回は身に応えるのだろう。出廷した小原氏の髪は白髪交じりで首の後ろまで伸び、キノコのかさのように頭を覆っていた。もともと痩せていて背が高いのだろうが、体格のいい警察官に挟まれて連行されるとそれが際立った。顔はやつれ、いつも同じ黒のトレーナー上下とスリッパを身に着けていた。 刑事事件に問われているのは犯行の一部に過ぎない。2007~09年には、重度心身障害者医療費助成金約6500万円を詐取していたことが市の調査で分かっている(表参照)。だが、詐欺罪の公訴時効7年を過ぎているため立件されなかった。市は「民事上の対応で計約1億7700万円の返還を求めていく」としている。 元市職員による総額1億7700万円の公金詐取と返還の動き 1996年4月大学卒業後、旧河東町役場入庁。住民福祉課に配属1999年4月保健福祉課に配属2001年4月税務課に配属2005年4月建設課に配属11月合併で会津若松市職員に。健康福祉部社会福祉課に配属2007年4月~2009年12月6571万円を詐取(重度心身障害者医療費助成金)2011年4月財務部税務課に配属2014年11月健康福祉部こども保育課に配属2016年5月地元の金融機関から借金するなどして叔父に700万円を貸す7月実父に700万円を貸す2018年4月健康福祉部こども家庭課に配属。こども給付グループのリーダーに昇任2019年4月~2022年3月1億1068万円を詐取(児童扶養手当)2021年60万円を詐取(21年度子育て世帯への臨時特別給付金)2022年4月健康福祉部障がい者支援課に配属6月市が支給金額に異変を発見。内部調査を開始8月市が小原氏から詐取金の回収を開始9月市が返還への協力を求めて小原氏の家族と協議開始11月7日市が小原氏を刑事告訴し懲戒免職11月8日時点9112万円を返還(残額は全額の49%)11月30日8~10月の給料分56万円を返還12月1日1回目の逮捕12月28日家族を通じて11月の給料分2万円を返還2023年2月6日実父から市に40万円の支払い2月14日時点8489万円が未返還(残額は全額の48%)出典:会津若松市「児童扶養手当等の支給に係る詐欺事件への対応について」(2022年11月、23年2月発行)より。1000円以下は切り捨て。  市は早速、小原氏を懲戒免職にした後の昨年11月8日時点で半分に当たる9112万円を回収した。小原氏に預金を振り込ませたほか、生命保険を解約させたり、所有する車を売却させたりした。 小原氏が逮捕・起訴された後も回収は続いている。まず、小原氏が昨年8月から同11月に懲戒免職になるまでに支払われた給料約3カ月分、計約58万円を本人や家族を通じて返還させた。加えて小原氏の実父が40万円を支払った。それでも市が回収できた額は計約9210万円で、だまし取られた公金の全額には到底届かない。約48%に当たる約8489万円が未回収だ。 身柄を拘束されている小原氏は今すぐに働いて収入を得ることはできない。初犯ではあるが、多額の公金をだまし取った重大性と過去の判例を考慮すると実刑が濃厚だ。 ちなみに初公判が開かれた1月30日、同じ地裁会津若松支部では、粉飾決算で計3億5000万円をだまし取ったとして詐欺罪などに問われていた会社役員吉田淳一氏に懲役4年6月が言い渡されている(㈱吉田ストアの元社長・吉田氏については、本誌昨年9月号「逮捕されたOA機器会社社長の転落劇」で詳報しているので参照されたい)。 小原氏は3月中旬時点で五つの詐欺罪に問われており、本誌は罪がより重くなると考えている。同罪の法定刑は10年以下の懲役。二つ以上の罪は併合罪としてまとめられ、より重い罪の刑に1・5を掛けた刑期が与えられる。単純に計算すると10年×1・5=15年。最長で刑期は15年になる。実刑となればその期間の就労は不可能。刑務作業の報償金は微々たるもので当てにならない。 小原氏に実刑が科されれば、市は公金を全額回収できない事態に陥る。そのため市は、小原氏の家族にも返還への協力を求めてきた。小原氏は妻子とともに市内河東町の実家で両親と同居していたが、犯行発覚後に離婚したため、立て替えているのは両親だ。 実父は市に「年2回に分けて支払う」と申し出たが、前述の通りこれまでに支払ったのは1回につき40万円。残額は約8489万円だから、1年間に80万円ずつ返還すると仮定しても106年はかかる。今のペースのままでは、小原氏や家族が存命中に全額返還はかなわない。 返還が遅れると小原氏も不利益を被る。刑を軽くするには、贖罪の意思を行動で示すために少しでも多く返還する必要があるからだ。十分な返還ができず、刑期が減らなければ、その分だけ社会復帰が遅れ、返還に支障が出るという悪循環に陥る。 「裁判が終わるまでに全額返還」が市と小原氏、双方の共通目標と言える。だが、無い袖は振れない。ここで市が言う「民事上の対応も考えている」点が重要になる。小原氏側からの返還が滞り、返還に向けて努力する姿勢を見せなければ損害賠償請求も躊躇しないということを意味する。ただ、小原氏には財産がない以上、民事訴訟をしたところで回収は果たせるのか。親族に責任を求めて提訴する方法も考えられるが。 市に問い合わせると、 「詐取の責任は一義的に元市職員(小原氏)にあり、親族にまで民事訴訟をすることは考えていない」(市人事課) 確かに、返還義務があるのはあくまで犯行に及んだ小原氏だけだ。いくら親子関係にあっても互いに別人格を持った個人であり、犯罪の責任を親にかぶせることを求めてはいけない。現状、小原氏の実父が少額ずつであれ返還に協力している以上、強硬手段は取れない。小原氏や家族の資力を勘案して、できるだけ早く返還するよう強く求めることが、市が取れる手段だ。こうして見ると、一族が一生かかっても返還できない額をよく使い切ったものだと、小原氏の金銭感覚に呆れる。 実父、叔父、交際相手を援助 小原氏の裁判が開かれている福島地裁会津若松支部(1月撮影)  それでも、小原氏本人が返還できなければ、家族や親族を民事で訴えてでも回収すべきという意見も市民には根強い。なぜなら「公金詐取の引き金は親族への貸し付けが一要因である」との趣旨を小原氏が供述でほのめかしているからだ。 検察官が法廷で述べた供述調書の内容を記す。 小原氏は2016年5月ごろに叔父に700万円を貸している。小原氏と実父の供述調書では、小原氏は実父に頼まれて同年7月に700万円を貸している。 いずれの貸し付けも公金をそのまま貸したわけではなく、まずは地元の金融機関から借りるなどして捻出した金を叔父と実父に渡した。だが叔父からは十分な額を返してもらえず、小原氏はもともと抱えていた借金も重なって金融機関への返済に窮するようになった。その結果、公金詐取に再び手を染めたという。 事実が供述調書通りなのか、法廷での小原氏自身の発言を聞いたうえで判断する余地がある。だが逮捕前の市の調査でも、小原氏は「親族の借金を肩代わりするために公金を詐取した」と弁明しているので、供述との整合性が取れている。 地元ジャーナリストが小原氏の家族関係を話す。 「実父は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐという。三男(同)は公務員だそうだ。叔父は過去に勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあると聞いている。『親族の借金の肩代わり』とは叔父のことを指しているのかもしれない」 供述と証言を積み上げていくと、実父と叔父には自前では金を用意できない事情があった。2人は市役所職員という信頼のある職に就いていた小原氏に無心し、小原氏は金融機関から借金。もともと金に困っていたところに、借金でさらに首が回らなくなり、再び犯行に及んだことがうかがえる。 実父と叔父の無心は、既に公金詐取の「前科」があった小原氏を再犯に駆り立てた形だ。2人からすると「借りた相手が悪かった」と悔やんでいるかもしれないが、小原氏が市役所職員に見合わない金の使い方をしているのを傍で見ていて、いぶかしく思わなかったのだろうか。 だが、人は目の前に羽振りの良い人物がいたら「そのお金はどこから来たのか」とは面と向かって聞きづらいだろう。自分に尽くしてくれるなら疑念は頭の隅に置く。 小原氏には妻以外に交際相手がいた。相手が結婚を望むほどの仲で、小原氏はその子どもに食事をごちそうしたりおもちゃを買ったりしていたという。交際相手と子どもの3人で住むためのマンションも購入していた。しかし事件発覚後、交際相手は小原氏に現金100万円を渡している(検察が読み上げた交際相手の供述調書より)。自分たちが使っていた金の原資が公金なのではないかと思い、恐ろしくなって返したのではないか。 加算金でかさむ返還額 小原氏と実父が共有名義で持つ市内河東町の自宅。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  不動産を金に換える選択肢も残っている。ただ登記簿によると、市内河東町にある小原氏と実父の自宅は2000年10月に新築され、持ち分が実父3分の2、小原氏3分の1の共有名義。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。返済できなければ自宅は同信金によって処分されてしまうので、返還の財源に充てられるかは不透明だ。 小原氏のみならず、家族も窮状に陥っている。だがいかんせん、同情されるには犯行規模が大きすぎた。小原氏は国や県が負担する金にも手を出していたからだ。主に詐取した児童扶養手当の財源は3分の1が国負担(国からの詐取額約3689万円)、重度心身障害者医療費助成金は2分の1が県負担(県からの詐取額約3285万円)、子育て世帯への臨時特別給付金に至っては全額が国負担(国からの詐取額約60万円)だ。 早急に全額返金できなければ市は政府と県に顔向けできない。何より、いずれの財源も国民が納めた税金である。ここで生温い対応をしては、国民や市民からの視線が厳しくなる。市は引き続き妥協せずに回収していくとみられる。 利子に当たる金額をどうするかという問題も出てくる。公金詐取という重罪を、正当な取り引きである借金に当てはめることはできないが、他人の金を一時的に自分のものにしたという点では同じだ。借金なら、返す時に当然利子を支払わなければならない。だまし取ったにもかかわらず、利子に当たる金額を支払わずに済むのは、民間の感覚では到底許せない。 市に、利子に当たる金額の支払いを小原氏に求めるのか尋ねると「弁護士に相談して対応を決めている」(市人事課)。ただ、市に対し国負担分の返還を求めている政府は、部署によっては加算金を求めることがあるという。市が小原氏の代わりに加算金を負担する理由はないので、市はその分を含めた返還を小原氏に求めていくことになる。要するに、小原氏は加算金=利子も背負わなければならず、返還額はさらに増えるということだ。 小原氏は自身が罪に問われるだけでなく、一族を「公金の返還地獄」へと道連れにした。囚われの身の自分に代わり、家族が苦しむ姿に何を思うのだろうか。

  • 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

     会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵は2月28日、福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請した。債権者説明会では営業体制を見直し、自主再建を目指す方針が示されたが、取引先や同業者は「スポンサーからの支援を受けずに再建できるのか」と先行きを懸念する。 スポンサー不在を懸念する債権者  民間信用調査機関によると負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 《1994(平成6)年3月期にはバブル景気が追い風となり、売上高25億円とピークを迎えた。1995年3月期以降は景気後退で利用者数が減少。債務超過額も拡大していた》《2020(令和2)年に入ると新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。2022年3月期は売上高が5億円台まで後退し、2億円超の最終赤字を計上した。その後も業況は好転せず、資金繰りが限界に達した。丸峰庵はホテルに連鎖する形で民事再生法の適用を申請した》(福島民報3月1日付より) 申請代理人はDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士ほか2名が務めている。 債権者の顔ぶれや各自の債権額は判明していないが、主な仕入れ先は地元の水産卸売会社、食肉会社、冷凍食品会社、土産物卸商社など。そのほかリネン、アメニティー、旅行代理店、広告代理店、リース、コンパニオン派遣、組合など取引先は多岐に渡るとみられる。 最大の債権者である金融機関については、同ホテルの不動産登記簿に基づき権利関係を別掲しておく。 根抵当権極度額1250万円1972年設定会津商工信組根抵当権極度額2400万円1974年設定会津商工信組根抵当権極度額3600万円1976年設定会津商工信組根抵当権極度額4000万円1976年設定福島銀行根抵当権極度額3億円1979年設定商工中金根抵当権極度額2億4000万円1981年設定常陽銀行根抵当権極度額4億5000万円2011年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定商工中金根抵当権極度額3億円2018年設定商工中金  ㈱丸峰観光ホテル(1965年設立、資本金3000万円)は客室数65室の「丸峰本館」、同49室の「丸峰別館川音」、同6室の「離れ山翠」を運営する芦ノ牧温泉では最大規模の温泉観光ホテル。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子、田中博志、監査役=川井茂夫の各氏。 同ホテルでは「丸峰黒糖まんじゅう」などの菓子製造・販売も営み、ピーク時には郡山市の駅構内や駅前などで飲食店も経営していたが、業績が振るわず、2014年に関連会社の㈱丸峰庵(2006年設立、資本金300万円)に旅館経営以外の事業を移した。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子の各氏。 同ホテルの関係者によると「まんじゅうはともかく、飲食店は本業との相乗効果を生まないばかりか、ホテルで稼いだ利益を注ぎ込んだこともあったはずで、経営が傾く要因になったのは間違いない」。実際、丸峰庵は都内2カ所にも支店を構えるなど、身の丈に合わない経営が常態化していた様子がうかがえる。 同ホテルはホームページで、今後も事業を継続すること、引き続き予約を受け付けること、監督委員の指導のもと一日も早い再建を目指すことを告知している。 「再建に向け、メーンバンクの会津商工信組も尽力したが『思うようにいかない』と嘆いていた。もっとも同信組に、大規模な温泉観光ホテルを立て直すコンサル能力があるとは思えませんが」(同) 同ホテルは2019年に亡くなった先代で女将の星弘子氏が辣腕を振るっていた時代は上り調子だった。 「女将は茨城方面の営業に長け、そこを切り口に関東から多くの大型観光バスを呼び込んでいた。平日や冬季の稼働率を上げるため料金を下げ、それでいて利益を確保する商品を開発したり、歌手を呼ぶなどの企画を練ったり、常に経営のことを考えている人だった」(同) 1980~90年代にかけてはテレビCMを流したり、2時間ドラマの舞台になったり、高級車やクルーザーを所有するなど、成功者の威光を放っていた。 しかし、次第に団体客が減り、観光地間の競争が激化。そのタイミングで経営のかじ取りが星弘子氏の息子・保洋氏に代わると、以降は浮上のきっかけをつかめずにいた。 民事再生の申請後、本誌が耳にした同ホテルや星社長の評判は次のようなものだった。 ▽取引先との間で支払いの遅延が起きていた。 ▽星社長は経営合理化を進めるため、外部の管理職経験者を招き入れたが、強引な進め方が社内で反発を招き、ベテランや士気の高かった社員が相次いで退職した。 ▽その一方で、星社長は高級車レクサスに乗っていたため、ひんしゅくを買っていた。 ▽地元建設会社に改修工事を依頼するも、前回工事の未払い金が残っていることを理由に断られた。 丸峰庵をめぐっても、こんな話が聞かれた。 ▽顧客ごとの特注包装紙や新商品のパッケージングなど工夫を凝らしていたが、ロット発注になってしまうため、経費増が囁かれていた。 ▽道の駅などに通常の委託販売ではなく買い取り販売を依頼するも、在庫ロスへの懸念から断られた。 ▽賞味期限の短い商品を社員が直接納品するのではなく、宅配便で送るなど、商品管理体制が疑問視されていた。 ▽飲食店の家賃を滞納していた。 ちなみに1987年には、法人税法違反で法人としての同ホテルに罰金1600万円、当時の代表取締役である星弘子氏に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が福島地裁で言い渡されている。 難しい自主再建 臨時休業中の丸峰庵  ある債権者によると、社員たちは民事再生の申請を外部から知らされたという。 「ウチは当日(2月28日)の昼にファクスで通知が届いた。その日はちょうど仕入れ業者への支払日で、各業者が付き合いのある社員に『支払いはどうなるんだ』と個別に問い合わせたことで社員たちに知れ渡った。社員たちが星社長から話をされたのはその後だったそうです」 債権者説明会は同ホテルが3月3日、丸峰庵が同8日に開いたが、出席者は淡々としていたという。 「仕入れ業者からは『未払い分は払ってもらえるのか』『この先の支払い方法はどうなるのか』などの質問が出ていた。会津商工信組から発言はなかったが、商工中金が今後の経営体制を尋ねると、星社長は『ある程度目処がついたら経営から退く』と答えていた」(同) しかし、それを聞いた出席者たちは首を傾げた。 「理由は二つある。一つは既に決まっていると思われたスポンサーがおらず『今後の状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する』と星社長が述べたことです。物心両面で支援してくれるところがなければ、経営者の交代はもちろん再建もままならない。もう一つは星社長には子どもがいないため、後継者の見当がつかないことです」(同) スポンサー不在については、ホテル再建に携わった経験を持つ会社社長も「正直驚いた」と話す。 「民事再生はあらかじめ綿密な計画を立て、これでいけるとなったら申請―公表するが、その際、重要になるのがスポンサーの存在です。申請すれば新たな融資を受けられないので、スポンサー探しは必須。もちろん、スポンサー不在でも再建はできるだろうが、星社長はこの間、あらゆる手立てを尽くし、それでもダメだったのだから、尚のこと緻密な自主再建策を用意する必要がある。そうでなければ今後、同ホテルが再生計画案を示しても債権者から同意を得られるかは微妙だと思います」 なぜスポンサー不在をここまで嘆くのかというと、自主再建するには本業の将来収益から再生債権を弁済しなければならないからだ。そうした中でこの社長が注目したのは、冒頭の新聞記事中にある「売上高5億円、赤字2億円」という金額だ。 「単純に売り上げが7億円以上ないと黒字にならない。じゃあ7億円以上を売り上げるため、料金を何万円と設定し、1部屋に何人入れて何日稼働させると計算していくと相当ハードルが高いことが見えてくるんです。しかも、丸峰は規模が大きいので固定資産税がかかり、人件費も光熱費もかさむ。年月が経てばリニューアルも必要。挙げ句、お客さんは少ないので、お金は出ていくばかりだと思います」(同) この社長によると温泉観光ホテルは近年、客の見込めない平日を連休にすることが増えているが、丸峰観光ホテルは不定休だったという。 「1年中オープンするのが当たり前の温泉観光ホテルにとって連休はあり得ないことだったが、いざ休んでみると経費が抑えられ、少ない社員を効率良く配置できるなど経営にメリハリが出てくる。丸峰も連休を導入しつつ、3棟ある建物のどれかを臨時休館して経営資源を集中させる必要があるのではないか」(同) 聞けば聞くほど、スポンサー不在では再建は難しく感じる。実際、会津地方のスキー場に中国系企業が参入していることを受け「丸峰も外資が関心を示すといいのだが」との声があるが、芦ノ牧温泉の事情に詳しい人物によると、外資が登場する可能性は低いという。 「芦ノ牧温泉は地元の人たちが土地を所有し、経営者は地主らでつくる芦ノ牧温泉開発事業所に地代を払い、旅館・ホテルを建てている。経営をやめる場合は建物を壊し、土地を原状回復して地主に返さなければならない。同温泉街に廃旅館・廃ホテルが多いのは、解体費を捻出できない経営者が夜逃げしたためです」 要するに、外資にとって芦ノ牧温泉は魅力的な投資先ではない、と。 実際、同ホテルの不動産登記簿を確認すると、土地は芦ノ牧地区をはじめ市内の人たちの名義になっており、そこに同ホテルが地上権を設定し、建物を建てていた。 激減する入り込み数 自主再建を目指す丸峰観光ホテル  民事再生の申請から2週間後、星社長に話を聞けないか同ホテルを訪ねたが、 「社長は連日、取引先を回っており不在です。私たち社員は何も分からないので、それ以上のことはお答えできません」(フロント社員) 申請代理人のDEPT弁護士法人にも問い合わせてみた。 「債権者がスポンサー不在を心配しているのであれば真摯に受け止めなければならないが、私共が今やるべきことは債権者に納得していただける再生計画案を示すことなので、債権者以外の第三者にあれこれ話すのは控えたい」(田尾賢太弁護士) 同ホテルは今後、再生計画案を作成し裁判所に提出。その後、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。民事再生の申請から再生計画の認可までは通常5カ月程度。 前出・債権者は「同ホテルから示される再生計画案に債権者たちが納得するかは分からないが、これまで芦ノ牧温泉を引っ張ってきたホテルなので復活してほしい」と話した。 芦ノ牧温泉はピーク時、30軒近い旅館・ホテルがあったが、現在は8軒。一方、会津若松市の公表資料によると、同温泉の入り込み数は2001年約39万4000人、コロナ禍前の19年約23万1000人、コロナ禍の21年約10万3000人。入り込み数が激減する中、今日まで営業を続けてきた丸峰観光ホテルは善戦した方なのかもしれない。 丸峰観光ホテルのホームページ 政経東北5月号で続報【丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚】を掲載しています! https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-5/

  • 【会津若松市】富士通城下町〝工場撤退〟のその後

     会津若松市にはかつて大手電気メーカー「富士通」の工場が立地し、4000人超が働いていた。その後、工場は完全に撤退したが、そのことでどのような変化が起きたのか。市長選まで半年を切ったこの時期にあらためて検証しておきたい。 デジタル事業は基幹産業になるか 富士通セミコンダクター会津若松工場(2013年6月撮影)  会津若松市にはかつて大手電気メーカー「富士通」の工場が立地し、4000人超が働いていた。その後、工場は完全に撤退したが、そのことでどのような変化が起きたのか。市長選まで半年を切ったこの時期にあらためて検証しておきたい。  会津地方の中核都市である会津若松市。昭和20年代後半から企業誘致の動きが活発になり、1960(昭和35)年には東北開発㈱会津ハードボード工場が落成。1964(昭和39)年にはエース電子㈱が進出した。そうした流れに乗って1967(昭和42)年に操業を開始したのが富士通会津工場だ。 富士通は1935(昭和10)年創業。富士電機製造㈱(現富士電機㈱)から電話部所管業務を分離させる形で設立された富士通信機製造㈱が前身。電話の自動交換機からコンピューター開発、通信、半導体などの事業に参入。業容を拡大させた。 同市で大規模企業の進出が相次いだ背景には、猪苗代湖で明治時代から水力発電開発が進められ、28カ所もの発電所が建設されたことがある。安価な電気料金(当時は距離が近い方が安かった)に惹かれ、日曹金属化学会津工場の前身である高田商会大寺精錬所、三菱製銅広田製作所の前身である藤田組広田精鉱所などが猪苗代湖周辺に進出していた。半導体の製造には大量の水を必要とする点も、富士通にとって決め手になったと思われる。 富士通会津工場の操業開始以降、農村地域工業導入促進法(1971年)、工業再配置促進法(1972年)が施行されたこともあり、同市には電子部品・デバイス企業が相次いで立地。半導体の国内有数の生産拠点として関連企業の集積が進んだ。 1997(平成9)年には、市内一箕町にあった富士通会津若松工場が移転拡大するのに合わせて、市が神指町高久地区に会津若松高久工業団地を整備した。 工業統計調査(従業員4人以上の事業所が対象)によると、同市の2007(平成19)年製造品出荷額等(2006年実績)3239億円のうち、半導体を含む電子部品・デバイス業は1037億円を占めた(構成比32%)。市内の製造業従業者数1万1548人のうち、電子部品・デバイス業従業者数は4217人。富士通とその関連事業所が同市経済を支えていたことから「富士通城下町」と呼ばれた。 ところが、2008(平成20)年にリーマン・ショックが発生し、世界同時不況に陥ると半導体の売り上げが急落。富士通も大打撃を受け、翌年にはLSI(大規模集積回路)事業を再編。グループ全体で2000人の配置転換を行った。 さらに2013(平成25)年には大規模な希望退職を募り、市内に立地する富士通グループ2工場の従業員約1100人のうち、400人超が早期退職に応じた。 本誌2013年7月号では次のように報じている。 《1980年代に世界を席巻した日本の半導体産業だが、90年代以降はサムスン電子をはじめとした韓国や台湾のメーカーが台頭し、日本企業は苦戦を強いられるようになった。長年半導体事業を進めていた同社だったが、今年2月、システムLSI事業を同業他社のパナソニックと事業統合し、新会社を設立することを発表。さらに、富士通インテグレーテッドマイクロテクノロジ会津工場などの製造拠点を他社に売却・譲渡し、併せて人員削減も進めることで半導体事業を大幅に縮小する方針を打ち出している》 《(※2009年の配置転換実施時は)県外や全く畑違いの事業所への異動に難色を示す人が多く、配置転換を拒否して退職する人が相次いだ。ハローワーク会津若松によると、最終的に800人を超える離職者が発生したという。(中略)若い層の再就職率が高かったものの、働き盛りの年配層がなかなか再就職できず、就職率は約40%にとどまったという》 その後、富士通は半導体から撤退する姿勢を示し、関連工場を本体から切り離した。同市工場は「会津富士通セミコンダクター」として分社化され、製造子会社2社が設立されたが、それら子会社は2020年代に入ってからそれぞれ別の米国企業に完全譲渡された。会津富士通セミコンダクター本体は富士通セミコンダクターと称号変更。同市内から富士通関連の工場は姿を消した。 同市で富士通関連会社の社員と言えばちょっとしたステータスで、ローンの審査が通りやすいため、若いうちから一戸建てを構えている人も少なくなかった。ところが、再編に伴い転勤を命じられたため、転職を決意する人が相次いだ。 「子どもが生まれたばかりとか、受験生を抱えているといった事情の社員は地元の企業に転職した。転勤を受け入れても半導体事業自体が縮小する中だったので、希望の部署に就けるとは限らなかったようだ。最終的には九州に転勤になった人もいる。市内の松長団地では多くの住宅が売りに出され、地価が一気に下落した。地元住民の間では『松長ショック』と言われています」(松長団地に住む男性) 製造品出荷額等が激減 会津若松市役所  同市の2020(令和2)年製造品出荷額等は2290億円(2007年比70%)に落ち込んでおり、電子部品・デバイス・電子回路製造業はわずか約352億円(同33%)だった。従業者数は1544人(同36%)。数字はいずれもコロナ禍前の2019年の実績。 同市の市町村内総生産は2007年度4840億円、2018年度4639億円。製造業の総生産は2007年度1153億円、2018年度809億円。11年間のうちに300億円以上減少している。 「完成品を組み立てるセットメーカーの工場ではないので、市内に下請け企業が集積したわけではなかったのが不幸中の幸いだった」(市内の事情通)と見る向きもあるが、影響は決して小さくない。その穴をどのように埋めていくかが今後の市の課題と言えよう。 市が推し進めているのが、さらなる企業誘致だ。市企業立地課はセールスポイントを「交通インフラが整備されており、災害などが少ない面」と述べる。市内の工業団地はすべて分譲終了しているが、市議会2月定例会の施政方針演説で、新たな工業団地を整備する方針が示された。 ただ、企業誘致においては人手不足がネックとなる。 同市の1月1日現在の現住人口は11万4335人。1995(平成7)年の13万7065人をピークに減少傾向が続いている。 ハローワーク会津若松管内の昨年12月の有効求人倍率は1・6倍。市内の経済人などによると、建設業と製造業が特に不足しているという。 本誌2022年10月号で県内各市町村に「企業誘致を進める上での課題」をアンケート調査したところ、最も多かった回答が「労働人口の減少により働き手が確保できない」というものだった。人手不足に悩んでいるのはどこも共通しており、そうした中で人を集めるのは容易ではない。工業団地整備と同時進行で、会津地域内外から人を集める仕組みを検討する必要がある。 一方で、市が熱心に推し進めているのが、デジタルを活用したまちづくりだ。2011年8月の市長選で初当選した室井照平市長(3期目)が先頭に立って「スマートシティ会津若松」を推し進めてきた。 スマートシティとは、情報通信技術(ICT)などを活用して地域産業の活性化を図りながら、快適に生活できるまちづくりのこと。 同市はこの間、パソコンやスマートフォンによる申請書作成、除雪車ナビ、母子健康手帳の電子化、学校と家庭をつなぐ情報配信アプリ、オンライン診療、スマートアグリ、外国人向け観光情報ホームページといった取り組みを進めてきた。 市内にはコンピューターに特化した会津大学がある。同大の教員のレベルは経済界から高く評価されているが、地元経済の振興と結びついているとは言い難かった。同大と連携が図れれば、さまざまな成果を生み出し、卒業生の就職先につながることも期待できる。 市企業立地課によると、同市は人口10万人規模かつ人口減少など地方ならではの課題を抱えていることが「ICTを使った実証実験・課題解決に最適な場所」と評価されており、実際に企業が同市に拠点を設けるようになっているという。 「バランスが大事」 ICTオフィスビル「AiCT(アイクト)  そうした需要を見込み、2019年4月にはICTオフィスビル「AiCT(アイクト)」が開所。首都圏と同様のオフィス環境に加え、セキュリティや災害時の事業継続性に配慮した施設となっている。現在は二十数社が入居し、400人以上が勤務している。中心的な役割を担うのはコンサルティング会社のアクセンチュア(東京都港区)だ。 同市の事情通は次のように語る。 「室井市長は元市長で会津大設立に尽力した山内日出夫氏と親密な関係で、会津大を活用するアイデアをよく聞いていたようだ。富士通撤退で窮地に立ったとき、かつてのアイデアが頭をかすめたのではないだろうか」 昨年3月には、最有力候補と目されていた国の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」の指定に落選したが、その後、国のデジタル田園都市国家構想推進交付金の採択を受けた。約80社の企業で構成される「AiCTコンソーシアム」が事業の実施主体となり、市から7億3400万円の補助を受けてサービス内容を作り上げている。 市が注力する事業の行方に注目が集まるが、当の市民に感想を尋ねると、「スマートシティを実感する機会はないし、生活が良くなったという実感もない」、「デジタルを活用するのに、アイクトのような建物が必要だったのか」などと冷ややかな意見が多かった。 市内の経済人からは「室井市長はICT産業の振興にばかり興味を示し、観光振興などには無関心」とのボヤキも聞かれており、本誌でたびたび指摘している。 室井照平・会津若松市長のコメント 室井照平・会津若松市長  「富士通城下町のいま」をどう捉えているか、室井市長に質問すると次のようにコメントした。 「富士通グループの工場は市内からなくなってしまったが、そのつながりでさまざまな半導体企業が進出し、それらはいまも操業している。確かに製造業出荷額等は落ち込んだが、昨年は進出企業の増設が相次ぎ200億円の投資があり、雇用増加や税収増につながった。ICTはもちろん、製造業、観光などいろいろな柱をバランスよく伸ばしていくことが大事だと考えています」 今夏には市長選が控えており、現職と複数の新人による選挙戦になる見込みだ。ある会津地方の政治経験者は「会津若松市長選はどこまで行っても『無尽』など人間関係で決まる」と冷ややかに見るが、立候補者を評価・選択する際はこうした視点も一つの参考になるのではないか。

  • 幻に終わった会津若松市長選「新人一本化」

    任期満了に伴う会津若松市長選は7月23日告示、同30日投開票で行われる。注目されたのは、他の立候補予定者より正式表明が遅れていた元女性県議の動向だった。 小熊氏の辞退要請を拒んだ水野氏 2月20日現在、市長選に立候補を表明しているのは現職で4選を目指す室井照平氏(67)と新人で市議の目黒章三郎氏(70)。ここに元県議の水野さち子氏(60)が加わり選挙戦は三つ巴になるとみられているが、室井氏と目黒氏が記者会見を開いて正式表明したのに対し、水野氏は立候補の意欲を示し続けるだけの状況が続いた。  そのため、選挙通の間では  「(市長選に)出る、出ると散々名前を売って結局出ず、その後に控える秋の県議選で返り咲きを狙っているのではないか」  と「本命は県議選」説が囁かれていたが、ある経済人は  「いや、本命は市長選で間違いないと思いますよ」  と言う。  「市内の有力者たちを回り、支援を要請している。『今の市政では市民が気の毒』『参院選でいただいた票を無駄にできない』『(選挙に必要な)お金は準備した』と話しているそうだから、有力者たちは『水野氏は本気だ』と受け止めている」(同)  水野氏は司会業やラジオパーソナリティーなどを経て2011年の県議選に立候補し初当選。2期途中で辞職し、2019年の参院選に野党統一候補として立候補したが、自民党の森雅子氏に敗れた。  落選したとはいえこの時、水野氏は34万5001票(当選した森氏は44万5547票)を獲得。それを受けて水野氏は「参院選の票を無駄にできない」と述べているわけだが、  「あれは野党が揃って支援し(当時参院議員の)増子輝彦氏が後押ししたから獲れた票数。それを自分が獲ったと勘違いしていたら(市長選に立候補しても)厳しい」(同)  水野氏の基礎票は2回の県議選で獲得した「7000票前後」と見るべきだが、それだって小熊慎司衆院議員の全面的なバックアップがあったことを忘れてはならない。  実は水野氏をめぐっては、その小熊氏が立候補を見送るよう水面下で打診していた。  事情通が解説する。  「室井氏は、自身の実績と強調する『スマートシティAiCT(アイクト)』がとにかく不評で、観光業と建設業の人たちからはソッポを向かれている。そもそも歴代の会津若松市長は最長3期までで、4期やった人は皆無。そのため室井氏の4選出馬を歓迎しない人は多いのです」  だから、室井氏の4選を阻止するには新人との一騎打ちに持ち込む必要があるのに、前出・目黒氏と水野氏が立候補したら現職の批判票が割れ、室井氏に有利に働いてしまう。  というわけで小熊氏は水野氏の説得を試みたが、2月18日付の福島民報によると、水野氏は立候補の意思を固め、同26日に正式表明するというから、小熊氏の辞退要請を聞き入れなかった模様。ただ、小熊氏は室井氏と個人的に親しいので、行動の目的が室井氏の4選阻止だったとは断言できない。  「市民の間には、高齢の目黒氏より女性の水野氏の方が新鮮という声が意外に多い。目黒氏が政策通で、市議会議長として議会改革を推し進めたことは間違いないが、前回も市長選に出ると言いながら結局出なかったため、ここに来て『今更出られても』という見方につながっているようです」(同)  新人の一本化は、水野氏が取りやめるのではなく、目黒氏が辞退することで実現する可能性もゼロではないようだ。

  • 辞職勧告を拒否した石田典男会津若松市議

     会津若松市議会は12月1日、石田典男議員(63、6期)に対する辞職勧告決議を賛成多数で可決した。決議案は同日開会した12月定例会議の本会議で審議され、石田議員と清川雅史議長、退席した4人、欠席した1人を除く19人で採決、全員が賛成した。  石田議員は会津若松地方広域市町村圏整備組合が2021年に行った新ごみ焼却施設の入札をめぐり、市の担当職員に非開示資料の閲覧を執拗に求めたり、入札参加予定企業の営業活動に同行するなどしていた。(詳細は本誌昨年11月号を参照) 関連記事は下記のリンクから読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/aizuwakamatsu-city-council-ishida-norio-bidding-intervention/  決議の採決結果は別掲の通り。清川議長は中立を守る立場上、採決に加わらなかったが、仮に議長でなくても石田議員と同じ会派に所属することから、市民クラブの他議員と一緒に退席していたとみられる。  「10月下旬に開かれた会派代表者会議で石田議員の処分内容が話し合われたが、市民クラブは『厳重注意でいいのではないか』とかばったものの他会派は『辞職勧告すべき』と主張した。市民クラブとしては〝仲間〟への辞職勧告決議案が出されれば賛成するわけにはいかないし、かと言って反対もしづらいので、退席して採決に加わらない方法を選択した」(事情通)  決議案は当初、11月9日開会の臨時会で採決する予定だったが、元職員による約1億8000万円の公金詐取事件(詳細は本誌昨年12月号を参照)が発覚したため、扱いが先送りされた経緯がある。 関連記事は下記のリンクから読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/%e4%bc%9a%e6%b4%a5%e8%8b%a5%e6%9d%be%e5%b7%a8%e9%a1%8d%e5%85%ac%e9%87%91%e8%a9%90%e5%8f%96%e4%ba%8b%e4%bb%b6%e3%81%ae%e8%88%9e%e5%8f%b0%e8%a3%8f/  今回の採決前には、石田議員の一連の行為が議員政治倫理条例に違反するか否かについて市政治倫理審査会(中里真委員長=福島大学行政政策学類准教授)が審査を行い、清川議長に報告書(10月4日付)を提出していた。そこには《石田議員が会津若松市職員であるa氏に対し、本件ごみ焼却施設計画に関する非開示の資料の開示を何度も求めた事実はあったと判断します》《一連の行為は特異な行動であった》《石田議員の行為は公正な職務を妨げる行為と認められます》などと書かれ、《会津若松市議会議員政治倫理条例第4条第1項第5号に違反する》と結論付けていた。  「非開示資料を石田議員に見せた市職員a氏は減給6カ月の懲戒処分を受けた後、市を退職している。それを基準に考えると、議員に減給処分は科せないし、懲罰の対象にもならないため、辞職勧告は妥当な処分だと思う」(ある議員)  とはいえ、辞職勧告決議に法的拘束力はなく、石田議員も採決後のマスコミ取材に「決議は重く受け止めるが、後援会とも相談し議員活動は続けていく」とコメントしている。  「今後の焦点は、8月の任期満了を受けて行われる市議選に石田議員が出た時、有権者がどう判断するかです。そこで当選すれば、石田議員は『有権者にとって必要な議員』ということになる。有権者の良識が問われる選挙になると思います」(同)  渦中の議員に、市民がどのような審判を下すのか注目される。

  • 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

    福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」  一般社団法人・日本損害保険協会は昨年10月26日、最新の「全国交通事故多発交差点マップ」を公表した。同マップには都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載されている。それを基に、県内ワーストとなった交差点での人身事故のケースなどを検証すると同時に、あらためて事故防止のためにどういったことを心がければいいか考えていきたい。  一般社団法人・日本損害保険協会の広報担当者によると、「全国交通事故多発交差点マップ」は、交差点・交差点付近での交通事故防止・軽減を目的に、各都道府県の地方紙(記者)の協力を得て作成したという。データは2021年のもので、毎年、同時期に更新されている。同マップでは、都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載され、人身事故のケースや交差点の特徴、予防策などが紹介されている。  マップとともに掲載されたリポートによると、福島県全体の過去5年の人身事故件数、死傷者数の推移は別表の通り。人身事故の発生件数、死傷者数ともに年々減少傾向にあることが分かる。  一方で、2021年の人身事故2997件のうち、1653件(55・2%)が交差点とその付近で発生している。こうして見ても、やはり交差点とその付近はより注意が必要であることが分かっていただけよう。  では、実際にどこの交差点での人身事故が多かったのか。  ワースト1は、会津若松市一箕町の「北柳原交差点」だった。国道49号と国道118号が交差するところだ。さらに、そこから600㍍ほど東側に行ったところにある「郷之原交差点」がワースト2タイになっている(地図参照)。  もっとも、ワースト1の「北柳原交差点」とその付近で起きた人身事故は5件、ワースト2タイの「郷之原交差点」とその付近は4件だったから、びっくりするほど多いというわけではない。 「北柳原交差点」 郷之原交差点  ちなみに、そのほかのワースト2タイは、いわき市常磐の「下船尾交差点」、同市小名浜の「御代坂交差点」、郡山市横塚の「横塚三丁目交差点」喜多方市一本木上の「塗物町交差点」、福島市渡利の「渡利弁天山交差点」、同市仲間町の「仲間町交差点」の計6カ所。 その中から、今回はワースト1の会津若松市一箕町の「北柳原交差点」と、そのすぐ近くにある「郷之原交差点」について検証してみる。 まず「北柳原交差点」だが、国道49号と国道118号が交差する地点で、朝夕を中心に交通量が多い。国道49号の会津坂下方面から猪苗代方面に向かうと交差点付近が下り坂になっており、右折レーンが2車線ある、といった特徴がある。 「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートにも、交差点の特徴として、「国道同士が交わる交差点であり、東西に延びる国道は東側に向け下り坂、南北に延びる国道は交差点を頂上にそれぞれ下り坂になっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」と記されている。 実際の事故事例  事故の種別は重傷事故が1件、軽傷事故が4件、事故類型は右折直進が2件、追突、右折時、出会い頭がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「信号無視により、右折車両と衝突した」、「対向車が来るのをよく確認せずに右折したことにより、対向車と衝突した」と書かれており、予防方策としては「交通法規を遵守し、信号をよく確認して運転する」、「交差点を通行する際は、対向車がいないかよく確認し、速度を控えて運転する」と指摘している。  そこから東(国道49号の猪苗代方面)に600㍍ほど行ったところにあるのがワースト2タイの「郷之原交差点」。国道49号と県道会津若松裏磐梯線(通称・千石バイパス)が交わるT字路となっている。  マップのリポートには、交差点の特徴として、「東西に国道49号、南側に主要地方道会津若松裏磐梯線がそれぞれ交わる交差点であり、国道49号がカーブとなっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」とある。  事故の種別は軽傷事故が4件、事故類型は追突が2件、右折時、左折時がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「脇見等の動静不注視により、前車に追突した」、予防方策としては「運転に集中し、前車の動きや渋滞の発生を早めに見つけられるようにする」と書かれている。 ドライバーの声  普段、両交差点(付近)をよく走行するドライバーに話を聞いた。  「正直、『北柳原交差点や郷之原交差点とその付近で事故が多い』と言われても、ピンと来ない。そんなに〝危険個所〟といった認識はありませんね。ただ、いつも混んでいる印象で、当然、交通量が多ければそれだけ事故の確率も上がるでしょうから、そういうことなのかな、と思いますけどね」(仕事で同市によく行く会津地方の住民)  「両交差点に限ったことではないが、会津若松市内では県外ナンバー(観光客)をよく見る。普段、走り慣れていない人が多いことも要因ではないか」(ある市民)  「北柳原交差点は、国道49号を会津坂下方面から猪苗代方面に走行すると、下り坂になっていて見通しはあまり良くないですね。加えて、その方向に走ると、右折レーンが2つあり、本当は直進したいのに間違って右折レーンに入ってしまい、直進レーンに無理に戻ろうとしたクルマに出くわし、ビックリしたことがありました。郷之原交差点はT字路のため、左折信号があり、ちょっと気を抜いていると、それ(左折信号が点いたこと)に気づかないことがあります。その場合、後方から追いついてきたクルマに衝突される可能性が考えられます。そういったケースが事故につながっているのではないかと思います。もう1つは、両交差点に限ったことではありませんが、(積雪・凍結等の恐れがあるため)会津地方での冬季の運転はやっぱり怖いですよね」(同市をよく訪れる営業マン)  いずれの証言も、「なるほど」と思わされる内容。両交差点を通行する際はそういった点での注意が必要になろう。 「交通白書」記載の事例  ここからは、会津若松地区交通安全協会、会津若松地区安全運転管理者協会、会津若松地区交通安全事業主会、会津若松市交通対策協議会、会津若松警察署が発行している「令和3年 交通白書」を基に、さらに深掘りしてみたい。  2021年に同市内で起きた人身事故は167件で、死者1人、傷者186人となっている。2012年は633件、死者5人、傷者764人だったから、この10年でかなり改善されていることが分かる。人身事故発生件数が200件を下回ったのは1962年以来59年ぶりという。  同市内の人身事故の特徴は、「交差点・交差点付近の事故が全体の6割を占める」、「8時〜9時、17時〜18時の発生割合が高い」、「追突・出会い頭事故が全体の約6割を占める」、「国道49号での発生割合が高い」、「高齢運転者の事故が増加している」と書かれている。  実際に事故が多い交差点の状況についても記されており、当然、前述した「北柳原交差点」と「郷之原交差点」がワースト地点に挙げられている。ただ、同白書によると、両交差点での事故件数はともに6件となっており、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」に記された件数と開きが生じている。  会津若松署によると、その理由は「物件事故を含んでいることと、どこまでを交差点(交差点付近)と捉えるか、の違いによるもの」という。  同白書によると、「北柳原交差点(同付近)」の事故ケースは、右折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、出会い頭など、「郷之原交差点(同付近)」の事故ケースは追突、左折時に歩行者・自転車と接触、私有地から交差点に進入した際の歩行者・自転車との接触などが挙げられている。  このほか、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」には入っていなかったが、「北柳原交差点」から国道49号を西(会津坂下方面)に600㍍ほど行ったところにある「荒久田交差点」も両交差点に次いで事故が多い地点として挙げられている(2021年の事故発生件数は5件)。  同交差点(付近)では、左折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、追突といった事故事例が紹介されている。  会津若松署では、「やはり、単路より交差点での事故が多く、交差点付近では一層の注意が必要。心に余裕を持った運転を心がけてほしい」と呼びかける。  さらに、同署では、これら交差点に限らず、酒気帯び等の悪質なケースの取り締まり、事故被害を軽減するシートベルト着用の強化、行政・関係団体と連携した講習会の開催、道路管理者と連携した立て看板・電光掲示板での呼びかけなど、事故防止に努めている。  一方で、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートでは、「地元警察本部の取り組み」として、以下の点が挙げられている。  ○モデル横断歩道  各署・各分庁舎管内における信号機のない横断歩道で、過去に横断歩行者被害の交通事故が発生した場所や学校が近くにある場所、または、車両および横断歩行者が多いため、対策を必要とする場所を「モデル横断歩道」と指定し、横断歩行者の保護を図るもの。  ○参加・体験型交通安全講習会(運転者、高齢歩行者、自転車)  運転者、高齢歩行者、自転車の交通事故防止のため、警察職員が県内各地に出向き、「危険予測トレーニング装置(KYT装置)」等を使用して、参加・体験型の交通安全講習会を実施するもの。  ○家庭の交通安全推進員による高齢者への反射キーホルダーの配布  県内の全小学校6年生(約1万5000人)を「家庭の交通安全推進員」として各署・分庁舎で委嘱しており、その家庭の安全推進員の活動を通じて、祖父母など身近な高齢者に対して、交通安全のアドバイスをしながらお守り型の反射キーホルダーを手渡してもらうもの。  ○自転車指導啓発重点地区・路線の設定、公表による自転車交通事故防止対策の推進  警察署ごとに自転車事故の発生状況等を基に自転車指導啓発重点地区・路線を設定し、同地区・路線において自転車事故防止、交通事故防止の広報啓発を実施。 福島市で暴走事故  今回は、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」を基に、事故が多い交差点の紹介、その形状と特徴、事故発生時の事例、注意点などをリポートしてきたが、県内では昨年秋、高齢の男がクルマで暴走するというショッキングな事故があった。  この事故は11月19日午後4時45分ごろ、福島市南矢野目の市道で起きた。97歳の男が運転するクルマ(軽自動車)が歩道に突っ込み、42歳の女性がはねられて死亡。その後、信号待ちで前方に停止していたクルマ3台にも衝突し、街路樹2本をなぎ倒しながら数十㍍にわたって走行した。衝突されたクルマのうち、2台に乗っていた女性4人が軽傷を負った。  軽自動車を運転していた97歳の男は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕された。男は2020年夏に、免許を更新した際の認知機能検査では問題がなかったという。  地元紙報道には、事故に巻き込まれたドライバーの「こんな人が運転していいのかと感じた」という憤りの声が紹介されていた。  その後の警察の調べでは、現場にブレーキ痕はなかったことから、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性が高いという。  この事故を受け、警察庁の露木康浩長官は記者会見で、「(高齢運転者対策の)制度については不断の見直しが必要」との見解を示した。警察庁長官がそうしたことに言及をするのは異例と言える。  このほか、週刊誌(オンライン版)などでも、この事故が取り上げられ、逮捕された男の人物像に迫るような記事もいくつか見られた。  そのくらい、ショッキングな事故だったということである。  地方では、クルマを運転する人は多いが、ハンドルを握るということは、それ相応の責任が生じる。そのことを自覚し、各ドライバーが無理のない運転を心がけ、より注意を払い、事故防止のきっかけになれば幸いだ。

  • 【会津若松・喜多方・福島】市街地でクマ被害多発のワケ

     2022年は市街地でのクマ出没やクマによる人的被害が目立った1年だった。会津若松市では大型連休初日、観光地の鶴ヶ城に出没し、関係部署が対応に追われた。クマは冬眠の時期に入りつつあるが、いまのうちに対策を講じておかないと、来春、再び深刻な被害を招きかねない。 専門家・マタギが語る「命の守り方」  会津若松市郊外部の門田町御山地区。中心市街地から南に4㌔ほど離れた山すそに位置し、周辺には果樹園や民家が並ぶ。そんな同地区に住む89歳の女性が7月27日正午ごろ、自宅近くの竹やぶで、頭に傷を負い倒れているところを家族に発見された。心肺停止状態で救急搬送されたが、その後死亡が確認された。クマに襲われたとみられる。  「畑に出かけて昼になっても帰ってこなかったので、家族が探しに行ったら、家の裏の竹やぶの真ん中で仰向けに倒れていた。額の皮がむけ、左目もやられ、帽子に爪の跡が残っていた。首のところに穴が空いており、警察からは出血性ショックで亡くなったのではないかと言われました」(女性の遺族) 女性が亡くなっていた竹やぶ  現場近くでは、親子とみられるクマ2頭の目撃情報があったほか、果物の食害が確認されていた。そのため、「食べ物を求めて人里に降りて来たものの戻れなくなり、竹やぶに潜んでいたタイミングで鉢合わせしたのではないか」というのが周辺住民の見立てだ。  8月27日早朝には、同市慶山の愛宕神社の参道で、散歩していた55歳の男性が2頭のクマと鉢合わせ。男性は親と思われるクマに襲われ、あごを骨折したほか、左腕をかまれるなどの大けがをした。以前からクマが出るエリアで、神社の社務所ではクマ除けのラジオが鳴り続けていた。 愛宕神社の参道  大型連休初日の4月29日早朝には、会津若松市の観光地・鶴ヶ城公園にクマが出没し、5時間にわたり立ち入り禁止となった。市や県、会津若松署、猟友会などが対応して緊急捕獲した。5月14日早朝には、同市城西町と、同市本町の諏訪神社でもクマが目撃され、同日正午過ぎに麻酔銃を使って緊急捕獲された。  市農林課によると、例年に比べ市街地でのクマ目撃情報が増えている。人的被害が発生したり、猟友会が緊急出動するケースは過去5~10年に1度ある程度だったが、2022年は少なくとも5件発生しているという。  鶴ヶ城に出没したクマの足取りを市農林課が検証したところ、千石バイパス(県道64号会津若松裏磐梯線)沿いの小田橋付近で目撃されていた。橋の下を流れる湯川の川底を調べたところ、足跡が残っていた。クマは姿を隠しながら移動する習性があり、草が多い川沿いを好む。  このことから、市中心部の東側に位置する東山温泉方面の山から、川伝いに街なかに降りてきた線が濃厚だ。複数の住民によると、東山温泉の奥の山にはクマの好物であるジダケの群落があり、クマが生息するエリアとして知られている。  市農林課は河川管理者である県と相談し、動きを感知して撮影する「センサーカメラ」を設置した。さらに光が点滅する「青色発光ダイオード」装置を取り付け、クマを威嚇。県に依頼して湯川の草刈りや緩衝帯作りなども進めてもらった。その結果、市街地でのクマ目撃情報はなくなったという。  それでも市は引き続き警戒しており、10月21日には県との共催により「市街地出没訓練」を初めて実施。関係機関が連携し、対応の手順を確認した。  市では2023年以降もクマによる農作物被害を減らし、人的被害をゼロにするために対策を継続する。具体的には、①深刻な農作物被害が発生したり、市街地近くで多くの目撃情報があった際、「箱わな」を設置して捕獲、②人が住むエリアをきれいにすることでゾーニング(区分け)を図り、山から出づらくする「環境整備」、③個人・団体が農地や集落に「電気柵」を設置する際の補助――という3つの対策だ。  さらに2023年からは、郊外部ばかりでなく市街地に住む人にも危機意識を持ってもらうべく、クマへの対応法に関するリーフレットなどを配布して周知に努めていく。これらの対策は実を結ぶのか、2023年以降の出没状況を注視していきたい。 一度入った農地は忘れない  本州に生息しているクマはツキノワグマだ。平均的な大きさは体長110~150㌢、体重50~150㌔。県が2016年に公表した生態調査によると、県内には2970頭いると推定される。  クマは狩猟により捕獲する場合を除き、原則として捕獲が禁じられている。鳥獣保護管理法に基づき、農林水産業などに被害を与える野生鳥獣の個体数が「適正な水準」になるように保護管理が行われている。  県自然保護課によると、9月までの事故件数は7件、目撃件数は364件。2021年は事故件数3件、目撃件数303件。2020年が事故件数9件、目撃件数558件。「件数的には例年並みだが、市街地に出没したり、事故に至るケースが短期間に集中した」(同課担当者)。  福島市西部地区の在庭坂・桜本地区では8月中旬から下旬にかけて、6日間で3回クマによる人的被害が続発した。9月7日早朝には、在庭坂地区で民家の勝手口から台所にクマが入り込み、キャットフードを食べる姿も目撃されている。  会津若松市に隣接する喜多方市でも10月18日昼ごろ、喜多方警察署やヨークベニマル喜多方店近くの市道でクマが目撃された。  河北新報オンライン9月23日配信記事によると、東北地方の8月までの人身被害数40件は過去最多だ。  クマの生態に詳しい福島大学食農学類の望月翔太准教授は「2021年はクマにとってエサ資源となるブナやミズナラが豊富で子どもが多く生まれたため、出歩くことが多かったのではないか」としたうえで、「2022年は2021年以上にエサ資源が豊富。2023年の春先は気を付けなければなりません」と警鐘を鳴らす。  「クマは基本的に憶病な動物ですが、人が近づくと驚いて咄嗟に攻撃します。また、一度農作物の味を覚えるとそれに執着するので、1回でも農地に入られたら、その農地を覚えていると思った方がいい」  今後取るべき対策としては「まず林や河川の周りの草木を伐採し、ゾーニングが図られるように見通しのいい環境をつくるべきです。また、収穫されずに放置しているモモやカキ、クリの木を伐採し、クマのエサをなくすことも重要。電気柵も有効ですが、イノシシ用の平面的な配置では乗り越えられてしまうので、クマ用に立体的に配置する必要があります」と指摘する。 近距離で遭遇したら頭を守れ クマと遭遇した時の対応を説明する猪俣さん  金山町で「マタギ」として活動し、小さいころからクマと対峙してきた猪俣昭夫さんは「そもそもクマの生態が変わってきている」と語る。 奥会津最後のマタギposted with ヨメレバ滝田 誠一郎 小学館 2021年04月20日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  「里山に入り薪を取って生活していた時代はゾーニングが図られていたし、人間に危害を与えるクマは鉄砲で駆除されていました。だが、里山に入る人や猟師が少なくなると、山の奥にいたクマが、農作物や果物など手軽にエサが手に入る人家の近くに降りてくるようになった。代を重ねるうちに人や車に慣れているので、人間と会っても逃げないし、様子を見ずに襲う可能性が高いです」  山あいの地域では日常的にクマを見かけることが多いためか、「親子のクマにさえ会わなければ、危険な目に遭うことはない」と語る人もいたが、そういうクマばかりではなくなっていくかもしれない。  では、実際にクマに遭遇したときはどう対応すればいいのか。猪俣さんはこう説明した。  「5㍍ぐらい距離があるといきなり襲ってくることはないが、それより近いとクマもびっくりして立ち上がる。そのとき、大きな声を出すと追いかけられて襲われるので、思わず叫びたくなるのをグッと抑えなければなりません。クマが相手の強さを測るのは『目の高さ』。後ずさりしながら、クマより高いところに移動したり、近くの木を挟んで対峙し行動の選択肢を増やせるといい。少なくとも、私の場合そうやって襲われたことはありません」  一方、前出・望月准教授は次のように話す。  「頭に傷を負うと致命傷になる可能性が高い。近距離でばったり出会った場合はうずくまったり、うつ伏せになり、頭を守るべきです。そうすれば、仮に背中を爪で引っかかれてもリュックを引き裂かれるだけで済む可能性がある。研修会や小学校などで周知しており、広まってほしいと思っています」  県では、会津若松市のように対策を講じる市町村を補助する「野生鳥獣被害防止地域づくり事業」(予算5300万円)を展開している。ただ、高齢化や耕作放棄地などの問題もあり、環境整備や効果的な電気柵設置は容易にはいかないようだ。  来春以降の被害を最小限に防ぐためにも、問題点を共有し、地域住民を巻き込んで抜本的な対策を講じていくことが求められている。

  • 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

     会津若松市の元職員による巨額公金詐取事件。その額は約1億7700万円というから呆れるほかない。 専門知識を悪用した元職員  巨額公金詐取事件を起こしたのは障がい者支援課副主幹の小原龍也氏(51)。小原氏は2022年11月7日付で懲戒免職になっているため、正確には元職員となる。  発覚の経緯は2022年6月13日、2021年度の児童扶養手当支給に係る国庫負担金の実績報告書を県に提出するため、小原氏の後任となったこども家庭課職員が関係書類やシステムデータを確認したところ、実際に振り込んだ額とシステムデータに不整合があることを見つけたことだった。  内部調査を進めると、2021年度の児童扶養手当支給に複数の不整合があることが分かった。また小原氏の業務用パソコンからは、同年度の子育て世帯への臨時特別給付金について小原氏名義の預金口座に振込依頼していたデータや、重度心身障がい者医療費助成金をめぐり小原氏が給付事務を担当していた07~09年度に詐取していたことをうかがわせるデータも見つかった。市は会津若松署に報告し今後の対応を相談する一方、金融機関に小原氏名義の預金口座の照会を行うなど、詐取の証拠集めを2カ月かけて進めた。  市は2022年8月8日、小原氏に事情聴取した。最初は「分からない」「覚えていない」と非協力的な姿勢を見せていたが、集めた証拠類を示すと児童扶養手当と子育て世帯への臨時特別給付金を詐取したことを認めた。  小原氏は動機について「不正に振り込む方法を思い付いた。魔が差した」と語り、使途は「生活していく中で自然に使った」と説明したが、続く同9、10、15日に行った事情聴取では「親族の借金を肩代わりし返済に苦労していた」「競馬や宝くじに使った」「車のローンの返済に充てた」と次第に変化していった。  市は事情聴取と並行し、詐取された公金の回収に取り組んだ。預金口座からの振り込みに加え、生命保険の解約や車の売却といった保有財産の換価を行い、2022年11月8日現在、約9100万円を回収した。  2022年9月8日には小原氏に対する懲戒審査委員会を開き、懲戒免職が妥当と判断されたが、引き続き事情聴取と公金回収を進めるため、小原氏の職員としての身分を当面継続することとした。  小原氏は2022年10月7日、市に誓約書を提出した。内容は児童扶養手当(約1億1070万円)、子育て世帯への臨時特別給付金(60万円)、重度心身障がい者医療費助成金(約6570万円)、計約1億7700万円を詐取したことを認め、弁済することを誓約したものだ。  市は2022年11月7日付で会津若松署に詐欺罪で告訴状を提出し、その日のうちに受理された。また、同日付で小原氏を懲戒免職とし、併せて上司らの懲戒処分を行った。  「会津若松署が告訴状を受理したので、事件の全容解明は今後の捜査に委ねられることになる。警察筋の話によると、捜査は2023年2月くらいまでかかるようだ」(ある事情通)  それにしても、これほど巨額な詐取がなぜバレなかったのか不思議でならないが、  「市の説明や報道等によると、児童扶養手当の詐取は管理システムの盲点を悪用し不正な操作を繰り返した、子育て世帯への臨時特別給付金の詐取は本来の支給額より多い金額が自分の預金口座に振り込まれるようデータを細工した、重度心身障がい者医療費助成金の詐取もデータを細工する一方、帳票を改ざんして発覚を免れていた」(同) 合併自治体特有の「差」  それだけではない。こども家庭課に勤務していた時は、自分が児童扶養手当支給の主担当を担えるよう事務分担を変え、支給処理に携わる職員を1人減らし、それまで行っていた決裁後の起案のグループ回覧をやめることで他職員が関連書類に触れないようにしていた。また主担当の仕事をチェックする副担当に、入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充てることでチェックが機能しにくい体制をつくっていた。  「パソコンがかなり達者で、福祉関連の支給事務に精通していた。そこに狡猾さが加わり、不正がバレないやり方を身に付けていった」(同)  小原氏は市の事情聴取に「不正はやる気になればできる」と話したというから、詐取するには打って付けの職場環境だったに違いない。  小原氏は1996年4月、旧河東町役場に入庁。2005年11月、会津若松市との合併に伴い同市職員となった。社会福祉課に配属され、11年3月まで重度心身障がい者医療費助成金の給付事務を担当。18年4月からはこども家庭課で児童扶養手当と子育て世代への臨時特別給付金の給付事務を担当した。2022年4月、障がい者支援課副主幹に。事件はこの異動をきっかけに発覚した。  地元ジャーナリストの話。  「小原氏は妻と子どもがおり、父親と同居している。父親は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐと聞いた。三男(同)は、小原氏と職種は違うが公務員だそうだ」  小原氏は「親族の借金を肩代わりした」とも語っていたが、  「過去に叔父が勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあるという。親族の借金の肩代わりとは、それを指しているのかもしれない」(同) 会津若松市河東町にある小原氏の自宅  河東町にある自宅は2000年10月に新築され、持ち分が父親3分の2、小原氏3分の1の共有名義となっている。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  小原氏の職場での評判は「他職員が嫌がる仕事も率先して引き受け、仕事ぶりは迅速かつ的確」といい、地元の声も「悪いことをやる人にはとても見えない」と上々。しかし、会津若松市のように他町村と合併した自治体では「職員の差」が問題になることがある。  ある議員経験者によると、市町村合併では優秀な職員が多い自治体もあれば能力の低い職員が目立つ自治体、服装や挨拶など基本的なことすらできていない自治体等々、職員の能力や資質に差を感じる場面が少なくなかったという。  「合併から十数年経ち、職員の退職・入庁が繰り返されたため今は差を感じることは減ったが、中核となる市に周辺町村がくっついた合併では職員の能力や資質にだいぶ開きがあったと思います」(同)  元首長もこう話す。  「町村役場は、職員を似たような部署に長く置いて専門性を身に付けさせ、サービスの低下を防ぐ。そこで自然と専門知識が身に付くので、あとは個人の資質によるが、悪用する気になればできる、と」  小原氏は旧河東町時代も重度心身障がい者医療費助成金の支給事務を行っていたというから、専門知識は豊富だったことになる。  市町村職員になるには採用試験に合格しなければならないが、競争率が高いため「職員=優秀」というイメージが漠然と定着している。しかし現実は、小原氏のような悪質な職員も存在すること、さらに言うと合併自治体特有の、職員の能力や資質の差が今回のような事件の契機になることも認識する必要がある。  市は今後、未回収となっている約8600万円の回収に努め、場合によっては民事訴訟も視野に入れるという。事件を受け、室井照平市長は給料を7カ月2分の1に減額し、現任期(3期目)の退職手当も2分の1に減額する方針。  市の責任を形で示したわけだが、市民からは市が注力しているデジタル田園都市国家構想を踏まえ「巨額公金詐取を見抜けなかった市に膨大な市民の個人情報を預けて大丈夫なのか」と心配する声が聞かれる。ICT導入を熱心に進める前にチェック機能がない、いわば〝ザル〟の組織を立て直す方が先決ではないのか。 この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 「入札介入」を指摘された石田典男【会津若松市議】

     会津若松市の石田典男議員(63)が窮地に立たされている。会津若松地方広域市町村圏整備組合(以下、整備組合と略)の新ごみ焼却施設整備・運営事業の入札をめぐり、2021年8月、整備組合議会が設置した100条委員会から「関係者への働きかけがあった」と断定されたのに続き、2022年10月には市政治倫理審査会から「政治倫理条例に違反する行為があった」と認定されたのだ。 当人は「法令に違反していない」と反論 会津若松市の石田典男議員  会津若松市の石田典男議員(63)が窮地に立たされている。会津若松地方広域市町村圏整備組合(以下、整備組合と略)の新ごみ焼却施設整備・運営事業の入札をめぐり、2021年8月、整備組合議会が設置した100条委員会から「関係者への働きかけがあった」と断定されたのに続き、2022年10月には市政治倫理審査会から「政治倫理条例に違反する行為があった」と認定されたのだ。  整備組合(管理者・室井照平会津若松市長)は会津若松市、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町で構成され、圏域人口は17万4500人(2022年4月現在)。構成市町村のごみ・し尿・廃棄物処理、水道用水供給、介護認定審査、消防に関する事業を行っている。 既存のごみ焼却施設は会津若松市神指町南四号で稼働中だが、1988年竣工と老朽化が著しいため、整備組合では隣接するし尿処理施設を解体し、その跡地に新ごみ焼却施設を建設する計画を立てた。 10月下旬、現地を訪ねると、し尿処理施設は既に取り壊され、鉄板が広く敷かれた敷地内では複数の重機やトラックが稼働するなど、大規模な土木工事が始まっていた。 計画によると、し尿処理施設の解体から土木工事、プラント工事、試運転までを含む期間は2021年8月から26年3月。その後、営業運転が始まる予定だが、この工事の入札に執拗に介入していたとされるのが同市の石田典男議員だった。石田議員は当時、整備組合議会の議員を務めていた。 石田議員は何をしたのか。 入札は総合評価方式制限付一般競争で行われ、共に地元業者をパートナーとする日立造船JVと川崎重工業JVが参加。2021年2~5月にかけて、整備組合が設置した「新ごみ焼却施設整備・運営事業事業者選定委員会」(以下、選定委員会と略)による審査を経て、同6月、川崎重工業JVが落札者に決まった。本契約は同8月に交わされ、契約金額は約252億円だった。 新ごみ焼却施設は現在、土木工事が行われている  この入札過程で石田議員が関係者に対し、入札手続きに関する質問や問い合わせを繰り返したり、落選した日立造船JVの担当者らと一緒に行動していたことなどが明らかになった。きっかけは、選定委員会の委員2名から「石田議員から特定企業に対する便宜や利益誘導等の要請、依頼等の働きかけに該当する恐れのある行為を受けた」とする報告書が整備組合管理者の室井市長に提出されたことだった。委員2名とは、当時の市建築住宅課長と市廃棄物対策課長である。 事態を問題視した整備組合は、事実関係を調査するため入札手続きを一時中断。その結果、落札者の決定が当初4月上旬の予定から6月上旬と2カ月遅れた。 調査では、次のような事実関係が明らかになっている。 ①石田議員は複数回にわたり選定委員の建築住宅課長を訪ね、非公開の選定委員会資料を閲覧し、地元業者の入札参加要件などを公表前に聞き出そうとした。 ②石田議員は建築住宅課長に、落札者の選定に当たっては災害対応、地元業者の活用、景観的調和などが重要事項になると指摘した。 ③石田議員は選定委員の廃棄物対策課長に、災害に強い施設や発電設備の設置場所などのポイントについて説明した。 ①の行為が問題なのは説明するまでもないが、②と③の行為は、そこに挙げられた要件を重視すると日立造船JVの方が優れていると石田議員が示唆した――と委員2人は受け止め、これを「石田議員による働きかけ」と捉えたわけ。ちなみに、非公開資料を石田議員に閲覧させた建築住宅課長は減給6カ月の懲戒処分を受け、市を退職している。 このほか石田議員は、日立造船や地元業者の担当者らを連れて市役所や市公園緑地協会を訪ねている。目的は同協会に、審査項目の一つになっている関係表明書(もしそのJVが落札したら、地元業者に協力を約束する文書)の提出を求めるためだった。応札業者と議員が一緒に行動すれば、周囲から疑いの目で見られるのは避けられないのに、躊躇しなかったのは驚く。 ただ、整備組合の調査では「不当な働きかけや関係法令に抵触するような事実は確認できず、入札の公平な執行を妨げるまでには至っていない」と結論付けられた。「グレーかもしれないが、クロとまでは言い切れない」というわけだ。 この結論に納得がいかなかった整備組合議会は2021年5月、地方自治法100条に基づく「新ごみ焼却施設整備・運営事業等に係る事務調査特別委員会」(以下、特別委員会と略)を設置。特別委員会は同5~8月にかけて計23回開かれ、石田議員に対する証人尋問を行ったり、前述・選定委員2名(この時、既に委員を辞めていた)や市建設部副部長、整備組合職員を参考人招致したり、関係者に資料提出を求めるなどした。 これらの調査結果をまとめたのが同8月17日付で公表された「新ごみ焼却施設整備・運営事業等に係る事務調査報告書」である。その結論部分は次のよう書かれている。 狙いは石田議員〝抹殺〟⁉  《今般の調査を通して、石田議員は環境センター等への電話や訪問等により、記録が残されているだけでも十数回にわたり問い合わせや意見の申出、資料の請求、又は資料の提示を行っている。特に、入札公告前の入札に関する情報については、公表できないと何度も回答しているにもかかわらず、繰り返し秘密情報を探り出そうとする執拗な行為に職員は圧力を感じた、というものである。 こうした執拗な問い合わせや確認は、議員の権限を越えた入札手続きへの介入であり、執行機関の権限を侵害するものである。 一方、会津若松市建設部副部長との間における緑地協会からの関心表明書に係るやり取りについても、同様に問い合わせや確認が繰り返されたことから、今般新たに働きかけと認定されたところであり、本事業に係る入札手続きの中断は、まさに石田議員による選定委員会委員2名と会津若松市職員1名への働きかけが発端となったものである。加えて、石田議員は、整備組合の入札に応募する民間企業であることを理解した上で、その営業活動に同行するなどした一体性を疑われる行為は、議員活動の範囲を逸脱していると言わざるを得ず、とりわけ石田議員は整備組合とA社(報告書には実名が表記されているが、ここでは伏せる)単独または関係する企業グループ等との間における契約案件について、整備組合の議会議員として審査や決議を行う立場にありながら、企業の立場で資料を持参の上、質問や相談を行う行為には疑念を抱かざるを得ない》(39頁) このように「石田議員による働きかけや疑わしい行為があった」と断定しているが、報告書にはこうも書かれている。 《すべての委員において特定の者に有利、または不利に働くような趣旨の発言は一切なされなかったこと、さらに石田議員による非公開資料の閲覧、石田議員によるB・C両委員(建築住宅課長と廃棄物対策課長。報告書には実名が表記されているが、ここでは伏せる)への接触等によって、本事業に係る(中略)意思決定について、何ら影響を受けていないことを委員一同で確認した》(35頁) 《官製談合防止法や刑法をはじめとする関係法令等に接触し公契約締結に係る妨害行為に該当し得るような行為の有無を検証したものの、これらの関係法令に抵触するような行為はなかった》(37頁) 石田議員の一連の行為は「落札者の決定に影響を及ぼしておらず、関係法令にも抵触していなかった」というのである。 整備組合による調査に続き、特別委員会による調査でも「グレーかもしれないが、クロとまでは言い切れない」と結論付けられたわけ。併せて特別委員会は「告発までには至らない」とも結論付けている。 シロかクロか、はっきりさせるために設置したはずの特別委員会でも結局グレーとしか判断されず、どこかモヤモヤ感が残る。ただ報告書を読んでいくと、前述・委員2人や市建設部副部長、整備組合職員らの証言から、ある種の覚悟を感じ取ることができる。その証言とは、 「石田議員から『これは重要だよね』『やっぱりこういう点で見なきゃいけないよね』といった問いかけがあり、自分としては誘導されているというイメージ、依頼があったという認識を持った」 「石田議員の市議会建設委員会での質疑等から経験上、市へのアプローチの仕方を見てきており、今回も同じ方法で行われていると思った」 「細かい中身まで質問されることもあり、何か意図があるんだなと思うような質問もあった」 「入札そのものに関する情報は公表できないと何度も回答しているにもかかわらず、電話や来庁等により秘密情報を探り出そうとする執拗な行為に圧力を感じた」 石田議員は以前から「市発注の公共工事に首を突っ込み過ぎる」と評判で、記者も市職員から度々「石田議員の行為は迷惑」と聞かされていた。要するに、疑惑が取り沙汰されるのは今回が初めてではないのだ。 そうした中で、職員たちが石田議員を一斉に〝告発〟したのは「これ以上、入札への介入は許さない」という意思の表れだったのではないか。言い換えると、この際、職員たちは石田議員を〝抹殺〟しようとした、ということかもしれない。 不満露わにする石田議員  石田議員は現在6期目。前回(2019年8月)の市議選(定数28)では1954票を獲得し、5位当選を果たしている。上位当選で6期も務めているのだから、有権者の支持も高いのだろう。 もっとも、前述・特別委員会の報告書では地元の特定業者との近しい関係が指摘され、業者・業界による一定の支持が上位当選につながっている可能性もある。すなわち、石田議員は業者・業界の〝代理人〟としての役割を果たしつつ議員報酬(月額約45万円)を得ており、業者・業界は石田議員からもたらされる情報を有意義に活用している――という持ちつ持たれつの関係が浮かび上がってくる。 2021年8月、特別委員会の報告書が公表された後、整備組合議会は石田議員に対し、整備組合議会議員の辞職勧告を決議したが、石田議員は辞職しなかった。 一方、石田議員の一連の行為は関係法令には抵触していなかったが、市議会議員政治倫理条例に違反している可能性があるとして同11月、清川雅史議長に審査請求書が出されたことから、清川議長は同12月、第三者機関の「会津若松市政治倫理審査会」を設置した。同審査会は計8回開かれ、2022年10月4日、審査結果をまとめた「報告書」を清川議長に提出した。 報告書に書かれていた結論は「公正な職務の執行を妨げたり、妨げるような働きかけを禁じた同条例第4条第1項第5号に違反する」というものだった。併せて審査会は、清川議長に対しても▽本事案について議員に周知し、政治倫理基準の順守を徹底すること、▽政治倫理基準に反する活動に対し、条例の趣旨に則り議員がその職責を果たすことを求める、という意見を文書で伝えた。 清川議長に報告書と自身への意見について見解を尋ねると、次のようにコメントした。 「審査会の報告書と意見を重く受け止めている。現在、会派代表者会議で議会としての対応を検討中で、現時点で議長としての見解を述べることは差し控えたい」 この報告書を受け、石田議員は同18日、清川議長に「弁明書」を提出した。そこには《当該職員は何ら影響を受けずに活動できたものと思われる》《現に職務の公正性が害された事実はない》《報告書は「その他公正な職務を妨げる行為」がどのような行為を指すのか触れていない》と反論が綴られていたものの、《政治倫理条例第19条第1項は審査会の報告を尊重するものと定めており、議員としてこれに異はない》と同審査会の結論を受け入れる姿勢を示した。 石田議員の条例違反が明確になったことで、同市議会では今後、石田議員に対する処分が検討される。この稿を書いている10月下旬の段階では辞職勧告が決議されるという見方が出ているが、会派によっては厳重注意でいいのではないかという声もあり、温度差があるようだ。いずれにしても、11月中に開かれる予定の臨時会で最終的な処分が科される見通しである。 石田議員に電話で話を聞くと、弁明書では「異はない」としていたのに次々と反論が飛び出した。 「応札業者と一緒に行動したことは軽率だったと反省している。しかし、整備組合の調査も特別委員会の報告書も、私が法令違反を犯したとは結論付けておらず、告発も見送っている。私からすれば問題アリと言うなら告発してもらった方が、どういう法令違反があったかハッキリして、かえって有り難かった」 「審査会の報告書ももちろん重く受け止める。ただ、こちらも『その他公正な職務を妨げる行為』と抽象的な結論にとどまっている。私は議員として巨額の税金が投じられる公共工事について必要な調査を行っただけ。公の事業に関する情報を請求しただけなのに、なぜ悪く言われるのか。こちらが請求しても出せないと拒否するのは、隠し事があるからではないかと疑ってしまう。私は以前から公共工事について必要と思ったことは詳細に調査してきたし、勉強もしてきた。今回の入札も専門的知見から見るべき部分がたくさんあり、職員とは『それって必要なことだよね』と確認の意味を込めて話しただけ。私にとってはそれが『常識的なやり方』でもある。しかし、他の議員には私の『常識』が通じない。そういうことをやっている議員は他にいない、というわけです」 「自分が100%悪いことをしたとは思っていないが、専門委員や職員にはもしかするとハラスメントと受け取られかねない言動があったのかもしれない。今後は特別委員会や審査会の報告書を丹念に読み込み、自分の行為が法令や条例に違反するのか・しないのか、弁護士と相談しながら結論を導き出したい。そうすることで特別委員会や審査会の調査が正しかったのか、処分を科された自分が納得できる結論だったのかを精査していきたい」 石田議員によると、2021年8月に辞職勧告を決議された整備組合議会議員は、2022年10月に辞職したという。 同僚から冷ややかな声  法令違反はなく、自身の「常識」に基づく行為だったことを何度も強調した石田議員。しかし、同僚議員の見方は冷ややかだ。 「石田議員は弁明書で『他に資料請求をした議員がいないから〝特異な行動〟と言われるが、他に関心を持った議員が存在しなかっただけ』と述べているが、私から言わせると公共工事にそこまで関心を持つこと自体が不思議だ。あそこまで首を突っ込めば『業者に頼まれたから』と疑われてもやむを得ない。石田議員は『自分の行為は入札結果には影響していない』とも言っているが、そういう行為をしたことが問題なのであって、それに対する反省もない」 そのうえで、同僚議員は石田議員の今後を次のように展望する。 「市議会で辞職勧告を決議しても辞めないでしょう。議員は2023年8月に任期満了を迎え、市議選が行われる。石田議員の今回の行為は議員として相応しくないと思うが、もし市議選に出馬して7選を果たしたら、それは有権者が判断したことなので他の議員は従うしかない」 一定の結論が出されたことで、石田議員が入札に介入することは今後難しくなるだろう。いわば主だった活動が制限される中、議員を続ける意義を見いだせるのかが問われる。もっとも、それが主だった活動というのは、議員としていかがなものかと思ってしまうが……。